説明

内面溝付管の製造装置及び製造方法

【課題】本発明では、溝加工部に備えた溝付プラグが転造ボールにより破損される前に加工中に断管が発生したと判断することができ、溝付プラグの破損を確実に防止することができる内面溝付管の製造装置及び製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】
素管11aを抽伸して縮径させる縮径手段13と、該縮径手段13通過後の素管内面に多数の溝を形成する溝加工手段14と、該溝加工手段14の管軸方向X下流側で加工済みの内面溝付管11を抽伸する抽伸手段16とを備えた内面溝付管の製造装置10A,10B,10Cであって、前記抽伸手段16よりも管軸方向X上流側に、素管11aの抽伸に伴って管軸方向Xに生じる加工荷重に関する加工関連データを検出する加工関連データ検出手段17,45,52を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エアコンや給湯器の熱交換器用の伝熱管として用いられる内面溝付管の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エアコンや給湯器の熱交換器に用いられる伝熱管は、熱交換性能の要求から、内面に溝のついた銅管が用いられることが多い。
近年は特に、熱交換器の軽量化や金属の省資源化のために、伝熱管用の内面溝付管は、より薄いものが求められている。
【0003】
このような内面溝付管を製造するための内面溝付管の製造装置及び製造方法は、特許文献1に開示されている。
【0004】
特許文献1の内面溝付管の製造装置は、加工済みの内面溝付管を抽伸方向の最下流側で巻き取る巻き取りドラム(抽伸ドラム)を兼ねた引抜手段を備え、該引抜手段により内面溝付管を引抜く引抜力を検出する引抜力検出手段を備えている。
【0005】
引抜力検出は、引抜手段のモータの電流値によるトルク測定、引抜手段における管の押し付け力と変位の関係、巻き取りドラム以外の素管を縮径したり、溝付け加工をしたりする装置が載った可動台の荷重測定、等によって行われる。
【0006】
例えば引抜手段のモータトルクによって検出する場合、モータトルクがメカニカルロスのレベルまで落ち込んだ時点で断管と判定する。
【0007】
特許文献1における引抜力検出手段は、いずれも抽伸ドラムの直前において管にかかる張力に相当する引抜力を測定するものである。
【0008】
ここで、引抜力検出手段は、加工中に断管が発生した場合であって、その断管箇所が引抜手段の直前(整径ダイスと抽伸ドラムの間)である場合には即時に検出できる。
【0009】
しかし、引抜力検出手段は、加工中に断管が発生した場合であって、その破断箇所が整径ダイスより上流である場合には、破断部が整径ダイスを通過するまで管が整径ダイスを通過する際にかかる引抜荷重が検出される分、荷重変動が抑制され、断管の検出に遅れが生じる。
【0010】
このように、従来技術では、整径ダイスより上流で断管が発生した場合に、断管の検出の遅れにより装置の停止が遅れて溝付プラグを破損することがあった。
【0011】
管の破断部が、溝加工部を通過すると、溝加工部に備えた溝付プラグが転造ボールに直接押し付けられ、溝付プラグが破損する可能性がある。溝付プラグは高価なため、断管が発生したらすぐに装置を停止しなければ、断管の度に溝付プラグを交換する必要があり多大なコスト、労力を要してしまうことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−87004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで本発明では、溝加工部に備えた溝付プラグが転造ボールにより破損される前に加工中に断管発生と判断することができ、溝付プラグの破損を確実に防止することができる内面溝付管の製造装置及び製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、素管を抽伸して縮径させる縮径手段と、該縮径手段通過後の素管内面に多数の溝を形成する溝加工手段と、該溝加工手段の管軸方向下流側で加工済みの内面溝付管を抽伸する抽伸手段とを備えた内面溝付管の製造装置であって、前記抽伸手段よりも管軸方向上流側に、素管の抽伸に伴って管軸方向に生じる加工荷重に関する加工関連データを検出する加工関連データ検出手段を備えた内面溝付管の製造装置であることを特徴とする。
【0015】
前記構成により、素管の抽伸に伴って管軸方向に生じる加工荷重に関する加工関連データを検出することができるため、加工関連データに基づいて抽伸手段よりも管軸方向上流側で素管が破断しても溝加工手段に備えた溝付プラグが破損する前に断管が発生していることを認識することができる。
【0016】
よって、装置を停止するなどの対応を迅速にとることができ、溝加工手段において溝付プラグが転造ボールに直接的に押し付けられ、破損することを防ぐことができる。
【0017】
前記加工関連データは、例えば、前記縮径手段や前記溝加工手段において測定される前記加工荷重、或いは、前記中間抽伸手段の抽伸荷重、換言するとモータの荷重(駆動力)に関連する荷重関連データを挙げることができる。さらに、前記加工関連データは、加工荷重や駆動力を電気信号化した電流値や電圧値、さらには、これらの値を微分した微分値などのデータであってもよく、さらには、これらデータをグラフ化した波形が示す傾向であってもよい。
【0018】
また、本発明は、前記加工関連データ検出手段を、前記溝加工手段における前記加工荷重を測定する溝加工荷重測定手段、及び、前記縮径手段における前記加工荷重を測定する縮径加工荷重測定手段のうち、少なくとも一方で構成したことを特徴とする。
【0019】
前記加工関連データ検出手段を、前記溝加工荷重測定手段で構成した場合、前記溝加工手段での前記加工荷重の変化を基にして断管が発生したと判定することができる。
前記加工関連データ検出手段を、前記縮径加工荷重測定手段で構成した場合、前記縮径手段での前記加工荷重の変化を基にして断管が発生したと判定することができる。
【0020】
このため、溝加工部の下流側に整径ダイスを設置した場合も、前記溝加工手段、前記縮径手段のいずれにおいても、断管発生の判定に遅れるなどの影響を受けずに溝付プラグが破損する前に断管発生を認識することができる。
【0021】
特に、前記加工関連データ検出手段を、前記縮径加工荷重測定手段で構成した場合は、前記溝加工手段と前記縮径手段との間で断管が発生したときも、その断管発生したことを瞬時に判定できる点で好ましい。
【0022】
また、前記溝加工手段、前記縮径手段のいずれにおいても、例えば、前記加工荷重が通常の定常加工時の加工荷重に対して例えば、20%など、メカニカルロスのレベルまで落ち込む手前の所定の割合にまで変化したら断管と判断することができる。
【0023】
また、本発明は、前記縮径手段と前記溝加工手段との間で素管を抽伸する中間抽伸手段を備え、前記加工関連データ検出手段を、前記中間抽伸手段のモータの抽伸荷重に関連する荷重関連データを検出する荷重関連データ検出手段で構成したことを特徴とする。
【0024】
前記中間抽伸手段を備えることで、前記抽伸手段による素管の抽伸を補助することができる一方で、前記縮径手段や前記溝加工手段にかかる荷重の変動が大きくなりがちであるが、前記荷重関連データ検出手段で検出する荷重関連データに基づいて、断管が発生したことを認識することができ、溝付プラグが破損することを防ぐことができる。
【0025】
さらに、前記中間抽伸手段の抽伸荷重(モータの荷重)に関連する荷重関連データを検出し、断管発生を認識するために利用する構成であるため、ロードセルやトルクゲージなどの荷重測定手段、さらには、該荷重測定手段を設置するための治具などのハードウェアが不要になるため、既存の設備を利用して手軽に断管検出を行なうことができる。
【0026】
この場合、前記中間抽伸手段の抽伸荷重自体は、制御によって加工中に常に変化しているので、断管発生を認識するのは困難な場合もあるが、その場合でも荷重関連データとしては、抽伸荷重の微分値や差分値を用いれば、断管発生時に顕著な変動を示すため、断管発生を確実に認識することができる点で好ましい。
【0027】
荷重関連データとして抽伸荷重の微分値を用いる場合、前記断管判定手段では、例えば、抽伸荷重の微分値が、通常の定常加工時においても発生する程度の変動での分布における標準偏差(σ)の5倍(5σ)など、所定の幅を超えて大きく変動したら、断管と判定することができる。
【0028】
前記荷重関連データは、上述したように抽伸荷重(モータの荷重)、荷重に対応する電流値、電圧値(電気信号)といったデータ、これらデータの微分値、差分値等を挙げることができる。
【0029】
さらには、前記荷重関連データには、モータの荷重に限らず、モータのトルクであってもよく、その他にも、前記中間抽伸手段のモータの荷重により可動するプーリ、ベルトなどの伝達機構の(角)速度、(角)加速速度、或いは、これら微分値も含み、前記中間抽伸手段のモータの荷重に関連するデータであれば特に限定しない。
【0030】
また、本発明は、前記加工関連データ検出手段により検出した前記加工関連データに基づいて断管が発生したと判定する断管判定手段を備えたことを特徴とする。
【0031】
前記断管判定手段により、前記加工関連データ検出手段により検出した加工関連データに基づいて断管が発生したと自動で判定することができるため、断管発生であると判定したら装置を即時、且つ、確実に停止することができ、溝付プラグの破損を防ぐことができる。
【0032】
さらにまた、本発明は、前記内面溝付管の製造装置を用いて、前記断管判定手段により、前記加工関連データ検出手段により検出した前記加工関連データに基づいて断管が発生したと判定し、加工停止を行う内面溝付管の製造方法であることを特徴とする。
【0033】
前記構成により、前記加工関連データ検出手段により検出した加工関連データに基づいて断管が発生したと自動で判定し、断管が発生したと判定したら溝加工部に備えた溝付プラグが破損する前に加工を停止することができるため、溝付プラグの破損を確実に防ぐことができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明では、溝加工部に備えた溝付プラグが転造ボールにより破損される前に加工中に断管発生したと判断することができ、溝付プラグの破損を確実に防止することができる内面溝付管の製造装置及び製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】第1実施形態の内面溝付管の製造装置を示す断面図。
【図2】第2実施形態の内面溝付管の製造装置を示す断面図。
【図3】第3実施形態の内面溝付管の製造装置を示す断面図。
【図4】第1、第2実施形態、従来技術の各製造装置に設置した加工荷重検出部の設置箇所を説明する断面図。
【図5】第3実施形態の製造装置に設置した加工荷重検出部の設置箇所を説明する断面図。
【図6】比較例の製造装置における断管発生判定の様子を断管発生前後の加工関連データの変動をグラフ化して示した図。
【図7】比較例の製造装置における断管発生判定の様子を断管発生前後の加工関連データの変動をグラフ化して示した図。
【図8】比較例の製造装置における断管発生判定の様子を断管発生前後の加工関連データの変動をグラフ化して示した図。
【図9】比較例の製造装置における断管発生判定の様子を断管発生前後の加工関連データの変動をグラフ化して示した図。
【図10】第1実施形態の製造装置における断管発生判定の様子を断管発生前後の加工関連データの変動をグラフ化して示した図。
【図11】第1実施形態の製造装置における断管発生判定の様子を断管発生前後の加工関連データの変動をグラフ化して示した図。
【図12】第1実施形態の製造装置における断管発生判定の様子を断管発生前後の加工関連データの変動をグラフ化して示した図。
【図13】第2実施形態の製造装置における断管発生判定の様子を断管発生前後の加工関連データの変動をグラフ化して示した図。
【図14】第2実施形態の製造装置における断管発生判定の様子を断管発生前後の加工関連データの変動をグラフ化して示した図。
【図15】第3実施形態の製造装置における断管発生判定の様子を断管発生前後の加工関連データの変動をグラフ化して示した図。
【図16】第3実施形態の製造装置における断管発生判定の様子を断管発生前後の加工関連データの変動をグラフ化して示した図。
【図17】第3実施形態の製造装置における断管発生判定の様子を断管発生前後の加工関連データの変動をグラフ化して示した図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
この発明の一実施形態を、以下図面を用いて説明する。
(第1実施形態)
第1実施形態における内面溝付管の製造装置10Aは、図1に示すように、管軸方向Xの上流側から下流側(抽伸方向)へ沿って、縮径加工部13、溝加工部14、整径ダイス15、抽伸部16(引抜部)を構成している。
なお、図1は、本実施形態における内面溝付管の製造装置10Aの説明図である。
【0037】
さらに、前記製造装置10Aは、素管11aの抽伸に伴って管軸方向に生じる加工荷重に関する加工関連データを検出する加工関連データ検出部17と、断管が発生した場合、該加工関連データ検出部17により検出した加工関連データに基づいて断管が発生したと判定し、抽伸部16に対して抽伸停止指令を出力する制御部18とを備えている。
【0038】
前記縮径加工部13は、縮径ダイス22と、素管11a内に配置され、前記縮径ダイス22とともに素管11aを縮径するフローティングプラグ23とで構成している。
【0039】
前記縮径ダイス22は、管軸方向Xへ連通した連通孔22aを有した筒状に構成し、連通孔22aは、管軸方向Xの上流側部分(入口側)を下流側部分(出口側)に対して上流側へ向けて末広がり状に開口した形状で構成している。
【0040】
前記フローティングプラグ23は、円柱状に構成し、下流側部分の外周をテーパ状に構成している。
【0041】
前記溝加工部14は、素管11a内においてプラグロッド25を介して前記フローティングプラグ23と回動自在に連結され、外周に複数の溝が形成された溝付プラグ24と、素管11aの外側において該素管11aを前記溝付プラグ24の側へ押圧しながら管軸回りに公転自在に配設された複数の転造ボール26と、転造ボール26を素管11a側へ押圧する押圧治具27とで構成している。
【0042】
押圧治具27は、管軸方向X下流側へ向けて拡大した急角度の円錐状の内周面に有し、転造ボール26を外周側から保持するリング状の加工ヘッド28と、加工ヘッドの下流側にベアリング21を介して設置され、各転造ボール26に対して圧力を付与するリング状の押圧部材29とで構成している。
【0043】
複数の転造ボール26は、正方向、或いは、逆方向のいずれの方向にも素管11aの表面を押圧しながら公転自在に転造工具として前記加工ヘッド28の内周面によって保持されている。
【0044】
前記整径ダイス15は、内面溝付管11が通過することにより、例えば、前記溝加工部14における転造ボール26の押圧により生じた管表面の歪み等を滑らかに整径する加工を行う。
【0045】
前記抽伸部16は、加工済みの内面溝付管11を巻き取る抽伸ドラム31(巻取りドラム)を兼ね備え、抽伸ドラム31を駆動するモータMを備え、該モータMの回転駆動により内面溝付管11を引張りながら抽伸ドラム31に巻き付けている。
【0046】
前記加工関連データ検出部17は、溝加工部14に備え、該溝加工部14における加工荷重を測定する溝加工荷重測定用ロードセル41と可動台43で構成している。
【0047】
可動台43は、固定台42に対して管軸方向Xに可動自在に下部に車輪を有して構成し、上部に溝加工部14の押圧治具27を設置している。
溝加工荷重測定用ロードセル41は、可動台43を介して溝加工部14にかかる管軸方向Xの加工荷重Fを測定可能に固定治具42aに設置している。
【0048】
前記制御部18は、溝加工荷重測定用ロードセル41から検出した荷重Fを電気信号化した荷重検出信号Sinが入力され、後述する制御プログラムに従って、断管発生時には、断管が発生したと判定して抽伸部16のモータMの駆動を停止する停止信号Soutを出力する。
【0049】
前記制御部18は、図示しないが信号の解析処理および演算処理を実行するための演算機(CPU)、必要な制御プログラムを格納するためのハードディスク、及び、前記荷重検出信号Sinを一時格納するためのメモリを備え、その他にも、制御パラメータを入力するキーボードなどの入力手段、モニタなどの表示手段を適宜、備えることができる。
【0050】
上述した製造装置10Aを用い、以下で説明する製造方法により内面溝付管11を製造することができる。
【0051】
まず、素管11a内にはフローティングプラグ23と当該フローティングプラグ23へプラグロッド25を介して回転自在に連結された溝付プラグ24を挿入する。前記素管11aを、前記縮径ダイス22と加工ヘッド28に通して引抜きながら、加工ヘッド28を回転させる。
なお、素管11aには銅,その合金,アルミニウム又はその合金等の熱伝導性のよい金属管を用いることができる。
【0052】
素管11aは、抽伸に伴って前記縮径ダイス22とフローティングプラグ23とにより縮径される。次いで、溝付プラグ24の位置で前記加工ヘッド28の回転に伴って素管11aの周りを公転しつつ自転する複数の転造ボール26が素管11aを押圧することにより、素管11aの内周面を溝付プラグ24の表面へ押圧し、当該素管11aの内面に溝付プラグ24の周面の溝50を転写する。
【0053】
これにより、管軸に対して40〜60度のリード角β(図1参照)をもつ多数の微細な溝10を内面に有した内面溝付管11を形成することができる。その後、内面溝付管11は、下流側の整径ダイス15により整径され、抽伸ドラム31に巻き付けられる。
【0054】
内面溝付管の製造過程において、制御部18では、上述した内面溝付管11の製造過程において断管が発生したとき、溝加工荷重測定用ロードセル41により検出した加工関連データとしての加工荷重Fに基づいて断管が発生したと判定して、加工停止を行う制御を行なっている。
【0055】
詳しくは、前記制御部18は、溝加工荷重測定用ロードセル41により検出した荷重が通常の定常加工時の20%以下に低下したら断管が発生したと判定し、抽伸部16のモータMの駆動を停止させる制御プログラムを実行する。
【0056】
前記製造装置10Aにより、以下のような作用効果を奏することができる。
前記製造装置10Aは、溝加工部14に備えた溝加工荷重測定用ロードセル41により検出した加工荷重Fに基づいて断管が発生したと判定可能な構成であり、整径ダイス15より上流側、特に、溝加工部14またはそれよりも上流側で断管が発生した場合でも断管が発生したと迅速、且つ、確実に判定することができる。
【0057】
したがって、断管発生後に素管11aの破断部が溝加工部14を通過することにより、転造ボール26が素管11aを介さずに直接的に溝付きプラグ24を押圧し、溝付きプラグ24が破損することを防ぐことができる。
【0058】
前記製造装置10Aは、加工中において溝加工荷重測定用ロードセル41で検出した加工荷重Fが通常の定常加工時の加工荷重の20%以下に低下したら断管と判定する制御を実行している。このため、荷重がメカロスレベルまで落ち込んだときに断管であると判定することができる。
【0059】
さらに、ロッド間での性状の違いや、周囲の温度などの環境の違いによる変動を考慮して設定されたものであるから断管発生を誤検出することがない。
【0060】
したがって、断管発生時には、確実に断管発生を検出することができるとともに、生産効率に優れた製造装置を製造することができる。
【0061】
また、前記加工関連データ検出部17は、溝加工部14を可動台43に設置し、溝加工部14に加わる管軸方向Xの荷重を、可動台43を介して溝加工荷重測定用ロードセル41で検出する構成であるため、溝加工部14に加わる管軸方向Xの荷重を正確に測定することができる。
【0062】
以下では、他の実施形態における内面溝付管の製造装置10B,10Cについて説明する。
但し、以下で説明する内面溝付管の製造装置10B,10Cの構成のうち、上述した第1実施形態における内面溝付管の製造装置10Aと同様の構成については、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0063】
(第2実施形態)
第2実施形態における内面溝付管の製造装置10Bは、図2に示すように、管軸方向Xの上流側から下流側へ沿って、縮径加工部13、溝加工部14、整径ダイス15、抽伸部16を構成するとともに、加工関連データ検出部45と制御部46とを備えている。
前記加工関連データ検出部45は、縮径加工部13に備え、該縮径加工部13における加工荷重Fを測定する縮径加工荷重測定用ロードセル45で構成している。
縮径加工荷重測定用ロードセル45は、縮径ダイス22に取り付けられ、縮径ダイス22に負荷される管軸方向Xの荷重を検出することができる。
【0064】
なお、第2実施形態における内面溝付管の製造装置10Bには、溝加工部14に溝加工荷重測定用ロードセル41、及び、可動台43を備えていない。
【0065】
前記制御部46は、縮径加工荷重測定用ロードセル45から検出した荷重Fを電気信号化した荷重検出信号Sinが入力され、制御プログラムに従って、断管の検出を行い、断管発生時には、断管が発生したと判定して抽伸部16のモータMの駆動を停止する停止信号Soutを出力する。
【0066】
詳しくは、前記制御部46は、縮径加工荷重測定用ロードセル45により検出した加工荷重Fが通常の定常加工時の20%以下に低下したら断管と判定し、抽伸部16のモータMの駆動を停止させる制御プログラムを実行する。
【0067】
前記製造装置10Bにより、以下のような作用効果を奏することができる。
前記製造装置10Bは、縮径加工部13に備えた縮径加工荷重測定用ロードセル45により測定した加工荷重Fに基づいて断管が発生したと判定する構成であり、整径ダイス15よりも上流側で断管が発生した場合でも断管が発生したと迅速、且つ、確実に判定することができる。
【0068】
特に、前記製造装置10Bは、縮径加工部13よりも下流側で断管が発生した場合は、断管発生と同時に素管の抽伸により縮径加工部13にかかる荷重がゼロになるので、断管が発生したと即時に判定することができる。
【0069】
したがって、転造ボール26が素管11aを介さずに直接的に溝付きプラグ24を押圧し、溝付きプラグ24が破損することを防ぐことができる。
【0070】
(第3実施形態)
第3実施形態における内面溝付管の製造装置10Cは、図3に示すように、管軸方向Xの上流側から下流側へ沿って、縮径加工部13、中間抽伸部51(中間引抜部)、溝加工部14、整径ダイス15、抽伸部16を構成するとともに、加工関連データ検出部52と制御部53とを備えている。
なお、図3は、第3実施形態における内面溝付管の製造装置10Cの説明図である。
【0071】
前記中間抽伸部51は、縮径部13と溝加工部14との間で、素管11aを管軸方向Xへ抽伸することで抽伸部16による抽伸を補助している。すなわち、前記溝加工部14による溝加工は、素管11aを抽伸する際の抵抗となり、この溝加工の際の抽伸(引抜き)の負荷が大きくなるが、中間抽伸部51により素管11aにかかる抽伸負荷を管軸方向Xにおいて分散させ、その結果、溝加工部14にかかる荷重を低減させることができる。
【0072】
前記中間抽伸部51は、素管11aに対して上下各側、或いは、左右各側に配置された一対のベルト54を備えている。各ベルト54は、プーリー55によりループ状(無端状)に張架され、モータMにより回転可能に構成している。ベルト54は、外周面に、その長さ方向に沿って複数のパッド56を連設している。
【0073】
前記パッド56には、図示しないが、縮径部13により縮径後の素管11aの外面との接触部分に、複数のパッド56の連設方向に対する切断面が円弧状となるパッド溝を形成している。
【0074】
前記中間抽伸部51は、モータMの駆動によりパッド56を素管11a表面に押し付け、或いは、退避可能に構成している。
なお、前記中間抽伸部51の上流側には、素管11aの外表面に付着した油膜や異物を除去するためのワイパー57を設け、下流側には、中間整径ダイス58を設けている。
【0075】
前記ワイパー57は、素管11aの外表面に付着した油膜や異物も除去するために設けられ、素管11aを通過させるため、該素管11aの外径よりも一回り小さい径の貫通穴が中央部に形成された例えば、ゴム製の筒状体である。
中間整径ダイス58は、前記中間抽伸部51で扁平した素管11aの断面形状を真円に近い形状に戻すために設けられ、前記素管11aの形状に応じて、縮径ダイス22の径と同じか小さなダイス径で構成している。
前記制御部53は、中間抽伸部51のモータMの駆動を制御することにより、中間抽伸部51のパッド56による素管11aに対する押し付け力を制御することができる。
パッド56を素管11aに対して適切な押し付け力で押し付けることによって、パッド56と素管11aの間のスリップを低減させ、荷重Fの変動が小さくなるようにする。
【0076】
前記加工関連データ検出部52は、中間抽伸部51のモータMの駆動力に関連する信号としてモータMへの駆動力指令値に対応する電流値(電気信号)を検出する電流計52で構成している。
なお、製造装置10Cには、溝加工部14に、溝加工荷重測定用ロードセル41や可動台43を備えておらず、縮径加工部13に、縮径加工荷重測定用ロードセル45を備えていない。
【0077】
また、前記制御部53は、上述したように、電流計52により検出した電流値を微分する演算部を備え、微分値を荷重関連データとして記憶する記憶部を備えている。さらに、前記制御部53は、微分値が定常加工時の変動の5σを超えて大きく変動したら、断管と判定し、抽伸部16のモータM、中間抽伸部51のモータMに対して抽伸停止の指令を出力する制御プログラムを備えている。
【0078】
上述した製造装置10Cを用いて内面溝付管11を製造することができる。
制御部53では、素管11aが破断した場合、電流計52で検出した電流値を微分した微分値に基づいて、断管が発生したと判定し、加工停止を行う。
詳しくは、内面溝付管11の製造方法によれば、電流計52で検出した電流値を微分した微分値の変化量を計測し、その変動が5σを超えたら断管と判断し、抽伸部16のモータM、中間抽伸部51のモータMなどの装置を停止させる。
【0079】
前記製造装置10Cにより、以下のような作用効果を奏することができる。
前記製造装置10Cは、整径ダイス15よりも上流側で発生した断管であっても、溝付プラグ24が破損する前に確実に検出することができる。
【0080】
さらに、製造装置10Cは、中間抽伸部51のモータの荷重(駆動力)の指令値となる電流値を微分した微分値に基づいて、断管が発生したと判定することができるため、中間抽伸部51の抽伸補助により荷重変動が大きい状況下でも、中間抽伸部51、又は、それよりも上流側で発生した断管を迅速、且つ、確実に検出することができる。
【0081】
したがって、転造ボール26が素管11aを介さずに直接的に溝付きプラグ24を押圧し、溝付きプラグ24が破損することを防ぐことができる。
【0082】
さらに、中間抽伸部51のモータMの荷重に対応する電流値の微分値に基づいて、断管が発生したと判定する構成であるため、ロードセルやトルクゲージ、さらには、これらを設置するための可動台等のハードウェアの追加は不要であり、例えば、電流計52といった簡素なハードウェアによって断管検出を行なうことができる。
【0083】
なお、第3実施形態の内面溝付管の製造装置10Cは、中間抽伸部51に備えた前記加工関連データ検出部52(電流計52)のみに基いて断管を検出する構成に限らない。
詳しくは、製造装置10Cは、前記加工関連データ検出部52に加えて、溝加工部14に溝加工荷重測定用ロードセル41、及び/又は、縮径加工部13に縮径加工荷重測定用ロードセル45を備え、各箇所で断管発生を検出する構成を排除するものでない。
【0084】
(実施例)
続いて、本発明の製造装置を用いて内面溝付管11の加工中に素管11a(内面溝付管11)に断管が発生したとき、代替困難な溝付プラグ24が破損することなく断管発生を判定できるか否かを検証する断管検出実験を行なった。
本断管検出実験では、本発明の製造装置として第1から第3実施形態の製造装置10A,10B,10Cを用い、さらに、第1から第3実施形態の製造装置10A,10B,10Cの比較例として従来技術に係る製造装置を用いて行なった。
【0085】
第1から第3実施形態の製造装置10A,10B,10Cでは、上述したとおり、いずれも、抽伸部16よりも、詳しくは、溝加工部14、又は、該溝加工部14よりも管軸方向X上流側に、適宜、加工荷重検出部17,45,52を備え、該加工荷重検出部17,45,52により、加工荷重関連データの検出を行なっている。第1から第3実施形態の製造装置10A,10B,10Cについて中間抽伸部51の設置の有無、加工荷重検出部17,45,52の種類、中間抽伸部51の設置箇所についてまとめると表1、図4、図5に示すとおりである。
【0086】
【表1】

なお、表1は、第1から第3実施形態の各製造装置の中間抽伸部51の設置の有無、加工荷重検出部の種類、中間抽伸部の設置箇所を示す表である。
図4は、第1、第2実施形態、比較例の各製造装置に設置する加工荷重検出部の設置箇所を示し、中間抽伸部を設置していない製造装置の模式図である。図5は、第3実施形態の製造装置に設置する加工荷重検出部の設置箇所を示し、中間抽伸部を設置している製造装置の模式図である。
【0087】
一方、表1、図4に示すように、比較例の製造装置では、中間抽伸部51を設置していない構成を例にとり、抽伸部16に抽伸ドラム31のモータの荷重を検出する荷重検出器を備え(図示せず)、該荷重検出器で抽伸荷重を検出し、断管が発生した場合は、断管が発生したとの判定を行う。
【0088】
また、断管発生箇所(以下、「断管箇所」という。)は、図4、図5に示すとおり、断管箇所aからiの9通りの箇所とした。
断管箇所aからdは、図4に示すとおりであり、詳しくは、断管箇所aは、整径ダイス15と抽伸部16の間であり、断管箇所bは、整径ダイス15内、または、溝加工部14と整径ダイス15の間であり、断管箇所cは、溝加工部14内、または、縮径加工部13と溝加工部14の間であり、断管箇所dは、縮径加工部13内、または、縮径加工部13の上流側から素管11aを供給するペイオフテーブル62と縮径加工部13の間である。
【0089】
断管箇所eからiは、図5に示すとおりであり、詳しくは、断管箇所eは、整径ダイス15と抽伸部16の間であり、断管箇所fは、整径ダイス15内、または、溝加工部14と整径ダイス15の間であり、断管箇所gは、溝加工部14内、または、中間抽伸部51と溝加工部14の間であり、断管箇所hは、縮径加工部13と中間抽伸部51の間であり、断管箇所iは、縮径加工部13内、または、ペイオフテーブル62と縮径加工部13の間である。
【0090】
以上を踏まえ、比較例の製造装置を用いて断管箇所a,b,c,dの各箇所で断管が発生した場合の断管検出実験をそれぞれ断管検出実験0−a,0−b,0−c,0−dとする。第1実施形態の製造装置10Aを用いて断管箇所a,b,c,dの各箇所で断管が発生した場合の断管検出実験をそれぞれ断管検出実験1−a,1−b,1−c,1−dとする。第2実施形態の製造装置10Bを用いて断管箇所a,b,c,dの各箇所で断管が発生した場合の断管検出実験をそれぞれ断管検出実験2−a,2−b,2−c,2−dとする。第3実施形態の製造装置10Cを用いて断管箇所e,f,g,h,iの各箇所で断管が発生した場合の断管検出実験をそれぞれ断管検出実験3−e,3−f,3−g,3−h,3−iとする。
【0091】
断管検出実験で行った断管検出制御について、図6から図17を基に説明する。
なお、図6から図17は、各断管検出実験において、各加工部に適宜、設けた加工荷重検出部が検出する加工荷重と時間の関係のグラフを示す図であり、いずれも測定開始から100秒経過時点で断管が発生したものとする。
【0092】
さらに、断管検出後に断管発生であるとの判定ができ次第、装置を停止するので、その後の荷重は、ゼロになるが、図6から図17では、断管検出前後の荷重の変化の様子を示すため、実際に装置を停止しても、断管発生後も装置を停止しない状態の荷重の波形をあらわしている。
【0093】
(比較例の製造装置を用いた断管検出実験)
比較例の製造装置では、図6から図9に示すように、上述した抽伸ドラム31の定常加工時のモータMの抽伸荷重に対して20%の割合だけ低下させた値を閾値とする断管検出ラインに設定している。
なお、図6から図9は、それぞれ断管検出実験0−a,0−b,0−c,0−dにおける断管検出実験の実験結果を示す。
【0094】
断管検出ラインは、断管が発生したと判定することができるとともに、断管を誤検出しない範囲で設定する必要がある。
詳しくは、抽伸ドラム31の抽伸荷重は、図6に示すように数100秒レベルの加工時間の範囲において、約±50Nの範囲内で変動している。ロットの先頭と終わりの間の数100分レベルの加工時間範囲に着目すると、銅管の前後での焼鈍状態の違いや偏肉、溝付プラグ24の磨耗などの要因によりさらに抽伸ドラム31の荷重には、変動が生じる。
【0095】
さらに、銅管のロット間の違いや、溝付プラグ24の固体差や季節変動での差はもっと大きく、例えば、断管発生前の定常加工時においても、抽伸ドラム31の抽伸荷重は、約1500Nから3000Nの範囲で変動する。
【0096】
そのため、断管検出の閾値としての断管検出ラインを上げると断管発生の誤検出が多くなるため、断管検出ラインは、断管の誤検出が生じない範囲で設定する必要がある。
【0097】
断管検出実験0−aの結果は、図6に示すとおりである。図6に示すように、断管発生までは、抽伸ドラム31の抽伸荷重は、定常加工時の範囲で変移するが、断管発生と同時に、モータMの抽伸荷重が断管検出ラインよりも低いメカロスレベルまで下がるので、制御部では、断管発生と同時に断管が発生したと判定し、装置を停止することで転造ボール26により溝付プラグ24を破損することを防ぐことができる。
【0098】
断管検出実験0−bの結果は、図7に示すとおりである。図7に示すように、断管発生と同時に、抽伸ドラム31の抽伸荷重は、降下するが、断管検出ラインよりも降下せず(図7中の荷重波形のa点参照)、破断部が整径ダイス15を通過すると同時に、抽伸ドラム31の抽伸荷重が断管検出ラインよりも低いメカロスレベルまで下がるので、制御部では、断管であると判定し、装置を停止する。
【0099】
このように断管検出実験0−bにおいても、比較例の製造装置は、断管発生後に加工停止することができるが、断管発生から断管発生を検出までに僅かに遅れが生じることになる。
【0100】
但し、断管検出実験0−bでは、溝加工部14よりも下流側である断管箇所bで断管が発生するため、破断部が溝付プラグ24を有する溝加工部14を通過することなく、溝付プラグ24が破損する前に装置を停止することができる。
【0101】
なお、断管発生と同時に降下する荷重値(図7中の荷重波形のa点参照)よりも断管検出ラインを高く設定した場合には、破断部が整径ダイス15通過前に断管発生を遅れなく検出することができる反面、上述したように、様々な要因により加工中に抽伸荷重が変動するに伴い、断管発生の誤検出が生じ易くなり、加工効率が大幅に低下するため、好ましくない。
【0102】
断管検出実験0−cの結果は、図8に示すとおりである。図8に示すように、断管発生と同時に、抽伸ドラム31の抽伸荷重は、降下するが、破断部が溝加工部14、整径ダイス15を通過するごとに段階的に降下し、破断部が整径ダイス15を通過するまで、抽伸荷重が断管検出ラインよりも低いメカロスレベルまで下がらず、制御部では、最終的に整径ダイス15を通過するまで断管が発生したと判定することができない。
【0103】
よって、断管は、溝加工部14よりも上流側である断管箇所cで発生するが、断管発生後に断管発生であると判定し、装置を停止するまでに要する時間に遅れが生じるため、この間、破断部が溝付プラグ24を有する溝加工部14を通過し、転造ボール26が直接的に溝付プラグ24に接触するので、溝付プラグ24が破損するおそれがある。
【0104】
なお、図8中の抽伸荷重の波形のa点、b点は、それぞれ破断部が溝加工部14、整径ダイス15を通過中であることを示す。
【0105】
断管検出実験0−dの結果は、図9に示すとおりである。図9に示すように、断管検出実験0−cと同様に、断管発生と同時に、抽伸ドラム31の抽伸荷重は、降下するが、破断部が縮径加工部13、溝加工部14、整径ダイス15を通過するごとに段階的に降下し、整径ダイス15を通過するまで、抽伸荷重が断管検出ラインよりも低いメカロスレベルまで下がらず、制御部では、最終的に整径ダイス15を通過するまで断管が発生したと判定することができない。
【0106】
よって、断管発生後に断管発生であると判定し、装置停止までに要する時間に遅れが生じ、この間、転造ボール26が溝付プラグ24に接触するので、溝付プラグ24が破損するおそれがある。
【0107】
(第1実施形態の製造装置を用いた断管検出実験)
続いて第1実施形態の製造装置10Aを用いた断管検出実験について説明する。
第1実施形態の製造装置10Aでは、断管検出の閾値として断管検出ラインを、溝加工荷重測定部17で測定した定常加工時の測定荷重(加工荷重F)の20%になるよう設定し、測定荷重が断管検出ライン以下になったら断管と判定し、装置を停止する制御を行なっている。
【0108】
断管検出実験1−aの結果は、図10に示すとおりである。図10に示すように、溝加工荷重測定部17の測定荷重は、断管発生と同時に、測定荷重が断管検出ラインよりも低いゼロにまで降下するため、即時に断管が発生したと判定可能であり、溝付プラグ24を破損せずに装置を停止することができる。
【0109】
なお、断管後に測定荷重がゼロにまで降下するのは、溝加工部14よりも下流側で断管が発生した場合、断管発生と同時に抽伸ドラム31による素管11aの抽伸が溝加工部14まで完全に作用しなくなるためである。
【0110】
また、断管検出実験1−bも、断管検出実験1−aと同様に、断管発生と同時に、測定荷重がゼロにまで降下するため、即時に断管検出可能であり、溝付プラグ24を破損せずに装置を停止することができる。
なお、断管検出実験1−bでの溝加工荷重測定部17の測定荷重は、図10と略同じ波形になるため、加工荷重と経過時間との関係を示すグラフは、省略する。
【0111】
断管検出実験1−cの結果は、図11に示すとおりである。図11に示すように、断管発生と同時に溝加工荷重測定部17の測定荷重は、降下しない。
これは、溝加工部14よりも上流側である断管箇所cで断管が発生した場合、破断部が溝加工部14を通過するまで、断管が発生しても抽伸ドラム31による素管11aの抽伸が溝加工部14まで作用するからである。
【0112】
断管部が溝加工部14を通過したと同時に(図11中の荷重波形のa点参照)一気に断管検出ラインよりも低いゼロにまで降下し、制御部では、断管が発生したと判定し、装置を停止する。
【0113】
このように第1実施形態の製造装置10Aでは、断管箇所cの場合、断管発生と同時に装置を停止することができないが、破断部が溝加工部14を通過すると同時に断管が発生したと判定し、装置を即時停止することができるので、溝付プラグ24が破損することを未然に防止することができる。
【0114】
ここで、比較例の製造装置では、断管検出実験0−cで説明したように、断管箇所cで断管が発生した場合、破断部が溝加工部14を通過し、さらに整径ダイス15を通過するまで断管が発生したと判定することができない(図8参照)。すなわち、破断部が溝加工部14と整径ダイス15の間、及び、整径ダイス15内を通過する間の数秒間、転造ボール26が溝付プラグ24に接触することになり、この間に溝付プラグ24を破損させることになる。
【0115】
これに対して第1実施形態の製造装置10Aでは、断管箇所cで断管発生した場合において比較例の製造装置よりも、破断部が溝加工部14と整径ダイス15の間、及び、整径ダイス15内を通過する間だけ早く装置を停止することができるため、溝付プラグ24が転造ボール26に接触し、破損することを未然に防ぐことができる。
【0116】
断管検出実験1−dにおいても、図12に示すように、第1実施形態の製造装置10Aでは、断管発生と同時に断管が発生したと判定することができないが、破断部が縮径加工部13を通過し、溝加工部14を通過する際に、溝加工荷重測定部17の測定荷重がゼロにまで降下するので(図12中、荷重波形a点参照)溝加工部14の通過と同時に断管発生したと判定することができ、断管検出実験1−cの場合と同様に溝付プラグ24が破損することを未然に防ぐことができる。
【0117】
(第2実施形態の製造装置を用いた断管検出実験)
続いて第2実施形態の製造装置10Bを用いた断管検出実験について説明する。
断管検出実験2−aでは、断管検出実験1−aと同様に溝加工部14よりも下流側で断管が発生するため、断管発生と同時に抽伸ドラム31による素管11aの抽伸が縮径加工部13まで作用しなくなる。
【0118】
このため、縮径加工荷重測定部の測定荷重は、図13に示すように、断管発生と同時に、測定荷重が断管検出ラインよりも低いゼロにまで降下するため、即時に断管発生と判定可能であり、溝付プラグ24を破損せずに装置を停止することができる。
【0119】
同様に、断管検出実験2−b,cも、断管発生と同時に、測定荷重がゼロにまで降下するため、即時に断管発生と判定可能であり、溝付プラグ24を破損せずに装置を停止することができる。
なお、断管検出実験2−b,cでの溝加工荷重測定部17の測定荷重は、図13と略同じ波形になるため、加工荷重と経過時間との関係を示すグラフは、省略する。
【0120】
断管検出実験2−dでは、縮径加工部13よりも上流側である断管箇所dで断管が発生するため、断管が発生しても破断部が縮径加工部13を通過するまでは抽伸ドラム31による素管11aの抽伸が縮径加工部13まで作用する。
【0121】
このため、図14に示すように、断管発生と同時に縮径加工荷重測定部の測定荷重は、降下しないが、破断部が縮径加工部13を通過したと同時に断管検出ラインよりも低いゼロにまで降下し、制御部では、断管が発生したと判定し、装置を停止する。
【0122】
このように第2実施形態の製造装置10Bでは、断管発生と同時に装置を停止することができないが、破断部が縮径加工部13を通過すると同時に断管が発生したと判定し、破断部が溝加工部14を通過する前に装置を停止することができるので、溝付プラグ24が破損することを未然に防止することができる。
【0123】
(第3実施形態の製造装置を用いた断管検出実験)
続いて第3実施形態の製造装置10Cを用いた断管検出実験について説明する。
第3実施形態の製造装置10Cでは、上述したように中間抽伸部51のモータMの荷重の微分値をもとに断管が発生したと判定している。
詳しくは、中間抽伸部51のモータMの荷重(中間抽伸部51の抽伸荷重F)の変化量(微分値)を監視し、微分値の変動が5σを超えたら断管と判断し、装置を停止する制御を行なっている。
【0124】
ここで、中間抽伸部51での抽伸荷重は、定常加工時でも実際には、上述したように加工前の素管11a(銅管)や装置の状態、加工環境の違いなど、様々な要因により変化量が大きくなる。
【0125】
このため、第3実施形態の製造装置10Cのように、抽伸荷重の微分値を用いて断管発生を検出することにより、正確に断管を判定できる点で好ましい。
【0126】
断管検出実験3−eの実験結果は、図15に示すとおりである。
なお、図15は、断管発生前後の中間抽伸部51での抽伸荷重と、荷重変化量(微分値)とをそれぞれグラフ化して示し、抽伸荷重は、図15中左側を縦軸とし、荷重の変化量は、図15中右側を縦軸としている。
【0127】
断管検出実験3−eでは、溝加工部14よりも下流側で断管が発生するが、これにより、中間抽伸部51の負荷が上がり、抽伸ドラムの抽伸荷重の変化量が定常加工時と比較して顕著にあがる。よって、断管発生と略同時に断管が発生したと判定し、装置を停止することができる。
【0128】
なお、図15に示すように、数100秒レベルの範囲でみれば中間抽伸部51での抽伸荷重の変動も、抽伸荷重の微分値の変動も大差はないが、上述したように、数100分レベルの範囲でみれば中間抽伸部51での抽伸荷重の変動が大きくなる。
【0129】
このため、中間抽伸部51の抽伸荷重の変化量(微分値)に基いて断管が発生したと判定することで、断管を誤検出することなく、断管と同時に即時に断管発生と判定可能であり、溝付プラグ24を破損せずに装置を停止することができる。
【0130】
また、断管検出実験3−f,gも、断管検出実験3−eと同様に、断管発生と同時に、中間抽伸部51の抽伸荷重の変化量(微分値)が5σを超えるまで変化し、即時に断管検出可能であり、溝付プラグ24を破損せずに装置を停止することができる。
【0131】
なお、断管検出実験3−f,gでの中間抽伸部51の測定荷重は、図15と略同じ波形になるため、加工荷重と経過時間との関係を示すグラフは、省略する。
【0132】
断管検出実験3−hでは、中間抽伸部51内、又は、中間抽伸部51よりも上流側である断管箇所hで断管が発生するが、図16に示すように、断管発生と同時に中間抽伸部51の抽伸荷重の変化量(微分値)が5σを超えるまで変化し、即時に断管発生と判定可能であり、溝付プラグ24を破損せずに装置を停止することができる。
【0133】
断管検出実験3−iでは、図17に示すように、断管発生と同時に中間抽伸部51の荷重、及び、荷重の変化量(微分値)は、降下しない。断管は、縮径加工部13よりも上流側である断管箇所iで発生するため、破断部が縮径加工部13を通過するまでは、中間抽伸部51の抽伸荷重に影響を及ぼさないからである。
【0134】
しかし、破断部が縮径加工部13を通過すると同時に、断管検出実験3−hと同様に中間抽伸部51の荷重の変化量(微分値)が5σを超えるまで変化し、断管発生と判定可能であり、溝付プラグ24を破損せずに装置を停止することができる。
【0135】
上述した断管検出実験により、比較例の製造装置は、断管発生箇所によっては、溝付プラグ24が転造ボール26に直接的に押し付けられ破損した。
【0136】
これに対して、第1から第3実施形態の各製造装置は、いずれも溝付プラグ24が転造ボール26により破損される前に、加工中に断管発生したと判定し、加工を停止することができた。
【0137】
したがって、本発明の内面溝付管の製造装置及び製造方法により、溝付プラグ24の破損を防止することができることを実証することができた。
【0138】
上述した実施形態と、この発明の構成との対応において、
縮径手段は、縮径加工部13に対応し、
溝加工手段は、溝加工部14に対応し、
抽伸手段は、抽伸部16に対応し、
中間抽伸手段は、中間抽伸部51に対応し、
加工関連データは、加工関連データ検出部17,45で測定した測定荷重、又は、計測した電流計52に対応し、
加工関連データ検出手段は、加工関連データ検出部17,45,52に対応し、
断管判定手段は、演算部、記憶部を備えた制御部18,46,53に対応し、
溝加工荷重測定手段は、溝加工荷重測定用ロードセル41に対応し、
縮径加工荷重測定手段は、縮径加工荷重測定用ロードセル45に対応し、
荷重関連データは、中間抽伸部51の抽伸荷重の微分値に対応し、
荷重関連データ検出手段は、電流計52、及び、制御部53の演算部に対応するも、この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【0139】
例えば、本発明は、第3実施形態の製造装置10Cにおいて、中間抽伸部51のモータMの荷重を測定するロードセル等の荷重測定器を備え、該荷重測定器で測定した荷重を、荷重関連データとして断管発生の判定に用いる構成を排除するものではない。
【0140】
また、本発明は、溝加工部14で加工荷重を測定する手段として加工関連データ検出部17の代わりに縮径加工部13に備えた加工関連データ検出部45と同様の構成を採用してもよく、逆に、縮径加工部13で加工荷重を測定する手段として加工関連データ検出部45の代わりに溝加工部14に備えた加工関連データ検出部17と同様の構成を採用してもよい。
【0141】
さらに、本発明は、縮径加工部13に加工関連データ検出部45を備え、溝加工部14に加工関連データ検出部17を備え、双方の加工関連データ検出部17,45を用いて断管発生を判定する構成であってもよい。
【0142】
さらにまた、第3実施形態の製造装置10Cにおいて、縮径加工部13に加工関連データ検出部45を備え、及び/又は、溝加工部14に加工関連データ検出部17を備え、中間抽伸部51の抽伸荷重の微分値に加えて加工関連データ検出部17,45のうち、少なくとも一方で検出した加工関連データを用いて断管発生を判定する構成であってもよい。
【0143】
また、押圧治具27は、転造ボール26を用いるに限らず、ローラーなど、素管11aを押圧できれば、他の工具を用いてもよい。
【符号の説明】
【0144】
10A,10B,10C…内面溝付管の製造装置
11…内面溝付管
11a…素管
13…縮径加工部
14…溝加工部
16…抽伸部
17,45,52…加工関連データ検出部
18,46,53,59…制御部
24…溝付プラグ
41…溝加工荷重測定用ロードセル
51…中間抽伸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素管を抽伸して縮径させる縮径手段と、
該縮径手段通過後の素管内面に多数の溝を形成する溝加工手段と、
該溝加工手段の管軸方向下流側で加工済みの内面溝付管を抽伸する抽伸手段とを備えた内面溝付管の製造装置であって、
前記抽伸手段よりも管軸方向上流側に、素管の抽伸に伴って管軸方向に生じる加工荷重に関する加工関連データを検出する加工関連データ検出手段を備えた
内面溝付管の製造装置。
【請求項2】
前記加工関連データ検出手段を、前記溝加工手段における前記加工荷重を測定する溝加工荷重測定手段、及び、前記縮径手段における前記加工荷重を測定する縮径加工荷重測定手段のうち、少なくとも一方で構成した
請求項1に記載の内面溝付管の製造装置。
【請求項3】
前記縮径手段と前記溝加工手段との間で素管を抽伸する中間抽伸手段を備え、
前記加工関連データ検出手段を、前記中間抽伸手段のモータの抽伸荷重に関連する荷重関連データを検出する荷重関連データ検出手段で構成した
請求項1、又は、2に記載の内面溝付管の製造装置。
【請求項4】
前記加工関連データ検出手段により検出した前記加工関連データに基づいて断管が発生したと判定する断管判定手段を備えた
請求項1から3のいずれかに記載の内面溝付管の製造装置。
【請求項5】
請求項4に記載の内面溝付管の製造装置を用いて、
前記断管判定手段により、前記加工関連データ検出手段により検出した前記加工関連データに基づいて断管が発生したと判定し、加工停止を行う
内面溝付管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−274264(P2010−274264A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125936(P2009−125936)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】