円筒内面部の加工方法
【課題】容易に円筒内面部の内径、面荒さ及び同軸度の精度を向上させることができる加工技術を提供することを課題とする。
【解決手段】円筒内面部の加工方法は、単層砥粒21を整列配置した砥石13を筒状のツールホルダ11の周方向に略等ピッチで複数列設けた中ぐり工具10を準備する工程と、中ぐり工具10を被研削物14の円筒内面部15に進入させて研削する工程と、からなる。
【効果】砥石がツールホルダの周方向に略等ピッチで配置されているので、周方向から軸の中心に向けてバランス良く力を受け、ツールホルダが撓むことがなく円筒内面部をバランス良く研削でき、容易に加工精度を向上させることができる。
【解決手段】円筒内面部の加工方法は、単層砥粒21を整列配置した砥石13を筒状のツールホルダ11の周方向に略等ピッチで複数列設けた中ぐり工具10を準備する工程と、中ぐり工具10を被研削物14の円筒内面部15に進入させて研削する工程と、からなる。
【効果】砥石がツールホルダの周方向に略等ピッチで配置されているので、周方向から軸の中心に向けてバランス良く力を受け、ツールホルダが撓むことがなく円筒内面部をバランス良く研削でき、容易に加工精度を向上させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被研削物の内径を加工する中ぐりによる加工技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の軸穴を複数のバイトで同時に中ぐりする技術が知られている(例えば、特許文献1(図1、図2)参照。)。
【0003】
図11は従来技術に係る軸穴加工装置100を説明する図であり、基部101から立ち壁102が立ち上げられ、この立ち壁102に主軸台103が昇降自在に設けられている。主軸台103に設けられた回転軸104がワーク105の軸穴106に挿入され、回転軸103の先端部が軸受け部107に支持されている。ワーク支持部材108にワーク105が水平方向移動可能に支持されている。
図12は回転軸104の断面図であり、回転軸104の円周5ヵ所にバイト109が設けられている。バイト109は円周角20°毎に設けられており、円周上の一部に集中して配置されている。
【0004】
図13は軸穴加工装置100の作用を説明する図であり、(a)に示すように主軸台(図11、符号103)を下降させ、矢印(1)のように回転軸104を軸穴106に挿入する。回転軸104の軸110と、軸穴106の軸111とはずれており、バイト109は軸穴106に接触することなく所定の位置に移動される。回転軸104をワーク105に対して矢印(2)のように相対移動させる。
(b)に示すように、回転軸104を矢印(3)のように回転させ、続けて矢印(4)のように移動させることで、軸穴106を切削することができる。軸穴106の切削後、回転軸104をワーク105に対して矢印(5)のように相対移動させる。さらに回転軸104を矢印(6)のように上昇させてワーク105から抜くことで、ワーク105を取り出すことができる。
【0005】
ところで、バイト109は回転軸104の挿入及び排出時にワーク105への接触を避けるために回転軸104の円周上の一部に集中して設けられており、回転軸104は一方向からのみ力を受けるので、回転軸104は撓み易い。結果、加工精度に悪影響を及ぼす。
すなわち、容易に円筒内面部の内径、面荒さ及び同軸度の精度を向上させることができる加工技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2744874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、容易に円筒内面部の内径、面荒さ及び同軸度の精度を向上させることができる加工技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、単層砥粒を整列配置した砥石を筒状のツールホルダの周方向に略等ピッチで複数列設けた中ぐり工具を準備する工程と、前記中ぐり工具を被研削物の円筒内面部に進入させて研削する工程と、からなることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明では、研削する工程は、砥石をツールホルダの周方向に縮径させ、中ぐり工具を円筒内面部に進入させる工程と、砥石を所定の位置でツールホルダの周方向に拡径させ、中ぐり工具で被研削物を研削する工程と、からなることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、筒状のツールホルダの外周に砥石が設けられている中ぐり工具において、砥石は、母材と、この母材の面に設けられ整列配置されている単層砥粒とからなり、砥石は、ツールホルダの周方向に略等ピッチで複数列設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明では、ツールホルダは、砥石が設けられたアームを周方向に拡径する拡径機構であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、単層砥粒を整列配置した砥石を筒状のツールホルダの周方向に略等ピッチで複数列設けた中ぐり工具を被研削物の円筒内面部に進入させて研削する。砥石がツールホルダの周方向に略等ピッチで配置されているので、周方向から軸の中心に向けてバランス良く力を受け、ツールホルダが撓むことがなく円筒内面部をバランス良く研削でき、容易に加工精度を向上させることができる。
加えて、単層の砥石を用いることで描く砥粒の突き出しを大きくできる上に、整列配置した砥粒によりワークを切削する刃をバイトに比べて多く設けることができ、切削抵抗を分散し摩耗を抑制することで加工精度の向上と工具寿命の延長、さらにはメンテナンス工数の低減をすることができる。
【0013】
請求項2に係る発明では、研削する工程は、砥石をツールホルダの周方向に縮径させ、中ぐり工具を円筒内面部に進入させ、砥石を所定の位置でツールホルダの周方向に拡径させ、中ぐり工具で被研削物を研削する。縮径することで、ツールホルダの軸方向に複数の砥石を配置しても、シリンダブロックの複数のジャーナル穴の各々に対して砥石を進入せせることができ、1ストロークで複数穴を同時加工することができるので、加工サイクルタイムの短縮を図ることができる。
【0014】
請求項3に係る発明では、砥石は、母材と、この母材の面に設けられ整列配置されている単層砥粒とからなり、砥石は、ツールホルダの周方向に略等ピッチで複数列設けられている。砥石がツールホルダの周方向に略等ピッチで配置されているので、周方向から軸の中心に向けてバランス良く力を受け、ツールホルダが撓むことがなく円筒内面部をバランス良く研削でき、容易に加工精度を向上させることができる。
加えて、単層の砥石を用いることで描く砥粒の突き出しを大きくできる上に、整列配置した砥粒によりワークを切削する刃をバイトに比べて多く設けることができ、切削抵抗を分散し摩耗を抑制することで加工精度の向上と工具寿命の延長、さらにはメンテナンス工数の低減をすることができる。
さらに、一般的に外径加工より内径加工の方が、ツール形状や周速に制限が発生するため、仕上げ面の精度を出すのが困難なことが多い。このような穴径の仕上げに本発明の中ぐり工具を用いることで、穴の仕上げ精度をより向上させることができる。
【0015】
請求項4に係る発明では、ツールホルダは、砥石が設けられたアームを周方向に拡径する拡径機構である。縮径することで、ツールホルダの軸方向に複数の砥石を配置しても、シリンダブロックの複数のジャーナル穴の各々に対して砥石を進入せせることができ、1ストロークで複数穴を同時加工することができるので、加工サイクルタイムの短縮を図ることができる。
加えて、拡径機構により径を調整するので、1つの中ぐり工具で大きさの異なる内径の仕上げ加工に対応することができる。そのため、複数の中ぐり工具を必要とせず、中ぐり工具のコストダウンを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1に係る中ぐり工具の断面図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】実施例1に係る中ぐり工具と被研削物の位置関係を説明する図である。
【図4】実施例1に係る円筒内面部の加工方法を説明する図である。
【図5】実施例2に係る中ぐり工具の断面図である。
【図6】実施例2に係る中ぐり工具の斜視図である。
【図7】図6の7−7線断面図である。
【図8】実施例2に係る内ぐり工具を適用した研削装置の断面図である。
【図9】実施例2に係る円筒内面部の加工方法を説明する図である。
【図10】拡径機構の別形態を説明する図である。
【図11】従来技術に係る切削装置の断面図である。
【図12】従来技術に係る中ぐり工具の断面図である。
【図13】従来技術に係る円筒内面部の加工方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例1】
【0018】
先ず、本発明の実施例1を図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、中ぐり工具10は、筒状を呈するツールホルダとしての回転ベース11と、この回転ベース10の外周12の周方向に略等ピッチで設けられた砥石13とからなる。
中ぐり工具10を、矢印(7)のように回転させることで、被研削物14の円筒内面部15を研削する。
なお、実施例では砥石13の列を3列にしたが、これに限定されず、4列、5列など被研削物14の材質や大きさに合わせて適宜変更しても差し支えない。また、砥石13の高さは揃っている。また、略等ピッチとは、若干ピッチが異なる場合も含み、砥石13のピッチを若干変えることで、切削時のいわゆるビビリ等を軽減させることができる。さらに、砥石13をツールホルダ11の軸方向にずらして配置しても差し支えない。
【0019】
次に砥石13を断面図に基づいて説明する。
図2に示されるように、砥石13は、母材16の面17に、複数の砥粒21が単層に整列配置され電着または接着剤22で固定されている。
なお、実施例では、図面上で見やすくするために砥石13を誇張表現して砥粒21の数を11個としたが、これに限定されず、20個、30個など、被研削物14の材質や大きさに合わせて複数個配置されてあれば適宜変更しても差し支えない。
【0020】
次に中ぐり工具10を被研削物14に進入させる前の状態を説明する。
図3に示されるように、回転ベース11の外径はD1であり、中ぐり工具10の外径は2Dである。加工前の被研削物14の円筒内面部15の内径はd3である。D1<d3<D2の関係が成立する。また中ぐり工具10の軸23と、円筒内面部の中心線24とは一致している。
【0021】
以上の述べた中ぐり工具10を使用した円筒内面部の加工方法を次に説明する。
図4(a)は中ぐり工具を準備する工程を説明する図であり、中ぐり工具10の軸23と円筒内面部15の中心線24が一致するように、被研削物14に対して中ぐり工具10を配置する。中ぐり工具10を矢印(8)のように回転させ、矢印(9)の方向に前進させる。
【0022】
図4(b)は研削する工程を説明する図であり、中ぐり工具10を被研削物14の所定の位置まで進入させて円筒内面部15を研削する。次に(c)に示されるように、中ぐり工具10を、矢印(11)の方向に後退させる。(d)に示されるように、中ぐり工具10をさらに矢印(12)の方向に移動させることで、被研削物14を取り出すことができる。
【0023】
以上に述べた内容をまとめて以下に記載する。
図4に示されるように、円筒内面部の加工方法は、単層砥粒21を整列配置した砥石13を筒状のツールホルダ11の周方向に略等ピッチで複数列設けた中ぐり工具10を準備する工程と、中ぐり工具10を被研削物14の円筒内面部15に進入させて研削する工程と、からなる。
【0024】
この工程により、砥石13がツールホルダ11の周方向に等ピッチで配置されているので、周方向から軸の中心に向けてバランス良く力を受け、ツールホルダ11が撓むことがなく円筒内面部15をバランス良く研削でき、容易に加工精度を向上させることができる。
加えて、砥石13は、バイトに比較して多くの刃を用いることができ、切削抵抗を分散し精度良好な加工形状及び面性状を得ることができる。さらに工具寿命の延長及びメンテナンスの工数を低減することができる。
【0025】
図2に示されるように、筒状のツールホルダ11の外周12に砥石13が設けられている中ぐり工具10において、砥石13は、母材16と、この母材16の面17に設けられ整列配置されている単層砥粒21とからなり、砥石13は、図1に示すツールホルダ11の周方向に略等ピッチで複数列設けられている。
【0026】
この構成により、砥石13がツールホルダ11の周方向に略等ピッチで配置されているので、周方向から軸の中心に向けてバランス良く力を受け、ツールホルダ11が撓むことがなく円筒内面部15をバランス良く研削でき、容易に加工精度を向上させることができる。
加えて、単層の砥石13を用いることで描く砥粒の突き出しを大きくできる上に、整列配置した砥粒によりワーク(被研削物)14を切削する刃をバイトに比べて多く設けることができ、切削抵抗を分散し摩耗を抑制することで加工精度の向上と工具寿命の延長、さらにはメンテナンス工数の低減をすることができる。
さらに、一般的に外径加工より内径加工の方が、ツール形状や周速に制限が発生するため、仕上げ面の精度を出すのが困難なことが多い。このような穴径の仕上げに本発明の中ぐり工具10を用いることで、穴の仕上げ精度をより向上させることができる。
【実施例2】
【0027】
次に、本発明の実施例2を図面に基づいて説明する。なお、図1に示した構成と同一構成については同一符号を付け、詳細説明は省略する。
図5に示されるように、中ぐり工具30は、ツールホルダとしての拡径機構11と、この拡径機構11の周方向に略等ピッチで複数列設けた砥石13とからなる。
砥石13は、母材16の面17に、複数の砥粒21が単層に整列配置され電着または接接着されている。
なお、砥粒21の列は3列としたが、これに限定されず、1列、2列、5列等であっても差し支えない。
【0028】
拡径機構11は、保持ベース31と、この保持ベース31に揺動可能に設けられ先端部に砥石13を有する複数のアーム32と、これらアーム32に設けられ保持ベース31の軸と平行に形成された溝33と、アーム32を保持ベース31に固定するボルト34と、を備えている。
【0029】
アーム32は、保持ベース31の外周に沿うような形状を呈している。アーム32は、基端側に設けられた取付穴35に挿通されたボルト34を介して保持ベース31に取付けられている。アーム32の先端側に砥石13を取り付けるボルト用のねじ穴(図7、符号36)が設けられており、砥石13はボルトを介してアーム32に取付けられている。
【0030】
アーム32は、ドローバー37の周方向に等間隔に3個設けられているので、回転のバランスが保たれている。さらに、複数の砥石13をドローバー37の周方向に離間して設けても、砥石13を拡径した際、保持ベース31の回転軸と複数の砥石13の研削面とは平行を保つので、研削精度を維持することができる。
【0031】
また、保持ベース31に周方向へ摺動可能なピン38が設けられ、アーム32に調整ビス41が設けられている。ピン38の摺動方向の外側に調整ビス41の下端が接しており、調整ビス41の突出量を変えることでアーム32の位置を調整できる。
なお、実施例ではアーム32を3個としたが、4個、5個でもよく、アーム32を拡径することで研削することができれば、アーム32が複数個あっても差し支えない。また、砥石13の高さは揃っている。また、略等ピッチとは、若干ピッチが異なる場合も含み、砥石13のピッチを若干変えることで、切削時のいわゆるビビリ等を軽減させることができる。さらに、砥石13をツールホルダ11の軸方向にずらして配置しても差し支えない。
【0032】
図6に示されるように、アーム32は、保持ベース31を巻き込むような形態で保持ベース31に設けられている。中ぐり工具10は、被研削物(図1、符号14)の円筒内面部15を1ヵ所加工づつ加工できる、また、軸23方向に中ぐり工具10を複数個連ねることにより、被研削物14の円筒内面部15を複数箇所同時に加工することができる。
【0033】
次に中ぐり工具30を軸方向に沿って切った断面図に基づいて説明する。
図7に示されるように、中ぐり工具30において、保持ベース31の内部にドローバー37が通されている。ドローバー37に、アーム32を保持ベース31の径方向に拡径または縮径するテーパ部42が設けられている。
また、保持ベース31には、径方向に貫通穴43が設けられている。この貫通穴43にピン38が摺動自在に収納されおり、ピン38はテーパ部42に当接している。ドローバー37を軸方向に移動することでピン38が押し上げられる。
【0034】
アーム32にはねじ穴44が設けられており、このねじ穴44に調整ビス41が設けられている。調整ビス41の一端は、ピン38の端部に当接している。
また、保持ベース31には切削油通路45に繋がる噴出孔46が設けられており、切削油通路45からの切削油は噴出孔46から被研削面へ供給される。
なお、符号36は砥石(図6、符号13)を取付けるためのねじ穴である。
【0035】
次に研削装置について説明する。
図8に示されるように、研削装置50は、基台51にモータ52が取付けられ、このモータ52に回転可能にボールネジ53が取付けられ、このボールネジ53によって基台51に移動可能に設けられたテーブル54が移動され、このテーブル54に被研削物としてのシリンダブロック14が固定される。
【0036】
また、基台51に中ぐり工具30の主軸受け55が固定され、この主軸受け55に主軸56が回転可能に設けられ、主軸受け55に主軸56を回転させるスピンドルモータ57が設けられている。主軸56の一端に筒状の保持ベース31が取付けられている。この保持ベース31は、複数の分割された保持ベース31を軸方向に連結して構成される。
【0037】
保持ベース31内及び主軸56内にドローバー37が挿通されており、主軸56の他端にスラストモータ58によって軸方向に移動する引張部材61が設けられ、この引張部材61にドローバー37が連結されている。
【0038】
また、保持ベース31の主軸56の反対側は、支軸受け62に回転可能に保持されている。保持ベース31の先端部に切削油を供給する切削油供給部63が取付けられ、この切削油供給部63から保持ベース31に形成された切削油通路(図7、符号45)に切削油が供給される。
【0039】
基台51に主軸56の軸方向に沿ってレール64が設けられ、このレール64に移動テーブル65が移動可能に設けられ、この移動テーブル65に支軸受け62が支持されている。
また、被研削物14に対応する位置ように、中ぐり工具30が設けられている。
【0040】
以上の述べた研削装置50の作用を次に述べる。
図7に戻って、ドローバー37を図右に移動させ、ピン38を押し上げる。すると、ピン38に当接しているアーム32が溝(図5、符号33)を中心にして開き、砥石13が拡径される。このように、ドローバー37の移動量に応じて、複数の砥石13全ての径方向の突出量が調整される。
また、調整ビス41を回すことで、ピン38とアーム32との距離を調整することで、個々の砥石13の径方向の突出量を調整することもできる。
【0041】
砥石13の突出量の調整後は、図8に示したテーブル54に載置したシリンダブロック14の円筒内面部としてのジャーナル穴15の中心と中ぐり工具30の軸を一致させるようにして、シリンダブロック14をセットする。
そして、中ぐり工具30を縮径させた状態で、各々の砥石13がジャーナル穴15の各々の被研削部の手前の位置にくるまで、中ぐり工具30をジャーナル穴15に進入させる。
【0042】
以上の述べた中ぐり工具30を使用した円筒内面部の加工方法を次に説明する。
図9(a)に示されるように、砥石13を拡径機構11の周方向に縮径させ、中ぐり工具30をジャーナル穴15に進入させる。(進入させる工程)
そして、中ぐり工具30を拡径し、砥石13を矢印(13)の用に移動させる。
【0043】
図9(b)に示されるように、中ぐり工具30を矢印(14)のように回転させながら矢印(15)の方向に送り、中ぐり工具30をシリンダブロック14に対して相対的に移動させる。結果、砥石13によりジャーナル穴15が同時に研削される。(研削する工程)
【0044】
図9(c)に示されるように、砥石13を矢印(16)のように拡径機構11の周方向に縮径させ、中ぐり工具30を矢印(17)の方向に移動させる。これにより、シリンダブロックを取り出すことができる。
さらに必要に応じて中ぐり工具30の挿入前に径を拡張させた状態で矢印(14)のように回転させながら矢印(15)に移動させ、(b)の状態からより径を拡大させて回転させながら矢印(17)に移動させながら加工することも可能である。この方法であれば往復での拡張量を調整することで、粗加工と仕上げ加工を一度の進退で行うことができ、精度の良い加工が可能となる。
【0045】
以上に述べた内容をまとめて以下に記載する。
上記の図9に示されるように、研削する工程は、砥石13をツールホルダ11の周方向に縮径させ、中ぐり工具30をジャーナル穴15に進入させる工程と、砥石13を所定の位置でツールホルダ11の周方向に拡径させ、中ぐり工具30でジャーナル穴15の被研削部を研削する工程と、からなる。
【0046】
この工程により、縮径することで、ツールホルダ11の軸方向に複数の砥石13を配置しても、シリンダブロック13の複数のジャーナル穴15の各々に対して砥石13を進入させることができ、1ストロークで複数穴を同時加工することができるので、加工サイクルタイムの短縮を図ることができる。
【0047】
図5に示されるように、ツールホルダ10は、砥石13が設けられたアーム32を周方向に拡径する拡径機構11である。
【0048】
この構成により、縮径することで、ツールホルダ11の軸方向に複数の砥石13を配置しても、シリンダブロック14の複数のジャーナル穴15の各々に対して砥石13を進入せせることができ、1ストロークで複数穴を同時加工することができるので、加工サイクルタイムの短縮を図ることができる。
加えて、拡径機構1により径を調整するので、1つの中ぐり工具30で大きさの異なる内径の仕上げ加工に対応することができる。そのため、複数の中ぐり工具を必要とせず、中ぐり工具30のコストダウンを図ることができる。
【0049】
次に拡径機構の別形態を説明する。
図10(a)に示されるように、中ぐり工具70は、ツールホルダとしての拡径機構11と、この拡径機構11に周方向へ摺動自在に設けられた砥石13とからなる。砥石13は、母材16及び砥粒21で構成される。
【0050】
拡径機構11は、保持ベース31と、保持ベース31の軸方向に移動自在に設けられたドローバー37と、保持ベース31の軸に沿って設けられた油圧管71と、保持ベース31に設けられドローバー37をガイドするガイド部材72と、このガイド部材72に設けられ油圧管71に貫通して外周方向に延びるシリンダ73と、このシリンダ73に移動自在に設けられ油圧によりドローバー37を押さえ付けるピストン74と、を備える。
【0051】
図10(b)は図10(a)のb−b線断面図であり、保持ベース31の凹部75にドローバー37を包むリテーナ76が外周方向へ移動自在に設けられ、このリテーナ76にボルト77を介して砥石13が取り付けられている。
【0052】
次に別形態に係る拡径機構11の作用を述べる。
図10(a)に示されるように、ドローバー37はテーパ部78を有しており、ドローバー37が図左に移動することで、砥石13の砥石側テーパ部81に接触する。ドローバーの移動量により、砥石13の外周方向へ移動量も決まる。砥石13を任意に移動させた後、油圧管71の油圧を上げるとピストン74がドローバーに押し付けられ固定される。これにより、砥石13の拡径した状態が維持される。
【0053】
尚、本発明に係る中ぐり工具30、70の拡径機構11は、実施の形態に示した拡径機構11に限定されず、砥石13をツールホルダ11の周方向へ拡径できれば、拡径機構11の構造が異なっても差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の円筒内面部の加工方法は、複数の軸穴を同時に加工するシリンダブロックのジャーナル穴の中ぐり加工に好適である。
【符号の説明】
【0055】
10、30、70…中ぐり工具、11…ツールホルダ(回転ベース、拡径機構)、13…砥石、14…被研削物(シリンダブロック、ワーク)、15…円筒内面部(ジャーナル穴)、15…母材、16…母材の面、21…砥粒、32…アーム、50…研削装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、被研削物の内径を加工する中ぐりによる加工技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の軸穴を複数のバイトで同時に中ぐりする技術が知られている(例えば、特許文献1(図1、図2)参照。)。
【0003】
図11は従来技術に係る軸穴加工装置100を説明する図であり、基部101から立ち壁102が立ち上げられ、この立ち壁102に主軸台103が昇降自在に設けられている。主軸台103に設けられた回転軸104がワーク105の軸穴106に挿入され、回転軸103の先端部が軸受け部107に支持されている。ワーク支持部材108にワーク105が水平方向移動可能に支持されている。
図12は回転軸104の断面図であり、回転軸104の円周5ヵ所にバイト109が設けられている。バイト109は円周角20°毎に設けられており、円周上の一部に集中して配置されている。
【0004】
図13は軸穴加工装置100の作用を説明する図であり、(a)に示すように主軸台(図11、符号103)を下降させ、矢印(1)のように回転軸104を軸穴106に挿入する。回転軸104の軸110と、軸穴106の軸111とはずれており、バイト109は軸穴106に接触することなく所定の位置に移動される。回転軸104をワーク105に対して矢印(2)のように相対移動させる。
(b)に示すように、回転軸104を矢印(3)のように回転させ、続けて矢印(4)のように移動させることで、軸穴106を切削することができる。軸穴106の切削後、回転軸104をワーク105に対して矢印(5)のように相対移動させる。さらに回転軸104を矢印(6)のように上昇させてワーク105から抜くことで、ワーク105を取り出すことができる。
【0005】
ところで、バイト109は回転軸104の挿入及び排出時にワーク105への接触を避けるために回転軸104の円周上の一部に集中して設けられており、回転軸104は一方向からのみ力を受けるので、回転軸104は撓み易い。結果、加工精度に悪影響を及ぼす。
すなわち、容易に円筒内面部の内径、面荒さ及び同軸度の精度を向上させることができる加工技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2744874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、容易に円筒内面部の内径、面荒さ及び同軸度の精度を向上させることができる加工技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、単層砥粒を整列配置した砥石を筒状のツールホルダの周方向に略等ピッチで複数列設けた中ぐり工具を準備する工程と、前記中ぐり工具を被研削物の円筒内面部に進入させて研削する工程と、からなることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明では、研削する工程は、砥石をツールホルダの周方向に縮径させ、中ぐり工具を円筒内面部に進入させる工程と、砥石を所定の位置でツールホルダの周方向に拡径させ、中ぐり工具で被研削物を研削する工程と、からなることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、筒状のツールホルダの外周に砥石が設けられている中ぐり工具において、砥石は、母材と、この母材の面に設けられ整列配置されている単層砥粒とからなり、砥石は、ツールホルダの周方向に略等ピッチで複数列設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明では、ツールホルダは、砥石が設けられたアームを周方向に拡径する拡径機構であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、単層砥粒を整列配置した砥石を筒状のツールホルダの周方向に略等ピッチで複数列設けた中ぐり工具を被研削物の円筒内面部に進入させて研削する。砥石がツールホルダの周方向に略等ピッチで配置されているので、周方向から軸の中心に向けてバランス良く力を受け、ツールホルダが撓むことがなく円筒内面部をバランス良く研削でき、容易に加工精度を向上させることができる。
加えて、単層の砥石を用いることで描く砥粒の突き出しを大きくできる上に、整列配置した砥粒によりワークを切削する刃をバイトに比べて多く設けることができ、切削抵抗を分散し摩耗を抑制することで加工精度の向上と工具寿命の延長、さらにはメンテナンス工数の低減をすることができる。
【0013】
請求項2に係る発明では、研削する工程は、砥石をツールホルダの周方向に縮径させ、中ぐり工具を円筒内面部に進入させ、砥石を所定の位置でツールホルダの周方向に拡径させ、中ぐり工具で被研削物を研削する。縮径することで、ツールホルダの軸方向に複数の砥石を配置しても、シリンダブロックの複数のジャーナル穴の各々に対して砥石を進入せせることができ、1ストロークで複数穴を同時加工することができるので、加工サイクルタイムの短縮を図ることができる。
【0014】
請求項3に係る発明では、砥石は、母材と、この母材の面に設けられ整列配置されている単層砥粒とからなり、砥石は、ツールホルダの周方向に略等ピッチで複数列設けられている。砥石がツールホルダの周方向に略等ピッチで配置されているので、周方向から軸の中心に向けてバランス良く力を受け、ツールホルダが撓むことがなく円筒内面部をバランス良く研削でき、容易に加工精度を向上させることができる。
加えて、単層の砥石を用いることで描く砥粒の突き出しを大きくできる上に、整列配置した砥粒によりワークを切削する刃をバイトに比べて多く設けることができ、切削抵抗を分散し摩耗を抑制することで加工精度の向上と工具寿命の延長、さらにはメンテナンス工数の低減をすることができる。
さらに、一般的に外径加工より内径加工の方が、ツール形状や周速に制限が発生するため、仕上げ面の精度を出すのが困難なことが多い。このような穴径の仕上げに本発明の中ぐり工具を用いることで、穴の仕上げ精度をより向上させることができる。
【0015】
請求項4に係る発明では、ツールホルダは、砥石が設けられたアームを周方向に拡径する拡径機構である。縮径することで、ツールホルダの軸方向に複数の砥石を配置しても、シリンダブロックの複数のジャーナル穴の各々に対して砥石を進入せせることができ、1ストロークで複数穴を同時加工することができるので、加工サイクルタイムの短縮を図ることができる。
加えて、拡径機構により径を調整するので、1つの中ぐり工具で大きさの異なる内径の仕上げ加工に対応することができる。そのため、複数の中ぐり工具を必要とせず、中ぐり工具のコストダウンを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1に係る中ぐり工具の断面図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】実施例1に係る中ぐり工具と被研削物の位置関係を説明する図である。
【図4】実施例1に係る円筒内面部の加工方法を説明する図である。
【図5】実施例2に係る中ぐり工具の断面図である。
【図6】実施例2に係る中ぐり工具の斜視図である。
【図7】図6の7−7線断面図である。
【図8】実施例2に係る内ぐり工具を適用した研削装置の断面図である。
【図9】実施例2に係る円筒内面部の加工方法を説明する図である。
【図10】拡径機構の別形態を説明する図である。
【図11】従来技術に係る切削装置の断面図である。
【図12】従来技術に係る中ぐり工具の断面図である。
【図13】従来技術に係る円筒内面部の加工方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例1】
【0018】
先ず、本発明の実施例1を図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、中ぐり工具10は、筒状を呈するツールホルダとしての回転ベース11と、この回転ベース10の外周12の周方向に略等ピッチで設けられた砥石13とからなる。
中ぐり工具10を、矢印(7)のように回転させることで、被研削物14の円筒内面部15を研削する。
なお、実施例では砥石13の列を3列にしたが、これに限定されず、4列、5列など被研削物14の材質や大きさに合わせて適宜変更しても差し支えない。また、砥石13の高さは揃っている。また、略等ピッチとは、若干ピッチが異なる場合も含み、砥石13のピッチを若干変えることで、切削時のいわゆるビビリ等を軽減させることができる。さらに、砥石13をツールホルダ11の軸方向にずらして配置しても差し支えない。
【0019】
次に砥石13を断面図に基づいて説明する。
図2に示されるように、砥石13は、母材16の面17に、複数の砥粒21が単層に整列配置され電着または接着剤22で固定されている。
なお、実施例では、図面上で見やすくするために砥石13を誇張表現して砥粒21の数を11個としたが、これに限定されず、20個、30個など、被研削物14の材質や大きさに合わせて複数個配置されてあれば適宜変更しても差し支えない。
【0020】
次に中ぐり工具10を被研削物14に進入させる前の状態を説明する。
図3に示されるように、回転ベース11の外径はD1であり、中ぐり工具10の外径は2Dである。加工前の被研削物14の円筒内面部15の内径はd3である。D1<d3<D2の関係が成立する。また中ぐり工具10の軸23と、円筒内面部の中心線24とは一致している。
【0021】
以上の述べた中ぐり工具10を使用した円筒内面部の加工方法を次に説明する。
図4(a)は中ぐり工具を準備する工程を説明する図であり、中ぐり工具10の軸23と円筒内面部15の中心線24が一致するように、被研削物14に対して中ぐり工具10を配置する。中ぐり工具10を矢印(8)のように回転させ、矢印(9)の方向に前進させる。
【0022】
図4(b)は研削する工程を説明する図であり、中ぐり工具10を被研削物14の所定の位置まで進入させて円筒内面部15を研削する。次に(c)に示されるように、中ぐり工具10を、矢印(11)の方向に後退させる。(d)に示されるように、中ぐり工具10をさらに矢印(12)の方向に移動させることで、被研削物14を取り出すことができる。
【0023】
以上に述べた内容をまとめて以下に記載する。
図4に示されるように、円筒内面部の加工方法は、単層砥粒21を整列配置した砥石13を筒状のツールホルダ11の周方向に略等ピッチで複数列設けた中ぐり工具10を準備する工程と、中ぐり工具10を被研削物14の円筒内面部15に進入させて研削する工程と、からなる。
【0024】
この工程により、砥石13がツールホルダ11の周方向に等ピッチで配置されているので、周方向から軸の中心に向けてバランス良く力を受け、ツールホルダ11が撓むことがなく円筒内面部15をバランス良く研削でき、容易に加工精度を向上させることができる。
加えて、砥石13は、バイトに比較して多くの刃を用いることができ、切削抵抗を分散し精度良好な加工形状及び面性状を得ることができる。さらに工具寿命の延長及びメンテナンスの工数を低減することができる。
【0025】
図2に示されるように、筒状のツールホルダ11の外周12に砥石13が設けられている中ぐり工具10において、砥石13は、母材16と、この母材16の面17に設けられ整列配置されている単層砥粒21とからなり、砥石13は、図1に示すツールホルダ11の周方向に略等ピッチで複数列設けられている。
【0026】
この構成により、砥石13がツールホルダ11の周方向に略等ピッチで配置されているので、周方向から軸の中心に向けてバランス良く力を受け、ツールホルダ11が撓むことがなく円筒内面部15をバランス良く研削でき、容易に加工精度を向上させることができる。
加えて、単層の砥石13を用いることで描く砥粒の突き出しを大きくできる上に、整列配置した砥粒によりワーク(被研削物)14を切削する刃をバイトに比べて多く設けることができ、切削抵抗を分散し摩耗を抑制することで加工精度の向上と工具寿命の延長、さらにはメンテナンス工数の低減をすることができる。
さらに、一般的に外径加工より内径加工の方が、ツール形状や周速に制限が発生するため、仕上げ面の精度を出すのが困難なことが多い。このような穴径の仕上げに本発明の中ぐり工具10を用いることで、穴の仕上げ精度をより向上させることができる。
【実施例2】
【0027】
次に、本発明の実施例2を図面に基づいて説明する。なお、図1に示した構成と同一構成については同一符号を付け、詳細説明は省略する。
図5に示されるように、中ぐり工具30は、ツールホルダとしての拡径機構11と、この拡径機構11の周方向に略等ピッチで複数列設けた砥石13とからなる。
砥石13は、母材16の面17に、複数の砥粒21が単層に整列配置され電着または接接着されている。
なお、砥粒21の列は3列としたが、これに限定されず、1列、2列、5列等であっても差し支えない。
【0028】
拡径機構11は、保持ベース31と、この保持ベース31に揺動可能に設けられ先端部に砥石13を有する複数のアーム32と、これらアーム32に設けられ保持ベース31の軸と平行に形成された溝33と、アーム32を保持ベース31に固定するボルト34と、を備えている。
【0029】
アーム32は、保持ベース31の外周に沿うような形状を呈している。アーム32は、基端側に設けられた取付穴35に挿通されたボルト34を介して保持ベース31に取付けられている。アーム32の先端側に砥石13を取り付けるボルト用のねじ穴(図7、符号36)が設けられており、砥石13はボルトを介してアーム32に取付けられている。
【0030】
アーム32は、ドローバー37の周方向に等間隔に3個設けられているので、回転のバランスが保たれている。さらに、複数の砥石13をドローバー37の周方向に離間して設けても、砥石13を拡径した際、保持ベース31の回転軸と複数の砥石13の研削面とは平行を保つので、研削精度を維持することができる。
【0031】
また、保持ベース31に周方向へ摺動可能なピン38が設けられ、アーム32に調整ビス41が設けられている。ピン38の摺動方向の外側に調整ビス41の下端が接しており、調整ビス41の突出量を変えることでアーム32の位置を調整できる。
なお、実施例ではアーム32を3個としたが、4個、5個でもよく、アーム32を拡径することで研削することができれば、アーム32が複数個あっても差し支えない。また、砥石13の高さは揃っている。また、略等ピッチとは、若干ピッチが異なる場合も含み、砥石13のピッチを若干変えることで、切削時のいわゆるビビリ等を軽減させることができる。さらに、砥石13をツールホルダ11の軸方向にずらして配置しても差し支えない。
【0032】
図6に示されるように、アーム32は、保持ベース31を巻き込むような形態で保持ベース31に設けられている。中ぐり工具10は、被研削物(図1、符号14)の円筒内面部15を1ヵ所加工づつ加工できる、また、軸23方向に中ぐり工具10を複数個連ねることにより、被研削物14の円筒内面部15を複数箇所同時に加工することができる。
【0033】
次に中ぐり工具30を軸方向に沿って切った断面図に基づいて説明する。
図7に示されるように、中ぐり工具30において、保持ベース31の内部にドローバー37が通されている。ドローバー37に、アーム32を保持ベース31の径方向に拡径または縮径するテーパ部42が設けられている。
また、保持ベース31には、径方向に貫通穴43が設けられている。この貫通穴43にピン38が摺動自在に収納されおり、ピン38はテーパ部42に当接している。ドローバー37を軸方向に移動することでピン38が押し上げられる。
【0034】
アーム32にはねじ穴44が設けられており、このねじ穴44に調整ビス41が設けられている。調整ビス41の一端は、ピン38の端部に当接している。
また、保持ベース31には切削油通路45に繋がる噴出孔46が設けられており、切削油通路45からの切削油は噴出孔46から被研削面へ供給される。
なお、符号36は砥石(図6、符号13)を取付けるためのねじ穴である。
【0035】
次に研削装置について説明する。
図8に示されるように、研削装置50は、基台51にモータ52が取付けられ、このモータ52に回転可能にボールネジ53が取付けられ、このボールネジ53によって基台51に移動可能に設けられたテーブル54が移動され、このテーブル54に被研削物としてのシリンダブロック14が固定される。
【0036】
また、基台51に中ぐり工具30の主軸受け55が固定され、この主軸受け55に主軸56が回転可能に設けられ、主軸受け55に主軸56を回転させるスピンドルモータ57が設けられている。主軸56の一端に筒状の保持ベース31が取付けられている。この保持ベース31は、複数の分割された保持ベース31を軸方向に連結して構成される。
【0037】
保持ベース31内及び主軸56内にドローバー37が挿通されており、主軸56の他端にスラストモータ58によって軸方向に移動する引張部材61が設けられ、この引張部材61にドローバー37が連結されている。
【0038】
また、保持ベース31の主軸56の反対側は、支軸受け62に回転可能に保持されている。保持ベース31の先端部に切削油を供給する切削油供給部63が取付けられ、この切削油供給部63から保持ベース31に形成された切削油通路(図7、符号45)に切削油が供給される。
【0039】
基台51に主軸56の軸方向に沿ってレール64が設けられ、このレール64に移動テーブル65が移動可能に設けられ、この移動テーブル65に支軸受け62が支持されている。
また、被研削物14に対応する位置ように、中ぐり工具30が設けられている。
【0040】
以上の述べた研削装置50の作用を次に述べる。
図7に戻って、ドローバー37を図右に移動させ、ピン38を押し上げる。すると、ピン38に当接しているアーム32が溝(図5、符号33)を中心にして開き、砥石13が拡径される。このように、ドローバー37の移動量に応じて、複数の砥石13全ての径方向の突出量が調整される。
また、調整ビス41を回すことで、ピン38とアーム32との距離を調整することで、個々の砥石13の径方向の突出量を調整することもできる。
【0041】
砥石13の突出量の調整後は、図8に示したテーブル54に載置したシリンダブロック14の円筒内面部としてのジャーナル穴15の中心と中ぐり工具30の軸を一致させるようにして、シリンダブロック14をセットする。
そして、中ぐり工具30を縮径させた状態で、各々の砥石13がジャーナル穴15の各々の被研削部の手前の位置にくるまで、中ぐり工具30をジャーナル穴15に進入させる。
【0042】
以上の述べた中ぐり工具30を使用した円筒内面部の加工方法を次に説明する。
図9(a)に示されるように、砥石13を拡径機構11の周方向に縮径させ、中ぐり工具30をジャーナル穴15に進入させる。(進入させる工程)
そして、中ぐり工具30を拡径し、砥石13を矢印(13)の用に移動させる。
【0043】
図9(b)に示されるように、中ぐり工具30を矢印(14)のように回転させながら矢印(15)の方向に送り、中ぐり工具30をシリンダブロック14に対して相対的に移動させる。結果、砥石13によりジャーナル穴15が同時に研削される。(研削する工程)
【0044】
図9(c)に示されるように、砥石13を矢印(16)のように拡径機構11の周方向に縮径させ、中ぐり工具30を矢印(17)の方向に移動させる。これにより、シリンダブロックを取り出すことができる。
さらに必要に応じて中ぐり工具30の挿入前に径を拡張させた状態で矢印(14)のように回転させながら矢印(15)に移動させ、(b)の状態からより径を拡大させて回転させながら矢印(17)に移動させながら加工することも可能である。この方法であれば往復での拡張量を調整することで、粗加工と仕上げ加工を一度の進退で行うことができ、精度の良い加工が可能となる。
【0045】
以上に述べた内容をまとめて以下に記載する。
上記の図9に示されるように、研削する工程は、砥石13をツールホルダ11の周方向に縮径させ、中ぐり工具30をジャーナル穴15に進入させる工程と、砥石13を所定の位置でツールホルダ11の周方向に拡径させ、中ぐり工具30でジャーナル穴15の被研削部を研削する工程と、からなる。
【0046】
この工程により、縮径することで、ツールホルダ11の軸方向に複数の砥石13を配置しても、シリンダブロック13の複数のジャーナル穴15の各々に対して砥石13を進入させることができ、1ストロークで複数穴を同時加工することができるので、加工サイクルタイムの短縮を図ることができる。
【0047】
図5に示されるように、ツールホルダ10は、砥石13が設けられたアーム32を周方向に拡径する拡径機構11である。
【0048】
この構成により、縮径することで、ツールホルダ11の軸方向に複数の砥石13を配置しても、シリンダブロック14の複数のジャーナル穴15の各々に対して砥石13を進入せせることができ、1ストロークで複数穴を同時加工することができるので、加工サイクルタイムの短縮を図ることができる。
加えて、拡径機構1により径を調整するので、1つの中ぐり工具30で大きさの異なる内径の仕上げ加工に対応することができる。そのため、複数の中ぐり工具を必要とせず、中ぐり工具30のコストダウンを図ることができる。
【0049】
次に拡径機構の別形態を説明する。
図10(a)に示されるように、中ぐり工具70は、ツールホルダとしての拡径機構11と、この拡径機構11に周方向へ摺動自在に設けられた砥石13とからなる。砥石13は、母材16及び砥粒21で構成される。
【0050】
拡径機構11は、保持ベース31と、保持ベース31の軸方向に移動自在に設けられたドローバー37と、保持ベース31の軸に沿って設けられた油圧管71と、保持ベース31に設けられドローバー37をガイドするガイド部材72と、このガイド部材72に設けられ油圧管71に貫通して外周方向に延びるシリンダ73と、このシリンダ73に移動自在に設けられ油圧によりドローバー37を押さえ付けるピストン74と、を備える。
【0051】
図10(b)は図10(a)のb−b線断面図であり、保持ベース31の凹部75にドローバー37を包むリテーナ76が外周方向へ移動自在に設けられ、このリテーナ76にボルト77を介して砥石13が取り付けられている。
【0052】
次に別形態に係る拡径機構11の作用を述べる。
図10(a)に示されるように、ドローバー37はテーパ部78を有しており、ドローバー37が図左に移動することで、砥石13の砥石側テーパ部81に接触する。ドローバーの移動量により、砥石13の外周方向へ移動量も決まる。砥石13を任意に移動させた後、油圧管71の油圧を上げるとピストン74がドローバーに押し付けられ固定される。これにより、砥石13の拡径した状態が維持される。
【0053】
尚、本発明に係る中ぐり工具30、70の拡径機構11は、実施の形態に示した拡径機構11に限定されず、砥石13をツールホルダ11の周方向へ拡径できれば、拡径機構11の構造が異なっても差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の円筒内面部の加工方法は、複数の軸穴を同時に加工するシリンダブロックのジャーナル穴の中ぐり加工に好適である。
【符号の説明】
【0055】
10、30、70…中ぐり工具、11…ツールホルダ(回転ベース、拡径機構)、13…砥石、14…被研削物(シリンダブロック、ワーク)、15…円筒内面部(ジャーナル穴)、15…母材、16…母材の面、21…砥粒、32…アーム、50…研削装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層砥粒を整列配置した砥石を筒状のツールホルダの周方向に略等ピッチで複数列設けた中ぐり工具を準備する工程と、
前記中ぐり工具を被研削物の円筒内面部に進入させて研削する工程と、
からなることを特徴とする円筒内面部の加工方法。
【請求項2】
前記研削する工程は、前記砥石を前記ツールホルダの周方向に縮径させ、前記中ぐり工具を前記円筒内面部に進入させる工程と、
前記砥石を所定の位置で前記ツールホルダの周方向に拡径させ、前記中ぐり工具で被研削物を研削する工程と、
からなることを特徴とする請求項1記載の円筒内面部の加工方法。
【請求項3】
筒状のツールホルダの外周に砥石が設けられている中ぐり工具において、
前記砥石は、母材と、この母材の面に設けられ整列配置されている単層砥粒とからなり、
前記砥石は、前記ツールホルダの周方向に略等ピッチで複数列設けられていることを特徴とする中ぐり工具。
【請求項4】
前記ツールホルダは、前記砥石が設けられたアームを周方向に拡径する拡径機構であることを特徴とする請求項3記載の中ぐり工具。
【請求項1】
単層砥粒を整列配置した砥石を筒状のツールホルダの周方向に略等ピッチで複数列設けた中ぐり工具を準備する工程と、
前記中ぐり工具を被研削物の円筒内面部に進入させて研削する工程と、
からなることを特徴とする円筒内面部の加工方法。
【請求項2】
前記研削する工程は、前記砥石を前記ツールホルダの周方向に縮径させ、前記中ぐり工具を前記円筒内面部に進入させる工程と、
前記砥石を所定の位置で前記ツールホルダの周方向に拡径させ、前記中ぐり工具で被研削物を研削する工程と、
からなることを特徴とする請求項1記載の円筒内面部の加工方法。
【請求項3】
筒状のツールホルダの外周に砥石が設けられている中ぐり工具において、
前記砥石は、母材と、この母材の面に設けられ整列配置されている単層砥粒とからなり、
前記砥石は、前記ツールホルダの周方向に略等ピッチで複数列設けられていることを特徴とする中ぐり工具。
【請求項4】
前記ツールホルダは、前記砥石が設けられたアームを周方向に拡径する拡径機構であることを特徴とする請求項3記載の中ぐり工具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−86306(P2012−86306A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234855(P2010−234855)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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