説明

円筒容器保持用マンドレル

【課題】スリーブ本体の先端部と円筒容器の開口端部との干渉による削れカスが生じにくく、しかも、円筒容器の挿入に伴う出し入れ時に円筒容器に傷等のダメージを与えない円筒容器保持用マンドレルを安価に提供する。
【解決手段】底部を有する円筒容器Cの内側に挿入してその円筒容器を保持するマンドレルMであって、前記円筒容器に挿入されるスリーブ本体1と、該スリーブ本体の先端部に着脱可能に設けられた先端部材10とを備えるとともに、前記先端部材のうち、少なくとも前記スリーブ本体に挿入された円筒容器の底部の内面と当接する部分の表面に硬質被膜11が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料用容器等の円筒容器の外周面に印刷や塗装を施す際、その円筒容器を保持するための円筒容器保持用マンドレルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の円筒容器保持用マンドレルは、円筒容器の内側に挿入して保持する金属製のスリーブ本体から構成されている。このスリーブ本体は、円筒容器を緊密に挿入して支持するとともに、自由に出し入れできる直径の円筒状を呈している。そして、そのスリーブ本体の長さは、そのスリーブ本体の先端部が円筒容器の底部の内面に当接したときに基端部がその円筒容器から突出する程度に設定されている。
前記スリーブ本体は、円筒容器の出し入れが繰り返されるので摩耗し易く、また、スリーブ本体に円筒容器が挿入される際に、スリーブ本体の先端部と円筒容器の開口端部とが干渉して削れカスに起因する不良が生じるおそれがある。
【0003】
これを防止するために、特許文献1では、スリーブ本体の外周面にダイヤモンドライクカーボン(Diamond Like Carbon;DLC)をコーティングした円筒容器保持用マンドレルが提案されている。また、特許文献2,3には、金属製からなるスリーブ本体の胴部に硬質炭素被膜やダイヤモンド被膜をコーティングしたセラミックスリーブを嵌合した円筒容器保持用マンドレルが提案されている。
【特許文献1】特開平9−294954号公報
【特許文献2】特開2000−61386号公報
【特許文献3】特開平11−19572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の円筒容器保持用マンドレルは、スリーブ本体全体に耐摩耗性の加工が施されているので、コスト高になる欠点があるとともに、スリーブ本体の一部分が摩耗したときでも全体を交換しなければならないという欠点があった。また、スリーブ本体全体が耐摩耗性の硬質に形成されているので、円筒容器の出し入れの摺動時に円筒容器の内壁面に損傷を与えるおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、スリーブ本体の先端部と円筒容器の開口端部との干渉による削れカスが生じにくく、しかも、円筒容器の挿入に伴う出し入れ時に円筒容器に傷等のダメージを与えない円筒容器保持用マンドレルを安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る円筒容器保持用マンドレルは、上記目的を達成するために、底部を有する円筒容器の内側に挿入してその円筒容器を保持するマンドレルであって、スリーブ本体と、前記スリーブ本体の先端部に着脱可能に設けられた先端部材とを備えるとともに、前記先端部材のうち、少なくとも前記スリーブ本体に挿入された円筒容器の底部の内面と当接する部分の表面が前記スリーブ本体表面よりも硬質の材料からなることを特徴とする。
上記構成からなる円筒容器保持用マンドレルは、スリーブ本体に着脱可能な先端部材の表面を硬質の材料から構成したことから、該先端部材に円筒容器の開口端部との干渉が生じても削れカス等が生じにくいとともに、円筒容器の内面全面に硬質な材料のものが接触するのではないので、円筒容器の内面の損傷をも防止することができる。
【0007】
この場合、前記硬質の材料が硬質被膜である構成としてもよい。硬質被膜としては、ダイヤモンドライクカーボンからなる構成とするとよい。
また、前記スリーブ本体は金属製スリーブに合成樹脂製スリーブが被せられている構成としてもよく、より安価に製作することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る円筒容器保持用マンドレルは、スリーブ本体の先端部材にのみ表面が硬質となっているので、先端部材と円筒容器の開口端部とが干渉しても削れカスが生じにくいとともに、円筒容器の内面に傷等の損傷を与えることが少なくなる。また、着脱可能な先端部材にのみ表面を硬質としたことから、安価に提供することができるとともに、先端部材を交換するだけで円筒容器保持用マンドレルを更新することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る円筒容器保持用マンドレルMの上半分を断面にして示した正面図であり、この円筒容器保持用マンドレルMは、缶(円筒容器)Cの外面に印刷を施す際に缶Cを内側から保持するためのもので、スリーブ本体1と、スリーブ本体1の先端に取り付けられた先端部材10とを有している。また、スリーブ本体1は、さらに、アルミニウム合金等からなる筒状の金属製スリーブ2と、その先端部の外周面に被せられた合成樹脂製スリーブ3とから構成されている。このマンドレルMの長さは、その先端部(図示の例では右端部)が缶Cの底部に当接したときに、その先端部と反対側(図示の例では左側)の基端部がその缶Cから突出する程度の寸法に設定されている。
【0010】
前記金属製スリーブ2は、その長さ方向の中央位置よりも先端部側が、基端部部分の直径よりも径が小さい小径部2aに形成されており、この小径部2aに、前記合成樹脂製スリーブ3が嵌合されている。
この合成樹脂製スリーブ3は、例えば、機械的強度、摺動性、表面硬さ等に優れるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂(日本ポリペンコ株式会社製PK−450等)によって形成され、その外径は、缶Cを緊密に挿入して支持するとともに自由に出し入れできるように缶Cの内径よりもわずかに小さい寸法に設定されている。図1中、2bは、合成樹脂製スリーブ3の嵌合のために金属性スリーブ2に設けられたエアー抜穴である。なお、合成樹脂製スリーブ3は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂に代えて、ポリエチレンフタレート(PET)等、所定の硬度を有するとともに、滑性に優れた材質であれば採用することができる。
【0011】
前記先端部材10は、例えば合金鋼(SKD)からなり、スリーブ本体1における金属製スリーブ2の先端部内周に設けられている雌ねじ部2cに螺合することにより、該金属性スリーブ2に着脱可能に取り付けられるようになっている。そして、この先端部材10のうち、缶Cの内面に当接する部分の表面(図1に網掛けで示されている部分)に、ダイヤモンドライクカーボン(以下、「DLC」という。)の硬質被膜11がコーティングされている。
【0012】
図2はこの先端部材10の縦断面図、図3はその先端部材10の右側面図、そして、図4は図2のA部の拡大図である。以下、これら図を用いて、先端部材10を説明する。
この先端部材10は、その中心部分に、スリーブ本体1における金属製スリーブ2の軸心に設けられている中空部2dと連通する中空部12を有しており、全体としてリング状に形成されている。また、その先端部材10の基端側(図1及び図2の例では左端側)の外周には、前記金属性スリーブ2に設けられている雌ねじ部2cと螺合する雄ねじ部13が設けられている。なお、これら雌ねじ部2c及び雄ねじ部13の螺合方向は、缶Cが印刷時に回転する方向と同じ方向に回転したときに締め付ける方向となるように例えば左ねじとされている。
図中、符号14a,14bは、先端部材10の直径線上に間隔を保って設けられた工具孔であって、これら工具孔14a,14bに図示しない工具を装着して先端部材10をスリーブ本体1に取り付け、また、そのスリーブ本体1に取り付けられた先端部材10を取り外すことができるようになっている。
【0013】
前記先端部材10の先端側(図1及び図2の例では右端側)の外周面の形状は、図4に拡大して示したように、缶Cの底部のテーパ部(ボトムチャイムテーパと称される)Cの内面に当接するようにテーパ面10aに形成されている。そして、そのテーパ面10a、つまり先端部材10のうちの缶Cと当接する部分の表面に、上述したDLCからなる硬質被膜11がコーティングされている。
このDLCからなる硬質被膜11は、周知の高周波プラズマCVD法等により形成することができる。すなわち、先端部材10の被膜形成面を除いてマスキングしておき、真空中のアーク放電プラズマで炭化水素ガスを分解し、プラズマ中のイオンや分子を先端部材10に電気的に加速して衝突させることにより、硬質被膜11を形成することができる。この場合、先端部材10に形成させるDLCからなる硬質被膜11の厚さは、例えば1μm〜3μmとされる。図4において、硬質被膜11は、先端部材10の大きさに比べて厚く(大きく)誇張して図示されている。なお、硬質被膜11は、DLC以外に硬質炭素被膜等をコーティングしたものであってもよい。
【0014】
なお、先端部材10と金属製スリーブ2との繋ぎ目は、図示例の場合、缶Cの該当個所で見ると、缶Cの底部のテーパ部(ボトムチャイムテーパ)Cと胴部Cの接合部Cの部分に相当するが、少なくともテーパ部(ボトムチャイムテーパ)Cの中央部までの部分にあることが望ましい。したがって、硬質被膜11も、缶Cの底部からテーパ部Cの中央部までに相当する部分に形成されていることが望ましい。
【0015】
上記構成からなる円筒容器保持用マンドレルMは、通常、上述した特許文献1に示されるように、図示しないターンテーブルの表側の面の外周近くに互いに等間隔を保って複数本回転自在に設けられる。すなわち、各円筒容器保持用マンドレルMの基端部がターンテーブルに回転自在に設けられる。そして、そのターンテーブルの所定の回転位置で円筒容器保持用マンドレルMに缶Cが挿入され、その挿入された缶Cは、円筒容器保持用マンドレルMの中空部2cを真空引きされることによって保持される。
【0016】
円筒容器保持用マンドレルMに保持された缶Cは、ターンテーブルの所定角度の回転により印刷装置のブラケットB(図1参照)と対向する位置に回転させられ、そのブラケットBの押圧回転により缶Cの外周面に所定の印刷がなされる。缶Cへの印刷終了後、ターンテーブルが所定角度回転されて円筒容器保持用マンドレルMから缶Cが外される。
【0017】
上記構成からなる円筒容器保持用マンドレルMは、硬質被膜11を有しないものよりも円筒容器保持用マンドレルMの寿命をほぼ倍増させることができ、円筒容器保持用マンドレルMの交換頻度を低減させることができる。例えば、従来のマンドレルであると、2週間で交換する必要があったが、本実施形態のマンドレルでは寿命が1ヶ月に延びることが確認された。また、スリーブ本体1の先端部に設けられる先端部材10のみにDLCの硬質被膜11が形成されるので、スリーブ本体1の全体に被膜部を形成するよりも安価に製造することができる。さらに、先端部材10がスリーブ本体1に対して着脱自在に設けられるので、先端部材10を交換することで円筒容器保持用マンドレルMを更新することができるという特長を有している。
【0018】
また、上記構成からなる円筒容器保持用マンドレルMは、スリーブ本体1の先端部分が硬質に形成された先端部材10を有しているので、スリーブ本体1の先端部分と缶Cの底部とが干渉しても削れカスが生じにくいのはもちろんである。しかも、硬質被膜11が形成されている先端部材10のテーパ面10aは、缶Cの底部のテーパ部Cの内面に当接する部分であり、この部分は、マンドレルMに缶Cが装着された際に吸引によりマンドレルMに最も強く接触させられる部分である。したがって、このテーパ部Cの内面に当接する部分に硬質被膜11が施されていることにより、先端部材10は優れた耐久性を発揮することができるのである。また、スリーブ本体1の胴体部分も缶Cに接触するが、先端部材10のテーパ面10aに連続する付近は、缶Cでは底部のテーパ部Cに連続する胴部Cの最下部に相当しており、この部分(図4のAで示す部分)は、缶どうしの接触による打痕が生じやすく、したがって、その内面が接触する部分は硬質被膜ではなく、合成樹脂製スリーブ3の方が缶Cに傷等を付け難いので、好ましい。また、スリーブ本体1の胴部分には合成樹脂製スリーブ3が嵌合されているので、缶Cの内壁面に損傷を与えるおそれはない。
【0019】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において変更可能である。例えば、上述の例では、先端部材10の材質を合金鋼としたが、これをセラミックスや硬質プラスチックスとしてもよい。また、硬質被膜11を形成するのではなく、先端部材自体を表面を含めて硬質プラスチックやセラミックス等の硬質の材質によって構成してもよい。さらに、上述の例では、スリーブ本体1が金属製スリーブ2に合成樹脂製スリーブ3を被せてなる構成としたが、スリーブ本体の全部を合成樹脂で一体に製作するか、金属製スリーブに合成樹脂の被覆を設けた構成のものとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施の形態に係る円筒容器保持用マンドレルの上半分を断面して示した正面図である。
【図2】先端部材の縦断面図である。
【図3】先端部材の右側面図である。
【図4】図2のA部の拡大図である。
【符号の説明】
【0021】
M 円筒容器保持用マンドレル
1 スリーブ本体
2 金属製スリーブ
2a 小径部
2b エアー抜穴
2c 雌ねじ部
2d 中空部
3 合成樹脂製スリーブ
10 先端部材
11 硬質被膜
12 中空部
13 雄ねじ部
14a,14b 工具孔
C 缶(円筒容器)
テーパ部(ボトムチャイムテーパ)
B ブラケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部を有する円筒容器の内側に挿入してその円筒容器を保持するマンドレルであって、
前記円筒容器に挿入されるスリーブ本体と、該スリーブ本体の先端部に着脱可能に設けられた先端部材とを備えるとともに、前記先端部材のうち、少なくとも前記スリーブ本体に挿入された円筒容器の底部の内面と当接する部分の表面が前記スリーブ本体表面よりも硬質の材料からなることを特徴とする円筒容器保持用マンドレル。
【請求項2】
前記硬質の材料は、硬質被膜であることを特徴とする請求項1記載の円筒容器保持用マンドレル。
【請求項3】
前記硬質被膜は、ダイヤモンドライクカーボンからなることを特徴とする請求項2記載の円筒容器保持用マンドレル。
【請求項4】
前記スリーブ本体は、金属製スリーブに合成樹脂製スリーブが被せられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の円筒容器保持用マンドレル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−238071(P2008−238071A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83377(P2007−83377)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(305060154)ユニバーサル製缶株式会社 (219)
【Fターム(参考)】