説明

再分散用微細炭素繊維集合塊およびその製造方法

【課題】良好なハンドリング性を有し、かつ各種の分散媒体中に添加した際に容易に微細炭素繊維の孤立分散状態を形成し得る再分散用微細炭素繊維集合塊を得る。
【解決手段】水系分散媒体中に炭素繊維および少なくとも常温下(20±10℃)にて固体である分散剤を添加し、分散媒体中で炭素繊維を孤立分散化させた分散系から分散媒体を除去して得られる、炭素繊維が独立分散性を維持した状態で集合固化していることを特徴とする、再分散用微細炭素繊維集合塊であって、微細炭素繊維の含有量が0.01〜99.5質量%、分散剤の含有量が0.1〜99.5質量%、水分含有量が10質量%未満であり、前記分散剤が、(1)水溶液中で直径が5〜2000nmの球状、棒状又は板状ミセルを形成しうる界面活性剤、(2)重量平均分子量が1万〜5千万である水溶性高分子、および(3)サイクロデキストリンとフラーレンとの組合わせ、から選択されてなるいずれか1つのものであることを特徴とする再分散用炭素繊維集合塊。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孤立分散性微細炭素繊維を固形状に保持してなる再分散用微細炭素繊維集合塊およびその製造方法に関するものである。詳しく述べると、本発明は、良好なハンドリング性を有し、かつ各種の分散媒体中に添加した際に容易に微細炭素繊維の孤立分散状態を形成し得る再分散用微細炭素繊維集合塊およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」とも記する。)に代表されるカーボンナノ構造体などの微細炭素繊維が開発されており、これを各種マトリックス中に配合して複合体を形成し、マトリックスの物性を改良しようとする試みが広く行われている。
【0003】
カーボンナノ構造体を構成するグラファイト層は、通常では規則正しい六員環配列構造を有し、その特異な電気的性質とともに、化学的、機械的および熱的に安定した性質を持つ物質である。従って、マトリックス中に、このような微細炭素繊維を均一かつ安定に分散配合することにより、前記したような物性を生かすことができれば、有望な導電性ないし制電性材料となり得る。
【0004】
しかしながら、一方で、このようなCNT、特に単層カーボンナノチューブ(以下「SWCNT」とも記する)は、構成原子が全て表面原子であるため、隣接するCNT間のファンデルワールス力による凝集が生じやすく、生成時点で既に、複数本のCNTから成る強い凝集(バンドル)構造が形成されてしまうことが知られている。従って、これをそのまま使用すると、皮膜形成成分中において分散が進まず性能不良をきたすおそれがある。
【0005】
また、微細炭素繊維は、非常に嵩密度の低い一種綿状ないしパウダーの凝集物として供給されるため、非常にハンドリング性が悪く、また、使用時に微細な繊維が作業環境雰囲気中に飛散してしまうといった問題をかかえている。
【0006】
このようなハンドリング性の問題を解決するために、微細炭素繊維を各種樹脂中に配合してペレット化ないしはマスターバッチ化して使用しようとする試みも行われている。このようにペレット化ないしマスターバッチ化することによって、確かにハンドリング性は向上するものの、これをさらに樹脂マトリックス等へ希釈配合させた場合には、微細炭素繊維の分散が良好に進行せず、微細炭素繊維がある程度凝集状態でマトリックス中に存在することになってしまうものであった。
【0007】
一方、微細炭素繊維の分散性を改良するための技術としては、種々の研究が進められており、例えば、(1)微細炭素繊維を超音波、各種撹拌装置等の物理的処理によって分散媒体に分散させる方法(例えば、特許文献1等)、(2)微細炭素繊維を化学修飾して分散液を得る方法(例えば、特許文献2等)、(2)カーボンナノチューブを界面活性剤等の各種分散剤を用いて分散させる方法(例えば、特許文献3参照)等各種のものが報告されている。
【0008】
また、上記のような微細炭素繊維の分散性の改良技術の多くは、微細炭素繊維を液状媒体中への分散液の形態で提供するものであるため、前記したような製造されたままの嵩高な綿状ないしパウダー状の形態と比較して、ある程度ハンドリング性も向上する。
【0009】
しかしながら、分散液の形態としても、未だ、そのハンドリング性が十分なものとは言いがたく、また、複合体化するマトリックスの種類によっては、この液状の分散媒体の存在が邪魔となり、分散媒体の除去が必要となってくる局面も生じる。
【0010】
一方、このような微細炭素繊維を用いて、電子放出体などの固状の製品を製造するにおいては、従来、微細炭素繊維を樹脂成分、界面活性剤成分、増粘剤などの成分中に配合分散しペースト状の形態で提供することが広く提案されている(例えば、特許文献4、5等参照)。
【0011】
このような微細炭素樹脂含有ペーストは、ハンドリング性が良好であり、またペースト中においては微細炭素繊維の分散化が図られてはいるものの、当該ペーストは、これを所期の形状に賦形後、そのまま固化させて製品を得ることを目的とするものであって、当該ペーストを再び、分散媒体中等に配合して、微細炭素繊維を再分散化させるといったことは何ら考慮されていない。さらに、実際のところ、このようなペーストにおいて、その系内における微細炭素繊維の分散性を、ペーストの粘稠性をもってある程度維持しているところがあり、このようなペーストを適当な分散媒体中に添加しても、微細炭素繊維の孤立分散性はおろか、かえって凝集性が強くなるといった結果が生じるとも限られないものであった。
【特許文献1】特開2004−256964号公報
【特許文献2】特開2006−265151号公報
【特許文献3】特開2005−263608号公報
【特許文献4】特開2005−122930号公報
【特許文献5】特開2006−182601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明は、良好なハンドリング性を有し、かつ各種の分散媒体中に添加した際に容易に微細炭素繊維の孤立分散状態を形成し得る再分散用微細炭素繊維集合塊およびその製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明は、水系分散媒体中に炭素繊維および少なくとも常温下(20±10℃)にて固体である分散剤を添加し、分散媒体中で炭素繊維を孤立分散化させた分散系から分散媒体を除去して得られる、炭素繊維が孤立分散性を維持した状態で集合固化していることを特徴とする、再分散用微細炭素繊維集合塊であって、
微細炭素繊維の含有量が0.01〜99.5質量%、分散剤の含有量が0.1〜99.5質量%、水分含有量が10質量%未満であり、
前記分散剤が、(1)水溶液中で直径が5〜2000nmの球状、棒状又は板状ミセルを形成しうる界面活性剤、(2)重量平均分子量が1万〜5千万である水溶性高分子、および(3)サイクロデキストリンとフラーレンとの組合わせ、から選択されてなるいずれか1つのものであることを特徴とする再分散用炭素繊維集合塊である。
【0014】
本発明はまた、再分散用炭素繊維集合塊は、ブロック状または顆粒状とされているものである再分散用微細炭素繊維集合塊を示すものである。
【0015】
本発明はまた、前記炭素繊維として、筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層した構造であって、筒を構成するシートが多角形の軸直交断面を有し、該断面の最大径が15〜100nmであり、アスペクト比が10以下で、ラマン分光分析で514nmにて測定されるI/Iが0.1以下であるものを用いることを特徴とする再分散用微細炭素繊維集合塊を示すものである。
【0016】
本発明はさらに、前記炭素繊維として、外径1〜100nmの炭素繊維から構成される炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものであることを特徴とする炭素構造体を用い、孤立分散化させた分散系を形成するにおいて、メディアミルを用いた分散処理を施すことを特徴とする再分散用微細炭素繊維集合塊を示すものである。
【0017】
上記課題を解決する本発明はまた、水系分散媒体中に(A)炭素繊維と、(B)(1)水溶液中で直径が5〜2000nmの球状、棒状又は板状ミセルを形成しうる界面活性剤、(2)重量平均分子量が1万〜5千万である水溶性高分子、並びに(3)サイクロデキストリンおよびフラーレンから選択されてなるいずれか1つからなる分散剤を添加し、分散媒体中で炭素繊維を孤立分散化させた後、分散系から分散媒体を除去し、炭素繊維が孤立分散性を維持した状態で集合固化している微細炭素繊維集合塊を製造することを特徴とする再分散用微細炭素繊維集合塊の製造方法である。
【0018】
本発明はまた、分散系からの分散媒体の除去が、−197〜450℃の温度にて行われるものである再分散用微細炭素繊維集合塊の製造方法を示すものである。
【0019】
本発明はさらに、前記炭素繊維として、外径1〜100nmの炭素繊維から構成される炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものであることを特徴とする炭素構造体を用い、孤立分散化させた分散系を形成するにおいて、メディアミルを用いた分散処理を施すことを特徴とする再分散用微細炭素繊維集合塊の製造方法を示すものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る再分散用微細炭素繊維集合塊においては、上記したように微細炭素繊維が孤立分散性を維持したまま集合固化されているものであるので、非常にハンドリング性が高く、また長期にわたり孤立分散性が安定に維持でき、さらに使用時ないし搬送時等に微細な繊維が作業環境雰囲気中に飛散してしまうといった問題も生じない。さらに各種媒体中に添加することによって、その媒体中で容易かつ迅速に分離し微細炭素繊維を均一分散させることができるものであるので、微細炭素繊維を各種材料に複合化させて製品を得ようとする各種の用途において好適に用いられることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
【0022】
本発明に係る再分散用微細炭素繊維集合塊は、炭素繊維および少なくとも常温下(20±10℃)にて固体である以下に詳述するような分散剤を含有するものである。
【0023】
当該再分散用微細炭素繊維集合塊における、各成分の含有量としては、使用する微細炭素繊維の種類および分散剤の種類によって、多少の差は生じるものの、微細炭素繊維の含有量が0.1〜99.5質量%、より好ましくは20〜80質量%、また、分散剤の含有量が0.1〜99.5質量%、より好ましくは5〜30質量%である。さらに水分含有量としては、実質的にゼロであることが最も望ましいが、固形状の性状を維持し得る限度において、例えば、10質量%未満、より好ましくは5質量%未満の水分は含有していても構わない。
【0024】
本発明の再分散用微細炭素繊維集合塊において含有される分散剤は、それぞれの種類によって、その作用機序は異なるものの、いずれもその分子が各微細炭素繊維の間に位置することによって、微細炭素繊維同士の凝集を阻止し微細炭素繊維の孤立分散状態を安定に保持するものである。
【0025】
なお、本発明に係る再分散用微細炭素繊維集合塊において、これらの分散剤は、例えば、微細炭素繊維と固相において直接混合されたものではなく、自己凝集状態にある微細炭素繊維を孤立分散状に分散させ、その後、その孤立分散状態を保持するように位置させるため、また、ブロック状、顆粒状等の所期の形状を賦形するために、一旦水系分散媒体中に微細炭素繊維と分散剤とを配合し、分散処理をかけて、水系媒体中で微細炭素繊維を孤立分散化させ、その後、この孤立分散状態を保持させたまま分散媒体を除去し固化させることにより得られるものである。
【0026】
以下、本発明をその製造方法を中心として詳述する。
【0027】
炭素繊維分散液
本発明に係る再分散用微細炭素繊維集合塊を製造するにおいては、まず、水系媒体中に、微細炭素繊維を、分散剤の作用により孤立分散状に均一分散ないし溶解保持してなる炭素繊維分散液を調製する。
【0028】
なお、炭素繊維分散液中の炭素繊維の含有量としては、炭素繊維の良好な孤立分散状態が保持される限り限定されるものではなく、例えば、0.01〜95質量%、より好ましくは0.5〜80質量%程度とすることができる。
【0029】
(a)水系媒体
炭素繊維分散液を調製する上で用いられる媒体としては、後述する分散剤との関係から水系のものが用いられる。
【0030】
水系媒体としては、後述するような分散剤が微細炭素繊維に対して有効に作用する系を形成できるものであれば、特に限定されず、水、または水とこれら水混和性有機溶媒との混合溶媒を用いることができる。水混和性の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールといったC〜C程度の低級アルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジオキサン、エチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、ジメチルホルムアミド等を例示することができる。
【0031】
(b)微細炭素繊維
本発明において、水系分散媒体中に分散された後、再分散用微細炭素繊維集合塊中に保持される微細炭素繊維としては、特に限定されるものではないが、主として、炭素の六員環配列構造を有する構造体であって、この構造体の三次元のディメンションのうち少なくとも1つの寸法がナノメートルの領域にある、たとえば、数〜数100nm程度のオーダーを有する、ものが代表的なものである。
【0032】
この炭素の六員環配列構造としては、代表的には、シート状のグラファイト(グラフェンシート)を例示することができ、さらには、たとえば、炭素の六員環に五員環もしくは七員環が組み合わされた構造等をも含むことができる。
【0033】
より具体的には、例えば、一枚のグラフェンシートが筒状に丸まってできる直径数nm程度の単層カーボンナノチューブや、筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層した多層カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブの端部が円錐状で閉じたカーボンナノホーンなどが例示される。さらに、このカーボンナノホーンが直径100nm程度の球状の集合体となったカーボンナノホーン集合体、炭素の六員環配列構造を有するカーボンオニオン等や、炭素の六員環配列構造中に五員環が導入されたフラーレンやナノカプセル等も包含される。これらの微細炭素繊維は、上記したような種類の単独体とすることも、あるいは、2種以上の混合体とすることも可能である。また、本発明においては、このような微細炭素繊維を粉砕処理したものも用いることができる。
【0034】
これら、微細炭素繊維の製造方法としては、触媒金属超微粒子を触媒として炭化水素等の有機化合物をCVD法で化学分解させ、生成炉内の微細炭素繊維核、中間生成物及び生成物である繊維の滞留時間を短くして繊維(以下、中間体又は第1の中間体という)を得た上で、高温熱処理することが、好ましい微細炭素繊維を製造する好適な方法である。
【0035】
これらの微細炭素繊維を得るため、具体的には、触媒の遷移金属または遷移金属化合物および硫黄または硫黄化合物の混合物と、原料炭化水素を雰囲気ガスとともに300℃以上に加熱してガス化して生成炉に入れ、800〜1300℃、好ましくは1000〜1300℃の範囲の一定温度で加熱して触媒金属の微粒子生成の改善と炭化水素の分解により微細炭素繊維を合成する。生成した炭素繊維(中間体又は第1の中間体)は、未反応原料、非繊維状炭化物、タール分および触媒金属を含んでいる。
【0036】
次に、中間体(第1の中間体)を圧縮成形することなく、粉体のままで1段または2段で高温熱処理する。1段で行う場合は、中間体を雰囲気ガスとともに熱処理炉に送り、まず800〜1200℃の範囲の温度(好ましくは一定温度)に加熱して未反応原料やタール分などの揮発分を気化して除き、その後2400〜3000℃の範囲の温度(好ましくは一定温度)で繊維の多層構造の形成を改善すると同時に繊維に含まれる触媒金属を蒸発させて除去し、精製された微細炭素繊維を得る。
【0037】
高温熱処理を2段で行う場合は、第1の中間体を雰囲気ガスとともに800〜1200℃の範囲の温度(好ましくは一定温度)に加熱保持された第1の熱処理炉に送り、未反応原料やタール分などの揮発分を気化して除いた微細炭素繊維(以下、第2の中間体という。)を得る。次に、第2の中間体を第2の2400〜3000℃の範囲の温度(好ましくは一定温度)に加熱保持された第2の熱処理炉に雰囲気ガスとともに送り、繊維の多層構造の形成を改善すると同時に触媒金属を蒸発させて除去し、精製微細炭素繊維とする。第2の熱処理炉における第2の中間体の加熱時間が、5〜25分、前記第2の加熱炉において、前記第2の中間体の嵩密度が5〜20kg/m未満、好ましくは5kg/m以上、15kg/m未満となるように調整することが望ましい。中間体の嵩密度が5kg/m未満であると、粉体の流動性が悪く熱処理効率が低下するためであり、中間体の嵩密度が20kg/m以上であると熱処理効率は良いが、樹脂混合時の分散性が悪いためである。
【0038】
また、生成炉は、縦型、高温熱処理炉は縦型でも横型でもよいが、中間体を降下させることができる縦型が望ましい。
【0039】
以上の製法において、原料有機化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素、一酸化炭素(CO)、エタノール等のアルコール類などが使用できる。雰囲気ガスには、アルゴン、ヘリオム、キセノン等の不活性ガスや水素を用いることができる。
【0040】
また、触媒としては、鉄、コバルト、モリブデンなどの遷移金属あるいはフェロセン、酢酸金属塩などの遷移金属化合物と硫黄あるいはチオフェン、硫化鉄などの硫黄化合物の混合物を使用する。
【0041】
以上の製法によれば、筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層した構造の繊維状物質において、筒を構成するシートが多角形の軸直交断面を有し、該断面の最大径が15〜100nmであり、アスペクト比が10以下で、ラマン分光分析で514nmにて測定されるI/Iが0.1以下である微細炭素繊維を得ることができる。
【0042】
この微細炭素繊維によれば、ラマン分光分析にて検出されるDバンドが小さくグラフェンシート内の欠陥が少ない微細炭素繊維を得ることができ、また、炭素繊維の軸直交断面が多角形状となり、積層方向および炭素繊維を構成するグラフェンシートの面方向の両方において緻密で欠陥の少ないものとなるため、曲げ剛性(EI)が向上し、結果、凝集し難く、分散剤として用いる用途において、好ましい微細炭素繊維を得ることができる。
【0043】
なお、本発明に用いられる微細炭素繊維として更に好ましい微細炭素繊維としては、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものが挙げられる。
【0044】
この炭素繊維構造体を得るにおいては、上記した製法に加え、炭素源として、分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることが望まれる。なお、ここで述べる「少なくとも2つ以上の炭素化合物」とは、必ずしも原料有機化合物として2種以上のものを使用するというものではなく、原料有機化合物としては1種のものを使用した場合であっても、繊維構造体の合成反応過程において、例えば、トルエンやキシレンの水素脱アルキル化(hydrodealkylation)などのような反応を生じて、その後の熱分解反応系においては分解温度の異なる2つ以上の炭素化合物となっているような態様も含むものである。
【0045】
原料となる炭化水素の熱分解反応は、主として触媒粒子ないしこれを核として成長した粒状体表面において生じ、分解によって生じた炭素の再結晶化が当該触媒粒子ないし粒状体より一定方向に進むことで、繊維状に成長する。しかしながら、上記した炭素繊維構造体を得る上においては、このような熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させる、例えば上記したように炭素源として分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることで、一次元的方向にのみ炭素物質を成長させることなく、粒状体を中心として三次元的に炭素物質を成長させる。もちろん、このような三次元的な炭素繊維の成長は、熱分解速度と成長速度とのバランスにのみ依存するものではなく、触媒粒子の結晶面選択性、反応炉内における滞留時間、炉内温度分布等によっても影響を受け、また、前記熱分解反応と成長速度とのバランスは、上記したような炭素源の種類のみならず、反応温度およびガス温度等によっても影響受けるが、概して、上記したような熱分解速度よりも成長速度の方が速いと、炭素物質は繊維状に成長し、一方、成長速度よりも熱分解速度の方が速いと、炭素物質は触媒粒子の周面方向に成長する。従って、熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させることで、上記したような炭素物質の成長方向を一定方向とすることなく、制御下に多方向として、三次元構造を形成することができるものである。なお、生成する中間体において、繊維相互が粒状体により結合された前記したような三次元構造を容易に形成する上では、触媒等の組成、反応炉内における滞留時間、反応温度、およびガス温度等を最適化することが望ましい。
【0046】
さらに、特に限定されるわけではないが、この粒状部の粒径は、前記微細炭素繊維の外径よりも大きいことが望ましい。このように炭素繊維相互の結合点である粒状部の粒径が十分に大きなものであると、当該粒状部より延出する炭素繊維に対して高い結合力がもたらされ、樹脂等のマトリックス中に当該炭素繊維構造体を配した場合に、ある程度のせん弾力を加えた場合であっても、3次元的な構造を保持したままマトリックス中に分散させることができる。なお、本明細書でいう「粒状部の粒径」とは、炭素繊維相互の結合点である粒状部を1つの粒子とみなして測定した値である。
【0047】
この炭素繊維構造体によれば、再分散用炭素繊維集合塊を得るにおいて、疎な構造を有したまま、分散媒体中に存在せしめることができるため、分散媒体中における炭素繊維構造体の孤立分散化が容易となる。
【0048】
(c)分散剤
本発明に係る再分散用微細炭素繊維集合塊を製造するにおいて、水系媒体中に配合され、かつ本発明に係る再分散用微細炭素繊維集合塊において、各微細炭素繊維相互を凝集させることなく孤立分散状に保持するために含有される分散剤は、少なくとも常温下(20±10℃)にて固体であるものであって、(1)水溶液中で直径が50〜2000nmの球状、棒状又は板状ミセルを形成しうる界面活性剤、(2)重量平均分子量が1万〜5千万である水溶性高分子、および(3)サイクロデキストリンとフラーレンとの組合わせのうちから選ばれたいずれかのものである。
【0049】
これらの分散剤は、それぞれの種類によって、その作用機序は異なるものの、いずれもその分子が各微細炭素繊維の間に位置することによって、微細炭素繊維同士の凝集を阻止し微細炭素繊維の孤立分散状態を安定に保持するものである。
【0050】
(1)ミセルタイプおよび(2)擬似ミセルタイプ
本発明において用いられる第1の好ましい分散剤は、(1)水溶液中で直径が5〜2000nmの球状、棒状又は板状ミセルを形成しうる界面活性剤(以下、「ミセルタイプ」という)であり、また第2の好ましい分散剤は、(2)重量平均分子量が1万〜5千万である水溶性高分子(以下、「擬似ミセルタイプ」という)を例示である。
【0051】
上記(1)のミセルタイプに使用される界面活性剤は、水溶液中で直径が5〜2000nm(好適には50〜300nm)の球状、棒状又は板状ミセルを形成しうるものである。この大きさのミセル(小胞体)が好適である理由は定かでないが、現時点では、以下のような理由ではないかと推察している。例えば、カーボンナノチューブの場合、その長さは、通常、100〜1000nmの範囲にある。そして、当該界面活性剤(ミセルタイプ)を含有する水溶液中で、カーボンナノチューブは、数分の一程度(例えば四分の一程度)の長さに折り畳まれ、その結果、溶液中では数十nm〜数百nmの長さになる。恐らく、上記のサイズが、この折り畳まれたカーボンナノチューブを小胞体内に収納するのに丁度良く、結果、カーボンナノチューブを効率的に可溶化できるためと理解される。また、他の微細炭素繊維についても同様の作用機序でミセル内に格納されるものと推定される。そして、このような各微細炭素繊維が界面活性剤分子に覆われた状態は、分散媒体を除去しても維持され、固相内では、一の微細炭素繊維を囲繞する界面活性剤分子と、他の微細炭素繊維を囲繞する界面活性剤分子とが相互に静電的に引き合うことにより凝固している状態となっているが、微細炭素繊維同士はこれら界面活性剤分子が間に介在することによって孤立分散状態を保っており、再び、分散媒体中に投入すると、微細炭素繊維は容易に系内に均一分散するものである。なお(2)の擬似ミセルタイプの水溶性高分子の場合においても、同様の作用機序により孤立分散化が図られると思われる。
【0052】
尚、従来これらのもの以外の界面活性剤を添加する技術は知られている(例えば、特開2002−255528号参照)が、それにより形成されるミセルは、0.1nm程度と非常に小さいものであり、そのミセル表面にカーボンナノチューブが付着するという原理である。上記した好適なタイプは、ミセル表面でなく、ミセル(小胞体)の内部にナノカーボン(例えばカーボンナノチューブ)を格納するという新規な着想に基づくものである。
【0053】
なお、本明細書にいう「ミセル」(「小胞体」)とは、界面活性剤により形成されたミセルであって、球状、棒状又は板状のような収納空間を持つものをいう。例えば、リン脂質系界面活性剤の場合には、該小胞体はリポソームといわれる。また、このミセル(小胞体)の直径は、光散乱法に従って測定された値(20℃のpH未調整の水溶液)を指す。
【0054】
界面活性剤の種類は、上記の特性を有するものである限り特に限定されず、例えば、以下で述べるようなリン脂質系界面活性剤及び非リン脂質系活性剤のいずれも用い得る。
【0055】
ここで、「リン脂質系界面活性剤」とは、リン酸基を官能基とする陰イオン性界面活性剤・両性イオン界面活性剤であり、リン脂質(グリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質の両方を含む)及び改質リン脂質(例えば、水素添加リン脂質、リゾリン脂質、酵素変換リン脂質、リゾホスファチジルグリセロール、他の物質との複合体)のいずれでもよい。このようなリン脂質は、生物を構成する細胞の種々の膜系、例えば原形質膜、核膜、小胞体膜、ミトコンドリア膜、ゴルジ体膜、リソソーム膜、葉緑体膜、細菌細胞膜に存在し、好適には、リポソームの調製に用いられるリン脂質が好適である。具体的には、例えば、ホスファチジルコリン{例えば、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトリルホスファチジルコリン(DPPC)}、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロール、リゾホスファチジルコリン、スフィンゴミエリンを挙げることができる。
【0056】
また、2−メタクロイルオキシホスホリルコリン(MPC)とn-ブチメタクリレート(BMA)とのコポリマー等を用いることもできる。
【0057】
また、「非リン脂質系界面活性剤」とは、リン酸基を官能基として含まない非イオン型界面活性剤・両性イオン型界面活性剤であり、3−(N,N−ジメチルステアリルアンモニオ)−プロパンスルホネート、3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアミノ]−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(CHAPSO)、3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアミノ]−プロパンスルホン酸(CHAP)及びN,N−ビス(3−D−グルコナミドプロピル)−コラミドを挙げることができる。また、必要に応じて、その他の界面活性剤、例えば、ドデシル硫酸塩等を併用することも可能である。
【0058】
次に、(2)擬似ミセルタイプにつき説明する。このタイプで使用される水溶性高分子は、重量平均分子量が1万〜5千万(好適には1万〜5百万)であるものである。ここで、重量平均分子量は、プルランを標準としたゲル濾過高速液体クロマトグラフィーにより測定した値に基づくものである。
【0059】
上記の水溶性高分子は、上記の分子量を有するものである限り特に限定されず、例えば、各種の植物性界面活性剤、水溶性多糖類、例えば、アルギン酸類、例えば、アルギン酸、プロピレングリコールアルギネート、アラビアンゴム、キサンタンガム、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、水溶性セルロースないしその塩、エステル等の誘導体類、例えば、酢酸セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、キトサン、キチン;水溶性タンパク質、例えば、ゼラチン、コラーゲン;ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマー;DNAから選ばれる化合物を挙げることができる。
【0060】
ミセルタイプまたは擬似ミセルタイプの分散剤を使用する水溶液系において、分散させようとする微細炭素繊維として粗生成物を用いる場合には、当該分散媒は、その当初においては、微細炭素繊維透過性物質及び酸化剤を更に含有し、かつ、アルカリ性水溶液の形態にあることが好適である。ここで、「当初においては」とは、最終的に皮膜を形成した場合においては、これら成分や状態は必須でないことを意味する。即ち、これら成分や状態は、微細炭素繊維として粗生成物を使用した場合に系内に存在する不必要な成分を除去するために添加・調整されるからである。
【0061】
以下、この好適な態様について説明する。
【0062】
まず、「微細炭素繊維透過性物質」とは、微細炭素繊維のC−C格子サイズより小さい直径を有する物質を意味する。例えば、このような直径(イオン径)を有する微細炭素繊維透過性カチオン、具体的には、リチウムイオンを挙げることができる。但し、水素イオンは、格子サイズより小さいが、オキソニウムイオンの形で水に奪われてしまうため、微細炭素繊維透過性カチオンとしては不適切である。尚、微細炭素繊維透過性物質の役割は、正確なところは明らかではないが、例えば、微細炭素繊維透過性カチオンの場合には、微細炭素繊維内に入り込むことにより、微細炭素繊維内部の電荷状態を変えると共に、微細炭素繊維内部の表面及び内部の不純物を押し出す役割を担うと推察される。
【0063】
この微細炭素繊維透過性物質の含有量は、微細炭素繊維1g用水溶液の場合、水溶液1リットル当たり、好適には0.1〜1molである。
【0064】
次に、酸化剤について説明する。使用可能な酸化剤は、特に限定されないが、過硫酸塩(液中では過硫酸イオン)が好適である。その理由は、過硫酸塩が、アルカリ性で活性が高いことに加え、酸化した後自身は硫酸になるので、後処理が容易であるからである。
【0065】
また、水溶液のpHとしては、特に限定されるものではないが、pHは、6〜14の範囲であること、特に、アルカリ性であることが望ましい。水溶液がこの範囲であることが好適である理由は定かでないが、炭素繊維の表面の電子状態を変えることに加え、カーボンナノチューブの場合には、カーボンナノチューブの表面を柔らかくし、カーボンナノチューブを折り畳む役割を担っていると推察される。尚、ミセルタイプの場合は、pH10〜14の範囲、擬似ミセルタイプの場合は、pH6〜12の範囲がさらに好適である。
【0066】
さらに、擬似ミセルタイプの分散剤として、アルギン酸を用いる場合、アルギン酸は、中性、酸性領域では水に不要であるが、アルカリ性下においては高粘性の水溶液となる。このため、溶媒ないし分散媒により多くのアルギン酸を含有させる必要がある場合にはアルカリ性に保つことは望ましいことである。
【0067】
次に、上記ミセルタイプ及び擬似タイプを分散剤として用いた炭素繊維分散液について説明する。
【0068】
ミセルタイプの場合、水溶液中の界面活性剤の含有量は、小胞体を形成する臨界ミセル濃度以上である必要がある。通常、炭素繊維1g用の水溶液1リットル当たり、0.2〜10mmolである。また、擬似ミセルタイプの場合、水溶性高分子の含有量は特に限定されないが、通常、炭素繊維1g用の水溶液1リットル当たり、5〜50gである。
【0069】
このようなミセルタイプないしは擬似ミセルタイプを含有する水溶液中に、炭素繊維、例えばカーボンナノチューブを投入する。ここで、投入量に関しては特に限定されないが、通常、精製用水溶液1リットルに対し、例えばミセルタイプの場合は炭素繊維1〜5g、擬似ミセルタイプの場合は炭素繊維1〜10g程度が適当である。
【0070】
投入後、ミセルタイプの場合は、炭素繊維、例えばカーボンナノチューブを完全に孤立分散ないし溶解させるため、好適には、最初に超音波で5分程度ほぐす。その後、室温だと6時間程度、60℃に加温すると数分程度で完全に孤立分散ないし溶解する。
【0071】
また、擬似ミセルタイプの場合は、ホモジナイザーで、擬似ミセル形成物質、例えば、アルギン酸ナトリウム、透過剤、例えば、水酸化リチウム、酸化剤、例えば、過硫酸ナトリウム、ナノカーボン及び脱イオン水を含む混合物を十分に拡散分散させた後、40℃で、一日程度、静置する。尚、透過剤や酸化剤を用いない場合には、40℃で1週間程度、静置する。
【0072】
(3)フラーレンのサイクロデキストリン包接体
本発明において用いられる第3の好ましい分散剤は、サイクロデキストリンとフラーレンである。ここで、使用可能なサイクロデキストリンは、グルコース残基の数が6個のα型、7個のβ型、8個のγ型のサイクロデキストリンのいずれでもよく、その他、マルトシルサイクロデキストリン、ジメチルサイクロデキストリン等の分岐サイクロデキストリンや修飾サイクロデキストリン、又はサイクロデキストリンポリマー等も使用可能である。
【0073】
この(3)のタイプの分散剤により微細炭素繊維が孤立分散化するメカニズムは、まず、サイクロデキストリンが疎水性のフラーレンを包接し、次に当該包接体の表面の疎水性のフラーレンが、疎水性の微細炭素繊維と親和力に基づき結合するためと考えられる。フラーレンのサイクロデキストリン包接体が微細炭素繊維に結合することで、凝集する微細炭素繊維同士が引き離され、孤立分散化する。そして、このような各微細炭素繊維がフラーレンのサイクロデキストリン包接体に結合した状態は、分散媒体を除去しても維持され、固相内では、一の微細炭素繊維に結合するフラーレンのサイクロデキストリン包接体の表面のサイクロデキストリンと、他の微細炭素繊維に結合するフラーレンのサイクロデキストリン包接体の表面のサイクロデキストリンとが相互に静電的に引き合うことにより凝固している状態となっているが、微細炭素繊維同士はこれら界面活性剤分子が間に介在することによって孤立分散状態を保っており、再び、分散媒体中に投入すると、微細炭素繊維は容易に系内に均一分散するものである。
【0074】
サイクロデキストリンの添加量は、添加する微細炭素繊維の全重量に対して150〜30%であることが好適であり、フラーレンの添加量は添加する微細炭素繊維の全量に対して15〜30%であることが好適である。
【0075】
(d)分散処理
本発明において用いられる炭素繊維分散液としては、上記したような分散剤を用いて、水系分散媒中に微細炭素繊維を孤立分散状に分散させるものであり、微細炭素繊維は分散剤の存在によって自然に分散し得るものであるから、撹拌等の処理は特段必要ではないが、例えば、超音波処理、各種撹拌装置を用いた攪拌処理等を行うことは可能である。
【0076】
特に、炭素繊維として、前記したような、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有することを特徴とする炭素繊維構造体を用いる場合には、ビーズミルに代表されるメディアミルによって分散処理を併用して行うことが、良好な分散性を得る上で好ましい。
【0077】
分散液からの分散媒の除去
上記したような微細炭素繊維が分散剤によって孤立分散化された微細炭素繊維分散液から本発明に係る再分散用微細炭素繊維集合塊を得るためには、分散液から分散媒体分を除去すればよい。除去のための乾燥手法としては、凍結乾燥、風乾、オーブン乾燥等の加熱蒸発等のいずれの方法を用いることもできる。なお加熱乾燥させる場合には、例えば、微細炭素繊維の製造工程において発生する廃熱を利用することも可能である。
【0078】
また乾燥時の温度としては、特に限定されるものではないが、例えば、−197〜450℃程度、より好ましくは−197〜350℃程度である。この範囲よりも高温での処理は、分散剤の熱分解が生じる可能性があり、分散剤が熱分解することで炭素繊維集合塊中で微細炭素同士が凝集してしまうためである。
【0079】
なお、分散液から分散媒を除去することによって、本発明に係る再分散用微細炭素繊維集合塊が得られるが、この集合塊の形状としては、ハンドリング性および供使性の良好なものであれば何ら制限はされず、各種ブロック状、ペレット状、あるいは顆粒状等の任意の形とすることができる。なお、所期の形状に賦形するためには、乾燥時に、分散液をこのような形状に保持することが望ましく、適当な形状の容器体に収納してブロック状、ペレット状としたり、あるいは、例えば、アトマイザー等で適当な大きさの液滴に噴霧しこれを凍結乾燥させることによって顆粒状とするといった手法を採択することができる。
【0080】
炭素繊維集合塊の使用方法
本発明に係る再分散用微細炭素繊維集合塊においては、上記したように微細炭素繊維が孤立分散性を維持したまま集合固化されているものであるので、微細炭素繊維を分散化しようとする分散媒あるいは複合化しようとするマトリックス材等に対して、所定量で添加することによって、容易に微細炭素繊維の均一分散系を形成することができる。
【0081】
なお、この際の分散媒体ないしマトリックス材としては、本発明に係る再分散用微細炭素繊維集合塊を製造するにおいて用いられた水系のものに限られず、非水系の有機溶剤等であっても、良好な分散性を発揮することができる。これは、本発明に係る微細炭素繊維集合塊中において、微細炭素繊維同士が凝集剤分子の存在によって孤立分散化されているため、非水系の有機溶剤等へ当該微細炭素繊維集合塊を投入し、当該集合塊が解きほぐされていった際、微細炭素繊維を囲繞していた凝集剤分子は、微細炭素繊維との平衡系を保つことができなくなり、微細炭素繊維より離れてしまうといった現象が生じるが、この分子とは置き換わって有機溶剤等の分子が当該位置に入ってくるため、その後はこの分子によって微細炭素繊維同士の凝集が阻止されるためである。
【0082】
なお、本発明に係る微細炭素繊維集合塊を再度分散媒体へと分散させて、分散体を得る場合に、当該分散体における微細炭素繊維の濃度としては、特に限定されるものではないが、安定な分散体を形成する上からは、例えば、0.01〜90%程度であることが望ましい。
【実施例】
【0083】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0084】
合成例 微細炭素繊維の製造
生成炉からの排ガスの一部を循環ガスとして使用し、この循環ガス中に含まれるメタン等の炭素化合物を、新鮮なトルエンと共に、炭素源として使用して、CVD法により微細炭素繊維を合成した。
【0085】
合成は、触媒としてフェロセン及びチオフェンの混合物を使用し、水素ガスの還元雰囲気で行った。新鮮な原料ガスとして、トルエン、触媒を水素ガスとともに予熱炉にて380℃に加熱した。一方、生成炉の下端より取り出された排ガスの一部を循環ガスとし、その温度を380℃に調整した上で、前記した新鮮な原料ガスの供給路途中にて混合して、生成炉に供給した。
【0086】
なお、使用した循環ガスにおける組成比は、体積基準のモル比でCH 7.5%、C 0.3%、C 0.7%、C 0.1%、CO 0.3%、N 3.5%、H 87.6%であり、新鮮な原料ガスとの混合によって、生成炉へ供給される原料ガス中におけるメタンとベンゼンとの混合モル比CH/C(なお、新鮮な原料ガス中のトルエンは予熱炉での加熱によって、CH:C=1:1に100%分解したものとして考慮した。)が、3.44となるように、混合流量を調整された。
【0087】
なお、最終的な原料ガス中には、混合される循環ガス中に含まれていた、C、CおよびCOも炭素化合物として当然に含まれているが、これらの成分は、いずれもごく微量であり、実質的に炭素源としては無視できるものであった。
【0088】
そして、生成炉において、1250℃で熱分解して、炭素繊維構造体(第一中間体)を得た。
【0089】
なお、反応炉への原料ガス導入速度は、1850NL/min、圧力は1.03atmとした。
【0090】
上記のようにして合成された第一中間体をアルゴン中で900℃で焼成して、タールなどの炭化水素を分離し、第二中間体を得た。この第二中間体のラマン分光測定のR値は0.83であった。また、第一中間体をトルエン中に分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したところ、そのSEMおよびTEM写真を図1、2に示す。
【0091】
さらにこの第二中間体をアルゴン中で2600℃で高温熱処理し、得られた炭素繊維構造体の集合体を気流粉砕機にて粉砕し、分散皮膜形成に用いる炭素繊維構造体を得た。
【0092】
得られた炭素繊維構造体をトルエン中に超音波で分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したSEMおよびTEM写真を図3、4に示す。
【0093】
また、得られた炭素繊維構造体をそのまま電子顕微鏡用試料ホルダーに載置して観察し粒度分布を調べた。得られた結果を表1に示す。
【0094】
また、得られた炭素繊維構造体の円相当平均径は、75.8μm、嵩密度は0.004g/cm、ラマンI/I比値は0.086、TG燃焼温度は807℃、面間隔は3.386オングストローム、粉体抵抗値は0.0077Ω・cm、復元後の密度は0.26g/cmであった。なお、合成例1で測定した各種物性値を、表1にまとめた。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

合成例2 カーボンナノチューブの分散液の調製
精製水1リットルに対し、1.9グラムの3−(N,N−ジメチルステアリルアンモニオ)−プロパンスルホネート[3-(N,N-dimethylstearylammonio)-propanesulfonate]、0.1グラムのドデシル硫酸塩(dodecylsulfate)を添加し、混合ミセル水溶液を調製した。
【0097】
この混合ミセル水溶液1リットルに対して、合成例1で得られた炭素繊維構造体を20g添加し、十分に混合した後、ビーズミル(商品名DYNO-MILL、スイス製、ビーズの種類(ジルコニウム)、平均径0.32mm)を用いて、約180分間分散処理した。微細炭素繊維は完全に水溶液に孤立分散したコロイド(以下、ナノカーボンゾルと称する)が得られた。コロイドの大きさは粒度分布装置(microtrac、日機装)を使い計ったところ、平均直径は500nm以下であったことが分かった。
【0098】
なお、参考のために、この分散液をガラス基板上に所定の塗布量(乾燥重量換算:10mg/m)でコーティングし、80℃で2分間風乾させた。コーティングされた展開皮膜表面が乾燥した状態で、この上部より樹脂溶液(樹脂種類:フェノール、濃度5%、溶剤:メタノール)を同様にスピンコートにより所定の塗布量(乾燥重量換算: 400mg/m)でコーティングし、380℃で10分間熱乾させ、微細炭素繊維分散皮膜を形成した。この皮膜の表面抵抗率を測定したところ18Ω/□であった。
【0099】
実施例1 微細炭素繊維集合塊の製造
合成例2で得られたカーボンナノチューブ分散液を、セル内に入れ80℃に加熱して水分を除去し、直径15cm×厚さ10cmのブロック状の微細炭素繊維集合塊を得た。なお、この集合塊は、人手では簡単には壊れないほどの強度を有しており、ハンドリング性は十分なものであった。
【0100】
また、この集合塊における微細炭素繊維の含有量は質量90%、分散剤の含有量は10質量%であり、水分含有量は1%未満質量と算出された。
【0101】
この集合塊における微細炭素繊維の分散状態をSEMを用いて観測した結果を図5に示す。
【0102】
実施例2 微細炭素繊維集合塊の製造
合成例2で得られたカーボンナノチューブ分散液を、アトマイザーを用いて噴霧し、噴霧滴を熱又は凍結乾燥させて水分を除去し、平均直径3マイクロの顆粒状の微細炭素繊維集合塊を得た。なお、この顆粒状の集合塊も良好なハンドリング性を有していた。
【0103】
実施例3 微細炭素繊維集合塊の使用
合成例2において得られた分散液中における微細炭素繊維の量と等量の微細炭素繊維を含むように、実施例1で得られたブロック状の微細炭素繊維集合塊より所定の大きさの切片を切り出し、これを精製水1リットルに投入した。そして、これを、湯浴中で、室温から60℃に上昇させ約10分間放置すると、当該切片から解離した微細炭素繊維は完全に水溶液に分散(溶解)した。何らの機械的撹拌処理をおこなうことなく、短時間で微細炭素繊維を均一分散させることができたことから、本発明に係る微細炭素繊維集合塊を使用することにより、同一組成の分散系を微細炭素繊維および分散剤から直接調製するよりも、より簡単に均一分散系を調製できることがわかった。
【0104】
なお、参考のために、得られた再分散液を用いて合成例2において示したと同様に、微細炭素繊維分散皮膜を形成し、この皮膜の表面抵抗率を測定したところ21Ω/□であって、もとの分散液を用いた場合と同じ程度の導電性を示した。また、得られた皮膜における微細炭素繊維の分散状態をTEMを用いて観測したところ(図5参照)、これも合成例2において示した皮膜におけるものと同様な良好な分散性が観察された。したがって、本発明に係る微細炭素繊維集合塊を用いて再度分散液を調製しても、もとの分散液と同様な均一分散が得られることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の再分散用微細炭素繊維集合塊の調製に用いた炭素繊維構造体の中間体のSEM写真である。
【図2】本発明の再分散用微細炭素繊維集合塊の調製に用いた炭素繊維構造体の中間体のTEM写真である。
【図3】本発明の再分散用微細炭素繊維集合塊の調製に用いた炭素繊維構造体のSEM写真である。
【図4】(a)(b)は、それぞれ本発明の再分散用微細炭素繊維集合塊の調製に用いた炭素繊維構造体のTEM写真である。
【図5】本発明の再分散用微細炭素繊維集合塊における炭素繊維の分散状態を示すSEM写真である。
【図6】本発明の再分散用微細炭素繊維集合塊を用いて微細炭素繊維を媒体中に再分散させて得られた皮膜中の炭素繊維の分散状態を示すSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系分散媒体中に炭素繊維および少なくとも常温下(20±10℃)にて固体である分散剤を添加し、分散媒体中で炭素繊維を孤立分散化させた分散系から分散媒体を除去して得られる、炭素繊維が独立分散性を維持した状態で集合固化していることを特徴とする、再分散用微細炭素繊維集合塊であって、
微細炭素繊維の含有量が0.01〜99.5質量%、分散剤の含有量が0.1〜99.5質量%、水分含有量が10質量%未満であり、
前記分散剤が、(1)水溶液中で直径が5〜2000nmの球状、棒状又は板状ミセルを形成しうる界面活性剤、(2)重量平均分子量が1万〜5千万である水溶性高分子、および(3)サイクロデキストリンとフラーレンとの組合わせ、から選択されてなるいずれか1つのものであることを特徴とする再分散用炭素繊維集合塊。
【請求項2】
再分散用炭素繊維集合塊は、ブロック状または顆粒状とされているものである請求項1に記載の再分散用微細炭素繊維集合塊。
【請求項3】
前記炭素繊維として、筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層した構造であって、筒を構成するシートが多角形の軸直交断面を有し、該断面の最大径が15〜100nmであり、アスペクト比が10以下で、ラマン分光分析で514nmにて測定されるI/Iが0.1以下であるものを用いることを特徴とする請求項1または2に記載の再分散用微細炭素繊維集合塊。
【請求項4】
前記炭素繊維として、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものであることを特徴とする炭素構造体を用い、孤立分散化させた分散系を形成するにおいて、メディアミルを用いた分散処理を施すことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の再分散用微細炭素繊維集合塊。
【請求項5】
水系分散媒体中に(A)炭素繊維と、(B)(1)水溶液中で直径が5〜2000nmの球状、棒状又は板状ミセルを形成しうる界面活性剤、(2)重量平均分子量が1万〜5千万である水溶性高分子、並びに(3)サイクロデキストリンおよびフラーレンから選択されてなるいずれか1つからなる分散剤を添加し、分散媒体中で炭素繊維を孤立分散化させた後、分散系から分散媒体を除去し、炭素繊維が孤立分散性を維持した状態で集合固化している微細炭素繊維集合塊を製造することを特徴とする再分散用微細炭素繊維集合塊の製造方法。
【請求項6】
分散系からの分散媒体の除去が、−197〜450℃の温度にて行われるものである請求項4に記載の再分散用微細炭素繊維集合塊の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−274502(P2008−274502A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−122830(P2007−122830)
【出願日】平成19年5月7日(2007.5.7)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(000005913)三井物産株式会社 (37)
【Fターム(参考)】