説明

冷凍サイクル装置、および車両用空調装置

【課題】冷凍サイクル装置において第2蒸発器7で生じる圧力損失を抑える。
【解決手段】デュアル運転時には、エアコンECU10は、電磁弁5Aを減圧器4の冷媒出口側と第2蒸発器7の冷媒入口側を全開にし、電磁弁5Bを固定絞り状態にする。このため、減圧器4からの流出した冷媒の全てが第2蒸発器7に流れるのではなく、減圧器4からの冷媒の一部がバイパス流路9を通して第1蒸発器6に流れる。シングル運転からデュアル運転に切り替える際には、一定量の冷媒が電磁弁5Bを通過して第1蒸発器6に流れ込む。したがって、第1蒸発器6自体の温度ムラの発生が抑えられ、第1蒸発器6から吹き出される空気温度分布の悪化が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍サイクル装置、および車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用空調装置では、冷媒を圧縮する圧縮機と、圧縮機からの冷媒を冷却する冷却器と、冷却器から流出した冷媒を減圧する膨張装置とを備え、この膨張装置で減圧された冷媒を蒸発させる第1、第2の蒸発器を直列に接続し、上流側の第2の蒸発器をバイパスして下流側の第1の蒸発器の冷媒入口側に冷媒を流すバイパス流路を設け、第2の蒸発器とバイパス流路とへ供給される冷媒の分配量を調節する三方弁とを有するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このものにおいて、第1の蒸発器とこの第1の蒸発器に対して送風する第1の送風機とにより第1の空調ユニットを構成し、第2の蒸発器とこの第2の蒸発器に送風する第2の送風機とにより第2の空調ユニットを構成している。
【0004】
ここで、第1、第2の蒸発器のそれぞれに冷媒を流して第1、第2の空調ユニットの両方を機能させるデュアル運転と、第1の蒸発器にだけ冷媒を流して第1の空調ユニットだけを機能させるシングル運転とのうち一方を実施する。
【0005】
特許文献2は、この種の装置に適用しうる減圧器を開示している。
【特許文献1】特開2005−106318号公報
【特許文献2】特開2000−81157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
デュアル運転時において三方弁によりバイパス流路を閉鎖した場合には、第1、第2の蒸発器にはそれぞれ同一量の冷媒が流れる。このため、第1、第2の蒸発器のうち上流側の第2の蒸発器には、冷凍能力を発揮する上で必要以上の冷媒が流れてしまう。これにより、圧力損失が高くなり、冷凍サイクルの効率(COP)の低下を招く。
【0007】
さらに、シングル運転からデュアル運転に切り替える際に、三方弁によりバイパス流路を全閉状態にすると同時に、上流側の第2の蒸発器の冷媒入口を全開にすると、一時的に、下流側の第1の蒸発器に冷却能力を生じるために充分な冷媒が流れなくなる。このため、下流側の第1の蒸発器自体の温度ムラが大きくなり、下流側の第1の蒸発器から吹き出される空気温度分布が悪化する。
【0008】
本発明は、上記点に鑑み、上流側の蒸発器の圧力損失を低減しつつ、シングル運転からデュアル運転に切り替える際の下流側の蒸発器自体の温度ムラの発生を抑制するようにした冷凍サイクル装置および車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明では、冷媒を吸入し、圧縮し、吐出する圧縮機(1)と、前記圧縮機から吐出される冷媒を冷却する冷却器(2)と、前記冷却器から流出した冷媒を減圧する減圧器(4)と、前記圧縮機を含む冷凍サイクル中に直列に配置され、前記減圧器により減圧された冷媒をそれぞれ蒸発させる複数の蒸発器(6、7)と、前記複数の蒸発器のうち冷媒流れ上流側蒸発器をバイパスして、当該上流側蒸発器に対して下流側に配置される下流側蒸発器の冷媒入口側に流すバイパス流路(9)と、前記減圧器と前記上流側蒸発器との間に配置され、前記上流側蒸発器の運転を停止して前記下流側蒸発器を運転させるシングル運転時には、前記減圧器と前記上流側蒸発器との間を閉鎖し、前記上流側蒸発器と前記下流側蒸発器とをそれぞれを運転させるデュアル運転時には、前記減圧器と前記上流側蒸発器との間を開放する第1弁(5A)と、前記デュアル運転時に、前記バイパス流路に流れる冷媒流量を絞る流量絞り状態を提供する絞り手段(5B、5C)と、を備えることを第1の特徴とする。
【0010】
したがって、デュアル運転時は、絞り手段により下流側蒸発器に冷媒を流すことができるので、上流側蒸発器の圧力損失を低減しつつ、シングル運転からデュアル運転に切り替える際に下流側蒸発器に冷媒を流すことができるので、下流側蒸発器自体の温度ムラの発生を抑制できる。
【0011】
本発明では、前記絞り手段(5B)は、前記バイパス流路を全開する全開状態と、前記流量絞り状態とを提供する第2弁(5B)であり、前記シングル運転時には、前記第2弁は前記全開状態を提供することを第2の特徴とする。
【0012】
これにより、バイパス流路を通して下流側蒸発器に十分な冷媒量を流すことができるので、下流側蒸発器において十分な冷凍能力を確保できる。
また、前記シングル運転時に、前記絞り手段(5B、5C)として、前記流量絞り状態を提供する第2弁(5B、5C)を用いてもよい。
【0013】
本発明では、前記デュアル運転から前記シングル運転に切り替える際には、前記第2弁(5B)を全開状態にしてから所定期間経過した後に前記第1弁(5A)により前記減圧器と前記上流側蒸発器との間を閉鎖することを第3の特徴とする。
【0014】
これにより、バイパス流路を通して下流側蒸発器に十分な冷媒が流入できる状態を準備してから第1弁が閉鎖されるため、シングル運転への切り替え直後に下流側蒸発器に充分な冷却作用を発揮させることができる。加えて、バイパス流路を通して下流側蒸発器に十分な冷媒が流入してから第1弁を閉鎖させることが可能になる。
【0015】
本発明では、前記シングル運転から前記デュアル運転に切り替える際には、前記第1弁(5A)により前記減圧器と前記上流側蒸発器との間を開放してから所定期間経過した後に前記第2弁(5B)を前記流量絞り状態にすることを第4の特徴とする。
【0016】
これにより、第1弁が開弁するときと、その直後にも、第2弁を通して下流側蒸発器に冷媒を供給可能な状態が得られるため、下流側蒸発器に流れる冷媒量が一時的に減ることを抑制できるので、下流側蒸発器の温度ムラの発生を抑制できる。
【0017】
また、本発明では、前記絞り手段(5B)は、前記バイパス流路を全閉する全閉状態と、前記流量絞り状態とを提供する第2弁(5B)であり、前記デュアル運転時に、前記第2弁(5B)は、前記全閉状態と前記流量絞り状態とをそれぞれ提供することを第5の特徴とする。
【0018】
具体的には、本発明では、前記上流側蒸発器の過熱度が所定値以上であるか否かを判定する判定手段(S160)と、前記デュアル運転時には、前記上流側蒸発器の過熱度が所定値以上であると判定されたときに前記判定手段が判定したときに前記第2弁を前記全閉状態にし、前記上流側蒸発器の過熱度が所定値未満であると前記判定手段が判定したときに前記第2弁を前記流量絞り状態にする第1の制御手段(S161、162)と、を備えることを第6の特徴とする。
【0019】
これにより、上流側蒸発器の過熱度が所定値未満になるように調整することができる。
【0020】
例えば、本発明では、外気温を検出する外気温検出手段(14)を備え、前記外気温検出手段の検出外気温が所定温度以上のときに前記上流側蒸発器の過熱度が所定値未満であると前記判定手段が判定し、前記外気温検出手段の検出外気温が所定温度未満のときに前記上流側蒸発器の過熱度が所定値以上であると前記判定手段が判定してもよい。
【0021】
例えば、本発明では前記上流側蒸発器に向けて送風する上流側送風機(7a)を備え、前記上流側送風機の送風量が閾値未満のときに前記上流側蒸発器の過熱度が所定値未満であると前記判定手段が判定し、前記上流側送風機の送風量が閾値以上のときに前記上流側蒸発器の過熱度が所定値以上であると前記判定手段が判定してもよい。
【0022】
本発明では、前記下流側蒸発器に向けて送風する下流側送風機(6a)を備え、前記判定手段の判定に用いる前記閾値は、前記下流側送風機の送風量に設定されていることを第7の特徴とする。
【0023】
これにより、判定手段の判定に用いる閾値を下流側送風機の送風量により変えることができるので、下流側送風機の送風量に対応して、上流側蒸発器の過熱度が所定値未満であるか否かを良好に判定することができる。
【0024】
本発明では、前記減圧器の出口側冷媒を前記上流側蒸発器の冷媒入口側と前記バイパス流路の冷媒入口側とのそれぞれに分流する三方分岐配管(30)を備えており、前記絞り手段は前記三方分岐管に設けられていることを第8の特徴とする。
【0025】
これにより、部品数を増やすことなく、絞り手段を実現できる。
本発明では、前記三方分岐配管は、ブロック状に形成されるブロック材に設けられていることを第9の特徴とする。
【0026】
これにより、三方分岐配管において、冷媒圧力が高圧であっても、冷媒の洩れがないように強度を高めることができる。
【0027】
本発明では、絞り手段(5B、5C)は、直径が1mm〜2.5mmの冷媒絞り流路により、前記バイパス流路に流れる冷媒流量を所定量に絞るようにすることが望ましい。なお、本発明では、絞り手段(5C)は、オリフィスチューブを用いてもよい。
【0028】
本発明では、前記圧縮機の冷媒吐出口と前記減圧器の冷媒入口との間の冷媒の高圧圧力を検出する高圧検出手段(15)と、前記高圧検出手段の検出圧力が第1の圧力値未満であるとき前記第1弁により前記減圧器と前記上流側蒸発器との間を閉鎖し、前記高圧検出手段の検出圧力が第1の圧力値以上であるとき前記第1弁により前記減圧器と前記上流側蒸発器との間を開放する第2の制御手段(S120、S130、S140)と、を備えることを第10の特徴とする。
【0029】
これにより、第1弁の開閉により圧縮機の冷媒吐出口と前記減圧器の冷媒入口との間の冷媒の高圧圧力が第1の圧力値よりも低くなるように調整することができる。
【0030】
本発明では、前記高圧検出手段の検出圧力が第2の圧力値未満であるときに前記圧縮機を稼働し、前記高圧検出手段の検出圧力が前記第2の圧力値以上であるときに前記圧縮機を停止する第3の制御手段(S90、S91)を備え、前記第2の圧力値は、前記第1の圧力値以上の値に設定されていることを第11の特徴とする。
【0031】
これにより、高圧圧力が第2の圧力値よりも高くなるときには、圧縮機を停止するので、冷媒圧力が異常に上昇することを避けうる。
【0032】
本発明では、前記シングル運転時には、前記第1弁により前記減圧器と前記上流側蒸発器との間を、所定期間毎に開放するようになっていることを第12の特徴とする。
【0033】
これにより、第1弁付近に冷媒オイルが溜まることがあっても、所定期間毎に第1弁に冷媒を通過させることができるので、溜まった冷媒オイルを下流側蒸発器側に押し流すことができる。
【0034】
なお、特許請求の範囲およびこの欄で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態を示す車両空調用冷凍サイクルの構成図であって、この冷凍サイクルは、冷媒として高圧圧力が臨界圧力以上(超臨界状態)となるCO2(二酸化炭素)を用いている。従って、この冷凍サイクルは超臨界冷凍サイクルを構成する。
【0036】
コンプレッサ(圧縮機)1は図示しない車両走行用エンジンから電磁クラッチ(図示せず)を介して駆動力を得て冷媒を吸入圧縮するものである。なお、コンプレッサ1としては、吸入容量を可変可能に構成されている可変容量型コンプレッサが用いられている。
【0037】
コンプレッサ1の吐出側には室外器をなす冷却器2が設けられている。この冷却器2は、コンプレッサ1から吐出された高温高圧の超臨界状態にある吐出冷媒と外気(室外空気)との間で熱交換して冷媒を冷却する。冷却器2には図示しない電動式の冷却ファンによって外気が送風される。
【0038】
冷却器2の出口側には、内部熱交換器3の高圧側冷媒流路3aが設けられている。ここで、内部熱交換器3は、高圧側冷媒流路3aの高温の高圧冷媒と低圧側冷媒流路3bの低温の低圧冷媒との間で熱交換を行うものである。
【0039】
この熱交換によって、後述の第1蒸発器6と第2蒸発器7とに流入する冷媒のエンタルピを減少させて、第1蒸発器6と第2蒸発器7との両方を含む全体としての入口と出口との間における冷媒のエンタルピ差(冷凍能力)を増大でき、サイクル運転効率(COP)を向上できる。
【0040】
内部熱交換器3の高圧側冷媒流路3aの出口側には、高圧圧力を制御する圧力制御弁としての役割を果たす減圧器4が設けられている。この減圧器4はサイクルの高圧圧力が目標高圧となるように開度が制御手段としての機械的機構にて調整される。
【0041】
この減圧器4は、冷却器2の出口側と内部熱交換器3の高圧側冷媒流路3aの入口側との間に設けられた感温部4aを有し、この感温部4aの内部で冷却器2の出口側の高圧冷媒の温度に対応した圧力を発生するようにしている。
【0042】
ここで、感温部4aの内部内圧と、高圧圧力(具体的には内部熱交換器3の高圧側冷媒流路3aの出口側冷媒圧力)とのバランスで減圧器4の絞り開度(弁体開度)を調整することにより、高圧圧力を冷却器2の出口側の高圧冷媒温度により決まる目標高圧に調整する。
【0043】
減圧器4の出口側には、第1蒸発器6と、第2蒸発器7が設けられている。第1蒸発器6と、第2蒸発器7は、コンプレッサ1を含む冷凍サイクルの冷媒流れに対して直列に配置されうるように接続されている。2つの蒸発器が直列に接続されたとき、第2蒸発器7は、第1蒸発器6よりも冷媒流れの上流側に配置され、また第1蒸発器6は、第2蒸発器7よりも冷媒流れの下流側に配置される。
【0044】
ここで、第1蒸発器6は、車両用空調装置の前席側空調ユニット6cの空気通路を形成する空調ケーシング内に配置されている。第1蒸発器6には、第1電動送風機6aからの送風空気が吹き付けられ、第1蒸発器6は、第1電動送風機6aからの送風空気を冷媒の蒸発により冷却する空気冷却手段を構成する。第1蒸発器6への送風が停止されることで、第1蒸発器6の運転を停止した状態が得られる。
【0045】
第2蒸発器7は、車両用空調装置の後席側空調ユニット7cの空気通路を形成する空調ケーシング内に配置されている。第2蒸発器7には、第2の電動送風機7aからの送風空気が吹き付けられ、第2蒸発器7は、第2の電動送風機7aからの送風空気を冷媒の蒸発により冷却する空気冷却手段を構成する。第1蒸発器6への送風が停止されることで、第1蒸発器6の運転を停止した状態が得られる。
【0046】
また、減圧器4の出口側には、第2蒸発器7をバイパスして冷媒を第1蒸発器6の冷媒入口側に流すバイパス流路9が設けられている。すなわち、バイパス流路9は、第2蒸発器7をバイパスして冷媒を第2蒸発器7の冷媒入口側から第2蒸発器7の冷媒出口側に流す冷媒通路である。
【0047】
第2蒸発器7の上流側には第1弁としての電磁弁5Aが設けられており、電磁弁5Aは、減圧器4の冷媒出口と第2蒸発器7の冷媒入口との間を全開、或いは全閉する。
【0048】
電磁弁5Aは、全開状態と全閉状態といった2つの状態を切り替えることにより、全開状態と全閉状態とを提供する。なお、電磁弁5Aは、全閉から全開まで調整可能な弁により全開状態と全閉状態とを提供してもよい。
【0049】
バイパス流路9には、第2弁としての電磁弁5Bが設けられており、電磁弁5Bは、開弁状態でバイパス流路9を全開にする全開状態になり、閉弁状態ではバイパス流路9に流れる冷媒量を所定量(すなわち、一定量)に絞る固定絞り状態(すなわち、流量絞り状態)になる。すなわち、電磁弁5Bは、全開状態と固定絞り状態といった2つの状態を切り替えることにより、全開状態と固定絞り状態とを提供する。
【0050】
なお、電磁弁5Bは、全開状態と固定絞り状態とを含む全閉から全開まで調整可能な弁により全開状態と全閉状態とを提供してもよい。電磁弁5Bは、固定絞り状態になることにより、特許請求範囲に記載の絞り手段を構成する。
【0051】
また、第1蒸発器6の出口側にはアキュムレータ8が設けられている。このアキュムレータ8は、第1蒸発器6の出口冷媒の液冷媒とガス冷媒とを分離してサイクル内の余剰冷媒を蓄える気液分離手段であって、アキュムレータ8の出口側は内部熱交換器3の低圧側冷媒流路3bの入口側に接続される。そして、内部熱交換器3の低圧側冷媒流路3bの出口側はコンプレッサ1の吸入側に接続されている。
【0052】
エアコンECU(電子制御装置)10は、タイマ、メモリ、マイクロコンピュータなどから構成され、各種センサの検出値に基づいて、電動送風機6a、7a、および電磁弁5A、5Bを制御する。
【0053】
各種センサは、車室外の温度TAMを検出する外気温センサ14と、コンプレッサ1の冷媒吐出口側の吐出冷媒圧力Phを検出する高圧センサ15と、コンプレッサ1の吸入圧力を検出する圧力センサ16、第2の蒸発器7の内部の冷媒温度を検出する温度センサ17とからなる。
【0054】
風量設定スイッチ(BSW)11は、電動送風機6a、7aの風量を設定する。コンプレッサ起動スイッチ(ACSW)12はコンプレッサ1の起動を指令するためのスイッチである。運転切替スイッチ13は、後述するデュアル運転およびシングル運転のうちいずれかを設定するためのスイッチである。
【0055】
次に、上記構成において基本作動を説明する。コンプレッサ1が車両エンジンの駆動力により回転駆動されると、コンプレッサ1により圧縮された高温高圧の冷媒(CO2)は、圧力が臨界圧力以上である超臨界状態にて冷却器2内に流入する。ここで、高温高圧の超臨界状態の冷媒は外気と熱交換して外気中に放熱し、エンタルピを減少する。
【0056】
そして、冷却器2出口の高圧冷媒は内部熱交換器3の高圧側流路3aに流入して、低圧側流路3bを通過する低温の低圧冷媒(アキュムレータ8の出口側冷媒)と熱交換し冷却されるので、エンタルピを更に減少する。内部熱交換器3の高圧側流路3aを通過した高圧冷媒は減圧器4により減圧される。
【0057】
ここで、第1、第2蒸発器6、7の動作は、電磁弁5A、5Bの開閉に伴う運転状態により異なるため、以下、図2を参照して、デュアル運転およびシングル運転に分けて説明する。
【0058】
(シングル運転)
エアコンECU10は、図2に示すように、電磁弁5Aが減圧器4の冷媒出口側と第2蒸発器7の冷媒入口側との間の流路を全閉にし、電磁弁5Bがバイパス流路9を全開にするように各電磁弁を制御する。
【0059】
これに伴い、第1蒸発器6には、バイパス流路9を通過した冷媒が流れ込み、この冷媒が第1の電動送風機6aの送風空気から吸熱して蒸発する。これにより、送風空気が冷却され、その冷風が車室内前席側へ吹き出される。
【0060】
その後、第1蒸発器6を通過した冷媒は、アキュムレータ8により液冷媒とガス冷媒とに分離され、ガス冷媒だけが内部熱交換器3の低圧側冷媒流路3bを通過してコンプレッサ1の吸入側に吸い込まれる。
【0061】
また、エアコンECU10は、図2に示すように、電磁弁5Aを所定期間(例えば二時間)毎に全開にする。これに伴い、減圧器4からの冷媒が第2蒸発器7に流入する。これにより、減圧器4から流入した冷媒が第2蒸発器7に滞留した潤滑オイルを第1蒸発器6の冷媒入口側に押し流す。
【0062】
(デュアル運転)
エアコンECU10は、図2に示すように、電磁弁5Aが減圧器4の冷媒出口側と第2蒸発器7の冷媒入口側との間の流路を全開にし、電磁弁5Bが固定絞り状態となるように各電磁弁を制御する。
【0063】
第2蒸発器7に、減圧器4通過後の冷媒が流れ込み、この冷媒が第2電動送風機7aの送風空気から吸熱して蒸発する。これにより、送風空気が冷却され、その冷風が車室内後席側へ吹き出される。
【0064】
一方、バイパス流路9から第1蒸発器6には、電磁弁5Bを通過した所定量の冷媒が流入する。このため、第1蒸発器6には、第2蒸発器7通過後の冷媒に加えて、電磁弁5Bおよびバイパス流路9を通過した冷媒が流入する。これに伴い、第1蒸発器6では、冷媒が第1電動送風機6aの送風空気から吸熱して蒸発する。これにより、第1電動送風機6aの送風空気が冷却され、その冷風が車室内前席側へ吹き出される。
【0065】
その後、第1蒸発器6を通過した冷媒は、アキュムレータ8により液冷媒とガス冷媒とに分離され、ガス冷媒だけが内部熱交換器3の低圧側冷媒流路3bを通過してコンプレッサ1の吸入口側に吸い込まれる。
【0066】
以上説明した本実施形態によれば、デュアル運転時には、エアコンECU10は、電磁弁5Aを全開にし、電磁弁5Bを固定絞り状態にする。このため、減圧器4からの流出した冷媒の全てが第2蒸発器7に流れるのではなく、減圧器4からの冷媒の一部がバイパス流路9を通して第1蒸発器6に流れる。したがって、第2蒸発器7に流れる冷媒量を減らすことができるので、第2蒸発器7で生じる圧力損失を抑えることができる。
【0067】
また、デュアル運転時には、電磁弁5Bを固定絞り状態にするので、シングル運転からデュアル運転に切り替える際には、所定量の冷媒が電磁弁5Bを通過して第1蒸発器6に直接に流れ込む。したがって、第1蒸発器6自体の温度ムラの発生が抑えられ、第1蒸発器6から吹き出される空気温度分布の悪化が抑制される。
【0068】
本実施形態では、シングル運転時において、電磁弁5Bがバイパス流路9を全開になるので、第1蒸発器6には、電磁弁5Bおよびバイパス流路9を通過した十分な冷媒が流れ込むので、第1蒸発器6において十分な冷房能力を確保できる。
【0069】
ここで、図3に電磁弁5A、5Bの代わりに通路を切り替えるだけの三方弁を用いた場合の第1蒸発器6の吹出空気温度を計測した結果(比較例)を示し、図4に本実施形態の第1蒸発器6の吹出空気温度を計測した結果を示す。図3、図4において縦軸は第1蒸発器6の吹出空気温度、横軸は時間を示す。
【0070】
図3、図4から分かるように、比較例ではデュアル運転を開始すると一時的に第1蒸発器6の吹出空気温度が急上昇するが、本実施形態の場合にはデュアル運転を開始しても第1蒸発器6の吹出空気温度は急上昇することなくほぼ一定の温度が持続される平坦な状態になる。
【0071】
また、シングル運転時には電磁弁5Aを閉弁状態にしていても、電磁弁5Aの気密性が低い場合には、電磁弁5Aを冷媒が通過して電磁弁5A付近に溜まることがある。この場合、冷媒が蒸発すると、冷媒に含まれる潤滑オイルだけ電磁弁5A付近に溜まることになる。
【0072】
これに対して、本実施形態では、エアコンECU10は、電磁弁5Aを所定期間(例えば二時間)毎に全開にする。これに伴い、減圧器4からの冷媒が第2蒸発器7付近に滞留した潤滑オイルを第1蒸発器6の冷媒入口側に押し流す。これに伴い、コンプレッサ1側に戻る潤滑オイル量を確保することができる。
【0073】
また、シングル運転時に電磁弁5Bを固定絞り状態にすると、車両走行用エンジンの回転数の上昇に伴ってコンプレッサ1の回転数が上昇したときには冷媒吐出圧力が異常圧力まで上昇し易い。
【0074】
これに対して、本実施形態では、シングル運転時に電磁弁5Bによりバイパス流路9を全開にする。これにより、コンプレッサ1の回転数が上昇しても冷媒吐出圧力が異常圧力まで上昇し難くなる。
【0075】
次に、本実施形態において電磁弁5Bを固定絞り状態したときの電磁弁5Bの冷媒絞り流路の直径(以下、固定絞り径という)について説明する。
【0076】
本実施形態において、固定絞り径は、デュアル運転時に「第2蒸発器7に最も多くの冷媒が必要な条件」で第2蒸発器7に十分な冷媒が流れる直径にする必要がある。
【0077】
「第2蒸発器7に最も多くの冷媒が必要な条件」としては、第1電動送風機6aの風量が最低値(Lo)で第2電動送風機7aの風量が最大値(Hi)の場合である。このような第1、第2の電動送風機6a、7aの風量条件で、固定絞り径と第2蒸発器7の過熱度(スーパーヒート)との相関を調べた結果を図5に示す。
【0078】
図5の縦軸は第2蒸発器7の過熱度、横軸は時間を示し、プロット(黒い正方形)は、コンプレッサ1(車両走行用エンジン)の回転数が高く、かつ空調負荷が高い状態(第2蒸発器7に吹き出される空気温度が高く湿度も高く、冷却器2に吹き出される空気温度も高く、送風量も少ない状態)である場合を示している。
プロット(黒い菱形)は、コンプレッサ1(車両走行用エンジン)の回転数が低く、かつ空調負荷が高い状態(第2蒸発器7に吹き出される空気温度が高く湿度も高く、冷却器2に吹き出される空気温度も高く、送風量も少ない状態)である場合を示している。
【0079】
プロット(黒い三角形)は、コンプレッサ1(車両走行用エンジン)の回転数が高く、かつ空調負荷が低い状態(第2蒸発器7に吹き出される空気温度が高く湿度も高く、冷却器2に吹き出される空気温度も高く、送風量も少ない状態)である場合を示している。
【0080】
以上の図5に示す各プロットによれば、第2蒸発器7の過熱度SHを10℃まで許容すると、固定絞りの直径は1.9mm、過熱度を許容しないと1.5mm、空調負荷が低いときの過熱度SHを許容し、空調負荷が高いときの過熱度SHを15℃までにすると、固定絞り径は2.2mmとなる。以上により、固定絞り径は1.0mm〜2.5mmとすることが望ましい。より望ましくは、固定絞り径は1.5mm〜2.2mmとするべきである。
【0081】
(第2実施形態)
上述の第1実施形態では、電磁弁5Bにおいて閉弁状態でバイパス流路9に流れる冷媒量を所定量に絞る固定絞り状態にした例について説明したが、これに限らず、これに代えて、第2実施形態では、図6に示すように、電磁弁5Bにおいて開弁状態でバイパス流路9に流れる冷媒量を所定量に絞る固定絞り状態にし、かつ閉弁状態で全閉にする。電磁弁5Bは、全閉状態と固定絞り状態といった2つの状態を切り替えることにより、全閉状態と固定絞り状態とを提供する。
【0082】
本実施形態では、コンプレッサ1の冷媒吐出口側の吐出冷媒圧力(すなわち、高圧圧力)を検出する高圧検出手段としての高圧センサ15(図1参照)が用いられる。高圧センサ15は、冷凍サイクルにおいて、コンプレッサ1の冷媒吐出口側に限らず、コンプレッサ1の冷媒吐出口側から減圧器4の冷媒入口側までの間ならば、いずれの箇所の圧力を検出してもよい。
【0083】
本実施形態の作動について図7、図8を参照して説明する。図7は、本実施形態においてシングル運転およびデュアル運転のそれぞれの場合における電磁弁5A、5Bの状態を示す図表である。図8は電磁弁5A、5Bの制御処理を示すフローチャートである。
【0084】
エアコンECU10は、図8のフローチャートにしたがって、コンピュータプログラムを実行する。コンピュータプログラムの実行は、風量設定スイッチ11による風量の設定変更が行われたとき、或いはコンプレッサ起動スイッチ12によりコンプレッサ1の起動を指令されたときに行われる。
【0085】
まず、ステップS90で、高圧センサの検出圧力値Pdが高圧限界値Hg以上であるか否かを判定する。ここで、高圧センサの検出圧力値Pdが高圧限界値Hg以上であるときにはYESとしてコンプレッサ1を緊急停止する(ステップS91)。高圧限界値Hgは特許請求範囲の第2の圧力値に相当する。また、高圧センサの検出圧力値Pdが高圧限界値Hg未満であるときにはNOとして、ステップS100に進む。
【0086】
ここで、運転切替スイッチ13の出力信号に基づいて、デュアル運転およびシングル運転のうちいずれが設定されているかを判定する。
【0087】
運転切替スイッチ13によりシングル運転が設定されている場合には、ステップS110に進んで、電磁弁5Bを開弁にする。これにより、電磁弁5Bは、固定絞り状態になるので、これに伴い、第1蒸発器6には、バイパス流路9および電磁弁5Bを通過した冷媒が流入する。
【0088】
次に、ステップS120において電磁弁5Aを全閉状態にする。その後、ステップS130において、高圧センサ15の検出圧力値Pdが高圧閾値Hs以上であるか否かを判定する。ここで、本実施形態の高圧閾値Hsとしては、特許請求範囲の第1の圧力値に相当するもので、高圧限界値Hg未満の値が設定されている。
【0089】
ステップS130において、高圧センサ15の検出圧力値Pdが高圧閾値Hs未満であるときにはNOと判定してステップS120に戻る。一方、高圧センサ15の検出圧力値Pdが高圧閾値Hs以上であるときにはYESと判定してステップS140に移行して、電磁弁5Aを全開にする。これにより、冷凍サイクルにおいて、コンプレッサ1の冷媒吐出口側と減圧器4の冷媒入口側との間の高圧側の冷媒圧力が異常高圧にまで急上昇することを未然に防ぐことができる。
【0090】
一方、ステップS100において、デュアル運転が設定されていると判定したときには、電磁弁5Aを全開にする。その後、ステップS160において第2電動送風機7aの送風量に基づいて、第2の蒸発器7に所定値以上の過熱度が生じているか否かを判定する。
【0091】
具体的には、第2電動送風機7aの送風量が風量閾値以上であるか否かを判定する。本実施形態では、風量閾値としては第1電送送風機6aの送風量が用いられている。なお、風量閾値としては、第1電送送風機6aの送風量以外の予め決められた一定値を用いてもよい。
【0092】
第2電動送風機7aの送風量が風量閾値以上であるときに、YESとして、第2の蒸発器7に所定値以上の過熱度が生じていると判定する。すなわち、第2の蒸発器7に十分な量の冷媒が流れ込んでいないと判定することになる。この場合、ステップS161に進んで、電磁弁5Bを全閉にする。これに伴い、電磁弁5Aを通過して第2の蒸発器7に流入する冷媒量を増やすことができる。
【0093】
また、ステップS160において第2電動送風機7aの送風量が風量閾値未満であるときに、NOとして、第2の蒸発器7の過熱度が所定値未満であると判定する。すなわち、第2の蒸発器7に十分な量の冷媒が流れ込んでいると判定する。このため、電磁弁5Bを開弁状態(すなわち、固定絞り状態)にする。したがって、減圧器4からの冷媒が電磁弁5Bを経てバイパス流路9を通して第1蒸発器6に流れる。
【0094】
このように第2の蒸発器7に所定値以上の過熱度が生じているか否かを判定し、この判定に基づいて電磁弁5Bを開閉する。
【0095】
以上説明した本実施形態によれば、デュアル運転時において、第2の蒸発器7において所定値以上の過熱度が生じていなく、第2の蒸発器7に十分な量の冷媒が流れ込んでいると判定したときには、電磁弁5Bを開弁状態(固定絞り状態)にする。このため、デュアル運転時において、上述の第1実施形態と同様に、減圧器4からの流出した冷媒の全てが第2蒸発器7に流れるのではなく、減圧器4からの冷媒の一部がバイパス流路9を通して第1蒸発器6に流れる。したがって、第2蒸発器7に流れる冷媒量を減らすことができるので、第2蒸発器7で生じる圧力損失を抑えることができる。
【0096】
また、デュアル運転時には、電磁弁5Bを固定絞り状態(開弁状態)にするので、シングル運転からデュアル運転に切り替える際には、所定量の冷媒が電磁弁5Bを通過して第1蒸発器6に流れ込む。したがって、上述の第1実施形態と同様に、第1蒸発器6の温度ムラの発生が抑えられ、第1蒸発器6から吹き出される空気温度分布の悪化が抑制される。
【0097】
さらに、本実施形態では、第2の蒸発器7の過熱度が所定値未満であると判定するときには、電磁弁5Bを開弁状態にするが、第2の蒸発器7に所定値以上の過熱度が生じていると判定したときには電磁弁5Bを全閉にする。
【0098】
したがって、第2の蒸発器7に所定値以上の過熱度が生じていると判定したときには、電磁弁5Aを通過して第2の蒸発器7に流入する冷媒量を増やすことにより、第2の蒸発器7の過熱度を所定値未満になるように調整できる。これにより、第2の蒸発器7の冷却作用が低下することを抑制できる。
【0099】
本実施形態では、風量閾値としての第1電送送風機6aの送風量を用いているので、第1電動送風機6aの送風量に対応して過熱度の判定を行うことができる。
【0100】
また、上述第2の実施形態では、第2電動送風機7aの送風量に基づいて、第2の蒸発器7において所定値以上の過熱度が生じているか否かを判定したが、これに限らず、次のようにしてもよい。
(1)外気温を検出する外気温センサ14(外気温検出手段)を用いて、外気温TAMが所定温度(すなわち、一定温度)以上であるか否かを判定する。外気温TAMが所定温度以上であるときに第2の蒸発器7の過熱度が所定値未満であると判定し、外気温TAMが所定温度未満であるときに第2の蒸発器7には所定値以上の過熱度が生じると判定する。
(2)第2の蒸発器7の過熱度を圧力センサ16の検出値と温度センサ17の検出値とにより算出し、この算出した過熱度が所定値以上であるか否かを判定する。圧力センサ16は、コンプレッサ1の吸入圧力を検出するものであり、温度センサ17は、第2の蒸発器7の内部の冷媒温度を検出するものである。
【0101】
(第3実施形態)
上述の第1、第2実施形態では、バイパス流路9に電磁弁5Bを用いた例について説明したが、これに代えて、本第3実施形態では、図9に示すように、バイパス流路9に流れる冷媒流量を冷媒絞り流路で所定量に絞る絞り手段としてオリフィスチューブ5Cが用いられている。
【0102】
ここで、オリフィスチューブ5Cは、シングル運転およびデュアル運転に関わらず、絞り手段を構成するものである。オリフィスチューブ5Cの冷媒絞り流路の直径(すなわち、固定絞り径)は1.0mm〜2.5mmとすることが望ましく、より望ましくは、1.5mm〜2.2mmとするべきである。図9において、図1と同一符号のものは同一のものを示し、その説明を省略する。
【0103】
本実施形態において、エアコンECU10は、シングル運転時には、電磁弁5Aを全閉にし、デュアル運転時には、エアコンECU10は、電磁弁5Aを全開にする。
【0104】
以上説明した本実施形態によれば、デュアル運転時には、バイパス流路9およびオリフィスチューブ5Cを通して所定量の冷媒が第1蒸発器6に流れる。このため、上述の第1、第2実施形態と同様に、減圧器4からの流出した冷媒の全てが第2蒸発器7に流れるのではなく、減圧器4からの冷媒の一部がバイパス流路9を通して第1蒸発器6に流れる。したがって、第2蒸発器7に流れる冷媒量を減らすことができるので、第2蒸発器7で生じる圧力損失を抑えることができる。
【0105】
また、シングル運転からデュアル運転に切り替える際には、所定量の冷媒がオリフィスチューブ5Cを通過して第1蒸発器6に流れ込む。したがって、上述の第1、第2実施形態と同様に、第1蒸発器6の温度ムラの発生が抑えられ、第1蒸発器6から吹き出される空気温度分布の悪化が抑制される。
【0106】
(他の実施形態)
上述の第1、第2実施形態において、デュアル運転からシングル運転に切り替える際には、電磁弁5Bを全開状態にしてから所定期間(すなわち、一定期間)経過した後に電磁弁5Aにより減圧器4および第2蒸発器7の間を閉鎖してもよい。
【0107】
これにより、バイパス流路9を通して第1蒸発器6に十分な冷媒が流入できる状態を準備してから電磁弁5Aが閉鎖されるため、シングル運転への切り替え直後に第1蒸発器6に充分な冷却作用を発揮させることができる。加えて、バイパス流路9を通して第1蒸発器6に十分な冷媒が流入してから電磁弁5Aを閉鎖させることが可能になる。
【0108】
上述の第1、第2実施形態において、シングル運転からデュアル運転に切り替える際には、電磁弁5Bを全開状態にしたまま電磁弁5Aを開弁してから、所定期間(すなわち、一定期間)を経過した後に、電磁弁5Bを固定絞り状態にしてもよい。
【0109】
これにより、電磁弁5Aが開弁するときと、その直後にも、全開状態の電磁弁5Bを通して第1蒸発器6に冷媒を供給可能な状態が得られるため、第1蒸発器6に流れる冷媒量が一時的に減ることを抑制できるので、第1蒸発器6の温度ムラの発生を抑制できる。
【0110】
上述の第3実施形態において、バイパス流路9に流れる冷媒量を所定量に絞る固定絞り状態を提供するオリフィスチューブ5Cを絞り手段として用いた例について説明したが、これに限らず、このオリフィスチューブに対して、弁開度の調整機能を加えた電磁弁5Cを絞り手段として用いてもよい。
【0111】
具体的には、電磁弁5Cの弁開度の調整機能とは、バイパス流路9を全開にする全開状態と、バイパス流路9を全閉する全閉状態といった2つの状態を切り替えることにより、全開状態と全閉状態とを提供することである。
【0112】
このように構成される電磁弁5Cを上述の第3実施形態で用いた場合には次の(1)、(2)のようにしてもよい。
(1)デュアル運転からシングル運転に切り替える際には、電磁弁5Cを全開状態にしてから所定期間(すなわち、一定期間)経過した後に電磁弁5Aにより減圧器4および第2蒸発器7の間を閉鎖してもよい。
【0113】
これにより、上述の如く、バイパス流路9を通して第1蒸発器6に十分な冷媒が流入できる状態を準備してから電磁弁5Aが閉鎖されるため、シングル運転への切り替え直後に第1蒸発器6に充分な冷却作用を発揮させることができる。加えて、バイパス流路9を通して第1蒸発器6に十分な冷媒が流入してから電磁弁5Aを閉鎖させることが可能になる。
(2)シングル運転からデュアル運転に切り替える際には、電磁弁5Cを全開状態にしたまま電磁弁5Aを開弁してから、所定期間(すなわち、一定期間)を経過した後に、電磁弁5Cを固定絞り状態にしてもよい。
【0114】
これにより、上述の如く、電磁弁5Aが開弁するときと、その直後にも、全開状態の電磁弁5Cを通して第1蒸発器6に冷媒を供給可能な状態が得られるため、第1蒸発器6に流れる冷媒量が一時的に減ることを抑制できるので、第1蒸発器6の温度ムラの発生を抑制できる。
【0115】
上述の第2、第3実施形態において、エアコンECU10は、電磁弁5Aを所定期間(例えば二時間)毎に全開にして、減圧器4からの冷媒が第2蒸発器7付近に滞留した潤滑オイルを所定期間毎に第1蒸発器6の冷媒入口側に押し流してもよい。これに伴い、コンプレッサ1側に戻る潤滑オイル量を確保することができる。
【0116】
上述の第3実施形態では、絞り手段としてオリフィスチューブ5Cを用いた例について説明したが、これに代えて、三方分岐配管に絞り手段を設けるようにしてもよい。
【0117】
すなわち、三方分岐配管の冷媒入口側には減圧器4の出口側を接続し、第1冷媒出口はバイパス流路9の冷媒入口に接続し、第2冷媒出口は第2蒸発器7の冷媒入口に接続する。ここで、三方分岐配管のうち第1冷媒出口側に固定絞り部を設けて、バイパス流路9に流入する冷媒流量を所定量(すなわち、一定量)に絞るようにする。これにより、部品数を増やすことなく、絞り手段を実現できる。
【0118】
また、三方分岐配管を図10、図11に示す三方分岐ブロック30により構成するようにしてもよい。
【0119】
図10は三方分岐ブロック30の斜視図であり、図11は三方分岐ブロック30内部を示す透視図である。
【0120】
三方分岐ブロック30は、金属製ブロック材30aに冷媒入口31および第1、第2の冷媒出口32、33を設けたものであり、金属製ブロック材30aを用いることにより、冷媒圧力が高圧であっても、冷媒の洩れがないように強度を高めることができる。
ここで、三方分岐ブロック30には、冷媒入口31および第2の冷媒出口33の間を連通する流路34と、この流路34と第1の冷媒出口32の間を連通する流路35とが設けられており、この流路35には、流路34から第1の冷媒出口32に流れる冷媒量を所定量(すなわち、一定量)に絞る絞り部35aが設けられている。
【0121】
上述の第1〜第3実施形態では、2つの蒸発器を用いた例について説明したが、これに代えて、3つ以上の蒸発器を用いてもよい。
【0122】
上述の第2実施形態では、高圧センサ15の検出圧力値Pdが高圧閾値Hs以上であるか判定して(図8中ステップS130)、この判定に基づいて電磁弁5Aを開閉する(図8中ステップS120、S140)例について説明したが、上述の第1、第3の実施形態において、同様に、高圧センサ15の検出圧力値Pdが高圧閾値Hs以上であるか否かを判定して、この判定に基づいて電磁弁5Aを開閉する制御処理を加えてもよい。
【0123】
上述の第2実施形態では、高圧センサの検出圧力値Pdが高圧限界値Hg以上であるか否かを判定して(ステップS90)、この判定に基づいてコンプレッサ1を緊急停止する(ステップS91)例について説明したが、上述の第1、第3の実施形態において、同様に、高圧センサの検出圧力値Pdが高圧限界値Hg以上であるか否かを判定して、この判定に基づいてコンプレッサ1を緊急停止する制御処理を加えてもよい。
【0124】
上述の第1〜第3実施形態では、冷凍サイクル装置を車両用空調装置に適用した例について説明したが、これに代えて、設置型冷凍装置、設置型空調装置等に適用してもよい。
以下、上記実施形態と特許請求項の範囲の構成との対応関係について説明すると、第2の電動送風機7aが上流側送風機に相当し、第1の電動送風機6aが下流側送風機に相当し、S160が判定手段に相当し、S161、S162の制御処理が第1の制御手段に相当し、S120、S130、S140の制御処理が第2制御手段に相当し、S90、S91の制御処理が第3制御手段に相当している。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本発明の第1実施形態を示す車両空調用冷凍サイクルの構成図である。
【図2】図1のエアコンECUの制御処理を示す図表である。
【図3】上述の第1実施形態の効果を説明するためのグラフである。
【図4】上述の第1実施形態の効果を説明するためのグラフである。
【図5】上述の第1実施形態の固定絞り径の適正値を説明するためのグラフである。
【図6】本発明の第2実施形態のエアコンECUの制御処理を示す図表である。
【図7】上述の第2実施形態のエアコンECUの制御処理を示す図表である。
【図8】上述の第2実施形態のエアコンECUの制御処理を示すフローチャートである。
【図9】本発明の第3実施形態を示す車両空調用冷凍サイクルの構成図である。
【図10】他の例の三方分岐ブロックの斜視図である。
【図11】他の例の三方分岐ブロックの透視図である。
【符号の説明】
【0126】
1…コンプレッサ、3…内部熱交換器、4…減圧器、
5A、5B…電磁弁、5C…オリフィスチューブ、6、7…蒸発器、
6a、7a…電動送風機、9…バイパス流路、10…エアコンECU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を吸入し、圧縮し、吐出する圧縮機(1)と、
前記圧縮機から吐出される冷媒を冷却する冷却器(2)と、
前記冷却器から流出した冷媒を減圧する減圧器(4)と、
前記圧縮機を含む冷凍サイクル中に直列に配置され、前記減圧器により減圧された冷媒をそれぞれ蒸発させる複数の蒸発器(6、7)と、
前記複数の蒸発器のうち冷媒流れ上流側蒸発器をバイパスして、当該上流側蒸発器に対して下流側に配置される下流側蒸発器の冷媒入口側に流すバイパス流路(9)と、
前記減圧器と前記上流側蒸発器との間に配置され、前記上流側蒸発器の運転を停止して前記下流側蒸発器を運転させるシングル運転時には、前記減圧器と前記上流側蒸発器との間を閉鎖し、前記上流側蒸発器と前記下流側蒸発器とをそれぞれを運転させるデュアル運転時には、前記減圧器と前記上流側蒸発器との間を開放する第1弁(5A)と、
前記デュアル運転時に、前記バイパス流路に流れる冷媒流量を絞る流量絞り状態を提供する絞り手段(5B、5C)と、を備えることを特徴とする記載の冷凍サイクル装置。
【請求項2】
前記絞り手段(5B)は、前記バイパス流路を全開する全開状態と、前記流量絞り状態とを提供する第2弁(5B)であり、
前記シングル運転時には、前記第2弁は前記全開状態を提供することを特徴とする請求項1に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項3】
前記シングル運転時に、前記絞り手段(5B、5C)は、前記流量絞り状態を提供する第2弁(5B、5C)であることを特徴とする請求項1に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項4】
前記絞り手段(5B)は、前記バイパス流路を全閉する全閉状態と、前記流量絞り状態とを提供する第2弁(5B)であり、
前記デュアル運転時に、前記第2弁(5B)は、前記全閉状態と前記流量絞り状態とをそれぞれ提供することを特徴とする請求項1または3に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項5】
前記デュアル運転から前記シングル運転に切り替える際には、前記第2弁(5B)を全開状態にしてから所定期間経過した後に前記第1弁(5A)により前記減圧器と前記上流側蒸発器との間を閉鎖することを特徴とする請求項2ないし4のうちいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置。
【請求項6】
前記シングル運転から前記デュアル運転に切り替える際には、前記第1弁(5A)により前記減圧器と前記上流側蒸発器との間を開放してから所定期間経過した後に前記第2弁(5B)を前記流量絞り状態にすることを特徴とする請求項2ないし5のうちいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置。
【請求項7】
前記上流側蒸発器の過熱度が所定値以上であるか否かを判定する判定手段(S160)と、
前記デュアル運転時には、前記上流側蒸発器の過熱度が所定値以上であると前記判定手段が判定したときに前記第2弁を前記全閉状態にし、前記上流側蒸発器の過熱度が所定値未満であると前記判定手段が判定したときに前記第2弁を前記流量絞り状態にする第1の制御手段(S161、162)と、を備えることを特徴とする請求項4に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項8】
外気温を検出する外気温検出手段(14)を備え、
前記外気温検出手段の検出外気温が所定温度以上のときに前記上流側蒸発器の過熱度が所定値未満であると前記判定手段が判定し、前記外気温検出手段の検出外気温が所定温度未満のときに前記上流側蒸発器の過熱度が所定値以上であると前記判定手段が判定することを特徴とする請求項7に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項9】
前記上流側蒸発器に向けて送風する上流側送風機(7a)を備え、
前記上流側送風機の送風量が閾値未満のときに前記上流側蒸発器の過熱度が所定値未満であると前記判定手段が判定し、前記上流側送風機の送風量が閾値以上のときに前記上流側蒸発器の過熱度が所定値以上であると前記判定手段が判定することを特徴とする請求項7に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項10】
前記下流側蒸発器に向けて送風する下流側送風機(6a)を備え、
前記判定手段の判定に用いる前記閾値は、前記下流側送風機の送風量に設定されていることを特徴とする請求項9に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項11】
前記絞り手段(5C)は、オリフィスチューブであることを特徴とする請求項1、3に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項12】
前記減圧器の出口側冷媒を前記上流側蒸発器の冷媒入口側と前記バイパス流路の冷媒入口側とのそれぞれに分流する三方分岐配管(30)を備えており、
前記絞り手段は前記三方分岐管に設けられていることを特徴とする請求項11に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項13】
前記三方分岐配管は、ブロック状に形成されるブロック材に設けられていることを特徴とする請求項12に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項14】
前記絞り手段(5B、5C)は、直径が1mm〜2.5mmの冷媒絞り流路により、前記バイパス流路に流れる冷媒流量を所定量に絞るようになっていることを特徴とする請求項1ないし13のうち1つに記載の冷凍サイクル装置。
【請求項15】
前記圧縮機の冷媒吐出口と前記減圧器の冷媒入口との間の冷媒の高圧圧力を検出する高圧検出手段(15)と、
前記高圧検出手段の検出圧力が第1の圧力値未満であるとき前記第1弁により前記減圧器と前記上流側蒸発器との間を閉鎖し、前記高圧検出手段の検出圧力が第1の圧力値以上であるとき前記第1弁により前記減圧器と前記上流側蒸発器との間を開放する第2の制御手段(S120、S130、S140)と、を備えることを特徴とする請求項1ないし14のいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置。
【請求項16】
前記高圧検出手段の検出圧力が第2の圧力値未満であるときに前記圧縮機を稼働し、前記高圧検出手段の検出圧力が前記第2の圧力値以上であるときに前記圧縮機を停止する第3の制御手段(S90、S91)を備え、
前記第2の圧力値は、前記第1の圧力値以上の値に設定されていることを特徴とする請求項15に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項17】
前記シングル運転時には、前記第1弁により前記減圧器と前記上流側蒸発器との間を、所定期間毎に開放するようになっていることを特徴とする請求項1ないし16のうち1つに記載の冷凍サイクル装置。
【請求項18】
前記冷媒は二酸化炭素であることを特徴とする請求項1ないし17のうち1つに記載の冷凍サイクル装置。
【請求項19】
請求項1ないし18のうち1つに記載の冷凍サイクル装置を備え、車室内を空調する車両用空調装置であって、
前記上流側蒸発器を備え、前記車室内のうち後席側空間を空調する後席用空調ユニット(7c)と、
前記下流側蒸発器を備え、前記車室内のうち前席側空間を空調する前席用空調ユニット(6c)と、を備えることを特徴とする車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−2597(P2009−2597A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−164935(P2007−164935)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】