説明

冷却ファン

【課題】低電圧での駆動を可能にした冷却ファンを提供する。
【解決手段】 冷却ファン1は、等間隔に並設された複数の舌片状のフィン部4と、フィン部4の基端に連結すると共に、断面波形に形成された基部3とを備えている。フィン部4は、平行に配設された一対のフィン部4A,4Bからなる。フィン部4A,4Bは、基部3と共に薄膜2によって一体成形されている。薄膜2は、二方向性を有する形状記憶合金層7と、形状記憶合金層7に貼り合わされた電気絶縁層8とからなる。形状記憶合金層7は、電気絶縁層8の表面上でコの字状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種携帯通信機器(例えば、携帯電話)などの発熱源を冷却するために用いる小型の冷却ファンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、圧電セラミックを用いた冷却ファンが知られている。例えば特許文献1には、圧電セラミックからなる圧電振動子と、この圧電振動子に対して直立する複数のブレードとを備えた冷却ファンが開示されている。そして、圧電振動子の屈曲運動により複数のブレードが振動することで、風量の増加が図られている。また、特許文献2には、長尺状の弾性金属板と、この弾性金属板の長さの中央部で弾性金属板を挟むように設けられた2枚の圧電セラミック板とを備えた冷却ファンが開示されている。圧電セラミック板に交流電圧を印加することで、弾性金属板の両自由端が振動して風を起し、冷却ファンに隣接した電子部品の冷却が図られている。
【特許文献1】特開平3−33500号公報
【特許文献2】特開2000−323882号公報
【特許文献3】特開2002−130198号公報
【特許文献4】特開2004−64991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
最近では、携帯通信機器の低電圧化の促進に伴い、これらの携帯通信機器の駆動電圧は数V程度まで低下している。従って、携帯通信機器に用いられる冷却ファンも低電圧での駆動が要求されている。しかしながら、上記の文献に開示されている冷却ファンは、圧電セラミックを振動させるために数十Vの交流電圧が必要である。そのため、圧電セラミックを用いた冷却ファンは、低電圧での駆動に適し難い。
【0004】
本発明は、低電圧での駆動を可能にした冷却ファンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る冷却ファンは、往復運動する平板状のフィン部を備えた冷却ファンにおいて、フィン部は、形状記憶合金層と、形状記憶合金層に貼り合わされた電気絶縁層とが設けられた薄膜を有し、形状記憶合金層には電流が供給されることを特徴とする。
【0006】
本発明に係る冷却ファンでは、平板状のフィン部は、形状記憶合金層と電気絶縁層とを有する薄膜からなる。そして、形状記憶合金層の「形状記憶効果」を利用し、形状記憶合金層が通電加熱と自然冷却とを交互に繰り返すことにより、フィン部が往復運動を行い風が生じる。加えて、形状記憶合金層を加熱するために必要とされる電圧が数V程度であり、駆動電圧が小さいので、その結果として、冷却ファンの低電圧での駆動が可能となる。しかも、電気絶縁層の採用によって、フィン部の密集化も容易となる。
【0007】
本発明に係る冷却ファンにおいて、薄膜には、電気絶縁層において、形状記憶合金層と反対側の面に貼り合わされたバネ層が更に設けられていると好適である。形状記憶合金層の復元力としてバネ層が利用されるので、フィン部を効率の良く往復運動させることができる。そして、電気絶縁層によって形状記憶合金層とバネ層との電気的導通が阻止され、電気的損失防止が図られる。
【0008】
本発明に係る冷却ファンにおいて、フィン部は、薄膜の先端に固定されたブレード部を更に備えると好適である。ブレード部の採用により、フィン部を大型化させることができ、所望の風量を任意に作り出すことができる。
【0009】
本発明に係る冷却ファンにおいて、形状記憶合金層は、電気絶縁層の表面上でコの字状に形成され、フィン部は、互いに平行又はハの字になるように一列に並べられていると好適である。フィン部が互いに平行になるように並べられた場合には、振動する際に隣接したフィン部同士が互いに干渉せず、フィン部を高密度に配列する可能となる。また、フィン部が互いにハの字になるように並べられた場合には、フィン部の配置高さを低くすることができ、冷却ファンの薄型化を図ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の冷却ファンによれば、低電圧での駆動を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る冷却ファンの好適な実施形態について詳細に説明する。
【0012】
〔第1実施形態〕
図1〜図3に示すように、冷却ファン1は、等間隔に並設された複数の舌片状のフィン部4と、断面矩形波状に形成されると共に、一列に整列したフィン部4を基端で連結する基部3とを備えている。そして、フィン部4は、平行に配設された一対のフィン部4A,4Bからなる。
【0013】
基部3は、一枚の薄膜2をその長手方向に対して直交する方向に沿って折り曲げることによって、6つの山部6と5つの谷部5とからなり、山部6と谷部5とが交互に出現する。谷部5は、同一平面上に形成され、山部6は、谷部5から隆起すると共に、断面略コの字状をなし、谷部5に対して垂直に立設する側壁6a,6bと、側壁6a,6b間を架け渡す平板状の頂部6cとからなる。谷部5は平板状に形成されている。
【0014】
側壁6a,6bには、舌片状に形成されたフィン部4A,4Bがそれぞれ設けられ、各フィン部4A,4Bは、冷却ファン1の幅方向に延在する。フィン部4A,4Bは、側壁6a,6bとほぼ同一平面上に位置する。フィン部4A,4Bは、側壁6a,6bと一体をなす。そして、長手方向において交互に出現するフィン部4A,4Bは、互いに平行になるように一列に並べられている。
【0015】
図3に示すように、フィン部4A,4B及び基部3を構成する薄膜2は、二方向性を有する形状記憶合金層7と、形状記憶合金層7に貼り合わされた電気絶縁層8とを備えている。形状記憶合金層7は、例えばNi−Ti合金やCu−Zn−Al合金からなり、特殊な熱処理を施すことにより二方向性が付与される。一方、電気絶縁層8は、耐熱性に優れたポリイミッドからなる。
【0016】
ここで、二方向性とは、形状記憶合金層7の形状回復動作を可逆的にすることを意味している。すなわち、形状記憶合金層7を加熱すると、形状記憶合金層7の「形状記憶効果」が働き、記憶された形状に回復し、形状記憶合金層7を冷却すると、形状記憶合金層7が再び加熱前の形状に戻る。なお、Ni−Ti合金やCu−Zn−Al合金への特殊な熱処理方法は周知の方法で行えばよい。
【0017】
図1に示すように、形状記憶合金層7は、電気絶縁層8の表面上でコの字状に形成されている。具体的には、形状記憶合金層7は、側壁6a,6b及びフィン部4A,4Bの外縁部に沿って延在している。この場合、電流の流れルートが長くなるので、形状記憶合金層7を短時間で均一に加熱することが可能となる。
【0018】
このような構成の冷却ファン1は、図4に示すようなホルダ9内に収容され、例えば携帯電話の発熱源(図示せず)の冷却に利用される。熱伝導性の高い材質からなるホルダ9は、上下に分離された上部ホルダ10と下部ホルダ11とを備えている。上部ホルダ10と下部ホルダ11とは、それぞれ断面コの字状に形成され、平板状のベース部10a,11aと、ベース部10a,11a部に対して垂直に立設された枕部10b,10c,11b,11cとからなる。
【0019】
また、下部ホルダ11の枕部11cには、ベース部11aと連通する溝部11dが形成されている。この溝部11dには、冷却ファン1の形状記憶合金層7に電流を供給する通電用フレキシブルプリント配線板(通電用FPC)12が配置されている。そして、通電用FPC12には、互いに電気絶縁された2本の銅箔回路12a,12bが内蔵されている。図4(b)に示すように、銅箔回路12aは、冷却ファン1の一端に位置するフィン部4Bの形状記憶合金層7に対して、一側の端子12cを介して電気的に接続されている。銅箔回路12bは、冷却ファン1の他端に位置するフィン部4Aの形状記憶合金層7に対して、他側の端子(図示せず)を介して電気的に接続されている。
【0020】
上部ホルダ10と下部ホルダ11とを合わせることにより、冷却ファン1はホルダ9の内部に収められ、冷却ファン1の基部3及び通電用FPC12は、接着剤によってベース10a,11aに固定される。
【0021】
以上のように構成された冷却ファン1にあっては、平板状のフィン部4A,4Bは、二方向性を有する形状記憶合金層7と電気絶縁層8とを有する薄膜2からなるので、通電用FPC12を介して冷却ファン1の形状記憶合金層7に直流電流を供給すると、形状記憶合金層7のもつ抵抗で熱が発生し、形状記憶合金層7が加熱される。そして、加熱により形状記憶合金層7の「形状記憶効果」が働き、記憶された形状に回復する力が発生し、フィン部4A,4Bの先端は、片側にたわむ。そして、フィン部4A,4Bへの通電を止めると、形状記憶合金層7が自然冷却し、形状記憶合金層7が加熱前の形状に戻る力(復元力)が生じ、フィン部4A,4Bの先端は元の状態に戻る。従って、通電用FPC12への通電のON/OFFを高速で切り換えて、フィン部4A,4Bへの通電加熱と自然冷却とを交互に繰り返すことにより、フィン部4A,4Bが高速で往復運動し風が生じる。
【0022】
さらに、形状記憶合金層7を加熱するために必要とされる電圧は数V程度であり、駆動電圧が小さいので、冷却ファン1の低電圧での駆動が可能となる。しかも、電気絶縁層8の採用によって、フィン部4A,4Bの密集化も容易となる。また、フィン部4A,4Bが互いに平行になるように一列に並べられているため、往復運動する際に、隣接したフィン部4A,4B同士は互いに干渉せず、フィン部4A,4Bを高密度に配列する可能となる。この結果、大きなスペースの確保を必要とせず、冷却ファン1の小型化を促進させることができ、且つ小型であっても風量の増加を図ることが可能となる。
【0023】
以下、図5及び図6を参照して冷却ファン1の製造方法について説明する。
【0024】
まず、一枚の電気絶縁シート13を準備し、その表面に形状記憶合金シート14を貼り合わせて、薄膜2を形成する(図5(a)、(b)参照)。形状記憶合金シート14は、事前に形状を記憶させるための特殊な熱処理が施されたものである。次に、薄膜2を打抜きプレス加工することによって所定のパターンを形成する。その後、形状記憶合金シート14が電気絶縁シート13の表面上でコの字状になるように、形状記憶合金シート14をエッチング処理し、不必要な形状記憶合金シート14を除去する。これによって、冷却ファン1の展開ピース15が複数形成される(図5(c)参照)。
【0025】
続いて、個々の展開ピース15を切り取り、図6(a)中の折り曲げる線L1,L2に沿って展開ピース15を直角に折り、冷却ファン1を形成する(図6(b)参照)。
【0026】
〔第2実施形態〕
図7〜図9に示すように、冷却ファン16は、複数の舌片状のフィン部18と、断面鋸歯状に形成されると共に、一列に形成されたフィン部18と基端で連結する基部17とを備えている。そして、フィン部18は、一対のフィン部18A,18Bからなり、基部17は、山部と谷部とが交互に出現するようV字状に折り曲げられている。
【0027】
基部17の側壁17a,17bには、舌片状に形成されたフィン部18A,18Bが一体的に形成され、フィン部18A,18Bは、側壁17a,17bとほぼ同一平面上に位置する。そして、複数のフィン部18A,18Bは、ハの字状をなし、一列に並べられている。
【0028】
図9に示すように、薄膜19は、3層構造をなし、中間に配置された電気絶縁層20と、電気絶縁層20の表面に貼り合わされた形状記憶合金層21と、形状記憶合金層21と反対側で電気絶縁層20の裏面に貼り合わされたバネ層22とを備えている。
【0029】
形状記憶合金層21は、一方向性を有するNi−Ti合金やCu−Zn−Al合金からなり、電気絶縁層20は、耐熱性に優れたポリイミッドからなる。一方、バネ層22は、形状記憶合金層21の復元力として用いられる。バネ層22は、バネ性に優れたリン青銅からなる。
【0030】
形状記憶合金層21は、電気絶縁層20の表面上でコ字状に形成されている。具体的には、形状記憶合金層21は、側壁17a,17b及びフィン部18A,18Bの外縁部に沿って延在している。この場合、電流の流れルートが長くなるので、形状記憶合金層21を短時間で均一に加熱することが可能となる。
【0031】
このような構成の冷却ファン16は、冷却ファン1と同様に、図4に示すようなホルダ9内に収容され、携帯電話などの発熱源の冷却に用いられる。
【0032】
以上のように構成された冷却ファン16にあっては、平板状のフィン部18A,18Bは、形状記憶合金層21と電気絶縁層20とバネ層22とを有する薄膜19からなるので、形状記憶合金層21に直流電流を供給すると、形状記憶合金層21のもつ抵抗で熱が発生し、形状記憶合金層21が加熱される。そして、加熱により形状記憶合金層21の「形状記憶効果」が働き、記憶された形状に回復する力が発生し、フィン部18A,18Bの先端は、片側にたわむ。そして、フィン部18A,18Bへの通電を止めると、形状記憶合金層21が自然冷却し、バネ層22に付勢されたバネ力により加熱前の形状に強制的に復元される。このため、フィン部18A,18Bの先端を元の状態に素早く戻すことができる。従って、通電用FPCへの通電のON/OFFを高速で切り換えて、フィン部18A,18Bへの通電加熱と自然冷却とを交互に繰り返すことにより、フィン部18A,18Bが高速で往復運動し風が生じる。このように、バネ層22を利用することで、記憶された形状に回復した形状記憶合金層21をスムーズに且つ素早く復元させることができる。その結果、フィン部18A,18Bを効率の良く往復運動させることができる。
【0033】
加えて、形状記憶合金層21を加熱するために必要とされる電圧が数V程度であり、駆動電圧が小さいので、冷却ファン16の低電圧での駆動が可能となる。しかも、電気絶縁層20の採用によって、フィン部18A,18Bの密集化を向上することができると共に、形状記憶合金層21とバネ層22との電気的導通が阻止され、電気的損失防止が図られる。また、フィン部18A,18Bが互いにハの字になるように並べられているため、フィン部18A,18Bの配置高さを低くすることができ、冷却ファン16の薄型化を図ることができる。
【0034】
冷却ファン16の製造方法は、薄膜2に代えて形状記憶合金層21と電気絶縁層20とバネ層22とからなる薄膜19を用いる点で冷却ファン1と異なっているが、製造手順などは冷却ファン1と同様のため、重複説明を省略する。
【0035】
〔第3実施形態〕
本実施形態に係る冷却ファン23は、平面状に形成されている点、及び平板状のブレード26を有する点で冷却ファン1と異なっている。図10に示すように、冷却ファン23は、平板状の基部25と、基部25と一体をなすフィン部30とを有し、フィン部30は、基部25から突出すると共に等間隔に並設された複数の舌片状の振動部24と、振動部24の先端に固定されたブレード26からなる。基部25と複数の振動部24とは、前述した冷却ファン1の展開ピース15と同様な構造を有し、薄膜2からなる。振動部24とブレード26とで、フィン部30が形成され、振動部24への通電加熱と自然冷却とを交互に繰り返すことにより、振動部24が往復運動し、ブレード部26に振動が与えられる。その結果、ブレード部26が往復運動し風が生じる。
【0036】
このような構成により、冷却ファン23は、冷却ファン1と同様に低電圧での駆動が可能となるほか、ブレード部26の採用によって、フィン部を大型化させることができ、所望の風量を任意に作り出すことができる。
【0037】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。例えばフィン部の形状は上記の実施形態に限らず、扇状やその他の形状でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る冷却ファンの第1実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示された冷却ファンの平面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿った断面図である。
【図4】冷却ファンをホルダに取り付けた状態を示す斜視図である。
【図5】冷却ファンの製造方法を示す斜視図である。
【図6】冷却ファンの製造方法を示す斜視図である。
【図7】本発明に係る冷却ファンの第2実施形態を示す斜視図である。
【図8】図7に示された冷却ファンの平面図である。
【図9】図8のVIII−VIII線に沿った断面図である。
【図10】本発明に係る冷却ファンの第3実施形態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0039】
1,16,23…冷却ファン、2,19…薄膜、4A,4B,18A,18B,30…フィン部、7,21…形状記憶合金層、8,20…電気絶縁層、22…バネ層、26…ブレード部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
往復運動する平板状のフィン部を備えた冷却ファンにおいて、
前記フィン部は、形状記憶合金層と、前記形状記憶合金層に貼り合わされた電気絶縁層とが設けられた薄膜を有し、前記形状記憶合金層には電流が供給されることを特徴とする冷却ファン。
【請求項2】
前記薄膜には、前記電気絶縁層において、前記形状記憶合金層と反対側の面に貼り合わされたバネ層が更に設けられていることを特徴とする請求項1記載の冷却ファン。
【請求項3】
前記フィン部は、前記薄膜の先端に固定されたブレード部を更に備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の冷却ファン。
【請求項4】
前記形状記憶合金層は、前記電気絶縁層の表面上でコの字状に形成され、前記フィン部は、互いに平行又はハの字になるように一列に並べられていることを特徴とする請求項1又は2記載の冷却ファン。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−138558(P2008−138558A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−324362(P2006−324362)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000001225)日本電産コパル株式会社 (755)
【Fターム(参考)】