説明

冷却制御機能付き電子カメラ、顕微鏡

【課題】 消費電力が少なく、かつ高画質の画像を得ることが可能な冷却制御機能付き電子カメラを提供する。
【解決手段】 システムコントローラ6は、撮像手段1の駆動モードに応じて、パルス駆動用パルス発生器42を動作させるか又は可変抵抗設定用D/A変換器43を動作させるかを判断する。電子カメラが画像モニタリングモードやフォーカスモードのように、画質優先としない状態で動作している場合、消費電力の少ないパルス駆動用パルス発生器42を動作させ、画像記録モードのように画質優先の状態で動作しているときはノイズの少ない可変抵抗設定用D/A変換器43を動作させる。これにより、電子カメラのユーザは、撮像手段1をいつでも少ない消費電力により冷却した状態に保持できるので、気に入った画像を好みのタイミングで高画質に撮影することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却制御機能付き電子カメラ及び顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子カメラには、例えばCCD型やMOS型等の撮像素子が用いられている。これらの撮像素子は、使用時の自己発熱や環境温度の上昇に応じて、暗電流に起因する固定パターン雑音(Fixed Pattern Noise、以下、FPNと略記)を生じる。FPNは、画像信号と雑音とのSN比を悪化させ、画像信号の画質を低下させる原因になる。
前記FPNを減少させる技術として、従来から撮像素子にペルチェ素子等の冷却手段を設け、撮像素子を冷却して暗電流の増加を抑制するものが知られている。
【0003】
図4は撮像素子の温度(横軸)に対する輝度の正規化出力(縦軸)を表したものである。これを見ると電荷蓄積時間が長い場合や、撮像素子の温度が高い場合は、FPNが画質を左右することになる。そこで、撮像素子を冷却することは、FPNを減少させて画像信号の画質を向上させる上で、大きな効果を有する。
前記冷却手段を用いた撮像素子の冷却温度の調整は、冷却手段に供給する電力を調整することによって行われ、具体的には広義の可変抵抗(可変抵抗器(電気的に抵抗を可変する装置を含む)やトランジスタ等)を用いて供給する電力を調整していた(以下、直流駆動と称する)。例えば、直流駆動において、可変抵抗としてトランジスタを用いた場合、トランジスタのベース電流を調整して、冷却手段に供給する電力を調整していた。
【0004】
しかし、直流駆動による電力調整は、可変抵抗器やトランジスタ等の広義の可変抵抗における発熱量が多く、冷却効果を低下させると共に、無駄な電力を消費するという短所がある。
そこで、特許文献1に記載のように、スイッチング素子を用いて冷却手段に供給する電力をオン/オフ制御し、オン時間とオフ時間の比率で冷却手段への供給電力をPWM制御(以下、パルス駆動と称する)する発明が提案されている。このパルス駆動は、冷却手段への供給電力が変化しても、その効率は常に高い状態を保つことができるため、回路部分の発熱は非常に少なく、無駄な電力消費を抑制することができる。
【特許文献1】特開平7−295659号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、パルス駆動に基づく撮像素子の冷却温度の調整には、次の課題がある。
すなわち、冷却手段へ供給する電力をオン/オフ制御(PWM制御)するため、電子カメラの電源電圧に規則的なリップルが生じる。その結果、撮像画像にノイズが生じ、画質を悪化させてしまうという課題がある。
本発明は、このような従来技術の課題に着目して為されたもので、消費電力が少なく、かつ高画質の画像を得ることが可能な冷却制御機能付き電子カメラ及び顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の冷却制御機能付き電子カメラは、被写体を撮像して画像信号を生成する撮像手段と、前記撮像手段を冷却する冷却手段とを備えた冷却制御機能付き電子カメラにおいて、前記冷却手段への供給電力の調整を直流駆動とするか又は前記冷却手段への供給電力の調整をパルス駆動とするかを選択する選択手段を備えていることを特徴とする。
請求項2記載の冷却制御機能付き電子カメラは、被写体を撮像して画像信号を生成する撮像手段と、前記撮像手段を冷却する冷却手段とを備えた冷却制御機能付き電子カメラにおいて、前記撮像手段の動作モードとして画像を優先するモードか、画質を優先するモードかを設定するコントローラと、設定された前記撮像手段の動作モードが、画像を優先するモードか画質を優先するモードかを判別する動作モード判別手段と、前記判別された動作モードが画質を優先する動作モードであると判別されたとき、前記冷却手段への供給電力の調整を直流駆動とし、前記判別された動作モードが画質を非優先とする動作モードであると判別されたとき、前記冷却手段への供給電力の調整をパルス駆動とする冷却制御手段とを備えていることを特徴とする。
【0007】
請求項3記載の冷却制御機能付き電子カメラは、請求項2記載の冷却制御機能付き電子カメラにおいて、前記画質を非優先とする動作モードは、画像モニタリングモード又はフォーカスモード又は露出制御モードであることを特徴とする。
請求項4記載の冷却制御機能付き電子カメラは、請求項2記載の冷却制御機能付き電子カメラにおいて、画質を優先する動作モードは、画像記録モードであることを特徴とする。
【0008】
請求項5記載の冷却制御機能付き電子カメラは、請求項2記載の冷却制御機能付き電子カメラにおいて、前記冷却制御手段は、前記冷却手段へ供給する電力の調整をする可変抵抗と、前記可変抵抗を制御する可変抵抗値設定用D/A変換器と、前記可変抵抗を制御する最適なパルス幅を有するパルスを発生させるパルス駆動用パルス発生器を有し、
前記直流駆動の際は、前記可変抵抗値設定用D/A変換器により制御される前記可変抵抗により前記冷却手段は駆動され、前記パルス駆動の際は、前記パルス駆動用パルス発生器からの出力で制御される前記可変抵抗により前記冷却手段は駆動されることを特徴とする。
【0009】
請求項6記載の顕微鏡は、請求項2から請求項5の何れか一つに記載の電子カメラを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、消費電力が少なく、かつ高画質の画像を得ることが可能な冷却制御機能付き電子カメラ及び顕微鏡を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明を電子カメラに適用した場合の第1の実施形態を示すブロック図である。
図1において、撮像手段1は、CCD型イメージセンサやMOS型イメージセンサ等の撮像素子である。被写体からの光は、図示しないレンズや絞りなどの光学系を介して、撮像手段1に入射される。入射された光は、撮像手段1において光電変換される。すなわち、撮像手段1は、画像処理手段2から入力される電荷蓄積制御信号(図示せず)に応じて露光時間を制御し、更に画像処理手段2から入力される読出信号(図示せず)に応じて順次画素単位に画像信号を出力する。
【0012】
ここで、撮像手段1は、システムコントローラ6からの指令を画像処理手段2を介して受け、システムコントローラ6からの指令に応じて、例えば画像モニタリングモード、フォーカスモード、露出制御モード、画像記録モード等の各動作モードに設定されている。
ここで、画像モニタリングモードとは、電子カメラの構図確定用画面(LCD等)に画像をモニタするモードである。また、フォーカスモードとは、被写体に焦点を合せるモードである。また、露出制御モードとは、適正露出を求めるモードである。また、画像記録モードとは、撮影した画像をメモリカード等の記録媒体(図示せず)に格納するモードである。
【0013】
撮像手段1から出力された画像信号は、画像処理手段2に入力される。画像処理手段2は、入力された画像信号を増幅器(図示せず)を介して振幅調整し、その後アナログ値からデジタル値に変換(A/D変換)し、デジタル値の画像信号として出力する。
撮像手段1には、例えばペルチェ素子からなる冷却手段5が密着して設けられている。また撮像手段1には、その温度を検出する温度センサ3が密着して設けられている。温度センサ3のアナログ出力は、冷却制御手段4の温度計測用A/D変換器41によってデジタル値に変換される。システムコントローラ6は、前記温度計測用A/D変換器41から出力されるデジタル値を読み取ることにより、撮像手段1の温度を検出する。
【0014】
システムコントローラ6は、撮像手段1の動作モードに応じて、冷却制御手段4の駆動モード(直流駆動又はパルス駆動)を選択する。
すなわち、システムコントローラ6は、撮像手段1が画像記録モード(画質優先)で動作している場合は、冷却制御手段4を直流駆動で動作させることを選択する。この場合、温度センサ3から得られる撮像手段1の冷却温度を考慮して、可変抵抗値設定用D/A変換器43を動作させ、可変抵抗44を適正値に制御する。これによって、冷却手段5への供給電力が適切に調整される。なお、画像記録モードは、通常、画像記録時に限って設定されるため、直流駆動で動作させることに起因して生じる「無駄な電力消費」という問題はほとんど無視できる。
【0015】
逆に、システムコントローラ6は、撮像手段1が画像モニタリングモードやフォーカスモードや露出制御モードのように、画質優先としない状態で動作している場合、冷却制御手段4をパルス駆動で動作させることを選択する。このとき、システムコントローラ6は、温度センサ3から得られる撮像手段1の冷却温度を考慮して、パルス駆動用パルス発生器42を動作させる。パルス駆動用パルス発生器42は、最適なパルス幅を有するパルスを可変抵抗44に出力し、これによって冷却手段5に対する供給電力が適切に調整される。なお、画像モニタリングモードやフォーカスモードや露出制御モードでは、高画質が要求されないため、パルス駆動で動作させることに起因して生じる「電源電圧における規則的なリップルの発生」、及び「撮像画像のノイズと画質の悪化」はほとんど問題にならない。
【0016】
図2は、可変抵抗44と冷却手段5の一例を示す回路図である。図2では、可変抵抗44としてトランジスタTrを用いているが、本発明はこれに限定されるものではなく、電気的な可変抵抗装置やFET等の他のスイッチング素子を用いてもよい。冷却手段5としては、ペルチェ素子51を用いている。また、図中、Vtは基準電圧である。
なお、以上の説明では、システムコントローラ6が自動的に冷却方式を切換えるように構成したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ユーザが切換スイッチ等で手動で切換えるように構成することも可能である。
【0017】
第1の実施形態によれば、電子カメラが画像モニタリングモードやフォーカスモードや露出制御モードのように、画質優先としない状態で動作している場合、消費電力の少ないパルス駆動で撮像手段1を冷却する。また、電子カメラが画像記録モードのように、画質優先の状態で動作しているときは、ノイズの少ない直流駆動で撮像手段1を冷却する。したがって、電子カメラのユーザは、設定されたモードに応じて適した駆動方法により撮像手段1をいつでも冷却した状態に保持できるので、気に入った画像を好みのタイミングで高画質に撮影することができる。
【0018】
また、パルス駆動と直流駆動の選択は、カメラのモード切換えに連動し、自動的に適する駆動手段が選択されてもよいし、使用者がスイッチ等の選択手段で切換えるようにしてもよい。
また、第1の実施形態では、電子カメラを例にして説明したが、本発明はこれに限定さされるものではなく、一般の固体撮像素子を用いた撮像装置に広く適用することができる。
(第2の実施形態)
図3は、本発明の電子カメラを顕微鏡に取り付けた第2の実施形態を示すブロック図である。
【0019】
図3において、図1に示す第1の実施形態と同一部分には同一符号を付してその説明を省略する。図3に示す第2の実施形態が図1に示す第1の実施形態と相違している点は、顕微鏡200に電子カメラ100が取り付けられている点である。
図3において、21は結像レンズ、22はミラー、23は対物レンズ、24は標本、25はステージ、26は透過照明部、27は落射照明部(落射照明部からの光を標本へ導く光学系は不図示)、28は顕微鏡制御部である。
【0020】
この実施形態では、対物レンズ23及び結像レンズ21により、撮像手段1の撮像面上に標本24の像が結像され、この標本像に対して、撮影が行われる。
この実施形態によれば、電子カメラがパルス駆動によって常に冷却されているので、直流駆動に切換えることにより、顕微鏡200から得られる標本画像をいつでも高画質で撮影することが可能になる。本実施形態は、特に暗視野/蛍光撮影、及び夜間の長秒時天体撮像等において、FPNを大幅に減少させた画像を記録することができるので有用である。
【0021】
また、第2の実施形態では、電子カメラを例にして説明したが、本発明はこれに限定さされるものではなく、一般の撮像素子を用いた撮像装置にも広く適用することができる。
以上に説明した第1、第2の実施形態において、温度計測用A/D変換器41とパルス駆動用パルス発生器42と可変抵抗値設定用D/A変換器43とは、ワンチップマイクロコントローラなどに内蔵されているA/D変換器、D/A変換器、並びにパルス発生器を用いることで実現できる。同様に、温度計測用A/D変換器41とパルス駆動用パルス発生器42と可変抵抗値設定用D/A変換器43は、システムコントローラ6の内部に設けてもよい。
【0022】
また、以上に説明した第1、第2の実施形態において、冷却手段5に供給する電力量の算出にあたり、温度センサ3から出力される温度情報に加え、露光時間、電池残量等を電力供給量算出のパラメータとしてもよい。すなわち、露光時間はFPNの発生に影響しており、電池残量は冷却手段5に供給する電力量の上限を定めるのに有用である。
また、顕微鏡観察に用いる場合、微弱な光を長時間に渡って継時的に取得するような蛍光観察に対して、特に有効である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、電子カメラ、撮像装置、顕微鏡等の分野において、産業上大いに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態を示すブロック図である。
【図2】図1に示す可変抵抗と冷却手段の一例を示す回路図である。
【図3】本発明の第2の実施形態を示すブロック図である。
【図4】横軸は撮像素子の温度を示し、縦軸は輝度の正規化出力を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1…撮像手段、2…画像処理手段、3…温度センサ、4…冷却制御手段、5…冷却手段、6…システムコントローラ、21…結像レンズ、22…ミラー、23…対物レンズ、24…標本、25…ステージ、26…透過照明部、27…落射照明部、28…顕微鏡制御部、29…操作部、41…温度計測用A/D変換器、42…パルス駆動用パルス発生器、43可変抵抗値設定用D/A変換器、44…可変抵抗、51…ペルチェ素子、100…電子カメラ、200…顕微鏡、Tr…トランジスタ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体を撮像して画像信号を生成する撮像手段と、前記撮像手段を冷却する冷却手段とを備えた冷却制御機能付き電子カメラにおいて、
前記冷却手段への供給電力の調整を直流駆動とするか又は前記冷却手段への供給電力の調整をパルス駆動とするかを選択する選択手段を備えていることを特徴とする冷却制御機能付き電子カメラ。
【請求項2】
被写体を撮像して画像信号を生成する撮像手段と、前記撮像手段を冷却する冷却手段とを備えた冷却制御機能付き電子カメラにおいて、
前記撮像手段の動作モードとして画像を優先するモードか、画質を優先するモードかを設定するコントローラと、
設定された前記撮像手段の動作モードが、画像を優先するモードか画質を優先するモードかを判別する動作モード判別手段と、
前記判別された動作モードが画質を優先する動作モードであると判別されたとき、前記冷却手段への供給電力の調整を直流駆動とし、前記判別された動作モードが画質を非優先とする動作モードであると判別されたとき、前記冷却手段への供給電力の調整をパルス駆動とする冷却制御手段と
を備えていることを特徴とする冷却制御機能付き電子カメラ。
【請求項3】
請求項2記載の冷却制御機能付き電子カメラにおいて、
前記画質を非優先とする動作モードは、画像モニタリングモード又はフォーカスモード又は露出制御モードであることを特徴とする冷却制御機能付き電子カメラ。
【請求項4】
請求項2記載の冷却制御機能付き電子カメラにおいて、
前記画質を優先する動作モードは、画像記録モードであることを特徴とする冷却制御機能付き電子カメラ。
【請求項5】
請求項2記載の冷却制御機能付き電子カメラにおいて、
前記冷却制御手段は、前記冷却手段へ供給する電力の調整をする可変抵抗と、前記可変抵抗を制御する可変抵抗値設定用D/A変換器と、前記可変抵抗を制御する最適なパルス幅を有するパルスを発生させるパルス駆動用パルス発生器を有し、
前記直流駆動の際は、前記可変抵抗値設定用D/A変換器により制御される前記可変抵抗により前記冷却手段は駆動され、前記パルス駆動の際は、前記パルス駆動用パルス発生器からの出力で制御される前記可変抵抗により前記冷却手段は駆動されることを特徴とする冷却制御機能付き電子カメラ。
【請求項6】
請求項2から請求項5の何れか一つに記載の電子カメラを備えたことを特徴とする顕微鏡。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−110300(P2007−110300A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−297405(P2005−297405)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】