説明

冷却空気孔の管理が不要となる溶射方法

【課題】冷却空気孔の目詰まりを防ぐ溶射法を提供する。
【解決手段】入口51及び出口52を有する少なくとも1つの貫通孔5を有する本体1の表面10を被覆する方法であって、出口52が被覆すべき表面10に設けられ、被覆を溶射によって行なう方法において、溶射の際に、貫通孔5に流体を流し、この流体を、貫通孔5の出口52を通じて流出させ、被覆によって生じる貫通孔5の狭搾を実質的に防止する方法が提案される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立方法クレームの前提部に記載された本体の表面を被覆する方法に関するものである。さらに、本発明は、この方法により被覆されたタービン・ベーンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、タービン・ベーン、特に陸上設置式の産業用タービン又は航空機エンジンとして使用されるものなどの、非常に大きい熱応力又は腐食性応力を受けるガス・タービンのタービン・ベーンにおいて、ベーンを貫通して延在しタービン・ベーンの外部表面に開口する冷却空気孔をタービン・ベーンに設けることが、一般的な措置として行なわれている。この場合、タービンの作動中に、通常は冷却媒体として空気が、冷却空気孔内に流され、次いでタービン・ベーンの表面から外に出ることによって、冷却が実施される。この点、いわゆる気膜冷却、すなわち全ての冷却空気孔から流れ出る流体が、タービン・ベーンの表面に保護用のガス膜又は蒸気膜を形成し、流れによってベーンにおける熱歪みを大幅に低減させることも、しばしば行なわれる。
【0003】
修理若しくは保全の際に、又は新規の製造の際に、冷却空気孔が既に設けられている構成要素に溶射法により被覆を行なわなければならない場合に、特に問題が生じる。このような被覆は、熱保護層として、又は(高温)腐食に対する保護として、しばしばタービン・ベーンに対して塗布される。
【0004】
溶射においては、被覆材が、冷却空気孔の開口内に堆積し、冷却空気孔の流れ断面を大幅に制限する場合、又は開口が完全に閉塞する場合がある。これは、当然ながら、作動時の冷却効果に対して非常に不利な影響を与える。したがって、さらなる加工ステップにおいて、冷却空気孔から不要な被覆材を除去しなければならない。
【0005】
この問題は、例えば1ミリ未満の直径などの非常に小さな直径を有する孔に関して特に顕著である。特に上述した薄膜冷却では、例えばできる限り一様な流体膜をベーン表面上に実現することを目的として、より多数かつより小さな、言い換えるとより狭い冷却空気孔を設ける傾向がある。この冷却原理においては、全ての冷却空気孔が実際に開いた状態になっていることが非常に重要である。
【0006】
このように、冷却空気孔が開口している表面に溶射する場合、一般に、孔が閉塞していないこと、又は孔の流れ断面が狭められないことが必要となる。そうすることによってのみ、問題のない冷却特性を実現することが可能となる。
【0007】
この問題を解消するために、様々な措置が提案されている。例えば、国際公開第2010/078994号では、熱被覆を行なう前に、冷却空気孔の冷却穴又は出口の開口中に、マスキング材料として好ましくはポリマーを送り込むことが提案されている。このマスキング材料は、例えばUV放射による処理などによって被覆前に硬化される。そして、被覆処理の後に、マスキング材料は、さらなる加工ステップにおいて除去する必要があり、マスキング材料を完全に除去するようにしなければならない。これは、特に非常に細い孔に関しては、複雑及び/又は費用のかかる処置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2010/078994号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この先行技術を出発点として、本発明の1つの目的は、被覆すべき表面に開口する孔の流れ断面を実質的に一定に保ち得る、表面の被覆を可能にするための方法を提案することである。さらに、このようにして被覆されたタービン・ベーンが、本発明により実現される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を果たす本発明の主題は、各カテゴリの独立クレームによって特徴付けられる。
【0011】
したがって、本発明によれば、入口及び出口を有する少なくとも1つの貫通孔を有する本体の表面を被覆する方法であって、出口が被覆すべき表面に設けられ、被覆を溶射によって行なう、方法において、溶射の際に、貫通孔に流体が流され、この流体が、貫通孔の出口を介して流出し、被覆により生じる貫通孔の狭搾を実質的に防ぐ方法が、提案される。
【0012】
溶射の際に孔に流体を流す手段を用いることで、出口を通じて出ていく流体によって、被覆材が貫通孔内に侵入すること又は貫通孔内に堆積することが防がれる。このようにすることで、貫通孔の流れ断面が溶射の際に狭められること、又はさらに完全に閉塞することが防がれる。この方法が特別に有する利点は、溶射後に、いかなる追加の加工ステップも不要となることである。不要となる追加の加工ステップは、貫通孔を開口するステップ、貫通孔を所望の径にまで広げるステップ、又は硬化したマスキング材料を貫通孔から除去するステップである。
【0013】
流体は、好ましくは気体であるが、その理由は、それにより流体の流れをいっそう良好に制御することが可能となるからである。しかし、広い意味で、例えば蒸気として出口から出る液体などの液体を流体として使用することも可能である。不要な化学反応を回避することを考慮すると、流体は、特に好ましくは希ガスであり、とりわけアルゴンであるが、その理由は、溶射法におけるプロセス・ガスとしてそれらがしばしば使用されるからである。
【0014】
貫通孔又は全貫通孔を流れる流体の流量は、当然ながら、各プロセス・パラメータにより決定され、応用例に応じて最適化される。特に、低圧範囲におけるプロセスについては、流量が最大で5SLPM(標準リットル/分)であり、好ましくは最大でも1SLPMである場合に、実用上適することが判明している。
【0015】
好ましい応用例においては、溶射は、プラズマ溶射法である。
【0016】
本発明による方法は、溶射が10,000Pa未満であるプロセス圧力にて実施されるプラズマ溶射法である場合に、特によく適している。LPPSプロセス(LPPS:低圧プラズマ溶射)は、とりわけプロセス圧力として50〜2000Pa、好ましくは100〜800Paの値が選択されるプロセスが、特に適する。
【0017】
実施に関連するLPPSプロセスの特定の一実施例においては、被覆のための開始材料が、プロセス・ジェットの形態で本体に溶射され、開始材料は、プロセス・ジェットを発散(defocusing)させるプラズマ内に注入され、プラズマ内で部分的又は完全に液相に変化し、液相からの堆積によって被覆が行なわれる。このプロセスは、LPPS‐TFプロセスとも呼ばれ、TFは、薄膜(thin film)を表す。
【0018】
実施に強く関連する他の一実施例は、気相からの堆積によるLPPSプロセスである。この点で、被覆のための開始材料は、プロセス・ジェットの形態で本体に溶射され、開始材料は、プロセス・ジェットを発散させるプラズマ内に注入され、プラズマ内で少なくとも部分的に気相に変化し、気相からの堆積によって被覆が行なわれる。LPPS‐TFという名称も、しばしばこのプロセスに対して使用されるが、その理由は、このプロセスが、少なくとも部分的に気相又は蒸気相からの堆積であることによるものであり、PS PVD(プラズマ溶射物理蒸着)という名称も、このプロセスに対して使用される。
【0019】
本発明による方法は、1つ又は複数の冷却空気孔を有するタービン・ベーンの被覆に特に適している。この場合には、本体は、タービン・ベーンであり、少なくとも1つの孔は、冷却空気孔である。
【0020】
タービン・ベーンは、好ましくは、被覆の際に流体の供給源に連結される基部を有し、それにより、流体は、タービン・ベーンの基部から少なくとも1つの冷却空気孔を通り冷却空気孔の出口まで流れることが可能となる。
【0021】
この方法は、タービン・ベーンが、流体が中を流れる複数の冷却空気孔を有する場合に、特に適する。
【0022】
本発明による方法によって被覆されたタービン・ベーンが、本発明によりさらに提案される。
【0023】
一変形例においては、冷却空気孔は、被覆すべき表面に斜めに開口する。また、当然ながら、冷却空気孔は、被覆すべき表面に実質的に垂直に開口することも可能である。また、これらの2つの変形例を組合せることも可能である。
【0024】
タービン・ベーンの好ましい一実施例においては、被覆物の厚さが、孔の出口からの距離が大きくなるにつれて増大し、前記厚さは、最終的に最大値に達する。各出口の直近では、流れが弱くなっている離れた位置と比べると、被覆中に流出する流体の流れのために被覆材が堆積しにくくなる。孔の出口から本体の表面までの移行部は、この層厚の増大のために急峻にはならず、又は鋭い角が形成されず、むしろ傾斜したもの又は丸いものとなる。このことは、冷却空気の流れ挙動の態様を考慮した場合のタービン・ベーンの作動にとって有利となる。特に気膜冷却プロセスに関しては、これにより、さらに均一な冷却気膜が、タービン・ベーンの表面に実現され得る。
【0025】
従属請求項によって、本発明のさらに有利な手段及び好ましい実施例が得られる。
【0026】
以下、実施例及び図面を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。図面は、概略図によって示すが、一部は断面によって示す。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】流体冷却式タービン・ベーンの断面図である。
【図2】本発明による方法の一実施例により被覆される、ガス冷却式タービン・ベーンの壁部の1セクションの断面図である。孔は冷却空気孔である。
【図3】異なる孔を有する、図2と同様の図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明による方法は、被覆すべき表面内に開口する少なくとも1つの貫通孔を有する本体の表面の被覆に有用である。以下、実施において特に重要な適用例である、作動時に気体冷却されるタービン・ベーン1(図1を参照)を本体とする適用例を参照して、特徴を例示する。
【0029】
図1は、先行技術で公知となっているガス冷却式タービン・ベーン1の一実施例を長手方向断面において示している。タービン・ベーン1は、ブレード2及び基部3を備え、この基部3によって、タービン・ベーン1は、ロータ又はハブの上に設置される。典型的には、複数の冷却空気通路4が、タービン・ベーン1の内部に設けられ、タービンの作動時にはタービン・ベーン1を冷却するために、通常は空気である気体が、これら複数の冷却空気通路4の中を流れる。冷却空気の流れの展開が、参照符号を有さない矢印によって図1に図示される。複数の冷却空気孔5が、冷却空気通路4からタービン・ベーン1の壁部を貫通して延在し、それにより冷却空気は、タービン・ベーン1の表面10にて外に出ることが可能となっている。各冷却空気孔5は、冷却空気が孔5内に進入するための入口51(図2を参照)と、タービン・ベーン1の外部表面10中に位置し、孔5から冷却空気を流出させるための出口52とを有する。
【0030】
既述のように、本発明による方法は、タービン・ベーンの被覆に限定されず、出口52が被覆すべき表面10に設けられた、入口51及び出口52を有する少なくとも1つの貫通孔5(すなわち流体が中を流れることが可能な孔)を有する本体1の表面10の被覆に関して、非常に広く適している。このような本体は、例えば、被覆すべき外部表面を有し、複数の孔5を有する壁部を備える管状本体であってもよい。
【0031】
本発明による方法においては、この場合にはタービン・ベーン1の表面10である本体1の表面10が、溶射により被覆される。本発明によれば、溶射の際に孔5に流体が流され、この流体は孔5の出口52を介して流出し、それによって、被覆によって生じる出口52又は孔5が狭くなることが実質的に防止される。溶射中に外に出てくるこの流体により、被覆材が出口52又は孔5内に堆積することが少なくとも大幅に防がれる。したがって、孔5の流れ断面は維持され、被覆後にも、孔5は被覆前と同一の流れ断面を依然として有する。
【0032】
したがって、冷却媒体についてタービンの通常の作動時に使用されるのと同一の冷却空気通路4又は冷却空気孔5が、溶射中に貫流する流体について使用される。
【0033】
本発明による方法は、フレーム溶射、高速フレーム溶射(HVOF)、アーク溶射(例えばワイヤ・アーク溶射)、レーザ溶射、コールド・スプレイなどのあらゆる溶射法と、例えば大気プラズマ溶射(APS)、減圧プラズマ溶射(VPS)、又は保護ガス雰囲気下におけるプラズマ溶射などのあらゆるプラズマ溶射法とに適する。
【0034】
好ましくは、気体、及び具体的には希ガスが、被覆工程中に孔5を貫流する流体として使用される。希ガスを使用することにより、溶射の際に孔5から流出する流体によって生じ得る不要な化学反応が生じるのを回避することが可能となる。特に好ましい気体は、アルゴンであり、その理由は、この希ガスが、多数の溶射法においてプロセス・ガスとして使用されるからである。
【0035】
熱被覆の間に孔5(又は複数の孔5)から流出する流体の流量は、応用例及び溶射工程に応じて適合させることが可能である。一方では、孔内への被覆材の堆積を回避するために、流量は多くなるように選択されるべきである。他方では、被覆工程の大幅な質の低下をもたらすことがないように、流量は多くなるように選択されるべきである。
【0036】
実際には、アルゴンを使用した減圧範囲におけるプラズマ溶射法については、最大で5SLPM(標準リットル/分)の、特に最大で1SLPMの流量が適していることが具体的に判明している。
【0037】
次に、LPPSプロセス(LPPS:低圧プラズマ溶射)を溶射に利用する図2及び図3を参照として、本発明による方法の特殊な一実施例を説明する。このプロセスは、国際公開第03/087422号において全般的に説明されている。該明細書において説明されるこのプロセスは、LPPS薄膜プロセス(LPPS‐TF=LPPS薄膜)としても説明されるものである。従来的なLPPSプラズマ溶射法は、技術工程の手法の点で、LPPS薄膜プロセスによって修正されている。プラズマが流れる(「プラズマ火炎」又は「プラズマ・ジェット」)空間が、この変更によって広げられ、最大で2.5mの長さにまで拡張される。プラズマをこの幾何学的な範囲まで広げることにより、プロペラント・ガスを使用してプラズマ中に注入される粉末ジェットを均一に拡張、すなわち「拡散」することができる。分散してプラズマ中に雲を形成し、プラズマ中で部分的に又は完全に溶解する粉末ジェットの材料は、被覆すべき本体の広く拡張された表面にわたって均一な分布で移動する。
【0038】
プラズマは、大部分の被覆材が蒸気相に変化し、この蒸気相から被覆すべき表面上に堆積するように、十分に高い比エンタルピーで生成されることが、国際公開第03/087422号において開示されている。ここでは、プラズマパラメータ及びプロセスの詳細に関して、国際公開第03/087422号を参照する。
【0039】
国際公開第03/087422号に開示されているプロセスの主要な態様は、被覆材の大部分が、蒸気相から被覆すべき本体上に堆積されるものである。このプロセスは、必ずしも薄膜の生成を目的としないので、今日においては、LPPS‐TFプロセスの代わりにPS PVDプロセス(PS PVD:プラズマ溶射物理蒸着)ともしばしば呼ばれる。LPPS‐TFプロセスという用語は、例えば50ミクロン未満の薄膜を生成するプロセスに対しても使用され、その場合には、蒸着は、液相から通常行なわれ、すなわち被覆材は、小さな液滴の形態で被覆すべき表面上に移動する。
【0040】
図2及び図3を参照として説明される本発明によるプロセスの実施例においては、PS PVDプロセスが、例えば既に挙げた国際公開第03/087422号(しかしそこではLPPS‐TFプロセスと呼んでいる)などに開示されているような溶射として利用される。すなわち、被覆すべき表面10上への被覆材の堆積は、気相から表面10上に堆積される被覆物の少なくとも50%相当量までは行なわれる。
【0041】
図2は、孔5が冷却空気孔としての役割を果たす本発明による方法の一実施例により被覆された、ガス冷却式タービン・ベーン1の壁部の一部分の断面図を示す。孔5の出口52は、タービン・ベーン1の被覆すべき表面10に実質的に垂直に開口する。図3は、図2と同様の図において、被覆すべき表面10に斜めに、すなわち非直角で開口する孔5を示す。図2及び図3は共に、被覆物11が表面10上に既に堆積された状態のタービン・ベーン1を示す。理解するためには十分であるため、1つのみの孔5が、図2及び図3の各事例において示されている。
【0042】
この被覆の準備のために、初めに、タービン・ベーン1が、図示されないホルダに固定され、このホルダによって、タービン・ベーン1は、被覆チャンバ内に送られ得る。これに関して、減圧範囲でのプラズマ工程では、被覆チャンバが副チャンバの前に位置することが特に好ましい。この副チャンバから、仕切壁を通り被覆チャンバ内に被覆予定のタービン・ベーン1をホルダによって送ることができる。このような副チャンバを有するプラントは、例えば欧州特許出願公開第1006211号明細書などに開示されている。
【0043】
次に、タービン・ベーン1のホルダ又は基部3が、好ましくはアルゴンである希ガスが貯蔵された供給源に連結される。この点、この連結は、タービンの作動中に冷却媒体がタービン・ベーン1を通り流れるのと同一の態様で、アルゴンが供給源からタービン・ベーン1の基部3を通り少なくとも1つの冷却空気孔5を通り流れることが可能となるように行なわれる。当然ながら、好ましくは、複数の冷却空気孔5が設けられ、図2及び図3において参照符号を付さない矢印により示されるように、被覆の間はアルゴンが、これらの孔の全てを通って流れる。
【0044】
被覆チャンバ内の圧力は、10,000Pa未満の所望のプロセス圧力に、好ましくは50Paから2000Paの間の値に、特に100から800Paの間の値にされる。
【0045】
タービン・ベーン1が所望のプロセス圧力の被覆チャンバ内に搬送された後に、冷却空気孔5を通り流れるアルゴンの流れが、図2及び図3の参照符号を付さない矢印により示されるように開始される。次に、プロセス・ジェットの形態の被覆用の開始材料が、プラズマ溶射装置によりタービン・ベーン1上に溶射され、開始材料は、プロセス・ジェットを拡散させるプラズマ中に注入され、そこで少なくとも部分的に気相に変化する。次に、タービン・ベーン1の被覆が、気相からの堆積により行なわれ、その間にアルゴンガスが、孔5を通って流れる。
【0046】
これに関して、外に出るアルゴンは、表面11に対して冷却効果にさらに好影響を与える。アルゴンは、プロセス・ガスと共に被覆チャンバから外に送り出される。
【0047】
代替的な1つの工程においては、LPPS‐TFプロセスが実施されることによって、開始材料がプラズマ内において部分的に又は完全に可塑性を与えられ、液相に変化し、その上で、液相からの堆積によって被覆が行なわれる。
【0048】
被覆工程中には、孔5を通って流れるアルゴンガスは、被覆材が孔5又は出口52に中に堆積することを防止する。したがって、各孔5は、溶射の終了後にも、溶射前と同一の流れ断面を依然として有することが確実となる。
【0049】
図2及び図3を参照して説明される方法のある特定の利点は、溶射の最中に孔5から流出する流体により、孔5の縁部から被覆物11にかけていっそう均一な、すなわちいっそう緩慢な移行部が生じることである。図2及び図3に示すように、被覆物11の厚さは、孔5の出口52からの距離が大きくなるにつれて、Bで印される領域で連続的に増大し、最終的に最大値dに達する。この被覆物の緩やかな増大は、流出する流体によって、被覆の最中に出口52の直近では被覆材の堆積がいっそう困難になり、この困難さが出口52からの距離が大きくなるにつれて減少する、という事実による。
【0050】
図2では、孔5が垂直に開口していることによって、被覆物の厚さの連続的な増大が、対称的に生じること、すなわち図2によれば、孔5の出口52の両側に生じることが分かる。
【0051】
図3に図示されるように、孔5が斜めに開口していることによって、被覆物11の斜めの増加は、基本的に片側のみで生じ、すなわち図3によれば出口52の左側で生じる。
【0052】
流れ方向から見た被覆物11の厚さの緩やかな増大は、タービンの作動にとっても有利である。なぜならば、冷却空気の冷却空気孔5からの排出を、作動状態にあるタービン・ベーン1の表面にいっそう良好に行うことができるとともに、孔5の出口52に生じる乱流を少なくとも低減できるためである。
【符号の説明】
【0053】
1 タービン・ベーン
2 ブレード
3 基部
4 冷却空気通路
5 冷却空気孔
10 表面
11 被覆物
51 入口
52 出口
B 領域
d 最大厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口(51)及び出口(52)を有する少なくとも1つの貫通孔(5)を有する本体(1)の表面(10)を被覆する方法であって、前記出口(52)が被覆すべき前記表面(10)に設けられており、前記被覆を溶射によって行なう本体(1)の表面(10)を被覆する方法において、
溶射の際に、前記貫通孔(5)に流体を流し、前記流体を前記貫通孔(5)の前記出口(52)を通じて流出させ、被覆によって生じる前記貫通孔(5)の狭搾を実質的に防止することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記流体は気体であり、特に希ガスであり、具体的にはアルゴンである、請求項1に記載の本体(1)の表面(10)を被覆する方法。
【請求項3】
前記流体の流量が最大で5SLPMであり、好ましくは最大で1SLPMである、請求項1又は請求項2に記載の本体(1)の表面(10)を被覆する方法。
【請求項4】
前記溶射はプラズマ溶射法である、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の本体(1)の表面(10)を被覆する方法。
【請求項5】
前記溶射は、10,000Pa未満のプロセス圧力にて実施するプラズマ溶射法である、請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の本体(1)の表面(10)を被覆する方法。
【請求項6】
前記プロセス圧力として、50〜2000Pa、好ましくは100〜800Paの値を選択する、請求項5に記載の本体(1)の表面(10)を被覆する方法。
【請求項7】
前記開始材料を、前記プロセス・ジェットを発散させるプラズマ内に注入し、プラズマ内で部分的又は完全に液相に変化させ、前記液相からの堆積によって前記被覆を行なうことによって、前記被覆用の開始材料を、プロセス・ジェットの形態で前記本体(1)に溶射する、請求項5又は請求項6に記載の本体(1)の表面(10)を被覆する方法。
【請求項8】
前記開始材料を、前記プロセス・ジェットを発散させるプラズマ内に注入し、プラズマ内で少なくとも部分的に気相に変化させ、前記気相からの堆積によって前記被覆を行なうことによって、前記被覆用の開始材料を、プロセス・ジェットの形態で前記本体(1)に溶射する、請求項4又は請求項5に記載の本体(1)の表面(10)を被覆する方法。
【請求項9】
前記本体がタービン・ベーン(1)であり、少なくとも1つの前記貫通孔は冷却空気孔(5)である、請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の本体(1)の表面(10)を被覆する方法。
【請求項10】
前記タービン・ベーン(1)は、前記被覆の際に前記流体の供給源に連結される基部(3)を有し、前記流体は、前記タービン・ベーン(1)の前記基部(3)から前記少なくとも1つの冷却空気孔(5)を通り前記冷却空気孔(5)の出口(52)まで流れることが可能となっている、請求項9に記載の本体(1)の表面(10)を被覆する方法。
【請求項11】
前記タービン・ベーン(1)は、前記流体を流す複数の冷却空気孔(5)を有する、請求項10に記載の本体(1)の表面(10)を被覆する方法。
【請求項12】
請求項1から請求項11までのいずれか一項に記載の本体(1)の表面(10)を被覆する方法によって被覆されたタービン・ベーン。
【請求項13】
前記冷却空気孔(5)は、被覆すべき前記表面(10)に斜めに開口するようになっている、請求項12に記載のタービン・ベーン。
【請求項14】
前記被覆(11)の厚さが、前記貫通孔(5)の前記出口(52)からの距離が大きくなるにつれて増大し、最大値(d)に達するようになっている、請求項12に記載のタービン・ベーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−82518(P2012−82518A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221799(P2011−221799)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(500063790)ズルツァー・メットコ・アクチェンゲゼルシャフト (30)
【氏名又は名称原語表記】Sulzer Metco AG
【Fターム(参考)】