説明

冷却装置及びストリップキャスティング装置並びにネオジウム系焼結磁石用合金鋳造薄片の冷却方法

【目的】 最適な組織制御を実現するため、冷却能が可変で、特に冷却時間に影響する低温域の冷却能を低めずに高温域の冷却能を低下することができる冷却装置とそのような冷却装置を備えたネオジウム系焼結磁石合金のストリップキャスティング装置ならびに鋳造薄片の冷却方法を実現することを目的とする。
【構成】 プレート状の水冷冷却体を隙間を保って金属薄板カバーで覆い、さらに該隙間に1枚以上の熱遮蔽層を挿入して冷却ユニットを形成する。さらに、このような冷却ユニットを複数基適当な間隔を保って鋳造薄片収納容器に配置して、さらに該隙間部を真空排気あるいは冷却促進用のヘリウムを導入することによって冷却能を変化制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はネオジウム鉄ボロン系焼結磁石用の原料合金の製造法であるストリップキャスティング法における鋳造薄片の冷却装置および冷却方法に関わり、特にロールから離脱落下した直後の鋳造薄片の高温域の冷却速度を変化させることができる冷却装置および冷却方法に関わる。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピューターおよびその周辺機器を始めとするエレクトロニクス機器の高性能化小型化にともない、高性能のネオジウム鉄ボロン系焼結磁石(以下ネオジウム系磁石と呼ぶ)の需要が増加している。また、エアーコンディショナーや冷蔵庫等の家電の電力消費量の低減を目的とし、あるいはハイブリッドタイプ等の電気自動車も含め、より高効率のモーターが求められ、これらの分野でも確実にネオジウム系磁石の需要が増加している。
一方、ネオジウム系磁石の特性向上も進んでいる。特性向上のための技術は大きく分けて、二つに分けられる。その一つは原料合金の組織制御に関わるものである。他は、磁石の製造技術の向上に関わるものである。
【0003】
磁石の特性向上のためには、単に磁石の製造工程の改善だけでなく、原料となる磁石合金の製造技術の改善も重要となる。
例えば、その特性と経済性から希土類磁石の中で最も生産量の多いネオジウム系磁石の場合、磁性の担い手となるNdFe14B相はNd−Fe−B三元系平衡状態図において、液相から包晶反応によって生成する。そのため、特により高性能のNdFe14B相の化学量論組成に近い磁石用合金ほど、溶解鋳造時に初晶のγFe相が生成し易くなる。そして、このγFe相はデンドライト状に生成し、立体的に繋がっているため、インゴットの粉砕性を著しく害し、磁石の製造工程における粉砕時に得られる粉末の粒径分布が広がりすぎたり組成ずれの原因になったりする。
【0004】
そのような問題を避けるため、最近は鋳造時の凝固速度を速められるストリップキャスティング法(以下SC法と呼ぶ)が採用されている(例えば、特許文献1参照)。例えば図8に示すように、SC法は、不活性雰囲気にした溶解室70内の高周波誘導加熱を利用したるつぼ61で溶解した溶湯をタンディッシュ62を介して水冷ロール63に導き、厚さ約0.3mm程度の鋳造薄片10(以下SC材と呼ぶ)を得る方法である。SC材10は破砕機63で細かく破砕された後収納容器65に入る。SC材10を入れた収納容器65は、搬送ロール67を使用して冷却室71に移送され、冷却される。
SC材の厚さは薄いため、凝固点近傍の冷却速度は1000℃/s程度あるいはそれ以上となり、初晶のγFe相が生成することなく、磁性相のNdFe14B相が直接液相から生成し、αFe相の存在しないインゴットを得ることができる(γFe相は温度の低下とともにαFe相に変態し冷却後の合金中ではαFe相として存在する)。さらに、合金中に含まれているNdFe14B相より過剰のNdがNdリッチ相として存在する。
【0005】
SC材中に含まれるNdリッチ相は、従来の通常の金型を用いて鋳造する方式で得られる厚さ30mm程度のインゴットと比べて凝固速度が速いため微細に分布する。このNdリッチ相は磁石製造工程において焼結時には液相となり、いわゆる液相焼結により密度の増加を促進する。また焼結後の磁石において、NdFe14B磁性相を磁気的に遮断し、保磁力向上に寄与する。そのためNdリッチ相は、原料合金中により細かく均一に分布していると、磁石の製造工程で粉砕した微粉の状態でも分散分布状態が改善され、磁気特性の向上に役立つことが知られている。
【0006】
ところで、一般的にネオジウム系磁石には耐熱性の向上や経済性の観点から希土類元素としてNd以外にDyやPrがNdの一部を置換する形で添加されている。また、Feの一部は多くの場合キュリー点の上昇と耐食性の改善に効果のあるCoあるいはその他の遷移金属元素で置換されている。そのため以下ではNdの代わりにRを、Feの代わりにTを用いて、NdFe14B相はR14B相と、Ndリッチ相はRリッチ相と表現する。
【0007】
鋳造時のSC材中におけるRリッチ相の挙動についてさらに詳細に説明する。
Rリッチ相は水冷ロール上で冷却時に、主相のR14B相の成長とともに凝固界面から排出され、R14B相の結晶粒内にラメラー状(lamellar)に生成し、一部は粒界にも生成する。
Rリッチ相は例えばNd−Fe−B三元系平衡状態図ではその融点は660℃程度とされており、磁石組成合金の液相面温度と比べてかなり低い。一方、通常のSC法の鋳造条件では、SC材が水冷ロールから離脱する時の平均温度は700℃以上であり、Rリッチ相はまだ液相の状態である。
一般的に、液相中あるいは液相を介した原子の拡散は固相中の拡散現象に比べて桁違いに早い。そのため、水冷ロールから離脱後のSC材の冷却速度によって、SC材中のRリッチ相はその形態が大きく変化する。
【0008】
冷却速度が遅い場合は、Rリッチ相は母相との界面エネルギーを低下しようとして、ラメラ(lamella)は収縮し丸味を帯びるようになる。また温度の低下とともにRリッチ相中のR濃度は増加し、Rリッチ相の体積比も低下する。一方、冷却速度が速い場合はロールから離脱した直後のより高温の状態がそのまま凍結される傾向が強まる。すなわち、凝固直後のラメラの状態がそのまま保たれ、SC材の断面組織には1次のラメラに加えて2次のラメラも鮮明に認められる。このような場合Rリッチ相の体積比も大きく、Rリッチ相中のR濃度は低くなる。
【0009】
このような状態は、例えばSC材の断面組織を走査電子顕微鏡にて反射電子線像により観察する場合、得られた顕微鏡写真(組成像)に長さLの線分を引き、線分がNdリッチ相と交差する点数Nを数え、線分の長さLをNで除し、Rリッチ相の平均間隔L/Nを求めることによる方法、すなわち線分法で定量的に評価することができる。そして、この値はSC材が水冷ロールから離脱後の冷却速度が速いほど小さくなる。
【0010】
このように、Rリッチ相の存在状態が変わると、以下に述べるように磁石製造工程の水素化、微粉砕工程にも影響し、得られる磁石の特性にも影響することになる。
焼結磁石を製造する際、一般的にはジェットミル等の粉砕機を用いて微粉砕する前に、水素化粉砕処理(HD処理)を行う。R14B系磁石用合金は水素を吸収、特にRリッチ相は水素を吸収しやすく水素化物を生成し、体積膨張するため、その時のくさび効果と水素化による脆化が相俟って、微細なクラックが合金内に発生する。そのため、もし水冷ロールから離脱後の冷却速度が速く、Rリッチ相の間隔が狭い場合は、より細かく割れやすくなる傾向となる。そして、粉砕した粉末粒子の平均粒径が小さくなりすぎると、粉末がより活性になり、大気中で燃えやすくなったり、あるいは得られる磁石の磁気特性に有害な酸素濃度が高くなりやすくなる。また微粉ほど磁場成型時の配向度が低下しやすく、磁石特性、特に磁化が低下してしまうといった問題を引き起こしやすくなる。
【0011】
そのため、SC材が水冷ロールから離脱後、直ちに急冷したような合金は、概して磁石用の原料合金として好まれない傾向にある。特に、冷却速度が速すぎる場合、Rリッチ相中のR濃度が低すぎて、水素化反応が起こりにくくあるいは遅過ぎて生産工程で問題となる場合もありうる。
しかしながら、より細かい粒径分布の粉末を用いて、磁場成形さらに真空焼結した場合、より細かい結晶粒度の磁石を得ることができ、より保磁力の大きな磁石を製造しやすくなる。そのため、例えばモーター用等に用いられる高保磁力の磁石用原料合金としては、Rリッチ相の間隔が小さめのSC材が適している。但し、その場合も前述したように、冷却速度が速すぎるのは適さず、水冷ロールから離脱後高温域を適度に遅い冷却速度で冷却することにより、Rリッチ相の2次のラメラが適度に消失した組織のSC材の方が適している。
【0012】
反対に、水冷ロールから離脱落下直後の高温域のSC材の冷却速度が遅い場合、Rリッチ相の間隔が広くなり、微粉砕処理後の粉砕粒子の平均粒径も大きくなる傾向となる。その場合、磁場配向の際、配向度を高めやすく、例えばハードディスクドライブ(HDD)用のヘッドアクチュエーターであるボイスコイルモーター(VCM)等に用いられる磁化の大きな磁石を製造する場合は、そのような組織の合金が好まれる傾向にある。
【0013】
以上のように、SC法においては磁石特性に重要な影響を与えるRリッチ相の分布状態を制御する必要があり、そのためには、SC材が水冷ロールから離脱後の冷却条件の制御が重要となる。特にRリッチ相の融点以上での高温域での温度制御が重要となる。
SC材のロール離脱後の冷却条件の制御例としては、水冷ロール上の冷却を1次冷却、水冷ロールから離脱後のSC材の冷却を2次冷却として分けて、後者の2次冷却速度を制御するため、合金の固相線温度(凝固完了温度=三元共晶温度)以下に50℃/min〜2×10℃/minの冷却速度にて冷却する方法が開示されている(例えば特許文献2参照)。
【0014】
上記に開示された技術における2次冷却は、「急冷ロールと鋳片収容箱間にてアルゴンガス等の不活性ガス冷却、あるいはコンベア又はベルトにて移送中にて冷却したり、更に鋳片収容箱内にて不活性ガス冷却して調節することができ、また、2対の回転するベルトによって、鋳片を挟んで冷却したり、液体アルゴンに直接投入する方法などがあり、これらの方法の組合せでもよい。」とされている。しかしながら、高温域の冷却速度を制御する場合、同じ方法で低温域まで冷却しようとすると、温度差が小さくなるにつれて冷却が遅くなり、チャンバーからSC材を取り出しても酸化が問題なくなる温度まで低下するまでの時間が長くなってしまう。このような、問題点を解決するための具体的な手段については全く開示されていない。
【0015】
一方、800〜600℃間の平均冷却速度を1.0℃/秒以下にしてRリッチ相の間隔を広げ、3〜15μmにする方法も開示されている(例えば特許文献3参照)。
そのような目的で、「希土類元素含有合金の溶湯を真空又は不活性ガス雰囲気中の室内にて、冷却された回転ロール上に流し、冷却して薄帯状に凝固させた直後、該凝固薄帯を片状に破砕し、該破砕合金片を前記室内に置かれた収納容器内に収め、冷却媒体により前記破砕合金片の冷却速度を制御することを特徴とする希土類元素含有合金の組織制御方法」が開示されており、具体的な方法として、収納容器の内部に冷却用仕切り板を設け、その中に冷却媒体として気体又は液体を流通させて破砕合金片の冷却速度を制御する希土類元素含有合金の組織制御方法が提案されている(例えば特許文献4参照)。
【0016】
しかしながら、この方法では冷却媒体としてガスを用いた場合、ガスの体積当たりの熱容量は極めて小さいため、大量のガスを流す必要がある。ガスとして不活性ガスを用いる場合、堆積したSC材の間を直接流すことができるが、それにしても大口径の配管を巡らし加熱されたガスを回収し冷却し戻す十分広い伝熱面積を有した熱交換器が必要となり、設備的に大がかりになる。また、冷却に要する時間も長くなる。
【0017】
ガスとして空気を用いる例も示されているが、その場合密閉構造の仕切板を設ける必要がある。しかしながら、空気の体積当たりの熱容量は小さく、冷却速度を増すためには、大量の空気を流せてかつ極めて大きな伝熱面積の仕切板が必要となり、その隙間部にSC材を収納することになる。そのため、特に量産規模の装置では、収納容器はかなり大きくなる。さらに、鋳造チャンバーへの出し入れあるいは水冷ロールから落下するSC材を容器に満遍なく収納するために移動可能な構造とする必要があり、そのような収納容器に大径の配管を巡らし、大量の空気を送り込むのは、設備的な信頼性の上で難点がある。特に、希土類含有合金は化学的に極めて活性であり、そのような活性な合金でしかも高温で大きな比表面積のSC材を扱う装置として安全性の上でも大きな問題を抱えることになる。
【0018】
さらに、冷却媒体として水を用いる場合、鋳造後流すのでは、高温状態の仕切板内に水を直接流すことになり、急激な沸騰現象を招き安全性の点で問題がある。さらに、仕切板への熱衝撃が大き過ぎ、熱歪みによる割れや変形の原因となり、仕切板の耐久性の上でも難点がある。特に、もし破損した場合、漏れた水と高温のSC材が反応し、水素を発生し、安全上重大な問題を引き起こす。もし、そのような問題を避けるため、鋳造開始前から水を流した場合、冷却能が大きすぎて、高温域で目的とする遅い冷却条件を達成することは困難である。
【0019】
また、SC材を入れた収納容器を隣接する別室に移し、そこで不活性ガス等を用いて冷却する方法が開示されている(例えば特許文献5参照)。この方法では高温域の冷却は概して遅くなる。しかしながら、この冷却方法は合金の組織の制御を目的としたものではなく、冷却速度を調整することは不可能である。また、低温域の冷却も遅く、大気中に開放できるような温度まで低下するのに長時間を要し、そのため数多くの収納容器を必要とする。
【特許文献1】 特開昭63−317643号公報
【特許文献2】 特開平8−269643号公報
【特許文献3】 特開平10−36949号公報
【特許文献4】 特開2002−266006号公報
【特許文献5】 特開平9−155507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
以上述べてきたように、ネオジウム系磁石用合金のSC法においては水冷ロール上での冷却速度に加えて、SC材が水冷ロールから離脱後の特に離脱直後からのRリッチ相が溶けている温度域での冷却速度の制御が重要であり、この温度域を適度に遅く、しかも磁石の要求特性に合わせて合金の組織を制御するため、冷却速度を自由に調整でき、かつその後は生産性を高めるため、短時間で冷やせる装置と方法が必要とされる。しかも、極めて活性でかつ比表面積の大きな希土類合金を扱う装置であり、組織制御の観点だけでなく、安全性の観点からも装置材料の熱応力、歪み、腐食等に十分配慮した設備とする必要がある。
従来、このような信頼性の高い装置は開示されていないのが現状である。
本発明は、特に高性能用のネオジウム系磁石の原料合金として最適な組織制御を行う際、冷却条件を自由に制御でき、かつ装置がコンパクトで安全性の高い冷却装置および冷却方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明において、上記課題を達成するため、ネオジウム系磁石用合金のSC法におけるSC材の組織制御冷却装置として、以下に説明するような構成の装置とした。
【0022】
すなわち、請求項1に記載の冷却装置はストリップキャスティング装置(以下SC装置と呼ぶ)のSC材収納容器内に装着して用いられる冷却装置であって、SC材を充填する空間として30〜120mmの間隔を保って配置された2枚以上のプレート状の冷却ユニットで構成され、該冷却ユニットは水冷方式の冷却体の両面を隙間を保って金属薄板カバーで覆い、該隙間にはそれぞれ1層以上の熱遮蔽層を挿入し、かつ該隙間を真空排気かつガス置換できるように構成してあることを特徴とする冷却装置である。
【0023】
水冷方式の冷却体の両面を覆う金属薄板カバーと冷却体の隙間を真空排気すれば熱遮蔽層の輻射を遮る効果と相俟って特に高温域の冷却能力が低下し、一方で真空排気後例えば熱伝導度の大きなヘリウムガスを充填すれば冷却能力を大きく増加することができる。このように真空排気とガス置換といった単純な操作により、SC材の冷却速度を変えることができるようにした冷却装置である。しかも、冷却体は金属製の薄板で密閉されているため、万が一冷却水が冷却体から洩れても冷却ユニットから外部に水が漏れる心配が無い。
【0024】
請求項2に記載の冷却装置は、本発明の冷却装置の他の構成として、冷却ユニットの冷却体と金属薄板カバーとの間の隙間を真空排気ガス置換する替わりに、ガスを通流できる構造にした冷却装置である。
【0025】
該隙間に例えば熱伝導度が比較的低いアルゴンガスを充填あるいは通流すれば熱遮蔽層の輻射を遮る効果と相俟って特に高温域の冷却能力が低下し、その後熱伝導度の大きなヘリウムガスを通流し置換することにより冷却能を増すことができる。このように該隙間にガスを流すことができ、その導入ガスの種類を変えることにより、SC材の冷却速度を変えることができるようにした冷却装置である。
前述の冷却装置に比べて真空排気は行わないため、初期の保温性は劣るが、一方で気密性は必要としないため、装置の製作が容易となり、メンテナンスも容易となる利点がある。
【0026】
請求項3に記載の冷却装置は、以上述べた冷却装置の中で、特に、冷却ユニットの水冷方式の冷却体がプレス成形した2枚の金属製の薄板を貼り合わせかつ薄板間に水路を形成するようにして製作されたプレート状冷却体であることを特徴とする冷却装置である。
このようなプレート状の冷却体は製作が容易で信頼性が高くかつ耐久性も良好であるため、活性でかつ高温の希土類合金を処理する冷却装置を構成する要素部品として適している。
【0027】
さらに、請求項4に記載の冷却装置はこれらの冷却装置の中で、冷却ユニットの冷却体とそれを覆う金属薄板カバーとの間の隙間に挿入される熱遮蔽層が金網あるいはパンチングメタルで構成されていることを特徴とする冷却装置である。
金網やパンチングメタルは高温域の熱の伝達の大半を占める輻射伝熱を遮る効果は十分大きい。その一方で、ガスの対流は容易となるため低温域の対流熱伝達を促進し、特に熱伝導度の大きなヘリウムガスの併用で冷却時間が早まる利点がある。
【0028】
本発明はさらにこのような冷却装置を備えたことを特徴とするネオジウム系磁石用合金のSC装置を包含する。
各冷却ユニットは薄く、そのため占有体積が小さく、冷却装置全体としても小型化が容易となり、設備コストの低減に役立つ。
【0029】
本発明の請求項6に記載する第1の方法は、以上述べた冷却体とその両面を覆う金属薄板カバーとの間の隙間を真空排気できる構造の冷却装置を備えた装置を用いて、該隙間を真空排気した状態で鋳造を開始し、鋳造終了後1分以上経過後、隙間にヘリウムガスを充填することを特徴とするネオジウム系磁石用合金SC材の冷却方法である。
【0030】
該隙間を真空排気した状態では、冷却能が小さく、ロールから離脱後のSC材の冷却速度を小さくし、Rリッチ相の平均間隔の増加傾向いわゆるアニール効果を高めることができる。その後、該隙間にヘリウムガスを充填することにより、冷却能を高め、冷却時間を短縮することができる。そのような冷却方法を採用することにより、Rリッチ相の平均間隔が適度に大きくなった、特に高磁化型のネオジウム焼結磁石用の原料合金として最適な組織とすることができる。同時に冷却時間の短縮により生産性を高めることができる。
【0031】
本発明の請求項7に記載する第2の方法は、既に述べた冷却装置の中で、冷却体とその両面を覆う金属薄板カバーとの間の隙間に不活性ガスを充填あるいは通流できる構造の冷却装置を備えたSC装置を用いて、該隙間にアルゴンガスを充填した状態で鋳造を開始し、鋳造終了後1分以上経過後、隙間にヘリウムガスを通流しアルゴンガスからヘリウムガスに置換することを特徴とするネオジウム系磁石用合金SC材の冷却方法である。
【0032】
該隙間にアルゴンガスを充填した状態では、冷却能が小さく、ロールから離脱後の高温域のSC材の冷却速度を小さくし、アニール効果を高めることができる。その後、該隙間にヘリウムガスを通流することにより、冷却能を高め、冷却時間を短縮することができる。そのような冷却方法を採用することにより、Rリッチ相の平均間隔が適度に大きくなった、焼結磁石用の原料合金として最適な組織とすることができる。同時に冷却時間の短縮により生産性を高めることができる。
【0033】
本発明の請求項8に記載の第3の方法は、請求項1に記載の冷却装置を備えたSC装置を用いて、冷却体とその両面を覆う金属薄板カバーとの間にヘリウムガスを充填した状態で鋳造を行うことを特徴とするネオジウム系磁石用合金SC材の冷却方法である。
【0034】
該隙間にヘリウムガスを充填した状態では冷却能が適度に大きく、Rリッチ相の平均間隔が比較的小さな、特に高保磁力タイプの磁石用原料合金として適した組織のSC材を得るのに適した冷却方法となる。また冷却時間も短く生産性を高めることができる。
【0035】
本発明の請求項9に記載の第4の方法は、請求項2に記載の冷却装置を備えたSC装置を用いて、冷却体とその両面を覆う金属薄板カバーとの間の隙間にヘリウムガスを通流した状態で鋳造を行うことを特徴とするネオジウム系磁石用合金SC材の冷却方法である。
【0036】
該隙間にヘリウムガスを通流した状態では前述の方法と同様に冷却能が適度に大きく、Rリッチ相の平均間隔が比較的小さな、特に高保磁力タイプの磁石用原料合金として適した組織のSC材を得るのに適した冷却方法となる。また冷却時間も短く生産性を高めることができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明の冷却装置を構成する冷却ユニットは水冷方式の冷却体の両面を隙間を保って金属薄板カバーで覆い、該隙間にはそれぞれ1層以上の熱遮蔽層を挿入してあり、かつ該隙間を真空排気かつガス置換できるように構成してある。あるいは、該隙間にガスを通流できるように構成してある。
【0038】
そのため、本発明の冷却装置を用いたネオジウム系磁石合金のSC装置において、該隙間を真空排気した状態であるいは熱伝導度の小さいアルゴンガスを通流した状態で鋳造を開始すれば冷却能が小さく、鋳造開始後初期すなわちSC材の高温域の冷却速度を小さくすることができる。それにより、Rリッチ相の間隔を適度に大きくした、特に高磁化型の高性能ネオジウム系磁石用の原料合金として最適な組織のSC材を製造することができる。その後、熱伝導度の大きなヘリウムガスに置換することにより、あるいはヘリウムガスに切り換え通流することにより冷却能を高め、冷却時間を短縮することができ、生産性を高めることができる。
【0039】
一方、前記隙間に鋳造開始前からヘリウムガスに置換あるいは通流した状態で鋳造することにより、高温域の冷却速度を適度に速めることができる。そのため、特に高保磁力型のネオジウム焼結磁石用合金として最適なRリッチ相の間隔が適度に小さなSC材を得ることができる。
【0040】
このように、同じ冷却装置を用いて、単に冷却体とそれを覆う金属薄板カバーとの間の隙間の雰囲気制御により、SC材の特に高温域すなわち組織変化が顕著な温度域の冷却速度を幅広く変えることが可能となる。それにより、冷却装置を入れ替えることなく、同じ装置で高磁化型の磁石用合金から高保磁力型の磁石用合金まで造り分けることが可能となる。
さらに、本発明の冷却装置そのものには機械的な駆動部を全く含まず、熱的な衝撃も熱遮蔽層により緩和されるため、信頼性かつ耐久性の高い装置とすることができる。
【0041】
特に、前記冷却体がプレス成形した2枚の金属薄板を貼り合わせかつ薄板間に水路を形成するようにして製作されたプレート状冷却体を用いた場合、このような冷却体は製作が容易でかつ堅牢性に優れているため、信頼性をさらに高めた冷却装置とすることができる。また、プレート状冷却体は量産され市販されているため、安価な冷却体が入手可能であり、経済性にも優れた冷却装置とすることができる。さらに、このようなプレート状冷却体は薄く、冷却装置の占める体積を小さくして、SC材収納容器の小型化にも役立つ。
【0042】
特に、熱遮蔽層としては、金網あるいはパンチングメタルがより望ましい選択肢として採用される。これらの材料を用いた場合、高温域の熱伝達の主要因である輻射伝熱を小さくする一方で、ガスの流通は可能なため、低温域の熱伝達の主要因となる対流伝熱を促進する作用がある。そのため、真空排気およびガス置換あるいはガス通流の切り換えの効果と相俟って、高温域の冷却を遅くしかつ特に時間のかかる低温域の冷却を速くする効果を一層高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下に、具体例を挙げて本発明を詳細に説明する。先ず、本発明のSC材の冷却装置について説明する。
なお、以下の各図面においては構造を判り易く説明するため、縮尺は必ずしも正確には描かれていない。
【0044】
(第1の実施形態)
図1に本発明の第1の実施形態に係わる冷却装置をSC材の収納容器から取り出した状態の外観斜視図で示す。なお、図1に示した冷却装置11では冷却ユニット21を3基直列に、さらにそれらを3列並列に繋ぎ構成した例を示した。
図2には冷却ユニット21の外観の正面図を示し、図3に図2のAA’に示す部分の断面図を示す。図3(b)は(a)の上部の部分拡大図である。
【0045】
本発明において、上記課題を達成するため、図3に示すように、冷却ユニット21は水冷方式の冷却体41の両面を隙間を保って金属薄板カバー42で覆い、さらに、該隙間に1枚以上の熱遮蔽層43を挿入した構造とした。図3の例では熱遮蔽層43として金網を冷却体41の両面にそれぞれ2枚挿入した例を示した。
【0046】
冷却水は図1、図2に示すように冷却水入口31から分岐管31a、31b、31cを介して冷却ユニット21の片側上部から導入し、冷却体41の水路を経由させ、さらに冷却水入口31と反対側の上部から引き出し、連結管33を介して隣接する冷却ユニットに導入する構造としてある。金属薄板カバー42は冷却体41を覆いかつ両者の隙間の気密を保てるように製作され、真空排気口兼ガス導入口34から、分岐管を介してそれぞれの冷却ユニットの隙間を真空排気し、かつガスを導入できるように構成されている。さらに直列に隣り合う冷却ユニット間は連結管35で互いに接続されている。
【0047】
なお、熱遮蔽層43が挿入されている冷却体41と金属薄板カバー42との隙間44は挿入された熱遮蔽層43の合計厚さ(2枚挿入の場合は熱遮蔽層2枚の厚さ)より、若干大きめとしてあり、冷却体41と熱遮蔽層43、熱遮蔽層43と金属薄板カバー42とは、極力接触を避けるように構成してある。
【0048】
(第2の実施形態)
図4に本発明の第2の実施形態に係わる冷却装置に組み込まれる冷却ユニット22を示す。なお、冷却ユニット22は直列に繋いだ2基分を示し、部分的に金属薄板カバー42ならびに熱遮蔽層43を剥がした一部破断外観図で示す。
本実施形態の冷却ユニット22は、水冷方式の冷却体41の両面を隙間を保って金属薄板カバー42で覆い、さらに、該隙間に1枚以上の熱遮蔽層43を挿入した構造とした点は第1の実施形態と基本的に同じである。
【0049】
異なる点は、第1の実施形態が、熱遮蔽層43が挿入されてある冷却体41と金属薄板カバー42との間の隙間44は真空排気ガス置換できるように構成されているのに対し、第2の実施形態では、冷却ユニット22の上部一端に設置したガス導入口36から隙間にガスを通流できるように構成してある点である。そのような目的で、例えばガスの導入口36は分岐管36aを介して冷却ユニット22の上部片側から導入し、反対側の下部に開口した連結管37を介して、さらに隣接する冷却ユニットの上部片側から導入するように構成してある。直列に繋いだ最後尾の冷却ユニットについては導入ガスは下部他端の開口部(図未表示)から排出されるように構成されている。
このような構造とすることにより、金属薄板カバー42は完全な気密性までは必要としなくなるため施工が容易となり、かつ耐久性も向上する。
一方で、隙該間を真空排気することはできず、真空断熱効果は期待できない。そのため、第2の実施形態の冷却ユニットには第1の実施形態の場合より多めの枚数の熱遮蔽層を挿入するのが望ましい。
【0050】
冷却体41としては、図5に一例を示すように、プレス成形により水路38を形成した2枚の金属薄板を貼り合わせたプレート状の冷却体41がより望ましい構成部品として選択される。このような構造の冷却体は製作が容易で、堅牢性に優れ、信頼性も高く、かつ量産されているため安価に入手できる。また、冷却体両面の全面が伝熱面積として働くため、冷却能力も大きく効率も良い。
ただし、必ずしもこのような金属薄板を成形して製作されたプレート状の冷却体に限定されず、例えば、パイプをU字状に繰り返し曲げ加工し、全体としてプレート状に成形したものを用いることもできる。
【0051】
冷却体41を覆う金属薄板カバー42の厚さは、薄過ぎると強度が不足し、また特に溶接施工も難しくなるため0.3mm以上とする。一方で厚過ぎると熱容量が増し、特に、ロールから離脱落下して冷却ユニット表面近傍に堆積した高温域のSC材の温度が低下し易くなるため、2mm以下とするのが望ましい。さらに望ましくは0.5mm以上、1.5mm以下とする。
材質としては特に限定されないが、延性等の機械的性質が優れ、さらに加工性、溶接性が優れている材料として、例えばSUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼が適した材料として選択される。
【0052】
冷却体41を覆う金属薄板カバー42は平面のままでも良い。さらに、例えば水平方向に断面が波形になるように凹凸の加工をすることにより強度が増し、また加熱冷却の熱サイクルに対しても歪みが出にくくなり耐久性を増すことができる。
【0053】
冷却体41とそれを覆う金属薄板カバー42との間の隙間に挿入する熱遮蔽層43としては、金網あるいは金属製の薄板に打ち抜き等の方法で数多くの穴を開けたいわゆるパンチングメタルが最適な材料として選択される。これらの材料は、高温域での輻射伝熱を遮る効果が高く、かつ特に熱伝導度の大きなヘリウムガスに置換した後では対流伝熱がし易く冷却を速くできる利点がある。
【0054】
熱遮蔽層43として金網やパンチングメタルを用いる場合、高温域で熱伝導の寄与が大きい輻射熱を効率良く低下するためには、例えばこれらの材料の開孔率をF%として、
(100−F)×n>100
となるように、熱遮蔽層の挿入枚数nを決めるのが望ましい。
さらに、複数枚の熱遮蔽層を挿入する場合、接触伝熱を避けるため熱遮蔽層の間は適度の隙間を開けるのが望ましい。そのため、例えば開孔率の大きな金網をスペーサーとして挿入するのが望ましい。同じ理由で、熱遮蔽層と冷却体あるいは熱遮蔽層と金属薄板カバーの間にも開孔率の大きな金網を挿入するのが望ましい。
【0055】
次に、上述の冷却ユニットを用いて、冷却装置を構成する方法について述べる。
個々の冷却ユニットは面方向のサイズを大きくすると、熱歪みが出やすくなる。そのため、特に水平方向の幅は600mm以下とし、必要に応じて既に図1や図4に示した例に示すように、冷却ユニットを直列に繋げるのが望ましい。そしてさらに溶解鋳造規模したがってSC材の収納容器の大きさに合わせて、並列に組み合わせて用いる。
【0056】
並列に並べる時の隣接する冷却ユニット間の間隔W、すなわちロールから離脱落下するSC材が占める空間の幅は、30mm以上120mm以下とする。間隔Wが30mm未満では、SC材が冷却され過ぎやすく、アニール効果が不十分となる。また、狭すぎるとSC材がブリッジを組みやすくなり、そのため収納容器の上部に山盛りになったり、収納容器からこぼれる等のトラブルの原因となりやすい。一方、120mmを越えると冷却に必要な時間が長くなり、生産性が低下する。さらに望ましくは、間隔Wは40mm以上、100mm以下とする。
【0057】
直列に繋げる冷却ユニット同士は例えば既に図1に例示したように冷却ユニットの上部で冷却水の一方の出口ノズルと他方の入口ノズルを連結配管33で繋ぎ、さらに真空排気およびガス導入用の配管35も同様に冷却ユニットの上部で互いに連結するようにする。そのようにすることで、冷却ユニット間のSC材の収納空間の上部を塞ぐことがなくなり、SC材が落下し易くなる。
なお、冷却ユニット間の空間にSC材を確実に落下堆積させるため、図7に示すようにロールのSC材の落下位置に破砕機64を設置する。破砕機は、破砕後のSC材の平面方向の大きさが50mm以下、さらに望ましくは30mm以下となるような機種を選定するのが望ましい。
【0058】
SC材は収納容器に満遍なく納まるように、鋳造中は例えば収納容器を往復運動させるのが望ましい。あるいは、収納容器を固定して用いる場合、上部に可動フラッパーを設置して、SC材が収納容器に満遍なく納まるようにすることもできる。
【0059】
次に、本発明の冷却装置を用いたネオジウム系磁石用合金SC材の冷却方法について説明する。
本発明の第1の方法は、特に高磁化型のネオジウム系磁石用合金の製造方法として適した方法であり、第1の実施形態に示した冷却装置を備えたSC装置を用いて、冷却ユニットの冷却体とその両面を覆う金属薄板カバーとの間の隙間を真空排気した状態で鋳造を開始し、鋳造終了後1分以上経過後、隙間にヘリウムガスを充填する。
真空排気した状態では、該隙間に挿入された熱遮蔽層の効果も相俟って、冷却能が低下しており、冷却ユニットの間に落下堆積したSC材の冷却速度が遅くなる。そのため、アニール効果によりRリッチ相の間隔が広がる。
【0060】
次に、該隙間にヘリウムガスを導入することにより、冷却能を高め、冷却所要時間を短縮することができる。ヘリウムガスの充填を鋳造終了後1分以上経過後としたのは、1分間以内では特に鋳造後半に落下したSC材のアニール効果が不十分で、組織にバラツキが出やすいからである。また、ヘリウムガスの導入を開始する鋳造終了後の経過時間は、例えば1時間以上に長くしても時間の経過とともにSC材の温度も低下し、組織変化の速度も低下するため、アニール効果は期待できなくなり、単に冷却時間を長くするのみとなる。そのため、経過時間は長くても1時間以内、望ましくは30分以内とする。
【0061】
導入するヘリウムガスの圧力は、チャンバー内の圧力と同等あるいはそれより若干高めの圧力とする。同圧とすると、冷却体を覆う金属薄板カバーの厚さが薄く、冷却ユニットの面積が広い場合においても、内外面の圧力差は生じず、圧力差に起因する変形を避けることができる。一方、若干高めとした場合は、金属薄板カバーは外側に膨張し、SC材を圧迫するため、SC材同士の接触も良くなり、冷却が促進される傾向が見られる。ただし、圧力を高くしすぎると、金属薄板カバー特に溶接部に機械的な無理がかかり耐久性が劣化するため、最大でもSC装置チャンバー内雰囲気との差圧は1気圧以下とするのが望ましい。
なお、ヘリウムガスは高価ではあるが冷却ユニットの隙間の体積は小さく、使用消費量は少なく、経済的な圧迫要因とはならない。
【0062】
本発明の第2の冷却方法は、第1の冷却方法と同様に、特に高磁化型の焼結磁石用原料合金の製造方法として適した方法であり、図4に示す第2の実施形態に示した冷却装置を備えたSC装置を用いて、冷却ユニットの冷却体とその両面を覆う金属薄板カバーとの間の隙間にアルゴンガスを充填あるいは通流した状態で鋳造を開始し、鋳造終了後1分以上経過後、隙間にヘリウムガスに切り換え通流する。
アルゴンガスを充填あるいは通流した状態では、該隙間に挿入された熱遮蔽層の効果も相俟って、冷却能が低下しており、冷却ユニットの間に落下堆積したSC材の冷却速度が遅くなる。そのため、アニール効果によりRリッチ相の間隔が広がる。
【0063】
次に、熱伝導の良好なヘリウムガスを導入することにより、冷却能を高め、冷却所要時間を短縮することができる。ヘリウムガスの充填を鋳造終了後1分以上経過後としたのは、前述の第1の冷却方法と同様な理由による。また、最長の時間も同様な理由から1時間以内、望ましくは30分以内とする。
【0064】
導入するヘリウムガスの流量は、隙間内のアルゴンガスを置換するのに十分な流量を流せば良い、ヘリウムガスは軽く、アルゴンガスはガスの中でも重く比重差が大きいため、冷却ユニットの隙間の上部一端から流し下部他端から排出する方法を採用することにより、少ない流量でも隙間内を置換するのは容易となり、ヘリウムガスの消費量も少なくて済む。
【0065】
本発明の冷却装置を用いた他の冷却方法として、冷却ユニットの冷却体とそれを覆う金属薄板カバーとの間の隙間にヘリウムガスを最初から導入あるいは通流した状態で鋳造を行う方法を包含する。
このような方法を採用することにより、冷却速度は鋳造開始初期から適度に高めた状態とすることができる。そのような方法により、特に高保磁力型の磁石用合金として最適な、Rリッチ相の間隔が比較的狭いSC材の製造が可能となる。
【0066】
なお、このような冷却方法を採用したとしても、冷却ユニットの水冷冷却体は金属薄板カバーで覆われ、さらに冷却体と金属薄板カバーとの間には1層以上の熱遮蔽層が挿入されているため、直接水冷体で冷却される場合と比べて冷却速度は遅い。そのため、冷却速度が速すぎてRリッチ相の平均間隔が狭すぎ、さらにRリッチ相中のR濃度が低すぎて、磁石製造工程で水素解砕がしにくくなるといった問題を起こす心配はない。
以下に、実施例を用いて、さらに詳細に本発明の冷却装置およびSC装置、冷却方法について説明する。
【実施例】
【0067】
(実施例1)
図1に示すような冷却ユニット21を3基直列に繋ぎ、さらに冷却ユニット間の間隔が60mmとなるように3列並べた冷却装置11を準備した。各冷却ユニットは、冷却体として図5に示したような日本パーカライジングの“プレートコイル60D型”の幅(A)×長さ(B)が304mm×570mmの寸法のものを長さ方向が高さ方向になるようにして用いた。該プレートコイルには6本の水路が形成されておりその水路に合わせて断面が波形になるように凹凸を施した1.0mmtのSUS304製の薄板をプレートコイルの両面を含む全面を覆うように被せ、全周をTIG溶接で接合密閉した。その際、プレートコイル表面と薄板の内面との間に約5mmの隙間が形成されるようにして、隙間には熱遮蔽層として、60メッシュ、線径0.19mm、開孔率が約30%のステンレス製金網を2枚挿入した。なお、プレートコイルと熱遮蔽層、2枚の熱遮蔽層の間、および熱遮蔽層と金属薄板カバーとの間には、互いに直接接触するのを極力避けるため開孔率の大きな金網をスペーサとして挿入した。
【0068】
SC材収納容器の形状は、内寸法で、幅320mm×長さ950mm×高さ600mmであり、冷却装置の下部に約20mmの隙間が生じるように設置した。
このような冷却装置をセットした収納容器を、図6に示すように100kg真空高周波誘導溶解炉を備えたSC装置51に設置した。
【0069】
溶解重量を80kgとし、配合組成でネオジウムが31.5wt%、ボロンが1.0wt%となるように金属ネオジウム、電解鉄、フェロボロンを配合し、通常の溶解方法にて、アルゴン0.3気圧の雰囲気中で溶解後、鋳造幅:300mm、水冷ロール周速度:1.0m/sで鋳造した。なお、鋳造の際、収納容器55にSC材が均一に入るように、収納容器を往復運動させた。
【0070】
なお、鋳造開始前から冷却水を冷却水入口31から導入し流量は30L/分とした。また、鋳造開始前から冷却ユニットの冷却体とそれを覆う薄板の間の隙間を真空引きしておき、鋳造が終了し10分間経過後に、ヘリウムを0.2気圧になるように導入した。導入後、ガスの温度上昇により一時的に圧力は上昇し、その後、冷却とともに圧力が低下する。圧力が最大でも0.4気圧を上回らないように、適宜ヘリウム圧力を調整した。
【0071】
なお、SC材収納容器には測定端子の位置が3基の冷却管ユニットで囲まれる中央部で底から約100mmの位置となるように予め熱電対を設置しておいた。図7曲線aに鋳造開始後2時間の間のSC材の温度変化を示す。高温域で冷却速度が遅くなっており、ヘリウム導入後冷却が速くなっている様子が分かる。
鋳造終了後、2時間後に、チャンバーを開けて、SC材の中にシース熱電対の測定端子を差し込み温度を測定した。その結果、最高温度を示す部分でも、120℃以下と十分低く、酸化による変色は全く起こらなかった。
【0072】
SC材の平均厚さは0.33mmであった。SC材の面に直角方向の断面を観察できるように樹脂に埋め込み、研磨し、走査電子顕微鏡を用いて、反射電子線像にて組織観察を行った。そのようにして得た組織写真を用いて、断面10カ所、SC材の厚さ方向ほぼ中央部について、線分法でRリッチ相の間隔を測定した。その結果、Rリッチ相の平均間隔は5.4μmであり、二次のラメラー状のRリッチ相がほとんど消えた、高温域の冷却速度が十分遅い場合の組織を示しており、高磁化型のネオジウム系磁石用原料合金として最適な組織であると判断された。
なお、SC材収納容器から冷却装置を上方に引き上げ外した状態では、SC材は剥き出し状態になっており、収納容器を反転させることにより、極めて作業性よく、ドラム缶に移し替えることができた。
【0073】
(実施例2)
実施例1と同じ冷却装置、SC装置を用いて、溶解重量80kgとして、配合組成で、ネオジウムが27.0wt%、ディスプロシウムが5wt%、ボロンが1.0wt%となるように金属ネオジウム、電解鉄、フェロボロンを配合し、溶解鋳造した。ただし、冷却ユニットの冷却体とそれを覆う薄板の間の隙間にはヘリウムを鋳造前から導入しておいた。その他の点については実施例1と全く同様にした。
【0074】
図7曲線bに鋳造開始後2時間の間のSC材の温度変化を示す。鋳造開始前から冷却促進用のヘリウムを導入しているため、実施例1と比べて高温域の冷却速度が速いことが分かる。
鋳造終了後、2時間後チャンバーを開けて、SC材の中にシース熱電対の測定端子を差し込み温度を測定した。その結果、最高温度を示す部分でも、100℃以下と十分低く、酸化による変色は全く起こらなかった。
SC材の平均厚さは0.30mmであった。実施例1と同様にしてSC材の断面の組織観察を行った。その結果、Rリッチ相の間隔は3.4μmであり、高保磁力型の磁石の製造用合金原料として最適と考えられる組織を示していた。
【0075】
(比較例1)
実施例1と同じSC装置を用いて、実施例1と同じ配合組成の合金を溶解量も同じ条件にして溶解鋳造した。但し、SC材の収納容器には冷却装置を設置しなかった。
図7曲線cに鋳造開始後2時間の間のSC材の温度変化を示す。実施例1や実施例2と比べて冷却速度が極めて遅いことが分かる。
鋳造終了後、24時間経過後、チャンバーを開けて、SC材の中にシース熱電対の測定端子を差し込み温度を測定した。その結果、250℃以上の温度を示す部分が残っており、収納容器からドラム缶に移す際に、SC材が酸化し、かなりの部分が変色してしまった。
【0076】
SC材の平均厚さは0.30mmであった。実施例1と同様にしてSC材の断面の組織観察を行った。その結果、Rリッチ相の間隔は7.3μmであり、実施例1よりさらに広いRリッチ相の間隔を示していた。組織的には、高磁化型の磁石用原料として利用できる組織であると考えられた。しかしながら、酸化を防ぐには24時間以上チャンバー内に保持する必要があり、生産性が悪く、量産設備として採用はできないと判断された。
【0077】
(比較例2)
実施例1と同じSC材収納容器に、幅50×長さ780×高さ600mmの矩形の水冷ボックスを3列50mm間隔でセットした冷却装置を準備した。
そして、実施例1と同じSC装置を用いて、実施例1と同じ配合組成の合金を溶解鋳造した。溶解重量も実施例1と同じく80kgとした。
図7曲線dに鋳造開始後2時間の間のSC材の温度変化を示す。実施例1や実施例2と比べて特に高温域の冷却速度が速いことが分かる。
SC材の平均厚さは0.31mmであった。実施例1と同様にしてSC材の断面の組織観察を行った。その結果、Rリッチ相の間隔は3μm以上の部分も認められたが、3μm未満の部分も多く認められ、概してRリッチ相の間隔は狭く、かつバラツキも大きく、ネオジウム系磁石用合金の原料としては適さない組織を示していた。
【0078】
(実施例3)
実施例1と同じ形状寸法の冷却体、金属薄板カバー素材、熱遮蔽層、スペーサを用いて、冷却ユニットを製作した。ただし、冷却ユニットの冷却体と金属薄板カバーとの隙間には上部からガスを通流して下部から排出する構造とし、さらに熱遮蔽層は1枚増やし、3枚挿入した。
このようにして製作した冷却ユニットを実施例1と同様、3基直列に繋ぎ、さらに冷却ユニット間の間隔が60mmとなるように3列並べて冷却装置を製作した。このようにして製作した冷却装置を実施例1と同じ収納容器にセットし、その他も全て実施例1と同様にして試験に供した。
それを実施例1と同じSC装置のSC材収納容器に装着して、溶解重量、配合組成、SCの条件も全て同じで溶解鋳造した。
【0079】
なお、鋳造開始前から冷却ユニットの冷却体とそれを覆う薄板の間の隙間は、冷却装置の構造からして溶解鋳造装置のチャンバー内雰囲気と同じアルゴンガスで充填された状態になっている。鋳造が終了し10分間経過後に、該隙間にヘリウムを30リットル/分の流量で導入した。その後10分経過後10リットル/分に減らしヘリウムガスの通流を続けた。
【0080】
実施例1と同様にして、測定した鋳造開始後2時間の間のSC材の温度変化を図7曲線eに示す。高温域で冷却速度が遅くなっており、ヘリウム通流開始後冷却が速くなっている様子が分かる。
鋳造終了後、2時間後に、チャンバーを開けて、SC材の中にシース熱電対の測定端子を差し込み温度を測定した。その結果、最高温度を示す部分でも、120℃以下と十分低く、酸化による変色は全く起こらなかった。
【0081】
SC材の平均厚さは0.32mmであった。Rリッチ相の間隔は5.4μmであり、二次のラメラー状のRリッチ相がほとんど消えた、高温域の冷却速度が十分遅い場合の組織を示しており、高磁化型の磁石用原料合金として最適な組織であると判断された。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、以上説明したように構成されているので、以下に記載されるような効果を有する。
すなわち、本発明の冷却装置は、組織制御に影響の大きい高温域の冷却速度を必要に応じて遅く、かつ生産性に影響する低温域の冷却速度を速くすることが可能である。特にネオジウム系焼結磁石用原料合金の製法のSC装置において、水冷ロールから離脱したSC材を冷却する装置として組み込んで用いた場合、磁石の用途に応じた最適な組織を有した合金の製造が可能な装置とすることができる。かつ、冷却時間も短くできるため、生産性を高めることができる。
【0083】
さらに、冷却装置そのものに故障の原因となる駆動部を有せず、信頼性の高い装置とすることができる。
さらに、冷却ユニットの直列並列に並べる数を増やすことにより、すなわち総伝熱面積を増やすことにより、大型のSC装置まで対応可能である。
以上から産業上の利用可能性は十分高い。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の第1の実施形態に係わる冷却装置の斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係わる冷却ユニットの正面図である。
【図3】図2に示す冷却ユニットの線A−A’に沿った断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係わる冷却ユニットの一部破断外観図である。
【図5】プレート状の冷却体の一例を示す斜視図である。
【図6】本発明のストリップキャスティング装置の概略構成を説明する図である。
【図7】SC材の温度の経時変化を示す図である。
【図8】ストリップキャスティング装置の概略構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0085】
10 SC材
11 冷却装置
21、22 冷却ユニット
31 冷却水入口
32 冷却水出口
33 冷却水連結配管
34 真空排気口兼ガス導入口
35 真空排気兼ガス導入連結配管
36 ガス導入口
37 ガス通流連結配管
38 水路
41 水冷冷却体
42 金属薄板カバー
43 熱遮蔽層
44 隙間
51、52 SC装置
56 ケーブルベア
61 ルツボ
62 タンディッシュ
63 水冷ロール
64 破砕機
65 SC材収納容器
66 ケーブルベア
67 搬送ロール
71 溶解鋳造室
72 冷却室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネオジウム系焼結磁石用合金のストリップキャスティング装置における鋳造薄片の収納容器内に装着して用いられる冷却装置であって、鋳造薄片を充填する空間として30〜120mmの間隔を保って配置された2枚以上のプレート状の冷却ユニットで構成され、該冷却ユニットは水冷方式の冷却体の両表面を隙間を保って金属薄板カバーで覆い、該隙間にそれぞれ1層以上の熱遮蔽層を挿入し、かつ該隙間を真空排気かつガス置換できるように構成してあることを特徴とする冷却装置。
【請求項2】
ネオジウム系焼結磁石用合金のストリップキャスティング装置における鋳造薄片の収納容器内に装着して用いられる冷却装置であって、鋳造薄片を充填する空間として30〜120mmの間隔を保って配置された2枚以上のプレート状の冷却ユニットで構成され、該冷却ユニットは水冷方式の冷却体の両表面を隙間を保って金属薄板カバーで覆い、該隙間にそれぞれ1層以上の熱遮蔽層を挿入し、かつ該隙間に不活性ガスを通流させることができるように構成してあることを特徴とする冷却装置。
【請求項3】
前記冷却体がプレス成形した2枚の金属薄板を貼り合わせかつ薄板間に水路を形成するように構成されたプレート状冷却体であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の冷却装置。
【請求項4】
前記熱遮蔽層が金網あるいはパンチングメタルで構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の冷却装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の冷却装置を備えたことを特徴とするストリップキャスティング装置。
【請求項6】
請求項1に記載の冷却装置を備えたストリップキャスティング装置を用いて、冷却体とその両面を覆う金属薄板カバーとの間の隙間を真空排気した状態で鋳造を開始し、鋳造終了後1分以上経過後、該隙間にヘリウムガスを充填することを特徴とするネオジウム系焼結磁石用合金鋳造薄片の冷却方法。
【請求項7】
請求項2に記載の冷却装置を備えたストリップキャスティング装置を用いて、冷却体とその両面を覆う金属薄板カバーとの間の隙間にアルゴンガスを充填あるいは通流した状態で鋳造を開始し、鋳造終了後1分以上経過後、該隙間にヘリウムガスを通流することを特徴とするネオジウム系焼結磁石用合金鋳造薄片の冷却方法。
【請求項8】
請求項1に記載の冷却装置を備えたストリップキャスティング装置を用いて、冷却体とその両面を覆う金属製薄板カバーとの間の隙間にヘリウムガスを充填した状態で鋳造を行うことを特徴とするネオジウム系焼結磁石用合金鋳造薄片の冷却方法。
【請求項9】
請求項2に記載の冷却装置を備えたストリップキャスティング装置を用いて、冷却体とその両面を覆う金属薄板カバーとの間の隙間にヘリウムガスを通流した状態で鋳造を行うことを特徴とするネオジウム系焼結磁石用合金鋳造薄片の冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−187777(P2006−187777A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−382985(P2004−382985)
【出願日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ケーブルベア
【出願人】(500560691)
【Fターム(参考)】