説明

冷間圧延方法

【課題】特にワークロールに表面粗さが小さいものを使用する場合に、焼付きの発生を防止しながら、ロールバイトへの導入油量が小さくても、ワークロールの表面粗さの変化が抑制され、表面粗さの小さい金属帯を安定して製造するための方途について、提供する。
【解決手段】表面の算術平均粗さが0.05〜0.4μmのワークロールを使用して冷間圧延を行うに当たり、平均粒子径:0.01〜0.2μmの固体粒子が含有された圧延油を循環使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間圧延方法、特に仕上げ面粗さの小さい被圧延材を能率よく生産することが可能な冷間圧延方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板等の金属帯の冷間圧延においては、ワークロールの摩耗を低減し、また焼付きやチャタリング等による表面欠陥を防止するために、被圧延材とワークロールとの間に供給する圧延油が重要な役割を果たしている。圧延油は、ワークロールと被圧延材との間に油膜を形成し、流体潤滑部と境界潤滑部の共存する混合潤滑状態を維持するために用いられる。これは、圧延油のロールバイトへの導入が過多になると、スリップにより圧延が不安定となり、逆に潤滑不足の場合には境界接触部の面積率が大きくなって、摩擦発熱の増加等に起因して焼付きによる表面欠陥が生じるためである。
【0003】
一方、金属帯には、普通鋼のブライト材やステンレス鋼板に代表されるように、表面粗さの小さい製品が求められる場合がある。被圧延材の表面粗さを低減するためには、ロールバイトに導入される圧延油の量を低減させて、境界潤滑部の面積率を増加させながら、表面粗さの小さいワークロールにおける凹凸状態を転写させる必要がある。しかしながら、境界接触部が増加する結果、焼付きによる表面欠陥発生のリスクが高くなってしまう。
【0004】
一方、ワークロールの表面状態も、圧延長の増大と共に経時的に変化し、初期の凹凸状態が摩耗によって平滑化されてくるため、ロールバイトへの導入油量が過多になると、被圧延材の表面にオイルピットが形成されて粗さが増大し、逆に導入油量が過少の場合には、境界接触部の面積率が増大するため、焼付きが発生しやすい状態になる。
すなわち、表面粗さの小さいことが要求される被圧延材に対しては、冷間圧延におけるロールバイトへの導入油量と共にワークロールの表面粗さも適正な状態に維持しなければ、能率よく圧延を行うことができない。
【0005】
一般に、被圧延材の表面粗さを低減する場合には、小径ワークロールを備えた冷間圧延機が用いられる。この冷間圧延機としては、ゼンジミアミルが代表的であり、圧延油として低粘度の鉱油を基油とした、不水溶性のニート油を用いることによって、板表面全体に均一に油膜を付着させてロールバイトへの導入油量を低減させるためである。
【0006】
冷間圧延後の表面粗さが小さい製品を製造するには、ワークロール表面の粗さも、製品表面粗さに応じて小さくすることが必要である。一方で、ワークロール表面の凹凸を被圧延材に転写させるためには、ロールバイトへの導入油量を低減させる必要があり、その際、境界接触部の増大により焼付きが発生しやすくなる。従って、従来の冷間圧延方法では、表面粗さの小さい製品を得るに当たって、焼付きを防止しながら、圧延能率を向上させるために高い圧下率で圧延を行うことは、困難であった。
【0007】
また、ワークロール表面の粗さも摩耗により圧延の進行と共に徐々に変化するため、適正な潤滑状態を維持することが困難となり、ワークロールを一定の頻度で交換せざるを得ず、生産能率の向上には限界があった。
【0008】
このような問題に関して、特許文献1には、主として焼付きを防止するために、合成エステルを基油として、これにグラファイト,チタン酸カリウム,メラミン樹脂等の固体潤滑剤を添加したものが開示されている。
【特許文献1】特開平2−28296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この特許文献1に記載の方法を適用すれば、ロールバイトへの導入油量を低減しつつ、固体潤滑剤の効果により焼付きの発生を防止できると考えられる。しかしながら、発明者らが検討したところ、特許文献1に記載の特定種類の固体潤滑剤を用いるに際し、循環給油方式を前提とした場合にはノズル詰まりによって安定した圧延を継続できないことが問題となった。また、固体潤滑剤の選択が適正に行われないと、ワークロールの表面粗さを増大させてしまい、被圧延材の表面粗さを小さくすることができないという問題が生じる。
【0010】
そこで、本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであって、特にワークロールに表面粗さが小さいものを使用する場合に、焼付きの発生を防止しながら、ロールバイトへの導入油量が小さくても、ワークロールの表面粗さの変化が抑制され、表面粗さの小さい金属帯を安定して製造するための方途について、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨構成は、次のとおりである。
(1)表面の算術平均粗さが0.05〜0.4μmのワークロールを使用して冷間圧延を行うに当たり、平均粒子径:0.01〜0.2μmの固体粒子が含有された圧延油を循環使用することを特徴とする冷間圧延方法。
【0012】
(2)前記圧延油は、動植物油脂、鉱油および合成エステルから選ばれる少なくとも1種以上の基油を含む、ニート油である請求項1に記載の冷間圧延方法。
【0013】
(3)前記ワークロールは、クロムめっきを施したロールである請求項1又は2に記載の冷間圧延方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ロールバイトにおける油膜厚みと同等以下の大きさの固体粒子を圧延油に適用することによって、圧延の流体潤滑性に大きな影響を与えることなく、ワークロールと被圧延材との焼付きを確実に防止することができる。
また、圧延油を被圧延材に供給するノズルでの固体粒子の詰まりを防止できるため、圧延油の循環使用を支障なく実現できる。
さらに、ワークロールの表面粗さが大きくなってきても、固体粒子による境界接触部の微小な研削効果が生じてワークロールの表面粗さの変化を抑制するから、表面粗さの小さい高品質の金属帯を高い生産性の下に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の冷間圧延方法について、詳しく説明する。なお、本発明の冷間圧延が対象とする被圧延材は、例えば鋼帯、ステンレス鋼帯、アルミニウム帯および銅帯等の金属帯である。
また、冷間圧延に用いる圧延機としては、タンデム圧延機やレバース圧延機等、圧延機の形式は問わないが、ワークロール表面の算術平均粗さが0.05〜0.4μmのものを用いる。なぜなら、被圧延材の表面粗さを小さくするために、ワークロールの表面粗さも小さくする必要があるからであり、特に0.05〜0.15μm Raの範囲の表面粗さを持つロールにおいて、大きな効果を発揮する。
【0016】
さらに、ワークロールとしては、通常の冷間圧延に用いられる直径450〜550mm程度のものを用いることも可能であるが、直径150mm以下の小径ワークロールを用いることが望ましい。なぜなら、小径ワークロールを用いることでロールバイトへの導入油量を低減することができ、ワークロールの粗さを板表面に転写しやすく、その粗さを小さくすれば被圧延材の表面粗さを低減することが可能だからである。
【0017】
上記した被圧延材を上記した圧延機によって冷間圧延するに当たり、圧延油を循環使用するが、この圧延油には、まず、基油として、動植物油脂、鉱油および合成エステルから選ばれる少なくとも1種以上を用いる。要求性能によっては、2種以上を混合させて使用することもできる。
【0018】
ここに、動植物油脂としては、従来、冷間圧延に使用されているものを用いることができ、牛脂、パーム油、パーム核油、ナタネ油等の動植物油脂およびそれらの精製品が対象となる。また、マシン油、スピンドル油、タービン油等の鉱油を用いても良い。さらに、一価アルコールと二価脂肪酸とのエステルであるジェステルや、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールと、一価脂肪酸との組合せによるポリオールエステル等、通常冷間圧延に使用する合成エステルを基油とすることができる。
【0019】
さらに、上記基油を不水溶性のニート油として使用する場合には、上記の基油に対して、必要に応じて、各種油性向上剤、極圧添加剤および酸化防止剤等の各種添加剤を含有しても良い。例えば、油性向上剤としては炭素数12〜18の一価脂肪酸、炭素数36のダイマー酸、炭素数54のトリマー酸等を用いることができる。極圧添加剤としては、亜リン酸エステル、酸性リン酸エステル、硫化エステル、硫化オレフィンおよびポリサルファイド等の1種または2種以上を用いることができる。
【0020】
エマルションとして用いる場合には、界面活性剤として、非イオン系またはイオン系のいずれをも用いることができ、エマルションとして、平均粒径1〜20μm程度の安定した粒径を循環使用中も維持するものであれば、複数の界面活性剤を組み合わせて使用しても良い。例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンポリプロピレンエーテル、ポリオキシエチレンおよびソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0021】
ただし、表面粗さの小さい金属帯に対しては、圧延油の粘度は低いほうが望ましい。なぜなら、ロールバイトへの導入油量を低減することができ、被圧延材の表面粗さを低減することが可能だからである。具体的には、40℃における動粘度が20mm/s以下が好適である。
【0022】
本発明においては、以上の圧延油に対して、平均粒子径が0.01〜0.2μmの固体粒子を含有させることが肝要である。固体粒子は、冷間圧延時にクーラントとしてロールバイト入口に供給され、一部はワークロール表面に付着し、一部は基油と共にロールバイト内部に引き込まれることで、固体潤滑剤としてワークロールと被圧延材との境界接触部における、表面損傷を防止する役割を果たすものである。
【0023】
ここに、固体粒子の平均粒子径を0.01〜0.2μmの範囲としたのは、表面粗さの小さい被圧延材を得るための、ロールバイト内での油膜厚みは0.05〜0.2μm程度であるため、固体粒子の大きさもそれ以下にすることによって、圧延油の潤滑効果を阻害しないからである。すなわち、固体粒子の平均粒径が0.2μmを超えると、ロールバイト内での油膜厚みよりも大きな固体粒子がワークロール表面を研削して、ワークロール表面の粗さを増加させてしまうからである。一方、平均粒子径が0.01μm未満であると、クーラントとしてロールバイトに供給された固体粒子がロールバイト内部に引き込まれにくくなり、固体潤滑剤としての効果が薄れるからである。
【0024】
なお、ワークロールの表面粗さを0.05〜0.4μm Raに維持するためには、より望ましくは平均粒子径が0.02〜0.08μmの固体粒子を含有させる。固体粒子の研削作用、すなわち平滑化されたワークロールの表面に対しては粗くする作用、また粗くなったワークロールの表面に対しては凸部を削り取る作用、により、ワークロールの表面粗さを上記範囲に維持することができる。
【0025】
ここで、固体粒子の圧延油中における含有量は、0.1〜10mass%であることが望ましい。すなわち、圧延油における固体粒子の含有量が10mass%を超えると、圧延油全体としての粘度が上昇すると共に、この圧延油を含むクーラント中で十分に分散せずに凝集物を生じさせ、クーラント配管中に堆積してしまうことがある。一方、固体粒子の圧延油における含有量が0.1mass%を下回ると、ロールバイト内に十分な固体粒子が供給されずに、所望の効果を得ることができない場合がある。
【0026】
ここで、固体粒子には、層状構造化合物である二硫化モリブデン、二硫化タングステン、天然雲母および合成雲母などを用いることができる。また、セラミック粒子として、二酸化珪素、二酸化チタン、炭化珪素および窒化珪素等の他、金属系の固体粒子として、金、銀、すずおよび銅などの軟質金属を使用しても良い。有機系材料として、PTFEやポリイミドなどの高分子材料や、ワックスあるいはステアリン酸リチウムなどの金属石鹸なども固体粒子として使用できる。さらに、フラーレン、カーボンナノチューブ、クラスターダイヤモンドなどの、超微粒子を用いても良い。
【0027】
なお、冷間圧延のワークロールとしては、クロムめっきしたものを用いるのが望ましい。クロムめっきロールは、鍛鋼、クロム鋼などを母材として、表面にクロムめっきを施したものである。めっき方法としては、一般的に電解法が用いられており、めっき厚としては3〜30μm程度がよい。クロムめっきロールは、硬質で耐摩耗性に優れているため、ワークロールの表面粗さの変化をより抑えることができるからである。
【実施例】
【0028】
小径ワークロールを用いて本発明に従う圧延油を循環供給して行う冷間圧延について、従来のニート油を用いた冷間圧延と比較評価した。
ここで用いた圧延ロールは、合金工具鋼SKDll製およびこれにクロムめっきを施した小径(100mmΦ)のワークロールであり、表1に示す種々の表面粗さを有する複数のロールを用いた。
また、圧延油は、パラフィン系鉱油:70mass%に合成エステル:30mass%を加えた、40℃における動粘度が7.0mm/sの基油に、極圧剤としてリン酸エステルを添加してニート油としたものに、表1に示す種々の固体粒子を含有させた。該固体粒子の平均粒子径および、ニート油に対する含有量は、表1に示すとおりである。
【0029】
冷間圧延に供する被圧延材は、板厚3.2mmのSUS 430酸洗材であり、上記固体粒子を含有する潤滑剤(発明例)及び固体粒子を含有していない潤滑剤(比較例)を供給しながら、各パスでの圧下率:20〜22%の条件で9パスの冷間圧延を実施した。その際、鋼板の光沢度を測定すると共に、焼付きの発生状況を観察し、圧延ロールの平均粗さの変化を測定した。
なお、鋼板の光沢度は、JIS Z8741 の鏡面光沢度測定方法5に規定のGs(20°)を測定して評価した。また、圧延ロールの平均粗さの変化率は、圧延開始前の研磨後のロール表面算術平均粗さ(Ra)と圧延終了後のロール表面算術平均粗さ(Ra)とを測定し、これら測定値から算出した。
【0030】
表1に、発明例と比較例との測定結果を示す。固体粒子を含有した発明例では、比較例にみられるような、微小な焼付き疵は発生しておらず、圧延ロールの粗さの変化率も小さい。また、微小な焼付き疵の影響もみられないことに併せて、ロール粗さの変化も小さいことから、安定して高い光沢度の鋼板を得ることができた。
【0031】
なお、発明例においては、固体粒子を含有するニート油を循環使用しても、固体粒子は安定な分散状態を維持しており、ノズル詰まり等の問題も生じなかった。
【0032】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の算術平均粗さが0.05〜0.4μmのワークロールを使用して冷間圧延を行うに当たり、平均粒子径:0.01〜0.2μmの固体粒子が含有された圧延油を循環使用することを特徴とする冷間圧延方法。
【請求項2】
前記圧延油は、動植物油脂、鉱油および合成エステルから選ばれる少なくとも1種以上の基油を含む、ニート油である請求項1に記載の冷間圧延方法。
【請求項3】
前記ワークロールは、クロムめっきを施したロールである請求項1又は2に記載の冷間圧延方法。

【公開番号】特開2010−12513(P2010−12513A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177114(P2008−177114)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】