説明

冷間圧延潤滑油

【課題】高純アルミニウム、工業用純アルミニウム及びアルミニウム合金の圧延に用いることができ、高速圧延や高圧化圧延においても、優れた潤滑性を発揮でき、ロールコーティングの発生を抑制できる冷間圧延潤滑油を提供すること。
【解決手段】アルミニウムの冷間圧延に用いる潤滑油である。該潤滑油は、特定量の油性剤、アミン誘導体、及び基油からなる。油性剤は、高級アルコール0.1〜15重量部、高級脂肪酸0.01〜3重量部、及び高級脂肪酸エステル0.1〜15重量部から選ばれる1種以上からなる。また、アミン誘導体は、脂肪族アミン、アルカノールアミン、脂肪族ポリアミン、芳香族アミン、脂環式アミン、複素環アミン、及びそれらのアルキレンオキシド付加物から選ばれる1種以上からなる。また、基油は、ポリイソブチレン、α−オレフィン、及び鉱油から選ばれる1種以上からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムの冷間圧延に用いる潤滑油に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アルミニウムの圧延においては、圧延機の圧延ロールとアルミニウムとの間の摩擦を軽減し潤滑性を確保し、圧延後のアルミニウム板等のアルミニウム製品に傷が発生することを防止する目的で、圧延用の潤滑油が用いられている。このような潤滑油としては、一般に、粘度が数cStの鉱油を基油とし、かつ高級アルコール等の油性剤を含有するものが用いられてきた。また、潤滑油の潤滑性が特に要求される場合には、さらにオレイン酸等の高級脂肪酸を少量添加した潤滑油が用いられてきた。
【0003】
近年、アルミニウム板等のアルミニウム製品においては、高生産性及び高品質化に対する要求がますます厳しくなっている。そこで、生産性へ要求に対応すべく、アルミニウムの圧延において、高速圧延や高圧化圧延が実施されるようになってきた。
【0004】
しかしながら、高速圧延や高圧化圧延を行うと、圧延機の圧延ロールの表面にロールコーティングと称するアルミニウムの凝着層が形成され易くなる。このロールコーティングは、その量及び性状により、圧延性や、圧延後のアルミニウムの表面品質に悪影響を及ぼす場合があった。特に純度99.9%以上の高純アルミニウムの被圧延材料を用いて高速圧延を行うと、ロールコーティングが厚くなり易い。その結果、アルミニウム板の厚みが数ミリピッチで変動するという板厚ハンチングという現象がおこり易くなる。また、ロールコーティングが発生すると、圧延機自体にも振動負荷が発生する。その結果、結局は低速圧延に戻さざるをえなくなり、高生産性が達成できなくなるという問題があった。
【0005】
このような問題を回避するため、潤滑油中の高級アルコールを増量させたり、オレイン酸等の脂肪酸を添加したりすることが行われていた。しかし、この場合には、潤滑油の臭気がきつくなり、作業環境を悪化させるという問題があった。その上、脂肪酸の添加により、脂肪酸石鹸を形成し、それがアルミニウム製品の表面を汚染するという問題があった。さらに、圧延後に焼鈍等を行うと、オイルステインと称する黒色系の焼きつき等の欠陥が発生し易くなるという問題があった。また、潤滑油中のアルミ磨耗粉を増加させるという問題もあった。
そこで、かかる問題に対処すべく、種々の潤滑油が開発されている(特許文献1〜6参照)。これら潤滑油を用いることにより、高純アルミニウムでのロールコーティングを抑制することができる。
【0006】
しかしながら、特許文献1〜6に開示された潤滑油を、所謂1000系アルミニウム等の純度99.9%未満の工業用純アルミニウムやアルミニウム合金に供した場合には、圧延潤滑性が劣化するという問題がある。一般に工業的には、圧延機には一系統のタンクに一種類の潤滑油を収容させて、この一種類の潤滑油を用いて多材質のアルミニウムの圧延を行うため、高純アルミニウムだけではなく、工業用純アルミニウムやアルミニウム合金にも用いることができなければ、現実の工業的には使用不可能となる。
【0007】
【特許文献1】特開2001−329287号公報
【特許文献2】特開2000−119679号公報
【特許文献3】特開2000−80390号公報
【特許文献4】特開2000−80389号公報
【特許文献5】特開2000−8068号公報
【特許文献6】特開平10−338894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、高純アルミニウム、工業用純アルミニウム及びアルミニウム合金の圧延に用いることができ、高速圧延や高圧化圧延においても、優れた潤滑性を発揮でき、ロールコーティングの発生を抑制できる冷間圧延潤滑油を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、アルミニウムの冷間圧延に用いる潤滑油であって、
該潤滑油は、油性剤と、アミン誘導体と、基油とからなり、
上記油性剤は、炭素数11〜15の高級アルコール0.1〜15重量部、炭素数12〜18の高級脂肪酸0.01〜3重量部、及び炭素数13〜22の高級脂肪酸エステル0.1〜15重量部から選ばれる1種以上からなり、その合計量は0.01〜33重量部であり、
上記アミン誘導体は、脂肪族アミン、アルカノールアミン、脂肪族ポリアミン、芳香族アミン、脂環式アミン、複素環アミン、及びそれらのアルキレンオキシド付加物から選ばれる1種以上からなり、その合計量は0.01〜5重量部であり、
上記基油は、ポリイソブチレン、炭素数12〜18のα−オレフィン、及び鉱油から選ばれる1種以上からなり、その合計量は99.98〜62重量部であることを特徴とする冷間圧延潤滑油にある(請求項1)。
【0010】
本発明の冷間圧延潤滑油は、上記のごとく特定の油性剤、アミン誘導体、及び基油を含有している。
そのため、上記冷間圧延潤滑油は、高純アルミニウムだけでなく、工業用純アルミニウム及びアルミニウム合金の冷間圧延にも用いることができ、いずれの材料に対しても優れた圧延潤滑性を発揮することができる。なお、本発明においては、高純アルミニウム、工業用純アルミニウム及びアルミニウム合金を総称して以下適宜「アルミニウム」という。
【0011】
また、上記冷間圧延潤滑油は、冷間圧延機の圧延ロールの表面にロールコーティング(アルミニウムの凝着層)が発生することを抑制することができ、アルミニウムの高速圧延及び高圧下圧延が可能になる。
さらに、上記冷間潤滑油においては、金属石鹸等の副生成物の発生が抑制される。そのため、アルミニウム板等の圧延後のアルミニウム製品に汚染やオイルステインが発生することを抑制できる。それ故、上記冷間圧延潤滑油をアルミニウムの圧延に用いると、表面の品質に優れたアルミニウム製品を製造することができる。
【0012】
このように、本発明によれば、高純アルミニウム、工業用純アルミニウム及びアルミニウム合金の圧延に用いることができ、高速圧延や高圧化圧延においても、優れた潤滑性を発揮でき、ロールコーティングの発生を抑制できる冷間圧延潤滑油を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の実施の形態例について説明する。
本発明の冷間圧延潤滑油(請求項1)は、上記油性剤と、上記アミン誘導体と上記基油とを含有する。
まず、上記油性剤について説明する。
上記冷間圧延潤滑油は、上記油性剤を0.01〜33重量部含有し、該油性剤は、炭素数11〜15の高級アルコール0.1〜15重量部、炭素数12〜18の高級脂肪酸0.01〜3重量部、及び炭素数13〜22の高級脂肪酸エステル0.1〜15重量部から選ばれる1種以上からなる。
【0014】
上記高級アルコールの含有量が0.1重量部未満の場合には、境界潤滑性、即ち極性基を有する上記油性剤が圧延ロールの表面あるいは被圧延材表面に化学あるいは物理吸着し、その吸着膜を介する潤滑性が低下し、圧延時に焼き付きが発生し、圧延後のアルミニウム板等のアルミニウム製品の表面に傷が生じるおそれがある。一方、上記高級アルコールの含有量が15重量部を超えても、上記冷間圧延潤滑油の特性は向上しない。そのため、この場合には、ムダにコストが増大してしまうという問題がある。上記高級アルコールの含有量は、作業環境、圧延潤滑性、コスト等を考慮すると、3重量部〜10重量部であることがより好ましい。
【0015】
また、上記高級アルコールの炭素数が11未満の場合には、上記冷間圧延潤滑油の臭いがきつくなり、作業環境を悪化させるおそれがある。さらにこの場合には、境界潤滑性が劣化し、圧延時に焼き付きが発生し、アルミニウム製品の表面に傷が生じるおそれがある。一方、炭素数が15を超える場合には、冬季や寒冷地等の低温環境下において上記冷間圧延潤滑油が凝固し易くなり、取り扱いが困難になるおそれがある。
【0016】
また、上記高級アルコールは、下記の一般式(1)で表されるアルコールからなることが好ましい(請求項2)。
R1−OH ・・・(1)
(R1は、炭素数11〜15のアルキル基である。)
R1の炭素数が11〜15とする理由は、上記の高級アルコールの炭素数を11〜15の範囲に限定する理由と同様である。
上記一般式(1)で表されるアルコールの具体例としては、例えばラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチンアルコール、オレイルアルコール、ステアリルアルコール等がある。これらは、いずれか1種を用いることもできるが2種以上を混合して用いることもできる。より好ましくは、ラウリルアルコール又は/及びオレイルアルコールがよい。
【0017】
次に、上記高級脂肪酸の含有量が0.01重量部未満の場合には、境界潤滑性が劣化し、圧延時に焼き付きが発生し、圧延後のアルミニウム板等のアルミニウム製品の表面に傷が生じるおそれがある。一方、上記高級脂肪酸の含有量が3重量部を超える場合には、圧延後のアルミニウム製品を焼鈍した際に、オイルステインが発生しやすくなるおそれがある。また、圧延潤滑油中に金属石鹸が発生し、アルミニウム製品の表面の品質を劣化させるおそれがある。
【0018】
また、上記高級脂肪酸の炭素数が12未満の場合には、上記冷間圧延潤滑油の境界潤滑性が劣化するおそれがある。一方、炭素数が18を超える場合には、冬季や寒冷地等の低温環境下において上記冷間圧延潤滑油が凝固し易くなり、取り扱いが困難になるおそれがある。
【0019】
上記高級脂肪酸は、下記の一般式(2)で表される脂肪酸からなることが好ましい(請求項3)。
R2−COOH ・・・(2)
(R2は、炭素数11〜17のアルキル基又はアルケニル基である。)
上記一般式(2)において、R2の炭素数を11〜17とする理由は、上記の高級脂肪酸の炭素数を12〜18の範囲に限定する理由と同様である。即ち、上記一般式(2)におけるR2の炭素数が11未満の場合には、境界潤滑性が劣化するおそれがあり、17を超える場合には、低温環境下において凝固しやすくなる。
【0020】
上記一般式(2)で表される脂肪酸の具体例としては、例えばカプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、デミスリチン酸、ペンタデカン酸、パルチミン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等の直鎖飽和酸や、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノル酸、リノレン酸、リシノール酸等の不飽和脂肪酸がある。これらは、いずれか1種を用いることもできるが2種以上を混合して用いることもできる。
より好ましくは、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸等がよい。
この場合には、上記冷間圧延潤滑油の潤滑性や長期安定性をより向上させることができる。さらに、低温環境下においてより凝固し難いものにすることができ、上記冷間圧延潤滑油の取り扱いをより容易にすることができる。
【0021】
次に、上記高級脂肪酸エステルの含有量が0.1重量部未満の場合には、境界潤滑性が劣化し、圧延時に焼き付きが発生し、圧延後のアルミニウム板等のアルミニウム製品の表面に傷が生じるおそれがある。一方、上記高級脂肪酸エステルの含有量が15重量部を超える場合には、圧延後のアルミニウム製品を焼鈍した際に、オイルステインが発生しやすくなるおそれがある。
【0022】
また、上記高級脂肪酸エステルの炭素数が13未満の場合には、上記冷間圧延潤滑油の潤滑性が劣化したり、ロールコーティングが発生し易くなるおそれがある。また、上記冷間圧延潤滑油の臭いがきつくなり、作業環境が悪化するおそれがある。一方、炭素数が22を超える場合には、圧延後のアルミニウム板等のアルミニウム製品に残留し、後工程における焼鈍でオイルステインが発生し易くなるおそれがある。またこの場合には、上記冷間圧延潤滑油の融点が高くなるため常温で凝固し易くなり、上記冷間圧延潤滑油の使用に際して、これを加熱するための加熱設備等が必要になるおそれがある。
【0023】
また、上記高級脂肪酸エステルは、下記の一般式(3)で表される脂肪酸エステルからなることが好ましい(請求項4)。
R3−COO−R4 ・・・(3)
(R3は、炭素数11〜17のアルキル基又はアルケニル基、R4は炭素数1〜4のアルキル基である。)
上記一般式(3)において、R3の炭素数が11未満の場合には、上記冷間圧延潤滑油の潤滑性が劣化したり、ロールコーティングが発生し易くなるおそれがある。また、上記冷間圧延潤滑油の臭いがきつくなり、作業環境が悪化するおそれがある。一方、上記一般式(3)におけるR3の炭素数が17を超える場合、又はR4の炭素数が4を超える場合には、圧延後のアルミニウム板等のアルミニウム製品に残留し、後工程における焼鈍でオイルステインが発生し易くなるおそれがある。またこの場合には、上記冷間圧延潤滑油の融点が高くなるため常温で凝固し易くなり、上記冷間圧延潤滑油を加熱するための加熱設備が必要になるおそれがある。
【0024】
上記一般式(3)で表される脂肪酸エステルの具体例としては、例えばカプリル酸メチル、カプリル酸エチル、カプリル酸プロピル、カプリル酸ブチル、ペラルゴン酸メチル、ペラルゴン酸エチル、ペラルゴン酸プロピル、ペラルゴン酸ブチル、カプリン酸メチル、カプリン酸エチル、カプリン酸プロピル、カプリン酸ブチル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸エチル、ラウリン酸プロピル、ラウリン酸ブチル、ミリスチン酸メチル、ミリスチン酸エチル、ミリスチン酸プロピル、ミリスチン酸ブチル、パルミチン酸メチル、パルミチン酸エチル、パルミチン酸プロピル、パルミチン酸ブチル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸プロピル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸プロピル、及びオレイン酸ブチル等がある。これらは、いずれか1種を用いることもできるが2種以上を混合して用いることもできる。
【0025】
次に、上記アミン誘導体について説明する。
上記冷間圧延潤滑油は、上記アミン誘導体を0.01〜5重量部含有する。
上記アミン誘導体の含有量が0.01重量部未満の場合には、ロールコーティングが発生し易くなるおそれがある。一方、5重量部を超える場合には、アミンが過剰になり、上記アミン誘導体が上記油性剤よりも速く金属に吸着することにより、上記油性剤の効果を阻害するおそれがある。その結果、上記冷間圧延潤滑油の圧延潤滑性が低下するおそれがある。より好ましくは0.1重量部〜1重量部がよい。
【0026】
上記アミン誘導体は、脂肪族アミン、アルカノールアミン、脂肪族ポリアミン、芳香族アミン、脂環式アミン、複素環アミン、及びそれらのアルキレンオキシド付加物から選ばれる1種以上からなる。また、これらのアミン誘導体は、ヒドロキシル基、エーテル基等を含むことができる。
付加されるアルキレンオキシドの重合形態としては、1種類のアルキレンオキシドの単独重合、2種類以上のアルキレンオキシドのランダム共重合、ブロック共重合又はランダム/ブロック共重合等がある。
アルキレンオキシド付加物においては、付加されるアルキレンオキシドのモル数は、アミン類1モルに対して1〜6モルであることが好ましい。6モルを超える場合には、基油への溶解性が低下するおそれがある。
【0027】
上記アミン誘導体の具体例としては、例えば次のようなものがある。
即ち、脂肪族アミンとしては、例えばメチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、カプリルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、牛脂アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジオクチルアミン、ブチルオクチルアミン、ジステアリルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルミリスチルアミン、ジメチルパルミチルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチルベヘニルアミン、ジラウリルモノメチルアミン、トリオクチルアミン等がある。
【0028】
アルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−イソプロピルエタノールアミン、N,N−ジイソプロピルエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N−メチルイソプロパノールアミン、N,N−ジメチルイソプロパノールアミン、N−エチルイソプロパノールアミン、N,N−ジエチルイソプロパノールアミン、N−イソプロピルイソプロパノールアミン、N,N−ジイソプロピルイソプロパノールアミン、モノn−プロパノールアミン、ジn−プロパノールアミン、トリn−プロパノールアミン、N−メチルn−プロパノールアミン、N,N−ジメチルn−プロパノールアミン、N−エチルn−プロパノールアミン、N,N−ジエチルn−プロパノールアミン、N−イソプロピルn−プロパノールアミン、N,N−ジイソプロピルn−プロパノールアミン、モノブタノールアミン、ジブタノールアミン、トリブタノールアミン、N−メチルブタノールアミン、N,N−ジメチルブタノールアミン、N−エチルブタノールアミン、N,N−ジエチルブタノールアミン、N−イソプロピルブタノールアミン、N,N−ジイソプロピルブタノールアミン等がある。
【0029】
脂肪族ポリアミンとしては、例えばエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、ヘキサメチレンジアミン、硬化牛脂プロピレンジアミン等がある。
芳香族アミンとしては、例えばアニリン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン等がある。
脂環式アミンとしては、例えばN−シクロヘキシルアミン、N,N−ジシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチル−シクロヘキシルアミン、N,N−ジエチル−シクロヘキシルアミン、N,N−ジ(3−メチル−シクロヘキシル)アミン、N,N−ジ(2−メトキシ−シクロヘキシル)アミン、N,N−ジ(4−ブロモ−シクロヘキシル)アミン等がある。
【0030】
複素環アミンとしては、例えばピロリジン、ピペリジン、2−ピペコリン、3−ピペコリン、4−ピペコリン、2,4−ピペコリン、2,6−ピペコリン、3,5−ルペチジン、ピペラジン、ホモピペラジン、N−メチルピペラジン、N−エチルピペラジン、N−プロピルピペラジン、N−メチルホモピペラジン、N−アセチルピペラジン、N−アセチルホモピペラジン、1−(クロロフェニル)ピペラジン、N−アミノエチルピペリジン、N−アミノプロピルピペリジン、N−アミノエチルピペラジン、N−アミノプロピルピペラジン、N−アミノエチルモルホリン、N−アミノプロピルモルホリン、N−アミノプロピル−2−ピペコリン、N−アミノプロピル−4−ピペコリン、1,4−ビス(アミノプロピル)ピペラジン等がある。
【0031】
上記アミン誘導体は、油に対する溶解性の面から分岐鎖を有する炭素数4以上の炭化水素基を有していることが好ましい。また、上記アミン誘導体の全炭素数が20を超える場合には、アルミニウムの圧延後に行われる焼鈍等により、オイルステインが発生し易くなるおそれがある。
【0032】
次に、上記基油について説明する。
上記冷間圧延潤滑油は、上記基油を99.98〜62重量部含有する。
上記基油の含有量が99.98を超える場合には、相対的に、上記冷間圧延潤滑油中の上記油性剤や上記アミン誘導体の量が少なくなる。そのため、境界潤滑性が低下し、焼き付きが発生し、圧延後のアルミニウム板等のアルミニウム製品の表面に傷が生じるおそれがある。また、この場合には、ロールコーティングが発生しやすくなるおそれがある。
一方、62重量部未満の場合には、圧延後のアルミニウム製品を焼鈍した際に、オイルステインが発生しやすくなるおそれがある。また、圧延潤滑性が低下するおそれがある。
【0033】
上記基油は、ポリイソブチレン、炭素数12〜18のα−オレフィン、及び鉱油から選ばれる1種以上からなる。
上記鉱油としては、パラフィン系又は/及びナフテン系の鉱油を用いることができる。
また、環境保護の観点からアロマ成分の含有量が2%以下の鉱油が好ましい。
【0034】
α−オレフィンは、アルミニウムの圧延時に、その表面に化学吸着し易く、油性剤としての機能を有している。
α−オレフィンの炭素数が12未満の場合には、上記冷間圧延潤滑油の境界潤滑性が劣化するおそれがある。一方、炭素数が18を超える場合には、冬季や寒冷地等の低温環境下において上記冷間圧延潤滑油が凝固し易くなり、取り扱いが困難になるおそれがある。
また、上記基油としてのα−オレフィンは、比較的粘度が低いため、例えば厳しい圧延潤滑性が要求され、かつオイルピットが嫌われる場合等に、好適に使用することができる。
【0035】
また、上記基油としてのα−オレフィンは、1−ドデセン、1−テトラセン、1−ヘキサデセン及び1−オクタデセンから選ばれる1種以上からなることが好ましい(請求項5)。
この場合には、上記冷間圧延潤滑油の潤滑性をより向上させることができる。特に好ましくは、1−ヘキサデセンと1−オクタデセンとを略等量ずつ混合した混合物がよい。
【0036】
また、ポリイソブチレンは、比較的高圧粘度が高い。そのため、ポリイソブチレンを基油として含有する上記冷間圧延潤滑油は、ロールバイト内への導入油量、即ち圧延機の圧延ロールと被圧延材料であるアルミニウム材料との間への導入油量が多くなり易い。また、上記ポリイソブチレンは熱分解し易いという特性がある。そのため、ポリイソブチレンを基油として含有する冷間圧延潤滑油は、オイルステインを発生し難い。
したがって、上記ポリイソブチレンは、厳しい圧延潤滑性が要求され、かつオイルステインの発生が懸念される場合等に、好適に使用することができる。
【0037】
上記基油としての上記ポリイソブチレンは、下記の式(4)で表され、かつ粘度が5〜20mm2/sであることが好ましい(請求項6)。
【化2】

(nは1以上の自然数)
【0038】
この場合には、上記冷間圧延潤滑油の潤滑性をより向上させることができる。また、ポリイソブチレンの粘度が20mm2/sを超える場合には、取り扱いが困難になるおそれがある。一方、5mm2/s未満の上記ポリイソブチレンは、入手することが困難になる。工業的に市販されているポリイソブチレンの粘度は5mm2/s以上だからである。
【0039】
また、上記式(4)で表される上記ポリイソブチレンは、水素添加されたものを用いることができる(請求項7)。
水素添加されたポリイソブチレンは、下記の式(5)で表される。
【化3】

(nは1以上の自然数)
【0040】
また、上記冷間圧延潤滑油は、粘度が1〜20mm2/sであることが好ましい(請求項8)。
粘度が1mm2/s未満の場合には、圧延時にロールバイトに供給される上記冷間圧延潤滑油の量が少なくなり、潤滑不良を引き起こし、圧延後のアルミニウム製品の表面品質が劣化するおそれがある。一方、20mm2/sを超える場合には、圧延時に圧延機のロールとアルミニウム材料との間でスリップが発生したり、オイルピットが発生し易くなる他、圧延後にオイルステインが発生し易くなるおそれがある。より好ましくは、1.2〜6.0mm2/sがよい。
上記冷間圧延潤滑油の粘度は、基油と、該基油に添加する上記油性剤やアミン誘導体等の配合割合で決定することができる。
【0041】
また、上記冷間圧延潤滑油は、上記油性剤、アミン誘導体、基油の他、本発明の効果を損なわない限り、他の添加剤を含有することができる。具体的には、上記添加剤は、上記油性剤とアミン系誘導体と基油との合計量100重量部対して5重量部以下がよい。
このような添加剤としては、例えば酸化防止剤、さび止め剤、腐食防止剤、消泡剤等がある。酸化防止剤としては,DBPC(2,6−ジターシャリーブチル−P−クレゾール)等のフェノール系化合物、フェニル−α−ナフチルアミン等の芳香族アミン、ソルビタンモノオレート等の多価アルコールの部分エステル、リン酸エステル及びその誘導体などがある。腐食防止剤としては、例えばベンゾトリアゾール等、消泡剤としてはシリコン系のもの等を用いることができる。
【実施例】
【0042】
(実施例1)
次に、本発明の実施例につき説明する。
本例では、組成の異なる複数の冷間圧延潤滑油を準備し、これらの特性を調べた。
本例の冷間圧延潤滑油は、アルミニウムの冷間圧延に用いる潤滑油である。該潤滑油は、油性剤0.01〜33重量部と、アミン誘導体0.01〜5重量部と、基油99.98〜62重量部とからなる。油性剤は、炭素数11〜15の高級アルコール0.1〜15重量部、炭素数12〜18の高級脂肪酸0.01〜3重量部、及び炭素数13〜22の高級脂肪酸エステル0.1〜15重量部から選ばれる1種以上からなる。アミン誘導体は、脂肪族アミン、アルカノールアミン、脂肪族ポリアミン、芳香族アミン、脂環式アミン、複素環アミン、及びそれらのアルキレンオキシド付加物から選ばれる1種以上からなる。基油は、ポリイソブチレン、炭素数12〜18のα−オレフィン、及び鉱油から選ばれる1種以上からなる。
【0043】
本例では、後述の表1に示すごとく、油性剤、アミン誘導体、及び基油の種類や量が異なる複数の冷間圧延潤滑油(試料E1〜試料E15)を準備した。
基油としては、下記の3種類の基油A〜Cを用いた。
(基油)
基油A:温度40℃における粘度4.09mm2/sの鉱油(パラフィン30容量%、ナフテン70容量%)
基油B:直鎖オレフィン(1−ヘキサデセンと1−オクタデセンの等量混合物)
基油C:温度40℃における粘度12.1mm2/sのポリイソブチレン
【0044】
また、油性剤としては、下記の3種類の油性剤A〜Cを用いた。
油性剤A:ラウリルアルコール
油性剤B:ステアリン酸ブチル
油性剤C:オレイン酸
また、アミン誘導体としては下記の3種類のアミン誘導体A〜Cを用いた。
アミン誘導体A:オレイルアミン
アミン誘導体B:N,N−ジシクロヘキシルアミンエチレンオキシド2モル付加物
アミン誘導体C:N−エチルイソプロパノールアミン
【0045】
次に、試料E1〜E15の冷間圧延潤滑油を用いて、アルミニウム材料の冷間圧延を行い、下記の圧延性試験及びロールコーティング量試験を行った。アルミニウム材料としては、アルミニウム純度の異なる2種類の材料、即ち材料A及び材料Bを用いた。
試料E2〜試料E15の圧延試験及びロールコーティング量試験においては、材料Aを用いて行った。また、試料E1については、材料A及び材料Bをそれぞれ用いて行った。
材料Aは、Alの他に、Siを0.1重量%、Feを0.27重量%含有する工業用純アルミニウム(JIS
A1050H−18)からなるアルミニウム板(幅40mm、長さ450mm、厚さ2.0mm)である。
材料Bは、Alの他に、Feを0.25重量%、Mnを0.35重量%、及びMgを4.5重量%含有するアルミニウム合金(JIS
A5182−H18)からなるアルミニウム板(幅40mm、長さ450mm、厚さ2.0mm)である。
【0046】
(圧延性試験)
アルミニウム材料(圧延材)1枚毎にロールギャップを0.4mmから0.05mm間隔で減少させながら圧延材の圧延を繰り返し行った。圧延は、焼き付きやヘリングボーンが発生して圧延ができなくなるまで繰り返し行い、圧延不能となった一つ前の圧延における圧下率(限界圧下率)を測定した。その結果を表1に示す。なお、圧延は、ロール径155mm、ロール表面粗度0.4μmの圧延ロールを有する圧延機を用いて、圧延速度34m/minで行った。
【0047】
(ロールコーティング量試験)
まず、30枚の圧延材を圧下率50%で圧延した。その後、圧延機の圧延ロールの表面に付着しているロールコーティングを水酸化ナトリウム水溶液によって溶解し、脱脂綿で回収した。脱脂綿中のアルミニウム溶解液を純水で抽出し、原子吸光法によりアルミニウム量を定量した。その結果を表1に示す。
【0048】
また、本例においては、試料E1〜試料E15の冷間圧延潤滑油の優れた特性を明らかにするため、比較用として、後述の表2に示すごとく、9種類の潤滑油(試料C1〜試料C9)を作製し、その特性を調べた。試料C1〜試料C9は、基油として上記基油A(温度40℃における粘度4.09mm2/sの鉱油(パラフィン30容量%、ナフテン70容量%))を含有する。その他、選択的な成分として、上記油性剤A(ラウリルアルコール)、上記アミン誘導体A(オレイルアミン)、上記アミン誘導体B(N,N−ジシクロヘキシルアミンエチレンオキシド2モル付加物)、アミン誘導体C(N−エチルイソプロパノールアミン)を含有する。
【0049】
上記試料C1〜試料C9についても、上記試料E1〜試料E15と同様に、上記圧延性試験及び上記ロールコーティング量試験を行った。これらの試験は、試料C1〜試料9においてはアルミニウム材料として上記材料Aを用いて行い、試料C1及び試料C5においては、さらに上記材料Bについても行った。その結果を表2に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
表1より知られるごとく、試料E1〜試料E15の冷間圧延潤滑油を用いて、工業用純アルミニウム(材料A)の圧延を行った場合には、いずれも65%以上という高い限界圧下率を示すと共に、ロールコーティングの発生も420mg/m2以下という非常に少量のものであった。
【0053】
即ち、試料E1〜E15においては、工業用純アルミニウムの圧延に際して、圧延速度34m/minという比較的高速な圧延条件下において、限界圧下率65%以上という高圧な圧延を実施することができる。さらに、工業用純アルミニウムからなる被圧延材料を用いたにもかかわらず、ロールコーティングの発生量も420mg/m2という非常に少ないものであった。
したがって、限界圧下率が65%以上で、かつロールコーティング量が420mg/m2である上記試料E1〜試料E15冷間圧延潤滑油は、工業用純アルミニウムの高速圧延や高圧化圧延に用いることができる。
【0054】
これに対し、表2より知られるごとく、試料C1〜試料C9の潤滑油においては、工業用純アルミニウム(材料A)の圧延に際して、上記試料E1〜試料E15のごとく限界圧下率65%以上で、かつロールコーティング量が420mg/m2以下という条件を満足できるものはなかった。
【0055】
また、アルミニウム合金(材料B)の圧延を行った場合においては、表1より知られるごとく、本発明の実施例にかかる試料E1は、58%という高い限界圧下率を示すと共に、ロールコーティングの発生も185mg/m2という非常に少量のものであった。これに対し、表2より知られるごとく、試料C1及び試料C5は、それぞれ52%、49%という低い限界圧下率を示し、ロールコーティングの発生量もそれぞれ237mg/m2、188mg/m2という比較的多いものであった。
【0056】
このように本例によれば、高純アルミニウムだけでなく、工業用純アルミニウム及びアルミニウム合金の圧延に用いることができ、高速圧延や高圧化圧延においても、優れた潤滑性を発揮でき、ロールコーティングの発生を抑制できる冷間圧延潤滑油(試料E1〜試料E15)を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムの冷間圧延に用いる潤滑油であって、
該潤滑油は、油性剤と、アミン誘導体と、基油とからなり、
上記油性剤は、炭素数11〜15の高級アルコール0.1〜15重量部、炭素数12〜18の高級脂肪酸0.01〜3重量部、及び炭素数13〜22の高級脂肪酸エステル0.1〜15重量部から選ばれる1種以上からなり、その合計量は0.01〜33重量部であり、
上記アミン誘導体は、脂肪族アミン、アルカノールアミン、脂肪族ポリアミン、芳香族アミン、脂環式アミン、複素環アミン、及びそれらのアルキレンオキシド付加物から選ばれる1種以上からなり、その合計量は0.01〜5重量部であり、
上記基油は、ポリイソブチレン、炭素数12〜18のα−オレフィン、及び鉱油から選ばれる1種以上からなり、その合計量は99.98〜62重量部であることを特徴とする冷間圧延潤滑油。
【請求項2】
請求項1において、上記高級アルコールは、下記の一般式(1)で表されるアルコールからなることを特徴とする冷間圧延潤滑油。
R1−OH ・・・(1)
(R1は、炭素数11〜15のアルキル基である。)
【請求項3】
請求項1又は2において、上記高級脂肪酸は、下記の一般式(2)で表される脂肪酸からなることを特徴とする冷間圧延潤滑油。
R2−COOH ・・・(2)
(R2は、炭素数11〜17のアルキル基又はアルケニル基である。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、上記高級脂肪酸エステルは、下記の一般式(3)で表される脂肪酸エステルからなることを特徴とする冷間圧延潤滑油。
R3−COO−R4 ・・・(3)
(R3は、炭素数11〜17のアルキル基又はアルケニル基、R4は炭素数1〜4のアルキル基である。)
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、上記基油としてのα−オレフィンは、1−ドデセン、1−テトラセン、1−ヘキサデセン及び1−オクタデセンから選ばれる1種以上からなることを特徴とする冷間圧延潤滑油。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項において、上記基油としての上記ポリイソブチレンは、下記の式(4)で表され、かつ粘度が5〜20mm2/sであることを特徴とする冷間圧延潤滑油。
【化1】

(nは1以上の自然数)
【請求項7】
請求項6において、上記式(4)で表される上記ポリイソブチレンは、水素添加されていることを特徴とする冷間圧延潤滑油。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項において、上記冷間圧延潤滑油は、粘度が1〜20mm2/sであることを特徴とする冷間圧延潤滑油。

【公開番号】特開2006−22281(P2006−22281A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203789(P2004−203789)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】