説明

処理装置及びインライン式成膜装置

【課題】ベーキング処理により反応容器内の真空度を短時間で高めることが可能な処理装置を提供する。
【解決手段】被処理基板Wが配置される反応容器2と、反応容器2内にガスを導入するガス導入管と、反応容器2内を減圧排気する真空ポンプ15,16と、反応容器2の内面に沿って配置されたシールド板31と、シールド板31を加熱するベーキングヒータとを備え、ベーキングヒータによりシールド板31を加熱しながら、真空ポンプ15,16により前記反応容器2内を減圧排気する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧雰囲気下で被処理基板に対して成膜等の処理を行う処理装置、並びにそのような処理装置を備えたインライン式成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスク装置、可撓性ディスク装置、磁気テープ装置等の磁気記録装置の適用範囲は著しく増大され、その重要性が増すと共に、これらの装置に用いられる磁気記録媒体について、その記録密度の著しい向上が図られつつある。特に、HDD(ハードディスクドライブ)では、MRヘッドやPRML技術などの導入以来、面記録密度の上昇は更に激しさを増し、さらに、近年ではGMRヘッドやTuMRヘッドなども導入され、1年に約100%ものペースで面記録密度が増加を続けている。
【0003】
一方、HDDの磁気記録方式として、いわゆる垂直磁気記録方式が従来の面内磁気記録方式(磁化方向が基板面に平行な記録方式)に代わる技術として、近年急速に利用が広まっている。この垂直磁気記録方式では、情報を記録する記録層の結晶粒子が基板に対して垂直方向に磁化容易軸を持っている。磁化容易軸とは、磁化の向き易い方向を意味し、一般的に用いられているCo合金の場合、Coのhcp構造の(0001)面の法線に平行な軸(c軸)である。垂直磁気記録方式は、このような磁性結晶粒子の磁化容易軸が垂直方向にあることにより、高記録密度が進んだ際にも、記録ビット間の反磁界の影響が小さく、静磁気的にも安定しているという特徴がある。
【0004】
垂直磁気記録媒体は、非磁性基板上に下地層、中間層(配向制御層)、記録磁性層、保護層の順に成膜されるのが一般的である。また、保護層まで成膜した上で、表面に潤滑膜を塗布形成する場合が多い。また、多くの場合、軟磁性裏打ち層と呼ばれる磁性膜が下地層の下に設けられている。下地層や中間層は、記録磁性層の特性をより高める目的で形成される。具体的には、記録磁性層の結晶配向を整えると同時に、磁性結晶の形状を制御する働きがある。
【0005】
上述した磁気記録媒体は、主にスパッタリング法を用いて形成された複数の薄膜を積層して構成されている。このため、磁気記録媒体は、このような磁気記録媒体を構成する各薄膜を成膜する複数のチャンバ(処理装置)を、ゲートバルブを介して一列に接続したインライン式成膜装置を用いて製造されるのが一般的である。ここで、各チャンバは、一対の電極を有する反応容器と、反応容器内にガスを導入するガス導入管と、反応容器内のガスを排気する真空ポンプ等を有して構成される。このインライン式成膜装置では、処理対象となる基板が、各チャンバ内に順次搬送され、各チャンバ内で所定の薄膜が成膜される。したがって、インライン式成膜装置では、基板を一巡させることにより、基板上にチャンバの数に応じた数の薄膜を成膜することができる(例えば、特許文献1を参照。)。
【0006】
ところで、このようなインライン式成膜装置を用いて磁気記録媒体を製造する際に最も多く発生するトラブルとしては、反応容器内で被処理基板を保持するキャリアからの被処理基板の落下が挙げられる。具体的に、インライン式成膜装置では、被処理基板を保持するキャリアを複数のチャンバの間で順次搬送させながら、被処理基板に対して成膜等の処理を行うが、搬送中にキャリアから被処理基板が落下して、装置を停止させてしまうといったトラブルが発生することがあった。
【0007】
このようなトラブルが発生した場合には、先ず、反応容器内を大気圧の状態にしてから反応容器を開放し、落下した基板を反応容器から取り出した後、再び反応容器内を減圧してから装置を再稼働する。ここで、反応容器から基板を取り出すまでの作業は数分で終了するものの、その後に反応容器を減圧して装置を再稼働するまでに数時間程度を要するため、磁気記録媒体の生産性が低下するといった問題が発生してしまう。特に、磁気記録媒体を構成する薄膜には、より高い結晶性が要求されるために、反応容器内のベースプレッシャー(最高到達真空度)をより高真空側とし、不純物が少ない環境下で成膜を行う必要がある。したがって、反応容器を減圧するのに要する時間も必然的に長くなる。
【0008】
反応容器内のベースプレッシャーを高真空とする方法としてベーキング処理がある。ベーキング処理は、反応容器を加熱して壁面温度を高め、壁面に吸着したガスを脱離させ、反応容器内のガスを効率良く排気してベースプレッシャーを下げる方法である。しかしながら、従来のインライン式成膜装置では、複数の反応容器が連結された構造であるために、反応容器全体として大きな容積を有している。そして、それぞれの反応容器には複数の真空ポンプが取り付けられているために、短時間でベーキング処理を行うことが困難であった。特に、インライン式成膜装置の各反応容器は、その内部を高真空状態とするため、耐圧性を有する隔壁によって構成されている。しかしながら、このような隔壁に用いられるステンレスなどの高剛性材料は、熱伝導性が悪く、短時間でのベーキング処理に適していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−274142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、ベーキング処理により反応容器内の真空度を短時間で高めることが可能な処理装置、並びにそのような処理装置を備えたインライン式成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の手段を提供する。
(1) 被処理基板が配置される反応容器と、
前記反応容器内にガスを導入するガス導入手段と、
前記反応容器内を減圧排気する減圧排気手段と、
前記反応容器の内面に沿って配置されたシールド板と、
前記シールド板を加熱する加熱手段とを備え、
前記加熱手段により前記シールド板を加熱しながら、前記減圧排気手段により前記反応容器内を減圧排気することを特徴とする処理装置。
(2) 前記シールド板には、前記反応容器の内面に接触して設けられていることを特徴とする前項(1)に記載の処理装置。
(3) 前記シールド板には、複数の孔部が設けられていることを特徴とする前項(1)又は(2)に記載の処理装置。
(4) 前記シールド板は、前記反応容器を構成する隔壁よりも熱伝導率の高い材料からなることを特徴とする前項(1)〜(3)の何れか一項に記載の処理装置。
(5) 前記加熱手段として、ベーキングヒータを用いることを特徴とする前項(1)〜(4)の何れか一項に記載の処理装置。
(6) 前記減圧排気手段は、前記反応容器の上方に配置された上部ポンプ室を介して取り付けられた第1の真空ポンプを有することを特徴とする前項(1)〜(5)の何れか一項に記載の処理装置。
(7) 前記第1の真空ポンプとして、ターボ分子ポンプを用いることを特徴とする前項(6)に記載の処理装置。
(8) 前記減圧排気手段は、前記反応容器の下方に配置された下部ポンプ室を介して取り付けられた第2の真空ポンプを有することを特徴とする前項(1)〜(7)の何れか一項に記載の処理装置。
(9) 前記第2の真空ポンプとして、クライオポンプを用いることを特徴とする前項(8)に記載の処理装置。
(10) 前記ガス導入手段は、前記被処理基板の周囲に形成される反応空間にガスを導入するリング状のガス導入管を有することを特徴とする前項(1)〜(9)の何れか一項に記載の処理装置。
(11) 複数のチャンバと、
前記複数のチャンバ内で被処理基板を保持するキャリアと、
前記キャリアを前記複数のチャンバの間で順次搬送させる搬送機構とを備え、
前記複数のチャンバのうち少なくとも1つは、前項(1)〜(10)の何れか一項に記載の処理装置によって構成されていることを特徴とするインライン式成膜装置。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明では、反応容器の内面に沿って配置されたシールド板を加熱しながら、反応容器内を減圧排気することで、反応容器の内面の温度を効率良く高めて、この反応容器の内面に吸着したガス等を効率良く短時間に排気できるため、反応容器内の真空度を短時間で高めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用した処理装置の一例を示す一部切欠き断面図である。
【図2】図1に示す処理装置の正面図である。
【図3】図1に示す処理装置が備えるガス流入管の平面図である。
【図4】図1に示す処理装置が備えるキャリア及び搬送機構を搬送方向と直交する方向から見た側面図である。
【図5】図1に示す処理装置が備えるキャリア及び搬送機構を搬送方向側から見た側面図である。
【図6】本発明を適用したインライン式成膜装置の一例を示す構成図である。
【図7】図6に示すインライン式成膜装置において2つの処理基板に対して交互に処理する場合を示す側面図である。
【図8】本発明を適用して製造される磁気記録媒体の一例を示す断面図である。
【図9】本発明を適用して製造されるディスクリート型の磁気記録媒体の一例を示す断面図である。
【図10】磁気記録再生装置の一構成例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
本実施形態では、本発明を適用した処理装置を備えるインライン式成膜装置を用いて、ハードディスク装置(磁気記録再生装置)に搭載される磁気記録媒体を製造する場合を例に挙げて説明する。
【0015】
(処理装置)
先ず、図1に示す本発明を適用した処理装置1の一例について説明する。
本発明を適用した処理装置1は、後述する複数のチャンバの間で成膜対象となる基板(被処理基板)Wを順次搬送させながら成膜処理等を行うインライン式成膜装置において、1つの処理チャンバを構成するものである。
【0016】
具体的に、この処理装置1は、図1に示すように、被処理基板Wが配置される反応容器2を備え、この反応容器2内には、被処理基板Wを保持するホルダ3が取り付けられたキャリア4と、このキャリア4を搬送する搬送機構5とが配置されている。
【0017】
なお、この処理装置1では、2枚の被処理基板Wの両面に対して同時に成膜処理等を行うことが可能である。また、図1において図示されていないものの、キャリア4には2つのホルダ3が搬送方向に直線上に並んで取り付けられている。また、2つのホルダ3は、被処理基板Wを縦置き(被処理基板Wの主面が重力方向と平行となる状態)に保持している。
【0018】
反応容器2は、図1及び図2に示すように、その内部を高真空状態とするため、耐圧性を有する隔壁によって気密に構成された真空容器(チャンバ)であり、互いに対向する正面側隔壁6aと背面側隔壁6bとの間には、扁平状の内部空間7が形成されている。そして、被処理基板Wを保持するキャリア4は、この内部空間7の中央部に、搬送機構5は、このキャリア4の下方に、それぞれ配置されている。
【0019】
また、反応容器2の搬送方向の前後には、隣接する反応容器(チャンバ)との間でキャリア4を通過させる通路(図示せず)と、これらの通路を開閉する一対のゲートバルブ2Aとが設けられている。すなわち、反応容器2は、隣接するチャンバとはゲートバルブ2Aを介して接続されている。
【0020】
また、反応容器2内には、キャリア4に保持された2つの被処理基板Wの両面にそれぞれ対向するように、計4つのバッキングプレート8が配置されている。そして、これら4つのバッキングプレート8の被処理基板Wと対向する面(表面)には、ターゲットTが取り付けられている。また、各バッキングプレート8は、図示を省略する高周波電源(又はマイクロ波電源)と接続されており、この高周波電源からバッキングプレート8を介してターゲットTに高周波電圧を印加することが可能となっている。
【0021】
処理装置1は、図1及び図3に示すように、反応容器2内にガスを導入するガス導入管(ガス導入手段)9を備えている。このガス導入管9は、円盤状の被処理基板Wに対応してリング状に形成された環状部9aを有し、この環状部9aに接続された連結部9bを介してガス供給源10と接続されている。また、ガス導入管9の環状部9aは、被処理基板WとターゲットTとの間に形成される反応空間Rの周囲を囲むように配置されている。さらに、この環状部9aの内周部には、複数のガス放出口9cが周方向に並んで設けられており、ガス導入管9は、これら複数のガス放出口9cからその内側にある被処理基板Wに向かって、ガス供給源10から供給されたガスGを放出することが可能となっている。
【0022】
なお、ガス放出口9cの口径については、各ガス放出口9cから放出されるガスGの量を一定とするため、各ガス放出口9cの口径を変化させた構成とすることが好ましい。具体的には、各ガス放出口9cから放出されるガスGの量が一定となるように、連結部9bからの距離に応じて、ガス放出口9cの口径を大きくすることが好ましい。
【0023】
また、ガス導入管9とガス供給源10との間の配管には、図示を省略する調整バルブが設けられている。処理装置1では、この調整バルブの開閉を制御すると共に、この調整バルブを介してガス導入管9に供給されるガスGの流量を調整することが可能となっている。
【0024】
各バッキングプレート8のターゲットTとは反対側の面(裏面)には、それぞれ磁界を発生させるマグネット(磁界発生手段)11が配置されている。各マグネット11は、駆動モータ12の回転軸12aに取り付けられて、駆動モータ12によりバッキングプレート8と平行な面内で回転駆動される。
【0025】
反応容器2の正面側隔壁6a及び背面側隔壁6bには、この反応容器2の内側に臨む開口部13が設けられている。この開口部13は、上記ホルダ3に保持された2つの被処理基板Wの両面にそれぞれ対向する位置に、上述したターゲットTが取り付けられたバッキングプレート8、ガス導入管9、並びにマグネット11が取り付けられた駆動モータ12(以下、まとめて処理ユニット1Aという。)を配置するのに十分な大きさで長円状(レーストラック状)に形成されている。また、正面側隔壁6a及び背面側隔壁6bには、この開口部13の周囲を気密に封止する筒状のハウジング14が取り付けられており、上記駆動モータ12は、このハウジング14の内側に固定支持されている。なお、正面側隔壁6a及び背面側隔壁6bは、メンテナンス等の際に反応容器2を開放するため、反応容器2に対して開閉自在に取り付けられている。
【0026】
処理装置1は、図1に示すように、反応容器2内を減圧排気する減圧排気手段として、反応容器2の上方に配置された第1の真空ポンプ15と、反応容器2の下方に配置された第2の真空ポンプ16とを備えている。
【0027】
第1の真空ポンプ15は、反応容器2の上方に配置された上部ポンプ室17Aを介して取り付けられたターボ分子ポンプである。このターボ分子ポンプは、潤滑油を使用しない構成のため、清浄度(クリーン度)が高く、また、排気速度が大きいため、高い真空度が得られる。さらに、反応性の高いガスを排気するのに適している。
【0028】
上部ポンプ室17Aは、耐圧性を有する隔壁によって気密に構成されており、反応容器2の上部に取り付けられて、この反応容器2の内部空間7と連続した内部空間7Aを形成している。そして、第1の真空ポンプ15は、この上部ポンプ室17Aの両側面にそれぞれ対向した状態で取り付けられている。
【0029】
一方、第2の真空ポンプ16は、反応容器2の下方に配置された下部ポンプ室17Bを介して取り付けられたクライオポンプである。クライオポンプは、極低温を作り出し、内部の気体を凝縮又は低温吸着することで高い真空度が得られ、特に、排気速度やクリーン度の点においてターボ分子ポンプよりも優れている。
【0030】
下部ポンプ室17Bは、耐圧性を有する隔壁によって気密に構成されており、反応容器2の内部空間7とは反応容器2の底壁6cに形成された孔部6dを介して連通されている。そして、第2の真空ポンプ16は、この下部ポンプ室17Bの側面に接続されている。
【0031】
処理装置1では、これら第1の真空ポンプ15及び第2の真空ポンプ16の駆動を制御しながら、反応容器2内を減圧したり、反応容器2内に導入されたガスを排気したりすることが可能となっている。
【0032】
キャリア4は、図1及び図4に示すように、板状を為す支持台18の上部に2つのホルダ3が支持台18と平行に取り付けられた構造を有している。ホルダ3は、被処理基板Wの厚さの1〜数倍程度の厚さを有する板材3aに、被処理基板Wの外径よりも僅かに大径となされた円形状の孔部3bが形成されて、この孔部3bの内側に被処理基板Wを保持する構成となっている。
【0033】
具体的に、ホルダ3の孔部3bの周囲には、被処理基板Wを支持する複数の支持アーム19が弾性変形可能に取り付けられている。これら複数の支持アーム19は、孔部3bの内側に配置された被処理基板Wの外周部を、その外周上の最下位に位置する下部側支点と、この下部側支点を通る重力方向に沿った中心線に対して対称となる外周上の上部側に位置する一対の上部側支点との3点で支持するように、板材3aの孔部3bの周囲に所定の間隔で3つ並んで設けられている。
【0034】
各支持部材19は、L字状に折り曲げられた板バネからなり、その基端側がホルダ3に固定支持されると共に、その先端側が孔部3bの内側に向かって突出された状態で、それぞれホルダ3の孔部3bの周囲に形成されたスリット3c内に配置されている。また、各支持部材19の先端部には、図示を省略するものの、それぞれ被処理基板Wの外周部が係合される溝部が設けられている。
【0035】
そして、ホルダ3は、これら3つの支持アーム19に被処理基板Wの外周部を当接させながら、各支持アーム19の内側に嵌め込まれた被処理基板Wを着脱自在に保持することが可能となっている。なお、ホルダ3に対する被処理基板Wの着脱は、下部側支点の支持アーム19を下方に押し下げることにより行うことができる。
【0036】
搬送機構5は、図1、図4及び図5に示すように、キャリア4を非接触状態で駆動する駆動機構20と、搬送されるキャリア4をガイドするガイド機構21とを有している。
駆動機構20は、キャリア4の下部にN極とS極とが交互に並ぶように配置された複数の磁石22と、その下方にキャリア4の搬送方向に沿って配置された回転磁石23とを備え、この回転磁石23の外周面には、N極とS極とが二重螺旋状に交互に並んで形成されている。
【0037】
駆動機構20には、回転磁石22の周囲を囲む真空隔壁24が設けられており、この真空隔壁24によって反応容器2の内部空間7とは隔離された空間(大気側)に回転磁石22を配置している。また、真空隔壁24は、複数の磁石22と回転磁石23とが磁気的に結合されるように透磁率の高い材料で形成されている。
【0038】
回転磁石22は、回転モータ25により回転駆動される回転軸26と互いに噛合されるギア機構27を介して連結されている。これにより、回転モータ25からの駆動力を回転軸26及びギア機構27を介して回転磁石23に伝達しながら、この回転磁石23を軸回りに回転することが可能となっている。
【0039】
そして、この駆動機構20は、複数の磁石22と回転磁石23とを非接触で磁気的に結合させながら、回転磁石23を軸回りに回転させることにより、キャリア4を回転磁石23の軸方向に沿って直線駆動する。
【0040】
ガイド機構21は、水平軸回りに回転自在に支持された複数の主ベアリング28を有し、これら複数の主ベアリング28は、キャリア4の搬送方向に直線上に並んで設けられている。一方、キャリア4は、支持台18の下部側に複数の主ベアリング28が係合される溝部が形成されたガイドレール29を有している。
【0041】
また、ガイド機構21は、垂直軸回りに回転自在に支持された一対の副ベアリング30を有し、これら一対の副ベアリング30は、その間にキャリア4を挟み込むように対向して配置されている。さらに、これら一対の副ベアリング30は、複数の主ベアリング28と同様に、キャリア4の搬送方向に直線上に複数並んで設けられている。
【0042】
そして、このガイド機構21は、ガイドレール29の溝部に複数の主ベアリング28を係合させた状態で、これら複数の主ベアリング28の上を移動するキャリア4を案内すると共に、一対の副ベアリング30の間でキャリア4を挟み込むことによって、移動中にキャリア4が傾くことを防止している。
【0043】
なお、主ベアリング28及び副ベアリング30は、機械部品の摩擦を減らし、スムーズな機械の回転運動を確保するため、転がり軸受によって構成されている。そして、この転がり軸受は、図示を省略するものの、反応容器2内に設けられたフレームに固定された支軸に回転自在に取り付けられている。
【0044】
以上のような構造を有する処理装置1では、バッキングプレート8を介してターゲットTに高周波電圧を印加し、ガス導入管9から導入されたガスをイオン化して、ターゲットTの周囲(反応空間R)にプラズマを発生させながら、このプラズマ中のイオンをターゲットTの表面に衝突させることにより、ターゲットTから叩き出されたターゲット粒子を被処理基板W上に堆積して薄膜を形成することが可能である。
【0045】
また、この処理装置1では、上記ターゲットTが取り付けられたバッキングプレート8を配置する代わりに、カソード電極を配置した場合、被処理基板Wにバイアス電圧を印加し、ガス導入管9から導入されたガスをイオン化して、被処理基板Wの周囲(反応空間R)にプラズマを発生させながら、このプラズマに被処理基板Wの表面を曝すことにより、曝露領域の改質を行うことが可能である。
【0046】
ところで、本発明を適用した処理装置1は、図1及び図2に示すように、反応容器2の内面に沿って配置されたシールド板31と、このシールド板31を加熱するベーキングヒータ(加熱手段)32とを備えており、ベーキングヒータ32によりシールド板31を加熱しながら、上記第1及び第2の真空ポンプ15,16により反応容器2内を減圧排気することで、反応容器2内をベーキング処理することが可能となっている。
【0047】
具体的に、シールド板31は、上記反応容器2を構成する隔壁よりも熱伝導率の高い材料からなり、上記反応容器2を構成する隔壁が、例えば鉄や、ステンレス、インコネル、ハイマンガン鋼などの高剛性材料からなるのに対して、シールド板31は、例えば銅や、アルミニウム、又はそれらの合金などの上記隔壁よりも熱伝導率の高い材料からなっている。また、シールド板31は、反応容器2の内面に接触して設けられていることが好ましく、上記反応容器2のキャリア4が通過する通路及び上記開口部13を除く内面を覆うように設けられている。
【0048】
シールド板31は、ベーキング処理の際にガスの通り道となる複数の孔部(図示せず。)を設けた構成としてもよい。この孔部の大きさについては、なるべく大きい方がよいものの、大きくなり過ぎると、反応容器2の内面との接触面積が低下してしまうため、反応容器2の内面に対する加熱効果が低下してしまう。また、スパッタリングの際にターゲットTから飛散したターゲット粒子が反応容器2の内面に付着することを防止するシールド板としての役割を果たさなくなる。したがって、このような観点から、孔部の直径については、反応容器2の大きさにもよるものの、1〜10mmの範囲とすることが好ましく、より好ましくは3〜7mmの範囲である。また、シールド板31に形成される複数の孔部の配置(密度)については、孔部の大きさにもよるものの、隣接する孔部の間隔(最内距離)を5〜100mmの範囲とすることが好ましく、より好ましくは20〜70mmの範囲である。
【0049】
この処理装置1では、上記反応容器2の他にも、上記ポンプ室17A,17Bの内面に、上記シールド板31と同様のシールド板31A,31Bと、これらシールド板31A,31Bを加熱するベーキングヒータ32A,32Bが設けられている。
【0050】
ベーキングヒータ32,32A,32Bは、線状又はリボン状の発熱体(電熱線)からなり、上記シールド板31,31A,31Bを均一に加熱するため、各シールド板31,31A,31Bの表面に這わせるように、各シールド板31,31A,31Bに接触させた状態で設けられている。また、ベーキングヒータ32,32A,32Bには、シールド板31,31A,31Bとの電気的な絶縁を図るため、シースヒータを用いることが好ましい。
【0051】
そして、この処理装置1で反応容器2内をベーキング処理する際は、電流を流すことにより発熱したベーキングヒータ32,32A,32Bでシールド板31,31A,31Bを加熱する。この状態で第1及び第2の真空ポンプ15,16によって反応容器2内を減圧排気する。
【0052】
ここで、従来の反応容器2内に配置されているシールド板は、反応容器2の内面から脱離するガスの排気を阻害しないように、反応容器2の内面から離間して設けられている。これに対して、本発明では、シールド板31を反応容器2の内面に接触した状態とし、このシールド板31をベーキングヒータ32で加熱する。また、本発明では、上述した熱伝導率の高い材料からなるシールド板21を用いているため、このシールド板31を加熱することで反応容器2の内面を短時間で目標温度まで加熱することができる。
【0053】
そして、このようなシールド板31からの伝熱によって反応容器2の内面を間接的に加熱しながら、反応容器2の内面に吸着したガスを効率良く短時間で脱離させることが可能となっている。また、反応容器2の内面から脱離したガスは、シールド板31に設けられた複数の孔部を通じて、第1及び第2の真空ポンプ15,16により効率良く排気することが可能である。
【0054】
以上のように、本発明を適用した処理装置1では、このようなベーキング処理によって、反応容器2の内面に吸着したガスを効率良く短時間で排気し、反応容器2内の真空度を短時間で高めることが可能である。
【0055】
また、本発明を適用した処理装置1では、上述したベーキング処理を速やかに実施できるため、この処理装置1を磁気記録媒体を製造するインライン式成膜装置に適用した場合には、その装置の稼働率を高めて、磁気記録媒体の生産性を高めることが可能である。
【0056】
なお、反応容器2の内面を加熱する温度(ベーキング温度)については、この反応容器2の内面に吸着しているガスを脱離させるためには高い方がよいものの、あまり高くし過ぎると、反応容器2に付属している樹脂等の耐熱性の低い部品が燃焼してしまう虞れがある。したがって、ベーキング温度については、これらの部品の耐熱温度以下とすることが好ましく、一方、反応容器2の内面に吸着しているガスとして最も多い水を脱離するため、水の沸点以上とすることが好ましい。
【0057】
また、シールド板31,31A,31Bを加熱する時間については、反応容器2の内面に吸着しているガスを脱離させるためには長い方がよいものの、あまり長くし過ぎると、処理装置1の稼働時間が短くなり、生産性が低下することになる。したがって、要求されるベースプレッシャーに応じて、適切な範囲で加熱時間を選択する必要がある。
【0058】
なお、本発明では、上記3つのシールド板31,31A,31Bのうち、反応容器2の内面に設けられたシールド板31を加熱することが、上述したベーキング処理により反応容器2内の真空度を短時間で高める上で最も効果的である。
【0059】
すなわち、反応容器2の内面に吸着したガスは、スパッタリング時に反応空間Rを通過する可能性が高く、磁気記録媒体を製造する際に最も影響を及ぼすからである。一方、上記ポンプ室17A,17Bの内面にも吸着したガスは存在するものの、これらのガスは、脱離しても各ポンプ室17A,17Bに接続された第1及び第2の真空ポンプ15,16によって速やかに排気されるため、磁気記録媒体を製造する際の影響は反応容器2の内面に吸着したガスほど大きくはない。
【0060】
また、本発明において、上記反応容器2のキャリア4が通過する通路及び上記開口部13を除いてシールド板31を配置したのは、例えば、上記処理ユニット1AのターゲットTを覆ってしまうと、スパッタリングによる成膜を行うことが阻害されるからである。また、ターゲットTの周囲は成膜時に高温となるため、この部分に吸着しているガスは、速やかに脱離して、成膜に及ぼす影響が長くは続かないからである。さらに、上記反応容器2のキャリア4が通過する通路についても、この部分をシールド板31で覆ってしまうと、キャリア4の搬送を阻害してしまうからである。
【0061】
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記処理装置1では、反応容器2の両側面に2つの第1の真空ポンプ15と、反応容器2の下方に1つの第2の真空ポンプ16とが配置された構成となっているが、これら真空ポンプ15,16の配置や数については適宜変更して実施することが可能である。例えば、反応容器2内を減圧排気するのに要する時間は、真空ポンプ15,16の数が多くなるほど短縮されるものの、第1及び第2の真空ポンプ15,16の数が余り多くなると、処理装置1の大型化や消費電力の増大を招くため、このような観点から第1及び第2の真空ポンプ15,16の数を決定することが望ましい。
【0062】
なお、上記第2の真空ポンプ16に使用されるクライオポンプは、外部に排出する構造のターボ分子ポンプとは異なり、内部に溜め込む構造のため、一定期間ごとにメンテナンスする必要がある。また、反応容器2内に導入されるガスが反応性の高いガスである場合には、上述したターボ分子ポンプからなる第1の真空ポンプ15を用いて、反応容器2の外部へと排気することが望ましい。これにより、反応後のガスが反応空間7の下方に流れて、上記搬送機構5を構成するベアリング28,30等の金属部品が腐食してしまうことを防ぎつつ、反応容器2内をクリーンな状態に保つことが可能である。なお、上記第2の真空ポンプ16には、クライオポンプの代わりに、ターボ分子ポンプを用いることも可能である。
【0063】
(インライン式成膜装置)
次に、図6に示す上記処理装置1を備えたインライン式成膜装置50の構成について説明する。
このインライン式成膜装置50は、図6に示すように、基板移送用ロボット室51と、基板移送用ロボット室51上に設置された基板移送用ロボット52と、基板移送用ロボット室51に隣接する基板取付用ロボット室53と、基板取付用ロボット室53内に配置された基板取付用ロボット54と、基板取付用ロボット室53に隣接する基板交換室55と、基板交換室55に隣接する基板取外用ロボット室56と、基板取外用ロボット室56内に配置された基板取外用ロボット57と、基板交換室55の入側と出側との間に並んで配置された複数の処理チャンバ58〜70及び予備チャンバ71と、複数のコーナー室72〜75と、基板交換室55の入側から出側に至る各チャンバ58〜71及びコーナー室72〜75の間で順次搬送される複数の上記キャリア4とを備えて概略構成されている。
【0064】
また、基板交換室55の入側から出側に至る各室の間には、開閉自在なゲートバルブ76〜93が設けられている。各チャンバ58〜71は、これらゲートバルブ76〜93を閉状態とすることで、それぞれ独立した密閉空間を形成することが可能となっている。
【0065】
基板移送用ロボット52は、成膜前の非処理基板Wが収納されたカセット(図示せず。)から、基板取付用ロボット室54に被処理基板Wを供給すると共に、基板取外用ロボット室56から成膜後の被処理基板Wを回収するためのものである。また、基板移送用ロボット室51と基板取付用及び基板取外用ロボット室53,56の間には、それぞれ開閉自在なゲート部94,95が設けられている。さらに、基板交換室55と基板取付用及び基板取外用ロボット室53,56との間にも、それぞれ開閉自在なゲート部96,97が設けられている。
【0066】
基板取付用ロボット54は、基板交換室55内にあるキャリア4に成膜前の被処理基板Wを取り付ける一方、基板取外用ロボット57は、基板交換室55内にあるキャリア4から成膜後の被処理基板Wを取り外す。
【0067】
複数の処理チャンバ58〜70及び予備チャンバ71は、基本的に上記処理装置1の反応容器2と同様の構成を有しており、各処理チャンバ58〜70の両側面には、上記キャリア4に保持された被処理基板Wに対する処理内容に応じた処理ユニット1Aが配置されている。また、各チャンバ58〜71には、図示を省略するものの、上述した真空ポンプが接続されており、これら真空ポンプの動作によって各チャンバ58〜71を個別に減圧排気することが可能となっている。また、各コーナー室72〜75には、キャリア4の移動方向を変更するための回転機構(図示せず。)が設けられている。
【0068】
そして、このインライン式成膜装置50では、基板交換室55の入側から出側に至る各チャンバ58〜71及びコーナー室72〜75の間で複数のキャリア4を順次搬送させながら、各キャリア4に保持された被処理基板W(図6において図示せず。)に対して成膜処理等を行うことが可能となっている。
【0069】
なお、本実施形態では、上記キャリア4のホルダ3に保持された2つの被処理基板Wを同時に処理することが可能であるが、一方のホルダ3に保持された被処理基板Wのみに処理を行う構成である場合には、例えば図7中の実線で示すように、キャリア4の一方のホルダ3Aに保持された被処理基板W1に対して処理を行った後、図7中の破線で示すように、反応容器2内でキャリア4の位置をずらし、キャリア4の他方のホルダ3B(図6中に破線で示す。)に保持された被処理基板W2に対して処理を行う。これにより、キャリア4のホルダ3に保持された2つの被処理基板W1,W2に対して交互に処理を行うことが可能である。
【0070】
(磁気記録媒体)
次に、上記インライン式成膜装置50を用いて製造される磁気記録媒体について説明する。
上記インライン式成膜装置50を用いて製造される磁気記録媒体は、例えば図8に示すように、上記被処理基板Wとなる非磁性基板100の両面に、軟磁性層101、中間層102、記録磁性層103及び保護層104が順次積層された構造を有し、更に最表面に潤滑膜105が形成された構造を有している。また、軟磁性層81、中間層82及び記録磁性層83によって磁性層106が構成されている。
【0071】
非磁性基板100としては、例えば、Al−Mg合金などのAlを主成分としたAl合金基板、ソーダガラスやアルミノシリケート系ガラス、結晶化ガラスなどのガラス基板、シリコン基板、チタン基板、セラミックス基板、樹脂基板等の各種基板を挙げることができるが、その中でも、Al合金基板や、ガラス基板、シリコン基板を用いることが好ましい。また、非磁性基板100の平均表面粗さ(Ra)は、1nm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5nm以下であり、さらに好ましくは0.1nm以下である。
【0072】
磁性層106としては、面内磁気記録媒体用の水平磁性層と、垂直磁気記録媒体用の垂直磁性層とに大別することができるが、より高い記録密度を実現するためには垂直磁性層を用いることが好ましい。また、磁性層106には、Coを主成分とするCo合金を用いることが好ましい。具体的に、垂直磁性層の場合には、例えば、軟磁性のFeCo合金(FeCoB、FeCoSiB、FeCoZr、FeCoZrB、FeCoZrBCuなど)、FeTa合金(FeTaN、FeTaCなど)、Co合金(CoTaZr、CoZrNB、CoBなど)等からなる軟磁性層101と、Ru等からなる中間層102と、60Co−15Cr−15Pt合金や70Co−5Cr−15Pt−10SiO合金からなる記録磁性層103とを積層したものなどを用いることができる。また、軟磁性層81と中間層82との間に、Pt、Pd、NiCr、NiFeCrなどからなる配向制御膜を介在させてもよい。一方、水平磁性層の場合には、例えば、非磁性のCrMo下地層と強磁性のCoCrPtTa磁性層とを積層したものなどを用いることができる。
【0073】
また、磁性層106は、使用する磁性合金の種類と積層構造に合わせて、十分な磁気ヘッドの出入力特性が得られるような厚みで形成する必要がある。一方、磁性層106は、再生時に一定以上の出力を得るため、ある程度の厚みが必要となるものの、記録再生特性を表す諸パラメータは出力の上昇と共に劣化するのが通例であるため、これらを考慮して最適な厚みを設定する必要がある。具体的に、磁性層106の全体の厚みは、3nm以上20nm以下とすることが好ましく、より好ましくは5nm以上15nm以下である。
【0074】
保護層104には、磁気記録媒体において通常使用される材料を用いればよく、そのような材料として、例えば、炭素(C)、水素化炭素(HXC)、窒素化炭素(CN)、アルモファスカーボン、炭化珪素(SiC)等の炭素質材料や、SiO、Zr、TiNなどを挙げることができる。また、保護層104は、2層以上積層したものであってもよい。保護層104の厚みは、10nmを越えると、磁気ヘッドと磁性層106との距離が大きくなり、十分な入出力特性が得られなくなるため、10nm未満とすることが好ましい。
【0075】
潤滑膜105は、例えば、フッ素系潤滑剤や、炭化水素系潤滑剤、これらの混合物等からなる潤滑剤を保護層104上に塗布することにより形成することができる。また、潤滑膜105の膜厚は、通常は1〜4nm程度である。
【0076】
また、磁気記録媒体に対しては、上記インライン式成膜装置50を用いて、記録磁性層103に反応性プラズマ処理やイオン照射処理を施し、記録磁性層103の磁気特性の改質を行うことができる。例えば図9に示す磁気記録媒体は、記録磁性層103に形成された磁気記録パターン103aが非磁性領域103bによって分離されてなる、いわゆるディスクリート型の磁気記録媒体である。
【0077】
このディスクリート型の磁気記録媒体については、例えば、磁気記録パターン103aが1ビットごとに一定の規則性をもって配置されたパターンドメディアや、磁気記録パターン103aがトラック状に配置されたメディア、磁気記録パターン103aがサーボ信号パターン等を含んだメディアなどを挙げることができる。
【0078】
また、ディスクリート型の磁気記録媒体は、その記録密度を高めるために、記録磁性層103のうち、磁気記録パターン103aとなる部分の幅L1を200nm以下、非磁性化領域103bとなる部分の幅L2を100nm以下とすることが好ましい。また、この磁気記録媒体のトラックピッチP(=L1+L2)は、300nm以下とすることが好ましく、記録密度を高めるためにはできるだけ狭くすることが好ましい。
【0079】
このようなディスクリート型の磁気記録媒体は、記録磁性層103の表面にマスク層を設け、このマスク層に覆われていない箇所を反応性プラズマ処理やイオン照射処理等に曝する。これにより、記録磁性層103の一部の磁気特性を改質し、好ましくは磁性体から非磁性体に改質した非磁性領域103bを形成することによって得ることができる。
【0080】
ここで、記録磁性層103の磁気特性の改質とは、記録磁性層103をパターン化するために、記録磁性層103の保磁力、残留磁化等を部分的に変化させることを言い、その変化とは、保磁力を下げ、残留磁化を下げることを言う。
【0081】
具体的に、記録磁性層103の磁気特性を改質する際は、反応性プラズマや反応性イオンに曝した箇所の記録磁性層103の磁化量を、当初(未処理)の75%以下、より好ましくは50%以下、保磁力を当初の50%以下、より好ましくは20%以下とすることが好ましい。これにより、磁気記録を行う際の書きにじみを無くし、高い面記録密度を得ることができる。
【0082】
また、磁気特性の改質は、すでに成膜された記録磁性層103を反応性プラズマや反応性イオン等に曝し、磁気記録トラックやサーボ信号パターンを分離する箇所(非磁性領域103b)を非晶質化することによっても実現することができる。
【0083】
ここで、記録磁性層103を非晶質化するとは、記録磁性層103の結晶構造を改変することを言い、記録磁性層103の原子配列を、長距離秩序を持たない不規則な原子配列の状態とすることを言う。具体的に、記録磁性層103を非晶質化する際は、記録磁性層103の原子配列を粒径2nm未満の微結晶粒がランダムに配列した状態とすることが好ましい。なお、このような記録磁性層103の原子配列状態は、X線回折や電子線回折などの分析手法によって、結晶面を表すピークが認められず、ハローのみが認められる状態として確認することが可能である。
【0084】
(磁気記録再生装置)
上記磁気記録媒体を用いた磁気記録再生装置としては、例えば図10に示すようなハードディスクドライブ装置(HDD)を挙げることができる。この磁気記録再生装置は、上記磁気記録媒体である磁気ディスク200と、磁気ディスク200を回転駆動させる媒体駆動部201と、磁気ディスク201に対する記録動作と再生動作とを行う磁気ヘッド202と、磁気ヘッド202を磁気ディスク200の径方向に移動させるヘッド駆動部203と、磁気ヘッド202への信号入力と磁気ヘッド202から出力信号の再生とを行うための信号処理系204とを備えている。
【0085】
この磁気記録再生装置では、上記ディスクリートトラック型の磁気記録媒体を磁気ディスク200として用いた場合に、この磁気ディスク200に磁気記録を行う際の書きにじみを無くし、高い面記録密度を得ることが可能である。すなわち、上記ディスクリートトラック型の磁気記録媒体を用いることで、記録密度の高い磁気記録再生装置を得ることが可能となる。
【0086】
また、この磁気記録再生装置では、記録トラックを磁気的に不連続に加工することにより、従来はトラックエッジの磁化遷移領域の影響を排除するために再生ヘッド幅を記録ヘッド幅よりも狭くして対応していたものを、両者をほぼ同じ幅にして動作させることができ、これによって十分な再生出力と高いSNRを得ることが可能となる。
【0087】
また、この磁気記録再生装置では、磁気ヘッド202の再生部をGMRヘッド又はTMRヘッドで構成することによって、高記録密度においても十分な信号強度を得ることが可能となる。さらに、磁気ヘッド202を従来より低く浮上させる、具体的には、この磁気ヘッド202の浮上量を0.005μm〜0.020μmの範囲とすることで、出力の向上により高いSNRを得ることができ、大容量で信頼性の高い磁気記録再生装置とすることが可能となる。
【0088】
さらに、最尤復号法による信号処理回路を組み合わせると、更なる記録密度の向上を図ることが可能となる。例えば、トラック密度100kトラック/インチ以上、線記録密度1000kビット/インチ以上、1平方インチ当たり100Gビット以上の記録密度で記録・再生する場合にも、十分なSNRを得ることが可能となる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0090】
(実施例1)
実施例1では、上記図1に示す処理装置1について、そのベースプレッシャーを実際に測定した。
なお、上記処理装置1の容積は、反応容器2が約60リットル、上部ポンプ室17Aが約20リットル、下部ポンプ室17Bが約5リットルである。また、上部ポンプ室17Aに取り付けられた2台の第1の真空ポンプ15は、排気速度947リットル/秒(計2台での計算値)のターボ分子ポンプである。一方、下部ポンプ室17Bに取り付けられた1台の第2の真空ポンプ16は、排気速度297リットル/秒(計算値)のターボ分子ポンプである。反応容器2の内面には、厚さ2mmのアルミニウム合金製のシールド板31が、この反応容器2の内面に密着した状態で取り付けられている。また、シールド板31には、直径5mmの孔部が30mm間隔で複数並んで設けられている。ベーキングヒータ32は、このシールド板の表面に這わせるようにシースヒータを配置している。さらに、反応容器2内にある4つのバッキングプレート8には、直径6インチのターゲットTが取り付けられている。
【0091】
そして、この処理装置1では、第1及び第2の真空ポンプ15,16で反応容器2内を減圧しながら、ベーキングヒータ32によりシールド板31を加熱した。なお、ベーキング温度は300℃とし、加熱時間は60分とした。加熱後、反応容器2を20分間冷却し、この反応容器2内の真空度を測定したところ、1×10−5Paであった。
【0092】
(比較例1)
比較例1では、シールド板31の加熱を行わずに80分間の減圧のみを行った以外は、実施例1と同様の方法でベースプレッシャーの測定を行った。その結果、反応容器2内の真空度は、7×10−5Paであった。
【符号の説明】
【0093】
1…処理装置 1A…処理ユニット 2…反応容器 2A…ゲートバルブ 3…ホルダ3 4…キャリア 5…搬送機構 6a…正面側隔壁 6b…背面側隔壁 6c…底壁 6d…孔部 7,7A…内部空間 8…バッキングプレート(カソード電極) 9…ガス導入管(ガス導入手段)10…ガス供給源 11…マグネット(磁界発生手段) 12…駆動モータ 13…開口部 14…ハウジング 15…第1の真空ポンプ(減圧排気手段) 16…第2の真空ポンプ(別の減圧排気手段) 17A…上部ポンプ室 17B…下部ポンプ室 18…支持台 19…支持アーム 20…駆動機構 21…ガイド機構 22…磁石 23…回転磁石 24…真空隔壁 25…回転モータ 26…回転軸 27…ギア機構 28…主ベアリング 29…ガイドレール 30…副ベアリング 31,31A,31B…シールド板 32,32A,32B…ベーキングヒータ W…被処理基板 T…ターゲット R…反応空間 G…ガス
50…インライン式成膜装置 51…基板移送用ロボット室 52…基板移送用ロボット 53…基板取付用ロボット室 54…基板取付用ロボット 55…基板交換室 56…基板取外用ロボット室 57…基板取外用ロボット 58〜70…処理チャンバ 71…予備チャンバ 72〜75…コーナー室 76〜93…ゲートバルブ 94〜97…ゲート部
100…非磁性基板 101…軟磁性層 102…中間層 103…記録磁性層 103a…磁気記録パターン 103b…非磁性化領域 104…保護層 105…潤滑膜 106…磁性層 107…マスク層 108…レジスト層 109…スタンプ
200…磁気ディスク 201…媒体駆動部 202…磁気ヘッド 203…ヘッド駆動部 204…信号処理系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基板が配置される反応容器と、
前記反応容器内にガスを導入するガス導入手段と、
前記反応容器内を減圧排気する減圧排気手段と、
前記反応容器の内面に沿って配置されたシールド板と、
前記シールド板を加熱する加熱手段とを備え、
前記加熱手段により前記シールド板を加熱しながら、前記減圧排気手段により前記反応容器内を減圧排気することを特徴とする処理装置。
【請求項2】
前記シールド板には、前記反応容器の内面に接触して設けられていることを特徴とする請求項1に記載の処理装置。
【請求項3】
前記シールド板には、複数の孔部が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の処理装置。
【請求項4】
前記シールド板は、前記反応容器を構成する隔壁よりも熱伝導率の高い材料からなることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の処理装置。
【請求項5】
前記加熱手段として、ベーキングヒータを用いることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の処理装置。
【請求項6】
前記減圧排気手段は、前記反応容器の上方に配置された上部ポンプ室を介して取り付けられた第1の真空ポンプを有することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の処理装置。
【請求項7】
前記第1の真空ポンプとして、ターボ分子ポンプを用いることを特徴とする請求項6に記載の処理装置。
【請求項8】
前記減圧排気手段は、前記反応容器の下方に配置された下部ポンプ室を介して取り付けられた第2の真空ポンプを有することを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の処理装置。
【請求項9】
前記第2の真空ポンプとして、クライオポンプを用いることを特徴とする請求項8に記載の処理装置。
【請求項10】
前記ガス導入手段は、前記被処理基板の周囲に形成される反応空間にガスを導入するリング状のガス導入管を有することを特徴とする請求項1〜9の何れか一項に記載の処理装置。
【請求項11】
複数のチャンバと、
前記複数のチャンバ内で被処理基板を保持するキャリアと、
前記キャリアを前記複数のチャンバの間で順次搬送させる搬送機構とを備え、
前記複数のチャンバのうち少なくとも1つは、請求項1〜10の何れか一項に記載の処理装置によって構成されていることを特徴とするインライン式成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−244640(P2010−244640A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93881(P2009−93881)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】