説明

凹凸ガラス板の製造方法

【課題】微細な凹凸パターンを有する凹凸ガラス板を簡便に製造する方法を提供する。
【解決手段】ガラスペースト層3を形成する工程と、ガラス層を形成する工程と、凹凸を形成する工程とを備える。ガラスペースト層3を形成する工程では、平坦な表面2aを有するガラス板2の該表面2aの一部の上に、ガラス板2よりも軟化点が低いガラス粉末を含むペーストを塗布し、ガラスペースト層3を形成する。ガラス層を形成する工程では、ガラスペースト層3を焼成する。凹凸を形成する工程では、ガラス板2に対するエッチング速度よりもガラス層に対するエッチング速度の方が大きいエッチング液を用いてガラス層をエッチングにより除去すると共に、凹凸を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹凸ガラス板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラスの表面加工方法として、フッ酸などの化学薬品を用いる化学エッチング処理、サンドブラスト装置を用いる物理エッチング処理などが知られている。例えば、特許文献1には、フッ酸を含むエッチング液を使用してガラス基板表面に凹凸パターンを形成する方法が開示されている。また、特許文献2には、サンドブラスト装置を用いて基板上の低融点ガラスを彫刻して、基板上に低融点ガラスのパターンを形成する方法が開示されている。
【0003】
また、特許文献3には、ガラス基材の表面にニッケル層をパターン形成し、ニッケル層付きのガラス基材を加熱したのち、ニッケル層をブラシなどで除去することにより、ガラス基材表面から10μm程度のガラスをニッケル層と共に剥離して、ガラス基材をエッチングする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−47427号公報
【特許文献2】特公平7−22893号公報
【特許文献3】特開2006−83036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された方法では、取り扱いが困難なフッ酸を使用するという問題がある。また、特許文献2または特許文献3に開示された方法では、フッ酸を使用する必要は無いが、ガラスの表面にナノメートルオーダーの微細な凹凸パターンを形成することは困難である。
【0006】
このような状況下、ガラス表面に、微細な凹凸パターンを形成することができる簡便な方法が求められている。
【0007】
本発明は、微細な凹凸パターンを有する凹凸ガラス板を簡便に製造する方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の凹凸ガラス板の製造方法は、表面に凹凸を有する凹凸ガラス板の製造方法である。本発明の凹凸ガラス板の製造方法は、ガラスペースト層を形成する工程と、ガラス層を形成する工程と、凹凸を形成する工程とを備える。ガラスペースト層を形成する工程では、平坦な表面を有するガラス板の該表面の一部の上に、ガラス板よりも軟化点が低いガラス粉末を含むペーストを塗布し、ガラスペースト層を形成する。ガラス層を形成する工程では、ガラスペースト層を焼成する。凹凸を形成する工程では、ガラス板に対するエッチング速度よりもガラス層に対するエッチング速度の方が大きいエッチング液を用いてガラス層をエッチングにより除去すると共に、凹凸を形成する。
【0009】
エッチング液として、硝酸、塩酸及び硫酸からなる群から選ばれる少なくとも一種を含むエッチング液を用いることが好ましい。
【0010】
ガラス粉末は、ガラス板よりも比重が大きいことが好ましい。
【0011】
ガラス粉末の軟化点は、500℃以下であることが好ましい。
【0012】
ガラス粉末は、ビスマス、鉛及びアンチモンからなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0013】
ガラス粉末は、ビスマスを含むことがより好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、微細な凹凸パターンを有する凹凸ガラス板を簡便に製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る凹凸ガラス板の製造方法を説明するための略図的断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る凹凸ガラス板の製造方法を説明するための略図的断面図である。
【図3】図2のIII部分の拡大断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る凹凸ガラス板の製造方法を説明するための略図的断面図である。
【図5】図4のV部分の拡大断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る凹凸ガラス板の製造方法により得られた凹凸ガラス板の表面のx方向における凹部のy方向の深さZ(nm)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は、単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0017】
また、実施形態等において参照する各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照することとする。また、実施形態などにおいて参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された物体の寸法の比率などは、現実の物体の寸法の比率などとは異なる場合がある。図面相互間においても、物体の寸法比率などが異なる場合がある。具体的な物体の寸法比率などは、以下の説明を参酌して判断されるべきである。
【0018】
図1は、本実施形態に係る凹凸ガラス板の製造方法を説明するための略図的断面図である。図2は、本実施形態に係る凹凸ガラス板の製造方法を説明するための略図的断面図である。図3は、図2のIII部分の拡大断面図である。図4は、本実施形態に係る凹凸ガラス板の略図的断面図である。図5は、図4のV部分の拡大断面図である。図1〜5を参照しながら、本実施形態に係る凹凸ガラス板の製造方法について説明する。
【0019】
図1に示すように、まず、平坦な表面2aを有するガラス板2を準備する。次に、ガラス板2の表面2aの一部の上に、凹部を形成しようとしているパターンに応じた形状を有するガラスペースト層3を形成する。
【0020】
ガラス板2を構成する材料としては、例えばソーダライムガラス、ケイ酸塩系ガラス、ホウケイ酸塩系ガラスなどが挙げられる。
【0021】
ガラス板2は、ガラス転移点が530℃〜730℃程度、軟化点が600℃〜800℃程度のものを用いることができる。
【0022】
なお、本発明において、ガラス板2のガラス転移点及び軟化点は、熱膨張測定装置(Dilatometer)によって測定され、軟化点はその屈服点の値である。
【0023】
ガラス板2は、好ましくは比重が2.4〜2.9程度のものを用いることができる。
【0024】
ガラスペースト層3は、ガラス粉末を含むペーストを塗布することにより形成することができる。ガラス粉末を含むペーストを塗布する方法は、特に限定されない。ガラス粉末を含むペーストを塗布する方法としては、例えば、インクジェット法、スクリーン印刷、ロールコート、レジスト材料を用いるリフトオフ法などの方法が挙げられる。
【0025】
ガラス粉末は、ガラス板2を構成する材料よりも軟化点が低い材料からなる。
【0026】
ガラス粉末は、ガラス板よりも比重が大きいことが好ましい。
【0027】
ガラス粉末を構成する材料としては、例えばビスマス、鉛及びアンチモンからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む低融点ガラスが挙げられる。ガラス粉末を構成する材料としては、これらの中でも、ビスマスを含むガラスは比重が大きいため好ましい。
【0028】
ガラス粉末の軟化点は、ガラス板の軟化点及びガラス転移点よりも低いことが好ましい。具体的には、ガラス粉末の軟化点は、500℃以下であることが好ましい。ガラス粉末の軟化点は、300℃〜400℃程度であることがより好ましく、330℃〜390℃程度であることがさらに好ましい。
【0029】
なお、本発明において、ガラス粉末の軟化点は、熱膨張測定装置(Dilatometer)によって測定したときの屈服点の値である。なお、ガラス粉末の軟化点の測定においては、ガラス粉末を棒状に焼成成形したものを測定試料として用いた。
【0030】
ガラス粉末は、好ましくは比重が3.5〜7.5程度のものを用いることができる。
【0031】
ガラス粉末を含むペーストは、ガラス粉末とバインダー、溶剤などとを適宜混合することにより得られる。
【0032】
次に、ガラスペースト層3を焼成する。これにより、図2に示すように、ガラス層4を形成する。焼成工程において、ガラスペースト層3中の溶剤やバインダーは、揮発、燃焼して消失し、残ったガラス粉末が融解してガラス層4を形成する。
【0033】
ここで、ガラス層4のガラス板2側では、ガラス粉末由来のガラス成分が、ガラス板2の表層部に拡散浸透し、拡散層4aが形成される。従って、拡散層4aは、ガラス板2の表層部分に形成される。この際、ガラス粉末の比重が、ガラス板2よりも大きいと、ガラス粉末由来のガラス成分は、ガラス板2の表層部深くまで拡散浸透しやすくなる。よって、拡散層4aがガラス板2の表層部深くまで形成されやすくなる。
【0034】
なお、ガラスペースト層3の焼成温度は、ガラス板2の軟化点よりも低いことが好ましく、ガラス板2のガラス転移点よりも低いことがより好ましい。また、ガラスペースト層3の焼成温度は、ガラス粉末の軟化点よりも高いことが好ましい。具体的には、ガラスペースト層3の焼成温度は、500℃〜700℃程度とすることが好ましく、500℃〜600℃程度とすることがより好ましい。
【0035】
次に、ガラス層4をエッチングにより除去する。このガラス層4のエッチングには、ガラス板2に対するエッチング速度よりもガラス層4に対するエッチング速度の方が大きいエッチング液を用いる。すなわち、このエッチング工程で用いられるエッチング液は、ガラス板2よりもガラス粉末を溶解しやすい液である。エッチング液は、ガラス板2をエッチングしないがガラス層4をエッチングするエッチング液であることが好ましい。このため、このエッチング工程においては、ガラス粉末由来のガラス成分を含む拡散層4aを含むガラス層4の全体がエッチングにより除去される。その結果、ガラスペースト層3を形成した部分にy方向の深さZの凹部1aが形成された凹凸ガラス板1が得られる。
【0036】
以上のような凹凸ガラス板1の製造方法では、フッ酸を必ずしも必要としない。また、凹部1aを高い形状精度で容易に形成することができる。また、凹部1aの深さは、ガラス粉末の比重、焼成温度、焼成時間を変えることによって変化させることができる。具体的には、ガラス粉末の比重が大きいほど、焼成温度が高いほど、または焼成時間が長いほど、凹部1aの深さを大きくすることができる。実際に本実施形態において説明した製造方法によりガラス板を加工した結果、図6に示す凹凸表面を有するガラス板を製造することができた。
【0037】
なお、好ましく用いられるエッチング液としては、例えば硝酸、塩酸及び硫酸からなる群から選ばれる少なくとも一種を含むエッチング液が挙げられる。エッチング液として、これらの中でも、ガラス粉末が、PbO系ガラス、Bi系ガラス、SnO-P系ガラスの場合は、それぞれ硝酸水溶液、塩酸水溶液、硫酸水溶液を用いることが好ましい。
【符号の説明】
【0038】
1…凹凸ガラス板
1a…凹部
2…ガラス板
2a…表面
3…ガラスペースト層
4…ガラス層
4a…拡散層
Z…凹凸ガラス板の凹部の深さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸を有する凹凸ガラス板の製造方法であって、
平坦な表面を有するガラス板の該表面の一部の上に、前記ガラス板よりも軟化点が低いガラス粉末を含むペーストを塗布し、ガラスペースト層を形成する工程と、
前記ガラスペースト層を焼成し、ガラス層を形成する工程と、
前記ガラス板に対するエッチング速度よりも前記ガラス層に対するエッチング速度の方が大きいエッチング液を用いて前記ガラス層をエッチングにより除去すると共に、前記凹凸を形成する工程と、
を備える、凹凸ガラス板の製造方法。
【請求項2】
前記エッチング液として、硝酸、塩酸及び硫酸からなる群から選ばれる少なくとも一種を含むエッチング液を用いる、請求項1に記載の凹凸ガラス板の製造方法。
【請求項3】
前記ガラス粉末は、前記ガラス板よりも比重が大きい、請求項1または2に記載の凹凸ガラス板の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス粉末の軟化点が500℃以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の凹凸ガラス板の製造方法。
【請求項5】
前記ガラス粉末が、ビスマス、鉛及びアンチモンからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の凹凸ガラス板の製造方法。
【請求項6】
前記ガラス粉末が、ビスマスを含む、請求項5に記載の凹凸ガラス板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−35707(P2013−35707A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172054(P2011−172054)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】