説明

出入口装置

【課題】農作物用空間を有する施設の出入口から施設内に侵入する害虫を阻止する出入口装置を提供する。
【解決手段】本発明による出入口装置は、農作物用空間を有する施設に用いられる害虫の侵入を抑制する出入口装置であって、出入口扉と、前記出入口扉が設けられ、害虫が通過できない壁部を有する出入口通路と、前記通路に設けられかつ前記出入口扉側に向けて送風し、害虫を前記施設の外部にとどまらせるための送風装置と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は農作物用空間を有する施設に用いられる害虫の侵入を抑制する出入口装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、農作物用空間を有する施設内への害虫の侵入に対しては、有効な防止策が少なかった。その対策としては、ハスモンヨトウやシロイチモジヨトウ、及びオオタバコガのような大型の鱗翅目害虫に対しては、防虫ネット、あるいは黄色蛍光灯が使用されている。また、小型のコナジラミ類、ハモグリバエ類、アザミウマ類及びアブラムシ類などに対しては、開口部に細かい目合いの防虫ネットを張り、紫外線カットフィルムによる被覆が施設全体に行われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記のような対策もアザミウマ類、コナジラミ類、及びハモグリバエ類のような微小害虫についての侵入防止対策としては十分ではない。すなわち、施設内の僅かな開口部や作業者が出入りする扉から害虫は容易に侵入し得る。特に施設の出入口は、作業者や作業機械類が頻繁に出入りするため、出入口の開放を短時間とするよう試みても侵入する個体が多くみられる。
【0004】
これらの微小な害虫は一度侵入すると施設内で大量に増加し、農作物に大きな被害を与えることとなる。さらに、施設内に侵入した害虫に対しては、農薬の散布や電撃殺虫器等を使用して、殺虫することが不可欠となる。
【0005】
このため、出入時や作業時の害虫侵入防止装置、あるいは開放を余儀なくされる場所における微小害虫の侵入防止装置が求められていた。
【0006】
本発明は上記の問題点を解決するためになされたもので、出入口から農作物用空間を有する施設内への害虫の侵入を阻止する出入口装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明による出入口装置は、農作物用空間を有する施設に用いられる害虫の侵入を抑制する出入口装置であって、出入口扉と、前記出入口扉が設けられ、害虫が通過できない壁部を有する出入口通路と、前記通路に設けられかつ前記出入口扉側に向けて送風し、害虫を前記施設の外部にとどまらせるための送風装置とを有することを特徴とする出入口装置である。
【0008】
これにより出入口通路内に風が発生するため、出入口から施設内に侵入しようとする害虫を風により農作物用空間を有する施設の外部にとどまらせることが可能となる。
【0009】
送風装置が出入口外扉に向けて0.8m/s以上の風、好ましくは2m/s以上の風を送風するようにしたことを特徴とする。
【0010】
このような出入口装置において出入口通路の壁部が粘着面を有することを特徴とする。
【0011】
この壁部の粘着面により、送風装置の発生する風を避けようとして壁部方向に飛翔した害虫を粘着状の壁に付着させ、施設内への害虫の侵入の抑制を効率的に行うことを可能にする。
【0012】
また、上記のような出入口装置において、通路内に、粘着面を有し通路空間内部に張り出す返し板を備えることを特徴とする。
【0013】
この返し板を備えることにより、送風装置による風を避けた害虫を張り出した返し板の粘着面に付着しやすくして、施設内への害虫の侵入抑制を効率的に行うことができる。
【0014】
さらに、上記のような出入口装置においては、出入口扉が施設外側に設けられた出入口外扉および施設内側に設けられた出入口内扉を有することを特徴とする。
【0015】
また、一実施形態では、出入口扉は、農作物用空間を有する施設を使用するのに支障がない範囲、つまり作業者や作業用機械類等が通過できる範囲で小さくすることができる。例えば、その高さは1.5m、幅は0.8mとしてもよい。
【0016】
他の実施形態では、送風装置は、初速が10m/s以上である。
【0017】
他の実施形態では、出入口内扉は目合いの細かい網とする。
【0018】
他の実施形態では、出入口通路の壁部を目合い0.4〜0.6mmの目合いの細かい網で構成する。この場合、壁部全体を粘着面とすることが困難となるため、粘着性のフィルムを張ることがさらに好ましい。
【0019】
他の実施形態では、出入口外扉の内側、及び出入口内扉にも粘着性フィルムを備える。この場合、粘着性のフィルムは無色よりも黄色、青色あるいは桃色等の誘引性能が高い色がさらに好ましい。
【0020】
さらに他の実施形態では、出入口通路の壁部、出入口外扉の内側、出入口内扉には粘着性のフィルムが貼り付けられ、底部より15cmの位置から上にストライプ状に貼り付けられるのが好ましい。
【0021】
なお、本発明において害虫とはコナジラミ、アザミウマ類等の農作物に影響を与える害虫のみならず、蚊、ハエ等の衛生害虫等も含むものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、農作物用空間を有する施設内への害虫の侵入を効果的に阻止することができる。さらに、害虫の侵入を阻止することにより、害虫による農作物の被害を軽減すると同時に、農作物用空間を有する施設内での農薬、粘着板、電撃殺虫器等の使用を減少させることもできる。
【実施例】
【0023】
本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は本発明よる出入口装置の1例を示す。出入口装置10は、一方の出入口扉をなす出入口外扉11、出入口通路を形成する壁部12、返し板13、送風装置14、及びもう一方の出入口扉である出入口内扉15から構成される。
【0024】
出入口装置10を設置する農作物用空間を有する施設は、出入口装置とは別に作業用の大扉を有する。この作業用の大扉は出入口外扉11よりも大きい。出入口装置10は作業用の大扉に設ける、あるいは作業用の大扉とは異なる場所に設けることができる。出入口外扉11は、例えば、縦1.5m、横0.8mの寸法を有し、通過するのに最小の寸法とする。
【0025】
出入口外扉11は、出入口通路を形成する壁部12に設けられている。出入口通路は、両側壁と天井壁の壁部12および床部から形成される。出入口通路の壁部12は害虫が通過できない素材からなり、内側壁面は一部又は全部が粘着面にされている。出入口通路の壁部12の奥行きの長さは、施設の大きさに依存するが、通常1m〜数mである。また、図4からもわかるように出入口外扉11から0.5、1.0及び1.5m程度の距離間隔で通路内側に張り出すことができるように枢着された返し板13を備え、返し板13も粘着面を有する。なお、図4は本発明による出入口装置の側面方向の構成を説明するための図である。
【0026】
出入口通路内には、天井壁に取り付けられた支柱19により支持される送風装置14が設けられている。送風装置14は、出入口外扉11方向に向けて、常時送風することができるように設けられている(図4参照)。出入口通路の出入口外扉11と対向する端部には出入口内扉15が設置されている。送風装置14は出入口通路が小さい場合1つで十分だが、通路が大きい場合は十分な風量を確保するため2つ以上の送風装置が必要となる場合がある。出入口外扉11及び出入口通路の壁部12の接続部は隙間を作らず、送風装置14により送風した風が接続部より通過しないようにする。これらにより、風が通路中心部を流れ、出入口外扉11が開いた際には通路側から施設の外部に向けて風が流れることで害虫の侵入を抑制し、さらに出入口外扉11が閉められると侵入した害虫を出入口通路の壁部12に誘導することが可能である。
【0027】
上記のような構成で、施設全体の通風や出入口装置内の温度上昇が問題になる場合には、出入口内扉15は目合いの細かい網17によって形成することも可能で、出入口通路の壁部12も同様に目合い0.4〜0.6mmの目合いの細かい網17で覆うことも可能である(図4参照)。この場合、壁部全体を粘着面とすることが難しいため、粘着性のフィルム18を張ることが好ましい。また、返し板13についても粘着性のフィルム18を張ることにより同様の効果を発揮することが可能である。
【0028】
また、送風装置14は、出入口外扉11に向けて送風するが、送風は範囲を広く行うことが好ましい。なぜなら、壁部と風の間の無風域が大きいほど害虫が侵入しやすくなるからである。また、風速が早い程防虫効果は高くなる。コナジラミ類、スリップス類、アブラムシ類等の微小害虫は風速が0.8m/sを越えると風に逆らって飛翔することができなくなることから、このような微小害虫を防止したい場合風速は0.8m/s以上あればよい。しかし、さらに大型の飛翔力のある害虫はより速い風速が必要となることは容易に想像される。このため送風装置は、大型で初速が約10m/s以上であるものが好ましく、このような送風装置を使用すると出入口外扉11付近で2m/s以上の風速が確保されることから、侵入抑制効果を高めることができる。
【0029】
また、出入口外扉11の内側、及び出入口内扉15にも粘着性フィルム18を張ることにより、侵入抑制効果を高めることができる。さらに粘着性のフィルム18は無色よりも黄色、青色、あるいは桃色等の対象とする害虫の誘引性能が高い色がより好ましい。粘着性のフィルム18は、全面に張ることは必ずしも必要でなく、底部より15cm位置から上にストライプ状に張ることでも効果を有する(図2〜4参照)。
【0030】
(試験例1)
本発明による出入口装置の効果について確認するため、出入口装置を設置した場合と無設置の場合のコナジラミ類の侵入頭数の相違を表1に示した。9月上旬に出入口扉4mのダッチライト型大型トマト栽培施設の出入口に、本発明による出入口装置を設置した。栽培施設内の4箇所に黄色粘着板を設置し、7日間で誘殺されたコナジラミの頭数を確認した。その結果、出入口装置を設置した場合は3〜12頭、無設置の場合は44〜179頭であり、高い抑制効果が確認された。
【0031】
【表1】

【0032】
(試験例2)
さらに本発明による出入口装置の効果について確認するため、上記構成による出入口装置を設置した場合と無設置の場合のアザミウマ類の侵入頭数の相違を表2に示した。9月上旬に出入り口4mのダッチライト型大型トマト栽培施設の出入口に、上記の出入口装置を設置し、施設内の4箇所に黄色粘着板及び青色粘着板を設置し、7日間に誘殺されたアザミウマ類の頭数を確認した。その結果、出入口装置を設置した場合はいずれも0頭であり、一方の無設置の場合は15〜24頭で高い抑制効果が確認された。
【0033】
【表2】

【0034】
(試験例3)
出入口装置に設置した送風装置の効果について確認するため、送風を行った場合と送風を行わなかった場合のコナジラミ類の侵入頭数の相違を表3に示した。9月下旬に間口12mのダッチライト型大型トマト栽培施設の出入口に、上記の出入口装置を設置し、送風装置の風速は2m/sとした。施設内の4箇所に黄色粘着板を設置し、7日間に誘殺されたコナジラミ類を確認した。その結果、送風施設の誘殺された頭数は3〜8頭、無送風施設は34〜78頭で送風による抑制効果が確認された。
【0035】
【表3】

【0036】
(試験例4)
害虫の侵入抑制効果を得るために、風速の相違が害虫の移動に与える影響を確認した結果を表4に示す。オンシツコナジラミ及びヒラズハナアザミウマをポリ容器に入れ、直径10cmのビニール管によってインゲンの幼苗の入ったコンテナに接続し、ビニール管内にポリ容器側に向けて小型送風装置を用いて送風した。送風側は目合い0.4mmの目合いの細かい網を被せその外側から送風した。このようにしてオンシツコナジラミ及びヒラズハナアザミウマが風に逆らって移動する風速を確認したところ、風速が0.8m/s以上になると風に逆らって移動する頭数がほぼ0となることが確認された。
【0037】
【表4】

【0038】
(試験例5)
出入口装置の出入口通路内に設置した粘着面を有する返し板の効果を確認するため、コナジラミ類の侵入頭数の相違を表5に示した。10月上旬に出入口幅4mのダッチライト型大型トマト栽培施設の出入口に、上記の出入口装置を設置し、返し板を設けた施設と設けなかった施設内の4箇所に黄色粘着板を設置し、7日間に誘殺されたコナジラミ類を確認した。その結果、返し板を設置した装置では5〜33頭、返し板を設置していない装置では56〜154頭であり、返し板の設置により抑制効果が高まることが確認された。
【0039】
【表5】

【0040】
本発明がコナジラミ、アザミウマ類及びアブラムシ類のみならず、他の有翅害虫にも応用可能であることは、容易に推測される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明による出入口装置の斜視図。
【図2】粘着フィルムを設けた出入口外扉内側の正面図
【図3】粘着フィルムを設けた出入口内扉の正面図
【図4】本発明による出入口装置の側面説明図。
【符号の説明】
【0042】
10 出入口装置
11 出入口外扉
12 出入口通路の壁部
13 返し板
14 送風装置
15 出入口内扉
17 細かい目合いの網
18 粘着性フィルム
19 支柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
農作物用空間を有する施設に用いられる害虫の侵入を抑制する出入口装置であって、
出入口扉と、
前記出入口扉が設けられ、害虫が通過できない壁部を有する出入口通路と、
前記通路に設けられかつ前記出入口扉側に向けて送風し、害虫を前記施設の外部にとどまらせるための送風装置と、
を有することを特徴とする出入口装置。
【請求項2】
前記出入口扉が施設外側に設けられた出入口外扉と施設内側に設けられた出入口内扉を有することを特徴とする請求項1に記載の出入口装置。
【請求項3】
前記送風装置が前記出入口外扉に向けて0.8m/s以上の風、好ましくは2m/s以上の風を送風するようにしたことを特徴とする請求項2に記載された出入口装置。
【請求項4】
前記壁部が粘着面を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の出入口装置。
【請求項5】
前記通路内に、粘着面を有し前記通路空間内部に張り出す返し板を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の出入口装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−141286(P2006−141286A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−335917(P2004−335917)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(502335970)アリスタ ライフサイエンス株式会社 (6)
【Fターム(参考)】