説明

分光分析用の透過式撮像

本発明は、分光システムと、この分光システムのための透過に基づく撮像システムと、この撮像システムのためのプローブヘッドと、それに対応するに透過に基づく撮像方法とを提供する。この分光システムは、生体内非侵襲性血液分析に適用しうるようにするのが好ましい。透過に基づく撮像には、生体組織を透過した撮像用すなわちモニタ用の光ビームの透過部分を利用する。透過に基づく撮像によれば、散乱放射によるコントラスト減少影響が有効に低減される。更に、分光システムの対物レンズと対向して撮像光源を配置することによって、自由空間への分光励起放射の意図しない拡散を有効に回避することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学撮像および光学分光の分野に関するものであるが、特に生体組織の光学分光に限定されるものではない。
【背景技術】
【0002】
分析を目的として光学分光技術を使用すること自体は、従来から既知である。特許文献1および特許文献2は、患者の毛細血管を流れる血液の組成を生体内非侵襲性分光分析するための分光分析装置を開示している。分光分析のための励起ビームを指向させる必要がある対象領域を識別するために、毛細血管の位置が撮像システムにより決定される。原理的には、毛細血管を充分に可視化するいかなる撮像方法も適用しうる。撮像と分光分析との双方が共通の顕微鏡対物レンズを使用していて、それにより一方では毛細血管の撮像を可能にしており、他方では近赤外(NIR)レーザービームを皮膚に集束させて、ラマンスペクトルを発生させている。更に、ラマン処理による散乱放射を収集するのにも、同じ顕微鏡対物レンズが使われる。
【0003】
患者の皮膚下の領域を視覚撮像することによって、毛細血管の位置を正確に決定することができる。毛細血管の横の位置は二次元画像によって十分に決定でき、皮膚の表面下の毛細血管の深さは原理的に充分な焦点深度を特徴としている適切な撮像法によって得ることができる。明確な毛細血管を視覚化し、それにより皮膚の表面下の毛細血管の位置を決定することにより、分光励起放射の焦点およびこれに対応する分光分析システムの共焦点検出容量をこの明確な毛細血管内に移動させる。このようにして、毛細血管が、分光分析に課せられる対象体を特定する。
【0004】
通常、直角偏光スペクトル撮像法(Orthogonal Polarized Spectral Imaging (OPSI))、共焦点ビデオ顕微鏡法(Confocal Video Microscopy (CVM))、光コヒーレンストモグラフィ法(Optical Coherence Tomography(OCT))、共焦点レーザ走査顕微鏡法(Confocal Laser Scanning Microscopy(CLSM))およびドップラー効果に基づく撮像法(Doppler Based Imaging )を含む種々の適切な撮像法が存在する。特に、OPSIおよびCVMは、反射配置に基づいて視覚化を提供するものである。すなわち、分光検査を行うサンプルによって散乱および反射の双方又はいずれか一方が行われた放射に基づいて撮像が行われる。それ故、毛細血管を囲む領域を撮像するための光源および検出手段は、サンプルの同一側に置かれている。反射に基づく撮像は、原理的には、人体の複数の異なる部位に広く適用できる。しかしながら、反射に基づく撮像は、サンプル内部での光の散乱および吸収に強く依存する。例えば、人間の皮膚の吸収係数は、放射の波長と、皮膚の表面下の深さとに強く依存する。更に皮膜の表面の下の深さは、皮膚組織のスペクトル吸収特性を規定する。
【0005】
更に、生体組織の内部構造体が幾分不均一であると、一般に、それに対応して組織の光吸収および散乱特性に及ぼす影響を不均一にする。例えば、血液で満たされた毛細血管は、その周囲の細胞組織と異なる分子構成を呈する。従って、毛細血管の光吸収、散乱および反射特性は、概して周囲組織の光学特性と異なる。
【0006】
更に、反射配置に基づく撮像技術の場合、散乱は得られる画質をかなり低下させるおそれがある。概して、散乱光および後方散乱光は、反射に基づく光学配置によって得られる画像のコントラストを減少させる。散乱は必然的に存在するものであり、得られる画像の画質やコントラストを著しく悪くする。画像のコントラストや画質への散乱の影響は、撮像放射の浸入深度にも著しく依存する。
【0007】
適度な画質の画像を得るためには、反射配置に基づく撮像は実質上、撮像波長、血管直径および皮膚表面下の深さの数組に制限される。例えば、皮膚表面下80マイクロメートルの深さにおいて530ナノメートルの波長でOPSIを利用すると、約10マイクロメートルの寸法を有する血管の良好な画像を得ることができる。他の寸法を有する毛細血管を最適に撮像するには、他の撮像深さおよび他の撮像波長の双方又はいずれか一方を必要とする。これらの規制は、撮像システムの適用範囲およびその普遍性を制限すること明らかである。
【0008】
上述した、生体組織の散乱、反射および吸収特性の為に、反射配置に基づいた撮像技術を用いて、生体サンプル中の種々に異なる深さから適度な画質の視覚映像を得ることは、かなり難しい。更に反射配置は、毛細血管の寸法が変化する場合のように、種々に異なる寸法の生体構造を示す良好な画質の画像を同時に得ることができない。
【特許文献1】国際公開WO02/057758明細書
【特許文献2】国際公開WO02/057759明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って本発明の目的は、生体組織の表面下の生体構造の撮像の融通性を高めるように改善した撮像システムを有する分光システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、生体組織の特性を決定する分光システムを提供する。本発明の分光システムは、対象体に励起ビームを指向させるとともに、対象体からの戻り放射を収集するための対物レンズを有する。この分光システムは、第1の波長を有する少なくとも第1のモニタ用ビームを発生する光源を具える。この第1のモニタ用ビームは、生体組織に指向される。本発明の分光システムは更に、生体組織を透過した第1のモニタ用ビームの少なくとも一部分を検出する光検出器を具える。この分光システムは更に、生体組織を透過し、光検出器によって検出された第1のモニタ用ビームの透過部分に基づいて視覚画像を発生させる撮像手段を具える。
【0011】
本発明は、撮像ビームすなわちモニタ用ビームの透過に基づいて撮像を行う。このようにすることにより、光の散乱による画質への悪影響を有効に低減させることができる。概して、このような透過配置においては、生体組織を透過する間に偏向されない光だけが検出される。これに対し、生体組織を伝播する間に偏向する光は、光検出器によって殆ど検出されない。光の偏向は主にサンプル内部での散乱過程によって支配されるので、散乱の画質への影響を著しく減少させることができる。このことは、光検出器を光源に対しほぼ対向して配置する、すなわち、光検出器を撮像ビームすなわちモニタ用ビームの光軸上に配置することによって有効に達成することができる。
【0012】
透過に基づく撮像の場合、モニタ用ビームすなわち撮像ビームを生体組織に通して伝達する必要がある為、この第1のモニタ用ビームの強度および波長の双方またはいずれか一方を、分光分析に課せられる生体組織の光学特性、すなわち透過、反射および吸収特性に適合させる必要がある。従って、第1のモニタ用ビームの透過部分は少なくとも光検出器の、下側の感度しきい値よりも高い強度を生じるようにする必要がある。
【0013】
透過に基づく撮像は、大きさに制限のある、あるいは限られた厚みを有する生体に適用しうるようにするのが好ましい。このようにすることにより、少なくとも第1のモニタ用ビームすなわち撮像ビームが生体組織によって完全に吸収されるかまたは散乱されるのを有効に防止しうる。人体に関しては、本発明の透過による撮像は、例えば耳たぶ、鼻孔、唇、舌、頬または指のような付属部位に適用しうるようにするのが好ましい。特に、体のこれらの部位は、例えばクリッピングまたはクランピング(緊締)によって分光システムを有効に固定しうるようにする部分である。
【0014】
更に、透過に基づく撮像は、生体組織内部で種々に異なる深さにあり種々に異なる大きさの生体構造を視覚化することを可能にする。透過配置においては、モニタ用ビームすなわち撮像ビームのスペクトル吸収および散乱の双方またはいずれか一方が本質的に一定で、基本的にサンプルの厚みのみに依存するので、視覚画像を吸収および散乱の双方またはいずれか一方に基づいて有効に発生させることができる。
【0015】
吸収に基づく透過による撮像は、生体組織の不均一な吸収特性を有効に利用するものである。例えば、血液で満ちた毛細血管は第1の波長に対して高い吸収率を呈し、一方その周囲の細胞組織は同じ波長に対しかなり低い吸収係数を呈するようにすることができる。このような構成においては、吸収は、主に撮像処理を行うのが好ましく、その横方向の、すなわち3次元の位置を撮像処理によって決定する必要のある毛細血管によって規定される。
【0016】
透過に基づく撮像は、生体組織内でのモニタ用ビームすなわち撮像ビームの散乱を有効に利用することもできる。後方散乱光のみが撮像に用いられる反射配置とは相違して、透過配置においては、偏向され、従って検出器によっては検出されない撮像ビームの散乱部分によって画像情報が得られる。従って、例えば、高い散乱係数を特徴としている毛細血管の位置を、散乱角には関係なく決定することができる。後方散乱光のみを有効に検出しうる反射配置と比較して、本発明では、散乱または吸収による透過撮像ビームの欠落部分に基づいて生体構造を撮像することができる。本発明では、反射に基づく撮像と比較して、画像のコントラストを著しく強調することができる。
【0017】
本発明の好適例によれば、更に、分光システムの対物レンズにより、第1のモニタ用ビームの透過部分を収集するようにする。それ故、対物レンズの機能は、二倍になる。第1に、対物レンズは、対象体に励起放射を集中させるとともに、スペクトル分析するために対象体からの戻り放射を収集する作用をする。第2に、対物レンズは、透過に基づく撮像システムのための結像レンズとして作用する。従って、少なくとも第1のモニタ用ビームを発生する光源は、対物レンズに対向して配置する。従って、生体サンプルは、分光システムの光源および対物レンズ間にはさまれるようにする。
【0018】
分光データ、すなわち対象体から生じる戻り放射は、代表的に反射配置によって獲得する。それ故、分光励起ビームを対象体に指向させ、逆方向に伝播する後方散乱放射をスペクトル分析する。撮像システム用の光源を、分光システムの対物レンズに対向して配置することにより本質的に、分光システムを有効且つ安全な機構とする。概して励起ビームは、非可視近赤外(NIR)スペクトル域の波長を有し、特に例えば、オペレータの目に当たった場合に、オペレータに危害を及ぼす恐れのある大きな出力を有する。撮像用の光源は分光システムの対物レンズに対向して配置されているので、生体サンプルが撮像用の光源と対物レンズとの間に存在しなくても、励起ビームが自由空間に伝播しなくなる。
【0019】
更なる本発明の好適例によれば、生体組織が毛細血管または血管を含み、第1の波長は可視域にあるようにする。生体組織の毛細血管または血管は、第1の波長に対して高い吸収係数を有するようにするのが好ましい。更に、多量の血液流を呈さない周囲組織、すなわち細胞組織は、第1の波長に対してかなり低い吸収係数を有する。第1の波長の代表的な範囲は、例えば、530ナノメートル〜600ナノメートルで与えられる。最適な波長は、撮像すべき血管の直径と、生体組織、例えば人間の皮膚組織の表面からのこれら血管の深さとによって与えられる。
【0020】
更なる本発明の好適例によれば、分光システムが更に、少なくとも第2の波長を有する第2のモニタ用ビームを有するようにする。この第2のモニタ用ビームは、第1の光源か、もしくは少なくとも第2の光源かのいずれかによって発生させる。更に、光検出器は、生体組織を透過した少なくとも第2のモニタ用ビームの少なくとも一部分を検出するように構成する。撮像システムによって撮像される血管または毛細血管は、第2の波長に対して低い吸収係数を有するようにするのが好ましい。
【0021】
このようにすることにより、第1の波長によって撮像された画像とは異なる横方向の強度分布を呈する第2の画像を得ることができる。対象体を囲む同じ領域を参照する第2の波長によって第2の画像を得ることにより、これらの第1及び第2の画像を互いに有効に比較しうるようになる。従って、第1および第2の波長によって得られるこれら第1および第2の画像を比較することにより、生体サンプル内の毛細血管の位置を正確に決定するのに充分で信頼性のある手段を提供する。
【0022】
異なる波長に基づく2つの画像を得ることにより、第1の画像中の暗いスポットが、吸収、反射または散乱のいずれによるものであるかを有効に決定しうるようになる。従って、血管が第1の波長に対して高い吸収性であるが、第2の波長に対しては高い透過係数を有するものとすると、第1および第2の画像中の暗いスポットは毛細血管には該当しない。従って、第1および第2の波長を利用することにより、血管または毛細血管の決定および対応する位置の決定に対するエラー割合を、有効に減少させることができる。
【0023】
更なる本発明の好適例によれば、第2の波長は、赤外線のスペクトル域にあるようにする。この第2の波長は近赤外線のスペクトル域にあるようにするのが更に望ましい。例えば、この第2の波長は、850ナノメートル〜1050ナノメートルの範囲内にすることができる。第1または第2の波長、あるいは第1および第2の波長を発生する光源は、発光ダイオード(LED)、ガス放電ランプまたはある種の白熱光源と、カラーまたは帯域通過フィルタとを組み合わせて構成することができる。
【0024】
通常、光源自体は、分光システムの対物レンズに対向して、従って、検査サンプルの付近に配置する必要はない。この配置の代わりに、光源を遠隔位置に配置し、その放射を何らかの光学繊維手段を介して分光システム内の所望位置に伝達するようにすることができる。更に、光源自体は、第1および第2の波長によって特定されるスペクトル域を生じるようにする必要はない。可視光および赤外線における所要のスペクトル域は一般に、広帯域の光源を例えば干渉フィルタのような狭帯域フィルタと組み合わせることにより発生させることができる。2つの適切なスペクトルフィルタを利用することにより、例えばハロゲンランプのような一般の広帯域光源に基づいて第1および第2の波長を容易に発生させることができる。
【0025】
更なる本発明の好適例によれば、分光システムが更に、対物レンズおよび光源を担持するためのプローブヘッドを有するようにする。このプローブヘッドは、分光システムのベースステーションと結合されるように構成する。ベースステーションは、分光分析ユニットおよび撮像手段を具える。プローブヘッドは好ましくは、このプローブヘッドから、およびこのプローブヘッドに光信号を双方向伝送する光ファイバ装置によって、ベースステーションに結合する。概してプローブヘッドは、取り扱いに融通性を持たせ、指定された人体の部位への装着を容易にするコンパクトな装置として設計する。従ってプローブヘッドには、励起放射を指向させるとともに、戻り放射を収集し、且つ透過した撮像放射を収集する分光システムの対物レンズを具える必要があるだけである。プローブヘッドは更に、対物レンズに対して対向して配置した撮像光源を有するようにするのが好ましい。或いはまた、光源自体をプローブヘッド内に設ける代わりに、第1および第2の双方またはいずれか一方の撮像用波長を発生するための撮像光源を分光システムのベースステーション内に設けることができる。この場合、撮像光源によって発生される撮像放射は、例えば光ファイバによってプローブヘッドに伝送する必要がある。
【0026】
他の観点においては、本発明により、分光システム用のプローブヘッドを提供する。分光システムは、生体組織の特徴を、好ましくは非侵襲的な方法で決定するように構成する。分光システムのプローブヘッドは、第1の波長を有する少なくとも第1のモニタ用ビームすなわち撮像ビームを発生する光源を有するようにする。この第1のモニタ用ビームは、生体組織内に指向されるようにする。プローブヘッドは更に、対象体に励起ビームを指向させるとともに、この対象体からの戻り放射を収集する対物レンズを具えるようにする。この対物レンズは更に、生体組織を透過した少なくとも第1のモニタ用ビームの一部を収集するように構成する。従って、プローブヘッドは、対物レンズと光源との対向配置をとる幾何学的形状を特徴とする。このようにすることにより、第1のモニタ用ビームすなわち撮像ビームとして光源によって発生される放射は、少なくとも部分的に生体組織を透過し、この透過した部分を対物レンズよって収集することができる。
【0027】
少なくとも第1のモニタ用ビームすなわち撮像ビームを発生する光源をプローブヘッド内に組み込む代わりに、この光源を分光システムのベースステーションに設けることができ、この少なくとも第1のモニタ用ビームを、光源とプローブヘッドとを連結している光ファイバによってプローブヘッドに伝送するようにすることができる。
【0028】
本発明の好適例によれば、光源を対物レンズに対向して配置し、生体組織を対物レンズと光源との間に配置しうるようにする。それ故、プローブヘッドの幾何学形状は、プローブヘッドの対物レンズおよび光源間に生体組織を割り込み配置しうるようにする。この場合、光源は、例えば、遠隔位置に位置する光源と結合された光ファイバの光放出孔で有効に表される。
【0029】
更なる本発明の好適例によれば、プローブヘッドは更に、生体組織を透過した第1のモニタ用ビームの少なくとも一部分を検出する光線検出器を有するようにする。本例においては、透過したモニタ用ビームの光検出は、プローブヘッド内で直接実行される。このようにすることにより、透過して収集された撮像放射すなわちモニタ用放射は、分光システムのベースステーションの撮像手段に伝送する必要がなくなる。更に、プローブヘッドにより第1のモニタ用ビームすなわち撮像ビームの透過部分を検出することによって、撮像手段の処理は、プローブヘッドによりすでに少なくとも部分的に実行されている。モニタ用ビームすなわち撮像ビームの透過部分の検出は、生体組織内の毛細血管の撮像に充分な空間解像度を提供する電荷結合素子(CCD)によって有効に実行しうる。
【0030】
更なる本発明の好適例によれば、プローブヘッドは更に、このプローブヘッドを生体組織の表面に固定するための固定手段を有するようにする。このプローブヘッド、従ってその幾何学形状は、例えば人体の付属部位、例えば、耳たぶ、鼻孔、舌、内側頬または指に取付けるのに適するように構成するのが好ましい。前記固定手段は、粘着性素子、緊締素子又はクリップ素子、或いは上述した人体の部位の1つにプローブヘッドを取り付けるのに適している任意の他の種類の固定素子により、プローブヘッドをそれ専用の人体の部位へ有効に取り付けるものである。このプローブヘッドは、本発明の分析システムを使用している検査処理中、患者を最大限快適にするためのコンパクトで軽量な設計とするのが好ましい。
【0031】
更なる本発明の好適例によれば、固定手段が更に、第1および第2の緊締素子を有するようにする。第1の緊締素子は光源を有し、第2の緊締素子は対物レンズを有するようにする。本例においては、固定手段とプローブヘッドとを、クランプ部材のような装置として構成する。第1および第2の緊締素子は、共通軸を中心として回転するように構成するのが好ましい。更に、第1および第2の緊締素子は、何らかの緊締力を生じるようにすることができる。
【0032】
更なる本発明の好適例によれば、第1および第2の緊締素子は、生体組織の表面に機械的応力を加えるように構成する。この機械的応力は、ばね力または磁気力に基づいて発生させる。更に、第1および第2の緊締素子の表面は、プローブヘッドおよびこのプローブヘッドの第1および第2の双方またはいずれか一方の緊締素子に対して、生体サンプルの機械的な固定を助けるのに適切な摩擦抵抗力を供するようにすることができる。
【0033】
更に別の観点では、本発明は、生体組織内の対象体の位置を決定する生体組織の視覚画像を発生する方法を提供する。本発明のこの方法は、光源により、第1の波長を有する少なくとも第1のモニタ用ビームを発生させる工程と、前記第1のモニタ用ビームを前記生体組織に指向させる工程と、前記生体組織を透過した前記第1のモニタ用ビームの少なくとも一部分を検出する工程と、前記生体組織を透過した前記第1のモニタ用ビームの部分に基づいて視覚画像を発生させて、前記生体組織内にある前記対象体の位置を決定する工程とを有する。
【0034】
以下に、図面を参照して本発明の好適実施例を詳述する。
図1は分光システム100のブロック線図を示す。この分光システム100はベースステーション108と光源106とを有する。この分光システムは、生体組織102中にある対象体104をスペクトル分析するものである。この分光システムの全体を、人または動物の生体内非侵襲性血液分析に適用しうるようにするのが好ましい。対象体104は、例えば、血液が満たされている、あるいは、血流を生じている毛細血管とすることができる。
【0035】
分光システム100は更に、励起ビーム源112と、撮像ユニット114と、分光ユニット116とを有する。分光システム100は更に、ビームスプリッタ118、ダイクロイックミラー120および対物レンズ110のような光学素子を有する。例えば光信号を共焦点伝播させたり、対象体104を囲む領域を横方向撮像するための他の光学素子は、ここでは図示していない。光学素子118および120は、ビームスプリッタおよびダイクロイックミラーとして示してある。しかしながら、適用する波長や分光システム100の具体的な構成によっては、これら2つの光学素子118および120の双方を、ビームスプリッタとしてあるいはダイクロイックミラーとして構成することもできる。
【0036】
分光システムの様々な構成素子、特に励起ビーム源112、対物レンズ110、撮像ユニット114および分光ユニット116は、決してベースステーション108によって示されているように単一の構成ユニットに組み込む必要はない。
【0037】
励起ビーム源112によって発生される励起放射122は、ビームスプリッタ118および対物レンズ110によって対象体104に向けられて集束される。励起放射122は、対象体104の内部に複数の弾性及び非弾性の双方の散乱過程を誘発するおそれがある。後方散乱した励起放射の一部は、例えば対象体104の分子構造を決定しうるスペクトル情報を有する戻り放射として対物レンズ110に再入射される。戻り放射は概して弾性及び非弾性の散乱放射の影響を受けるので、ダイクロイックミラー120により弾性散乱放射と非弾性散乱放射とを空間的に分離する作用を行う。このようにして、弾性散乱放射が分光ユニット116に入るのを有効に防止しうる。それ故、ダイクロイックミラー120は、励起放射122の波長を高い確率で反射、または吸収することを特徴とする。
【0038】
非弾性散乱過程に関しては、対象体中にある物質のラマンスペクトルを導くストークス散乱やアンチストークス散乱を参照しうる。
【0039】
スペクトル信号に対する信号対雑音比を高くするためには、励起ビーム122の焦点を、高精度で対象体104に一致させるのが好ましい。従って、対象体104を囲む領域を、撮像ユニット114によって視覚的に撮像して、対象体の位置、例えば毛細血管の位置を決定するようにすることができる。従って、光源106は、生体組織102にモニタ用、すなわち撮像用の(第1の)光ビーム126を放出するのに適したものとする。モニタ用の(第1の)光ビーム126の波長は、この光ビーム126が対象体104、すなわち血管によって著しく吸収されると共に、対象体104を囲む組織がモニタ用の光ビーム126の波長に対して低い吸収係数および低い散乱係数の双方又はいずれか一方を呈するように選択するのが好ましい。
【0040】
生体組織102を透過したモニタ用の光ビーム126の一部128は、対物レンズ110を経て分光システム100に入る。この分光システム100の光学的配置は、透過したモニタ用の光ビーム128を撮像ユニット114に伝達するようにする。撮像ユニット114は、概して高空間解像度の光感応域を有する形態をした検出器、例えばCCDチップを具えている。この撮像ユニット114は概して、伝達されたモニタ用の光ビーム128を検出して、対象体104を囲む領域の視覚画像を形成し、それにより対象体の位置をつきとめ、探し出すように構成されている。
【0041】
モニタ用の光ビーム126は対象体104によって吸収されるのが好ましい為、毛細血管は発生された視覚画像中に暗い構造として表わされる可能性がある。しかしながら、この種の暗い構造は、必ずしもモニタ用の光ビーム126が吸収されることに起因するものではない。更に、発生された視覚画像中には、散乱又は反射に起因して暗いスポットが現れるおそれもある。撮像システムの信頼性および精度を高めるために、対象体104、すなわち毛細血管が、低い吸収係数を呈する第2の波長を有する第2のモニタ用の光ビームをも光源106が発生しうるようにする。生体組織102に、順次にまたは同時に第1および第2のモニタ用の光ビームを伝達することによって、対応する第1および第2の画像を、撮像ユニット114によって得ることができる。第1および第2の視覚画像を比較することによって、第1あるいは第2の画像中の暗い構造を毛細血管として、すなわち非侵襲的血液分析のための対象となる構造体として明確に決定し且つ分類しうる。
【0042】
第1および第2のモニタ用の光ビームは図1に明確に図示していない。これらの第1および第2のモニタ用、すなわち撮像用の光ビームは、同じ光路に沿って伝播させるのが好ましい。従って、これらに対応する第1および第2の画像は本質的に、対象体104を囲む同じ領域の視覚画像となる。第1及び第2の撮像用の波長に基づいて第1および第2の視覚映像が順次に得られるようにするのが好ましい。あるいは、撮像ユニット114の光検出構造により異なるスペクトル成分を分離して同時に検出しうるようにする場合には、第1および第2の視覚画像が同時に得られるようにすることもできる。
【0043】
モニタ用の光ビーム128の透過部分は、反射に基づく撮像方法に比べて、生体組織102の表面の下側の対象体104の位置および深さには実質的に依存しなくなる。生体組織102の厚さがかなり均一であるものとすると、モニタ用の光ビーム126の全体に亘る吸収率はほぼ一定に保たれる。これとは相違し、反射機構に基づいて撮像する方法を用いる場合には、反射光の量は生体組織102中の対象体104の深さに著しく依存する。更に、反射機構では、特に対象体104が生体組織102の底面の近くに位置するとき、サンプル内部の撮像放射の光路の長さは、サンプルの厚みの2倍になりうる。
【0044】
透過による撮像では、反射機構と比較して、撮像放射の吸収を本質的に生体組織102中の対象体104の深さに無関係とする。更に、サンプルの表面の下側のさまざまな深さにあるいかなる寸法の血管をも、最適な画質で充分に撮像しうる。撮像放射126の波長は、対象体104の幾何学的構造および位置に適合させることができる。
【0045】
図2は、更なる分光システム100のブロック線図を示す。本例では、分光システム100は、ベースステーション130とプローブヘッド132とに分離されている。ベースステーション130は、励起ビーム源112と、分光ユニット116と、撮像ユニット114とを有するのが好ましい。撮像用の対物レンズ110および光源106は、プローブヘッド132内に組み込まれている。プローブヘッド132には少数の光学的な部品を設けるだけであるので、このプローブヘッドをコンパクトで融通の利くように設計することができる。このプローブヘッド132は光源106と対物レンズ110との間に生体組織102を挿入する幾何学形状を有するようにするのが好ましい。このようにすることにより、プローブヘッドは生体組織102内の対象体104を囲む領域の透過に基づく視覚画像を提供する。プローブヘッド132とベースステーション130とは、一本以上の光ファイバ134によって結合するのが好ましい。このようなにすることにより、可視化及び分光分析のための光学信号を、ベースステーション130とプローブヘッド132との間で指向性をもって送信することができる。
【0046】
図2の実施例に代えて、光源106を、ベースステーション130内に組み込むこともできる。この場合、光源106によって発生される撮像放射126を、光ファイバ134を経てプローブヘッドに伝達する必要がある。このようにすることにより、プローブヘッド132の底部において、光源106に代えて対応する光ファイバの光放出孔を有効に用いることができる。
【0047】
更に、撮像ユニット114または少なくとも撮像ユニットの一部、例えば光検出素子を、プローブヘッド132内に組み込むこともできる。例えば、光感応性のCCDチップをプローブヘッド132内に組み込み、これにより光学画像情報を対応する電気信号へ変換するようにすることができる。次に、これらの電気信号は、更なる処理のためと、透過したモニタ用の光ビーム128に基づいて視覚画像を発生させ且つ視覚化するために、ベースステーション130に伝送することができる。
【0048】
図3は、緊締装置として構成したプローブヘッド136を線図的に示す断面図である。このプローブヘッド136は、回転軸148を中心として自由に回転する2つの緊締素子144及び146を有する。緊締素子144の一端は、撮像光源106を設けた光源モジュール140を有し、これに対向して位置する緊締素子146の一端は、透過した撮像放射を捕捉するための対物レンズ110を設けた検出モジュールを有する。更に、2つの緊締素子144及び146は、これらに力を加える作用をするばね142に機械的に接合されている。
【0049】
原理的には、ばね142を、回転軸148の左側及び右側のいずれの側においても、2つの緊締素子144及び146に結合させることができる。ばね142は具体的な構成に応じて2つの緊締素子144及び146に押圧力又は引張り力を及ぼすようにする必要がある。いずれの方法にもいても、プローブヘッド136は、生体組織102を緊締するようになっている。プローブヘッド136による緊締処理は、生体組織102が人体の付属部位、例えば耳たぶ、鼻孔、舌、頬、唇または指である場合に適用するのが好ましい。更に、検出モジュール138およびと光源モジュール140の表面は、摩擦抵抗特性が得られる適切な表面粗さを有するようにすることができる。この摩擦抵抗特性は、生体組織102を、プローブヘッド136に対し、特に検出モジュール138及び光源モジュール140に対し固定するのに実際に有利なものである。
【0050】
図4は、検出モジュール138および光源モジュール140を有するプローブヘッド150の他の実施例を線図的に示す。図3に示す実施例とは相違して、プローブヘッド150は、ばね力と組み合わせた緊締素子を使用しない。本例では、プローブヘッドの2つのモジュール138および140は、機械的に連結されていない。これらの双方のモジュール138および140は、プローブヘッド150のこれら2つのモジュール138および140間に引力を及ぼす磁性素子152を有する。これら磁性素子152は、永久磁石または電気的に制御可能な磁性素子に基づいて構成しうる。更に、これら磁性素子152のうちの少なくとも1つは、実際上強磁性体と交換することができる。
【0051】
プローブヘッド150の実施例は明らかにプローブヘッド136の実施形態と異なっているが、このプローブヘッド150もまた生体組織102に有効に緊締する。この場合も検出モジュール138の表面と光源モジュール140の表面とに接着力および充分な摩擦抵抗力の双方又はいずれか一方を与え、モジュール138および140のいずれかに対する生体組織102のすべりを防止するようにすることができる。
【0052】
特に、プローブヘッド136および150の上述した実施例の緊締作用は、コンパクトな設計と相俟って、取り扱いを自在にできるようにするとともに、例えば人間の体のような特定の部位への取り付けを容易にする。例えば、プローブヘッドを耳たぶに取り付けるには、プローブヘッドの幾何学的寸法が数センチメートルを超えないようにするとともにプローブヘッドを軽量に構成して、非侵襲血液分析中に患者に十分な快適さを提供するようにする必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、分光システムのブロック線図を示す。
【図2】図2は、分光システムのベースステーションおよびプローブヘッドのブロック線図を示す。
【図3】図3は、緊締するようにしたプローブヘッドの断面図を線図的に示す。
【図4】図4は、磁性素子に基づく固定手段を有するプローブヘッドの断面図を示す。
【符号の説明】
【0054】
100 分光システム
102 生体組織
104 対象体
106 光源
108 ベースステーション
110 対物レンズ
112 励起ビーム源
114 撮像ユニット
116 分光ユニット
118 ビームスプリッタ
120 ダイクロイックミラー
122 励起放射
124 戻り放射
126 モニタ用の光ビーム
128 透過したモニタ用の光ビーム
130 ベースステーション
132 プローブヘッド
134 光ファイバ
136 プローブヘッド
138 検出モジュール
140 光源モジュール
142 ばね
144 緊締素子
146 緊締素子
148 回転軸
150 プローブヘッド
152 磁性素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起ビームを対象体に指向させるとともに、対象体からの戻り放射を収集する対物レンズを有し、生体組織の特性を決定する分光システムであって、この分光システムが、
‐ 第1の波長を有し、前記生体組織に指向される少なくとも第1のモニタ用ビームを発生する第1の光源と、
‐ 前記生体組織を透過した前記第1のモニタ用ビームの少なくとも一部分を検出する検出器と、
‐ 前記生体組織を透過した前記第1のモニタ用ビームの部分に基づいて視覚画像を発生する撮像手段と
を具える分光システム。
【請求項2】
請求項1に記載の分光システムにおいて、前記対物レンズは、更に前記生体組織を透過した前記第1のモニタ用ビームの部分を収集する作用をし、前記光源は前記対物レンズに対向して配置されている分光システム。
【請求項3】
請求項1に記載の分光システムにおいて、前記生体組織が毛細血管又は血管を有し、前記第1の波長が可視領域にある分光システム。
【請求項4】
請求項1に記載の分光システムにおいて、第2の波長を有する少なくとも第2のモニタ用ビームが存在し、この少なくとも第2のモニタ用ビームは前記第1の光源または少なくとも第2の光源によって発生され、前記検出器は前記生体組織を透過した前記少なくとも第2のモニタ用ビームの少なくとも一部分を検出するようになっている分光システム。
【請求項5】
請求項4に記載の分光システムにおいて、第2の波長が赤外線スペクトル領域にある分光システム。
【請求項6】
請求項1に記載の分光システムにおいて、この分光システムが更に、前記対物レンズおよび第1の光源を担持するためのプローブヘッドを有し、このプローブヘッドは分光システムのベースステーションに結合されるようになっており、このベースステーションには分光分析ユニットと前記撮像手段とが設けられている分光システム。
【請求項7】
生体組織の特性を決定する分光システム用のプローブヘッドであって、このプローブヘッドが、
‐ 第1の波長を有し、前記生体組織に指向される少なくとも第1のモニタ用ビームを発生する光源と、
‐ 励起ビームを対象体に指向させるとともに、この対象体からの戻り放射を収集し、更に前記生体組織を透過する前記少なくとも第1のモニタ用ビームの一部分を収集する対物レンズと
を具えるプローブヘッド。
【請求項8】
請求項7に記載のプローブヘッドにおいて、前記光源が前記対物レンズに対向して配置され、前記生体組織は前記対物レンズと光源との間に配置しうるようになっているプローブヘッド。
【請求項9】
請求項7に記載のプローブヘッドにおいて、このプローブヘッドが更に、前記生体組織を透過した前記第1のモニタ用ビームの少なくとも一部分を検出する検出器を具えているプローブヘッド。
【請求項10】
請求項7に記載のプローブヘッドにおいて、このプローブヘッドが更に、前記プローブヘッドを前記生体組織の表面に固定する固定手段を具えているプローブヘッド。
【請求項11】
請求項10に記載のプローブヘッドにおいて、前記固定手段が更に、第1及び第2の緊締素子を有し、第1の緊締素子は前記光源を有し、第2の緊締素子は前記対物レンズを有しているプローブヘッド。
【請求項12】
請求項11に記載のプローブヘッドにおいて、前記第1及び第2の緊締素子が前記生体組織の表面に機械的応力を及ぼすようになっており、この機械的応力はばね力または磁力に基づいて発生されるようになっているプローブヘッド。
【請求項13】
生体組織内にある対象体の位置を決定するために生体組織の視覚画像を発生させる方法であって、この方法が
‐ 光源により、第1の波長を有する少なくとも第1のモニタ用ビームを発生させる工程と、
‐ 前記第1のモニタ用ビームを前記生体組織に指向させる工程と、
‐ 前記生体組織を透過した前記第1のモニタ用ビームの少なくとも一部分を検出する工程と、
‐ 前記生体組織を透過した前記第1のモニタ用ビームの部分に基づいて視覚画像を発生させて、前記生態組織内にある前記対象体の位置を決定する工程と
を有する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−510559(P2008−510559A)
【公表日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−529090(P2007−529090)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【国際出願番号】PCT/IB2005/052774
【国際公開番号】WO2006/021933
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】