説明

分割加工方法

【課題】脆性材料で形成された被加工物をレーザビームのビームパターンによらずに安定して分割加工できる分割加工方法を得ること。
【解決手段】分割加工方法は、脆性材料で形成された被加工物に対しレーザビームを相対的に走査して局部的に溶融し蒸発させることにより、前記被加工物を分割する分割加工方法において、湾曲機構を備えたステージ台に、前記被加工物が分割予定線に沿って破壊応力未満の応力で前記湾曲機構により曲げられるように、前記被加工物を固定する固定ステップと、前記湾曲機構により曲げられた前記被加工物の前記分割予定線に沿ってレーザビームを相対的に走査させる切断ステップとを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分割加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、半導体ウエーハのレーザ加工方法において、パルスレーザ光線の集光スポットを楕円形にし、楕円形の集光スポットにおける長軸を半導体ウエーハの分割予定ラインに位置づけ、半導体ウエーハと集光スポットを相対的に加工送りすることで分割予定ラインに沿って半導体ウエーハを切断することが記載されている。これにより、特許文献1によれば、レーザ光線のエネルギー分布が短軸側より長軸側でなだらかになり、レーザ光線の照射により溶融して発生したデブリが、なだらかに変化するエネルギー分布の接線方向に沿うように飛散し排出されるので、既に加工したレーザ加工溝に堆積することはないとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4440036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、シリコンなどの脆性材料で形成された被加工物を分割するためにレーザによる切断加工をおこなう際に、被加工物がレーザビームによる温度変化によって溶融し凝固して、加工面同士が付着する再溶着と呼ばれる現象が生じることがある。この再溶着による加工面の接着力が強いため、被加工物を任意形状に分断することが困難になる。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、脆性材料で形成された被加工物をレーザビームのビームパターンによらずに安定して分割加工できる分割加工方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかわる脆性材料の分割加工方法は、脆性材料で形成された被加工物に対しレーザビームを相対的に走査して局部的に溶融し蒸発させることでレーザアブレーションの効果により、前記被加工物を分割する分割加工方法において、湾曲機構を備えたステージ台に、前記被加工物が分割予定線に沿って破壊応力未満の応力で前記湾曲機構により曲げられるように、前記被加工物を固定する固定ステップと、前記湾曲機構により曲げられた前記被加工物の前記分割予定線に沿ってレーザビームを相対的に走査させる切断ステップとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、レーザアブレーションが被加工物の裏側まで到達し、被加工物が複数の被加工物へ分割される。分離前は、被加工物には曲げ応力が働いており、切断された際に曲げ応力が開放される。複数の被加工物の間隔を広く確保することができるので、飛散した溶融物の加工断面への再付着を抑制できる。すなわち、脆性材料で形成された被加工物をレーザビームのビームパターンによらずに安定して分割加工できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、実施の形態1による脆性材料の分割加工方法におけるレーザ照射工程の構成を示す図である。
【図2】図2は、実施の形態1における凸形状に変形した被加工物へのレーザ切断加工方法を示す図である。
【図3】図3は、実施の形態1における凸形状に変形した被加工物へのレーザ切断加工時の様子を示す図である。
【図4】図4は、実施の形態1における凸形状に変形した被加工物へのレーザ切断加工後の様子を示す図である。
【図5】図5は、実施の形態1におけるレーザ切断加工の加工断面を示す顕微鏡写真である。
【図6】図6は、実施の形態1における凹形状に変形した被加工物へのレーザ切断加工方法を示す図である。
【図7】図7は、実施の形態1における凹形状に変形した被加工物へのレーザ切断加工時の様子を示す図である。
【図8】図8は、実施の形態2における被加工物に対する湾曲機構が、平面ステージ台と、被加工物を曲げるための移動可能な冶具で構成され、凸形状に変形した被加工物へのレーザ切断加工方法を示す図である。
【図9】図9は、実施の形態2における被加工物に対する湾曲機構が、平面ステージ台と、被加工物を曲げるための移動可能な冶具で構成され、凹形状に変形した被加工物へのレーザ切断加工方法を示す図である。
【図10】図10は、実施の形態3における曲げた状態の被加工物に対するレーザビームの相対的な走査回数が1回目での溝加工の加工結果の断面形状を示す図である。
【図11】図11は、実施の形態3における曲げた状態の被加工物に対するレーザビームの相対的な走査回数が複数回目での切断加工の加工結果の断面形状を示す図である。
【図12】図12は、比較例となるレーザビーム照射による脆性材料の分割加工方法において、平坦な被加工物へのレーザ切断加工を示す図である。
【図13】図13は、比較例によるレーザ切断加工の加工断面を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明にかかる分割加工方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0010】
実施の形態1.
実施の形態1にかかる分割加工方法について説明する。
【0011】
実施の形態1にかかる分割加工方法では、図1に示すレーザ照射装置100を用いて、被加工物1を分割予定線DLに沿って分割する加工を行う。すなわち、被加工物1が加工部14における、後述する湾曲機構30aを備えたステージ台30に固定される。そして、被加工物1に対しレーザビーム12を分割予定線DLに沿って相対的に走査して局部的に溶融し蒸発させることにより、被加工物1を分割予定線DLに沿って分割する。
【0012】
具体的には、レーザ発振器11は、ビーム調整光学系13へ向けて、レーザビーム12を出射させる。レーザ発振器11から出射されるレーザビーム12のビームパターンは、例えば、真円である。
【0013】
ビーム調整光学系13は、出射されたレーザビーム12に対して、ビーム径の大きさの調整やビーム形状の成形をおこなう。ビーム調整光学系13において、ビーム径の大きさを調整する光学系は、例えば、凹レンズと凸レンズの組み合わせで形成される。楕円ビームなどのビーム成形をおこなう光学系は、例えば、シリンドリカルレンズ、プリズム、回折光学素子を使用することができる。
【0014】
ビーム調整光学系13は、ビームパターンが例えば楕円に成形されたレーザビーム12aを導光ミラー15へ導く。レーザビーム12aのビームパターンを楕円に成形する場合、ビーム調整光学系13は、集光後のレーザビーム12cの楕円形状の長径方向がレーザビーム12cの走査方向(すなわち、分割予定線DLに沿った方向)に平行で、楕円形状の短径方向がレーザビーム12cの走査方向に垂直になるように、レーザビーム12aを成形することが好適である。
【0015】
導光ミラー15は、ビーム調整光学系13により調整および成形されたレーザビーム12aを反射して集光レンズ17へ導く。
【0016】
集光レンズ17は、レーザビーム12aを、ステージ台30(図2参照)に固定された被加工物1のレーザビーム入射面における分割予定線DL上に集光後のレーザビーム12cとして集光する。
【0017】
駆動部18は、分割予定線DL上に集光後のレーザビーム12cが照射された状態で、被加工物1に対しレーザビーム12cを分割予定線DLに沿って(すなわち、太線の矢印で示す方向に)相対的に走査させる。これにより、被加工物1を分割予定線DLに沿って切断する加工を行う。このとき、駆動部18は、例えば、導光ミラー15の傾き角度とステージ台30のXY位置との一方を固定させた状態で他方を変えてもよいし、両方を変えてもよい。
【0018】
なお、導光ミラー15の傾き角度を変えることで被加工物1に対するレーザビーム12cの相対的な走査を行う場合、導光ミラー15は、ガルバノミラー、ポリゴンミラー等であってもよい。
【0019】
加工部14では、被加工物1を分割予定線DLに沿って例えば凸形状などに曲げ、被加工物1を曲げた状態で、被加工物1の分割予定線DL上にレーザビーム12cを照射して切断加工をおこなう。
【0020】
すなわち、加工部14は、湾曲機構30aを備えたステージ台30を有する。ステージ台30には、被加工物1にレーザビーム12cが照射される前に、予め被加工物1が固定されている。このとき、湾曲機構30aは、固定されるべき被加工物1を分割予定線DLに沿って例えば凸形状などに曲げる。その後に、被加工物1の分割予定線DL上にレーザビーム12cが照射される。
【0021】
なお、被加工物1は、脆性材料で形成されている。被加工物1は例えば半導体基板を含む光起電力装置(例えば、太陽電池セル)であり、脆性材料は例えば半導体基板に用いられるシリコンやセラミックスなどがある。
【0022】
また、レーザ発振器11は、被加工物1に吸収される波長を有するパルスレーザであり、例えば波長1μm程度もしくはそれ以下の、パルス固体レーザやパルスファイバーレーザの基本波、高調波を用いることができる。レーザ発振器11として用いるパルスレーザは、連続発振(CW:Continuous Wave)のレーザに比べて、時間的に集中してエネルギーを照射することができる。このことから、局所的により深い加工をおこなうことが可能である。このとき、高調波の波長を有するレーザに比べて、基本波パルスレーザの発振器を用いるほうが、産業分野で適応するにはランニングコストや信頼性の面でよい。
【0023】
また、分割溝や切断幅を狭くして、レンズ高さ方向の余裕度を確保するために、レーザの横モードはシングルモード近傍が望ましい。
【0024】
また、被加工物1を分割するための切断加工を、レーザビームでおこなえば、機械的加工などのその他の加工方法よりも加工速度が速いため、生産性を向上させることができる。
【0025】
また、光起電力装置をレーザビームで切断加工すれば、ダイサーで加工する場合に必要であった切削水が不要となる。
【0026】
また、光起電力装置に含まれる半導体基板は、例えば、一方の主面(例えば、表面)にPN接合層が形成された厚さ100〜300μm程度のP型シリコン基板である。これ以外にも、光起電力装置は、N型シリコン基板などを含む単結晶または多結晶の結晶系太陽電池であってもよいし、薄膜シリコン型などの薄膜系太陽電池であってもよい。
【0027】
次に、加工部14におけるステージ台30に備えられた湾曲機構30aについて図2を用いて説明する。図2は、湾曲機構30aにより被加工物1を凸形状に変形させた状態で、被加工物1へレーザビーム12cを照射して被加工物1の切断加工を行っている途中の状態を示している。
【0028】
図2に示すように、湾曲機構30aは、被加工物1が固定されるべき湾曲面30a1を含む。湾曲面30a1は、分割予定線DLに対応した中心部が凸形状になるように湾曲している。また、湾曲機構30aは、吸着機構30a2も含む。
【0029】
ステージ台30の湾曲面30a1には、被加工物1の表面(レーザ入射面)1aと反対側の面を接触させて吸着機構30a2の真空吸引等により被加工物1が固定される。被加工物1は、湾曲面30a1に沿うようにして分割予定線DLに沿って曲げられる。このとき、被加工物1を面全体で保持するため、応力の集中を抑制することができる。このため、被加工物1の表面1aに損傷を与えずに分割加工を行うことができる。
【0030】
なお、ステージ台30の湾曲面30a1における凸形状の傾きは、被加工物1を曲げた際に、被加工物1が割れないように被加工物1に発生する応力が破壊応力未満となるように予め決定されている。また、ステージ台30の分割予定線DLに対応した中央部には、溝30bが設けられていても良い。
【0031】
また、被加工物1に対するレーザビーム12cの走査速度は、レーザビーム12cのパルス繰返し周波数、平均出力及び要求するレーザ加工深さに応じて調整される。
【0032】
また、被加工物1に対するレーザビーム12cの走査は、複数回行っても良く、それに応じてレーザビーム12cの平均出力を設定すればよい。
【0033】
ここで、比較例として、仮に、ステージ台30が湾曲機構30aを備えない場合について考える。この場合、ステージ台30の平面上に設置された被加工物901(図12参照)に対して、レーザビーム12cで切断加工を行うことになる。このとき、被加工物901がレーザビーム12cによる温度変化によって溶融(および蒸発)し凝固して、加工面同士が付着する再溶着と呼ばれる現象が生じることがある(図13参照)。この再溶着による加工面の接着力が強いため、被加工物901を任意形状に分断することが困難になる。特に、この傾向は、レーザ発振器11により基本波パルスレーザを発生させる場合において顕著になる。
【0034】
それに対して、実施の形態1では、ステージ台30が湾曲機構30aを備える。そして、湾曲機構30aにより曲げられた状態の被加工物1へレーザビーム12cを集光して、被加工物1とレーザ光軸とを相対的に移動することによって分割加工を行う(図3、図4参照)。これにより、曲げられていない状態の被加工物1の場合(図12参照)と比較して、再溶着の発生を低減できる(図5参照)。
【0035】
次に、再溶着の発生および抑制メカニズムについて説明する。
【0036】
比較例では、図12に示すように、曲げていない平坦な被加工物901の表面901aに対し、レーザビーム12cを照射した場合、レーザ照射による温度上昇により溶融した被加工物901の一部が加工断面上から排出されずに留まり、再凝固することによって、加工部分には再溶着部分903が発生する。
【0037】
比較例の方法で実際に切断加工を行った際の加工断面に対して顕微鏡観察した結果を図13に示す。図13に示す加工断面では、再溶着部分903が観察されている。また、再溶着部分903によると考えられる、穴907や溶融して固まった白色部分908なども存在する。
【0038】
それに対し、実施の形態1では、図3に示すように、湾曲機構30aにより凸形状に変形させた被加工物1の表面1aに対し、レーザビーム12cを照射してレーザアブレーションの効果により切断加工を行う。凸形状に変形させた被加工物1における加工部分が被加工物1の裏面1bに達すると、すなわちレーザアブレーションが被加工物1の裏面1b側まで到達すると、図4に示すように被加工物1は被加工物101及び被加工物102へ分離(分割)される。
【0039】
具体的には、図3に示す分離直前における、凸形状に変形された被加工物1には、曲げ応力が働いている。この曲げ応力により、被加工物1における加工部分が被加工物1の裏面1bに達すると、図4に示すように、レーザ切断加工後の被加工物101及び被加工物102は、破線の位置から、太線の矢印で示す方向へ移動し、曲がらなくなる。すなわち、曲げ応力が開放される。
【0040】
この移動により、レーザ切断加工後の被加工物101及び被加工物102の間の間隔D2は、分離直前の間隔D1よりさらに広がったものとなる。例えば、1辺が200mmの被加工物を5°曲げたと仮定した場合、レーザ切断加工後の被加工物101及び被加工物102の間隔D2は、間隔D1より約0.76mmだけさらに広がったものとなる。
【0041】
これにより、分割された被加工物101、102の加工面同士の間隔を広く確保でき、レーザアブレーションによって飛散した溶融物による加工断面への付着を抑制でき、被加工物1の一部による加工断面への再溶着の発生を防ぐことできる。すなわち、レーザビームのビームパターンに依存せずに、再溶着の発生を回避することが可能である。したがって、切断部での安定したレーザによる切断分離が可能である。
【0042】
実施の形態1の方法で実際に切断加工を行った際の加工断面に対して顕微鏡観察した結果を図5に示す。レーザ切断の加工条件には、照射ビーム径だけでなく、平均出力、パルス繰り返し周波数、ステージ速度があり、図5は図13と等しい条件で加工している。
【0043】
図5に示す加工断面では、図13で観察されたような再溶着部分903が観察されない。そのため、図13で観察された穴907や溶融して固まった白色部分908なども存在しない。すなわち、再溶着のない加工断面9が得られている。
【0044】
また、実施の形態1の方法は、被加工物1が光起電力装置である場合において、上記と同様の効果に加えて、次のような効果を奏する。
【0045】
図2に示すように、光起電力装置1は、湾曲機構30aを備えたステージ台30に、光起電力装置1の一方の主面(例えば裏面1b)を接触させて真空吸引等により固定される。そして、光起電力装置1を湾曲面30a1に沿うように曲げるため、発電の効率に関わる光起電力装置1の表面1bのテクスチャ構造に損傷を与えることなく、再溶着を抑制しながら分離することができる。
【0046】
光起電力装置1には、発電の高効率化および電力を取り出すために、表面(受光面)1aの電極が形成された位置に対応する裏面1bの位置にも導電性のある裏面電極および裏面電解層などの構造を形成している。光起電力装置1は、裏面1b側に、裏面電極に被われているBSF(Back Surface Field)層をさらに備えている。
【0047】
従来の光起電力装置では、レーザ切断時に溶融した電極同士が接着すると特性が落ちるため、電極部にあらかじめ間隔を設けているため、BSF層を形成可能な範囲が限られている。
【0048】
それに対して、実施の形態1では、再溶着を抑制した加工を行うことが可能となるため、光起電力装置1の裏面1b側の切断部にも裏面電極やBSF層等の構造を形成したまま分断でき、裏面電極作成時に形成されるBSFの面積を大きくとることが可能となる。
【0049】
以上のように、実施の形態1では、湾曲機構30aにより分割予定線DLに沿って破壊応力未満の応力で曲げられた状態の被加工物1に対してレーザビーム12cを集光し、被加工物1とレーザ光軸とを相対的に移動することによって、被加工物1の切断分離(分割加工)を行う。これにより、レーザアブレーションが被加工物1の裏面1b側まで到達した瞬間、すなわち被加工物1が複数の被加工物101、102へ分割される瞬間における複数の被加工物101、102の間隔を広く確保することができるので、飛散した溶融物の加工断面への再付着を抑制できる。すなわち、脆性材料で形成された被加工物1をレーザビームのビームパターンによらずに安定して分割加工できる。
【0050】
また、初期コスト・ランニングコストを低くでき、信頼性の高い基本波レーザを使用した場合でも、再溶着を抑制でき、安定したレーザ切断加工を実施することが可能となる。
【0051】
また、実施の形態1では、被加工物1にレーザビーム12cが照射される前に、被加工物1が分割予定線DLに沿って曲げられるように、被加工物1をステージ台30の湾曲面30a1に吸着させる。これにより、湾曲面30a1で被加工物1を支えながら被加工物1を固定できるので、被加工物1の表面1aに損傷を与えることを低減でき、再溶着を抑制しながら分離(分割)することができる。
【0052】
また、実施の形態1では、被加工物1が、例えば光起電力装置である。光起電力装置は湾曲機構を備えたステージ台の上に、光起電力装置の一方の主面(例えば、裏面)を接触させて真空吸引等により固定され、湾曲面30a1に沿うように曲げる。このため、発電の効率に関わる光起電力装置の表面のテクスチャ構造に損傷を与えることを低減でき、再溶着を抑制しながら分離(分割)することができる。また、光起電力装置を表面(受光面)側から再溶着が生じない加工を行うことが可能となるため、光起電力装置1の裏面1b側の切断部にも裏面電極やBSF層等の構造を形成したまま分断でき、裏面電極作成時に形成されるBSFの面積を大きくとることが可能となる。
【0053】
なお、ステージ台230は、図6に示すような湾曲機構230aを備えても良い。湾曲機構230aは、固定されるべき被加工物1を分割予定線DLに沿って例えば凹形状などに曲げる。その後に、被加工物1の分割予定線DL上にレーザビーム12cが照射される。例えば、湾曲機構230aは、被加工物1が固定されるべき湾曲面230a1を含む。湾曲面230a1は、分割予定線DLに対応した中心部が凹形状になるように湾曲している。ステージ台230の湾曲面230a1における凹形状の傾きは、被加工物1を曲げた際に、被加工物1が割れないように被加工物1に発生する応力が破壊応力未満となるように予め決定されている。
【0054】
そして、ステージ台230の湾曲面230a1には、被加工物1の表面(レーザ入射面)1aと反対側の面を接触させて吸着機構30a2の真空吸引等により被加工物1が固定される。被加工物1は、湾曲面230a1に沿うようにして分割予定線DLに沿って曲げられる。このとき、被加工物1を面全体で保持するため、応力の集中を抑制することができる。このため、被加工物1の表面1aに損傷を与えずに分割加工を行うことができる。
【0055】
また、レーザアブレーションが被加工物1の裏面1b側まで到達した瞬間、すなわち被加工物1が複数の被加工物101、102へ分割される瞬間における複数の被加工物101、102の間隔D2(図4参照)を図7に示す分割直前の間隔D3より広く確保することができるので、飛散した溶融物の加工断面への再付着を抑制できる。
【0056】
実施の形態2.
次に、実施の形態2にかかる分割加工方法について説明する。以下では、実施の形態1と異なる部分を中心に説明する。
【0057】
図8に示すように、ステージ台330は、湾曲機構30a(図2参照)に代えて、湾曲機構330aを備える。湾曲機構330aは、平面330a1、吸着機構30a2、及び2つの部材330a3−1、330a3−2を有する。平面330a1は、被加工物1が載置されるべき面である。2つの部材330a3−1、330a3−2は、平面330a1上で被加工物1の分割予定線DLと平行な位置に設置する、被加工物1を曲げるための移動可能な冶具である。2つの部材330a3−1、330a3−2は、分割予定線DLに垂直な方向に移動可能である。
【0058】
本実施の形態2においても、被加工物1に対しレーザビーム12cを分割予定線DLに沿って(すなわち、太線の矢印で示す方向に)相対的に走査させる。これにより、被加工物1を分割予定線DLに沿って切断する加工を行う。
【0059】
実施の形態1では、被加工物1をステージ台30の湾曲面30a1に吸着して曲げるので、被加工物1の曲げ形状はステージ台30の湾曲面30a1の形状に依存することになる。このため、曲げ形状を変えることが困難である。この場合、被加工物1の材質および形状によっては、すなわち被加工物1の材質および形状に想定外のものが用いられた場合に、被加工物に亀裂が入るほどの曲げ応力が発生し、被加工物を破損する場合がある。
【0060】
そこで、実施の形態2では、被加工物1に対する湾曲機構330aは、2つの部材330a3−1、330a3−2を分割予定線DLに垂直な方向に移動させて、被加工物1の曲げ形状を変える。例えば、2つの部材330a3−1、330a3−2(冶具)を平面330a1上における分割予定線DL近傍かつ平行な位置に設置する。そして、2つの部材330a3−1、330a3−2(冶具)のさらに上へ、被加工物1を設置し、吸着機構30a2により吸着させることで被加工物1を凸形状に曲げる。
【0061】
このように、実施の形態2では、被加工物1にレーザビーム12cが照射される前に、被加工物1が破壊応力未満の応力で曲げられるように、2つの部材330a3−1、330a3−2を移動させるとともに被加工物1を2つの部材330a3−1、330a3−2を介して平面330a1に固定する。すなわち、2つの部材330a3−1、330a3−2(冶具)は、平面330a1と一体ではなく移動可能なため、設置位置に自由度がある。このため、ステージ台330の形状に依存することなく、被加工物1の材質および形状に想定外のものが用いられた場合でも、被加工物1が破損するほどの曲げ応力を発生させずに被加工物1を曲げることが可能である。
【0062】
なお、2つの部材330a3−1、330a3−2は、図9に示すような位置に移動させても良い。例えば、2つの部材330a3−1、330a3−2(冶具)を平面330a1上における分割予定線DLから離間した位置かつ平行な位置に設置する。2つの部材330a3−1、330a3−2は、例えば、分割予定線DLと垂直な方向における被加工物1の両端近傍における分割予定線DLに平行な位置に設置する。そして、2つの部材330a3−1、330a3−2(冶具)のさらに上へ、被加工物1を設置し、吸着機構30a2により吸着させることで被加工物1を凹形状に曲げる。この場合でも、2つの部材330a3−1、330a3−2(冶具)は、平面330a1と一体ではなく移動可能なため、設置位置に自由度がある。このため、ステージ台330の形状に依存することなく、被加工物1の材質および形状に想定外のものが用いられた場合でも、被加工物1が破損するほどの曲げ応力を発生させずに被加工物1を曲げることが可能である。
【0063】
実施の形態3.
次に、実施の形態3にかかる分割加工方法について説明する。以下では、実施の形態2と異なる部分を中心に説明する。
【0064】
実施の形態3では、湾曲機構330aにより曲げられた状態の被加工物1に対するレーザビーム12cの相対的な走査を複数回実施する。
【0065】
例えば、被加工物1に対するレーザビーム12cの相対的な走査回数が1回目では、図10に示すように、被加工物1の表面1aに浅い溝1cを形成する。
【0066】
そして、被加工物1に対するレーザビーム12cの相対的な走査回数が複数回目では、図11に示すように、被加工物1の表面1aから裏面1bまで達する切断部1dを形成する。
【0067】
実施の形態2では、湾曲機構330aにより曲げられた状態の被加工物1に対するレーザビーム12cの相対的な走査回数が1回の走査で、被加工物1に対してレーザによる切断加工を行う。すると、被加工物1を曲げた状態で加工しているため、レーザ切断加工の途中でレーザ加工部分を起点として亀裂が発生して破損する可能性がある。
【0068】
そこで、実施の形態3では、図10に示すように曲げられた状態の被加工物1に対するレーザビームの相対的な走査回数の1回目の走査で、分割予定線DL(図8参照)上に浅い溝1cの加工を行う。そして、図11に示すように、1回目の走査で形成された浅い溝1cに対してさらにレーザビームを走査させ、複数回目の走査で被加工物1の表面1aから裏面1bまで達する切断部1dを形成する切断加工をおこなう。
【0069】
このように、湾曲機構330aにより曲げられた状態の被加工物1に対して徐々に浅い溝1cの深さを増加させるレーザ切断加工を行うことで、安定して正確な加工形状に切断することが可能になる。
【0070】
なお、図10と図11とでは被加工物1に対する湾曲機構330aがステージ台330と被加工物1を曲げるために移動可能な冶具との組み合わせであったが、被加工物1をステージ台330の湾曲面に吸着することで曲げる湾曲機構でも同様の効果を奏する。
【0071】
また、レーザ走査1回目の溝加工においては、被加工物を曲げた状態でも分離されないため、加工条件によっては加工断面が再溶着する可能性がある。そこで、再溶着の発生の抑制のために、照射ビーム径だけでなく、平均出力、パルス繰り返し周波数、ステージ速度を調節する。特にパルスエネルギー密度が高いとき、またはステージ走査速度が速いほど、再溶着の発生を抑制することができる。
【0072】
例えば、脆性材料がシリコンの場合、レーザビーム楕円形状1:2〜1:7、平均出力10W〜40W、パルス繰り返し周波数40kHz以下、ステージ速度200mm/s以上の条件で完全に再溶着の発生を防ぐことができる。
【0073】
そのため、上記の条件で1回目の走査による溝加工を行い、加工断面の再溶着を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上のように、本発明にかかる分割加工方法は、レーザビームによる切断加工に有用である。
【符号の説明】
【0075】
1 被加工物
1a レーザ入射面
1b 被加工物の裏面
1c 浅い溝
1d 切断部
9 再溶着のない加工断面
11 レーザ発振器
12 レーザビーム
12a 成形されたレーザビーム、
12c 集光後のレーザビーム
13 ビーム調整光学系
14 加工部
15 導光ミラー
17 集光レンズ
18 駆動部
30、230、330 ステージ台
30a、230a、330a 湾曲機構
30a1、230a1 湾曲面
30a2 吸着機構
100 レーザ照射装置
101、102 レーザ切断加工後の被加工物
330a1 平面
330a3−1、330a3−2 部材
901 平面上に設置された被加工物
901a 被加工物901の表面
903 再溶着部分
907 穴
908 再溶着して固まった白色部分
DL 分割予定線
D1、D3 分離直前の間隔
D2 被加工物101及び被加工物102の間の間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆性材料で形成された被加工物に対しレーザビームを相対的に走査して局部的に溶融し蒸発させることにより、前記被加工物を分割する分割加工方法において、
湾曲機構を備えたステージ台に、前記被加工物が分割予定線に沿って破壊応力未満の応力で前記湾曲機構により曲げられるように、前記被加工物を固定する固定ステップと、
前記湾曲機構により曲げられた前記被加工物の前記分割予定線に沿ってレーザビームを相対的に走査させる切断ステップと、
を備えたことを特徴とする分割加工方法。
【請求項2】
前記湾曲機構は、前記被加工物が固定されるべき湾曲面を含み、
前記固定ステップでは、前記被加工物が曲げられるように、前記被加工物を前記湾曲面に吸着させる
ことを特徴とする請求項1に記載の分割加工方法。
【請求項3】
前記湾曲機構は、
前記被加工物が載置されるべき平面と、
前記平面における前記分割予定線の両側で平行となる位置に配され、前記分割予定線に垂直な方向に移動可能な2つの部材と、
を含み、
前記固定ステップでは、前記被加工物が破壊応力未満の応力で曲げられるように、前記2つの部材を移動させるとともに前記被加工物を前記2つの部材を介して前記平面に固定する
ことを特徴とする請求項1に記載の分割加工方法。
【請求項4】
前記切断ステップでは、前記分割予定線に沿ってレーザビームを相対的に走査させる動作を複数回行う
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の分割加工方法。
【請求項5】
前記被加工物は、光起電力装置である
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の分割加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図5】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−14016(P2013−14016A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146433(P2011−146433)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】