説明

分散体、表面被覆処理剤、および、レザー表面処理剤

【課題】抗菌作用が発揮される微生物の種類が多く効率的な抗菌作用を発揮し人体や環境に影響のない溶剤系表面処理剤を提供する。
【解決手段】揮発性の有機溶剤と、この有機溶剤に溶解された樹脂および分散剤のうちの少なくともいずれか一方の基材と、イミダゾール系の有機系抗菌剤のみから選ばれた2種と無機系抗菌剤とを含む抗菌性組成物と、を含有する液状体である。被処理体の表面に塗布して有機溶剤を除去することで、著しく広い抗菌スペクトルを示し皮膚刺激性が陰性で安全性が高く、人体や環境に影響が極めて少ない抗菌性組成物が基材により被処理体の表面に容易に安定して担持でき、効率よく高い抗菌作用を容易に被処理体に発現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶剤中に有機系抗菌剤および無機系抗菌剤を含有し被処理体の表面を処理する分散体、表面被覆処理剤、および、レザー表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌などの原核生物、カビ、酵母などの真核生物、さらには藻類などの微生物を除去や忌避する抗菌性組成物として、各微生物に対して2種類以上の薬剤を組み合わせることで、相乗効果が得られることが知られている。すなわち、2種類以上の薬剤を併用することで、抗菌スペクトルが拡大したり、最小生育阻止濃度(MIC値:Minimum Inhibitory Concentrationの略)(ppm)が各薬剤を単独使用する場合に比して減少したりするといった相乗効果を奏する。そして、異なる種類の薬剤を併用する方法として、有機系抗菌剤および無機系抗菌剤を用いる構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載のものは、銀、銅、亜鉛などの金属成分と、この金属成分以外の無機酸化物とからなり抗菌・防黴・防藻性作用を有する無機酸化物微粒子と、チアゾール系化合物およびイミダゾール系化合物のうちの少なくともいずれか一方の有機系抗菌・防黴・防藻剤と、を含有している。そして、無機酸化物微粒子は、分散性や被処理物の表面色調などに及ぼす影響により、平均粒子径を500nm以下としている。また、無機酸化物微粒子の含有量は、併用する効果のために0.001重量%以上としている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−339102号公報(第4頁−第10頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、抗菌性組成物は、生活環境中に使用されるものであることから、例えば、被処理物に抗菌性組成物を塗布するなどの際に皮膚に付着したり、抗菌性組成物を塗布あるいは含有した成形体に利用者が接触したりしても、かぶれるなどの人体に影響がない薬剤を用いる必要がある。また、抗菌性組成物を塗布あるいは含有した成形体を例えば焼却処理する際に、ダイオキシンなどの有害物質が発生しない薬剤を用いる必要がある。
【0006】
一方、抗菌性組成物を調製する際や抗菌性組成物を含有する成形体を成形する際などの製造工程において、混合する際の容器や成形時の金型など、製造設備の腐食を生じさせない薬剤が望ましい。すなわち、製造設備に耐腐食性の材料を用いるなど、製造設備に特別な装置が必要となって製造設備の構築性が低下したりコストが増大したりするなどの不都合が生じない薬剤を対象とすることが望ましい。
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1に記載のような従来の有機系および無機系を併用して効果を得る抗菌性組成物は、組み合わせによって十分な相乗効果が発揮できず、限られた微生物にのみしか相乗効果が得られない。すなわち、抗菌スペクトルを大きく拡大できない。さらには、抗菌スペクトルが拡大する抗菌性を発揮させるためには、MIC値が増大、すなわち添加量が増大し、効率的な抗菌作用が得られないとともに、添加量の増大による成形体の成形性が困難となるなどの不都合も生じるおそれがある。また、2−(n−オクチル)−4−イソチアゾール−3−オン(略称OIT)や、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン(略称BIT)などのアレルギ性物質も用いられている。
【0008】
本発明の目的は、抗菌作用が発揮される微生物の種類が多く効率的な抗菌作用が得られ人体や環境に影響の極めて少ない分散体、表面被覆処理剤、および、レザー表面処理剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に記載の分散体は、有機溶剤を分散媒体とし、この有機溶剤に溶解された樹脂および分散剤のうちの少なくともいずれか一方の基材と、イミダゾール系の有機系抗菌剤から選ばれた少なくとも2種、および無機系抗菌剤を含有する抗菌性組成物と、を含有したことを特徴とする。
この発明では、有機溶剤と、この有機溶剤に溶解された樹脂および分散剤のうちの少なくともいずれか一方の基材とともに、少なくとも2種のイミダゾール系の有機系抗菌剤と、無機系抗菌剤とを併用している。
このことにより、例えば刷毛塗りやロール塗り、スプレー塗布、浸漬や印刷など、各種方法により被処理体の表面に塗布して有機溶剤を除去することで、抗菌スペクトルを広げるために化学的に異種な抗菌剤を用いるという従来の公知知見からは全く予想できないイミダゾール系単一の有機系抗菌剤の組み合わせにより、著しく広い抗菌スペクトルを達成でき、かつ皮膚刺激性が陰性で安全性が高く、人体や環境に影響が極めて少ない本発明の抗菌性組成物を、基材により被処理体の表面に容易に安定して担持できる。したがって、皮膚刺激性が陰性で安全性が高く、人体や環境に影響が極めて少なく、かつ、相乗効果による低い最小育成素子濃度(MIC値)でも格段に広い抗菌スペクトルが得られ、効率よく高い抗菌作用を、容易に被処理体に発揮させることができる。また、分散剤を含有することで、有機溶剤に対して溶解質や分散質ではない無機系抗菌剤、例えばイミダゾール系の有機系抗菌剤との相乗効果が得られる銀系抗菌剤と酸化亜鉛とのうちの少なくともいずれか一方でも、良好に有機溶剤に分散する状態が得られ、被処理体への表面に例えば塗布するなどにより処理する際に、略均一に被処理体の表面に抗菌性組成物を担持させることができ、作業性の向上が容易に得られるとともに、被処理体の表面における略均一な抗菌作用を容易に発揮させることができる。
なお、本発明において、「抗菌性(抗菌効果)」とは、真菌や細菌などの菌類の生育や繁殖を阻止するといった抗菌効果そのものに加え、防カビ・抗カビ効果や、防藻効果といったものも含むものである。
また、本発明の抗菌性組成物の使用時における濃度は、固形分換算で0.01質量%以上10質量%以下、好ましくは0.05質量%以上2質量%以下とすることが望ましい。本発明の抗菌性組成物は、このような低濃度でも十分な抗菌効果を発揮できる。
ここで、抗菌性組成物の濃度が0.01質量%より低くなると、少ないMIC値での抗菌スペクトルの拡大が得られにくくなり十分な抗菌性を発揮できなくなるおそれがある。一方、抗菌性組成物の濃度が10質量%より高くなると、抗菌性組成物の配合量の増大によるコストの増大に対して抗菌効果の増大が大きくなく、経済効果が低減するので好ましくない。また、均一分散が難しくなるおそれもある。したがって、抗菌性組成物の濃度を0.01質量%以上10質量%以下とすることが好ましい。特に、0.05質量%以上2質量%以下とすることが好ましい。
さらに、抗菌性組成物の濃度が0.1質量%以上50質量%以下の溶液で、製造、輸送、保管することが経済的であり、手間を省くうえで好ましい。この濃度の溶液は、前記した濃度に希釈して用いる所謂マスターバッチとして用いることが通常である。
ここで、0.1質量%未満では、マスターバッチとしての効果があまり無く、50質量%を超えると、溶液中で抗菌性組成物が均一に分散し難くなるおそれがある。また、粘度が上がり取り扱いが困難となる。したがって、抗菌性組成物の濃度を0.1質量%以上50質量%以下とすることが好ましい。
【0010】
そして、本発明では、被処理体の表面を処理する構成とすることが好ましい。
本発明では、例えば刷毛塗りやロール塗り、スプレー塗布、浸漬や印刷、グラビアコートやダイコートなど、各種方法により被処理体の表面に担持されることで被処理体の表面が処理される状態に調製される。
このことにより、被処理体の表面に作業が容易な塗布するなどして水分を除去することで、皮膚刺激性が陰性で安全性が高く、人体や環境に影響が極めて少なく、かつ、相乗効果による低い最小育成素子濃度(MIC値)でも格段に広い抗菌スペクトルが得られ、効率よく高い抗菌作用を、容易に被処理体に発揮させることができる。
【0011】
また、本発明では、前記基材は、前記被処理体の表面の活性化を促す材料であることが好ましい。
なお、表面の活性化を促す材料として、界面活性剤などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
本発明では、基材として被処理体の表面の活性化を促す材料であることから、皮膚刺激性が陰性で安全性が高く、人体や環境に影響が極めて少なく、かつ、相乗効果による低い最小育成素子濃度(MIC値)でも格段に広い抗菌スペクトルが得られ、効率よく高い抗菌作用を発現する抗菌性組成物を、良好に安定して被処理体の表面に担持させることができる。したがって、被処理体に効率よく高い抗菌作用を安定して発揮させることができる。
【0012】
そして、本発明では、前記有機溶剤は、揮発性であることが好ましい。
本発明では、有機溶剤として揮発性であることから、皮膚刺激性が認められず、人体や環境に影響がなく、かつ、相乗効果による低い最小育成素子濃度(MIC値)でも格段に広い抗菌スペクトルが得られ、効率よく高い抗菌作用を発現する抗菌性組成物を、有機溶剤を揮発させる簡単な処理で良好に安定して被処理体の表面に担持させることができる。したがって、被処理体に効率よく高い抗菌作用を安定して発揮させることができる。
【0013】
また、本発明では、前記基材は、接着剤であることが好ましい。
本発明では、基材として接着剤を用いることで、例えば壁紙や粘着テープの粘着層、あるいは接着剤などとして利用することで、取り付ける被処理体における直接触れられない位置に設けても被処理体に効率よく高い抗菌作用を発揮させることができる。
【0014】
そして、本発明では、前記抗菌性組成物は、平均1μm以下の粒径に粒度調整された構成とすることが好ましい。
本発明では、抗菌性組成物として、平均1μm以下の粒径に粒度調整しておくことで、有機溶剤に対する分散性が向上するとともに、被処理体の表面に担持された際の表面の平滑性や被処理体への良好な浸透性などが得られるなど、良好な抗菌性組成物の担持状態が容易に得られる。したがって、安定した高い抗菌作用を被処理体に発揮させることが容易に得られる。
【0015】
さらに、本発明では、前記イミダゾール系の有機系抗菌剤から選ばれた2種は、ベンゾイミダゾール環にチアゾリル基を有するものと、ベンゾイミダゾール環にカーバメート基を有するものとであることが好ましい。
本発明では、イミダゾール系の有機系抗菌剤として、ベンゾイミダゾール環にチアゾリル基を有するものとカーバメート基を有するものとの2種、特に2種のみを併用することで、同一のイミダゾール系でも、人体や環境に影響がなく、かつ、相乗効果による低いMIC値でも格段に広い抗菌スペクトルが得られるという抗菌作用が容易に得られ、特にこれらの併用により顕著な抗菌性が得られる。
なお、ベンゾイミダゾール環にチアゾリル基を有するものは、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールであり、前記ベンゾイミダゾール環にカーバメート基を有するものは、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルであることが好ましい。これらベンゾイミダゾール環にチアゾリル基を有する2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールと、カーバメート基を有する2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルとの2種を併用することで、特に併用による相乗効果にて顕著な抗菌性が得られる。さらに、これら2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールと、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルとは、比較的に製造しやすく入手が容易で、既に利用されている材料で安全性が認められたものであることから、容易に利用できる。
【0016】
また、本発明では、前記無機系抗菌剤は、銀系抗菌剤と酸化亜鉛とのうちの少なくともいずれか一方であることが好ましい。
本発明では、無機系抗菌剤として、銀系抗菌剤と酸化亜鉛とのうちの少なくともいずれか一方を用いるので、顕著な抗菌性が容易に得られる。そして、銀系抗菌剤と酸化亜鉛とを併用することにより、銀系抗菌剤および酸化亜鉛自体による抗菌作用とともに、これら同一の無機系抗菌剤でも併用することで抗菌作用の相乗効果も得られ、より顕著な抗菌性が容易に得られる。
なお、銀系抗菌剤は、銀を担持したジルコニウムまたはその塩あるいはゼオライトであることが好ましい。銀系抗菌剤として銀を担持したジルコニウムまたはその塩あるいはゼオライトを用いることで、貴金属である銀が抗菌作用を発揮する必要最小限の量となり、効率よく無機系抗菌剤による抗菌作用が得られるとともに有機系抗菌剤との抗菌作用の相乗効果が得られ、コストの低減も容易に図れる。
また、無機系抗菌剤としては、銀を担持したジルコニウムまたはその塩あるいはゼオライトと酸化亜鉛との配合割合が、質量比で1:1〜1:10であることが好ましい。銀を担持したジルコニウムまたはその塩あるいはゼオライトと、酸化亜鉛とを併用することで、同一の無機系抗菌剤でも併用による抗菌作用の相乗効果が得られ、より顕著な抗菌性が得られる。さらに、無機系抗菌剤自体による抗菌作用と、無機系抗菌剤の併用による抗菌作用の相乗効果と、有機系抗菌剤との抗菌作用の相乗効果とが損なわれることなく、貴金属である銀の使用量が低減し、コストの低減がより容易に図れる。そして、銀を担持したジルコニウムまたはその塩あるいはゼオライトと酸化亜鉛との配合割合が、質量比で1:1〜1:10であることから、抗菌性が損なわれることなく適切に銀の使用量が低減する。
ここで、銀を担持したジルコニウムまたはその塩あるいはゼオライトと酸化亜鉛との配合割合が、質量比で1:1より酸化亜鉛が少なくなると、銀の使用量の低減による十分なコストの低減が得られにくくなる。また、銀の酸化による変色が問題となるおそれもある。一方、質量比で1:10より酸化亜鉛が多くなると、銀による十分な抗菌作用が得られにくくなるおそれがある。したがって、銀を担持したジルコニウムまたはその塩あるいはゼオライトと酸化亜鉛との配合割合を質量比で1:1〜1:10とすることが好ましい。
さらに、イミダゾール系の有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との配合割合は、質量比で1:1〜5:1であることが好ましい。イミダゾール系の有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との配合割合を、質量比で1:1〜5:1とすることで、有機系抗菌剤や無機系抗菌剤自体の抗菌作用とともに、有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との併用による顕著な抗菌作用の相乗効果が適切に得られる。
ここで、有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との配合割合が、質量比で1:1より有機系抗菌剤が少なくなると、少ないMIC値での抗菌スペクトルの拡大が得られなくなるおそれがある。一方、質量比で5:1より有機系抗菌剤が多くなると、無機系抗菌剤に比して初期抗菌性能が遅く、使用当初から長期間に亘って安定した顕著な抗菌性が得られなくなるおそれがある。したがって、ベンゾイミダゾール系の有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との配合割合を、質量比で1:1〜5:1とすることが好ましい。
【0017】
そして、本発明では、前記基材は、バインダであり、さらに顔料および染料のうちの少なくともいずれか一方を含む構成とすることが好ましい。
本発明では、基材としてバインダを用い、顔料および染料のうちの少なくともいずれか一方を含有させることで、例えば被処理体に着色塗料として利用したりインキとして利用して被処理体に印刷したりすることで、被処理体に装飾性や印字による案内を付与するなどができるとともに、効率よく高い抗菌作用を発揮させることができる。
【0018】
本発明に記載の表面被覆処理剤は、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の分散体が前記被処理体の表面に被膜形成可能に調製されたことを特徴とする。
この発明では、上述した本発明の分散体を被処理体の表面に被膜形成可能に調製、例えば基材として塗布により塗膜を形成する材料などを用いるなどしている。
このことにより、例えば刷毛塗りやロール塗り、あるいはスプレー塗布、グラビアコートやダイコートなどの各種方法による塗布により、被処理体の表面に塗膜として本発明の抗菌性組成物が担持される。このため、被処理体の表面に効率よく高い抗菌作用の発現が容易に得られる。
【0019】
そして、本発明では、前記被処理体は、木材、床材、合板、水回り用品、飼料容器、船底、皮製品、合皮製品、壁紙、空調装置の空調風路を構成する空調風路部材、鉄鋼製品、アルミサッシなどのアルミ製品、ハウスラップ、屋根材、繊維製品、断熱材、台所用品、トイレ用品、用水路、人工池のいずれかであることが好ましい。
本発明では、被処理体として、触れられる材料や住居などの生活空間、水蒸気や水滴などの水と接触する環境で利用される、木材、床材、合板、水回り用品、飼料容器、皮製品、合皮製品、壁紙、空調装置の空調風路を構成する空調風路部材、鉄鋼製品、アルミサッシなどのアルミ製品、ハウスラップ、屋根材、繊維製品、断熱材、台所用品、トイレ用品、用水路、人工池のいずれかに利用することで、皮膚刺激性が陰性で安全性が高く、人体や環境に影響が極めて少なく、かつ、高い抗菌作用を発現できる被処理体を安全に取り扱いでき、家屋などに用いる被処理体であれば良好な居住空間が得られ、腐食などを生じずに被処理体自体の安定した特性の維持も長期間容易に得られる。
【0020】
本発明に記載のレザー表面処理剤は、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の分散体が前記被処理体としての皮革物の少なくとも表面に担持可能に調製されたことを特徴とする。
この発明では、上述した本発明の分散体を被処理体としての皮革物の少なくとも表面に担持可能に調製、例えば含浸や表面被覆などにより、少なくとも表面に抗菌性組成物が担持される状態に、基材を設定したり、粒度を調製したりするなどの調製を施す。
このことにより、皮膚刺激性が陰性で安全性が高く、人体や環境に影響が極めて少ない分散体であることから、各種浸漬や塗布などの作業や処理後の皮革物の取り扱いなどが容易となる。さらには、効率よく高い抗菌性が、例えば浸漬や塗布などにより容易に得られるので、比較的にカビが発生しやすい皮革物でも長期間安定した皮革物の特性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の分散体に係る一実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態における分散体としての溶剤系表面処理剤として、液状体の構成について説明するが、有機溶剤を別包装として混合することにより液状体に調製するなどしてもよい。
【0022】
〔溶剤系表面処理剤の構成〕
溶剤系表面処理剤は、特に適用制限はないが、例えば、微生物である菌類(真菌類、細菌類、藻類など)が繁殖しやすい環境に使われる部品や部位、具体的には、木材、床材、合板、水回り用品、飼料容器、船底、皮製品、合皮製品である合成皮革製品や人工皮革製品、壁紙、空調装置の空調風路を構成する空調風路部材、鉄鋼製品、アルミサッシなどのアルミ製品、ハウスラップ、屋根材、織布や不織布などの繊維製品、断熱材、台所用品、トイレ用品、畳表、用水路、人工池、プールなどの被処理体の表面に、各種用途に応じて直接、あるいは被取付部位の表面に接着あるいは貼着、挾持するなどして利用される。
この溶剤系表面処理剤は、有機溶剤を含有する液状体で、例えば、刷毛塗りやロール塗り、スプレー塗布などの塗布、いわゆるどぶ付けや塗布などによる浸漬、インクジェットや凸版などによる印刷などにより、各被処理体の少なくとも表面に担持される状態に調製されている。
そして、溶剤系表面処理剤は、有機溶剤と、この有機溶剤に溶解された樹脂および分散剤のうちの少なくともいずれか1つを含む基材と、イミダゾール系の有機系抗菌剤から選ばれた少なくとも2種および無機系抗菌剤を含有する抗菌性組成物と、を含有する液状体に調製されている。
【0023】
有機溶剤は、例えば揮発性の溶剤で、ケトン、アルコールおよびエステルの一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。
ケトンとしては、例えばトルエンやキシレン、メチルエチルケトンやメチルイソブチルケトンなどで、単独または二種以上を組み合わせて使用することができる。
アルコールとしては、例えば2−プロパノールやt−ブチルアルコール、メタノールやエタノールなどで、単独または二種以上を組み合わせて使用することができる。
エステルとしては、例えば酢酸エチルや酢酸ブチルなどの中性エステルが用いられ、単独または二種以上を組み合わせて使用することができる。
他に、アミド系としてジメチルホルムアミドなども適宜使用できる。なお、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサンなどの環状構造を有する有機溶剤も使用できるが、近年では環境の観点から避けられる傾向がある。
【0024】
基材は、有機溶剤に対して溶解質となる樹脂と、分散剤とを、それぞれ単独または組み合わせて使用することが出来る。
また、基材における樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ナイロン(ポリアミド)系樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂などの樹脂材料の一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。
また、分散剤は、例えば界面活性剤などで、ポリカルボン酸塩系、スルホン酸塩系、リン酸エステル系、アミド系、高級アルコール系などの一種を単独、または二種以上を組み合わせて使用することができる。
そして、基材として、結晶性樹脂であれば、結晶化度が比較的に低い樹脂材料を用いることが好ましい。すなわち、結晶化度が低い樹脂材料の方が、被処理体の表面に例えば被膜形成された樹脂材料中に存在する抗菌性組成物による抗菌作用が発揮されやすくなるためである。
【0025】
抗菌性組成物は、イミダゾール系の有機系抗菌剤から選ばれた2種と、無機系抗菌剤と、を含有、特にイミダゾール系の有機系抗菌剤のみから選ばれた2種と、無機系抗菌剤と、のみからなるものが好ましい。
この抗菌性組成物は、表1ないし表6に示す微生物である菌類(真菌類、細菌類、藻類など)に対して、低いMIC値でも抗菌効果を奏し格段に広い抗菌スペクトルを示す。
すなわち、MIC値を50ppm以下と厳しいレベルとしても、真菌類214種、細菌類131種、藻類27種(現時点で確認済み)を示す。なお、表1ないし表3に真菌類、表4および表5に細菌類、表6に藻類を示す。
なお、表1ないし表6において、実施例1は、後述する実施例1で用いた抗菌組成物の、Aはチアベンダゾールとカルベンダジムとが1:1で混合された抗菌性組成物、Bは銀担持リン酸ジルコニウム(東亞合成社製 商品名 ノバロン)と酸化亜鉛(関東化学株式会社試薬)が18:82で混合された抗菌性組成物のMIC値のデータである。また、表1ないし表6において、比較例における空白部分は、抗菌効果が認められなかったことを意味する。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【0030】
【表5】

【0031】
【表6】

【0032】
イミダゾール系の有機系抗菌剤としては、例えばベンゾイミダゾールカルバミン酸化合物、イオウ原子含有ベンゾイミダゾール化合物、ベンゾイミダゾールの環式化合物誘導体などが例示できる。
【0033】
ベンゾイミダゾールカルバミン酸化合物としては、1H−2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル、1−ブチルカルバモイル−2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル、6−ベンゾイル−1H−2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル、6−(2−チオフェンカルボニル)−1H−2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルなどが例示できる。
イオウ原子含有ベンゾイミダゾール化合物としては、1H−2−チオシアノメチルチオベンゾイミダゾール、1−ジメチルアミノスルフォニル−2−シアノ−4−ブロモ−6−トリフロロメチルベンゾイミダゾールなどが例示できる。
ベンゾイミダゾールの環式化合物誘導体としては、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾール、2−(2−クロロフェニル)−1H−ベンゾイミダゾール、2−(1−(3,5−ジメチルピラゾリル))−1H−ベンゾイミダゾール、2−(2−フリル)−1H−ベンゾイミダゾールなどが例示できる。
【0034】
そして、イミダゾール系の有機抗菌剤としては、イミダゾール系の有機系抗菌剤のみから選ばれた少なくとも2種のみを併用する。同一のイミダゾール系でも、異なる2種を併用することにより、微生物に対して抗菌作用の相乗効果が得られ、特に、ベンゾイミダゾール環にチアゾリル基を有するものと、ベンゾイミダゾール環にカーバメート基を有するものと、を使用することが、顕著な相乗効果が得られることから好ましい。
チアゾリル基としては、例えば2−チアゾリル、4−チアゾリル、5−チアゾリルなどが例示できる。また、カーバメート基としては、このカーバメート基における炭化水素基が、例えば、メチル、エチル、n−2プロピル、iso−プロピル、などのアルキル基が好ましく、特にメチル基あるいはエチル基を有するものが特に好ましい。
具体的には、チアゾリル基を有するものとして、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾール(チアベンダゾール:Thiabendazole(TBZ))などが例示できる。また、カーバメート基を有するものとして、メチル−2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル(カルベンダジム:Carbendazim(BCM))、エチル−2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルなどが例示できる。特に、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールと、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルとは、熱的安定性が比較的に高く、特に樹脂成形体として利用することが容易であり、また例えばグレープフルーツやオレンジ、バナナなどの防かび剤(食品添加物)としても既に利用され、人体への影響が比較的に小さい材料として確認されたものであることから、特に好ましい。
【0035】
そして、これらイミダゾール系の有機系抗菌剤はハロゲンを含まないため、抗菌性組成物や抗菌性成形体を例えば焼却処理した場合であってもダイオキシンなどの有害物質が生成せず、環境への影響がなく好ましい。また、抗菌性組成物を樹脂材料に含有させて成形する場合に成形金型などの製造ラインにおける金属部品を腐食するなどの不都合が生じず、製造設備に特別な材料を用いた装置が不要で製造設備の簡略化や製造性の向上、装置コストの低減なども容易に得ることができるので好ましい。
また、これらイミダゾール系の有機系抗菌剤は実質的に水に不溶であるため、例えば雨露に曝されるなどの使用条件でも流れ落ちて長期間安定した抗菌性を提供できなくなるなどの不都合がない。さらに、基材や有機溶剤と良好に混合されて抗菌性を有した溶液として提供することが容易となり、さらには有機溶剤を除去後に被処理体の表面に例えば被膜として担持する抗菌性を有した基材として提供することが容易となり、汎用性の向上も容易に図ることができる。
【0036】
一方、無機系抗菌剤としては、亜酸化銅、銅粉、チオシアン酸銅、炭酸銅、塩化銅、硫酸銅、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、硫酸ニッケル、銅−ニッケル合金などの無機金属化合物や、リン酸ジルコニウム、金属を担持したゼオライト、またはその塩であるリン酸ジルコニウムなどを使用することができる。特に、金属として銀または銅を担持したリン酸ジルコニウムが好ましく、より好ましくは抗菌性の高い銀系抗菌剤である銀を担持したリン酸ジルコニウムを使用する。なお、銀系抗菌剤としては、担持した形態に限らず、金属単体の銀なども対象とすることができる。
銀や銅といった金属を担持したリン酸ジルコニウムやゼオライトは、人体への安全性に優れ、抗菌速度も速く抗菌性能に優れているとともに、リン酸ジルコニウムやゼオライトに貴金属である銀を担持させることによるコストの低減などが得られるために好ましい。
特に、銀担持リン酸ジルコニウムやゼオライトを利用する場合、酸化亜鉛を併用することがより好ましい。銀担持リン酸ジルコニウムと酸化亜鉛との併用により、銀担持リン酸ジルコニウム自体および酸化亜鉛自体の抗菌作用とともに、同一の無機系である無機系抗菌剤でも併用による抗菌作用の相乗効果が得られ、より顕著な抗菌性が得られることから好ましい。さらに、酸化亜鉛との併用により、銀担持リン酸ジルコニウムやゼオライトの含有量を低減でき、貴金属である銀の使用量の低減によりコストの低減も容易に得られるので好ましい。また、銀の酸化による変色を防ぐこともできる。
【0037】
そして、抗菌性組成物は、イミダゾール系の有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との配合割合を、質量比で1:1〜5:1、特に2:1とすることが好ましい。
ここで、有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との配合割合が質量比で1:1より有機系抗菌剤が少なくなると、少ないMIC値での抗菌スペクトルの拡大が得られなくなるおそれがある。一方、質量比で5:1より有機系抗菌剤が多くなると、無機系抗菌剤に比して初期抗菌性能が遅くなるおそれがある。このことから、ベンゾイミダゾール系の有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との配合割合を、質量比で1:1〜5:1とし、有機系抗菌剤や無機系抗菌剤自体の抗菌作用とともに、有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との併用による顕著な抗菌作用の相乗効果を適切に発揮させることが好ましい。
【0038】
また、イミダゾール系の有機系抗菌剤として、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールと、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルとを併用する場合、これらの配合割合を質量比で1:1〜5:1とすることが好ましい。
ここで、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールと、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルとの配合割合が質量比で1:1より2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールが少なくなる、あるいは5:1より2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールが多くなると、低いMIC値で抗菌作用を示す抗菌スペクトルの数が減少、すなわち抗菌性組成物の添加量が増大するおそれがある。このことから、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールと、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルとの配合割合を質量比で1:1〜5:1とすることが好ましい。
【0039】
さらに、無機系抗菌剤として、銀を担持したリン酸ジルコニウムやゼオライトと酸化亜鉛とを併用する場合、これらの配合割合を質量比で好ましくは1:1〜1:10、より好ましくは約1:2とする。
ここで、銀担持リン酸ジルコニウムやゼオライトと酸化亜鉛との配合割合が質量比で1:1より酸化亜鉛が少なくなると、貴金属である銀の使用量の低減による十分なコストの低減が得られにくくなる。また、銀の酸化による変色のおそれも考えられる。一方、質量比で1:10より酸化亜鉛が多くなると、銀による十分な抗菌作用が得られにくくなって、抗菌性組成物の添加量が増大するおそれがある。このことから、銀担持リン酸ジルコニウムやゼオライトと酸化亜鉛との配合割合を質量比で1:1〜1:10として、併用による顕著な抗菌作用の相乗効果を適切に発揮させることが好ましい。
【0040】
〔実施の形態の作用効果〕
このような本発明の水分散系表面処理剤では、ハロゲン基を有さず皮膚刺激性が陰性で安全性が高い少なくとも2種のイミダゾール系の有機系抗菌剤と、無機系抗菌剤とを併用した抗菌性組成物を含有している。このことにより、有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との併用による相乗効果で広い抗菌スペクトルを得ることができる。特に、同一のイミダゾール系でも2種の有機系抗菌剤、特にチアベンダゾールとカルベンダジムとの2種のみを併用することによる相乗効果を得ることができる。
このため、この抗菌性組成物を含有する溶剤系表面処理剤を、例えば刷毛塗りやロール塗り、スプレー塗布、浸漬や印刷など、各種方法により被処理体の表面に塗布などして有機溶剤を除去することで、抗菌スペクトルを広げるために化学的に異種な有機系抗菌剤を用いるという従来の公知知見からは全く予想できないイミダゾール系単一の抗菌剤の組み合わせにより著しく広い抗菌スペクトルを達成でき、かつ皮膚刺激性が陰性で、人体や環境に影響が極めて少ない本発明の抗菌性組成物を、基材により被処理体の表面に容易に安定して担持できる。したがって、仮に溶剤系表面処理剤が皮膚に付着したり、抗菌性組成物を含有する溶剤系表面処理剤を少なくとも表面に担持した被処理体に利用者や製造者が接触したりしても、かぶれるなどの人体に影響がなく、また焼却処理などの際にダイオキシンなどの有害物質が発生せず、環境汚染を良好に抑制でき、人体や環境に影響がなく安全性に優れた良好な抗菌作用を提供できる。さらに、2種のイミダゾール系の有機系抗菌剤自体および無機系抗菌剤自体の抗菌作用とともに、単独では繁殖を阻止できなかった菌類に対しても、有機系抗菌剤および無機系抗菌剤の併用による相乗効果の抗菌性を示し、低いMIC値でも格段に広い抗菌スペクトルが得られ、効率よく高い抗菌作用を容易に被処理体に発現させることができる。
【0041】
そして、抗菌性組成物のイミダゾール系の有機系抗菌剤として、ベンゾイミダゾール環にチアゾリル基を有するものとカーバメート基を有するものとの2種を併用するので、同一のイミダゾール系でも、人体や環境に影響がなく、かつ、相乗効果による低いMIC値でも格段に広い抗菌スペクトルが得られるという抗菌作用が容易に得られ、特にこれらの併用により顕著な抗菌性が得られる。
特に、ベンゾイミダゾール環にチアゾリル基を有する2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールと、カーバメート基を有する2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルとの2種を併用するので、併用による相乗効果にて顕著な抗菌性を発揮できる。さらに、これら2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールおよび2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルは、比較的に製造しやすく入手が容易で、既に利用されている材料で安全性が認められたものであることから、容易に利用でき、汎用性を向上できる。
【0042】
また、無機系抗菌剤として、イミダゾール系の有機系抗菌剤との相乗効果が得られる銀担持リン酸ジルコニウムと酸化亜鉛とのうちの少なくともいずれか一方を用いるので、顕著な抗菌性が容易に得られる。特に、銀担持リン酸ジルコニウムと酸化亜鉛とを併用することにより、銀担持リン酸ジルコニウム自体および酸化亜鉛自体による抗菌作用とともに、これら同一系である無機系抗菌剤でも、併用することで抗菌作用の相乗効果も得られ、より顕著な抗菌性を発揮できる。また、銀担持リン酸ジルコニウムと酸化亜鉛との併用により、抗菌性を損なうことなく、貴金属である銀の使用量を低減でき、コストをより容易に低減できる。
さらに、高い抗菌性を示す銀の使用形態として、リン酸ジルコニウムに銀を担持させた形態としている。このため、必要最小限の量で貴金属である銀による抗菌作用を発揮でき、無機系抗菌剤による抗菌作用および有機系抗菌剤との抗菌作用の相乗効果を効率よく発揮でき、コストをより容易に低減できる。
【0043】
〔実施の形態の変形例〕
なお、以上に説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的および効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。また、本発明を実施する際における具体的な構造および形状などは、本発明の目的および効果を達成できる範囲内において、他の構造や形状などとしても問題はない。
【0044】
すなわち、本発明の溶剤系表面処理剤として、あらかじめ有機溶剤、基材および抗菌組成物が混合された液状体に限らず、有機溶剤、基材および抗菌組成物をそれぞれ単独または二種以上を組み合わせて使用時などに混合して溶剤系表面処理剤を調製するなど、いずれの形態とすることができる。
また、被処理体の少なくとも表面へ担持する方法としては、刷毛塗りやロール塗り、スプレー塗布などの塗布、いわゆるどぶ付けや塗布などによる浸漬、インクジェットや凸版などによる印刷などに限られるものではなく、散布や、ナイフコーティングやスプレーコーティング、グラビアコーティング、フローコーティング、ダイコーティング、コンマコーティングなどの各種コーティング手段、あるいは、スクリーン印刷、パッド印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷などの各種印刷手段など、いずれの塗工方法を、被処理体の種類や目的に応じて適宜選択して利用することができる。
さらに、被処理体としては、上述したエアコンやカーエアコンの風路やドレン部位、洗濯機や冷蔵庫、食器乾燥機、便座、浄水器、トイレケース付きブラシなどの住宅設備機器、繊維製品(エプロン、布巾、病院制服、家具張地、カーテンなど)、まな板、水切り袋、風呂マットや風呂桶などの水廻り製品や風呂・台所などの水回り部位、内外装塗料、車両内装材、船底や車両、航空機などの外装、クーリングタワーの冷却水流路や用水路、花壇や花瓶、人工池、プールなどに広く適用することができる。
【0045】
また、イミダゾール系の有機系抗菌剤としては、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールと、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルとに限らず、上述した各種ベンゾイミダゾール系の組成物を組み合わせた構成として適用することができる。
さらに、各配合割合についても、利用部位や用途などに対応して適宜設定することができる。
【0046】
その他、本発明の実施における具体的な構造および形状などは、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造等としてもよい。
【実施例1】
【0047】
以下、実施例および比較例などを挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例などの内容に何ら限定されるものではない。
【0048】
〔実験1〕
(レザー表面処理剤)
本発明の溶剤系表面処理剤として、被処理体が皮革物であるレザー表面処理剤について、各成分で調製して、抗菌作用を確認した。
【0049】
(試料)
実施例1として、抗菌性組成物として、イミダゾール系の有機系抗菌剤として市販のチアベンダゾール(関東化学株式会社より試薬として入手)およびカルベンダジム(関東化学株式会社より試薬として入手)、無機系抗菌剤として銀担持リン酸ジルコニウム(東亞合成株式会社製 商品名;ノバロン)および酸化亜鉛(関東化学株式会社より試薬として入手)を、それぞれ33:33:6:28の割合として調製された抗菌性組成物を、有機溶剤としてのトルエンに2.8質量%で添加し、アジホモミキサ(プライミクス株式会社製、商品名;T.K.ロボミックス)により、平均粒径0.8μm以下(測定機;マイクロトラック MT3300(商品名) 日機装株式会社製)になるように攪拌混合し、抗菌分散液を調製する。この抗菌分散液1gを、基材である樹脂(大日精化工業株式会社製、商品名;レザロイド LU−4305SP)100gに対して添加し、ミキサ(プライミクス株式会社製、商品名;T.K.ロボミックス)で十分に攪拌混合し、レザー表面処理剤を調製した。
なお、使用した樹脂は、樹脂固形分が11質量%であり、調製したレザー表面処理剤では、抗菌性組成物0.028gに対して樹脂は11gとなり、総固形分中の抗菌性組成物の量は、0.25質量%となっている。
また、比較例1として実施例1に抗菌性組成物を添加せずに調製した処理剤、比較例2として実施例1の抗菌性組成物に代えて市販抗菌剤である実施例1で用いるチアベンダゾールを用いて調製した処理剤、比較例3として実施例1の抗菌性組成物に代えて実施例1で用いるカルベンダジムを用いて調製した処理剤、比較例4として実施例1の抗菌性組成物に代えて実施例1で用いる銀担持リン酸ジルコニウムと酸化亜鉛とを18:82の割合とした無機系抗菌剤を用いて調製した処理剤を用いた。
そして、実施例1および比較例1〜4を、合成皮革であるPVC(ポリ塩化ビニル)レザーと、合成皮革であるPU(ポリウレタン)レザーとに、それぞれバーコートにより100g/m2−wetで塗布し、100℃で5分間熱風乾燥した後、常温で3時間放置し、試験片とした。
【0050】
(評価方法)
(1)無機塩培地の調製
表7に示す無機塩培地を調製し、これを121℃で20分間オートクレーブ殺菌後、苛性ソーダ水溶液(NaOH水溶液)によりpHが6.0〜6.5となるように調整した。
【0051】
【表7】

【0052】
(2)混合胞子液の調製
以下の表8に示した菌株(77混合菌種)からなるカビの胞子を減菌水に懸濁させ、ろ過して濃度が約1×106cell/mlの混合胞子液を調製した。なお、胞子の懸濁には、ラウリル硫酸ナトリウムを用いて分散を行うようにした。
【0053】
【表8】

【0054】
(3)評価の方法
(1)で調製した無機塩培地に(2)で調製した混合胞子液をまいた後、その上からあらかじめ作製した試験片を乗せ、それぞれを載せた後、温度を28℃、湿度を85%RH以上とした状態で28日間カビを培養させた。そして、カビの生育状況を目視で確認し、表9に示す判定基準を用いて評価した。その結果を表10に示す。
【0055】
【表9】

【0056】
【表10】

【0057】
(評価結果)
表10に示すように、2週間培養後では、有機系抗菌剤を用いた比較例2および比較例3は、無機抗菌剤を用いた比較例4より多少の抗菌作用が認められ、4週間培養後では、抗菌剤を含有しない比較例1では試験片の全面に対して60%以上でカビが繁殖し、抗菌剤を含有した比較例2ないし比較例4は、共に試験片の全面に対して30%〜60%でカビが繁殖しており、有機系抗菌剤のみや無機系抗菌剤のみでは十分に防カビ性が認められなかった。一方、本発明の水分散系表面処理剤を木材用抗カビ防腐処理剤として調製した実施例1のものでは、4週間の培養後でもカビの発育は全く見られず、明確に強い防かび性を発揮することが認められた。
【実施例2】
【0058】
〔実験2〕
(用水路、人工池用防藻処理剤)
本発明の水分散体として、被処理体が用水路や人工池、河川人工床などの水辺部位用の表面被覆処理剤としての防藻処理剤について、各成分で調製して、防藻作用を確認した。
【0059】
(試料)
実施例2として、実施例1の抗菌性組成物を、5質量%となる状態にトルエンへ添加し、アジホモミキサ(プライミクス株式会社製、商品名;T.K.ロボミックス)により、実験1と同様に平均粒径0.8μm以下となるように攪拌混合し、水分散系表面処理剤を調製した。この水分散系表面処理剤10gを、基材である合成樹脂(大日本インキ化学工業株式会社製、商品名;アクリディックA−186)90gに対して添加し、ミキサ(プライミクス株式会社製、商品名;T.K.ロボミックス)で十分に攪拌混合し、水辺部位用の表面被覆処理剤としての防藻処理剤を調製した。
また、比較例5として実施例2で使用した実施例1の抗菌性組成物に代えて実験1のチアベンダゾールを用いて調製した表面処理剤、比較例6として実施例2で使用した実施例1の抗菌性組成物に代えて実験1のカルベンダジムを用いて調製した表面処理剤、比較例7として実施例2で使用した実施例1の抗菌性組成物に代えて実験1の銀担持リン酸ジルコニウムと酸化亜鉛とを17.5:82.5の割合とした無機系抗菌剤を用いて調製した表面処理剤、比較例8として実施例1の抗菌性組成物や比較例5〜7などの各種抗菌剤を用いずに調製した表面処理剤を用いた。
そして、実施例2および比較例5〜8を、以下の表11に示す配合により作製した30cm角のモルタル片に80g/m2−wetでそれぞれ刷毛塗りし、十分に乾燥させて試験片とした。また、モルタル片に何も塗布していないものを、比較例9とした。
【0060】
【表11】

【0061】
(評価方法)
上述の試験片を、人工池(出光興産株式会社 中央研究所内)内に、約2ヶ月間浸漬し、表面の藻生育状態を確認した。この藻生育状態としては、試験片の表面30cm四方に繁茂した藻の乾燥質量を測定し、比較した。
また、試験片の表面に繁茂した藻一株と基材との密着強さを測定した。この密着強さは、長く伸びた藻の根元を文具用の目玉クリップ(商品名、コクヨ株式会社製)で挟み、ばね式手秤(商品名、株式会社三光精衡所製)により、藻が抜ける際の力を重さの目盛値で読み取った。これらの結果を表12に示す。
【0062】
【表12】

【0063】
表12に示すように、比較例7〜9では、防藻性はほとんど認められなかったが、有機系の抗菌剤を用いた比較例5および比較例6の方が、防藻性が高いことが認められた。一方、本発明の防藻処理剤として調製した実施例2では、藻生育が比較例5〜比較例9に比して極めて抑制されており、藻の付着強さも極めて弱かった。このため、実施例2では、藻の定着性・繁殖性を抑制し、藻が発生しても容易に除去でき、例えばプールや用水路、人工池などに利用した場合の清掃が容易であることがわかる。また、実施例2では、藻の生育状態や密着強さについても、比較例5および比較例6の防藻性と、比較例7の防藻性との双方を加味した防藻性より良好で、2種の有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との防藻性の相乗効果があることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤を分散媒体とし、この有機溶剤に溶解された樹脂および分散剤のうちの少なくともいずれか一方の基材と、
イミダゾール系の有機系抗菌剤から選ばれた少なくとも2種、および無機系抗菌剤を含有する抗菌性組成物と、を含有した
ことを特徴とした分散体。
【請求項2】
請求項1に記載の分散体であって、
被処理体の表面を処理する
ことを特徴とした分散体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の分散体であって、
前記基材は、前記被処理体の表面の活性化を促す材料である
ことを特徴とした分散体。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の分散体であって、
前記基材は、接着剤である
ことを特徴とした分散体。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の分散体であって、
前記抗菌性組成物は、平均1μm以下の粒径に粒度調整された
ことを特徴とした分散体。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の分散体であって、
前記イミダゾール系の有機系抗菌剤から選ばれた2種は、ベンゾイミダゾール環にチアゾリル基を有するものと、ベンゾイミダゾール環にカーバメート基を有するものとである
ことを特徴とした分散体。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の分散体であって、
前記無機系抗菌剤は、銀系抗菌剤と酸化亜鉛とのうちの少なくともいずれか一方である
ことを特徴とした分散体。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の分散体であって、
塗布可能に調製された
ことを特徴とした分散体。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の分散体が前記被処理体の表面に被膜形成可能に調製された
ことを特徴とした表面被覆処理剤。
【請求項10】
請求項9に記載の表面被覆処理剤であって、
前記被処理体は、木材、床材、合板、水回り用品、飼料容器、船底、皮製品、合皮製品、壁紙、空調装置の空調風路を構成する空調風路部材、鉄鋼製品、アルミサッシ、ハウスラップ、屋根材、繊維製品、断熱材、台所用品、トイレ用品、用水路、人工池のいずれかである
ことを特徴とした表面被覆処理剤。
【請求項11】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の分散体が前記被処理体としての皮革物の少なくとも表面に担持可能に調製された
ことを特徴としたレザー表面処理剤。

【公開番号】特開2007−211004(P2007−211004A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−2573(P2007−2573)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(500242384)出光テクノファイン株式会社 (55)
【Fターム(参考)】