説明

分散型電源の安定化制御方式

【課題】より簡便な安定化制御装置に構成して、合成出力の平滑化の評価指標を満たしながら電力貯蔵装置の設備容量を低減できる。
【解決手段】 変化率リミッタ8は、自然エネルギー電源1の発電出力の変化を単位時間当たりの出力変動幅で決定される一定の傾きに制限する。この制限により、平滑化の評価指標である一定の時間幅における出力変動幅の評価指標を完全に満たしながら、一次遅れフィルタや移動平均による方法で見られるような過剰な平滑化を回避する。また、電力貯蔵装置のkW容量の比率に依存せず、簡易に電力貯蔵装置のkW容量を最小限にする最適な制御動作を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光発電や風力発電等の自然エネルギーを利用した自然エネルギー電源を設備した分散型電源に係り、特に自然エネルギー電源の発電出力の変動を電力貯蔵装置の出力との合成により平滑化する分散型電源の安定化制御方式に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光発電や風力発電等の天候により発電出力が大きく変動する自然エネルギー利用型の分散型電源の利用拡大が求められており、特に風力発電は大規模なウィンドファームが各所に建設され、電力系統の安定度維持に影響を与えるとして連系可能容量が制限されるなどの間題が顕在化している。また、一部の一般電気事業者では新設の風力発電機に対して、電力貯蔵装置等により発電出力を安定化することが系統連系の条件として提示された。
【0003】
このような背景の元、自然エネルギー利用型の分散型電源に電力貯蔵装置を併設し、発電出力の変動を平滑化する技術が各所で検討されている。平滑化の評価指標については、自然エネルギー電源と電力貯蔵装置の出力を足し合わせた合成出力に対して許容される変動の大きさを定義する評価窓で評価する事が多い。この評価窓による評価は、ある任意の時間から始まる一定の時間の最大値と最小値の差が出力変動幅として評価される場合には、指定された時間長の幅と指定された出力変動幅の高さを持った「評価窓」を定義し、出力変動の大きさがこの評価窓の中に収まれば条件を満たしていると判断する。
【0004】
前記の一般電気事業者による風力発電機に対する系統連系要件もこの「評価窓」を指標として評価されている。出力変動幅の評価指標のイメージを図15に示し、自然エネルギー電源出力の変化に対して、合成出力(送電出力)の変動(評価窓の大きさ)で評価される。
【0005】
出力変動平滑化に関する既存の技術については、ローパスフィルタにより自然エネルギー電源の発電出力を平滑化して合成出力(送電出力)の目標値とする方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
その他、自然エネルギー電源の過去の発電出力を移動平均して合成出力の目標値を生成する方法も考えられる。
【特許文献1】特開2005−318615号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電力貯蔵装置を利用して自然エネルギー電源の発電出力を平滑化する技術においては、初期コストの低減の観点から電力貯蔵装置の設備容量をできる限り小さく抑えることが望ましい。電力貯蔵装置の設備容量としてはkW容量(電力容量)とkWh容量(電力量容量)があり、kW容量は自然エネルギー電源の出力と合成出力の偏差から必要kW容量が決まり、kWh容量はkW偏差の積算により必要kWh容量が決まる。したがって、合成出力を所望の平滑化の指標の中に収めることと、電力貯蔵装置の設備容量を小さく抑える事はトレードオフの関係にあり、いかにして合成出力の目標値を決定するかが重要である。
【0008】
平滑化の指標を満たす上で最も厳しい条件である、自然エネルギー電源の発電出力が定格100%の状態から0%に急変した場合の例をとって合成出力目標値の決定方法の得失を比較する。評価指標として一般電気事業者により提示された「20分間に10%の出力変動幅とする」との制約を当てはめた例を示す。
【0009】
始めに、一次遅れフィルタ(ローパスフィルタ)により合成出力目標値を生成する方法では、図16に示すとおり、完全に評価指標を満たすためには200分程度の時定数を設定する必要があり、発電出力が急変した初期以降は過剰に平滑化した運用となってしまう。
【0010】
次に、移動平均により合成出力目標値を生成する方法では、図16に示した例では過剰な補償は発生しないが、図17に示すような例では発電出力が再び増加した後に過剰に平滑化した運用となる可能性がある。
【0011】
前記の特許文献1ではこのような問題を回避するために、一次遅れフィルタの時定数を可変として大きな出力変動に速やかに追従するために時定数を小さくする方法を提案している。しかし、この方法では電力貯蔵装置の設備容量を小さく抑えることは可能であるが、評価指標を完全に満たすことはできない。
【0012】
ところで、図16や図17に例示した事例は頻繁に発生するものではないため、時定数を可変とする方法でも評価指標を満たすことと、電力貯蔵装置の設備容量を小さく抑えることの両立は可能とも言える。しかし、時定数を可変とする方法では、自然エネルギー電源の設備容量(kW容量)に対する電力貯蔵装置の設備容量(kW容量)の比率に応じて、比率が小さい場合には時定数を小さくすることが望ましく、比率が大きくなるに従って時定数を大きくする必要があるなど、電力貯蔵装置の設備容量に応じて時定数を適宜、最適な値に設定する必要がある。これは実際の運用時において、設備メンテナンス等により利用可能な電力貯蔵装置の設備容量が変化した場合に、時定数の設定方法を変える必要があることを示唆する。
【0013】
以上より、本発明の目的は、より簡便な安定化制御装置に構成して、合成出力の平滑化の評価指標を満たしながら電力貯蔵装置の設備容量を低減できる分散型電源の安定化制御方式を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前記の課題を解決するため、以下の方式を特徴とする。
【0015】
(1)自然エネルギーを利用して発電する自然エネルギー電源と、双方向電力変換装置により充放電電力を制御できる電力貯蔵装置と、前記自然エネルギー電源の発電出力の変動を前記電力貯蔵装置の充放電制御した出力との合成により平滑化させる制御装置とを備えた分散型電源の安定化制御方式であって、
前記制御装置は、
前記自然エネルギー電源の発電出力の変化を単位時間当たりの出力変動幅で決定される一定の傾きに制限する変化率リミッタを設け、
前記変化率リミッタの出力を前記自然エネルギー電源の発電出力と前記電力貯蔵装置の出力との合成出力目標値とすることを特徴とする。
【0016】
(2)自然エネルギーを利用して発電する自然エネルギー電源と、双方向電力変換装置により充放電電力を制御できる電力貯蔵装置と、前記自然エネルギー電源の発電出力の変動を前記電力貯蔵装置の充放電制御した出力との合成により平滑化させる制御装置とを備えた分散型電源の安定化制御方式であって、
前記制御装置は、
前記自然エネルギー電源の発電出力を平滑化する一次遅れフィルタと、
前記一次遅れフィルタを通した前記自然エネルギー電源の発電出力の変化を単位時間当たりの出力変動幅で決定される一定の傾きに制限する変化率リミッタを設け、
前記変化率リミッタの出力を前記自然エネルギー電源の発電出力と前記電力貯蔵装置の出力との合成出力目標値とすることを特徴とする。
【0017】
(3)自然エネルギーを利用して発電する自然エネルギー電源と、双方向電力変換装置により充放電電力を制御できる電力貯蔵装置と、前記自然エネルギー電源の発電出力の変動を前記電力貯蔵装置の充放電制御した出力との合成により平滑化させる制御装置とを備えた分散型電源の安定化制御方式であって、
前記制御装置は、
前記自然エネルギー電源の発電出力の過去の移動平均を求める移動平均処理回路と、
前記移動平均処理回路を通した前記自然エネルギー電源の発電出力の変化を単位時間当たりの出力変動幅で決定される一定の傾きに制限する変化率リミッタを設け、
前記変化率リミッタの出力を前記自然エネルギー電源の発電出力と前記電力貯蔵装置の出力との合成出力目標値とすることを特徴とする。
【0018】
(4)自然エネルギーを利用して発電する自然エネルギー電源と、双方向電力変換装置により充放電電力を制御できる電力貯蔵装置と、前記自然エネルギー電源の発電出力の変動を前記電力貯蔵装置の充放電制御した出力との合成により平滑化させる制御装置とを備えた分散型電源の安定化制御方式であって、
前記制御装置は、
前記自然エネルギー電源の発電出力の過去の一定時間における中間値を求める中間値算出器と、
前記中間値算出器を通した前記自然エネルギー電源の発電出力の変化を単位時間当たりの出力変動幅で決定される一定の傾きに制限する変化率リミッタを設け、
前記変化率リミッタの出力を前記自然エネルギー電源の発電出力と前記電力貯蔵装置の出力との合成出力目標値とすることを特徴とする。
【0019】
(5)前記制御装置は、前記電力貯蔵装置の充電状態を一定値に制御するSOC制御手段を設け、このSOC制御手段の出力で前記変化率リミッタの入力になる発電出力を補正することを特徴とする。
【0020】
(6)前記SOC制御手段は、前記電力貯蔵装置の充電状態(SOC)の目標値と検出値との偏差が大きくなるほど、該偏差の増幅ゲインを大きくする非線形ゲイン設定要素を設けたことを特徴とする。
【0021】
(7)前記制御装置は、前記変化率リミッタで求める前記合成出力目標値と、前記自然エネルギー電源の発電出力と前記電力貯蔵装置の出力との合成出力の検出値とから、前記電力貯蔵装置の充放電制御をする充放電制御手段を備えたことを特徴とする。
【0022】
(8)前記変化率リミッタは、前記自然エネルギー電源の発電出力と前記電力貯蔵装置の充放電制御した出力との合成出力の上限値、下限値の範囲を規定する上下限制限値設定手段を設けたことを特徴とする。
【0023】
(9)前記一次遅れフィルタは、前記合成した出力の平滑化の評価指標になる評価時間幅程度またはその数倍程度の時定数とすることを特徴とする。
【0024】
(10)前記変化率リミッタは、前記自然エネルギー電源の発電出力と前記電力貯蔵装置の充放電制御した出力との合成出力の上限値、下限値の範囲を規定する上下限制限値設定手段を設け、
前記SOC制御手段は、その内部演算値が前記変化率リミッタの上下限制限値を超えない値にした上下限値を求める上下限制限値演算手段を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
以上のとおり、本発明によれば、自然エネルギー電源の発電出力の変化を単位時間当たりの出力変動幅で決定される一定の傾きに制限する変化率リミッタによって合成出力目標値を求めるため、より簡便な安定化制御装置に構成して、合成出力の平滑化の評価指標を満たしながら電力貯蔵装置の設備容量を低減できる。
【0026】
具体的には、変化率リミッタによる制限によって、自然エネルギー電源の発電出力を一次遅れフィルタや移動平均によって平滑化する従来の方法に比べて、過剰な平滑化を回避できる。また、自然エネルギー電源のkW容量と電力貯蔵装置のkW容量の比率に依存することなく、簡易に電力貯蔵装置のkW容量を最小限にする最適な制御動作を得ることができる。
【0027】
また、自然エネルギー電源の発電出力検出値から合成出力目標値を生成する際に、発電出力を一次遅れフィルタ又は過去の移動平均を求める処理回路により平滑化した後に変化率リミッタの入力とすることにより、自然エネルギー電源の発電出力が大きく、かつ評価時間幅と同程度の短い時間で周期的に変動した場合においても合成出力目標値を自然エネルギー電源の平均的な値に維持して、電力貯蔵装置のkW容量およびkWh容量を必要最小限に抑えることが可能となる。
【0028】
また、自然エネルギー電源の発電出力の過去の一定時間における中間値を変化率リミッタの入力とすることにより、自然エネルギー電源の発電出力が、周期的なスパイク状の変動を発生する特性を有する場合において、電力貯蔵装置のkW容量を小さく抑えることが可能となる。
【0029】
また、電力貯蔵装置の充電状態を一定値に制御するSOC制御手段を設け、このSOC制御手段の出力で変化率リミッタの入力になる発電出力を補正することにより、電力貯蔵装置が充電末や放電末に達して出力変動緩和の機能が損なわれることを回避することができる。また、電力貯蔵装置の不必要な過充電や過放電によって生じる劣化を回避することができる。さらに、電力貯蔵装置のSOCを一定に維持することで、電力貯蔵装置のkWh容量を低く抑えることが可能となる。さらにまた、電力貯蔵装置のkW容量、kWh容量の活用可能な資源を広範囲に有効に活用することが可能となる。
【0030】
また、電力貯蔵装置が充電末や放電末に近づくほどSOC制御系の制御ゲインを大きくする非線形ゲイン設定要素を設けることにより、電力貯蔵装置が充電末や放電末に達して出力変動緩和の機能が損なわれないようにする効果を更に高めることができる。また、電力貯蔵装置の不必要な過充電や過放電によって生じる劣化を回避する効果を更に高めることができる。
【0031】
また、変化率リミッタで求める合成出力目標値と、自然エネルギー電源の発電出力と電力貯蔵装置の出力との合成出力の検出値とから、電力貯蔵装置の充放電制御をすることにより、合成出力の出力変動緩和に関する評価指標をより確実に満たすことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
(実施形態1)
本実施形態は、平滑化の評価指標である一定の時間幅における出力変動幅の評価指標を完全に満たしながら、一次遅れフィルタや移動平均による方法で見られるような過剰な平滑化を回避するため、自然エネルギー電源の発電出力検出値から変化率リミッタを通すことで、傾き一定の合成出力目標値を得る。
【0033】
図1は、本実施形態を示す分散型電源の要部回路構成図である。分散型電源の主回路構成は、太陽光発電や風力発電等の自然エネルギー電源1の発電電力を変圧器2を通して出力し、この発電出力に同期させて、電力貯蔵装置3と双方向電力変換装置4および変圧器5によって平滑化電力を出力し、発電出力と平滑化電力の合成電力を変圧器6から電力系統への連系出力とする。
【0034】
自然エネルギー電源1の発電出力を平滑化するための電力貯蔵装置3の充放電制御を説明する。有効電力検出器7は自然エネルギー電源1の発電出力のうちの有効分を検出し、この有効分は変化率リミッタ8を通して合成出力目標値を得る。変化率リミッタ8は発電出力の変化を一定の傾きに制限する機能を有する。変化率リミッタ8の傾きの制限値は評価指標から決定される単位時間当たりの出力変動幅から決定する。引き算器9は、変化率リミッタ8に得られた合成出力目標値から自然エネルギー電源1の発電出力を引き算し、これを平滑化に必要な電力貯蔵装置3の充放電指令値とする。この指令値は、正の値となった場合には合成出力目標値の方が発電出力より大きくなるため、電力貯蔵装置3から放電する指令値になる。負の値となった場合には合成出力目標値の方が発電出力より小さくなるため、電力貯蔵装置3を充電する指令値になる。
【0035】
電力貯蔵装置3の充放電は充放電制御器10により双方向電力変換器4の入出力電力を制御することで実現される。双方向電力変換器4の入出力電力は有効電力検出器11により有効分で検出する。
【0036】
なお、電力系統への合成出力の上限値、下限値の範囲が規定される場合には、変化率リミッタ8に上下限制限を加える必要がある。この場合、図2に示すように、変化率リミッタ8の出力が制限値(図示では上限値)に達した後、変化率リミッタ8への入力が制限値を再び下回った際に速やかに出力変化を開始できるような処理回路に構成する。
【0037】
図3は変化率リミッタ8をアナログ演算で実現した場合のブロック図を示し、図4は変化率リミッタ8をデジタル演算で実現した場合のブロック図を示す。これらの図において、上昇方向の変化率をRI、下降方向の変化率をRD、上限制限値をH、下限制限値をLで示す。
【0038】
図5は、変化率リミッタによる合成出力目標値のイメージを示し、自然エネルギー電源の発電出力が100%から0%まで急激に低下し、その後に50%に急激に変化した場合にも、合成出力目標値は常に評価指標を満たしながら変化する。
【0039】
したがって、本実施形態によれば、評価指標である一定時間の間の合成出力変動幅を一定値以下に変化率リミッタで制限するため、自然エネルギー電源の発電出力を一次遅れフィルタや移動平均によって平滑化する従来の方法で見られる、過剰な平滑化を回避することができる。
【0040】
また、一次遅れフィルタの時定数を可変として電力貯蔵装置のkW容量、kWh容量を低減する従来の方法では、自然エネルギー電源のkW容量と電力貯蔵装置のkW容量の比率に応じて時定数を最適値に調整する必要があるが、本実施形態ではkW容量の比率に依存せず、簡易に電力貯蔵装置のkW容量を最小限にする最適な制御動作を得ることができる。
【0041】
(実施形態2)
実施形態1では自然エネルギー電源の発電出力が大きく、評価時間幅と同程度の短い時間で周期的に変動した場合に合成出力目標値が大きな方向、または小さな方向に偏る可能性がある。合成出力目標値が上方向または下方向に偏ると電力貯蔵装置は充電方向または放電方向に偏った補償を行うことになる。したがって、電力貯蔵装置の充電方向または放電方向に補償可能なkW容量が同一である場合にはkW容量を有効に活用できず、また大きな貯蔵容量(kWh容量)も必要となる。
【0042】
このような不都合が発生した場合のイメージを図6に示す。この問題は、一次遅れフィルタや移動平均により合成出力目標値を決定する方法についても同様に発生する。
【0043】
電力貯蔵装置は充電方向または放電方向に補償が可能であることから、自然エネルギー電源の発電出力の平均的な値を合成出力目標値とすると、電力貯蔵装置のkW容量を有効活用でき必要kWh容量も低く抑える事が可能であり、電力貯蔵装置の設備容量低減の観点から望ましい運用を行うことができる。
【0044】
そこで、本実施形態では、自然エネルギー電源の発電出力検出値から合成出力目標値を生成する際に、発電出力を一次遅れフィルタにより平滑化した後に変化率リミッタを通して合成出力目標値を生成する。これにより合成出力目標値が自然エネルギー電源の短周期の大きな変動に対して中間的な値をとることができる。
【0045】
本実施形態の要部回路構成図を図7に示す。自然エネルギー電源の発電出力検出値を変化率リミッタ8に入力する前に、一次遅れフィルタ12により平滑化する。この部分以外は、実施形態1と同様の回路構成である。一次遅れフィルタ12の時定数は評価時間幅程度またはその数倍程度の時定数とする。
【0046】
実現される合成出力目標値のイメージを図8に示す。時定数の小さな一次遅れフィルタ12による処理によって、変化率リミッタ8により生成される合成出力目標値は短い周期の大きな出力変動に対して平均的な値に速やかに収束し、これを維持することが可能となる。
【0047】
したがって、本実施形態によれば、実施形態1により得られる効果に加えて、自然エネルギー電源の発電出力が大きく、かつ評価時間幅と同程度の短い時間で周期的に変動した場合においても合成出力目標値を自然エネルギー電源の平均的な値に維持して、電力貯蔵装置のkW容量およびkWh容量を必要最小限に抑えることが可能となる。
【0048】
(実施形態3)
本実施形態は、実施形態2の一次遅れフィルタ12を過去の移動平均を求める処理回路に置き換える。なお、移動平均時間は実施形態2と同等程度の時間とする。
【0049】
本実施形態の要部回路構成図および移動平均処理回路の一例を図9に示す。移動平均処理回路13の移動平均は、サンプリング時間Ts秒で離散値として計測された値を複数段(N段)に直列接続された遅延演算子Z−1を通して得られた、(N+1)個の(N×Ts)秒間の値を足し算し(N+1)で割ることで過去(N×Ts)秒間の平均値をとる処理方法である。
【0050】
したがって、本実施形態によれば、移動平均処理回路13が一次遅れフィルタ12と同様のフィルタ処理になり、実施形態2と同様に、電力貯蔵装置のkW容量およびkWh容量を必要最小限に抑えることが可能となる。
【0051】
(実施形態4)
実施形態2の一次遅れフィルタ処理、実施形態3の移動平均処理では、図10に示すように、発電出力の大きな時間帯と小さな時間帯の時間長に大きな差がある場合に、合成出力目標値が一方に偏る可能性がある。電力貯蔵装置の充電方向または放電方向に補償可能なkW容量が同一である場合には実施形態2で示した問題点と同様の問題が発生する。
【0052】
本実施形態は、上記のような問題を回避するため、自然エネルギー電源の発電出力の過去の一定時間における中間値を変化率リミッタの入力とする。
【0053】
本実施形態の要部回路構成図および中間値算出器の一例を図11に示す。中間値算出器14はサンプリング時間Ts秒で離散値として計測された値を複数段(N段)に直列接続された遅延演算子Z−1を通して得られた、(N+1)個の(N×Ts)秒間の値の中から最大値と最小値をそれぞれ検索し、最大値と最小値の平均値をとる。
【0054】
したがって、本実施形態によれば、自然エネルギー電源の発電出力が、周期的なスパイク状の変動を発生する特性を有する場合において、電力貯蔵装置のkW容量を小さく抑えることが可能となる。
【0055】
(実施形態5)
電力貯蔵装置は充電できる電力量(kWh)に限りがある。すなわち、電力貯蔵装置が充電末に達した場合にはそれ以上の充電は行えず、電力貯蔵装置が放電末に達した場合にはそれ以上の放電を行うことができない。電力貯蔵装置の充電状態はSOC(満充電の状態で100%、全て放電された状態で0%)で表される。自然エネルギー電源の出力変動緩和では、常に充電方向または放電方向の補償が可能な状態を維持する必要があることから、SOCが100%または0%に達することを避ける必要がある。また、電力貯蔵装置の特性によって利用可能なSOC範囲が規定される場合はその範囲を維持する必要がある。
【0056】
ここで、電力貯蔵装置のSOCを一定値に維持する制御機能を追加することで、電力貯蔵装置が充電末や放電末に達して出力変動緩和の機能が損なわれることを回避すると共に、不用意な過充電や過放電による電力貯蔵装置の劣化を回避することが可能となる。一方で出力変動緩和の機能は維持する必要がある。
【0057】
これらの要求を両立させるため、本実施形態では、電力貯蔵装置のSOCを一定に維持するためのSOC制御は変化率リミッタによる最終的な合成出力目標値の設定の前段階で行う。
【0058】
本実施形態の要部回路構成図を図12に示す。平均化処理回路15は、一次遅れフィルタまたは移動平均または中間値算出器のいずれかとする。SOC検出器16は電力貯蔵装置3のSOCが直流電圧などから直接計測可能な場合はSOC計測値そのものを出力し、直接計測できない場合は入出力電流の積分値からSOCを計算し出力する。引き算器17はSOC検出値とSOC目標値の差を求め、SOC制御器18はSOC検出値がSOC目標値より小さい場合は充電方向の補償を、SOC検出値がSOC目標値より大きい場合は放電方向の補償を行うようにした発電出力補正値を出力する。
【0059】
SOC制御器18は比例・積分制御(PI制御)または比例制御(P制御)で構成し、制御応答速度は出力変動緩和の機能を阻害せず、利用可能なSOC範囲を有効に使える程度に緩やかなものとする。引き算器19は、SOC制御器18からの発電出力補正値を平均化処理後の発電出力値から引き算し、この引き算により、充電によりSOCを増加させたい場合には見かけ上の発電出力を小さくする補正を行い、放電によりSOCを低下させたい場合には見かけ上の発電出力を大きくする補正を行う。
【0060】
なお、合成出力の上限値、下限値の範囲が規定される場合には、変化率リミッタ8に上下限制限を加えると共に、SOC制御器18の内部演算値にも上下限制約を加える必要がある。さらに、SOC制御器18の内部演算値の上下限制限は変化率リミッタ8の上下限制限を考慮して適宜変更する必要がある。
【0061】
特に、SOC制御器18にPI制御器等の内部に積分演算を有する制御法演算を適用した場合には、変化率リミッタ8の上下限制限値を超える内部演算値の積算が発生する可能性がある。これを回避するため、SOC制御器18の上限値HCは変化率リミッタの上限値Hと平均化処理後の発電出力P’を用いて、HC=H−P’とし、SOC制御器18の下限値LCは変化率リミッタの下限値Lと平均化処理後の発電出力P’を用いて、LC=P’−Lとする。
【0062】
したがって、本実施形態によれば、実施形態1〜4において電力貯蔵装置が充電末や放電末に達して出力変動緩和の機能が損なわれることを回避することができる。また、電力貯蔵装置の不必要な過充電や過放電によって生じる劣化を回避することができる。さらに、電力貯蔵装置のSOCを一定に維持することで、電力貯蔵装置のkWh容量を低く抑えることが可能となる。さらにまた、電力貯蔵装置のkW容量、kWh容量の活用可能な資源を広範囲に有効に活用することが可能となる。
【0063】
(実施形態6)
本実施形態は、実施形態5の構成において、電力貯蔵装置が充電末や放電末に達して出力変動抑制の機能が損なわれることを回避すると共に、不用意な過充電や過放電による電力貯蔵装置の劣化を回避する機能を更に向上するため、SOC目標値とSOC検出値の偏差が大きく、電力貯蔵装置が充電末や放電末に近づくほどSOC制御系の制御ゲインを大きくする非線形ゲイン設定要素を設ける。
【0064】
本実施形態の要部回路構成図を図13に示し、図12と異なる部分は、非線形ゲイン特性にした増幅器20をSOC制御系に介挿し、引き算器17の出力が大きくなるほど、つまりSOCの目標値と検出値との偏差が大きくなるほど、該偏差のゲインを大きくした指令値をSOC制御器18に印加する。
【0065】
したがって、本実施形態によれば、実施形態5により得られる効果のうち、電力貯蔵装置が充電末や放電末に達して出力変動緩和の機能が損なわれないようにする効果を更に高めることができる。また、実施形態5により得られる効果のうち、電力貯蔵装置の不必要な過充電や過放電によって生じる劣化を回避する効果を更に高めることができる。
【0066】
(実施形態7)
実施形態1〜6において、電力貯蔵装置の充放電制御器を、電力系統との連系点の有効電力を検出してこれが合成出力目標値に一致するように制御することで合成出力の出力変動緩和に関する評価指標をより確実に満たすことが可能となる。更に、所内に補機等の変動する負荷設備を有する場合においてもこれを含めた補償が可能となる。
【0067】
そこで、本実施形態は、実施形態6に適用した場合を例にとって図14に要部回路構成図を示すように、充放電制御器10に入力する有効電力検出値を、実施形態6における有効電力検出器11に代えて、変圧器6を通した自然エネルギー電源の発電出力と電力貯蔵装置の出力との合成出力の有効分を検出する有効電力検出器21を設ける。なお、実施形態1〜5についても同様の回路構成とする。
【0068】
したがって、本実施形態によれば、電力貯蔵装置の充放電制御器を、電力系統との連系点の合成出力の有効分を検出してこれが合成出力目標値に一致するように制御することで、合成出力の出力変動緩和に関する評価指標をより確実に満たすことが可能となる。
【0069】
特に、所内に補機等の変動する負荷設備を有する場合においてもこれを含めた合成出力の出力変動緩和を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施形態1の要部回路構成図。
【図2】変化率リミッタに上下限制限を加えたイメージ。
【図3】変化率リミッタ8のアナログ演算ブロック図。
【図4】変化率リミッタ8のデジタル演算ブロック図。
【図5】合成出力目標値のイメージ。
【図6】問題が発生した場合のイメージ。
【図7】実施形態2の要部回路構成図。
【図8】合成出力目標値のイメージ。
【図9】実施形態3の要部回路構成図および移動平均処理回路。
【図10】問題が発生した場合のイメージ。
【図11】実施形態4の要部回路構成図および中間値算出器。
【図12】実施形態5の要部回路構成図。
【図13】実施形態6の要部回路構成図。
【図14】実施形態7の要部回路構成図。
【図15】評価指標のイメージ。
【図16】発電出力が急変した場合の合成出力目標値のイメージ。
【図17】発電出力が再び増加した場合の合成出力目標値のイメージ。
【符号の説明】
【0071】
1 自然エネルギー電源
3 電力貯蔵媒体
4 双方向電力変換装置
7、11 有効電力検出器
8 変化率リミッタ
10 充放電制御器
12 一次遅れフィルタ
13 移動平均処理回路
14 中間値算出器
15 平均化処理回路
16 SOC検出器
18 SOC制御器
20 非線形ゲイン増幅器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自然エネルギーを利用して発電する自然エネルギー電源と、双方向電力変換装置により充放電電力を制御できる電力貯蔵装置と、前記自然エネルギー電源の発電出力の変動を前記電力貯蔵装置の充放電制御した出力との合成により平滑化させる制御装置とを備えた分散型電源の安定化制御方式であって、
前記制御装置は、
前記自然エネルギー電源の発電出力の変化を単位時間当たりの出力変動幅で決定される一定の傾きに制限する変化率リミッタを設け、
前記変化率リミッタの出力を前記自然エネルギー電源の発電出力と前記電力貯蔵装置の出力との合成出力目標値とすることを特徴とする分散型電源の安定化制御方式。
【請求項2】
自然エネルギーを利用して発電する自然エネルギー電源と、双方向電力変換装置により充放電電力を制御できる電力貯蔵装置と、前記自然エネルギー電源の発電出力の変動を前記電力貯蔵装置の充放電制御した出力との合成により平滑化させる制御装置とを備えた分散型電源の安定化制御方式であって、
前記制御装置は、
前記自然エネルギー電源の発電出力を平滑化する一次遅れフィルタと、
前記一次遅れフィルタを通した前記自然エネルギー電源の発電出力の変化を単位時間当たりの出力変動幅で決定される一定の傾きに制限する変化率リミッタを設け、
前記変化率リミッタの出力を前記自然エネルギー電源の発電出力と前記電力貯蔵装置の出力との合成出力目標値とすることを特徴とする分散型電源の安定化制御方式。
【請求項3】
自然エネルギーを利用して発電する自然エネルギー電源と、双方向電力変換装置により充放電電力を制御できる電力貯蔵装置と、前記自然エネルギー電源の発電出力の変動を前記電力貯蔵装置の充放電制御した出力との合成により平滑化させる制御装置とを備えた分散型電源の安定化制御方式であって、
前記制御装置は、
前記自然エネルギー電源の発電出力の過去の移動平均を求める移動平均処理回路と、
前記移動平均処理回路を通した前記自然エネルギー電源の発電出力の変化を単位時間当たりの出力変動幅で決定される一定の傾きに制限する変化率リミッタを設け、
前記変化率リミッタの出力を前記自然エネルギー電源の発電出力と前記電力貯蔵装置の出力との合成出力目標値とすることを特徴とする分散型電源の安定化制御方式。
【請求項4】
自然エネルギーを利用して発電する自然エネルギー電源と、双方向電力変換装置により充放電電力を制御できる電力貯蔵装置と、前記自然エネルギー電源の発電出力の変動を前記電力貯蔵装置の充放電制御した出力との合成により平滑化させる制御装置とを備えた分散型電源の安定化制御方式であって、
前記制御装置は、
前記自然エネルギー電源の発電出力の過去の一定時間における中間値を求める中間値算出器と、
前記中間値算出器を通した前記自然エネルギー電源の発電出力の変化を単位時間当たりの出力変動幅で決定される一定の傾きに制限する変化率リミッタを設け、
前記変化率リミッタの出力を前記自然エネルギー電源の発電出力と前記電力貯蔵装置の出力との合成出力目標値とすることを特徴とする分散型電源の安定化制御方式。
【請求項5】
前記制御装置は、前記電力貯蔵装置の充電状態を一定値に制御するSOC制御手段を設け、このSOC制御手段の出力で前記変化率リミッタの入力になる発電出力を補正することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の分散型電源の安定化制御方式。
【請求項6】
前記SOC制御手段は、前記電力貯蔵装置の充電状態(SOC)の目標値と検出値との偏差が大きくなるほど、該偏差の増幅ゲインを大きくする非線形ゲイン設定要素を設けたことを特徴とする請求項5に記載の分散型電源の安定化制御方式。
【請求項7】
前記制御装置は、前記変化率リミッタで求める前記合成出力目標値と、前記自然エネルギー電源の発電出力と前記電力貯蔵装置の出力との合成出力の検出値とから、前記電力貯蔵装置の充放電制御をする充放電制御手段を備えたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の分散型電源の安定化制御方式。
【請求項8】
前記変化率リミッタは、前記自然エネルギー電源の発電出力と前記電力貯蔵装置の充放電制御した出力との合成出力の上限値、下限値の範囲を規定する上下限制限値設定手段を設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の分散型電源の安定化制御方式。
【請求項9】
前記一次遅れフィルタは、前記合成した出力の平滑化の評価指標になる評価時間幅程度またはその数倍程度の時定数とすることを特徴とする請求項2、5〜7のいずれか1項に記載の分散型電源の安定化制御方式。
【請求項10】
前記変化率リミッタは、前記自然エネルギー電源の発電出力と前記電力貯蔵装置の充放電制御した出力との合成出力の上限値、下限値の範囲を規定する上下限制限値設定手段を設け、
前記SOC制御手段は、その内部演算値が前記変化率リミッタの上下限制限値を超えない値にした上下限値を求める上下限制限値演算手段を設けたことを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の分散型電源の安定化制御方式。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−22122(P2010−22122A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179685(P2008−179685)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】