説明

分散安定な錫微粒子の製造方法およびそれを用いた錫インク

【課題】極性溶媒に分散安定な錫微粒子の製造方法、およびそれを用いた錫インクを提供する。
【解決手段】アルコール中に溶解させたロジンを塩化錫水溶液中で共存させて懸濁液とした後、この懸濁液を還元処理してロジンで被覆した錫微粒子を析出させることを特徴とする錫微粒子の製造方法であり、また、前記錫微粒子が析出した還元処理液を極性溶媒に置換した後、23℃における粘度を5〜1000mPa・sに調製したことを特徴とするインクジェット用錫インクである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散安定な錫微粒子の製造方法およびそれを用いた錫インクに関する。詳しくは、平均粒子径が1〜100nmである錫微粒子を含んで、インクジェットヘッドにて塗工が可能な分散安定性を有したインクジェット用錫インクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
フリップ実装に用いられる接続用金属材料としては、錫を主成分とした組成によるマイクロボールによる微細バンプ形成方法が主に利用されている。その他にもスクリーン印刷法といった印刷技術を用いたバンプ形成法も知られている。これらの方法は、バンプ形成の生産性という点で高い特徴を有するが、今後、電子部材の小型化や実装密度の高密度化には、バンプピッチの狭ピッチ対応が望まれている。
【0003】
近時ではマイクロボール法やスクリーン印刷法でのバンプはバンプピッチ80μm未満が限界点であり、これ以上の狭ピッチ化は技術的に困難である。この他にも例えば無電解メッキ法を利用して狭ピッチ化検討が進められるなどの事例もあるが、無電解メッキ法を利用する方法では製造工程数が多くリードタイムが長くなり、且つコスト負荷も多いといった問題がある。
【0004】
従って、今後は狭ピッチ対応が可能で且つシンプルな工程によるバンプ形成技術が求められており、この要求に応える方法として印刷技術を用いるプロセスの期待が高まっている。印刷技術を用いることで、基板にインクを精密塗布してリフロー、洗浄するという簡易な省工程での生産が可能となる。印刷法としては前記スクリーン印刷法やインクジェット印刷法が注目されている。これら印刷技術を使用する場合は、印刷プロセス(塗工)、リフロープロセス(焼成)に適合できるインキの選定が重要となる。
【0005】
すなわち、インクは微細な精密塗工を行う必要性から、ナノサイズの錫粒子を分散させた形態が望まれる。粒子がナノサイズになるとミクロン粒子よりもファインピッチの描画が可能となるだけでなく、溶媒の最適化により粒子がブラウン運動で溶媒中に浮遊して流動性を有するインクの形態を示す。また、粒子サイズがナノオーダーレベルまで小さくなると金属の融点が低下する性質も期待できることから、焼成プロセスが必要となる材料加工がある場合は焼成プロセス自体の低温化も期待できる。
【0006】
ところが、一般的には、ナノ金属微粒子は比表面積が大きく表面活性が高いので金属微粒子がそのままの状態で安定な粒子となっていることはなく、酸化皮膜や有機物(保護剤)が粒子表面に保護層として形成された粉末の状態で安定化している。そのため、ナノ金属微粒子をインキ化して、基板塗布後に焼成するリフロープロセスにおいては、焼成時の表面保護層の除去方法を講じる必要がある。
【0007】
金属微粒子の保護剤が有機物成分の場合、焼成条件が最適化されていないと金属表面保護層の有機物が完全に分解消失せずに金属微粒子近傍および内部に樹脂が残るという不具合が生じる。すなわち、焼成プロセスを必要とする錫を主成分とする金属接合用途の半田材料には出来るだけこの樹脂残渣分を少なくすることが課題である。これまでに、錫微粒子を製造する方法として、例えば、特許文献1では、錫微粒子の保護剤としてPVP(ポリビニルピロリドン)やPVA(ポリビニルアルコール)を好適に用いる方法が開示されている。しかしながら、この特許文献1記載の発明は、液晶ディスプレイのブラックマトリックス材料等に用いられる黒色材料としての錫微粒子の製造方法であって、フリップ実装に用いられる接続用金属材料に関するものではなく、保護剤を焼成した後の残渣有機物分については検討されていない。また、インクとしての分散に関しても十分な検討がなされていない。
【0008】
一方、特許文献2は、平均粒子径2〜100nmの錫ナノ粒子(錫微粒子)を含み、インクジェット印刷に適したインク状ハンダ組成物の発明に関し、この特許文献2では、インク調製の際のバインダー成分(フラックス成分)として水添ロジンを用いることが記載されている。しかしながら、錫微粒子に対する保護剤については、末端にアミノ基を有するアミン化合物としてC8〜C14のアルキルアミン、またはヒドロキシル基を有する化合物を利用して、被覆剤分子層を設けることが好ましいとあるが、加熱時の分解性については考慮されていない。なお、フラックス成分として水添ロジン(分子量304)を含有させたインクを調製しているが、これは、非極性溶媒のインク中に混合しているのみであって、合成段階から直接錫微粒子自身の保護層を形成し、極性溶媒中に安定分散化するものではない。
【0009】
その他、例えば特許文献3には、平均粒子径が1〜100nmである金、銀、白金等の金属ナノ粒子の表面をアルキルアミンによって被覆し、これを含んだ分散液をインクジェット法により目的とする微細なパターン形状に塗布し、焼成することで、高い導電性を有した金属ナノ粒子焼結体層を基板上に形成する方法などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−281828号公報
【特許文献2】特開2009−6337号公報
【特許文献3】特開2009−70727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ナノオーダーの金属錫微粒子を含有したインクは、インクジェット装置のような印刷装置でピコリットルもしくはフェムトリットルオーダーの微小な液滴を吐出して印刷することができる。印刷後には錫粒子同士を結合させるために焼成する工程が必要となるが、金属錫の融点が230℃程度であることから、焼成温度は通常260℃前後、高くても300℃以下の温度で行うことが望ましい。しかしながら、焼成工程において、金属の表面や内部の有機物成分の大部分が分解消失しないと、次の洗浄工程後においても樹脂残りという不具合が生じる。そのため、インクの焼成後に粒子表面の有機物を少なくするインクの設計、もしくは有機物を除去できるインクの設計が課題となっている。
【0012】
また、ロジンを金属微粒子の水系分散剤に用いる場合、ロジンは水に不溶な樹脂であるため、水溶性の性質を付与させるためにはナトリウム塩やカリウム塩のような構造を有した誘導体に加工する必要があり、ロジンそのものを水系インクの分散剤としてそのまま使うことが難しい。一方、特許文献2では、水系の錫粒子インクでは金属熔融時に錫粒子表面が酸化を受けることから非極性溶媒によるインキ化の必要性を述べているが、水系においては酸化の問題よりもロジンそのものを用いて分散安定化する錫粒子表面の極性化自体が技術的課題となっている。
【0013】
本発明は、上記のような従来技術の問題を鑑みてなされたものであり、極性溶媒に分散安定な錫微粒子の製造方法、およびそれを用いた錫インクを提供することを目的とする。具体的には、錫微粒子の合成段階で有機物であるロジンを共存させることによって、極力不要な有機物成分の排除を図った錫インクを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、このような課題を解決するために、錫インクを形成する錫微粒子に対して、錫微粒子の合成段階から有機バインダーや溶媒の影響を調べて、インクジェット用インクとしての最適な組成設計を行った。その結果、インク中で、錫微粒子表面を直接ロジンで保護する合成方法によれば、より良好な分散性および熱分解特性が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりであり、アルコール中に溶解させたロジンを塩化錫水溶液中で共存させて懸濁液とした後、この懸濁液を還元処理してロジンで被覆した錫微粒子を析出させることを特徴とする錫微粒子の製造方法である。
【0016】
また、本発明は、上記錫微粒子が析出した還元処理液を極性溶媒に置換した後、23℃における粘度を2〜1000mPa・sに調製したことを特徴とするインクジェット用錫インクである。
【0017】
本発明の錫微粒子の製造方法では、好適には、前記ロジンは、軟化点が120〜160℃であり、水に不溶であってかつメタノールに可溶の固形物であるのが良い。また、本発明のインクジェット用の錫インクでは、好適には、錫インクに含まれる錫微粒子の平均粒子径が、1〜100nmであるのが良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、平均粒子径1〜100nmの錫微粒子の表面の有機物をロジンのみとすることができる。また、合成によって得られた錫微粒子は水などの極性溶媒へ分散も可能となることから、静電方式のインクジェットヘッドによる安定吐出が可能になる。特に、本発明の錫インクではロジンを錫粒子の保護剤とすることで、従来のPVP(ポリビニルピロリドン)等と比較して熱分解性を向上させることができ、洗浄などによる処理にて除去を容易とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は実施例1、3、比較例2で使用した錫微粒子の熱重量測定結果を示すチャート図である。
【図2】図2は実施例2、4、5で使用した錫微粒子の熱重量測定結果を示すチャート図である。
【図3】図3は比較例1で使用した錫微粒子の熱重量測定結果を示すチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。
先ず、本発明の錫微粒子の製造方法では、アルコール中に溶解させたロジンを塩化錫水溶液中で共存させて懸濁液を得るようにする。このうちロジンは、水には不溶であるがメタノールには可溶であり、軟化点が120〜160℃の固形物を用いるのが好適である。親水性を有する水溶性ロジンではなく、水に不溶なロジンを錫微粒子の合成段階で用いることで、還元合成後に得られる錫微粒子がメタノール等の極性溶媒のみならず、水に分散する特徴を発現して、例えば静電式インクジェット装置に適した錫インクを得ることができるようになる。
【0021】
このうち、アルコールとしてはメタノールが最も好ましい。錫微粒子析出後のスラリーを遠心分離(2500rpm×10分)して沈殿物と上澄み液の2層に分離させたあとの上澄み液を除去し、沈殿物にメタノールを加え、混合(シェイク)し、静置後を観察すると、メタノールでは一部の凝集粒子を除き、沈まずに安定して分散する様子が認められるが、他の溶媒、例えば1−オクタノール、イソプロパノールのようなメタノール以外の脂肪族アルコール、あるいはアセトンのようなケトン類では、殆どすべての錫微粒子が沈殿してしまい、メタノールのように錫微粒子スラリーが安定化させるのが難しい。
【0022】
ロジンについては、極性溶媒に可溶であれば天然ロジンがそのまま使用でき、また、各種誘導体に加工されたものを使用することもできる。例えば、共役二重結合部をジエン反応によるマレイン化ロジン、二重結合部を水素化した水添ロジン、カルボン酸部をエステル化したエステル化ロジン、その他金属塩による処理、不均化処理など変性した誘導体を使用することができる。一方、汎用の重合ロジンや精製ロジンは溶解性が悪いため好ましくない。メタノールに対する溶解性に優れるという点でマレイン酸変性のロジン誘導体が特に好ましい。
【0023】
但し、錫微粒子合成は、水を母液とした反応系となるので、メタノール中に溶解させたロジンを反応母液である水に添加する際、メタノール中のロジン濃度が高くなるほど、ロジンが析出しやすくなる。そのため、ロジンの添加量は、本還元反応で得られる錫微粒子の理論合成量に対して約3.0〜6.5wt%となるように添加するのが良い。この範囲より少ないと分散安定性が得られず、この範囲より多いとロジンが水の母液中に析出してくるので好ましくない。このときのロジン−メタノール溶液の濃度は、0.5〜10wt%の範囲であることが好ましい。この範囲より低いとロジン−メタノール溶液を大量に添加しなければならなくなり、反応液中に存在する水溶性の還元剤等の溶解性が低下する。また、この範囲より高いとロジン−メタノール溶液の添加時にロジンが析出しやすくなり好ましくない。
【0024】
また、上記のようにしてアルコール中に溶解させたロジンから懸濁液を得る際に用いる塩化錫水溶液について、このうち塩化錫は無水でも水和物のいずれの形態で用いてもよいが、水に溶解したときの濃度が水に対して0.1〜25wt%の範囲であることが好ましい。この反応溶液を還元して塩化錫が100%還元されたときの錫の金属重量を理論合成量とした。本発明のロジン懸濁液による還元反応で得られる錫微粒子の平均粒子径(動的光散乱法による粒度分布計による測定)は10〜100nmの範囲であるが、反応直後ではこれより大きい二次凝集粒子が生成することもある。ロジン懸濁液を調整するには、ロジン−アルコール溶液に上記塩化錫水溶液を攪拌しながら添加したのち、pHを中性に調整することで析出物の無い安定な懸濁液を得ることができる。
【0025】
そして、得られた懸濁液を還元処理してロジンで被覆した錫微粒子を析出させる。この還元処理には公知の溶液を用いることができるが、最も好適には水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を水に溶解させて、2.5wt%程度のNaBH4水溶液を調製し、これに、前記ロジン懸濁液を例えば300rpmで攪拌しながら滴下混合して錫粒子を析出させる。その際、滴下した液がNaBH4水溶液中に混合されると同時に黒褐色の錫微粒子が析出する。このときの温度は35〜40℃であることが好ましい。得られた還元処理液は、黒褐色の錫微粒子が分散した状態の分散液であり、この状態で錫微粒子の表面はロジンで被覆されており、ロジンは親水性に劣るため二次凝集が起こり、放置すると錫微粒子は沈殿してしまう。
【0026】
また、本発明では、上記によって錫微粒子が析出した還元処理液を極性溶媒に置換することで、インクジェット印刷法に適したインクジェット用錫インクを得ることができる。ここで、極性溶媒としては、吐出安定性を考慮すると高沸点溶媒であることが望ましい。例えば、エチレングリコール(b.p197.3℃)、プロピレングリコール(b.p188.2℃)、ジエチレングリコール(b.p244.3℃)、テトラエチレングリコール(b.p314℃)、1−オクタノール(b.p195℃)、グリセリン(b.p290℃)などが好適である。メタノールなど揮発性の高い溶媒は、極性溶媒であっても乾燥性が速すぎて、インクジェットヘッドのノズル面で乾き、顔料分が付着して目詰まりを起こす可能性が大きくなるので不適である。また誘電率が低い比極性溶媒は静電式インクジェット装置による吐出には適さない。
【0027】
そして、上記の例によれば、還元処理液の水、水素化ホウ素ナトリウム及び水素化ホウ素ナトリウムから生成した塩化ナトリウム、未反応の塩化錫、その他pH調整剤等の添加剤をこのような極性溶媒で置換する。還元処理液は、例えば遠心分離して上澄みを除去してアセトン洗浄後に、メタノールに置換させ、その後、インクジェット印刷に適正のある前述の溶媒を任意に目的量添加して、よく混合した後、エバポレーターなどを用いて減圧することでメタノールを除去すると同時に、インクジェット印刷に適正のある前述の溶媒に置換する操作を行う。
【0028】
還元処理液を極性溶媒で置換したのち、23℃における粘度を2〜1000mPa・s、好ましくは10〜50mPa・sに調製してインクジェット用錫インクとする。粘度を上記範囲にするためには、極性溶媒を混合溶媒として用いる等の方法で調整できる。
【0029】
本発明によって得られたインクジェット用錫インクについて、インクジェット印刷に用いるインクジェット印刷装置としては、マイクロハンダボールピッチが80μm未満の狭い領域での精密印刷技術が求められることから、微細な液滴が吐出可能な静電容量式インクジェット印刷装置を用いることが望ましい。マイクロハンダボールを形成するウエハー表面を必要に応じ撥液処理を施すこともできる。インクジェット印刷においては液滴が数fl〜数plの微小液滴であるため速やかに溶媒は揮発する。溶媒揮発後に焼成することで錫微粒子表面のロジンを加熱分解除去することでハンダボールを形成することができる。焼成温度は錫の融点以上である必要があるが、500℃を超える高温になるとエネルギーコストがかかるため通常300℃以下であることが好ましい。また、焼成後は、公知のフラックス洗浄剤や洗浄効果の高い有機溶剤等を用いてロジン残渣を除去するようにしてもよい。
【実施例】
【0030】
以下、実施例等に基づき、本発明をより具体的に説明する。なお、特に断りのない限り、部は質量部を表し、%は質量%を表す。また、一次分散液の調製及び評価、並びにインクジェットインキの評価方法は、以下のとおりである。
【0031】
粒子合成に用いる保護剤について、合成の可否判断として、水およびメタノールの各溶媒に対する溶解性試験を行った。溶解性試験は保護剤と溶媒の質量比を1:1で混合して、混合後の状態を目視にて観察した。得られた結果が水もしくはメタノールに可溶であれば、錫粒子の合成が可能と判断することができる。
【0032】
粒子合成後の合成液中の粒子について、合成液を遠心分離にて沈降させ、アセトンで洗浄を行い、乾燥後に得られた錫微粒子粉末をX線回折装置にて錫の同定を行った。
【0033】
粒子合成後の合成液中の粒子について、合成液を遠心分離にて沈降させ、アセトンで洗浄を行い、乾燥後に得られた錫微粒子粉末をTG−DTA(セイコー電子工業社製、SSC-5200)にて、熱重量測定を行った。測定条件は、昇温速度10℃/min、N2ガス雰囲気で上限温度500℃とした。このとき、粒子表面の有機物が分解する程度の指標として、〔300℃における重量減少量wt%/500℃における重量減少量wt%×100〕を錫粒子表面の有機物分解率%とした。この分解率が高いほど有機物の分解性が良好であると判定できる。なお、図1には、実施例1、3、及び比較例2で得られた錫微粒子の熱重量測定結果のチャート図を示す。図2には、実施例2、4及び5で得られた錫微粒子の熱重量測定結果のチャート図を示す。図3には、比較例1で得られた錫微粒子の熱重量測定結果のチャート図を示す。
【0034】
極性溶媒への分散安定性について、合成液を遠心分離にて沈降させ、アセトンで洗浄を行い、メタノールを加えた時の状態観察を行った。このとき、遠心分離(3500rpm×1分)ですべて粒子が目視にて沈降が認められる場合は分散安定性(不適)と評価した。すべての粒子が沈降しない状態以外は分散安定性(適)と評価した。
【0035】
インクジェットインクについて、E型粘度計(コーンプレート型の回転粘度計;東機産業製)を用いて、23℃での粘度測定を行った。得られた結果が2〜1000mPa・sであれば、静電式パターニング装置(インクジェット印刷法)の吐出に適すると判断することができる。
【0036】
さらに、インク中に分散された錫微粒子がインクジェット装置に対して、より好ましく適するか否かをインキの粒度分布測定と1μmガラスフィルター(Whatman シリンジフィルタ GMF-150 PORESIZE 1μm)で評価を行った。
【0037】
インキ中の錫粒子の平均一次粒子径(流体力学的径)は、粒径アナライザー(動的光散乱法による粒度分布計;大塚電子製FPAR−1000)にて実計測し、光子相関法で求めた自己相関関数によりキュムラント法での解析によって得られたものである。また、ヒストグラム法での解析によってインキ中の錫粒子の粒子径分布を示す散乱強度の平均値(nm)と±標準偏差を得た。
【0038】
得られたインキは、静電式パターニング装置(インクジェット印刷法)で吐出評価を行った。このとき、静電式パターニング装置のノズルからインキが安定に吐出できたものは吐出性良好(○)、また、ノズルにインキが詰まるなどしてインキが安定に吐出できないものは吐出性不良(×)と評価した。
【0039】
なお、実施例等で使用した各成分と、表1で記した略号との関係を以下にまとめて示す。
ロジンA:荒川化学工業社製 商品名;マルキード No.34
ロジンB:荒川化学工業社製 商品名;マルキード No.33
ロジンC:荒川化学工業社製 商品名;中国重合ロジン 140
ロジンD:荒川化学工業社製 商品名;白菊ロジン
PVP :東京化成工業社製 試薬;ポリビニルピロリドン K−15
分散剤A:クローダジャパン社製 商品名;ゼフリム3300−B
【0040】
(実施例1)
金属成分液の調製として、塩化錫(和光純薬製 試薬特級)12.5g及びクエン三酸ナトリウム(和光純薬製 試薬特級)6.25gを375gの純水で溶解し、メタノールにて1%濃度に調整したロジン(荒川化学工業製 商品名マルキードNo.34)を0.25g加えてナスフラスコで攪拌し、この水溶液を20%水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調整してから硝酸銀(和光純薬製 試薬特級)0.05gを加えた。その後、2.5%テトラヒドロほう酸ナトリウム水溶液を別の容器に入れ、前記の調整した金属成分液を300rpmで攪拌させながら加え1時間攪拌した。
【0041】
攪拌後、還元反応により得られた錫合成液を遠心分離(回転数3500rpm、時間10分)で分離させて上澄み液を除去し、残りの沈殿粒子にアセトンを混合後、再び遠心分離(回転数3500rpm、時間10分)にて上澄み液を除去して洗浄を行った。これに、メタノールを加えて遠心分離(回転数3500rpm、時間10分)を行った。さらに、遠心分離後の上澄み液にエチレングリコールを加えた後、エバポレーターにて脱メタノール処理および溶媒置換処理を行い、1μmフィルターで通液したものを錫微粒子の分散液として回収した。得られた錫微粒子の300℃における有機物分解率は−15.71%であった。
【0042】
(実施例2)
実施例1のロジンを商品名マルキードNo.33(荒川化学工業製)に変更した以外は、実施例1と同様にして錫粒子の分散液を調製した。得られた錫微粒子の300℃における有機物分解率は−13.57%であった。
【0043】
(実施例3)
実施例1の脱メタノール処理および溶媒置換処理をグリセリンに変更した以外は、実施例1と同様にして錫粒子の分散液を調製した。
【0044】
(実施例4)
実施例2の脱メタノール処理および溶媒置換処理をグリセリンに変更した以外は、実施例1と同様にして錫粒子の分散液を調製した。
【0045】
(実施例5)
実施例1のロジンを商品名マルキードNo.33(荒川化学工業製)に変更し、脱メタノールおよび溶媒置換処理を実施例4のグリセリン量の1/10とした以外は、実施例1と同様にして錫粒子の分散液を調製した。
【0046】
(比較例1)
金属成分液の調製として、塩化錫(和光純薬工業製 試薬特級)12.5g及びクエン三酸ナトリウム(和光純薬工業製 試薬特級)6.25gを375gの純水で溶解し、PVP(ポリビニルピロリドン東京化成工業製 試薬K−15)を0.25g加えてナスフラスコで攪拌し、この水溶液を20%水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調整してから硝酸銀(和光純薬工業製 試薬特級)0.05gを加えた。その後、2.5%テトラヒドロほう酸ナトリウム水溶液を別の容器に入れ、前記の調整した金属成分液を300rpmで攪拌させながら加え1時間攪拌した。
【0047】
攪拌後、還元反応により得られた錫合成液を遠心分離(回転数3500rpm、時間10分)で分離させて上澄み液を除去し、残りの沈殿粒子にアセトンを混合後、再び遠心分離(回転数3500rpm、時間10分)にて上澄み液を除去して洗浄を行った。これに、メタノールを加えて遠心分離(回転数3500rpm、時間10分)を行った。得られた錫微粒子の300℃における有機物分解率は−1.28%であった
【0048】
(比較例2)
金属成分液の調製として、塩化錫(和光純薬工業製 試薬特級)12.5g及びクエン三酸ナトリウム(和光純薬工業製 試薬特級)6.25gを375gの純水で溶解し、メタノールにて1%濃度に調整したロジン(荒川化学工業製 商品名マルキードNo.34)を0.25g加えてナスフラスコで攪拌し、この水溶液を20%水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調整してから硝酸銀(和光純薬工業製 試薬特級)0.05gを加えた。その後、2.5%テトラヒドロほう酸ナトリウム水溶液を別の容器に入れ、前記の調整した金属成分液を300rpmで攪拌させながら加え1時間攪拌した。
【0049】
攪拌後、還元反応により得られた錫合成液を遠心分離(回転数3500rpm、時間10分)で分離させて上澄み液を除去し、残りの沈殿粒子にアセトンを混合後、再び遠心分離(回転数3500rpm、時間10分)にて上澄み液を除去して洗浄を行った。これに、メタノールを加えて遠心分離(回転数3500rpm、時間10分)を行った。
【0050】
(比較例3)
実施例1のロジンを商品名 中国重合ロジン 140(荒川化学工業製)に変更したが、ロジンが水およびメタノールに不溶であったため、実施例1と同様に錫粒子を合成することができなかった。
【0051】
(比較例4)
実施例1のロジンを商品名 白菊ロジン(荒川化学工業製)に変更したが、ロジンが水およびメタノールに不溶であったため、実施例1と同様に錫粒子を合成することができなかった。
【0052】
(比較例5)
実施例1のロジンを商品名 Zephrym3300B(クローダジャパン製)に変更した以外は、実施例1と同様にして錫粒子の分散液を調製した。
【0053】
上記実施例1〜5及び比較例1〜5に関する情報をまとめて表1に示す。
【0054】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール中に溶解させたロジンを塩化錫水溶液中で共存させて懸濁液とした後、この懸濁液を還元処理してロジンで被覆した錫微粒子を析出させることを特徴とする錫微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記ロジンは、水に不溶かつメタノールに可溶であり、また、軟化点120〜160℃の固形物である請求項1記載の錫微粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の錫微粒子が析出した還元処理液を極性溶媒に置換した後、23℃における粘度を2〜1000mPa・sに調製したことを特徴とするインクジェット用錫インク。
【請求項4】
前記インクジェット用錫インクに含まれる錫微粒子の平均粒子径が、1〜100nmであるインクジェット用錫インク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−219350(P2012−219350A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88130(P2011−88130)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】