説明

分散補償装置

【課題】光信号の損失を抑えつつ、帯域および分散補償特性の向上を図ること。
【解決手段】分散補償装置100は、反射型のエタロン121〜123を用いて光信号の分散補償を行う。エタロン121〜123はそれぞれ光信号を反射させる。エタロン123は、エタロン121,122よりも群遅延特性の波長周期およびフィネスが大きい。電源131〜133および温度制御部141〜143は、エタロン121〜123の群遅延特性を波長シフトさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エタロンを用いて光信号の分散補償を行う分散補償装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバを用いた光信号伝送において、光の伝搬速度は波長成分毎に異なる。このため、光信号の伝送距離が長くなるにつれて光信号のパルス波形が劣化する。この現象は波長分散と呼ばれている。波長分散は、特に光信号の高速化が著しい近年の光通信システムにおいて、伝送距離を制限する大きな障害となっている。
【0003】
一般的な光伝送システムに用いられているSMF(Single Mode Fiber)においては、波長1550nm付近で15〜17ps/nm・km程度の波長分散が発生する。つまり、SMFを用いて100km伝送された波長1550nm付近の光信号は、約1500〜1700ps/nmの波長分散を受けることになる。
【0004】
光伝送路において波長分散が発生した光信号に対して、光伝送路で発生する波長分散とは逆特性の波長分散を与えることにより、光信号の元のパルス波形を再現する技術を波長分散補償(以下、単に「分散補償」と称す)という。光信号の分散補償を行う分散補償器として、たとえば分散補償ファイバが用いられている。
【0005】
分散補償ファイバ(DCF:Dispersion Compensating Fiber)は、特殊な屈折率分布によって、通常のSMFとは逆特性の波長分散を有するように設計された光ファイバである。長距離の光信号伝送を行う際は、一定距離毎に中継局を設けてDCFを接続し、光信号のトータルの波長分散をできるだけゼロに近づける。
【0006】
一方、近年急激に増加し続ける通信需要に対応するために、たとえば40Gb/sといった超高速光伝送システムの導入が求められている。これに対して、光伝送システムのさらなる高速化のために、波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)伝送の多重数の拡大も同時に進められている。波長分割多重における多重数を拡大するためには光信号の各チャンネルの波長間隔を小さくする。
【0007】
波長分割多重において、帯域(波長帯域)および帯域を確保するために必要な波長間隔は、光信号のビットレートや変調方式に依存する。現在の主流である10Gb/sの光伝送システムにおいては、光信号の変調にRZ(Return to Zero)やNRZ(Non RZ)といった強度変調(オン/オフ変調)方式が採用されている。10Gb/sシステムの光信号の一般的な波長間隔は約100GHz(約0.8nm)である。
【0008】
これに対して、40Gb/sの光伝送システムにおいては、DPSK(差動相変調:Differential Phase Shift Keying)やDQPSK(差動四位相変調:Differential Quadrature PSK)などの変調方式の採用が進められている。DPSKやDQPSKは、帯域を抑えつつ高速な伝送が可能なため、波長間隔が小さく高密度な波長分割多重伝送を実現することができる。
【0009】
しかし、DPSKやDQPSKを用いる場合でも、40Gb/sの光伝送システムにおいては10Gb/sの光伝送システムの2倍程度の帯域が必要とされている。したがって、変調方式によっては波長間隔が10Gb/sの場合より広がる場合もある。このように、高ビットレートの光伝送システムにおいては光信号の帯域が拡大するため、波長分散耐力はこれまでよりさらに小さくなる。このため、従来問題とならなかった、温度変動などによるわずかな波長分散をも補償する必要があると考えられている。
【0010】
そこで、40Gb/sの光伝送システムにおいては、分散補償ファイバでは補償しきれない残留分散成分を補償するために、分散補償量が固定の分散補償ファイバと、分散補償量が可変の可変分散補償器を組み合わせて用いる方式が採用される見込みである。小型の可変分散補償器として、フィネス(反射率)の異なる2つの反射型エタロンを組み合わせた分散補償装置が提案されている(たとえば、下記特許文献1,2を参照。)。
【0011】
エタロンとは、2つの部分反射膜を平行に配置することにより構成される共振器(ファブリ・ペロー共振器)である。エタロンは、一般的に、1枚の平行平板の両面に部分反射膜を形成することによって構成される。エタロンにおいて、片方の反射膜を全反射膜としたものは反射型エタロン(またはGTエタロン)と呼ばれる。反射型エタロンは、理想的には入射した光がすべて出力されるオールパスフィルタとして機能する。
【0012】
2つの反射膜に挟まれた平行平板は、2つの反射膜の間で光信号を多重反射させる共振部として機能する。この共振部の厚さ(または屈折率)を調節することで、分散補償量を変化させることができる。また、一般的に、エタロンの共振部の光路長を小さくすると、エタロンのFSR(群遅延特性の周期:Free Spectral Range)が大きくなり、帯域が拡大される。一方、エタロンの部分反射膜の反射率を大きくすると、エタロンの群遅延特性のピークが大きくなり、分散補償量が大きくなる。
【0013】
【特許文献1】特開2003−264505号公報
【特許文献2】特開2007−092631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、従来の技術では、帯域を拡大するためにエタロンの共振部の厚さを小さくすると、分散補償量が小さくなって十分な分散補償を行うことができないという問題がある。一方、分散補償量を大きくするためにエタロンの部分反射膜の反射率を大きくすると、帯域が狭くなって高速の光伝送を行うことができないという問題がある。また、エタロンの部分反射膜の反射率を大きくすると、エタロンの反射膜における反射効率やエタロン材料による光吸収に起因する光信号の損失が大きくなるという問題がある。以下、これらの問題について詳細に説明する。
【0015】
図12は、従来の分散補償装置における群遅延特性を示すグラフである。図12において、横軸は光信号の波長[nm]を示している。縦軸は光信号に与えられる群遅延[ps]を示している。ここでは、FSRが同じ(=100GHz)であり、部分反射膜の反射率Rがそれぞれ2%,7%の2枚のエタロンを直列に配置した分散補償装置について説明する。群遅延特性1211,1212は、2つのエタロンの群遅延特性をそれぞれ示している。
【0016】
合成群遅延特性1220は、2つのエタロンによって1回ずつ反射した光信号に与えられる群遅延の特性を示している。光信号に与えられる分散補償量[ps/nm]は、合成群遅延特性1220の変化量(傾き)で示すことができる。符号1230は、この分散補償装置による分散補償の帯域である。この場合、帯域1230はグリッド波長(グラフ中の太線)を中心として約35GHzしかないため、この分散補償装置を40Gb/sシステムの光信号に適用することができない。
【0017】
図13は、図12における合成群遅延特性の変化を示すグラフである。2つのエタロンの共振部の厚さを調節することで、図12に示した群遅延特性1211,1212を、それぞれ波長シフトさせると、図13に示すように、合成群遅延特性1220の傾きが約±30の範囲で変化する。つまり、この分散補償装置の分散補償量の可変範囲は35GHzの帯域内において約±30ps/nmの範囲しかない。このように、従来の分散補償装置では、十分な帯域および分散補償特性を得ることができない。
【0018】
ここで、分散補償装置の帯域を拡大するために2つのエタロンのFSRを大きくする場合について説明する。図14は、図12においてFSRを2倍にした場合の群遅延特性を示すグラフである。図14において、図12に示した部分と同様の部分については同一の符号を付して説明を省略する。エタロンの共振部の厚さを半分にすることでエタロンのFSRを2倍にすると、帯域1230は70GHz程度まで広がるものの、合成群遅延特性1220の変化量が小さくなる。
【0019】
具体的には、2つのエタロンの共振部の厚さを半分にすることで、群遅延特性1211,1212における群遅延ピークの高さが半分になる。また、FSRが2倍になることで、群遅延特性1211,1212が横方向に引き延ばされ、それぞれの群遅延特性の傾きが半分になる。このため、合成群遅延特性1220の傾きは結果的に1/4以下に小さくなる。このことは、分散補償装置の分散補償量の可変範囲も1/4以下に小さくなることを意味する。
【0020】
図15は、図14における合成群遅延特性の変化を示すグラフである。図14に示した群遅延特性1211,1212をそれぞれ波長シフトさせると、図15に示すように、合成群遅延特性1220の傾きが約±10の範囲で変化する。このため、この分散補償装置の分散補償量は、約±10ps/nmの範囲でチューニング可能である。このように、分散補償装置の帯域を拡大するために各エタロンのFSRを大きくすると、分散補償量および補償量の可変範囲が小さくなって十分な分散補償を行うことができない。
【0021】
図16は、図14の場合(反射率2%と7%)と比較して、エタロンの部分反射膜の反射率を4倍にした場合の群遅延特性を示すグラフである。図17は、同様に反射率を5倍にした場合の群遅延特性を示すグラフである。図16および図17において、図12に示した部分と同様の部分については同一の符号を付して説明を省略する。ここで、2つのエタロンの反射率を大きくして分散補償量を大きくする場合について説明する。
【0022】
図16は、2つのエタロンの部分反射膜の反射率Rをそれぞれ8%,28%にした場合(反射率Rを4倍)の群遅延特性を示している。図17は、2つのエタロンの部分反射膜の反射率Rをそれぞれ10%,35%にした場合(反射率Rを5倍)の群遅延特性を示している。図16および図17に示すように、2つのエタロンの反射率Rを増加させることで合成群遅延特性1220の傾きが大きくなる。
【0023】
しかし、反射率Rを増加させるほど合成群遅延特性1220の直線性が失われる。この例において、直線性を保ったまま合成群遅延特性1220の変化量を大きくできるのは、エタロンの反射率Rを4倍にする程度が限界である。このときの帯域1230における合成群遅延特性1220の変化量は約20ps/nmしかない。
【0024】
このように、エタロンの反射率Rを大きくすることで分散補償量を大きくすると、合成群遅延特性1220の直線性が失われ、有効な分散補償を行うことができる帯域1230が狭くなってしまう。また、エタロンの反射率Rを高くすると、共振部における光信号の多重反射数が増加し、反射や吸収に起因する光信号の損失が大きくなる。
【0025】
図18は、エタロンを3枚用いた場合の群遅延特性を示すグラフである。図18において、図12に示した部分と同様の部分については同一の符号を付して説明を省略する。ここで、エタロンの枚数を増やすことによって分散補償量を大きくする場合について説明する。ここでは、FSRが同じであり、反射率Rがそれぞれ10%,20%,40%の3枚のエタロンを直列に配置した場合について説明する。
【0026】
郡遅延特性1811は、反射率Rが10%のエタロンの群遅延特性を示している。郡遅延特性1812は、反射率Rが20%のエタロンの群遅延特性を示している。郡遅延特性1813は、反射率Rが40%のエタロンの群遅延特性を示している。合成群遅延特性1820は、群遅延特性1811〜1813を合成した特性である。
【0027】
この場合は、合成群遅延特性1820の変化量は約±30の範囲で変化する。このため、この分散補償装置の分散補償量は約±30ps/nmの範囲で変化する。また、帯域1230は約70GHz確保することができる。しかし、これらの分散補償量および帯域を確保するために必要な各エタロンの反射率Rはそれぞれ10%,20%,40%と大きく、多重反射による光信号の損失がきわめて大きくなる。
【0028】
図12〜図18に示したように、エタロンを用いた分散補償器においては、帯域と分散補償量とがトレードオフの関係にあるという問題がある。また、エタロンの部分反射膜の反射率Rを大きくすると、多重反射に起因する光信号の損失が大きくなるという問題がある。
【0029】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、光信号の損失を抑えつつ、帯域および分散補償特性を向上させた分散補償装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、この分散補償装置は、反射型のエタロンを用いて光信号の分散補償を行う分散補償装置において、前記光信号を反射させる第1エタロンと、前記光信号を反射させ、前記第1エタロンよりも群遅延特性の波長周期およびフィネスが大きい第2エタロンと、前記第1エタロンおよび前記第2エタロンの少なくとも一方の群遅延特性を波長シフトさせるシフト手段と、を備えることを要件とする。
【0031】
この分散補償装置によれば、群遅延特性の波長周期およびフィネスの異なるエタロンを組み合わせることにより、各エタロンの反射率を高くすることなく分散補償量を大きくすることができる。このため、十分な帯域を確保しつつ分散補償特性を向上させることができる。また、各エタロンの反射率を高くすることなく分散補償量を大きくすることができるため、多重反射に起因する光信号の損失を抑えることができる。
【発明の効果】
【0032】
この分散補償装置によれば、光信号の損失を抑えつつ、帯域および分散補償特性の向上を図ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に添付図面を参照して、この分散補償装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0034】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1にかかる分散補償装置の構成を示す図である。実施の形態1にかかる分散補償装置は、反射型のエタロンを用いて光信号の分散補償を行う分散補償装置である。ここでは、実施の形態1にかかる分散補償装置が、波長間隔200GHzで波長多重され、ビットレートが40Gb/s(帯域を約70GHz,波長グリッドを±0.3nmとする)の光信号の各チャンネルを一括して分散補償する場合について説明する。
【0035】
図1に示すように、実施の形態1にかかる分散補償装置100は、コリメータ110と、エタロン121〜123と、電源131〜133と、温度制御部141〜143と、コリメータ150と、を備えている。コリメータ110は、分散補償装置100の外部から入力された光信号をコリメートしてエタロン121へ出射する。エタロン121〜123は、反射させた光信号の波長成分毎に群遅延を与える反射型のエタロンである。
【0036】
エタロン121は、部分反射膜121aと、全反射膜121bと、共振部121cと、ペルチェ素子121dと、を備えている。部分反射膜121aは、コリメータ110から出射された光信号を所定の反射率Rで部分反射させる。部分反射膜121aによって反射しなかった光信号成分は部分反射膜121aを透過する。全反射膜121bは、部分反射膜121aを透過した光信号成分を全反射させる。
【0037】
共振部121cは、部分反射膜121aと全反射膜121bの間に形成されている。共振部121cはその厚さ(光学厚さ)に応じて、部分反射膜121aおよび全反射膜121bの間で多重反射される光に群遅延を与える。ペルチェ素子121dは、電源131から供給される電力に応じてエタロン121の温度を変化させる。ペルチェ素子121dは、全反射膜121bの、共振部121cとは反対側の面に接合されている。
【0038】
エタロン122は、部分反射膜122a、全反射膜122b、共振部122cおよびペルチェ素子122dを備えている。エタロン123は、部分反射膜123a、全反射膜123b、共振部123cおよびペルチェ素子123dを備えている。これらのエタロン122,123の構成は、エタロン121の部分反射膜121a、全反射膜121b、共振部121cおよびペルチェ素子121dと同様であるため説明を省略する。
【0039】
エタロン121およびエタロン122は、光信号を反射させる第1エタロンである。エタロン121は、コリメータ110から出射された光信号を反射させてエタロン122へ出射する。エタロン122は、エタロン121から出射された光信号を反射させてエタロン123へ出射する。
【0040】
エタロン121の共振部121cおよびエタロン122の共振部122cの厚さdはともにd1である。このため、エタロン121およびエタロン122は、群遅延ピークの周期(FSR)が互いに同じである。ここでは、エタロン121およびエタロン122のFSRは、光信号の波長間隔(200GHz)の半分の100GHzである。
【0041】
エタロン121およびエタロン122は部分反射膜の反射率Rが互いに異なる。このため、エタロン121およびエタロン122はフィネスが互いに異なる。ここでは、エタロン121の部分反射膜121aの反射率Rは2%である。エタロン122の部分反射膜122aの反射率Rは7%である。
【0042】
エタロン123は、エタロン121,122よりもFSRおよびフィネスが大きい第2エタロンである。エタロン123は、エタロン122から出射された光信号を反射させてコリメータ150へ出射する。エタロン121,122の共振部121c,122cよりもエタロン123の共振部123cの厚さdを小さくすることで、エタロン121,122よりもエタロン123のFSRを大きくすることができる。
【0043】
ここでは、共振部123cの厚さdをd2(d2=d1/2)とすることで、エタロン123のFSRを、エタロン121,122の2倍(光信号の波長間隔と同じ200GHz)にする。また、エタロン123の部分反射膜123aの反射率Rをエタロン121,122よりも大きくすることで、エタロン123のフィネスをエタロン121,122より大きくすることができる。ここでは、部分反射膜123aの反射率Rは40%である。
【0044】
コリメータ150は、エタロン123から出射された光信号を分散補償装置100の外部へ出力する。電源131〜133および温度制御部141〜143は、エタロン121〜123の群遅延特性をそれぞれ波長シフトさせるシフト手段である。電源131は、温度制御部141の制御に応じた電力をペルチェ素子121dへ供給する。電源132は、温度制御部142の制御に応じた電力をペルチェ素子122dへ供給する。電源133は、温度制御部143の制御に応じた電力をペルチェ素子123dへ供給する。
【0045】
温度制御部141は、電源131を制御してペルチェ素子121dへ供給する電力を調節することで、エタロン121の温度を制御する。温度制御部142は、電源132を制御してペルチェ素子122dへ供給する電力を調節することで、エタロン122の温度を制御する。温度制御部143は、電源133を制御してペルチェ素子123dへ供給する電力を調節することで、エタロン123の温度を制御する。
【0046】
温度制御部141〜143は、それぞれエタロン121〜123の温度制御を個別に行う。これにより、エタロン121〜123の共振部121c〜123cの温度が変化して、共振部121c〜123cの光学厚さ(n×d)がそれぞれ変化する。これにより、エタロン121〜123のそれぞれの群遅延特性を波長方向にシフトさせることができる。
【0047】
なお、コリメータ110から出射された光信号が、コリメート光のままエタロン121〜123によって反射しているように図示しているが、光信号は、エタロン121〜123のそれぞれの共振部121c〜123cにおいて多重反射している。このため、実際には、光信号は、エタロン121〜123によって反射するたびに少しずつ広がることになる。
【0048】
ここでは、電源131〜133および温度制御部141〜143によってエタロン121〜123の共振部121c〜123cのすべての厚さdを制御する場合について説明したが、エタロン121〜123の合成群遅延特性を変化させるためには、エタロン121〜123の少なくとも一つの共振部の厚さdを制御すればよい。たとえば、エタロン121の共振部121cの厚さdのみを制御する場合には、電源132,133および温度制御部142,143を省いた構成にしてもよい。
【0049】
また、電源131〜133および温度制御部141〜143によりエタロン121〜123の共振部121c〜123cの厚さdを制御して群遅延特性を波長シフトさせる場合について説明したが、エタロン121〜123の少なくとも一つへ光信号を入射する角度を制御することによって群遅延特性を波長シフトさせてもよい。
【0050】
また、共振部121c〜123cの厚さdを制御するために、ペルチェ素子121d〜123dを設けて共振部121c〜123cの温度を変化させる場合について説明したが、ペルチェ素子121d〜123dに代えてそれぞれヒーターを設け、ヒーターによって共振部121c〜123cの温度を変化させる構成にしてもよい。
【0051】
図2は、一般的なエタロンの群遅延特性を示すグラフである。一般的なエタロンのFSRおよびフィネスについて説明する。図2において、横軸は光信号の周波数(光信号の波長に対応)を示している。縦軸は光信号に与えられる群遅延を示している。ここでは、図1に示したエタロン121を例にあげて説明する。エタロン121によって反射した光信号には、各周波数(波長)成分毎に周期的な群遅延特性が与えられる。群遅延特性の周期はエタロンの共振部の厚さd(共振器長)によって決まる。
【0052】
群遅延特性のピークの高さはエタロン121の部分反射膜121aの反射率Rが大きいほど高くなる。群遅延特性211は、反射率Rが2%であるエタロン121によって反射した光信号に与えられる群遅延の特性を示している。群遅延特性212は、反射率Rがエタロン121よりも大きいエタロン(たとえばエタロン122,R=7%)によって反射した光信号に与えられる群遅延の特性を示している。
【0053】
エタロン121のFSRとは、群遅延特性211の波長周期220である。エタロン121の共振部121cの厚さをd、共振部121cの材料の屈折率をn、光速をcとすると、エタロン121のFSRは下記(1)式で示すことができる。
【0054】
【数1】

【0055】
上記(1)式に示すように、共振部121cの厚さdを小さくするほどエタロン121のFSRが大きくなる。また、エタロン121のフィネスは、エタロン121の群遅延特性221のピークの鋭さを表すパラメータである。反射型エタロン121のフィネス(Finess)は、エタロン121の透過率Rを用いて下記(2)式で示すことができる。
【0056】
【数2】

【0057】
上記(2)式に示すように、反射率Rが大きいほどエタロン121のフィネスが大きくなり、エタロン121の群遅延特性211が鋭いスペクトルになる。また、エタロン121の共振部121cの厚さを変化させると、群遅延特性211が周波数方向(波長方向)にシフトする。
【0058】
図3は、実施の形態1にかかる各エタロンの群遅延特性を示すグラフである。図3において、横軸は光信号の波長[nm]を示している。縦軸は光信号に与えられる群遅延[ps]を示している。符号301は光信号の波長グリッド(光信号の中心波長)を示している。ここでは、波長グリッド301を約1546.917nmに設定している。群遅延特性311〜313は、それぞれエタロン121〜123の群遅延特性を示している。
【0059】
合成群遅延特性320は、エタロン121〜123によって1回ずつ反射した光信号に与えられる群遅延の特性を示している。合成群遅延特性320は、群遅延特性311〜313を合成した特性である。エタロン121〜123によって1回ずつ反射した光信号に与えられる分散補償量[ps/nm]は、合成群遅延特性320の変化量(傾き)で示すことができる。
【0060】
図3と図16(FSR=200GHzで反射率が2%と7%の2枚の反射型エタロンを組み合わせた従来型の場合)との比較からわかるように、本発明により分散補償器の補償量(または補償量の可変範囲)が4倍に拡大できることになる。
【0061】
合成群遅延特性320は、温度制御部141〜143によって群遅延特性311〜313をそれぞれ適当に波長シフトさせることにより、波長グリッド301を中心として一定の変化量を有するように調節されている。符号330は、合成群遅延特性320が一定の変化量を有する波長の帯域(約1546.6nm〜1547.2nm)である。
【0062】
帯域330においては、光信号に対して波長成分毎に異なる群遅延を与えることができる。このため、帯域330が、分散補償装置100によって適切な分散補償を行うことができる帯域になる。ここでは、帯域330は、約±0.3nmである。したがって、この場合は、分散補償装置100の帯域330は約70GHzである。
【0063】
また、ここでは、エタロン121,122のFSRを、光信号の波長間隔(200GHz)の半分の100GHzに設定している。また、エタロン123のFSRを光信号の波長間隔と同じ200GHzに設定している。したがって、エタロン121〜123のFSRの最小公倍数が、光信号の波長間隔と同じ200GHzになる。このため、合成群遅延特性320は、光信号の波長間隔と一致した周期性を有する。
【0064】
合成群遅延特性320が光信号の波長間隔と一致した周期性を有するためには、エタロン121,122とエタロン123とのFSRの比は必ずしも1対2である必要はなく、エタロン121,122とエタロン123とのFSRの比が整数比となり、各FSRの公倍数が光信号の波長間隔とほぼ一致する関係であればよい。
【0065】
特に、エタロン123のFSRが光信号の波長間隔と一致するようにすれば、光信号の各チャンネルに対してそれぞれ一定の変化率の群遅延を与えることができる。なお、光信号の各チャンネルを一括して分散補償する必要がない場合は、エタロン121〜122の各FSRの比は整数比でなくてもよく、所望の分散補償量を得ることができるFSRを設定すればよい。
【0066】
図4は、図3に示した合成群遅延特性の変化を示すグラフである。温度制御部141〜143により共振部121c〜123cの光学厚さ(n×d)をそれぞれ調節すると、図3に示した群遅延特性311〜313がそれぞれ変化する。これにより、図4に示すように、合成群遅延特性320が合成群遅延特性320a〜320iのように変化する。合成群遅延特性320aは、変化量(分散補償量)がプラス方向に最も大きくなる特性を示している。
【0067】
合成群遅延特性320aにおける分散補償量は約40ps/nmである。合成群遅延特性320iは、変化量がマイナス方向に最も大きくなる特性を示している。合成群遅延特性320iにおける分散補償量は約−40ps/nmである。したがって、光信号をエタロン121〜123によって1回ずつ反射させる場合は、帯域330において約±40ps/nmの範囲で分散補償量を変化させることができる。
【0068】
ここでは、波長グリッド301である波長1546.917nm付近だけを図示したが、上述したように、合成群遅延特性320は光信号の波長間隔(200GHz)と一致した周期性を有する。このため、200GHz間隔で並んだ他の波長グリッドでも帯域330と同じ群遅延特性が実現されており、波長多重された光信号の各チャンネルの光信号成分について同様の分散補償を行うことができる(カラーレス動作)。
【0069】
また、上述したように、光信号をエタロン121〜123によって1回ずつ反射させることで±40ps/nmの分散補償量を得ることができるが、光信号をエタロン121〜123によって複数回ずつ反射させる(多段化)することで、分散補償量をさらに大きくすることができる。たとえば、エタロン121〜123による光信号の反射回数を10回ずつにすれば(10段の多段化)、分散補償量は最大で±400ps/nmになる。
【0070】
図5は、反射回数に対する最大補償量の特性を示すグラフ(その1)である。図5において、横軸は、エタロン121〜123による光信号の反射回数[回]を示している。縦軸は、光信号に対する最大分散補償量[ps/nm]を示している。特性510は、図1に示した分散補償装置100のように、FSRが200GHzのエタロンを2枚(反射率2%と7%)とFSRが100GHz(反射率40%)のエタロンを1枚用いた場合の最大分散補償量の特性を示している。
【0071】
特性520は、FSRが同じ(=100GHz)エタロンを2枚(反射率2%と7%)のみ用いた場合(図12,図13参照)の最大分散補償量の特性を示している。分散補償装置100は、FSRが同じエタロンを2枚のみ用いた分散補償装置に比べて、FSRが100GHzのエタロン123をさらに設けるためエタロンが3枚になり、1段当たりの光信号の反射回数が3/2倍になる。
【0072】
しかし、分散補償装置100は、従来型のFSRが同じエタロンを2枚のみ用いた分散補償装置に比べて、1段当たりの光信号に対する分散補償量が約4倍になる。したがって、同じ分散補償量を実現する場合に、分散補償装置100における光信号の反射回数は、FSRが同じエタロンを2枚のみ用いた分散補償装置のおよそ1/3になる。
【0073】
このように、分散補償装置100は、FSRが同じエタロンを2枚のみ用いた分散補償装置と比べて光信号の反射回数が少なくて済む。このため、エタロンにおける多重反射に起因する光信号の損失を抑えることができる。特に、分散補償量を大きくする場合には光信号の反射回数を大幅に減らすことができるため、光信号の損失を抑える効果が大きい。
【0074】
図6は、反射回数に対する最大補償量の特性を示すグラフ(その2)である。図6において、図5に示した部分と同様の部分については同一の符号を付して説明を省略する。特性610は、FSRが200GHzで反射率Rが8%のエタロンと、FSRが200GHzで反射率Rが28%のエタロンとを用いた分散補償装置(図16参照)における最大分散補償量の特性を示している。
【0075】
特性610に示すように、FSRが同じエタロンを2枚のみ用いる分散補償装置においても、反射率Rを大きくしてそれぞれ8%,28%にすることである程度分散補償量を大きくすることができる。しかし、帯域330における合成群遅延特性320の直線性を維持するためには、図16、図17で示したように反射率Rが8%,28%程度で限度である。
【0076】
特性510および特性610に示すように、特性610における分散補償量は、特性510における分散補償量の約2/3である。このため、同じ分散補償量を実現する場合に、分散補償装置100における光信号の反射回数は、FSRが同じで反射率Rが高いエタロンを2枚のみ用いた分散補償装置の約2/3になる。
【0077】
このように、分散補償装置100は、FSRが同じで反射率Rが高いエタロンを2枚のみ用いた分散補償装置と比べて光信号の反射回数を減らすことができる。このため、エタロンにおける反射に起因する光信号の損失を抑えることができる。また、必要な分散補償量を得るためエタロン121〜123の反射率Rを小さくすることができるため、エタロン121〜123によって光信号が反射するたびに発生する光信号の損失を小さくすることができる。したがって、反射や吸収に起因する光信号の損失をさらに抑えることができる。
【0078】
このように、実施の形態1にかかる分散補償装置100によれば、FSRおよびフィネスの異なるエタロン121,122とエタロン123とを組み合わせることにより、各エタロンの反射率Rを大きくすることなく分散補償量を大きくすることができる。このため、十分な帯域を確保しつつ分散補償特性を向上させることができる。また、各エタロンの反射率Rを大きくすることなく分散補償量を大きくすることができるため、反射や吸収に起因する光信号の損失を抑えることができる。
【0079】
また、エタロン121,122のFSRとエタロン123のFSRとの比が整数比であり、各FSRの最小公倍数が光信号の波長間隔とほぼ一致するように設定することで、合成群遅延特性320が光信号の波長間隔と一致した周期性を有する。このため、カラーレス動作が可能になる。さらに、エタロンの配置は図1の通りである必要はなく、3つのエタロンを順に通過しさえすれば、光が透過する順番は任意である。
【0080】
ここでは、第1エタロンとしてエタロン121,122を設け、第1エタロンよりもFSRおよびフィネスが大きい第2エタロンとしてエタロン123を設ける場合について説明したが、少なくとも第1エタロンおよび第2エタロンを1枚ずつ設ければよい。たとえば、図1に示した構成においてエタロン122を省いて、エタロン121によって反射した光信号をエタロン123へ入射させる構成にしてもよい。
【0081】
また、第1エタロンとして、エタロン123よりもFSRおよびフィネスが小さいエタロンをさらに設けてもよい。また、ここではエタロン122,123の後段にエタロン123を設ける場合について説明したが、各エタロンの配置順序は任意である。たとえば、エタロン123をエタロン121,122の前段に設けてもよいし、エタロン123をエタロン121,122の間に設けてもよい。
【0082】
(実施の形態2)
図7は、実施の形態2にかかる分散補償装置の構成を示す図である。図7において、図1に示した構成と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。実施の形態1においては、必要な帯域を維持しつつ分散補償量を大きくする場合について説明したが、帯域を狭くすれば、分散補償量をさらに大きくすることができる。
【0083】
実施の形態2にかかる分散補償装置100においては、実施の形態1にかかる分散補償装置100(図1参照)において、エタロン121,122の共振部121c,122cの厚さdを2倍のd3(d3=2×d1)にする。これにより、エタロン121,122のFSRは、実施の形態1の半分の50GHzになる。
【0084】
また、エタロン123の共振部123cの厚さdを2倍のd4(d4=2×d2)にする。これにより、エタロン123のFSRは、実施の形態1の半分の100GHzになる。エタロン121〜123の部分反射膜121a〜123aの各反射率Rは、実施の形態1と同様にそれぞれ2%、7%、40%である。
【0085】
図8は、実施の形態2にかかる各エタロンの群遅延特性を示すグラフである。図8において、図3に示した部分と同様の部分については同一の符号を付して説明を省略する。ここでは、帯域330は、約±0.15nm(約1546.8nm〜1547.1nm)である。したがって、分散補償装置100の帯域330は約35GHzである。
【0086】
合成群遅延特性320は、温度制御部141〜143によって群遅延特性311〜313をそれぞれ適当に波長シフトさせることにより、変化量(分散補償量)がプラス方向に最も大きくなる合成群遅延特性を示している。合成群遅延特性320における分散補償量は120ps/nmである。
【0087】
また、温度制御部141〜143によって群遅延特性311〜313をそれぞれ波長シフトさせることにより、合成群遅延特性320における分散補償量を−120ps/nmまで変化させることができる。したがって、実施の形態2にかかる分散補償装置100において、光信号をエタロン121〜123によって1回ずつ反射させる場合は、帯域330において約±120ps/nmの範囲で分散補償量を変化させることができる。
【0088】
このように、実施の形態2にかかる分散補償装置100によれば、エタロン121〜123の共振部121c〜123cの厚さdを大きくすることで、図12の従来構成の場合と比較して、帯域を狭くすることなく分散補償量を大きくすることができる。実施の形態1および実施の形態2によって示したように、FSRおよびフィネスの異なる複数のエタロンを組み合わせることにより、帯域と分散補償量のトレードオフの関係を克服することができる。
【0089】
たとえば、実施の形態1のように、帯域と分散補償量の両方を同時に向上させることができる。また、実施の形態2のように、エタロン121〜123の共振部121c〜123cの厚さdを大きくすれば、分散補償量を大幅に向上させることもできる。また、エタロン121〜123の共振部121c〜123cの厚さdを小さくすれば、帯域を大幅に向上させることもできる。
【0090】
(実施の形態3)
図9は、実施の形態3にかかる分散補償装置の構成を示す図である。図9において、図1に示した構成と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。実施の形態3にかかる分散補償装置100は、モジュール910,920,930と、電源131〜133と、温度制御部141〜143と、を備えている。
【0091】
モジュール910は、筐体の内部に、コリメータ911と、エタロン121と、全反射ミラー912と、コリメータ913と、を備えている。コリメータ911は、外部から入力された光信号をエタロン121の部分反射膜121aへ入射する。全反射ミラー912は、エタロン121と対向して平行に配置されている。
【0092】
エタロン121へ入射された光信号は、エタロン121と全反射ミラー912との間で複数回反射してコリメータ913へ出射される。コリメータ913は、エタロン121と全反射ミラー912との間で複数回反射して出射された光信号をモジュール920へ出力する。エタロン121の部分反射膜121aの反射率Rは2%であり、エタロン121のFSRは100GHzである。
【0093】
モジュール920およびモジュール930も、モジュール910と同様の構成である。ただし、モジュール920のエタロン122の部分反射膜122aの反射率Rは7%であり、FSRは100GHzである。また、モジュール930のエタロン123の部分反射膜123aの反射率Rは40%であり、FSRは200GHzである。モジュール920は、モジュール910から出力された光信号をエタロン122と全反射ミラーとの間で複数回反射させてモジュール930へ出力する。
【0094】
モジュール930は、モジュール920から出力された光信号をエタロン123と全反射ミラーとの間で複数回反射して外部へ出力する。また、エタロン121〜123には、それぞれ電源131〜133および温度制御部141〜143が接続されており、図1に示した構成と同様にそれぞれエタロン121〜123の温度制御を行う。
【0095】
このように、実施の形態3にかかる分散補償装置100によれば、実施の形態1にかかる分散補償装置100の効果を奏するとともに、エタロン121〜123をそれぞれモジュール化して組み合わせることで、FSRおよびフィネスが異なるエタロンの組み合わせを容易に変更することができる。このため、光信号の特性に応じて、帯域および分散補償量の調節を容易に行うことができる。
【0096】
また、モジュール910において、全反射ミラー912とエタロン121との間で光信号を複数回反射させることで、一つのモジュール内で分散補償を多段化することができる。モジュール920,930においても同様である。このため、エタロンの枚数を少なくして装置の小型化を図りつつ、分散補償量を大きくすることができる。
【0097】
ここでは、エタロン121〜123のそれぞれに全反射ミラー(たとえば全反射ミラー912)を設けて光信号を複数回反射させる場合について説明したが、必要な分散補償量を確保するためのエタロンの枚数を少なくするには、エタロン121〜123の少なくとも一つに全反射ミラーを設けて光信号を複数回反射させればよい。
【0098】
また、エタロン121〜123における光信号の反射回数をそれぞれ調節してもよい。これにより、エタロン121〜123による分散補償の特性を変化させることができる。たとえばエタロン121における光信号の反射回数を調節するには、エタロン121と全反射ミラー912との間の距離や、エタロン121と全反射ミラー912との角度や、エタロン121〜123へ光信号を入射する角度を変化させる。または、エタロン121の部分反射膜121aおよび全反射ミラー912の幅を変化させてもよい。
【0099】
(実施の形態4)
図10は、実施の形態4にかかる分散補償装置の構成を示す図である。図10において、図1に示した構成と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。図10に示すように、実施の形態4にかかる分散補償装置100は、コリメータ110と、エタロン121〜123と、折り返しミラー1010と、電源131〜133と、温度制御部141〜143と、コリメータ150と、を備えている。
【0100】
コリメータ110から出射され、エタロン121,122によってそれぞれ反射し、エタロン123によって反射した光信号は、折り返しミラー1010へ出射される。折り返しミラー1010は、エタロン123から出射された光信号を反射させて平行に折り返す。折り返しミラー1010によって折り返された光信号は、エタロン123,エタロン122,エタロン121の順に再度反射してコリメータ150へ出射される。コリメータ150は、エタロン121〜123を再度反射して出射された光信号を外部へ出力する。
【0101】
これにより、エタロン121〜123による光信号の反射回数を増やして、分散補償を多段化することができる。折り返しミラー1010は、たとえばコーナーキューブプリズムやリトロリフレクターである。また、エタロン121〜123を再度反射して出射された光信号をさらに折り返すミラーを設けることで分散補償をさらに多段化させてもよい。
【0102】
このように、実施の形態4にかかる分散補償装置100によれば、実施の形態1および2にかかる分散補償装置100の効果を奏するとともに、エタロン121〜123において反射した光信号を折り返してエタロン121〜123を再度反射させることによって分散補償を多段化することができる。このため、エタロンの枚数を少なくして装置の小型化を図りつつ、分散補償量を大きくすることができる。
【0103】
(実施の形態5)
図11は、実施の形態5にかかる分散補償装置の構成を示す図である。図11において、図1に示した構成と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。図11に示すように、実施の形態5にかかる分散補償装置100は、コリメータ110と、エタロン1110と、エタロン121〜123と、電源131〜133,1131と、温度制御部141〜143,1141と、コリメータ150と、を備えている。
【0104】
コリメータ110は、外部から入力された光信号をエタロン1110へ出射する。エタロン1110は、エタロン123よりもFSRおよびフィネスが小さい第1エタロンである。エタロン1110とエタロン121は互いに対向して配置されている。コリメータ110からエタロン1110へ出射された光信号は、エタロン1110とエタロン121の間で複数回(ここでは4回ずつ)反射してエタロン122へ出射される。
【0105】
エタロン122とエタロン123は互いに対向して配置されている。エタロン1110とエタロン121の間で複数回反射して出射された光信号は、エタロン122とエタロン123の間で複数回(ここでは2回ずつ)反射してコリメータ150へ出射される。コリメータ150は、エタロン122とエタロン123の間で複数回反射して出射された光信号を外部へ出力する。電源1131および温度制御部1141は、電源131および温度制御部1141と同様の構成であり、エタロン1110の温度を制御する。
【0106】
ここでは、エタロン1110およびエタロン121は、エタロン122およびエタロン123の部分反射膜の幅を大きくすることによって、エタロン1110およびエタロン121による光信号の反射回数を増やしている。また、ここでは、エタロン121〜123,1110をそれぞれ平行に配置し、エタロン1110に対して光信号を斜めに入射させている。このとき、光信号のエタロン1110に対する入射角度を1〜2度程度にすることで、光信号の反射率における偏光依存性を抑えることができる。
【0107】
このように、実施の形態5にかかる分散補償装置100によれば、実施の形態1にかかる分散補償装置100の効果を奏するとともに、エタロン121〜123,1110を2つずつ対向して配置し、対向して配置した2つのエタロンの間で光信号を複数回反射させることによって分散補償を多段化することができる。このため、エタロンの枚数を少なくして装置の小型化を図りつつ、分散補償量を大きくすることができる。
【0108】
ここでは、エタロン121〜123,1110のそれぞれにおいて光信号を複数回反射させる場合について説明したが、エタロン121〜123,1110の少なくとも2つにおいて光信号を複数回反射させれば、分散補償を多段化することができる。また、エタロン121〜123,1110における光信号の反射回数をそれぞれ調節してもよい。これにより、分散補償装置100による分散補償の特性を変化させることができる。
【0109】
以上説明したように、本実施の形態によれば、光信号の損失を抑えつつ、帯域および分散補償特性の向上を図ることができる。上述した実施の形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0110】
(付記1)反射型のエタロンを用いて光信号の分散補償を行う分散補償装置において、
前記光信号を反射させる第1エタロンと、
前記光信号を反射させ、前記第1エタロンよりも群遅延特性の波長周期およびフィネスが大きい第2エタロンと、
前記第1エタロンおよび前記第2エタロンのうちの少なくとも一つのエタロンの群遅延特性を波長シフトさせるシフト手段と、
を備えることを特徴とする分散補償装置。
【0111】
(付記2)前記第1エタロンを複数備え、
複数の前記第1エタロンは、前記群遅延特性の波長周期が互いに同じであり、前記フィネスが互いに異なることを特徴とする付記1に記載の分散補償装置。
【0112】
(付記3)前記光信号は波長多重信号であり、
前記第2エタロンの前記群遅延特性の波長周期は前記光信号の波長間隔と等しいことを特徴とする付記1に記載の分散補償装置。
【0113】
(付記4)前記第1エタロンおよび前記第2エタロンの前記群遅延特性の波長周期の比は整数比であることを特徴とする付記3に記載の分散補償装置。
【0114】
(付記5)前記シフト手段は、前記第1エタロンおよび前記第2エタロンのうちの少なくとも一つのエタロンの共振部の厚さを変化させて前記群遅延特性を波長シフトさせることを特徴とする付記1に記載の分散補償装置。
【0115】
(付記6)前記シフト手段は、前記エタロンの共振部の温度を制御することで前記共振部の光学厚さを変化させることを特徴とする付記5に記載の分散補償装置。
【0116】
(付記7)前記シフト手段は、前記第1エタロンおよび前記第2エタロンのうちの少なくとも一つのエタロンの部分反射膜へ前記光信号を入射する角度を変化させて前記群遅延特性を波長シフトさせることを特徴とする付記1に記載の分散補償装置。
【0117】
(付記8)前記第1エタロンおよび前記第2エタロンのうちの少なくとも一つのエタロンと対向して配置され、前記一つのエタロンとの間で前記光信号を複数回反射させる反射手段を備えることを特徴とする付記1に記載の分散補償装置。
【0118】
(付記9)前記第1エタロンおよび前記第2エタロンによって反射した前記光信号を折り返し、前記第1エタロンおよび前記第2エタロンを再度反射させる折り返し手段を備えることを特徴とする付記1に記載の分散補償装置。
【0119】
(付記10)前記第1エタロンおよび前記第2エタロンのうちの少なくとも2つのエタロンは互いに対向して配置され、前記2つのエタロンの間で前記光信号を複数回反射させることを特徴とする付記1に記載の分散補償装置。
【産業上の利用可能性】
【0120】
以上のように、分散補償装置は、エタロンを用いて光信号の分散補償を行う分散補償装置に有用であり、特に、高速の光伝送システムに用いる場合に適している。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】実施の形態1にかかる分散補償装置の構成を示す図である。
【図2】一般的なエタロンの群遅延特性を示すグラフである。
【図3】実施の形態1にかかる各エタロンの群遅延特性を示すグラフである。
【図4】図3に示した合成群遅延特性の変化を示すグラフである。
【図5】反射回数に対する最大補償量の特性を示すグラフ(その1)である。
【図6】反射回数に対する最大補償量の特性を示すグラフ(その2)である。
【図7】実施の形態2にかかる分散補償装置の構成を示す図である。
【図8】実施の形態2にかかる各エタロンの群遅延特性を示すグラフである。
【図9】実施の形態3にかかる分散補償装置の構成を示す図である。
【図10】実施の形態4にかかる分散補償装置の構成を示す図である。
【図11】実施の形態5にかかる分散補償装置の構成を示す図である。
【図12】従来の分散補償装置における群遅延特性を示すグラフである。
【図13】図12における合成群遅延特性の変化を示すグラフである。
【図14】図12においてFSRを2倍にした場合の群遅延特性を示すグラフである。
【図15】図14における合成群遅延特性の変化を示すグラフである。
【図16】図14の場合(反射率2%と7%)と比較して、エタロンの部分反射膜の反射率を4倍にした場合の群遅延特性を示すグラフである。
【図17】同様に反射率を5倍にした場合の群遅延特性を示すグラフである。
【図18】エタロンを3枚用いた場合の群遅延特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0122】
100 分散補償装置
110,150,911,913 コリメータ
121,122,123,1110 エタロン
121a,122a,123a 部分反射膜
121b,122b,123b 全反射膜
121c,122c,123c 共振部
121d,122d,123d ペルチェ素子
211,212 群遅延特性
220 波長周期
301 波長グリッド
311,312,313 群遅延特性
320 合成群遅延特性
330 帯域
510,520,610 特性
910,920,930 モジュール
912 全反射ミラー
1010 折り返しミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射型のエタロンを用いて光信号の分散補償を行う分散補償装置において、
前記光信号を反射させる第1エタロンと、
前記光信号を反射させ、前記第1エタロンよりも群遅延特性の波長周期およびフィネスが大きい第2エタロンと、
前記第1エタロンおよび前記第2エタロンのうちの少なくとも一つのエタロンの群遅延特性を波長シフトさせるシフト手段と、
を備えることを特徴とする分散補償装置。
【請求項2】
前記第1エタロンを複数備え、
複数の前記第1エタロンは、前記群遅延特性の波長周期が互いに同じであり、前記フィネスが互いに異なることを特徴とする請求項1に記載の分散補償装置。
【請求項3】
前記光信号は波長多重信号であり、
前記第2エタロンの前記群遅延特性の波長周期は前記光信号の波長間隔と等しいことを特徴とする請求項1に記載の分散補償装置。
【請求項4】
前記第1エタロンおよび前記第2エタロンの前記群遅延特性の波長周期の比は整数比であることを特徴とする請求項3に記載の分散補償装置。
【請求項5】
前記シフト手段は、前記第1エタロンおよび前記第2エタロンのうちの少なくとも一つのエタロンの共振部の光学厚さを変化させて前記群遅延特性を波長シフトさせることを特徴とする請求項1に記載の分散補償装置。
【請求項6】
前記シフト手段は、前記エタロンの共振部の温度を制御することで前記共振部の光学厚さを変化させることを特徴とする請求項5に記載の分散補償装置。
【請求項7】
前記シフト手段は、前記第1エタロンおよび前記第2エタロンのうちの少なくとも一つのエタロンの部分反射膜へ前記光信号を入射する角度を変化させて前記群遅延特性を波長シフトさせることを特徴とする請求項1に記載の分散補償装置。
【請求項8】
前記第1エタロンおよび前記第2エタロンのうちの少なくとも一つのエタロンと対向して配置され、前記一つのエタロンとの間で前記光信号を複数回反射させる反射手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の分散補償装置。
【請求項9】
前記第1エタロンおよび前記第2エタロンによって反射した前記光信号を折り返し、前記第1エタロンおよび前記第2エタロンを再度反射させる折り返し手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の分散補償装置。
【請求項10】
前記第1エタロンおよび前記第2エタロンのうちの少なくとも2つのエタロンは互いに対向して配置され、前記2つのエタロンの間で前記光信号を複数回反射させることを特徴とする請求項1に記載の分散補償装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−122235(P2009−122235A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294175(P2007−294175)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人情報通信研究機構、「経済的な光ネットワークを実現する高機能集積化光スイッチングノードの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】