説明

分析装置

【課題】 分析対象物が発する発光を高感度で検出する。
【解決手段】 分析装置60において、光学ピックアップ62は、分析用基板1に設けられている流路8に、光ビームを照射する。また、光学ピックアップ62は、流路8に展開されている分析対象物が光ビームを照射されることによって発する発光を、検出する。分析装置60は、さらに、光ビームを、分析対象物が発する発光の寿命よりも短い長さにパルス化するパルス回路68を備えている。したがって、分析装置60では、光学ピックアップ62が検出する検出光に含まれる、光ビームの反射光および迷光を、低減できる。これにより、発光を高感度で検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析対象物が発する発光を検出することによって、分析対象物を分析する分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体試料を分析する技術が著しく発展している。たとえば、DNA、RNA、タンパク質などを分析する装置が、次々と開発されている。その一方で、DNA等のアッセイ(分析)を迅速に、効率良く、正確に、かつ、低価格で実施できる装置が求められている。
【0003】
特許文献1に、光ディスク基板上に試料展開部とトラック溝とを設け、光ディスク装置の技術によって、光ビームを試料に照射しながら、試料を分析する分析装置が開示されている。図11は、この分析装置に装填される光ディスクの断面を示す図である。
【0004】
図11に示すように、光ディスク90のディスク基板97には、CD(コンパクトディスク)またはDVD(デジタルビデオディスク)と同様に、トラック溝99が成型されている。また、反射膜98も成膜されている。
【0005】
この光ディスク90には、トラック溝99および反射膜98に加え、試料展開用空間部(試料展開部)91が、トラックディスクカバー92によって形成されている。試料展開用空間部91には、試薬93が塗布されている。この試薬93は、試料96と反応させるためのものである。試料96として、生体試料(血液や尿)などの液状試料を用いている。
【0006】
特許文献1の分析装置では、光ディスク90を回転させることによって、試料96を分析する。光ディスク90の回転により遠心力が加わり、試料96は、光ディスク90の回転に伴って矢印103の方向へ輸送される。この輸送により、試料96は、試薬93が塗布されている試料展開用空間部91に展開される。試料展開用空間部91において、試薬93と、試料96に含まれる検査対象物(試料)とが、反応する。ここでいう「反応」は、酵素反応および免疫反応などの、各種の化学反応を含む意味である。
【0007】
試料96は、試薬93と反応することによって、反応状態に応じて、化学発光や蛍光などの何らかの反応光を発する。これにより、試料96に、反射光量が変化するなどの、何らかの光学的変化が生じる。
【0008】
特許文献1の分析装置では、この試料96が発する反応光を、対物レンズ102によって集光させて検出する。具体的には、レーザビーム100を対物レンズ102によってトラック溝99へ集光させ、そのとき生じる反射光を、対物レンズ102によって集光させて検出する。さらに、試料展開用空間部91における所望の位置(たとえば試薬96の位置)へ対物レンズ102をアクセスさせ、試料96と試薬93とが反応する位置において、反応光を適切に検出する。
【特許文献1】特開2003−248006(2003年(平成15年)9月5日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1の分析装置では、試料96が発する反応光を高感度で検出できない。
【0010】
この問題について、一例として、試薬96が蛍光分子を含む場合を説明する。レーザビーム100が試料96および試薬93に照射されると、照射された部分において、試料96に含まれる蛍光分子が蛍光を発する。特許文献1の分析装置は、この蛍光を、光ピックアップ内の対物レンズ102を通じて検出する。ここで、照射されたレーザビーム100の一部は、試料96に到達する前に、反射膜98によって反射される。特許文献1の分析装置は、この反射光も、対物レンズ102を通じて検出する。反射光を蛍光と同時に検出するため、検出される蛍光に、励起光の一部(レーザビームの反射光)が混入する。この反射光は、検出光におけるバックグラウンド光(背景光)となり、検出光をサンプリングした反応光量信号におけるノイズ成分となる。このノイズ成分は、反応光量信号のS/N比(シグナル/ノイズ比率)を低下させる。
【0011】
このように、特許文献1の分析装置では、試料96が発する反応光を、高感度で検出できない。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、照射した光ビームの反射光などのバックグラウンド光の混入を低減することによって、分析対象物が発する発光を高感度で検出できる分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明に係る分析装置は、分析用基板に形成されているセルに光ビームを照射するとともに、前記セルに展開されている分析対象物が前記光ビームを照射されることによって発する発光を検出する光学ピックアップを備えている分析装置において、前記光ビームを、前記分析対象物が発する発光の寿命よりも短い長さにパルス化するパルス化手段を備えていることを特徴としている。
【0014】
上記の構成によると、本装置では、分析用基板に形成されているセルに展開されている分析対象物に、パルス化された光ビームが照射される。このとき、分析対象物には、分析対象物が発する発光の寿命よりも短い光ビームが照射される。これにより、光ビームの照射期間と、その後に発生する発光の持続期間とを、時間的に分離できる。本装置では、この時間的に分離された発光を検出することによって、発光に混入する光ビームの反射光および迷光の割合を低減できる。これにより、本装置は、分析対象物が発する発光を、高感度で検出できる効果を奏する。
【0015】
また、本発明に係る分析装置では、前記分析用基板には、前記光ビームを前記セルに案内する案内溝が形成されており、前記光学ピックアップに対して、前記分析用基板を前記案内溝方向に相対的に移動させる移動手段と、前記案内溝からの前記光ビームの反射光を検出した信号に基づき、前記案内溝に前記光ビームを追従させるトラッキング手段とをさらに備えていることが好ましい。
【0016】
上記の構成によると、本装置では、分析用基板が、光学ピックアップに対して案内溝方向に移動し、かつ、光ビームが、案内溝に追従する。これにより、照射された光ビームは、案内溝を通じて所望のセルに誘導される。したがって、特に多数のセルを備えている分析用基板を使用する場合に、所望のセルに正確に光ビームを照射できる効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係る分析装置では、光ビームの照射ごとに同一セル内の異なる位置に光ビームが照射されるように、前記分析用基板を前記光ビームに対して相対的に移動させる移動手段をさらに備えていることが好ましい。
【0018】
上記の構成によると、本装置では、光ビームが一回の照射ごとにセル内の異なる位置に照射されるように、分析用基板が光ビームに対して相対的に移動する。これにより、光ビームが、セル内において分散して照射される。したがって、光ビームの照射位置における熱の発生を、最小限に抑えることができる。もし、温度が上昇すると、量子収率の低下によって、分析対象物が発する発光の強度が低下し、また、発光の寿命が短くなる。しかし、このように発熱を抑えれば、発光強度の低下を防止でき、かつ、発光寿命も長くできる。したがって、発光検出時における感度の向上を維持できる効果を奏する。
【0019】
また、本発明に係る分析装置では、前記光学ピックアップは、パルス化された前記光ビームを前記分析用基板に複数回照射し、かつ、前記分析対象物が発した発光を複数回検出することが好ましい。
【0020】
上記の構成によると、本装置では、パルス化された複数の光ビームによって発生した、複数の発光が検出される。したがって、検出結果を積算したり平均化したりするなどすれば、ノイズ成分を減少できる。これにより、発光検出時における感度をさらに向上できる効果を奏する。
【0021】
また、本発明に係る分析装置では、前記光学ピックアップは、前記光ビームの照射を停止している期間に、前記発光を検出することが好ましい。
【0022】
上記の構成によると、本装置では、光ビームの反射光や迷光が、検出された光に混入していない。すなわち、検出光の大部分を、分析対象物が発した発光が占めることになる。これにより、発光を、さらに高感度で検出できる効果を奏する。
【0023】
また、本発明に係る分析装置では、前記光学ピックアップにおいて、前記光ビームの光源は半導体レーザであることが好ましい。
【0024】
上記の構成によると、本装置では、CDやDVDなどで実現されている、光ビームをパルス化する技術を用いることができる。したがって、光ビームを照射する際の周波数を、1MHz〜100MHzできる。ここで、従来の装置では、光ビームを照射する際の周波数は、1Hz〜100kHzである。すなわち、分析装置では、従来の装置に比べて、光ビームをより高速に照射できる。
【0025】
ここで、光ビームを照射する際の周波数を高くするほど、発光を高速に検出できる。このため、本装置では、発光の寿命が短く従来の装置では分析の対象とすることができない物質も、問題なく分析できる。すなわち、本装置は、従来装置に比べてより広い範囲の物質を分析対象とする効果を奏する。
【0026】
また、本発明に係る分析装置では、前記分析用基板は円板形状であり、前記移動手段はスピンドルモータであることが好ましい。
【0027】
上記の構成によると、本装置では、円板形状の分析用基板が、スピンドルモータによって回転される。したがって、この回転により、分析用基板における所望のセルにアクセスして、光ビームを照射できる効果を奏する。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明に係る分析装置は、光ビームを、分析対象物が発する発光の寿命よりも短い長さにパルス化するパルス化手段を備えているため、照射した光ビームの反射光などのバックグラウンド光の混入を低減し、分析対象物が発する発光を高感度で検出できる効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の一実施形態について、図1〜図9を参照して説明する。なお、以下では、電気泳動によって試料を分析する分析装置60を説明する。この分析装置60では、電気泳動用の泳動路57が、試料を展開させるセルに相当する。
【0030】
図2は、本発明の一実施形態に係る分析装置60において使用する分析用基板1の要部、および、この分析用基板1に光ビーム(レーザビーム)を入射させた状態を示す縦断面図である。図2に示す断面は、流路8において試料などを含んでいる溶液を流す方向に垂直な面に相当し、かつ、案内溝5に沿った方向に分析用基板1を切断する面に相当する。
【0031】
図2に示すように、分析用基板1は、基板13と、この基板13の上に順次形成されている反射層3および絶縁層4と、カバー層7と、基板13とカバー層7とを接着している接着層6とを備えている。
【0032】
基板13は、透明材料(プラスチック、ガラス等)によって、形成されており、厚さは1.1mmである。この基板13は、ディスク形状に形成されていることが好ましい。これにより、光ディスクにおいて確立されている技術を活用できるため、高速に使用でき、かつ安価に構成できる分析用基板1を実現できる。
【0033】
カバー層7は、基板13と同じく、プラスチックやガラス等の透明材料を用いて、ディスク形状に形成されている。このカバー層7は、少なくとも下記に示す流路8を密閉する形状であればよい。カバー層7は、0.1mmの厚さに形成されていることが好ましい。分析用基板1においてカバー層7が形成されている側は、図1に示すように、光ビームが入射する面に相当する。
【0034】
基板13において反射層3等が形成されている側の面には、溝形状の流路溝14が成型されている。この流路溝14の両側には、隔離部12および案内溝11が成型されている。これにより、流路溝14は、試料や試薬、バッファなどを流す流路8を形成する。流路溝14の幅および深さは、数μm〜数百μmとすることが好ましい。
【0035】
基板13において流路溝14が形成されている側の面には、光ビームを案内する案内溝11が設けられている。この案内溝11は、基板13の表面において、反射層3および絶縁層4の積層後に、案内溝5を形成する。案内溝11は、流路溝14と重ならない位置に成型されている。換言すると、流路溝14の形成位置に、案内溝11は形成されていない。そのため、反射層3および絶縁層4も形成されていない。なお、案内溝11の深さは数十nm、幅は100nm〜数百nm、ピッチは数μm〜数十μmとすることが好ましい。
【0036】
隔離部12は、基板13において流路溝14を形成する側の面において、流路溝14の側縁部に沿って凸状に形成されている。この隔離部12は、流路溝14と案内溝5とを隔離している。この隔離状態は、流路8(流路溝14)を満たしている溶液が、案内溝5へ漏れることを防止する。
【0037】
図11に示す従来例の問題を説明する。図11に示す従来例では、光ビームを照射することによって、試料96および試薬93は、励起され、化学的または物理的変化を起こす。しかし、このとき生じる発光(化学発光、蛍光等)は、反射膜98によって遮られる。したがって、発光を、対物レンズ102を通じて検出できない。
【0038】
仮に、発光が、反射膜98をわずかに透過したとしても、このとき、照射したレーザビーム100の一部が、手前の反射膜98によって反射されている。この反射光は、発光に付加される、バックグラウンド光となる。すなわち、図11に示す従来例では、検出した光に、バックグラウンド光が混入している。これにより、発光を、高感度で検出できない。
【0039】
一方、図2に示す分析用基板1では、図11に示す従来例において発生する問題は発生しない。すなわち、以下に説明するように、光ビームの反射光を低減できる。
【0040】
図2に示すように、分析用基板1では、照射した光ビーム(パルス化されたレーザビーム)は、光路a1,a2を通り、対物レンズ10を介して、分析用基板1に入射する。すなわち、光ビームは、案内溝11や反射層3によって遮られること無く、流路8へ入射する。ここでいう「遮られる」とは、「光ビームが、案内溝11において回折せずに散乱しないこと」を意味する。また、「光ビームが、反射層3によって反射されて、試料や試薬に到達し難くなること」も意味する。
【0041】
照射した光ビームが遮られることがないため、分析用基板1では、流路8内の試料および試薬を、十分な光量の光ビームによって照射できる。したがって、試料または試薬が光ビームによって励起されることによって生ずる発光を、高感度で検出できる。
【0042】
分析用基板1を作製する手順を以下に説明する。
【0043】
分析用基板1を作製するためには、まず、反射層3を、流路溝14を除いて案内溝11の領域に成膜する。反射層3を、隔離部12の領域の一部に成膜してもよい。しかし、流路溝14の領域には成膜しないようにする。反射層3を、少なくとも光ビームの波長(たとえば400nm、630nmや780nm)の光を反射する膜として成膜する。この条件を満たすため、反射層3を、アルミニウムや銀などの金属薄膜を用いて成膜すればよい。また、反射層3を、10〜50nmの厚みに成膜することが好ましい。なお、反射層3の成膜には、たとえばスパッタ蒸着法を用いればよい。
【0044】
分析装置60では、トラッキングサーボにより、光ビームを案内溝5へ追従させる。このとき、案内溝5において、光ビームは、反射される必要がある。反射層3は、この反射を行わせるためのものである。そこで、反射層3を、光ディスクの既知の反射層として使われている金属薄膜とすればよい。
【0045】
反射層3の上に、さらに、絶縁層4を、反射層3を覆うように成膜する。これにより、金属製の反射層3に、流路8内の溶液が直接的に触れることを防止できる。なお、絶縁層4の成膜には、SiN(窒化ケイ素)やSiO2(二酸化ケイ素)などの誘電体を使用すればよい。
【0046】
もし、絶縁層4を反射層3上に設けないと、流路8を流れる溶液が、反射層3に接触する。反射層3が金属薄膜である場合は、この接触により、流路8内に偽電極が形成されたり、流路8内の電場が乱されたりする。このことは、流路8内における良好な電気泳動を阻害する等の問題を引き起こす。
【0047】
反射層3の上に設けた絶縁層4を、カバー層7に、接着層6を介して接着させる。接着層6は、たとえばUV硬化樹脂を使用して、数μm〜数十μmの厚みに形成する。絶縁層4の表面には、結果的に、案内溝5および隔離部9を形成する。
【0048】
隔離部9は、接着層6に直接的に接着される。この隔離部9は、流路溝14を密閉し、かつ、流路溝14と案内溝5とを隔離する。これにより、隔離部9は、流路8(流路溝14)を満たしている溶液が案内溝5に漏れること、を防止する。
【0049】
以下に、本実施形態に係る分析装置60について、図1を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る分析装置60の構成を詳細に示すブロック図である。この図に示すように、分析装置60は、光学ピックアップ62を備えている。この光学ピックアップ62は、対物レンズ10、この対物レンズ10を駆動するアクチュエータ61、および、光学系部62aを含んでいる。この光学系部62aは、対物レンズ10およびアクチュエータ61以外の、たとえば光源(半導体レーザ)、フォトディテクタ、ビームスプリッタ、およびその他の、光学ピックアップ62を構成するために必要な手段を備えている。
【0050】
分析装置60は、光学ピックアップ62に加えて、さらに、番地再生回路64、光量検出回路65、サーボ回路(トラッキング手段)63、メモリ66、パルス回路(パルス化手段)68、およびコントローラ69を備えている。
【0051】
光量検出回路65は、光学ピックアップ62によって検出された光学情報に基づき、試料や試薬において生ずる光学的変化(化学発光や蛍光など)の振幅を検出する。この光量検出回路65には、ローパスフィルタ、積分器、およびA/D変換器の少なくともいずれかが含まれる。これにより、光ビームの反射光および迷光が混入している検出光から、分析対象物の反応光を高感度で検出できる。
【0052】
番地再生回路64は、光ビームが分析ディスク50を走査することによって、光学ピックアップ62を通じて検出される信号から、分析ディスク50に設けられている番地情報記録部52の位置を読み取る。これにより、光ビームが、いずれの分析チップ55(電気泳動チップ)を横切って、分析ディスク50を走査したかを読み取る。さらに、泳動路57に沿ったいずれの位置を光ビームが走査したのかを示す、トラックの番地情報を取得する。
【0053】
分析装置60は、泳動路8へ、後述するように、パルス化された光ビームを照射する。分析装置60において、光学ピックアップ62から出射した光ビームは、対物レンズ10によって集光され、分析ディスク50の案内溝5、または番地情報記録部52に集光される。案内溝5または番地情報記録部52からの反射光は、再び、光学ピックアップ62に戻ってくる。光学ピックアップ62は、検出信号から、フォーカス誤差信号・トラック誤差信号j、および光量検出信号cを求める。
【0054】
光学ピックアップ62から出力されたフォーカス誤差信号・トラック誤差信号jは、サーボ回路63を介して、アクチュエータ61にフィードバックされる。これにより、アクチュエータ61は、フォーカスサーボおよびトラックサーボ処理を行う。
【0055】
光学ピックアップ62から出力された光量検出信号cは、番地再生回路64および光量検出回路65に入力される。番地再生回路64は、入力された光量検出信号cから番地情報gを検出し、検出した番地情報gを、コントローラ67および光量検出回路65に出力する。
【0056】
コントローラ67は、番地情報gに基づき算出した制御信号fを、サーボ回路63に出力する。入力された制御信号fに基づき、サーボ回路は、コントロール信号eをアクチュエータに出力する。コントロール信号eが入力されたアクチュエータ61は、光学ピックアップ62を所望の位置に移動させることによって、分析ディスク50における所望の位置に光ビームが照射されるようにする。なお、コントローラ67は、サーボ回路63をオンまたはホールド(保持)にする処理も行う。
【0057】
光量検出回路65は、番地情報gのトラック位置における泳動路57からの光量検出データhを出力する。すなわち、光量検出回路65は、いずれの分析チップ55の流路8であるかを示す流路識別情報(流路記号など)、トラック識別情報(流路上の位置を示すトラック番号)などの番地情報とともに、光量検出データhを出力する。なお、光量検出信号cのレベルは、分析に用いる試料(試薬)の光学特性に応じて決定される。このため、光量検出回路65は、たとえば、8ビットの分解能を有するA/D変換回路(サンプリング手段)を備え、検出光量をデジタルにサンプリングすることが好ましい。光量検出回路65が出力した光量検出データhは、メモリ66に格納される。メモリ66に格納された光量検出データhは、必要に応じて取り出される。
【0058】
パルス回路68は、コントローラ67からの指令に基づき、光学ピックアップ62が泳動路8に照射する光ビームを、パルス化する。パルス化されて照射された光ビームは、対物レンズ10を介して、泳動路8内の分析対象物を励起する。これにより、反応光が発生する。
【0059】
分析装置60では、上述した分析用基板1を用いて、泳動路57に流す溶液に含まれる分析対象物(試料、試薬等)を分析する。そこで、以下に、分析装置60において、分析用基板1を用いて溶液中の分析対象物を分析する際の、基本原理について説明する。なお、分析装置60では、ディスク形状の分析用基板1に限らず、他の形状の分析用基板を用いてもよい。
【0060】
分析装置60では、光学ピックアップ62が、分析用基板1に対して、光ビームを入射させる。このとき、光学ピックアップ62は、光ビームを、図2においてa1およびa2によって示される光路を通り、対物レンズ10によって集光され、案内溝5と同一平面上において焦点を結ぶように、制御する。
【0061】
図1に示す分析装置60では、光ビームの波長は400nmであり、対物レンズ10の開口数は0.85である。流路8に照射された光ビームは、流路8における接着層6の近傍位置に焦点を結ぶが、この理由は、後述するように、案内溝5に焦点を結ぶようにフォーカスサーボおよびトラックサーボを行うため、流路8においてはその延長上に焦点が結ばれるからである。焦点を結んだあと、光ビームは、発散し、流路8を流れる溶液に照射される。
【0062】
光ビームは、焦点近傍において1μm程度に集光される。したがって、流路8内の中央付近では広がって、励起光のエネルギー密度が十分に下がる。仮に、流路8内の中央において光ビームの焦点を結ぶと、溶液内の分析対象物を励起する励起光のエネルギー密度が、高くなりすぎるおそれがある。特に、溶液に蛍光分子が含まれる場合、蛍光分子の濃度が高いと、励起光が蛍光分子に次々と吸収される。そのため、光路上において、励起光が次第に減衰する。このことは、光ビームの量子収率(蛍光分子の発光効率)を低下させる原因となる。
【0063】
また、溶液内の蛍光分子の濃度が高いと、蛍光分子が発する蛍光が、励起光と同様に、周囲の蛍光分子によって吸収される。これにより、蛍光が流路8外に出る前に、蛍光の強度が減衰する。このことも、光ビームの量子収率を低下させる原因となる。そこで、これを防止するため、光ビームを、ある程度発散させて広げ、流路内8に広く一様に照射することが好ましい。これによって、蛍光分子を効率よく発光させることができる。
【0064】
しかし、上述したように、案内溝5と同一の平面状に、光ビームを集光させると、焦点近傍(流路8におけるカバー層7の近傍)において、光ビームは、1μmに集光される。すなわち、焦点近傍では、光ビームのエネルギー密度が高くなっており、分析対象物を加熱する原因となる。上述したように、分析対象物が加熱されると、量子収率の低下するこれにより、反応光の強度が低下し、さらに、反応光の寿命も短くなる。これを防止するため、後述するように、光ビームを移動させながら照射し、光ビームを一箇所に集光させないようにすることが好ましい。これによって、分析対象物の加熱を最小限に抑えることができる。
【0065】
以下に、分析装置60において流路8を電気泳動に使用する例を説明する。流路8を電気泳動に使用する場合、流路8に、試料や試薬を溶かした溶液を流す。この溶液に溶かす試料には、事前に何らかの蛍光分子を化学結合させておく。蛍光分子として、ANS(1−アニリノナフタレンー8−スルホン酸)、ピレン、またはDNS-CI(ダンシルクロリド)を用いることが好ましい。ANSを用いると、光ビームを照射されることによって蛍光分子が発する蛍光の波長は、515nmとなる。ピレンを用いると、蛍光の波長は480nmとなる。また、DNS-CI(ダンシルクロリド)を用いると、蛍光の波長は510nmとなる。
【0066】
以下では、波長515nmの蛍光を発するANSを蛍光分子として使用する例を説明する。
【0067】
まず、試料や試薬などの分析対象物を溶かした分析溶液を、流路8に満たす。溶液が流路8に完全に満たされてから、流路8に、波長400nmの光ビームを照射する。これにより、流路8を満たしている溶液に含まれる、試料に化学結合されているANSが、光ビームによって励起される。その結果、図2に示すように、波長515nmの蛍光a5が発生する。この蛍光a5の一部は、光路a6,a7を通り、対物レンズ10へ直接的に向かう。蛍光a5の他の一部は、光路a8,a9を通り、流路溝14における基板13の面によって一部が反射され、対物レンズ10へ向かう。蛍光a5のその他の一部は、基板13の面によって反射されずに、基板13を透過する。
【0068】
このように、ANSが発する蛍光a5は、光路a6〜a9を通って、対物レンズ10へ向かう。これにより、蛍光a5は、対物レンズ10を通じて光学ピックアップ62に導かれる。
【0069】
流路8に照射した光ビームのうち、一部(波長400nm)は、カバー層7の表面において反射され、対物レンズ10へ進む。ANSを励起しなかった光ビーム(波長400nmのうち変化が生じなかった光)の一部は、基板13の表面において反射される。光ビームの残りは、基板13を透過し、光路a3およびa4を通って、流路8から出て行く。
【0070】
光ビームの残りが流路8から出て行くのは、上述したように、流路8内に、金属薄膜による反射層3が設けられていないからである。すなわち、不要な光ビームの大部分は、流路溝14を透過し、光学ピックアップ62側へほとんど戻らない。これにより、反射した光ビーム(励起光)が、蛍光a5へ混入することを大幅に防ぐことができる。
【0071】
ただし、実際には、光ビーム(励起光)の反射を無くすことは困難である。すなわち、流路8から対物レンズ10へは、波長変化を伴った蛍光(波長515nm)と、蛍光を引き起こさなかったわずかな光ビームの反射光(400nm)とが混ざった光が進入する。換言すると、光学ピックアップ62が検出する光には、蛍光、および光ビームの反射光の両方が含まれている。以後、これら2つの光を合わせた光を、検出光と呼ぶ。
【0072】
分析用基板1を使用すれば、蛍光へ混入する光ビームの反射光の割合を減少できる。しかし、場合によっては、蛍光に混入する光ビームの反射光の強度が、蛍光の強度と同程度になることがある。このとき、蛍光に混入する反射光は、検出光におけるバックグラウンド光となる。このバックグランド光は、蛍光検出時における感度低下の原因となる。
【0073】
ここで、一般に、照射した光ビームの一部は、対物レンズから出射されずに、光ピックアップ内において反射および散乱を繰り返し、光ピックアップ内に閉じ込められる。これにより、集積化された光ディスクの光ピックアップにおいて、いわゆる迷光が発生する。迷光は、上述した光ビームの反射光と同様に、蛍光に混入する。したがって、光ピックアップ内のフォトディテクタによって、蛍光と同時に検出されてしまう。
【0074】
すなわち、仮に、光ビーム(励起光)の分析用基板1による反射光の混入を完全に防いだとしても、迷光が、蛍光に混入する。蛍光に混入した、バックグラウンド光としての迷光は、光ビームの反射光と同様に、蛍光検出時における感度低下の原因となる。光ディスクの光学ピックアップを使用する場合、このような、蛍光検出時において迷光が原因となって感度が低下するという、特有の問題が発生する。なお、分析装置60ではなく、通常の光ディスク記録再生装置における再生時は、記録されたビットからの反射光量が迷光の量よりも十分に多く、また容量結合によって交流成分のみを再生するため、迷光の影響は無い。つまり、光ディスクのピックアップを分析装置60に用いる場合のみ、迷光が感度の低下を招くという問題が発生する。
【0075】
そこで、本実施形態に係る分析装置60では、光ビームの反射光および迷光を低減し、蛍光を高感度で検出する。すなわち、分析装置60では、蛍光分子が発する蛍光の寿命を利用して、蛍光の高感度検出を実現する。そこで、この例について、図2〜図4を参照して、以下に説明する。
【0076】
図3は、パルス化された光ビーム、および光ビームを照射することによって蛍光分子が発する蛍光の、時間的な推移を説明する図である。この図に示す例では、光ビームを、時刻t0において、パルス化して照射する。ここで、照射する光ビームの幅は、1ns〜10nsである。この幅は、光学ピックアップ62によって、容易に得られる。
【0077】
照射された光ビームは、溶液中の試料に化学結合している蛍光分子を励起する。光ビームによって励起された蛍光分子は、時刻t0において、蛍光を発する。光ビームの照射を停止すると、蛍光の強度は、指数関数的に減衰する。このときの減衰速度は、蛍光分子の種類によって異なる。
【0078】
図3では、蛍光強度のピークをPfで表す。また、蛍光強度が、ピークPfから、その1/eの大きさであるPf/eに減衰するまでの時間を、τで表す。このτは、一般に、蛍光の寿命と呼ばれる。
【0079】
通常の蛍光分子が発する蛍光の寿命は、1ns以下であり、非常に短い。一方、上述した蛍光分子ANSの蛍光寿命は、11.1nsである。また、ピレンの蛍光寿命は130nsであり、DNS-CIの蛍光寿命は12nsである。これら蛍光分子の寿命は、通常の蛍光分子が発する蛍光の寿命に比べると、比較的長い。なお、これら3種の蛍光分子の中では、ピレンの蛍光寿命が最も長い。
【0080】
図3に示す例では、時刻t0において、パルス化された光ビームを照射する。そして、光ビームを照射してから、時間td(0<td<τ)が経過した後において、光学ピックアップ62を通じて、蛍光を検出する。この時刻tdが、蛍光をサンプリングするサンプルタイミングである。このようにすれば、光ビームの照射を停止した後の、光ビームの照射を休止している休止期間であって、かつ、蛍光の寿命よりも前の期間において、蛍光を検出できる。これにより、蛍光に、光ビームの反射光および迷光が混入することを避けることができる。そのため、蛍光のみを高感度で検出できる。なお、たとえτ以後でも蛍光強度が十分に得られるならば、td>τとしてもよいが、通常はなるべく大きな蛍光強度を得るために、0<td<τする方が好ましい。
【0081】
分析装置60では、光ビーム照射の休止期間において、光ビームの反射光および迷光が、完全に消失していることが望ましい。しかし、現実には、蛍光を検出するとき、反射光および迷光が完全に消失している状態にすることは、困難である。そこで、蛍光検出時における感度を低下させない程度に、反射光および迷光が減衰していればよい。すなわち、蛍光の減衰後の期間を、光ビーム照射の休止期間としてよい。なお、td後の蛍光強度の減衰分だけ感度が低下することになるが、この感度低下が迷光や反射光による感度低下よりも十分に小さければ、tdは自由に設定することができる。
【0082】
以上に、図3を参照して、パルス化された光ビームを一回照射した場合における、蛍光の検出手順を説明した。しかし、分析装置60では、蛍光を検出するために、パルス化された光ビームを複数回照射してもよい。これにより、蛍光検出時における感度を、さらに向上できる。そこで、この例について、以下に、図3を参照して説明する。図4は、パルス化された光ビームを複数回、連続して照射し、蛍光を複数回検出する際の、光ビームの照射および蛍光の検出のタイミングを示す図である。
【0083】
図4に示す例では、パルス化された光ビームを、周期Tの間隔で、時刻t1、t2、t3、t4、・・・において、複数回照射する。このときの光ビームの照射幅tpは、上述したように、1ns〜10nsである。
【0084】
時刻t1において光ビームを照射した後、蛍光分子が発する蛍光は、次第に減衰する。しかし、最初の光ビームを照射してからT秒後(繰り返して照射する光ビームの周期Tに相当)の時刻t2に、再び、同一パルス幅の光ビームを照射する。このため、蛍光分子は、同一強度の光ビームによって再び励起され、同一強度の蛍光を発する。したがって、蛍光の強度が完全に減衰して、零になってしまうことはない。
【0085】
本実施形態では、使用する蛍光分子の寿命τに応じて、周期Tの値を適宜設定する。たとえば、T=τ/2とすると、ピレンを使用する場合、周期Tを65nsに設定する。ANSやDNS-CIを使用する場合、周期Tを、ピレンを用いる場合と比べてより短い、5〜6nsに設定する。
【0086】
蛍光の寿命τに比べて、パルス化された光ビームの照射期間tpを、できるだけ短くすることが好ましい。光ビームの照射期間tpを短くするほど、蛍光に混入される光ビームの反射光および迷光の割合が、より小さくなる。したがって、蛍光検出時における感度をさらに向上できる。
【0087】
そこで、分析装置60では、照射時間tpをできるだけ短くし、かつ、蛍光寿命τができるだけ長い蛍光分子を使用することが好ましい。たとえば、tp=1ns、T=65ns、かつ、τ=130nsの条件では、光ビームを、周期Tの1/65の期間、照射することになる。これにより、光ビームの照射を停止した後の、残りの大部分の期間において、蛍光のみを検出できる。
【0088】
対物レンズ10を通じて検出される検出光は、光ビームの反射光と蛍光の和になり、これにさらに、迷光が加わる。この検出光の強度を、光学系部62a内のフォトディテクタが電気信号に変換する。フォトディテクタが検出した電気信号は、ローパスフィルタや積分器が平均化する。これにより、検出光の強度を示す信号に含まれる、光ビームの反射光成分および迷光成分を低減できる。すなわち、信号における蛍光成分の割合が、増加する。したがって、蛍光検出時における感度を、さらに向上できる。
【0089】
このように、分析装置60では、パルス化された光ビームの照射期間を、蛍光の寿命よりも十分に短くする。これにより、光ビームの照射期間と、その後に発生する蛍光の持続期間とを、時間的に分離できる。このようにして蛍光を検出することによって、検出光に混入する光ビームの反射光、および迷光の割合を、できるだけ低減できる。したがって、蛍光を高感度で検出できる。
【0090】
分析装置60では、光ビームは、案内溝11によって所望の泳動路57へ誘導される。そのため、泳動路57内において、光ビームが照射される。これにより、所望の泳動路57にアクセスして、蛍光を高感度で検出できる。
【0091】
平均化して検出した蛍光には、依然としてわずかに、光ビームの反射光成分、および迷光成分が含まれている。このとき、減衰する蛍光強度を周期Tにおいて積分した量に比べて、光ビームの反射光と迷光の強度を周期Tにおいて積分した光量が十分に小さければ、感度が向上する。しかしながら、蛍光分子に固有の吸収係数と量子効率によっては、蛍光の量が十分に得られず、感度が上がらない場合がある。そこで、蛍光のみが生じている期間に、サンプリングすることが好ましい。これにより、蛍光に含まれる光ビームの反射光成分、および迷光成分を、さらに低減できる。たとえば、光ビームを照射してからtd秒後のサンプルタイミングにおいて、蛍光を検出する。このとき、サンプリングのタイミングは、時刻t1+td,t2+td,t3+td,t4+td・・・となる。
【0092】
サンプリングされる蛍光の強度は、図4において破線で示すように、蛍光のピーク強度Pfに比べて、若干、低下している。しかし、光ビームの反射光および迷光が消失している期間に、蛍光をサンプリングしているため、蛍光のみを高感度で検出できる。
【0093】
このように、分析装置60では、光量検出回路65が、光ビームの照射を休止している期間において、蛍光分子が発する蛍光を検出する。これにより、発光を、光ビームの照射期間には検出せず、光ビームの休止期間において検出する。このため、蛍光のみを検出できるため、蛍光を高感度で検出できる。
【0094】
このとき、蛍光の寿命に比べて光ビームの照射期間を十分に短くすることを、特に要しない。すなわち、光ビームの照射を休止している期間において、蛍光をサンプリングするのみでよい。しかし、できれば、光ビームの照射時間を短くすることによって、サンプリング周期Tを短くすることが好ましい。これにより、サンプリング回数を増やして、S/N比を向上できる。
【0095】
分析装置60では、光ビームの光源が半導体レーザであることが好ましい。これにより、CDやDVDなどで実現されている、光ビームをパルス化する技術を用いることができる。したがって、光ビームを照射する際の周波数Tを、1MHz〜100MHzに高速化できる。従来の分析装置では、光ビームを照射する際の周波数は、1Hz〜100kHzである。すなわち、分析装置60では、光ビームの照射周波数Tを、従来の装置に比べて、大幅に向上できる。
【0096】
ここで、光ビームの照射周波数(1/T)を高くするほど、蛍光を高速で検出できる。また、寿命が比較的短く、従来の分析装置では使用に適さない蛍光分子であっても、分析装置60では、光ビームの照射周波数を高くしているため、問題なく使用できる。
【0097】
このように、分析装置60では、分析対象とする試料に合わせて使用する蛍光材料の自由度を大きく向上させることができる。そのため、分析対象そのものの範囲も、大幅に広げることができる。
【0098】
図5は、分析用基板1において、光ビームの走査により、光ビームが流路8を通過して、案内溝5のトラッキング領域に移った状態を示す分析用基板1の縦断面図である。
【0099】
この図に示すように、光ビームは、光路b1およびb2を通って、案内溝5に集光される。このとき、光ビームは、反射層3によって反射され、同じく光路b1およびb2を通って光学ピックアップ62へ戻る。これにより、光ビームは、案内溝5に追従できる。したがって、案内溝5を、流路8の所望の位置を横切るが、流路8には存在しないように、成型しておけばよい。これにより、流路8の所望の位置における試料を分析できる。
【0100】
後述するように、分析装置60では、流路8を通過する期間に、トラッキング制御が保持されている。そのため、流路8自体に案内溝5が存在しなくても、流路8を通過する前の案内溝5’から、その延長上にある案内溝5へと連続して、安定したトラッキングが行われる。
【0101】
図5に示すように、基板13における案内溝5の形成側(流路溝14の形成側)の反対側の面には、電極51(51a〜51d)が成膜されている。この電極51は、たとえば以下に示すように、スパッタ法を用いて導体を蒸着することによって、成膜する。後述する液溜・注入口41(41a〜41d)内にも、電極51と同時に導体を蒸着する。そのため、電極51(51a〜51d)と液溜・注入口41(41a〜41d)とは、互いに接続される。
【0102】
図6は、分析用基板1に設けられている流路8および液溜・注入口41の構造を、断面において示す斜視図である。同図は、図2および図5の断面と同一の断面を含んでいる。また、説明の便宜上、成膜された各層を省略し、一例として電気泳動を行う分析用基板1を示している。
【0103】
基板13には、上述した流路溝14および案内溝5に加えて、液溜・注入口41が成型されている。この液溜・注入口41には、電極51が接続されている。電極51は、白金やアルミニウムの薄膜などの金属を使用し、スパッタ法などの任意の成膜手法により成膜する。
【0104】
図6には、基板13に設けられている、一対の液溜・注入口41および電極51を示す。しかし、後述するように、実際には、基板13に、複数対の液溜・注入口41および電極51が設けられている。
【0105】
液溜・注入口41に、試料および試薬を含んでいる溶液を注入する。上述したように、流路8内には、金属薄膜による反射層3が設けられていない。そのため、流路8内に偽電極が形成されたり、または、流路8内の電場が弱くなったりすることがない。
【0106】
金属薄膜である反射膜3を、流路8および液溜・注入口41には成膜せず、案内溝5の領域に成膜する。これは、電気泳動などにおいて発生する電界を乱さないようにするためである。これにより、流路8への光ビームの入射側の面には、案内溝5および反射膜3が設けられない。そのため、光ビームは、流路8において遮られたり散乱されたりすることが無い。換言すれば、光ビームは、流路8内の溶液に、最大限に照射される。この結果、光ビームによって励起された試料が発する発光(化学発光や蛍光)も、遮られること無く、光学ピックアップ62へ導かれる。
【0107】
なお、照射する光ビームの波長や、対物レンズ10の開口数に応じて、案内溝5の幅を適切な値に設定すればよい。たとえば、分析用基板1を使用する分析装置60では、上述したように、光源から照射される光ビームの波長は、400nmである。また、光学ピックアップ62内の対物レンズ10の開口数は、0.85である。この場合、集光された光スポットの径は、約500nmとなる。そのため、案内溝5の幅を、100〜400nmに設計することが好ましい。
【0108】
一般に、通常の光ディスクにおける案内溝のピッチは、300nm〜1μmである。これは、ピッチを出来るだけ短くして、高密度記録を行うためである。しかし、分析ディスク50では、電気泳動などの分析を行うため、このような精細なピッチは必要ない。すなわち、分析ディスク50における案内溝5のピッチは、数μm〜数十μmとすることが好ましい。これは、分析対象物の分解能(電気泳動の場合はバンドの分解能)に依存するため、案内溝5のピッチを、通常の光ディスクに設けられる案内溝5のピッチに比べて、より大きくすることが好ましいからである。この値は、通常の光ディスクにおける案内溝のピッチの値の、約10倍〜100倍となる。
【0109】
案内溝5は、通常のCDおよびDVDと同様に、基板13上において、スパイラル状態に形成されている。そのため、分析ディスク50は、1回転すると、案内溝5のピッチに相当する量だけ離れた、流路8に沿った位置に戻ってくる。これによって、1回転毎に、光ビームが、流路8に沿って順次、移動する。そのため、光ビームは、流路8の全体を走査できる。
【0110】
分析対象物の検出分解能は、分析対象物を走査する案内溝5のピッチに等しくなる。そのため、案内溝5のピッチを大きくするほど、分解能が低下する。しかし、電気泳動などの分離されたバンド幅(10μm〜100μm)と同等のピッチであれば、実用上、分解能は低下しない。それどころか、分析ディスク50の1回転当たりの光ビームの移動量が大きくなるため、分析対象物を流路8に沿ってより高速で走査できる。そのため、案内溝5のピッチを、5μm〜100μmとすることが好ましい。このとき、光ビームの流路8に沿った走査速度は、10倍〜100倍に向上する。
【0111】
以上に、光ビームをカバー層7側から照射する例を示した。これに加えて、分析装置60では、逆に、基板1側から光ビームを照射してもよい。この場合、カバー層7側から光ビームを照射するときと同様に、流路8において光ビームは反射しない。したがって、発光(化学発光や蛍光)のみが入射側へ進むため、発光を高感度で検出できる。このように、分析用基板1における光ビームの入射面では、少なくとも流路溝8の基板13側と、この基板13に接するカバー層7側との両方に、光ビームを反射する反射層3が存在しなければよい。
【0112】
図7は、分析用基板1を用いてディスク形状に形成されている分析ディスク50の構成を示す平面図である。この分析ディスク50を用いれば、電気泳動による試料分析を行うことができる。
【0113】
分析ディスク50には、図7に示すように、中心穴53および切欠き部54が設けられている。中心穴53を通じて、分析ディスク50を、分析装置60のターンテーブルの中心に固定する。切欠き部54によって、分析ディスク50の回転角度を固定する。
【0114】
分析ディスク50には、電気泳動を行うために必要な分析チップ55が4つ、搭載されている。各分析チップ55は、泳動路57、4個の液溜・注入口41a〜41d、および4個の電極(電源接続配線)51a〜51dを備えている。泳動路57は、十文字に形成されており、流路8に相当する。液溜・注入口41a〜41dは、泳動路57の端部に設けられ、液溜・注入口41に相当する。電極(電源接続配線)51a〜51dは、液溜・注入口41a〜41dに接続され、電極51に相当する。
【0115】
分析チップ55の構造は、電極51a〜51dを除けば、一般に使われている分析チップの構造と同等である。この構造は、たとえば、特開2003−66003公報(平成15年3月5日公開)において、試料の分析例と共に開示されている。
【0116】
泳動路57は、第1泳動路57aおよび第2泳動路57bからなる。第1泳動路57aは、分析ディスク50の径方向に延長する。第2泳動路57bは、第1泳動路57aに直交する方向に延長する。このように、第1泳動路57aおよび第2泳動路57bは、分析ディスク50において、十字形をなすように配置されている。
【0117】
各液溜・注入口41a〜41dは、4個の泳動路57の各端部において、連続して接続されるように、各1個が配置されている。具体的には、第1泳動路57aの一端部には液溜41bが、他端部には41dが配置されている。また、第2泳動路57bの一端部には液溜41aが、他端部には41cが配置されている。
【0118】
泳動路57の幅および深さは、数μm〜数百μmである。液溜・注入口41a〜41dの直径は、数百μm〜数mmである。このような、幅が非常に細い泳動路57は、一般に、マイクロキャピラリと呼ばれている。泳動路57は、上述したように、カバー層7によって密閉されている。液溜・注入口41a〜41dには、試料や試薬などを含む溶液が注入される。そのため、液溜・注入口41a〜41dは、分析ディスク50の表面に露出している。
【0119】
本実施形態では、電極51a〜51dは、分析ディスク50の最内周部に引き出されて形成されている。これらの電極端部には、分析装置60から、コネクタを介して、電気泳動用の電源が供給される。
【0120】
具体的には、液溜・注入口41aには電極51aが、液溜・注入口41bには電極51bが、液溜・注入口41cには電極51cが、液溜・注入口41dには電極51dが、それぞれ、接続されている。電極51a〜51dは、白金やアルミニウムなどの金属薄膜を、スパッタによって成膜して形成する。なお、本実施形態では、分析チップ55を、電気泳動用のものとして説明している。これに加えて、分析チップ55では、インキュベーションやカラムクロマトグラフィーなどを行ってもよい。
【0121】
分析ディスク50を用いた分析プロセス(電気泳動プロセス)では、液溜・注入口41a〜41dに、バッファ溶液を注入する。次に、サンプル溶液(たとえばDNA断片溶液)を、液溜・注入口41aに注入する。その後、電極51cを、プラス電圧電源(数十〜数百ボルト)に接続する。また、電極51aを、グラウンド(アース)に接続する。
【0122】
このとき、電極51bおよび電極51dを開放しておく。これにより、液溜・注入口41cに、プラス電圧(数十〜数百ボルト)が印加される。一方、液溜・注入口41aにはゼロ電位が印加される。ここで、注入したサンプル(DNA断片)は、マイナスに帯電されている。したがって、注入したサンプルは、泳動路57(マイクロキャピラリ)の中を、液溜・注入口41a(マイナス電極)から液溜・注入口41c(プラス電極)へ向かって、泳動する。
【0123】
サンプル溶液に含まれるサンプルが、泳動路57における十文字の交点に到達したときに、液溜・注入口41a,41cを、電気的に開放する。その一方で、電極51dをプラス電圧電源(数十〜数キロボルト)に接続する。また、電極51bを、グラウンドに接続する。これにより、電気泳動用の電極は、電極51a,51cから、電極51b,51dへと切り替わる。
【0124】
この結果、液溜・注入口41dに、プラス電圧(数十〜数キロボルト)が印加される。また、液溜・注入口41bには、ゼロ電位が印加される。これにより、注入したサンプルは、泳動路57の中を、液溜・注入口41bから、液溜・注入口41dへ向かって泳動する。
【0125】
なお、このような、マイクロキャピラリを用いた電気泳動分析の原理は、一般に良く知られている。そのため、これ以上の詳細な説明を省略する。
【0126】
図5に示すように、電極51a〜51dは、分析ディスク50において、光ビームの入射面に反対する面に形成されている。この構成により、照射した光ビームは、電極51a〜51dによって遮られることがない。したがって、蛍光検出時における感度を、高く保つことができる。また、案内溝5におけるトラッキングを乱すことも無い。さらに、電極51a〜51dの配線の自由度が増すため、分析ディスク50をより容易に製造できる。また、電極51a〜51dを配線するために必要な面積を、十分に広く取ることができる。これにより、配線の抵抗値を低く押さえ、電源電圧を効率的に供給できる。
【0127】
分析ディスク50には、他に、案内溝5と、番地情報を記録した番地情報記録部52とが設けられている。案内溝5および番地情報記録部52があるため、複数の泳動路57のうちの所望の泳動路57に、光ビームを選択的に照射できる。すなわち、泳動路57における第2泳動路57aに沿った所望の位置を、光ビームによってアクセスし、かつトラッキングしながら、検出対象を検出(分析)できる。
【0128】
具体的に説明すると、分析ディスク50には、4個の分析チップ55が、それぞれ、互いに90度の角度をおいて設けられている。これらの隣り合う分析チップ55における、隣り合う泳動路57の間には、分析ディスク50の径方向に並ぶ、多数の案内溝5が形成されている。これらの案内溝5における中途位置には、番地情報記録部52が設けられている。したがって、照射された光ビームは、1つのトラック(案内溝5)内を、案内溝5のトラッキング領域、番地情報記録部52、案内溝5のトラッキング領域、泳動路57の順に、繰り返し走査する。
【0129】
また、分析ディスク50は、上述したように、ディスク形状である。この分析ディスク50は、後述するスピンドルモータ74によって回転する。分析ディスク50の回転によって、光ビームを案内溝5に沿って走査し、目標の泳動路57へ高速にアクセスする。また、泳動路57内を移動させながら、光ビームを照射する。さらに、光ビームを、泳動路57に沿った異なる位置に移動させながら、照射できる。
【0130】
分析用基板1は、CDまたはDVDと同様のディスク形状であることが好ましい。このようにすれば、分析装置60を構成する部品(光学ピックアップ62、スピンドルモータ74等)の大半を、広く流通している既成品を使用し、低価格で構成することができる。したがって、分析装置60を、一般家庭に普及できる。
【0131】
図8は、分析ディスク50を設置して回転させるターンテーブル81の回転機構(移動手段)72、およびディスク押さえ71を示す斜視図である。同図では、ディスク押さえ71の上下を逆転させて記載している。これにより、ディスク押さえ71に形成されている接点(中継接続配線)77a〜77dを、明示している。
【0132】
回転機構72は、ターンテーブル81、回転軸73、スピンドルモータ74(移動手段)、ディスク中心出し部78、および回転角度固定具79を備えている。ターンテーブル81には、分析ディスク50を設置する。このとき、分析ディスク50の中心穴53を、ターンテーブル81のディスク中心出し部78に嵌め込ませる。
【0133】
すなわち、分析ディスク50の中心穴53に、ディスク中心出し部78が入る。また、切欠き部54に、回転角度固定具79が入る。これによって、分析ディスク50において、回転中心とターンテーブル81に対する回転方向の角度が、固定される。このため、分析ディスク50の電極51a〜51dと、ディスク押さえ71の接点77a〜77dとが、互いにずれることなく接続される。したがって、ターンテーブル81に対する分析ディスク50の回転が、回転角度固定具79によって阻止される。
【0134】
ディスク中心出し部78は、ターンテーブル81において、凸状に設けられている。このディスク中心出し部78の周囲には、接点80a〜80dが設けられている。接点80a〜80dは、ディスク押さえ71の接点77a〜77dに接続される。
【0135】
分析ディスク50をターンテーブル81に設置すると、分析ディスク50に、固定用のディスク押さえ(スピンドルキャップ)71が配される。このディスク押さえ71は、分析ディスク50をターンテーブル81に固定する。このとき、ディスク押さえ71は、一般に良く知られているように、分析ディスク50に対して上部から加える圧力、または磁気力を利用する。
【0136】
ディスク押さえ71には、接点77a〜77dが設けられている。これらの各接点77a〜77dは、ディスク押さえ71の下面から、中心穴75の内面に向かって延びている。また、分析ディスク50の各電極51a〜51d、およびターンテーブル81の各接点80a〜80dに、対応する。
【0137】
接点77a〜77dにおけるディスク押さえ71の下面部分は、分析ディスク50の電極51a〜51dに接触する、第1接触部77a1〜77d1である。中心穴75の内面に延長する部分は、ターンテーブル81のディスク中心出し部78における接点80a〜80dに接触する第2接触部77a2〜77d2である。
【0138】
ディスク押さえ71の接点77a〜77dは、第1接触部77a1〜77d1、および第2接触部77a2〜77d2を備えている。分析ディスク50にディスク押さえ71が配されると、分析ディスク50の電極51a〜51dは、第1接触部77a1〜77d1接続される。また、ターンテーブル81の接点80a〜80dは、第2接触部77a2〜77d2に接続される。
【0139】
この接続により、分析ディスク50の各分析チップ55へ、ターンテーブル81および回転軸73を介して、電力が供給される。これにより、分析ディスク50を回転させながら、分析チップ55において電気泳動を行うことができる。すなわち、電気泳動を行いながら、分析ディスク50を高速に回転させる。これにより、光ビームを照射することによって、分析対象物が発する発光を、高速に検出(分析)できる。
【0140】
図9(a)は、案内溝5に沿った延長領域において光ビームが走査する領域の種類を時系列で示す図である。図9(b)は、照射される光ビームの光量を概略的に示す波形図である。図9(c)は、分析装置60において処理される制御信号fの波形を概略的に示す波形図である。図9(d)は、同じく光量検出信号cの波形を概略的に示す波形図である。図9(e)は、同じく光量検出データhの波形を概略的に示す波形図である。
【0141】
分析ディスク50が、図7に示す矢印Y方向に回転している状態において、図1に示す光ビームは、案内溝5のいずれかを走査する際、図9(a)に示すように、まず、案内溝5のトラッキング領域を通過する。その後、光ビームは、順次、番地情報領域、トラッキング領域、泳動路領域、トラッキング領域へと移動していく。
【0142】
光ビームは、最初のトラッキング領域においては、案内溝5をトラッキングするのみである。そのため、図9(b)に示すように、光ビームの強度を、弱い一定レベルとする。具体的には、照射パワーを0.2〜1mWとする。また、図9(c)に示すように、制御信号fをハイレベルとし、サーボをオンにする。このとき、光量検出信号cは、図9(d)に示すように、一定レベルとなる。すなわち、光量検出信号cは、反射膜3からの反射強度レベルを示す。この反射強度レベルは、反射率に基づき予知できる。
【0143】
続いて、光ビームが番地情報領域に移動したとき、上記のトラッキング領域と同じように、光ビームの強度を、弱い一定レベルに保つ(図9(b))。同時に、制御信号fもハイレベルのままとし、サーボもオンにしておく(図9(c))。この場合、番地情報記録部(凹凸のピットの断続)52によって光ビームが回折するため、光量検出信号cには、番地情報が現れる(図9(d))。ピットにおける回折の有無によって、信号の振幅が低下したり、元に回復したりする。このような回折による信号振幅の低下量も、容易に予知できる。
【0144】
次に、光ビームがトラッキング領域に再び移動したとき、光ビームの強度を、弱い一定レベルに保つ(図9(b))。同時に、制御信号fもハイレベルに維持し、サーボもオンにしておく(図9(c))。この場合、光量検出信号cは一定レベル、すなわち、反射膜3からの反射強度レベルとなる(図9(d))。
【0145】
次に、光ビームが流路領域(泳動路57、流路8)に移動すると、光ビームの強度を、パルス状に上昇させる(図9(b))。具体的には、光ビームのピーク値を上げ、強い蛍光が生じるようにする。このとき、光ビームの照射強度を1〜3mWとする。制御信号fをローレベルとし、サーボをホールド(保持)する(図9(c))。この場合、流路8にパルス化された光ビームが集光される。そのため、光量検出信号cには、試料や試薬における光学的変化(蛍光)に応じて、図3を参照して説明した、蛍光寿命に対応した電圧波形が生じる(図9(d))。
【0146】
このとき、上述した光量検出回路65が有するA/D変換回路(サンプリング手段)が、実線で示す光量検出データhをサンプリングする(図9(e))。なお、分析溶液が流路8上の光ビームの走査位置に存在しないとき、図9(e)の破線で示すように、検出データhはサンプリングされない。
【0147】
以下に、泳動路57において照射する光ビームのパルス数について説明する。上述したように、泳動路57の幅wは数μm〜数百μmであるが、以下では、100μmの例を説明する。ディスク形状の分析用基板1のサイズを、CDまたはDVDと同一のサイズ(半径60mm)とする。また、放射状に伸びる泳動路57における光ビームの照射領域rを、30〜50mmとする。さらに、ディスクの回転周波数fを30Hz(1800rpm)とする。
【0148】
ここで、泳動路57を光ビームが通過する時間tは、t=w/(2πrf)となるから、上述した条件では、t=11μs〜18μsである。したがって、パルスの周波数が1MHzであれば、通過時間内に、約10〜18発の光ビームのパルスを移動しながら照射できる。また、周波数が100MHzであれば、約1000〜1800発の光ビームのパルスを照射できる。光ビームのパルスの照射回数を多くするほど、蛍光の検出回数を多くできる。したがって、蛍光をより高感度で検出できる。
【0149】
続いて、光ビームが再びトラッキング領域に移動したとき、光ビームの強度を、再び弱い一定レベルとする(図9(b))。同時に、制御信号fをハイレベルとし、サーボをオンにする(図9(c))。この場合、光量検出信号c(図9(d))は、元の上記一定レベルとなる。
【0150】
なお、光ビームが泳動路57を横切る時間が、サーボ制御を乱さないほど十分に短ければ、光ビームは、サーボ帯域よりも高い周波数で横切る。したがって、安定してトラッキングサーボを行うことができる。この場合、上記のようにサーボのオンまたはホールドの切り替えは必要ない。しかし、光量検出データhのサンプリングのみは必要となる。
【0151】
このように、分析装置60では、案内溝5が泳動路57(流路8)によって途切れると、光ビームの追従を保持するトラッキング制御が行われる。これにより、泳動路57(流路8)を通過する前におけるトラッキング状態を、泳動路57(流路8)の通過後に維持できる。このため、泳動路57(流路8)によってトラッキングサーボが乱されることがない。そのため、光ビームを、泳動路57(流路8)における所望の位置に、安定してアクセスできる。
【0152】
分析装置60では、光量検出回路65に備えられるA/D変換回路が、各光ビームを照射した直後に発生する各蛍光をサンプリングする。これにより、図9(e)において実線で示す、光量検出データhを取得できる。ここで、図3において示すように、光ビームの照射期間が蛍光の寿命に比べて十分短いとき、光ビームの照射ごとに蛍光をサンプリングする必要はない。すなわち、信号をローパスフィルタや積分器によって平滑化するのみで、蛍光検出の際のS/N比を向上できる。なお、上述したA/D変換器の代わりに、サンプルホールド回路を使用してもよい。
【0153】
上述したように、分析装置60では、蛍光分子が発する蛍光の寿命よりも短い、パルス化された光ビームを照射する。これによって、光ビームのパルス照射期間を、光ビームのパルス照射後に生じる蛍光の持続時間に比べて、短くできる。したがって、検出される検出光に含まれる光ビームの反射光の割合を低減させ、蛍光の割合を増加させることができる。しかも、光ビームは、案内溝5によって所望の泳動路57へ誘導されるため、所望の泳動路57にアクセスして、蛍光を高感度で検出できる。
【0154】
また、分析装置60では、光量検出回路65が、光ビームの照射を停止している期間において、検出光をサンプリングする。すなわち、検出光を、光ビームの照射期間には検出せず、光ビームの休止期間において検出する。これにより、検出光の大部分を蛍光が占めるため、同様に、蛍光を高感度で検出できる。
【0155】
この場合、蛍光の寿命に比べて、光ビームのパルス照射期間を十分に短くする必要はない。すなわち、光ビームの休止期間において、検出光をサンプリングするのみでよい。しかし、光ビームの照射期間を短くして、光ビームの照射周期、および発光のサンプリング周期を、出来るだけ短くすることが好ましい。これにより、サンプリング回数を増やして、S/N比を向上できる。
【0156】
また、泳動路57(セル内)を移動させながら光ビームを照射するため、1パルスごとに、泳動路57内の異なる位置に光ビームを照射する。これにより、光ビームを複数の箇所に分散して照射するため、光ビームの照射位置における熱の発生を、最小限に抑えることができる。もし、温度が上昇すると、量子収率の低下によって蛍光強度が低下し、また、蛍光の寿命が短くなる。しかし、このようにして、発熱を抑えれば、蛍光の強度を上げ、かつ、その寿命を長くできる。したがって、蛍光検出時における感度の向上を維持できる。
【0157】
また、本実施形態では、光ビームを、セルとしての泳動路57に照射している。しかし、光ビームを、泳動路57ではなく、他の形状のセルに照射してもよい。この例を、図10を参照して説明する。
【0158】
図10は、アッセイ用の微小なセル81が形成されている分析用基板1aの構造を示す図である。図10に示す分析用基板1aは、分析用基板1と同様に、ディスク形状である。この分析用基板1aには、上述した泳動路57の代わりに、アッセイ用のセル81が、多数、形成されている。各セル81のサイズは、いずれも、10μm〜1mmである。セル81間には、案内溝82が設けられている。ここで、分析用基板1aには、図示しない番地情報も設けられている。
【0159】
このように、分析用基板1aには、セル81に加え、案内溝82および番地情報が設けられている。したがって、分析用基板1aにおいても、所望の番地のセル81にアクセスして、光ビームを照射できる。
【0160】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる新たな実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。また、本発明は、電気泳動に限らず、ハイブリダイゼーション、インキュベーション、およびカラムクロマトグラフィーなどの、他のアッセイにおいても使用可能である。
【0161】
また、以上の実施形態ではディスク形状の分析用基板に対する分析装置について説明したが、高感度で検出する本願の特徴は、ディスク形状に限らず、カード型の分析用基板に適用可能である。しかし、広く一般に普及させるためには、やはりディスク形状の分析用基板を使用して、光ディスクの光学ピックアップによって高速アクセスを行なう方がよい。
【0162】
また、本願の分析装置は、分析用基板からの反射光に含まれる発光を高感度で検出する例を示したが、これに限らず透過光や、あるいはそれ以外の方向で検出する場合も、装置全体の迷光を低減して高感度の検出が可能である。しかし、迷光が最も大きいのは光学ピックアップ内であるため、反射光における高感度検出に最も効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0163】
本発明は、DNA、RNA、またはタンパク質などの生体試料を含む、広範囲の分析対象物を分析する分析装置として利用できる。また、本発明は、高精度の診断を容易に安価で行うために、光ディスクの技術と生体分析チップの技術を融合させたものである。したがって、患者の住居の近所にある治療拠点、あるいは患者の居住する家庭内において、身近なデジタル医療分析機器を普及させることに大きく貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】本発明に係る分析装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る分析装置において使用する分析用基板の要部、およびこの分析用基板に光ビームが入射している状態を示す縦断面図である。
【図3】パルス化された光ビームを照射した場合の、蛍光の寿命の一例を示す図である。
【図4】パルス化された光ビームを複数回、連続して照射し、蛍光を複数回検出する際の、光ビームの照射および蛍光の検出のタイミングを示す図である。
【図5】図2に示す分析用基板において、光ビームの走査により、光ビームが流路を通過して、案内溝のトラッキング領域に移った状態を示す分析用基板の縦断面図である。
【図6】図2に示す分析用基板に設けられている流路および液溜・注入口の構造を、断面において示す斜視図である。
【図7】分析用基板を用いてディスク形状に形成されている分析ディスクの構成を示す平面図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る分析装置における、ターンテーブルの回転機構およびディスク押さえを示す斜視図である。
【図9】(a)は、案内溝に沿った延長領域において光ビームが走査する領域の種類を時系列で示す図であり、(b)は、照射される光ビームの光量を概略的に示す波形図であり、(c)は、分析装置において処理される制御信号の波形を概略的に示す波形図であり、(d)は、同じく光量検出信号の波形を概略的に示す波形図であり、(e)は、同じく光量検出データの波形を概略的に示す波形図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る分析装置に用いられる他の分析ディスクの構造を示す図である。
【図11】従来の分析用基板を示す概略の縦断面図である。
【符号の説明】
【0165】
1 分析用基板
3 反射層
4 絶縁層
5 案内溝
6 接着層
7 カバー層
8 流路
9 隔離部
10 対物レンズ
11 案内溝
13 基板
14 流路溝
50 分析ディスク(分析用基板)
51 電極(電源接続配線)
52 番地情報記録部
55 分析チップ
57 泳動路
60 分析装置
61 アクチュエータ
62 光ピックアップ
62a 光学系部
63 サーボ回路(トラッキング手段)
64 番地再生回路
65 光量検出回路
66 メモリ
67 コントローラ(トラッキング手段)
68 パルス回路(パルス化手段)
71 ディスク押さえ
72 回転機構
73 回転軸
74 スピンドルモータ(移動手段)
77a〜77d 接点
78 ディスク中心出し部
79 および回転角度固定具
81 ターンテーブル
a1,a2 光ビーム
a3,a4 透過した光ビーム
a5 蛍光
a6〜a8 対物レンズへ向かう蛍光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析用基板に形成されているセルに光ビームを照射するとともに、前記セルに展開されている分析対象物が前記光ビームを照射されることによって発する発光を検出する光学ピックアップを備えている分析装置において、
前記光ビームを、前記分析対象物が発する発光の寿命よりも短い長さにパルス化するパルス化手段をさらに備えていることを特徴とする分析装置。
【請求項2】
前記分析用基板には、前記光ビームを前記セルに案内する案内溝が形成されており、
前記光学ピックアップに対して、前記基板を前記案内溝方向に相対的に移動させる移動手段と、
前記案内溝からの前記光ビームの反射光を検出した信号に基づき、前記案内溝に前記光ビームを追従させるトラッキング手段とをさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
光ビームの照射ごとに同一セル内の異なる位置に光ビームが照射されるように、前記分析用基板を前記光ビームに対して相対的に移動させる移動手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項4】
前記光学ピックアップは、パルス化された前記光ビームを前記分析用基板に複数回照射し、かつ、前記分析対象物が発した発光を複数回検出することを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項5】
前記光学ピックアップは、前記光ビームの照射を停止している期間に、前記発光を検出することを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項6】
前記光学ピックアップにおいて、前記光ビームの光源は半導体レーザであることを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項7】
前記分析用基板は円板形状であり、
前記移動手段はスピンドルモータであることを特徴とする請求項2または3に記載の分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−226969(P2006−226969A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−44578(P2005−44578)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】