説明

分析装置

【課題】 マイクロ化学分析チップなどの分析装置においては、装置小型化に起因する分析装置の光軸の歪み・ズレなどの問題とともに、光学的屈折率の異なる境界が存在するため、光の一部が反射によって損失するので測定系の感度が低下してしまう問題があった。
【解決手段】 本願発明の分析装置は、流路を形成した光を透過する樹脂部材に発光素子と受光素子を密着して配置した構成とし、発光素子の光を流路に照射し、流路からの光を受光素子で受けて流路中の被分析物である試料の吸光分析又は蛍光分析をおこなうものである。本発明においては、各光学部品が樹脂部材に密着して一体化しているので、各部品間の相対位置は樹脂部材により固定される為、光学系の調整は不要となり、また、発光素子及び受光素子が樹脂部材に密着して一体化しているので、光の散乱が極めて少なくなり、高感度な化学分析装置が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微少量の被分析物を対象とした化学分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の研究で注目されているマイクロ化学分析チップ分野においては、透明基板に微細な流路を形成した分析チップを作成し、その流路中に被分析物である試料を入れて分析している。例えば、特許文献1に示すように、光学系部品と試料を収容する流路が別々に作製され、各部品の光軸が合うように組み立てられるものであった。光源から出射された光は光学部品の一つであるスリットを通って、少量の試料が流れる微小な流路に照射され、更に、流路を透過した光は第二のスリットを経由して受光素子に入射し、受光素子が出力する信号を使って吸光分析を行っていた。
【0003】
【特許文献1】特開2003-207454号公報(第6項、第4図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記、特許文献1に示した分析装置においては、光源・受光素子・流路の光軸を正確に調整する必要があり、流路の寸法が小さいマイクロ化学分析チップの場合は特にこの光軸調整は難しいものであった。また、分析チップを交換する毎に光学系の調整の手間を要する問題があった。また、従来の吸光分析器においては、これら光学部品の表面での反射がどうしても生じるため、光源光の利用効率が低かった。かかる問題に対しては、ハロゲンランプ等の強い光源を用いていて対応していたが、このため、装置の小型化には限界があった。
そこで、装置の小型化についての対策として、光学的な検出をするための光源、受光素子、流路を別々の構成部品とするのではなく、各部品を接着剤や高電界、あるいは熱を加える方法で接合し一体化する方法が提案されている。
しかしながら、こうした手法の装置小型化には、高電界や熱で接着する方法は微細な流路に変形などのダメージが加わる問題があり、また、接着剤を用いる方法では構成部材と接着材との光学的屈折率の異なる境界が存在するため、光の一部が反射によって損失するので測定系の感度が低下してしまう問題があった。その他にも、接着剤を使わずに各部品を加圧して固定する方法もあるが、加圧時に各構成部品のすべりや変形で各素子の位置がずれるなどの問題があった。
そこで、本願発明は、光学系の調整の手間をほとんど要しない高感度な化学分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明の分析装置は、流路を形成した光を透過する樹脂部材に発光素子と受光素子を密着して配置した構成とし、発光素子の光を流路に照射し、流路からの光を受光素子で受けて流路中の被分析物である試料の吸光分析又は蛍光分析をおこなう。
【発明の効果】
【0006】
この発明に係る分析装置においては、流路は樹脂部材に形成され、発光素子及び受光素子が樹脂部材に密着して一体化しているので、流路と発光、受光素子の相対位置は樹脂部材により固定される為、光学系の調整は不要となり、また、発光素子及び受光素子が樹脂部材に密着して一体化しているので、高感度な化学分析装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
実施の形態1
図1は、本発明の実施の形態1における分析装置の一部構成を示した図で、図1中の(a)は斜視図である。図1中の(b)は、図1中(a)のA−Aの断面図である。図中(a)において、支持基板1の上に試料が収容される流路6が形成された樹脂部材4が設置され、更に樹脂部材4の上に蓋5が設置されている。図中(b)において、発光素子2及び受光素子3が支持基板1の上に配置され、樹脂部材4に発光素子2及び受光素子3が埋め込まれており、樹脂部材4と発光素子2及び受光素子3は密着して一体化されている。流路6は、樹脂部材4に凹部が形成されたものであり、樹脂部材4の上部に蓋5が覆っているため全体として管状になっている。
【0008】
樹脂部材4の材質は、試料中に含まれる物質を測定するのに十分な透過率を有する材料である。例えば、樹脂部材4の材質はPDMS(ポリジメチルシロキサン)である。PDMSは、紫外域から可視光域の領域に対し約60%以上の透過率を有するので本発明の用途に適している。図1中の(b)において、被分析物である試料は、流路6中を流れ、流路6の端である開放端7を通して外部に排出される。発光素子2から発せられた光は、樹脂部材4を通過して流路6に入り、試料へ到達する。次に、試料へ到達した光は、試料中を透過し、再び樹脂部材4を通過して受光素子3へ入射する。
【0009】
本実施の形態1においては、支持基板1としてプリント基板を用い、プリント基板には、発光素子2の発光強度および発光時間などの制御をおこなう発光制御回路17、受光素子3が出力する信号電流を処理するための信号処理回路18が発光素子2及び受光素子3とともに実装されている。発光素子2は、樹脂部材4に埋め込める程度の光を発する小さな部品ならばなんでもよいが、本実施の形態ではLEDが使用されている。同様に、受光素子3も光を電気信号に変換する素子ならば何でも良いが、本実施の形態ではホトダイオードが使用されている。
【0010】
以下、本実施の形態1の分析装置の動作について説明する。この分析装置においては、吸光分析用試料を流路6へ流し、発光素子2からの光を流路6中の試料に照射する。発光素子2から出る光は、樹脂部材4を通過して流路6に入り、試料を透過し、再び樹脂部材4を通過して受光素子3へ入射するので、受光素子3は試料中の特定の物質の濃度によって異なる強度の信号を出力する。物質の濃度によって光の吸収率が異なるためである。発光素子2から出力される信号は、信号処理回路18に送られ、試料中に含まれる物質の濃度に換算される。具体的な処理としては、受光素子3の光に対する発生電流値を信号処理回路18の一部分であるスイッチドキャパシタ回路を用いて一定時間電流値を積分して物質の濃度に応じた信号電圧として取り出す方式である。即ち、この実施の形態1の構成は試料中の特定の物質の濃度を分析する装置として機能する。
【0011】
本実施の形態1の分析装置の作製方法について図2を用いて説明する。図2中の(a)から(f)は、図1中の(b)の構造を作成するときの工程順にしたがって示したものである。図2中の(a)から(b)に示すように、まず支持基板1に発光素子2および受光素子3を固定する。固定方法としては、半田付けによる固定でも良いし、また接着剤による固定でも良い。この場合、発光素子2の発光面8と受光素子3の受光面9は図中(b)に示したように上方に向けて固定している。また、支持基板1はプリント基板とすることができ、通常のプリント基板の実装技術が使用可能である。
【0012】
次に、図2中(c)に示すように、支持基板上1に重合前のPDMS(ポリジメチルシロキサン)を塗布する。重合前のPDMSは液状であるので、例えば半導体技術で用いられるスピンコート法などにより支持基板に塗布が可能である。重合は、触媒を添加して室温に24時間放置するのみでおこるので、PDMSに触媒を添加して支持基板に塗布し、固化するのを待つ。このとき重合固化する際に、図中(d)に示されるように金型10をPDMS表面に押し当てる。この金型10には凸部形状が形成されており、重合固化すると、図中(e)に示されるように、凸部形状を反映した凹部を有する樹脂形状が転写される。以上のようにして樹脂部材4が形成される。
【0013】
一方、流路6に蓋をすべくガラス基板または樹脂板、例えばPDMSの樹脂板で蓋5を別に作製して用意しておく。なお、例えばアルミ膜を蓋5の表面に設けておけば、発光素子2からの光を反射させる機能を効果的にもたせることができる。次に、図中(f)に示されるように、樹脂部材4と用意しておいた蓋5を張り合わせる。樹脂部材4の上部は、蓋5に覆われているため、全体として管状の流路6が形成される。この場合、接着のための表面改質として予め樹脂部材4の表面に酸素プラズマ処理を行い、プラズマ処理後速やかに樹脂部材4と蓋5を接着する。樹脂部材4の表面を改質する場合のプラズマ条件は、RFパワー50Wでおよそ10秒程度の処理で十分である。この処理によって、PDMS同士やPDMSとガラスおよび樹脂との接着性を高める効果がある。
【0014】
支持基板1上の発光素子2、受光素子3及び回路部品との接続配線の作成方法は、プリント基板に電子部品を結線するときに通常行われるプリント配線技術等の実装技術によって行うことができる。また、発光素子2、受光素子3等と外部との電気的な接続は、図中(f)に示す様に、支持基板の開口部に金属を成膜して基板背面に電極11を形成し、これを外部との接点として接続をおこなう。
【0015】
本実施の形態1の構造は受光素子3、発光素子2および流路6が一体となった装置であり、また、組み立て時には半導体関連技術であるリソグラフィー技術等を用いているため、これらのアライメント精度は数ミクロン以内に抑えることが可能である。更に、発光素子2と発光素子2を結ぶ光路内には流路部分を除き屈折率の異なる境界は存在しないので、効率よく光を発光素子から受光素子に導くことができる。また、プリント基板実装技術が低コストな作製技術であることから、上述のようにプリント基板実装技術を一部流用して受光素子3、発光素子2及びこれらの発光制御回路17、信号処理回路18を同一の基板に組み立てることができるので、測定装置全体を小型化、低コスト化することが可能となる。また、支持基板に電子部品を実装することで受光素子の信号処理や発光素子の制御を一体化したシステム構成が可能となる。
【0016】
以上はPDMSを用いた樹脂部材4での例であるが、樹脂部材4として熱可塑性樹脂を用いる場合は、図2中の(c)に示される状態において、金型10をガラス転移温度まで加熱した状態で押しつけることでも同様の凹部形状を形成することができる。また、このほかの樹脂としてポリカーボネートやポリエチレンなどが使用可能な樹脂として挙げられる。ポリカーボネート、ポリエチレンは、耐薬品性に優れるので試料として使用できる溶液の種類の選択が広がる。
【0017】
また、図3は、発光素子2及び受光素子3の外部との電気的な接続をとる別の方法を例示したもので、支持基板1の表面に配線をパターニングして支持基板1の端部の表面に配線パッド12を設け、配線パッド12から外部へ取り出しても良い。この場合は、図2中の(f)において示したような支持基板1に裏面に貫通する電極配線をしなくて済むので、簡単な実装技術で上記実施の形態が実現できる。このため、作製コストがより少なくて済む利点がある。
【0018】
上述の実施の形態1の構成は吸光を捕らえる分析装置として機能するが、また蛍光分析装置として機能させることも可能である。試料によっては照射された光に応じて蛍光を放出する場合がある。この蛍光を受光素子3により検出することができるので蛍光分析装置としても機能する。この場合、発光制御回路17によって発光素子2の発光強度および発光時間の制御をおこない、発光素子2を発光させ試料からの蛍光を受光素子3により検出する。なお、照射する光によって測定試料が劣化する場合がある。例えば、蛍光色素に光を当て続けると蛍光が退色する現象がある場合は、これを回避するため発光素子をパルス的に発光させる制御をおこなうことも可能である。
【0019】
実施の形態2
本実施の形態2の分析装置について説明する。本実施の形態2の分析装置の構造については、実施の形態1と同様に支持基板1上に樹脂部材4を形成しているが、実施の形態1と異なるのは樹脂部材4ではなく蓋5に凹部を形成したことである。その他の支持基板等の構成については実施の形態1と同様であるので説明は省略する。以下、図4を用い工程順に作製方法を説明する。図4中の(a)〜(c)に示すように、支持基板1に受光素子3、発光素子2および樹脂部材4を形成する。このとき、樹脂部材4に凹部は無く平坦な状態である。一方、蓋5には凹部を形成して樹脂部材4と接合することで流路6を形成する。図4中の(f)〜(h)に示すように蓋5が例えばPDMSであれば、金型10を使用し、金型を重合前のPDMSに押し込んで、重合固化させて作成する方法によりおこなう。また、蓋がガラス板の場合でも、ガラス板にフッ酸溶液による化学エッチングで溝を形成し、流路6を形成することが可能である。
【0020】
本実施の形態2によれば、蓋に凹部を形成するので基板の工程とは分離して流路6を形成できる。そのため、支持基板1側の工程が簡略化できコスト削減が可能である。
【0021】
実施の形態3
実施の形態1では発光素子は1つであったが、本実施の形態3では発光波長の異なる発光素子を複数個用いる。例えば、発光素子2を2個用いた場合について以下に説明する。図5は、本実施の形態3の分析装置の断面図である。図5中の(a)において、発光波長の異なる2個の発光素子2が支持基板1に並んで配置されている。また、樹脂部材4は2個の発光素子2及び受光素子3を覆い密着して一体化している。なお、複数個の発光素子を用いる他は、例えば支持基板等の構成及び製造方法については実施の形態1と同様であるので説明は省略する。
【0022】
本実施の形態3の動作について説明する。図5中の(a)は、吸光分析のための信号を得るための最初の動作を示す。なお、図中の光路17は、発光素子から出た光が受光素子に到る経路を模式的に示したものである。まず、第一の発光素子2aは流路6を照射し、その透過光を受光素子3が受けて第一の信号を出力する。次に、図5中の(b)示すように、第二の発光素子2bは流路を照射して、その透過光を受光素子3が受けて第二の信号を出力する。信号処理回路18は、これら第一及び第二の信号を受け、第一の信号と第二の信号の強度比を信号処理回路中で算出する。これによって、異なる波長の光に対する吸収度合いの差を調べることができるため、物質の同定や濃度算出をおこなう吸光分析が実現できる。更に、発光素子2を多数にした場合は、それぞれの発光素子2が狭い帯域の単色光源とすることができるので、分光器を備えた分光分析装置と同様の機能を有することが可能となる。そのため、吸光スペクトルを精密に測定することが可能となる。また、同じ発光波長の複数個の発光素子2以上用いた場合は、発光強度を高めることができ、分析器の感度を高めることができる。
【0023】
実施の形態4
実施の形態3では受光素子は1つであったが、本実施の形態4では受光感度の異なる受光素子3を複数個用いる。受光感度の異なる複数個の受光素子3及び1個の発光素子2が支持基板1の上に配置され、樹脂部材4が複数個の受光素子3及び発光素子2を覆い密着して一体化している。複数個の発光素子の代わりに複数個の受光素子を用いる他は、例えば支持基板等の構成及び製造方法については実施の形態3と同様であるので説明は省略する。
【0024】
例えば、受光素子3を2個用いた場合について説明する。発光素子2で流路を照射し、流路からの透過光を第一の受光素子3及び第二の受光素子3で受けてそれぞれ第一の信号及び第二の信号を出力する。信号処理回路18は、これら第一及び第二の信号を受け、第一の信号と第二の信号の強度比を信号処理回路中で算出する。異なる受光感度を持つ受光素子からの信号を比較することによって、異なる波長に対する試料中の物質の吸収度合いを調べることができ、これによって物質の同定、濃度算出をおこなう吸光分析が実現できる。更に、受光素子を増加した場合は、異なる受光感度を持つ受光素子からの信号を比較することによって、受光色温度を計算する事が可能となる。例えば物質からの発光スペクトルを求め、分子構造を解明する手法として適用可能である。
【0025】
実施の形態5
図6は、本実施の形態5によるマイクロ分析装置を示す図である。図6中の(a)は本実施の形態5によるマイクロ分析装置の斜視図、図6中の(b)は図中(a)のB−Bの断面図、図6中の(c)は図中(a)のC−Cの断面図である。実施の形態1においては、発光素子2及び受光素子3は同一の支持基板1の上に配置されていたが、本実施の形態5においては、第一の支持基板1aに固定された発光素子2と第二の支持基板1bに固定された受光素子3が対向するように配置されている。図6に示されるように、流路6は発光素子2と受光素子3を結ぶ光路上にある。
【0026】
第一の支持基板1aと第二の支持基板1bとの間はPDMSの樹脂部材4で埋まっている。また、樹脂部材4の内部には流路6が形成されている。流路6は開放端7を通して外部に接続されている。流路6中に測定したい試料を流し、発光素子2からの光は流路6中の物質を透過し、受光素子3により光を検出する。第一及び第二の支持基板にはプリント基板を用いる。第一の支持基板1aには、発光素子2の発光強度および発光時間などの制御をおこなう発光制御回路17が発光素子2とともに実装されている。また、第二の支持基板1bには、受光素子3が出力する信号電流を処理するための信号処理回路18が受光素子3とともに実装されている。実施の形態1と比べて、発光素子2と受光素子3が別々の支持基板に分かれているものの、その機能については実施の形態1と同様であるので説明は省略する。
【0027】
図7は、本実施の形態5の作製方法を示す図である。まず、図7中の(a)〜(b)又は(f)〜(h)に示すように、第一の支持基板13に発光素子2、第二の支持基板14に受光素子3を固定する。固定方法としては、半田付けによる固定でも良いし、接着剤による固定でも良い。次に、(c)又は(i)に示すように、それぞれの支持基板に重合前の液状PDMS(ポリジメチルシロキサン)樹脂をスピンコート法などにより塗布する。ここで、第一の支持基板13については、(d)に示すように、第一の支持基板13上の樹脂が重合固化する前に金型10を載せておく。この金型10には凸部形状が形成されており、重合固化すると、凸部形状を反映した凹部を有する樹脂形状が転写される。重合方法としては触媒を添加することで重合反応が始まる。なお、この凹部形状は第二の支持基板14の方の樹脂に形成しても同様の形状が得られる。これにより支持基板の上の樹脂表面に窪みが形成される。また樹脂として熱可塑性樹脂を用いた場合は、金型をガラス転移温度まで加熱した状態で押しつけることでも同様の凹部形状を形成することができる。このようにして樹脂部材4が形成される。
【0028】
次に、それぞれの樹脂部材4の表面を酸素プラズマ処理をおこなう。これは樹脂どうしの接着性を高める効果がある。プラズマ処理後速やかに第一及び第二の支持基板を張り合わせる。これにより流路6が樹脂部材4の内部に形成される。プラズマ処理以外にも、樹脂表面に薄く接着層を塗布して接合しても良い。発光素子2及び受光素子3の配線11は(g)に示す様に支持基板のスルーホールを用いて基板背面から取り出しておこなう。図7中の(e)、(j)、(f)、(g)は、上述の張り合わせ工程を順に示すものである。なお、本実施の形態5では、配線は基板背面から取り出しておこなうが、図3で示したように支持基板の上面で配線の接続をおこなうことも可能である。以上に示した工程によって本実施の形態5の構造が完成する。
【0029】
本実施の形態5の構造は発光素子2、受光素子3及び流路6が一体となったシステムであるので、光学系の微調整は組み立て時のみ必要で測定毎では不要である。また、発光素子2と受光素子3を結ぶ光路上に流路6があるので、発光素子2から発する光は効率よく受光素子3に到達できる。更に、光路内には流路部分を除き屈折率の異なる境界は存在しないので、この点においても効率よく光を発光素子2から流路6を経て受光素子3に導くことができる。したがって、高感度な分析器が実現できる利点がある。
【0030】
実施の形態6
実施の形態1で示した分析装置を用いた大腸菌検査装置の例を図8に示す。図8中(a)は本実施の形態6の大腸菌検査装置の平面図である。図8中の(b)は図中(a)のD−Dの断面図である。最初に実施の形態1で示した図2の構造を作製する。実施の形態1からの変更点としては、流路の入り口の形状が枝分かれして、流路入り口13と試薬注入口14a〜14dになっていることである。これは単に流路を形成する際の金型10を枝分かれ形状に修正するだけで得られる。実施の形態6における装置の作製方法は実施の形態1と同様であるので省略する。なお、大腸菌検査のために450nmの励起光を検出するので、発光素子2としては樹脂パッケージされた波長370nmのLEDを用い、受光素子3として450nmに感度のあるSiフォトダイオードを用いている。
【0031】
次に、本実施の形態6の動作について説明する。流路入り口13より調べたい試料水を、試薬注入口14aよりリン酸緩衝液を、試薬注入口14bより4-メチルウンベリフェリル-β-ガラクトピラノシド(4-MUG)を、試薬注入口14cよりラウリル硫酸ナトリウムを、試薬注入口14dよりグリシン-NaOH緩衝液をそれぞれ注入する。廃液は廃液口15から排出される。大腸菌の検査においては、本分析装置の温度を37度に保つことが化学反応の観点より望ましい。いま、発光素子2の発光波長370nmの光が流路6に入射すると、大腸菌の検査において使用した上述の試薬によって生成した反応物質からのシグナルである450nmの励起光が発光し、これを受光素子3が受光して大腸菌の数に応じた信号を出力する。
【0032】
例えば、流路6の寸法を幅200μm、深さ50μmとした流路6を用いた場合は、流速が1cm/secであっても1分間に消費する試薬は6μL程の量であり、マイクロメートルサイズの流路を用いることで使用試薬や廃棄物の低減が達成できる。更に、流路6をマイクロ化するメリットとして、試薬と試料水との混合に要する時間が低減される点が挙げられる。これは各試薬と試料水とがマイクロメートルスケールで拡散すれば十分な為である。また、発光素子又は受光素子にパッケージ化された素子を用いることで市販品を流用できるので、低コストで大腸菌検査装置を構築できる。
【0033】
上記の本実施の形態6においては、大腸菌の数に応じたシグナルとして450nmの励起光を受光素子3が受けている。したがって、受光素子3に入射する光は450nmのみが望ましいが、実際は発光素子2の発光波長370nmの光が450nmとともに入射してしまう。そのため発光波長370nmの光がシグナルである450nmの励起光のシグナルを妨害する。図8中の(b)は図中(a)のD−Dの断面図で、本実施の形態6の受光素子3を一部変更した場合である。シグナルの妨害を防ぐ為に、(b)において示すように、励起光450nmの光のみを通す短波長制限フィルタ16を受光素子3表面にコーティングする。このフィルタは誘電体多層膜により構成されている。(b)において示す構成により励起光450nmの光のみを通すことができるようになるため、更に検出精度を向上させることができる。
【0034】
実施の形態7
実施の形態5で示した分析装置を用いた水道水塩素濃度検査装置の例を図9に示す。最初に実施の形態5で示した図5の構造を作製する。実施の形態5からの変更点としては、流路の入り口の形状が枝分かれして、流路入り口13と試薬注入口14f〜14eになっていることである。これは単に流路を形成する際の金型10を枝分かれ形状に修正するだけで得られる。実施の形態7における装置の作製方法は実施の形態5と同様であるので省略する。本実施の形態7では、発光素子2としては樹脂パッケージされた波長510nmのLEDを用い、また受光素子3としてSiフォトダイオードを用いている。
【0035】
次に、本実施の形態7の動作について説明する。流路入り口13より調べたい試料である水道水を、試薬注入口14fよりリン酸緩衝液を、試薬注入口14eよりジエチル-P-フェニレンジアミン(DPD)を注入する。試験水中の塩素と試薬とが化学結合し、塩素濃度に応じて吸光度が変化する。受光素子3で吸光度の変化を電気信号の変化として検出することができる。
【0036】
例えば、流路6の寸法を幅200μm、深さ50μmとした流路6を用いた場合は、流速が1cm/secであっても1分間に消費する試薬は6μL程の量であり、マイクロメートルサイズの流路を用いることで使用試薬や廃棄物の低減が達成できる。更に、流路6をマイクロ化するメリットとして、試薬と水道水との混合に要する時間が低減される点が挙げられる。これは各試薬と水道水とがマイクロメートルスケールで拡散すれば十分な為である。また、発光素子又は受光素子にパッケージ化された素子を用いることで市販品を流用できるので、低コストで水道水中の塩素の測定が可能となる。また、発光素子又は受光素子にパッケージ化された素子を用いることで市販品を流用できるので低コストでシステムを構築できる。
【0037】
上記の実施の形態7で示した水道水塩素濃度検査装置においては、実施の形態5で示した分析装置を用いていたが、実施の形態6において用いたように510nm近辺の帯域のみを通すフィルタを受光素子の前面すなわち受光面9に配置してもよい。この構成により510nm以外の光が受光素子に入らなくなるため、更に検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施の形態1の分析装置の一部構成を示した図で、(a)は斜視図、(b)は、図中(a)のA−Aの断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1の製造工程を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態1の変形例を説明するための図である。
【図4】本発明の実施の形態2の製造工程を示す模式図である。
【図5】本発明の実施の形態3の動作を説明するための模式図である。
【図6】本発明の実施の形態5の分析装置の一部構成を示した図で、(a)は斜視図、(b)は、図中(a)のB−Bの断面図、(c)は、図中(a)のC−Cの断面図である。
【図7】本発明の実施の形態5の製造工程を示す模式図である。
【図8】本発明の実施の形態6の大腸菌検査装置を示した図で、(a)は斜視図、(b)は、図中(a)のD−Dの断面図である。
【図9】本発明の実施の形態の水道水塩素濃度検査装置を示した図で、(a)は平面図、(b)は、図中(a)のE−Eの断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1:支持基板 2:発光素子 3:受光素子 4:樹脂部材 6:流路
9:受光面 16:短波長制限フィルタ 17:発光制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被分析物の吸光分析又は蛍光分析を行う分析装置において、
光を透過する樹脂部材に形成され、被分析物を収容する流路と、
前記樹脂部材に密着して配置され、前記流路中の被分析物へ光を照射する発光素子と、
前記樹脂部材に密着して配置され、前記被分析物から発せられた光を受光する受光素子とを備えた分析装置。
【請求項2】
発光素子及び受光素子が同一の支持基板上に設置された請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
発光素子と受光素子とが流路を挟んで対向配置された請求項1に記載の分析装置。
【請求項4】
発光素子及び前記発光素子の発光を制御する回路とが同一の支持基板に設置され、又は受光素子及び前記受光素子の受光信号を処理する回路とが同一の支持基板に設置された請求項1又は2に記載の分析装置。
【請求項5】
樹脂部材がポリジメチルシロキサンである請求項1から4のいずれかに記載の分析装置。
【請求項6】
発光スペクトルの異なる発光素子を複数用いた請求項1から5のいずれかに記載の分析装置。
【請求項7】
分光感度の異なる受光素子を複数用いた請求項1から5のいずれかに記載の分析装置。
【請求項8】
受光素子の受光面に帯域制限フィルタを設置した請求項1に記載の分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−84210(P2006−84210A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−266843(P2004−266843)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】