説明

列車制御装置

【課題】列車制御装置において、無線通信のできない区間が発生しても安全を確保しながら、この区間の走行を可能とし列車の運行を分断させない列車制御装置を提供する。
【解決手段】地上制御手段は、無線途絶区間の前方(下流側)に、無線通信可能な区間を、列車が安全に停止するのに必要な距離と余裕距離の分だけ足して、固定閉塞区間として設定する。固定閉塞区間に進入する列車に対し、固定閉塞区間の終端から余裕距離だけ手前を停止限界位置として設定し、無線通信が回復するまで保持する。また、無線通信が途絶したときの列車尾端位置を、無線通信が回復するまで保持する。無線通信が途絶している間、列車は受信した停止限界位置を保持して走行する。無線通信が回復したら、地上制御手段は、通常通り、進路の開通状況と先行列車の在線状況に応じた停止限界位置を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は列車制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
列車が自身で検出した列車位置を、無線を介して地上側制御装置に通知する列車制御装置は、現状の軌道回路を用いた保安機能よりも高い分解能で列車の停止限界位置を設定することができ、移動閉塞による列車運行間隔の短縮に効果が期待される。また、軌道回路が多くの複雑な配線を必要とするのに比べ、地上設備が少なくて済み、設備コストの低減が期待される。
【0003】
しかし、無線通信を利用する方法は、山間部などで無線通信のできない区間が発生する場合がある。その区間に在線する車両の位置を地上側で把握できず、停止限界位置を列車に通知することもできなくなるため、この区間の両側で列車の運行が分断されてしまう。
【0004】
そこで、山間部など無線通信のできない区間をあらかじめ登録しておき、無線通信のできない区間については、その両端に通信可能な区間を加えて固定閉塞区間とする方法が提案されている。そして、先行列車との間隔に応じて仮想の信号現示を行って運転士にナビゲーションする形を取っており、無線通信のできない区間の両端に無線通信可能な区間を含めて固定閉塞区間を設定している。実施例では、先行列車が固定閉塞区間に在線しているとき、固定閉塞区間に対象列車が近づいたら減速信号を、固定閉塞区間に達したら停止信号を現示することにより、固定閉塞区間の最初の無線通信可能な区間内で対象列車が停止できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−256545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
無線通信のできない区間が発生するさらなるケースとして、基地局などの装置故障などにより無線通信のできない区間が発生することが考えられる。このような場合は、無線通信のできない区間をあらかじめ登録することは不可能であり、また運転士にナビゲーションすることも不可能である。従来の技術だけであると、先行列車が固定閉塞区間の最初の無線通信可能な区間内にいた場合に対象列車が追突する可能性がある。
【0007】
そこで本実施の形態では、無線通信のできない区間が発生しても安全を確保しながら、この区間の走行を可能とし列車の運行を分断させない列車制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この開示に係る一実施形態では、列車上で列車の位置を検出する速度位置検出手段と、地上側と情報を送受信する車上無線通信手段およびそのアンテナと、列車と情報を送受信する地上無線通信手段およびそのアンテナと、転てつ器の転換・鎖錠を行うとともに列車位置や進路の開通状態を把握して列車の停止限界位置を算出する地上制御手段と、停止限界位置を超えないように列車のブレーキを制御する車上制御手段と、を備えた列車制御装置において、
前記地上制御手段が、
無線通信途絶区間に、列車の停止に必要な距離と余裕距離を併せた区間を、固定閉塞区間として設定し、車上制御装置にも送信する手段と、
前記固定閉塞区間に進入する車両に対し、前記固定閉塞区間の終端から余裕距離だけ後方の位置を前記固定閉塞区間の終端側の停止限界位置として設定し、無線通信が回復するまで保持する手段と、
前記固定閉塞区間に列車の一部または全部が在線する状態で無線通信の途絶したときの列車の尾端位置を、無線通信が回復するまで保持する手段と、
前記尾端位置として前記地上制御手段で認識している位置と前記固定閉塞区間の始端位置のうち、より後方に位置するものから余裕距離だけ後方の位置を、後続の列車に対し、前記固定閉塞区間の始端側の停止限界位置として設定する手段を備えていることを基本とする。
【0009】
また前記車上制御手段が、
前記固定閉塞区間内に列車の一部または全部が在線する状態で無線通信が途絶している間は、無線通信が途絶し前記固定閉塞区間に進入直前に受けた前記終端側の停止限界位置を保持する手段を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態の一例である列車制御装置が適用された列車制御システムの代表的な全体構成を示す図である。
【図2】図1の列車制御システムにおいて無線通信が途絶した区間が発生したときの列車制御装置の動作例を説明するために示した図であり、かつ地上制御装置が把握しているデータイメージの状態図でもある。
【図3A】図1の列車制御システムにおいて無線通信が途絶した区間が発生したとき列車の停止限界位置の設定方法の例を説明する図であり、かつ地上制御装置が把握しているデータによるイメージの状態図でもある。
【図3B】図1の列車制御システムにおいて、列車が固定閉塞区間に掛り、無線通信が途絶した場合に、無線通信が回復するまでに列車の停止限界位置を設定する方法の例を説明する図であり、かつ地上制御装置が把握しているデータによるイメージの状態図でもある。
【図3C】図1の列車制御システムにおいて、列車が固定閉塞区間に掛り、無線通信が途絶した場合に、無線通信が回復するまでに後続の列車の停止限界位置を設定した場合の例を説明する図であり、かつ地上制御装置が把握しているデータによるイメージの状態図でもある。
【図3D】図1の列車制御システムにおいて無線通信が途絶した区間を進行している列車と地上制御装置との通信が回復した場合の動作例を説明する図であり、かつ地上制御装置が把握しているデータによるイメージの状態図でもある。
【図3E】図1の列車制御システムにおいて無線通信が途絶した区間を進行している列車と地上制御装置との通信が回復した場合の動作例を説明する図であり、かつ地上制御装置が把握しているデータによるイメージの状態図でもある。
【図3F】図1の列車制御システムにおいて列車が固定閉塞区間を通過した場合の状態を示す図であり、かつ地上制御装置が把握しているデータによるイメージの状態図でもある。
【図4A】図1の列車制御システムにおいて無線通信が途絶した区間の始端と終端を仮設定するときの地上制御手段の動作例を説明する図であり、かつ地上制御装置が把握しているデータによるイメージの状態図でもある。
【図4B】図4Aで示した無線通信が途絶した区間の始端と終端を修正する場合の地上制御手段の動作例を説明する図であり、かつ地上制御装置が把握しているデータによるイメージの状態図でもある。
【図4C】図4Bで説明した無線通信が途絶した区間の修正が済んだ後、この区間に最初の列車を進入させるときのさらなる地上制御手段の動作例を説明する図であり、かつ地上制御装置が把握しているデータによるイメージの状態図でもある。
【図4D】図4Bで説明した無線通信が途絶した区間の修正が済んだ後、この区間に最初の列車を進入させた後のさらなる地上制御手段の動作例を説明する図であり、かつ地上制御装置が把握しているデータによるイメージの状態図でもある。
【図4E】図4Bで説明した無線通信が途絶した区間の修正が済んだ後、この区間に最初の列車を進入させた後のまたさらなる地上制御手段の動作例を説明する図であり、かつ地上制御装置が把握しているデータによるイメージの状態図でもある。
【図5】図1の列車制御システムにおいて無線通信が途絶した区間を自動設定する他の実施形態を説明する図であり、かつ地上制御装置が把握しているデータによるイメージの状態図でもある。
【図6】図1の列車制御システムにおいて無線通信が途絶した区間を自動設定するさらに他の実施形態を説明する図であり、かつ地上制御装置が把握しているデータによるイメージの状態図でもある。
【図7】地上制御手段14nが地上無線通信手段の故障を検出した際に、地上制御手段14nで用いられる概略的な処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態について図面を参照して説明する。実施の形態によれば、無線を利用して車上から地上に列車在線位置を通知する列車制御装置において、無線通信のできない区間が発生した場合でも、安全を確保しながら、この区間の走行を可能とし列車の運行を分断させないですむ。
【0012】
[実施例1]
以下、実施形態の一例である列車制御装置について、図1を参照して説明する。図1は、実施形態の列車制御装置を示す構成図である。本実施の形態に係る列車制御システムは、地上に設置した地上制御装置と列車に搭載した車上制御装置とが無線通信により情報を送受信することにより、列車の走行状態を制御するシステムである。
【0013】
地上制御装置は、地上に設置される各種の機器で構成される。地上制御装置は、路線を走行中の制御対象とする列車との通信が可能なシステムである。地上制御装置は、運行スケジュールおよび各列車の運行状況などに基づいて各列車の運行を管理する。
【0014】
車上制御装置は、列車に搭載される各種の機器で構成される。車上制御装置は、地上制御装置から与えられる指令に基づいて列車の速度、ブレーキなどの各種の制御を行う。また、車上制御装置は、走行中に列車の速度あるいは列車の位置などの各種情報を地上制御装置に提供する機能も有する。
【0015】
同図において、地上側には、地上制御装置に含まれる、運行管理手段11、システム管理手段12、地上制御手段14a・・・14n、地上無線通信手段16a・・・16jとアンテナ17a・・・17jが設置されており、列車200の車両には、速度位置検出手段221と、車上制御手段222と、車上無線通信手段223などが設置されている。
【0016】
即ち、運行管理手段11、システム管理手段12は、拠点間ネットワーク13に接続されており、拠点間ネットワーク13には、複数の地上制御手段14a・・・14nが接続されている。それぞれの地上制御手段14a・・・14nは、それぞれに対応する沿線ネットワークに接続される。図面では、地上制御手段14nと、沿線ネットワーク15との関係を示している。沿線ネットワーク15には、地上制御手段14nが主となり管理する地上無線通信手段16a・・・16jが接続されている。
【0017】
拠点間ネットワーク13は、地上制御手段14a・・・14n同士のデータ、又は地上制御手段14a・・・14nと運行管理手段11間のデータを互いに送受信するために利用される。沿線ネットワーク15は、地上制御手段14nと複数の地上無線通信手段16a、16c、16jを接続する。
【0018】
なお地上制御手段の名称は、これに限定されるものではなく、例えば、拠点装置、ノード、サーバーなどと称しても良い。また運行管理手段の名称もこれに限定されるものではなく、メインサーバ、メインセンターなどと称しても良い。また地上無線手段は、無線基地局、中継器或いは、アクセスポイントと称しても良い。
【0019】
沿線ネットワーク14nに接続された地上制御手段14nは、地上無線通信手段16a、16c、16jを介して、その管轄領域が割り当てられる。よって、制御対象となる列車のための全通信領域は、複数の地上制御手段14a・・・14n・・・の管轄領域により空間的に分割されている。沿線ネットワーク15は、地上制御手段14nが、自身の管轄領域内の列車の車上制御装置と無線通信を行うために利用できるネットワークである。
【0020】
列車200は、運転士または自動列車運転装置(ATO)などの力行/ブレーキ指令に基づいて、図示しない駆動/制動装置により複数の車輪202が駆動/制動されてレール400上を走行する。
【0021】
速度位置検出手段221は、速度発電機(TG)225のパルス数をカウントし、車輪径とTGの歯数に基づいて、速度を検出する。なお、速度信号を得る手段はTGに限る必要はなく、パルスジェネレータ(PG)など、別の手段を利用しても良い。
【0022】
速度位置検出手段221は、さらに、TGのパルス数、ないし、検出速度を積分して、移動距離を算出するほか、地上子226から車上子227を介して受信した位置情報に基づいて、自車の位置情報を補正する。地上子226から車上子227を介して受信した地上子識別情報に基づき図示しないデータベースから読み出した地上子設置位置情報に基づいて、自車の位置情報を補正しても良い。
【0023】
検出した自車の位置情報は、車上無線通信手段223、例えば地上無線通信手段16cを介して、地上制御手段14nに送信する。
【0024】
運行管理手段11は、列車運行ダイヤや列車の運行状況などに基づき、地上制御手段14a・・・14n、に進路設定要求を行う。
【0025】
地上制御手段14nは、進路設定要求に基づいて、転てつ装置301,302に指令を出して転てつ器301,302の転換や鎖錠を行い、進路の開通状況を把握する。
【0026】
運行管理手段11から図示しない連動装置に進路設定要求を行い、連動装置が転てつ装置301,302の制御を行い、地上制御手段14nは連動装置を介して進路の開通状況を把握するようにしても良い。
【0027】
地上制御手段14nは、進路の開通状況と、列車200の在線状況とから、各列車の進行可能な範囲の先端位置として支障位置を求め、そこから、列車位置情報の検出誤差などを見込んだ余裕距離だけ手前の位置を停止限界位置とし、地上無線通信手段16c、車上無線通信手段223を介して、車上制御装置に送信する。なお車上制御装置は、速度位置検出手段221、車上制御手段222、車上無線通信手段223、制動装置(図示せず)など列車に搭載されている機器を総合して車上制御装置と称している。速度位置検出手段221、車上制御手段222、車上無線通信手段223などについてもこの呼び名に限定されるものではなく、速度位置検出器、車上制御装置、車上無線通信器と称しても良い。
【0028】
車上制御装置は、地上制御装置から送られた停止限界位置を過走しないように、列車の制動装置にブレーキ指令を出すことができる。
【0029】
<無線通信の途絶区間>
ここで、例えば地上無線通信手段16cが故障などにより通信不能になると、無線通信の途絶した区間が生じる。
【0030】
<緊急停止>無線通信が途絶した状態では、列車位置を車上から地上に通知できず、地上からは停止限界位置を車上に通知できないので、安全を確保するため、無線通信の途絶した列車は自動的に緊急停止し、その後続の列車も地上制御装置が緊急停止させる。
【0031】
<目視運転>無線通信の途絶した列車を、手動の目視運転で待避させた後、地上無線通信手段16cが復旧して再び無線通信ができるようになるまでは、図2のように、無線通信の途絶した区間の両側で折り返し運転を行うことになり、同区間の両側で列車運行が分断される。
【0032】
<次のステップである連続運転を実現するための方法>
次に、実施例1における列車制御装置の具体的な列車制御の動作について、図3A−図3Fを用いて説明する。図3A−図3Fは実施例1の列車制御装置の動作例を説明するための図であり、かつ地上制御装置が把握しているデータイメージの状態図でもある。
【0033】
まず、地上制御装置は、無線通信が途絶えた地上無線通信手段の無線通信途絶区間A-11の終端に、列車が安全に停止するのに必要な距離A-12と、列車位置情報の検出誤差などを見込んだ余裕距離A-13を足して、固定閉塞区間A-14を設定する(図3A)。
【0034】
次に、固定閉塞区間A-14より後方(上流側)にいる列車TAに対し、固定閉塞区間A-14の終端から余裕距離だけ手前の停止限界位置を設定し、固定閉塞区間の範囲と停止限界位置を列車TAに送信する(図3A)。
【0035】
列車TAは固定閉塞区間A-14に進入し、無線通信が途絶する(図3B)、その後、
無線通信が回復するまで、
・列車TAは、通信途絶直前に受信していた停止限界位置を保持して走行を継続する(図3Cの状態)。
【0036】
・地上制御装置は、列車TAの位置情報として、通信途絶直前に受信した列車尾端位置を保持し、列車先端位置としては、無線通信途絶区間の終端位置を設定する。これにより、列車想定位置を設定する(図3B,図3Cの状態)。
【0037】
・地上制御装置は、列車TAに対する停止限界位置を保持する。
【0038】
列車TAが無線通信途絶区間の終端まで進んで、無線通信が回復したら(図3D、図3E、図3Fの状態)、地上制御装置の、列車TAに対する位置認識や停止限界位置の算出は、通常の方法で行う。すなわち、地上制御手段は、列車が送信してくる列車位置を採用する。また、進路の開通状況や列車TAに対する先行列車の在線状況に応じて、列車TAの停止限界位置を算出し、送信する。
【0039】
図3Eの状態は、列車TAが無線途絶区間A-11を通過して、停止限界位置が現状の列車位置に合わせて修正された様子を示している。図3Fの状態は、列車TAが固定閉塞区間A-14を通過して、次の、後続列車TBが固定閉塞区間A-14への進行を許可されるときの状態を示している。
【0040】
また、列車TAの一部または全部が固定閉塞区間A-14に在線している間、地上制御装置は、列車TAの後続列車TBに対し、固定閉塞区間始端と、列車TAの尾端位置(認識値)のうち、より後方のものから余裕距離A-15だけ手前の停止限界位置を設定し、列車TBに送信する(図3B,図3C, 図3Dの状態)。なお固定閉塞区間を進行中の列車は、後退禁止の制御が行われている。
【0041】
このように、実施例1の列車制御装置によれば、地上無線通信手段が故障などにより無線通信の途絶した区間が生じ、無線通信の途絶した区間の列車を待避させたあと、地上無線通信手段が復旧して再び無線通信ができるようになるまで、安全を確保しながら、無線通信の途絶した区間の両側で列車運行を分断させないことができる。
【0042】
[実施例2]
実施例1の列車制御装置において、無線通信途絶区間の始端と終端の位置を自動で設定する手順について、図4A−図4Eを用いて説明する。
【0043】
(手順1) まず、図4Aにおいて、無線通信の途絶が発生したとき、無線通信の継続している先行列車のうち最後尾の列車TEの先端位置P1を抽出する。また、無線通信の継続した後続列車のうち先頭の列車TFの緊急停止したときの尾端位置P2を抽出する(停止する前に無線通信の途絶した区間に列車が進入し無線通信が途絶した場合は、途絶時の尾端位置を抽出する)。
【0044】
下流側の隣接の正常な地上無線通信手段の位置P3、上流側の隣接の正常な地上無線通信手段の位置P4を抽出する。ここで位置P3は、例えば、地上無線手段(故障と見られる)の下流に隣接する地上無線手段のアンテナ位置であり、位置P4は、地上無線手段の上流に隣接する地上無線手段のアンテナ位置である。
【0045】
次に位置P1とP3のうち後方(上流側)のものを無線通信途絶区間A-22の終端位置、位置P2とP4のうち前方(下流側)のものを無線通信途絶区間A-22の始端位置に仮設定する(図4A)。
【0046】
(手順2) 次に、無線通信が途絶した列車を待避させる際に無線通信が回復したときの列車先頭位置P5を抽出し、無線通信途絶区間A-22の終端位置より後方(上流側)なら、無線通信途絶区間の終端位置をこの位置P5に修正し、無線通信途絶区間A-23とする(図4B)。又このとき、図3A,図3B,図3Cで説明したような減速距離A-12,余裕距離A-13などを設定する。
【0047】
(手順3) 無線通信途絶区間A-23に基づいて固定閉塞区間A-24を設定する(図4C)。また最初の列車TFを固定閉塞区間A-24に進入させるとき、この列車の無線通信が途絶したときの列車尾端位置を抽出し、無線通信途絶区間A-23の始端位置よりも前方(下流側)なら、無線通信途絶区間A-23の始端位置をこの位置に修正し、固定閉塞区間A-24の始端位置も併せて修正する。
【0048】
無線通信が途絶した列車を待避させる際に、無線通信が途絶した区間から直接待避線などに待避したため、手順2で無線通信途絶区間の終端位置を修正できなかった場合は、この最初に固定閉塞区間に進入した列車TFの無線通信が回復したときの列車先頭位置を抽出して無線通信途絶区間の終端位置の修正に利用しても良い。
【0049】
このようにして、無線通信途絶区間の始端と終端の位置を自動で設定することができる。なお、無線通信途絶区間を設定できたあとでも、2番目以降に固定閉塞区間に進入した列車THの無線通信が回復した位置が、無線通信途絶区間の終端位置よりも前方(下流側)だった場合は、その都度、無線通信途絶区間の終端位置を修正し、固定閉塞区間の終端位置も併せて修正するようにしても良い。これにより、固定閉塞区間終端位置の手前で停止しようとしてブレーキを開始したあとに無線通信が回復し、停止限界位置が前方に移動してブレーキを解除して、短いブレーキにより乗り心地が悪化する(図4D)、という事態を低減することができる(図4E)。
【0050】
[実施例3]
実施例1の列車制御装置において、無線通信途絶区間の始端と終端の位置を自動で設定する別の手順について、図5を用いて説明する。
【0051】
実施例1の列車制御装置において、地上無線通信手段のアンテナに漏洩同軸ケーブル(LCX)が使われている場合は、地上無線通信手段の無線通信可能領域はほぼ正確に特定できる。この無線通信可能領域を、地上無線通信手段が故障したときの無線通信途絶区間としてデータベースなどに記憶しておく。
【0052】
また、地上無線通信手段のアンテナに空間波アンテナが使われていた場合は、アンテナ設置時などに無線の途絶する最大範囲を測定するなどして、地上無線通信手段が故障したときの無線通信途絶区間としてデータベースなどに記憶しておく。
【0053】
上記のデータベースなどから、故障した地上無線通信手段の無線通信途絶区間を読み出し、利用することができる。
【0054】
なお各地上無線手段の無線通信可能領域は、予め現地においてメンテナンス係員が監視装置を用いて電波測定を行い、その領域を確認し設定することができる。そして無線通信可能領域は、データベース化されて、地上制御手段により管理される。地上制御手段は、管理範囲を各種のデータ(無線通信途絶区間、固定閉塞区間、減速距離、余裕距離、停止限界位置などのデータ)でマップ化している。
【0055】
地上無線手段からの応答信号の検出は、この地上無線手段の管理担当である地上制御手段により行われる。例えば、対象列車が運行の途中であって定期的に受信確認していた列車識別番号が検出されなくなった場合(無線交信が途絶えた場合)、地上制御手段は、地上無線手段の故障と判断することができる。上記したように、無線通信途絶区間の始端と終端の位置を自動で設定することも可能である。
【0056】
[実施例4]
実施例1の列車制御装置において、地上無線通信手段のアンテナに、空間波アンテナが使われ、図6に示すように、各地上無線通信手段の無線通信可能領域の境界が、二つ隣の地上無線通信手段の無線通信可能領域の境界に達するように配置するという実施例も可能である。即ち、無線通信可能領域19c−1,19c、19c+1は、それぞれ、隣接する地上無線通信手段16c−1、16c、16c+1、16c−1の無線通信可能領域である。無線通信可能領域19c−1,19c+1は、隣接しており、無線通信可能領域19cは、一部が無線通信可能領域19c−1,19c+1の一部と重なっている。
【0057】
この実施例の場合、1つの地上無線通信手段が故障しても、列車は隣接する地上無線通信手段のいずれかと無線通信できるため、無線通信の途絶した区間は生じない。
【0058】
しかし、地上無線通信手段のアンテナと列車との距離が大きくなるため、無線通信が不安定になり、電波伝播状況によっては、無線通信が断続的に途絶する可能性もある。
【0059】
そこで、例えば隣接する地上無線通信手段との中間地点を境界とする区間A-31を、無線通信が不安定になる区間として、個々の地上無線通信手段に対応させてデータベースなどに記憶しておく。そして、故障した地上無線通信手段が検出されたとき、この地上無線通信手段の無線通信不安定区間をデータベースから読み出して無線通信途絶区間として設定する。そして先に説明したように、列車が無線通信途絶区間にいる間は固定閉塞区間の終端位置から余裕距離だけ手前の位置を停止限界位置として与えることにより、無線通信が不安定になった区間でも列車運行の安全を確保することができる。
【0060】
上記したように、第1の実施形態は、列車上で列車の位置を検出する速度位置検出手段と、地上側と情報を送受信する車上無線通信手段およびそのアンテナと、列車と情報を送受信する地上無線通信手段およびそのアンテナと、転てつ器の転換・鎖錠を行うとともに列車位置や進路の開通状態を把握して列車の停止限界位置を算出する地上制御手段と、停止限界位置を超えないように列車のブレーキを制御する車上制御手段と、を備えた列車制御装置を提供する。
【0061】
ここで、前記地上制御手段は、無線通信途絶区間に、列車の停止に必要な距離と余裕距離を併せた区間を、固定閉塞区間として設定し、車上制御装置にも送信する。また地上制御手段は、前記固定閉塞区間に進入する車両に対し、前記固定閉塞区間の終端から余裕距離だけ後方の位置を前記固定閉塞区間の終端側の停止限界位置として設定し、無線通信が回復するまで保持する。さらにまた地上制御手段は、前記固定閉塞区間に列車の一部または全部が在線する状態で無線通信の途絶したときの列車の尾端位置を、無線通信が回復するまで保持し、前記尾端位置として前記地上制御手段で認識している位置と前記固定閉塞区間の始端位置のうち、より後方に位置するものから余裕距離だけ後方の位置を、後続の列車に対し、前記固定閉塞区間の始端側の停止限界位置として設定することができる。
【0062】
このように在線列車と、無線通信途絶区間と、固定閉塞区間と、停止限界位置、尾端位置などの状況設定を行い、固定閉塞区間に進入する列車に対して、停止限界位置情報を提供することにより、列車の連続した運行が可能となる。
【0063】
一方、車上制御手段は、前記固定閉塞区間に列車の一部または全部が在線する状態で無線通信が途絶している間は、無線通信が途絶し前記固定閉塞区間に進入直前に受けた前記終端側の停止限界位置を保持する手段を備えている。
【0064】
これにより、車両制御装置により、列車の安全を確保しながら、無線通信途絶区間の両側で列車の運行を分断せずにしないですむ。
【0065】
さらに上記した第1の実施形態の列車制御装置において第2の実施形態では、地上制御手段が、さらに、無線通信が途絶したときに、無線通信が途絶した列車より下流側の列車のうち最後尾の列車の先頭位置と、無線通信が途絶した地上無線通信手段の下流側に隣接する地上無線通信手段のアンテナ設置位置とを比較し、後方にある方を「無線通信途絶区間」の終端位置に仮設定し、無線通信が途絶したあと、無線通信が途絶した列車より上流側の列車のうち先頭の列車が緊急停止したときの<当該列車の>尾端位置と、無線通信が途絶した地上無線通信手段の上流側に隣接する地上無線通信手段のアンテナ設置位置とを比較し、前方<下流>にある方を「無線通信途絶区間」の始端位置に仮設定する。また、無線通信が途絶した列車を、無線通信が途絶した区間から待避させる際に、無線通信が回復したときの列車先頭位置、あるいは、列車待避後最初に前記固定閉塞区間に進入し無線通信が途絶した列車の無線通信が回復したときの列車先頭位置を、「無線通信途絶区間」の終端として設定しなおすことができる。さらに列車待避後最初に固定閉塞区間に進入した列車の無線通信が途絶したときの列車尾端位置を、「無線通信途絶区間」の始端として設定しなおすことができる。これにより、無線通信途絶区間を自動判定し、固定閉塞区間を自動で設定できる。
【0066】
また上記した第1又は第2の実施形態の列車制御装置において第3の実施形態では、
地上制御手段が、さらに、「無線通信途絶区間」に進入して進出する列車の無線通信が回復したときの列車先頭位置が、「無線通信途絶区間」の終端より先だったときは、「無線通信途絶区間」の終端位置を、無線通信の回復したときの列車先頭位置に修正する。これにより、無線通信が回復する前に固定閉塞区間手前に停止しようとしてブレーキが掛かる可能性を低減して、乗り心地の悪化を低減する。
【0067】
さらにまた上記した第1の実施形態の列車制御装置において第4の実施形態では、地上制御手段は、さらに、地上の無線基地局が故障したときに無線通信の途絶する区間を記憶しておく手段と、故障した無線基地局に応じて無線通信の途絶する区間を設定する手段を備えている。
【0068】
これにより、故障した無線基地局を指定するだけで固定閉塞区間を設定できる。さらにまた上記した第1の実施形態の列車制御装置において第5の実施形態では、地上無線通信手段が、その無線通信可能領域の境界が、隣接する地上無線通信手段の無線通信可能領域と一部重複するように配置され、地上制御手段が、さらに、地上の地上無線通信手段が故障したときに無線通信の不安定になる区間を記憶しておく手段と、故障した地上無線通信手段に応じて読み出した無線通信の不安定になる区間を無線通信途絶区間として設定する手段と、固定閉塞区間に進入する車両に、固定閉塞区間の終端から余裕距離だけ後方の位置を停止限界位置として設定し、無線通信途絶区間を列車先頭が通過するまで保持する手段とを備えている。これにより、無線通信が不安定になった区間でも列車運行の安全を確保することができる。
【0069】
上記した説明において、検出手段、制御手段、通信手段など用語において「手段」は、「装置」、「器」、「ブロック」及び「モジュール」に置き換えても本発明の範疇であることは勿論である。さらにまた、請求項の各構成要素において、構成要素を分割して表現した場合、或いは複数を合わせて表現した場合、或いはこれらを組み合わせて表現した場合であっても本発明の範疇である。また請求項を方法として表現した場合であっても本発明の装置を適用したものである。
【0070】
図7は、例えば地上制御手段14nが、管理している地上無線通信手段16cの故障を検出した際の概略的な処理手順を示している。この手順は、ここで説明される順序が必ずしも限定されるわけではない。
【0071】
まず通常状態では、ステップSA1では、地上制御手段14nは、所定のインターバールで管轄している地上無線通信手段の状態をチェックしている(ステップSA1)。今、地上無線手段16cの異常(故障)が検出されたとする。このときは、地上制御手段14nは、他の地上制御手段に対しても拠点ネットワークを通じて、地上無線手段16cが故障したことを伝達する(ステップSA2)。
【0072】
次に、地上制御手段14nは、在線情報などを追跡しているアクティブデータベースからみたデータのイメージ(マップ)上で、無線通信途絶区間の設定、固定閉塞区間の設定、停止限界位置の設定などを行う(ステップSA3)。このときの設定状態は、先の図3A−図6で説明した。
【0073】
また、固定閉塞区間に掛る列車及び当該区間内の列車を把握する。これらの列車において、無線を受信できない列車は、自動で緊急停止し、無線を受信できる列車は、緊急停止指令により停止する。無線途絶時に、固定閉塞区間に掛っている列車、又は固定閉塞区間に進入すみの列車は、運転士による目視で進行する。
【0074】
固定閉塞区間から無線途絶後、最初出てきた列車を地上制御手段14nが把握した場合、地上制御手段14nは、他に固定閉塞区間内に在線する列車があるかどうかを判定する。この判定は、無線途絶が生じたときの列車在線情報をチェックすることにより行う(ステップSA5)。固定閉塞区間内に列車が在線しない場合、後続の列車に固定閉塞区間に進入するように指示を出す(ステップSA6)。そして固定閉塞区間からでてくる列車を待つ。後続の列車は、固定閉塞区間の始端側の停止限界位置で停止するように指示を出している。固定閉塞区間から列車が出てきた場合(ステップSA7)、地上無線通信手段16cの故障が回復しているかどうかチェックし、回復していなければ、ステップSA6にもどり、待機している次の列車を固定閉塞区間に進入させる。地上無線通信手段16cの故障が回復している場合は、通常運行制御状態に切り替わる。
【0075】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0076】
200、TA,TB,TE,TF,TG,TH ・・・・列車、222・・・車上制御手段、221・・・速度位置検出手段、223・・・車上無線通信手段、14a,14n・・・地上制御手段、16a,16c,16j・・・・地上無線通信手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車上で列車の位置を検出する速度位置検出手段と、地上側と情報を送受信する車上無線通信手段およびそのアンテナと、列車と情報を送受信する地上無線通信手段およびそのアンテナと、転てつ器の転換・鎖錠を行うとともに列車位置や進路の開通状態を把握して列車の停止限界位置を算出する地上制御手段と、停止限界位置を超えないように列車のブレーキを制御する車上制御手段と、を備えた列車制御装置において、
前記地上制御手段が、
無線通信途絶区間に、列車の停止に必要な距離と余裕距離を終端に足した区間を、固定閉塞区間として設定し、車上制御装置にも送信する手段と、
前記固定閉塞区間に進入する車両に対し、前記固定閉塞区間の終端から前記余裕距離だけ後方(上流側)の位置を前記固定閉塞区間の終端側における停止限界位置として設定し、無線通信が回復するまで保持する手段と、
前記固定閉塞区間に列車の一部または全部が在線する状態で無線通信の途絶したときの列車の尾端位置を、無線通信が回復するまで保持する手段と、
前記尾端位置として前記地上制御手段で認識している位置と前記固定閉塞区間の始端位置のうち、より後方(上流側)に位置するものから余裕距離だけ後方(上流側)の位置を、後続の列車に対して前記固定閉塞区間の始端側における停止限界位置として設定する手段を備えている、列車制御装置。
【請求項2】
請求項1の列車制御装置において、
前記車上制御手段が、
前記固定閉塞区間内に列車の一部または全部が在線する状態で無線通信が途絶している間は、無線通信が途絶し前記固定閉塞区間に進入直前に受けた前記終端側の停止限界位置を保持する手段を備えている列車制御装置。
【請求項3】
請求項1の列車制御装置において、
地上制御手段が、さらに、
無線通信が途絶したときに、無線通信が途絶した列車より下流側の列車のうち最後尾の列車の先頭位置と、無線通信が途絶した地上無線通信手段の下流側に隣接する地上無線通信手段のアンテナ設置位置とを比較し、後方(上流側)にある方を「無線通信途絶区間」の終端位置に仮設定する手段と、
無線通信が途絶したあと、無線通信が途絶した列車より上流側の列車のうち先頭の列車が緊急停止したときの尾端位置と、無線通信が途絶した地上無線通信手段の上流側に隣接する地上無線通信手段のアンテナ設置位置とを比較し、前方(下流側)にある方を「無線通信途絶区間」の始端位置に仮設定する手段と、
無線通信が途絶した列車を、無線通信が途絶した区間から待避させる際に、無線通信が回復したときの列車先頭位置、あるいは、列車待避後最初に固定閉塞区間に進入し無線通信が途絶した列車の無線通信が回復したときの列車先頭位置を、前記「無線通信途絶区間」の終端として設定しなおす手段と、
列車待避後最初に固定閉塞区間に進入した列車の無線通信が途絶したときの列車尾端位置を、前記「無線通信途絶区間」の始端として設定しなおす手段とを備えている、列車制御装置。
【請求項4】
請求項3の列車制御装置において、
地上制御手段が、さらに、
前記「無線通信途絶区間」に進入して進出する列車の無線通信が回復したときの列車先頭位置が、前記「無線通信途絶区間」の終端より先(上流側)だったときは、「無線通信途絶区間」の終端位置を、無線通信の回復したときの列車先頭位置に修正する手段を備えている、列車制御装置。
【請求項5】
請求項1の列車制御装置において、
地上制御手段が、さらに、
地上の無線基地局が故障したときに無線通信の途絶する区間を記憶しておく手段と、
故障した無線基地局に応じて無線通信の途絶する区間を設定する手段を備えている、列車制御装置。
【請求項6】
請求項1の列車制御装置において、
地上無線通信手段が、
その無線通信可能領域の境界が、隣接する地上無線通信手段の無線通信可能領域と一部重複するように配置され、
地上制御手段が、さらに、
地上の地上無線通信手段が故障したときに無線通信の不安定になる区間を記憶しておく手段と、
故障した地上無線通信手段に応じて読み出した無線通信の不安定になる区間を無線通信途絶区間として設定する手段と、
固定閉塞区間に進入する車両に、固定閉塞区間の終端から余裕距離だけ後方(上流側)の位置を停止限界位置として設定し、無線通信途絶区間を列車先頭が通過するまで保持する手段とを備えている、列車制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−23037(P2013−23037A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158443(P2011−158443)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】