説明

制動装置の制御装置

【課題】 車両の制動距離が延びることを抑制する。
【解決手段】 ブレーキECUは、車輪速を検知するステップ(S2000)と、ロック車輪があると(S2100にてYES)、ロック車輪の制御指令値を保持するステップ(S2200)と、目標加速度と実際の加速度とに基づいて必要な制動力を算出するステップ(S2300)と、制動配分を設定するステップ(S2400)と、ロック車輪以外の車輪の制御指令値を算出するステップ(S2500)と、各車輪の制御指令値を出力するステップ(S2600)とを含む、プログラムを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動装置の制御装置に関し、特に、車輪に設けられる制動装置の制動力を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者によるブレーキペダルの操作量に基づいて、運転者の要求する要求制動力を検出し、要求制動力に基づく車両の目標減速度と、実際の車両の減速度とが一致するように制動力を発生させる技術がある。
【0003】
たとえば、特開平9−84206号公報(特許文献1)は、車輪の制動を行うブレーキ装置とモータによる回生ブレーキとを備え、坂道発進やコーナリング時のヒールアンドトゥ操作等を違和感なく良好に実施可能な電気自動車の走行制御装置を開示する。走行制御装置は、ブレーキ操作手段と駆動力操作手段とが同時に操作されたときには駆動力操作手段による操作を優先してモータを制御する。走行制御装置は、ブレーキ操作量に基づいて要求制動力を演算する。走行制御装置は、要求制動力と回生制動力との差に一致するブレーキ力をブレーキ装置に発生させる。
【特許文献1】特開平9−84206号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のようにブレーキペダル操作量に基づいて、要求制動力を検出して制動力を制御すると、要求制動力が大きい場合に、制動装置における制動力の過多により車輪が停止状態(すなわち、ロック状態)に陥る可能性がある。車輪が停止状態であると、停止状態でない車輪と比較して制動力は低下する。そこで、制動時に車輪が停止状態であることが検出されると、車輪が停止状態にならないように制動装置を制御するアンチロックブレーキ制御を行なうことも考えられるが、アンチロックブレーキ制御は、車輪が停止状態にならないようにする制御であって、特に、低摩擦係数(以下、低μと記載する。)の路面状況においては、かえって制動距離が延びてしまうという可能性がある。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、車両の制動距離が延びることを抑制する制動装置の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明に係る制動装置の制御装置は、運転者の制動操作量に応じて、車両に設けられる複数の車輪の制動力を制御する制動装置の制御装置である。制御装置は、車両の走行中において、各車輪の回転が停止状態であるか否かを判断するためのロック検知手段と、複数の車輪のうち一部の車輪の回転が停止状態であると判断されると、停止状態でない車輪の制動力を増加させるように制御するための制動力制御手段とを含む。
【0007】
第1の発明によると、制御装置は、各車輪の回転が停止状態であるか否かを判断する。複数の車輪のうち一部の車輪の回転が停止状態であると判断されると、停止状態でない車輪の制動力を増加させるように制御する。停止状態ではない車輪の制動力を増加させることにより、車輪の一部が停止状態であることによる制動力の低下を補うことができる。そのため、車両全体の制動力の低下を抑制できる。これにより、制動距離が延びることを抑制できる。したがって、車両の制動距離が延びることを抑制する制動装置の制御装置を提供することができる。
【0008】
第2の発明に係る制動装置の制御装置は、第1の発明の構成に加えて、制御装置は、車輪の回転速度である車輪速を検知するための検知手段をさらに含む。ロック検知手段は、車輪速に基づいて、車輪が停止状態であるか否かを判断するための手段を含む。
【0009】
第2の発明によると、ロック検知手段は、検知された車輪の回転速度である車輪速に基づいて、車輪が停止状態であるか否かを判断する。これにより、車輪の走行中に複数の車輪の車輪速をそれぞれ検知して、どの車輪が停止状態であるか否かを判断することができる。
【0010】
第3の発明に係る制動装置の制御装置においては、第1または2の発明の構成に加えて、制動力制御手段は、車両が予め定められた車速よりも低速であると、停止状態でない車輪の制動力を増加させるように制御するための手段を含む。
【0011】
第3の発明によると、制動力制御手段は、車両が予め定められた車速よりも低速であると、停止状態でない車輪の制動力を増加させるように制御する。たとえば、自動変速機が搭載される車両において、低車速時には、クリープトルク等の駆動力が発生している。そのため、停止状態でない車輪の制動力を、駆動力を上回るように増加させることにより、車両の制動距離が延びることを抑制することができる。
【0012】
第4の発明に係る制動装置の制御装置においては、第1〜3のいずれかの発明の構成に加えて、制動力制御手段は、複数の車輪のうち一部の車輪の回転が停止状態であると判断されると、停止状態である車輪の制動力を維持するとともに、停止状態でない車輪の制動力を増加させるように制御するための手段を含む。
【0013】
第4の発明によると、制動力制御手段は、各車輪のうち一部の車輪の回転が停止状態であると判断されると、停止状態である車輪の制動力を維持するとともに、停止状態でない車輪の制動力を増加させるように制御する。特に、低μの路面状況においては、停止状態である車輪の制動力を維持する方が、アンチロックブレーキ制御を行なうよりも制動距離が短くなる場合があるため、車両の制動距離が延びることを抑制することができる。
【0014】
第5の発明に係る制動装置の制御装置は、第1〜4のいずれかの発明の構成に加えて、制動操作量に基づいて、車両の目標加速度を算出するための手段と、車両の加速度を検知するための手段と、加速度と目標加速度とが一致するように複数の車輪に対する制動力の配分を設定するための手段とを含む。
【0015】
第5の発明によると、制動操作量に基づいて、車両の目標加速度を算出して、目標加速度と、検知された加速度とが一致するように複数の車輪に対する制動力の配分を設定する。これにより、各車輪に対して、目標加速度になるように制動力を適切に配分して、停止状態にない車輪の制動力を増加させることにより、制動距離が延びることを抑制することができる。
【0016】
第6の発明に係る制動装置の制御装置においては、第1〜5のいずれかの発明の構成に加えて、車両は、少なくとも後輪において駆動力が発生する車両である。車両には、自動変速機が搭載される。制御装置は、複数の車輪のうち一部の車輪が停止状態であると判断されると、変速比が高速側のギヤ比に設定されるように自動変速機を制御するための手段をさらに含む。
【0017】
第6の発明によると、制御装置は、変速比が高速側のギヤ比に設定されるように自動変速機を制御する。少なくとも後輪において駆動力が発生する車両において、自動変速機が搭載されていると、低車速の領域においては、クリープトルクによる進行方向の駆動力が発生する。そのため、車両の前輪が停止状態となる場合に、この駆動力が大きいと、車両の制動距離は延びる可能性がある。そのため、複数の車輪のうち一部の車輪が停止状態であると判断されると、変速比が高速側のギヤ比に設定されるように自動変速機を制御することにより、後輪の駆動力が少なくなり、制動距離が延びることを抑制することができる。
【0018】
第7の発明に係る制動装置の制御装置においては、第1〜5のいずれかの発明の構成に加えて、車両は、少なくとも後輪において駆動力が発生する車両である。車両には、自動変速機が搭載される。制御装置は、複数の車輪のうち一部の車輪が停止状態であると判断されると、動力伝達状態が動力遮断状態になるように自動変速機を制御するための手段をさらに含む。
【0019】
第7の発明によると、制御装置は、動力伝達状態が動力遮断状態になるように自動変速機を制御する。少なくとも後輪において駆動力が発生する車両において、自動変速機が搭載されていると、低車速の領域においては、クリープトルクによる進行方向の駆動力が発生する。そのため、車両の前輪が停止状態となる場合に、この駆動力が大きいと、車両の制動距離は延びる可能性がある。そのため、複数の車輪のうち一部の車輪が停止状態であると判断されると、動力伝達状態が動力遮断状態になるように自動変速機を制御することにより、後輪の駆動力がゼロとなり、制動距離が延びることを抑制することができる。
【0020】
第8の発明に係る制動装置の制御装置においては、第1〜5のいずれかの発明の構成に加えて、車両は、少なくとも後輪において駆動力が発生する車両である。車両には、後輪に伝達される駆動力により作動される負荷装置が設けられる。制御装置は、複数の車輪のうち一部の車輪が停止状態であると判断されると、負荷装置を作動させるように制御するための手段をさらに含む。
【0021】
第8の発明によると、車両には、後輪に伝達される駆動力により作動される負荷装置が設けられる。制御装置は、複数の車輪のうち一部の車輪が停止状態であると判断されると、負荷装置を作動させるように制御する。少なくとも後輪において駆動力が発生する車両において、自動変速機が搭載されていると、低車速の領域においては、クリープトルクによる進行方向の駆動力が発生する。そのため、車両の前輪が停止状態となる場合に、この駆動力が大きいと、車両の制動距離は延びる可能性がある。そのため、複数の車輪のうち一部の車輪が停止状態であると判断されると、負荷装置(たとえば、ブレーキ装置、発電機として機能する回転電機)を作動させるように制御することにより、後輪の駆動力が少なくなり、制動距離が延びることを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る制動装置の制御装置について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
【0023】
図1を参照して、本実施の形態に係る制動装置の制御装置を含む車両100の構成について説明する。なお、以下の説明においては、車両を後輪駆動車として説明するが、本発明は後輪駆動車に限定されるものではなく、前輪駆動車であってもよいし四輪駆動車であってもよい。
【0024】
図1に示すように、この車両100は、車両100の駆動力を発生させる原動機であるエンジン200と、エンジン200の出力がトルクコンバータ300を介して伝達される遊星歯車式自動変速機構400と、従動輪である前輪700と、プロペラシャフト720を介して遊星歯車式自動変速機構400の出力軸に接続された駆動輪である後輪710と、前輪700において制動力を発生させる制動装置(1)730と、後輪710において制動力を発生させる制動装置(2)740とを含む。
【0025】
また、この車両100は、運転者によるブレーキペダルの操作量を検知するブレーキ操作量検知センサ500と、前輪700および後輪710に設けられた制動装置(1)730および制動装置(2)740を作動させるためのブレーキアクチュエータ900と、制動装置(1)730および制動装置(2)740の制動力を検知する制動力検知装置1200と、車輪の回転を検知する車輪回転検知装置1300とを含む。
【0026】
さらに、車両100は、エンジン200を制御するエンジンECU(Electronic Control Unit)1000と、トルクコンバータ300および遊星歯車式自動変速機構400を制御するECT_ECU1100と、ブレーキアクチュエータ900を制御するブレーキECU800とを含む。
【0027】
この車両100においては、図1の点線で示す通信線により、各構成要素が双方向にデータ通信が可能なように構成されている。またエンジン200は、原動機であればよく、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、これら以外の内燃機関であってもよいし、また電気モータであってもよい。
【0028】
トルクコンバータ300は、トルクコンバータ以外のブルードカップリングであってよいし、湿式摩擦式クラッチや、乾式摩擦クラッチや、電磁クラッチや、直結伝達装置や、電磁気を利用した動力伝達装置(電気モータ)などであってもよい。また、遊星歯車式自動変速機構400は、手動式の変速機であったり、ベルト式の無段変速機であったり、直結動力伝達装置であってもよい。
【0029】
制動装置(1)730は、車両の前輪700において、制動力を発生させる装置である。一方、制動装置(2)740は、車両の後輪710において、制動力を発生させる装置である。本実施の形態において、車両100は4つの車輪を有しており、各車輪にはそれぞれ制動装置が設けられる。すなわち、2つの前輪700にはそれぞれ制動装置(1)730が設けられており、2つの後輪710にはそれぞれ制動装置(2)740が設けられている。本実施の形態において、ブレーキECUは、制動装置(1)730および制動装置(2)740の制動力をそれぞれ独立して制御するが、4輪独立して制動力を制御するようにしてもよい。
【0030】
制動装置(1)730および制動装置(2)740は、たとえば、ディスクブレーキであるが特にこれに限定されるものではない。ディスクブレーキは、車輪側に設けられるディスク(図示せず)と車体側に設けられるキャリパ(図示せず)とから構成される。キャリパには、油圧回路に接続されたホイルシリンダが設けられ、ホイルシリンダにおいて液圧が増加すると、ディスクを狭持して、制動力が発生する。
【0031】
ブレーキアクチュエータ900は、電磁弁等から構成され、油圧回路における液圧の増減を制御する。すなわち、ホイルシリンダに接続される油圧回路における液圧がブレーキアクチュエータ900により制御されることにより、制動装置(1)730および制動装置(2)740において発生する制動力が制御される。
【0032】
車両100における制動時において、ブレーキECU800は、ブレーキ操作量検知センサ500により検知される、運転者のブレーキペダルの操作量に基づいて、車両に要求される要求制動力を検出する。ブレーキECU800は、検出された要求制動力に基づいて車両における目標加速度を算出する。ブレーキECU800は、車輪回転検知装置1300あるいは加速度センサ(図示せず)により検知される車両の実際の加速度と目標加速度とが一致するために車両100に必要な制動力を算出する。ブレーキECU800は、算出された制動力を各車輪に配分して、ブレーキアクチュエータ900を介して前述のホイルシリンダの液圧を制御する。
【0033】
ブレーキペダルの操作量が大きいと、要求制動力が大きくなり、制動装置(1)730および制動装置(2)740において発生する制動力が過大となる。そのため、複数の車輪のうち一部の車輪が停止状態(すなわち、ロック状態)になる場合がある。「車輪の停止状態」とは、車両の走行中に車輪の回転速度(以下、車輪速と記載する。)がゼロになる状態である。車輪が停止状態であると、停止状態でない車輪と比較して制動力は低下する。
【0034】
そこで、制動時に車輪が停止状態であることが検出されると、車輪が停止状態にならないように制動装置(1)730および制動装置(2)740を制御するアンチロックブレーキ制御を行なうことが考えられるが、アンチロックブレーキ制御は、車輪が停止状態にならないようにホイルシリンダの液圧を制御する制御であって、特に、低μの路面状況においては、かえって制動距離が延びてしまう可能性がある。
【0035】
本発明は、車両100の走行中に、複数の車輪のうち一部の車輪の回転が停止状態になると、停止状態でない車輪の制動力を増加させるように制動装置(1)730および制動装置(2)740を制御することを特徴とする。
【0036】
具体的には、ブレーキECU800は、車両100の走行中に、車輪回転検知装置1300により検知される車輪速に基づいて、車輪が停止状態にあるか否かを判断する。ブレーキECU800は、複数の車輪のうち一部の車輪の回転が停止状態であると判断すると、停止状態でない車輪の制動装置(1)730および制動装置(2)740のいずれかのホイルシリンダの液圧を上昇させるようにブレーキアクチュエータ900を介して制御する。
【0037】
以下、図2を参照して、本実施の形態に係る制動装置の制御装置であるブレーキECU800で実行されるプログラムの制御構造について説明する。
【0038】
ステップ(以下、ステップをSと記載する。)1000にて、ブレーキECU800は、車速が低速であるか否かを判断する。すなわち、ブレーキECU800は、たとえば、車輪回転検知装置1300により検知される車輪速に基づく車速が予め定められた車速以下であるか否かを判断する。「予め定められた車速」とは、車両に応じて、適切に設定される値であって、特に限定されるものではない。車速が低速であると(S1000にてYES)、処理はS1100に移される。もしそうでないと(S1000にてNO)、車速が低速になるまで処理は待機する。
【0039】
S1100にて、ブレーキECU800は、ブレーキ量検知センサ500により検知されるブレーキ操作量が予め定められた値Aよりも大きいか否かを判断する。予め定められた値Aは、たとえば、ブレーキペダルの遊び量等に基づいて設定されるブレーキが効きはじめる操作量であるが、特に限定される値ではない。ブレーキ操作量が予め定められた値Aよりも大きいと(S1100にてYES)、処理はS1200に移される。もしそうでないと(S1100にてNO)、処理は終了する。
【0040】
S1200にて、ブレーキECU800は、ブレーキ量検知センサ500により検知されるブレーキ操作量に基づいて目標加速度G_reqを演算する。目標加速度G_reqは、ブレーキ操作量と車速と目標加速度との関係を示すマップから算出してもよいし、ブレーキ操作量に基づいて演算される要求制動力から目標加速度G_reqを算出してもよい。また、目標加速度G_reqは、路面状況に応じてマップの値を補正するようにしてもよいし、ブレーキ操作量、車速から予め定められた数式に基づいて算出してもよい。なお、路面状況は、たとえば、GPS(Global Positioning System)(図示せず)からの位置情報に基づく、地理情報から検出するようにしてもよい。
【0041】
S1300にて、ブレーキECU800は、演算された目標加速度G_reqが車両の実際の加速度である対地加速度G_realよりも小さいか否かを判断する。対地加速度G_realは、たとえば、車輪速の時間微分値を演算して算出してもよいし、車両に設けられる加速度センサ(図示せず)から検知してもよいし、GPSからの位置情報から演算してもよいし、特にその算出方法は限定されるものではない。目標加速度G_reqが対地加速度G_realよりも小さいと(S1300にてYES)、処理はS1400に移される。もしそうでないと(S1300にてNO)、処理は終了する。
【0042】
S1400にて、ブレーキECU800は、制動力指令値Fdeg_req(i)の演算をする。制御指令値Fdeg_req(i)は、後述するサブルーチンのプログラムにより演算される。ここで「Fdeg_req(i)」とは、各車輪のうちi番目の車輪の制御指令値を示す。本実施の形態においては、車両100は4輪の車両であるため、ブレーキECU800は、各車輪に対応する、Fdeg_req(1)〜(4)をそれぞれ演算する。S1500にて、演算された指令値Fdeg_req(1)〜(4)に基づいて、ブレーキECU800は、ブレーキアクチュエータ900を介して制動装置(1)730および制動装置(2)740の制動力を制御する。
【0043】
つづいて、図3を参照して、本実施の形態に係る制動装置の制御装置であるブレーキECU800が制動力指令値Fdeg_req(i)を演算するプログラムの制御構造について説明する。
【0044】
S2000にて、ブレーキECU800は、車輪回転検知装置1300により各車輪の車輪速を検知する。S2100にて、ブレーキECU800は、検知された車輪速に基づいて、複数の車輪のうち停止状態である車輪があるか否かを判断する。停止状態である車輪があると(S2100にてYES)、処理はS2200に移される。もしそうでないと(S2100にてNO)、処理はS2300に移される。
【0045】
S2200にて、ブレーキECU800は、停止状態である車輪に対しての制御指令値を前回と同様の値に保持する。S2300にて、ブレーキECU800は、目標加速度G_reqに基づいて、車両100に必要な制動力を算出する。ブレーキECU800は、目標加速度G_reqと実際の加速度G_realとの差に基づいて車両100に必要な制動力を算出する。具体的には、ブレーキECU800は、目標加速度G_reqと実際の加速度G_realとが一致するために車両100に必要な制動力を算出する。このとき、車両100に必要な制動力は、たとえば、G_req×W(車重)+Fdrv(駆動力)−R(走行抵抗:停止状態である車輪の摩擦抵抗を含む)により算出される。「Fdrv」とは、本実施の形態において、車両100には、遊星歯車式自動変速機構400が搭載されるため、遊星歯車式自動変速機構400において発生するクリープトルク等の駆動力を示す。
【0046】
S2400にて、ブレーキECU800は、制動力配分A(i)を設定する。制動力配分A(i)とは、たとえば、駆動方式や車両の前後重量に基づいて予め定められた制動配分により設定される。ここでA(i)とは、各車輪のi番目の車輪の制動力の配分を示す。本実施の形態においては、車両100は4輪の車両であるため、各車輪に対応する制動力配分A(1)〜(4)がそれぞれ設定される。ここで、4輪のうち停止状態にある車輪がある場合、ブレーキECU800は、停止状態である車輪以外の車輪の制動力の配分を設定する。
【0047】
S2500にて、ブレーキECU800は、停止状態である車輪以外の各車輪の制御指令値を算出する。なお、停止状態となる車輪がない場合は、ブレーキECU800は、全車輪のそれぞれの制御指令値を算出する。S2600にて、ブレーキECU800は、ブレーキアクチュエータ900に対して、算出された制御指令値Fdeg_req(1)〜(4)を出力する。
【0048】
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態に係る制動装置の制御装置であるブレーキECU800の動作について図4を参照にして説明する。なお、図4においては、比較的わかりやすい状況における動作を説明するため、便宜上、低μの路面において、車両が低速直進中に運転者がブレーキペダルを踏込み、2つの前輪700がほぼ同時に停止状態になるような状況におけるブレーキECU800の動作について説明するが特にこのような状況に限定されるものではない。
【0049】
車両の速度が予め定められた車速よりも低速になり(S1000にてYES)、運転者がブレーキペダルを操作して、ブレーキ操作量が予め定められた値Aよりも大きくなると(S1100にてYES)、目標加速度G_reqが演算される(S1200)。G_reqが対地加速度G_realよりも小さくなると(S1300にてYES)、制動力指令値Fdeg_req(i)が演算される(S1400)。
【0050】
このとき、図4に示すように、時間T(1)において、4輪のうち前輪の2輪がほぼ同時に停止状態になると(S2000,S2100にてYES)、前輪の車輪速はゼロになる。停止状態となる車輪の制御指令値は保持されるため(S2200)、前輪のブレーキ液圧はPf(1)が維持される。一方、目標加速度に基づく必要な制動力が算出されて(S2300)、停止状態でない車輪(すなわち、後輪)の制動配分A(i)が設定される(S2400)。そして、停止状態でない車輪の制御指令値が算出されて(S2500)、各車輪の制御指令値Fdeg_req(i)がブレーキアクチュエータ900に出力される(S2600)。出力された制御指令値に基づいてブレーキアクチュエータ900は油圧回路の液圧を調整して、制動力が調整される(S1500)。このとき、後輪のブレーキ液圧は、Pr(1)からPr(2)に増加される。そして、時間T(2)において、車両100は停止する。
【0051】
以上のようにして、本実施の形態に係る制動装置の制御装置によると、ブレーキECUは、複数の車輪の回転が停止状態であるか否かを判断する。複数の車輪のうち一部の車輪の回転が停止状態であると判断されると、停止状態でない車輪の制動力を増加させるようにブレーキアクチュエータを制御する。停止状態ではない車輪の制動力を増加させることにより、車輪の一部が停止状態になることによる制動力の低下を補うことができる。そのため、車両全体の制動力の低下を抑制できる。これにより、制動距離が延びることを抑制できる。したがって、車両の制動距離が延びることを抑制する制動装置の制御装置を提供することができる。
【0052】
そして、ブレーキECUは、複数の車輪のうち一部の車輪の回転が停止状態であると判断されると、停止状態である車輪の制動力を維持するとともに、停止状態でない車輪の制動力を増加させるように制御する。特に、低μの路面状況においては、停止状態である車輪の制動力を維持する方が、アンチロックブレーキ制御を行なうよりも制動距離が短くなる場合があるため、車両の制動距離が延びることを抑制することができる。
【0053】
また、少なくとも後輪において駆動力が発生する車両において、自動変速機が搭載されている場合には、好ましくは、ブレーキECUは、複数の車輪のうち一部の車輪の回転が停止状態であると判断されると、変速比が高速側のギヤ比に設定されるようにECT_ECUを介して自動変速機を制御することが望ましい。低車速の領域においては、クリープトルクによる進行方向の駆動力が発生する。そのため、図4で説明したように、車両の前輪が停止状態となる場合に、この駆動力が大きいと、後輪の制動力が低下するため、車両の制動距離は延びる可能性がある。そのため、変速比が高速側のギヤ比に設定されるように自動変速機を制御することにより、後輪の駆動力が少なくなり、制動距離が延びることを抑制することができる。
【0054】
あるいは、好ましくは、ブレーキECUは、複数の車輪のうち一部の車輪の回転が停止状態であると判断されると、動力伝達状態が動力遮断状態になるようにECT_ECUを介して自動変速機を制御することが望ましい。このようにすると、クリープトルクによる駆動力が後輪に伝達されないため、後輪の駆動力がゼロとなり、制動距離が延びることを抑制することができる。
【0055】
または、好ましくは、後輪に伝達力により作動される負荷装置が設けられることが望ましい。負荷装置とは、たとえば、ブレーキ装置や発電機として機能する回転電機である。ブレーキECUは、複数の車輪のうち一部の車輪が停止状態であると判断されると、負荷装置を作動させるように制御することにより、後輪の駆動力が少なくなり、制動距離が延びることを抑制することができる。
【0056】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本実施の形態に係る制動装置の制御装置であるブレーキECUが搭載される車両の構成を示す図である。
【図2】本実施の形態に係る制動装置の制御装置であるブレーキECUが実行するプログラムの制御構造を示すフローチャート(その1)である。
【図3】本実施の形態に係る制動装置の制御装置であるブレーキECUが実行するプログラムの制御構造を示すフローチャート(その2)である。
【図4】本実施の形態に係る制動装置の制御装置であるブレーキECUの動作を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0058】
100 車両、200 エンジン、300 トルクコンバータ、400 自動変速機、500 ブレーキ操作量検知センサ、700 前輪(従動輪)、710 後輪(駆動輪)、720 プロペラシャフト、730,740 制動装置、800 ブレーキECU、900 ブレーキアクチュエータ、1000 エンジンECU、1100 ECT_ECU、1200 制動力検知装置、1300 車輪回転検知装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の制動操作量に応じて、車両に設けられる複数の車輪の制動力を制御する制動装置の制御装置であって、
前記車両の走行中において、各前記車輪の回転が停止状態であるか否かを判断するためのロック検知手段と、
前記複数の車輪のうち一部の車輪の回転が停止状態であると判断されると、停止状態でない車輪の制動力を増加させるように制御するための制動力制御手段とを含む、制動装置の制御装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記車輪の回転速度である車輪速を検知するための検知手段をさらに含み、
前記ロック検知手段は、前記車輪速に基づいて、前記車輪が停止状態であるか否かを判断するための手段を含む、請求項1に記載の制動装置の制御装置。
【請求項3】
前記制動力制御手段は、前記車両が予め定められた車速よりも低速であると、停止状態でない車輪の制動力を増加させるように制御するための手段を含む、請求項1または2に記載の制動装置の制御装置。
【請求項4】
前記制動力制御手段は、前記複数の車輪のうち一部の車輪の回転が停止状態であると判断されると、停止状態である車輪の制動力を維持するとともに、停止状態でない車輪の制動力を増加させるように制御するための手段を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の制動装置の制御装置。
【請求項5】
前記制御装置は、
前記制動操作量に基づいて、前記車両の目標加速度を算出するための手段と、
前記車両の加速度を検知するための手段と、
前記加速度と前記目標加速度とが一致するように前記複数の車輪に対する制動力の配分を設定するための手段とを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の制動装置の制御装置。
【請求項6】
前記車両は、少なくとも後輪において駆動力が発生する車両であって、前記車両には、自動変速機が搭載され、
前記制御装置は、前記複数の車輪のうち一部の車輪が停止状態であると判断されると、変速比が高速側のギヤ比に設定されるように前記自動変速機を制御するための手段をさらに含む、請求項1〜5のいずれかに記載の制動装置の制御装置。
【請求項7】
前記車両は、少なくとも後輪において駆動力が発生する車両であって、前記車両には、自動変速機が搭載され、
前記制御装置は、前記複数の車輪のうち一部の車輪が停止状態であると判断されると、動力伝達状態が動力遮断状態になるように前記自動変速機を制御するための手段をさらに含む、請求項1〜5のいずれかに記載の制動装置の制御装置。
【請求項8】
前記車両は、少なくとも後輪において駆動力が発生する車両であって、前記車両には、前記後輪に伝達される駆動力により作動される負荷装置が設けられ、
前記制御装置は、前記複数の車輪のうち一部の車輪が停止状態であると判断されると、前記負荷装置を作動させるように制御するための手段をさらに含む、請求項1〜5のいずれかに記載の制動装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−111159(P2006−111159A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−301356(P2004−301356)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】