説明

制御装置および制御装置を備えた走行体

【課題】最適、かつ安全性に富んだ列車等の走行体の制御を行う。
【解決手段】電力を利用して走行路12a、12b上を移動する列車10が利用する電力を蓄電する電力貯蔵手段の貯蔵残電力が計測され、検出された残電力量等に基づいて列車10の走行計画を立てる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車鉄道システムあるいは新交通システム、物流システムなど、走行路上を走行する走行体である列車や自動車、搬送車などの制御装置および制御装置を備えた走行体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、走行体のブレークエネルギーのロスの削減や、ブレーキシューの無駄な消費を防止する運転計画を立てる技術が存在しており、この技術は、走行体の消費エネルギー配分を考慮した制御を行う。この制御には、予め作成したデータベースを用い、このデータベースに基づいて制御を行う技術が開示されている。
【特許文献1】特開2003−134604
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、このような構成であると、走行体を最適に制御できる運転計画の具体的なデータベースの作成方法が開示されていない。また、走行体の安全性を考慮した運転計画を立てることができない。
【0004】
本発明の目的は、最適、かつ安全性に富んだ走行体の制御ができる制御装置および制御装置を備えた走行体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明はかかる課題を解決するものであり、電力を利用して走行路上を移動する走行体の制御を行う制御装置であって、前記走行体が利用する電力を蓄電する電力貯蔵手段の貯蔵残電力を計測する残電力検出手段で検出した残電力量、走行体の位置を検出する位置検出手段で検出された走行体の位置情報、走行体の速度を検出する速度検出手段で検出された走行体の速度情報に基づいて走行体の走行計画を立てる運転計画作成手段と、走行体の走行路の安全状態を監視、制御を行う保安制御手段とを具備することを特徴とする制御装置が提供される。
【0006】
したがって本発明は、電力を利用して走行路上を移動する走行体が利用する電力を蓄電する電力貯蔵手段の貯蔵残電力が計測され、検出された残電力量に基づいて走行体の走行計画が立てられる。このため、最適、かつ安全性に富んだ走行体の制御ができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、最適、かつ安全性に富んだ走行体の制御ができる制御装置および制御装置を備えた走行体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(第1実施形態)
次に、本願発明の第1実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0009】
図1は、本発明の第1実施形態に係る走行体が備える制御装置を適用した走行体制御システムの一実施形態を示したものである。この走行体制御システムでは、車両等の走行体10が単一の方向のみに走行することができる2つの走行路12a、12bを備えたいわゆる複線路線となっている。この走行体制御システムは、走行路12a、12bおよび停車場16a、16bから構成されており、走行路12a、12b上に車両等の走行体10a、10bを走行させるように構成している。
【0010】
図2は、車両等の走行体10の構成を示した機能ブロック図である。走行体10は、記憶部20と、制御部22と、走行体10に搭載されて走行体の走行に利用可能な電力エネルギーを貯蔵することができる電力貯蔵手段24と、制御部22からの出力に基づいて走行体10を加速・減速させることができる駆動・減速手段26とから構成される。
【0011】
記憶部20は、勾配や曲線速度制限など走行路に関するデータが記憶された路線データベース記憶領域20a、あらかじめ定められた運行ダイヤデータ記憶領域20b、および、走行体の走行性能が記憶された走行体性能データベース記憶領域20c等を記憶している。
【0012】
制御部22は、電力貯蔵手段24に残された電力エネルギー量を検出できる残電力検出手段22a、走行体の位置を検出する走行体位置検出手段22b、および走行体の速度を検出する走行体速度検出手段22cから構成される。
【0013】
なお、走行体10には、架線等から供給された電力を蓄積する電力貯蔵手段24として二次電池を搭載しており、この二次電池をから駆動・減速手段26に電力を供給する。このため、走行体10外部から電力の供給がない場合も走行体10を走行させることができる。さらに、走行体10の減速時には駆動・減速手段26によって電力回生を行って、走行体10に搭載された電力貯蔵手段24に電力を貯蔵する。
【0014】
また、走行体10には、走行体位置検出手段22bとして、例えばGPS(Global Positioning System)受信装置を搭載して走行体の走行位置を検出できるようにし、また走行体速度検出手段22cとしては、例えば、車軸に接続した速度発電機によって走行体10の走行速度を検出する。また、走行体位置検出手段22bとしてGPSを使用しているが、これに限定するものではなく、例えば、走行体上に搭載した速度発電機の信号を処理して位置検出に利用したり、軌道回路やトランスポンダ、リミットスイッチによる進入チェック方式、これらのうちのいくつかを組み合わせた方式でもよい。同様に、走行体速度検出手段22cに速度発電機を用いているが、これに限定するものではなく、例えば、走行体の速度を検出できるものであればパルスジェネレータやレーザレーダ、ミリ波レーダを利用するなど、どのようなものであっても良い。
【0015】
以上のように構成した本発明の第1実施形態である走行体が備える制御装置を適用した走行体制御システムにおいての走行体の制御動作を説明する。
【0016】
図1に示した走行体10aは、停車場16aを出発して、走行路12aに沿って走行したのち停車場16bに到着する。一方、走行体10bは、停車場16bを出発して、走行路12bに沿って走行したのち、停車場16aに到着する。走行体10a、10bには、それぞれ制御部22が搭載されており、この制御部22は、運転計画作成手段22dによって作成された運転計画(出発してから停止に至るまでの運転計画)を実現するように、駆動・減速手段26を動作させて、走行体10a、10bを自動的に走行させる。
【0017】
制御部22は、残電力検出手段22a、走行体位置検出手段22b、走行体速度検出手段22cから得られる情報に基づいて、任意のタイミングで運転計画作成手段22dによって走行体走行のための運転計画を作成する。運転計画作成手段22dは、運転計画作成指示信号を出力する。この運転計画作成指示信号を受信した運転計画作成手段22dは、路線データベース記憶領域20a、運行ダイヤデータ記憶領域20b、および走行体性能データベース記憶領域20cに基づいて適切な運転計画情報を作成する。制御部22は、運転計画作成手段22dが作成した運転計画情報に基づいて、この運転計画を可能な限り実現するように、残電力検出手段22a、走行体位置検出手段22b、走行体速度検出手段22cから得られる情報を参照し、駆動・減速手段26を制御して走行体10a、10bを自動運転する。
【0018】
また、運転計画作成手段22dは、運行ダイヤを可能な限り遵守するように運転計画を作成する。この際、省エネルギー走行に適した運転方法、停車場間を可能な限り短い走行時間で走行する運転方法、といった複数の指針に基づいて運転計画を作成できる。
【0019】
さらに、制御部22では、状況に応じて得られたどの情報に基づいて運転計画作成手段22dが運転計画情報を作成するかを決定し、運転計画作成指示信号によってこの作成指針を切り替える。
【0020】
なお、第1実施形態においては、運転計画作成手段22dは運転計画情報として、停車場16aの出発時からの経過時間と走行体10a、10bの走行位置および走行体10a、10bの走行位置とその位置における走行体速度の関係であるいわゆる運転曲線を作成して、制御部22を構成する記憶部20の図示しない記憶領域に保存する。上述の運転曲線とは、例えば、図3に示すものであり、同図は、走行体10a、10bが停車場16aから停車場16bまで走行する際の走行体10a、10bの位置と速度との関係を示した運転曲線である。この運転曲線では、走行体10a、10bは、停車場16aを出発し、加速し、最高速度で定速走行し、速度制限区間を制限速度を維持して通過するために減速し、通過後、加速し、最高速度で定速走行した後、停車場16bに停止するために減速して、所定の停車位置に停止する際の動作を示している。
【0021】
次に、これらのデータに基づいて、制御部22は、走行体10a、10bの加速時や定速走行時に駆動・減速手段26などで消費される消費電力量および走行体10a、10bの減速時に駆動・減速手段26によって回生され電力貯蔵手段24に貯蔵される電力量を算出して、記憶部20の図示しない記憶領域に保存する。
【0022】
停車場16aから走行体10aが出発する際には、まず走行体10aに対する信号が進行を許可する信号となっており、走行体10aが停車場16aを出発する時刻となると、走行体10aの制御部22が、運転計画作成手段22dに対して、走行体が次に目指すべき停車場である停車場16bまでの運転計画を作成させるための運転計画作成指示信号を出力する。運転計画作成指示信号を受信した運転計画作成手段22dは、勾配や曲線速度制限など走行路に関するデータが記憶された路線データベース記憶領域20a、走行体の走行性能が記憶された走行体性能データベース記憶領域20c、あらかじめ定められた運行ダイヤデータ記憶領域20b、さらに残電力検出手段22aが出力する電力貯蔵手段24に貯蔵された電力エネルギー量に関わるデータに基づいて運転計画の作成を行う。
【0023】
このときの運転計画作成手段22dが運転計画を作成する際の制約条件としては、走行路上の勾配曲線部や分岐器部分を通過する際の速度制限区間など設備および安全性の面からの制約や・走行体の走行性能、走行路の勾配などの物理的な制約、そして運行ダイヤデータ記憶領域20bに記憶されている停車場16aから走行体10aを出発させる時刻およびその次に走行体10aを停車させる停車場16bへの走行体の到着時刻がある。
【0024】
特に、走行体運行の定時性の面から、運行ダイヤデータ記憶領域20bに記憶された走行体10aの次の停車場16bへの到着時刻を可能な限り遵守するように作成する必要がある。なお、一般に走行体の運行ダイヤは、ある停車場間を走行体が走行するのに要する最短の走行所要時間である基準運転時分に、走行体の運行に必要と見こまれる適当な時間的余裕である余裕時分を付加して作成するのが基本となる。この基準運転時分は、設備および安全性の面からの制約条件と走行体性能や走行路の路線形状などの物理的な制約条件から一意に求めることが可能な値であり、余裕時分は走行体性能の個体差や運転士の運転操作のバラツキによる走行体運行上の走行時間変動を吸収したり、何らかの原因で走行体に運行上の遅延が生じた際に後続走行体への遅延の影響を防止したり遅延を回復させるための余裕としたり、運行上の調整を行ったりするために用いられる。
【0025】
このように運行ダイヤには余裕時分が付加されているため、走行体を定刻通りに停車場から出発させた場合、走行体を運行ダイヤに定められたとおりに次の停車場に到着させようとすると、走行体の実際の走行速度を基準運転時分を実現する走行速度より低下させて運転したり、走行体加速時の加速度や停車場に停車させる際の減速度を調整したり、停車場間で走行体を惰行させて運転するなど、運転操作によって走行時間の調整を行う必要がある。
【0026】
なお、このような余裕時分を利用して、例えば最高速度を下げて運転したり、惰行区間を設けて運転するなどの運転操作を行うことによって、走行体の消費電力を低減させることが可能である。
【0027】
いま、走行体10aの牽引力をFd[ニュートン、以下Nと略す]、空気抵抗をRa[N]、走行路12aの勾配による走行抵抗をRg[Nl、曲線部分で走行路から走行体が受ける走行抵抗をRr[N]、走行体10aの加速度をα[m/s]、重量をW[キログラム=kg]とすると、走行体10aの走行時における走行体10aの運動方程式は、Fd-(Ra+Rg+Rr)=Wxαで与えられる。ここで例として走行体10aの定速走行時を考えると、定速走行時には走行体10aの加速度α=0であるため、前述の走行体10aの運動方程式は、Fd-(Ra+Rg+Rr〕=0となる。すなわち、走行体10aを定速走行させるためには、走行体10aに働く全走行抵抗と釣り合う牽引力Fdを走行体10aに与える必要がある。走行体10aに働く走行抵抗のうち空気抵抗Raは、ほぼ速度の二乗に比例するため、走行体10aの走行速度、特に最高速度を低下させるように走行体10aを運転すれば、走行体10aに必要な牽引力Fdと、この牽引力を発生するために必要な電力量を大きく低減することができる。
【0028】
また、走行体10aを運転する最高速度を低下させることで、走行体10aを加速させるために要する時間も短縮することができ、これによる消費電力の低減効果も同時に得られる。そこで本発明の第1実施形態においては、運転計画作成手段22dによって運転計画を作成する際に、残電力検出手段22aによって電力貯蔵手段24に貯蔵されている電力量を検出し、貯蔵されている電力量に関する情報に基づいて、運行ダイヤデータ記憶領域20bに記憶された次の停車場16bへの到着時刻を守れる範囲において、電力消費を可能な限り低減できるような省エネルギー運転計画を作成する。
【0029】
例えば、残電力検出手段22aによって電力貯蔵手段24に貯蔵された残電力量が、予め定められた規定値より低下していると検出された場合には、運行ダイヤ上の次の停車場への到着時刻に間に合う限り、停車場間で最高速度にて運転する区間の速度を低下させたり、走行体10aの減速時に、より高い減速度を用いた運転曲線を計画する。高い減速度を用いることで、減速に要する時間が短縮されるが、停車場間の走行時間が変わらなければ加速時間も短縮する必要があるため、結果として電力消費量が低減できる。
【0030】
また、例えば、停車場間を走行中に、障害などによって列車の走行速度を低下させたり停車させたりして、目的の停車場への運行ダイヤ上の到着時刻に対して、列車が遅延したり遅延が予想される場合には、制御部22からの指令により運転計画作成手段22dによって、遅延を回復したり可能な限り遅延時間を短縮するように、運転計画を再度作成する。この他、例えば、停車場間の距離が長い場合などには、停車場間に障害が発生して走行体の走行計画に対して遅延を生じることも考えられるため、なるべく到着する停車場に接近するまでは余裕時分を保ったまま運行させたいというケースもある。このようなケースでは、残電力検出手段22aが電力貯蔵手段24に貯蔵された残電力量が、予め定められた規定値以上であると検出している場合、制御部22は、運転計画作成手段22dに対して次の停車場に定刻より早く到着するような走行計画を作成するための指示を出力する。
【0031】
例えば、到着する停車場に接近するまでは可能な限り短い走行時間で走行できるように、走行体の加速時には高い加速度で加速し、定速走行時には高い速度で走行するような運転計画を作成する。そして、到着する停車場に充分接近した時点で、停車場への到着予定時刻に対して時間的な余裕がある場合には、制御部22は運転計画作成手段22dに対して次の停車場に定刻通りに到着するような走行計画を作成させる指示を出力する。この指示に基づいて運転計画作成手段22dでは、走行体を惰行させたり、走行速度を低下させたり、次停車場への停車させる際の走行体の減速度を低下させる、など余裕時分を短縮するような運転計画を再作成する。
【0032】
また、制御部22の残電力検出手段22aが電力貯蔵手段24に貯蔵された残電力量が規定値より少ないと検出した場合には、規定値以上の場合と比べて走行体減速時の減速度を増加したり、定速走行時の走行速度を低下させたり、走行体加速時の加速度を低下させた運転計画を作成する。運転計画作成手段22dによって運転計画が作成されると、制御部22は、駆動・減速手段26を操作し、走行体10aを停車場16aから出発させる。この際、走行体位置検出手段22bとして、例えば、走行体10aに搭載したGPS受信装置を用い、一定のサンプリング周期毎に自身の走行体10aの走行位置を検出する。また、走行体速度検出手段22cは、走行体10aに搭載している例えば、速度発電機の信号を一定のサンプリング周期毎に取得して自身の走行体10aの走行速度を検出する。
【0033】
制御部22は、このようにして検出された走行体10aの走行位置および走行速度と、運転計画作成手段22dによって作成された運転計画とを入力として、運転計画を可能な限り実現するように駆動・減速手段26を操作して走行体10aを走行させる。実際の走行においては、例えば、走行体10aに乗車した乗客の多寡や、搭載されている走行性能データベース記憶領域20cのデータと実際の走行体10aとの走行性能との差、駆動・減速手段26を駆動する電圧の変動や天候などの様々な要素によって、運転実績が運転計画と異なってしまうことが通例である。制御部22は、このような運転計画と運転実績との誤差をなるべく生じさせないように、駆動・減速手段26への出力指令をリアルタイムに制御するが、駆動・減速手段26に供給される電源電圧の制限など種々の制約によって必ずしも補正しきれるとは限らない。また、例えば、先行する走行体に運行遅延などが生じた場合には、衝突防止のために走行体を停車させたり、走行速度を低下させて運転させるなど、計画通りの運転を行えない場合が生じることもある。
【0034】
そこで、制御部22は、このように運転計画と運転実績との誤差が大きくなった場合(例えば、誤差の閾値を設けておいて、この閾値を超えた場合)、随時、運転計画作成手段22dによって運転計画の再作成を行うことができる。
【0035】
以上の構成により、残電力検出手段22aによって電力貯蔵手段24に貯蔵されている電力量をリアルタイムに検出して、電力貯蔵手段24に貯蔵されている残電力量が規定値以下となった場合には、運転計画作成手段22dに運転計画の再作成を指示する運転計画作成指示信号を出力し、停車場16bへの到着時刻を守れる範囲で、より電力消費の少ない運転計画を再作成できる。また、駆動・減速手段26への出力指令に基づいて・走行体10aの加速時や定速走行時に消費された消費電力量および走行体減速時に駆動・減速手段26によって電力回生されて電力貯蔵手段24に貯蔵された電力量を算出して、これを消費電力量実績値として制御部22を構成するメモリ上に保存し、予め運転計画作成手段22dで算出していた消費電力量に関する情報と比較して、消費電力量実績値が設定値より大きくなった場合には、運転計画作成手段22dに運転計画の再作成を指示する運転計画作成指示信号を出力し、停車場16bへの到着時刻を守れる範囲で、より電力消費の少ない運転計画を再作成できる。
【0036】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を図面を参照して説明する。本発明の第2実施形態では、第1実施形態の構成に加えて、図4に示した走行路上の障害の有無を検出して走行体の走行状態の指示を行う保安制御手段22eを制御部22に備えている。また、走行路12aおよび走行路12bには、分岐合流部が設けられており、この分岐合流部には、それぞれ分岐装置34が設置されている。さらに、これらの分岐装置34は、地上設備である保安制御地上装置181、182に接続されており、保安制御地上装置180a、180bから分岐装置34を遠隔操作することができる。また、保安制御地上装置180a、180bは、走行路12a12bの近傍の地上に設置されて走行路上の障害の有無を検出して走行体の走行動作の指示を行う。なお、第1実施形態と同様のものには同符号を付し、詳しい説明は上述に譲る。
【0037】
図5に示すように、車両等の走行体10が備える保安制御手段22eは、走行路12a、12bの分岐合流部に存在する分岐器が走行体の進行すべき方向に適切に設定されているかどうかや走行体の進行方向前方に他の走行体が存在しないかどうかを検出して、走行体10に停止や走行速度の指示などを行う。また、保安制御地上装置181、182は、図6に示す走行路12a、12bに設置された無線信号装置184にも接続されており、無線信号装置184で受けた走行体10からの信号を受信できるようになっている。
【0038】
保安制御地上装置181は、走行路12a、12b近傍に少なくともひとつ以上設置された無線信号装置184と接続され、保安制御手段22eは図示しない無線信号装置を持ち、走行体10と無線信号装置184とが互いに無線信号による通信が行えるようにしている。
【0039】
走行体10は、走行体10に搭載した例えば、GPS装置および速度発電機からの情報に基づいて、一定の周期毎に走行体の位置および走行速度を検出している。検出された走行体の位置および走行速度に関する情報は走行体走行状態データとして保安制御手段22eによって無線信号装置184に送信される。送信された走行体走行状態データは、無線信号装置184によって受信され、保安制御地上装置181に伝送される。
【0040】
また、走行体10は、走行路上に存在する分岐装置34に対して、走行体10に搭載された記憶部20に記憶された運行ダイヤデータに基づいて、分岐装置34が適切な方向に切り替わるように分岐装置制御要求データを送信する。送信された分岐装置制御要求データは、無線信号装置184によって受信され、保安制御地上装置181に伝送される。保安制御地上装置181は、受信した分岐装置制御要求データに基づいて、分岐装置34の分岐方向が適切に切り替わるように制御を行い、分岐装置34が適切に切り替えられたことを確認したのち、無線信号装置184を利用して分岐装置制御確認データを走行体10に送信する。
【0041】
以上のようにして、保安制御地上装置181は、走行路12a、12b上の走行体10の位置・速度などの走行状態や分岐装置34の開通情報などを得ることができる。保安制御地上装置181は、このようにして得られた走行体10の走行状態および分岐装置34の開通情報に基づいて、走行路12a、12b上に存在する複数の走行体10に対して、走行体10が安全に走行できる限界位置や制限速度を指示する走行状態指示デーダを作成し、無線信号装置184を経由して走行路12a、12b上を走行するそれぞれの走行体10に送信する。
【0042】
一方、走行体10の保安制御手段22eは、図7に示すように、走行状態指示デーダを受信した走行体10は、走行状態指示データに基づいて、安全な走行を行うために必要な、走行体10aの走行位置に対する制限速度の情報である運転計画を作成する。このときの運転計画の作成方法は、まず先行する走行体10bの位置と、走行体位置検出手段22bの位置検出誤差や情報伝送の遅れ、制御部22の処理時間などを考慮して設定する。安全性のための余剰距離である保安制御余裕距離54から保安制御目標停止位置52を求める。そして、走行体10aの減速性能を用いて、得られた保安制御目標停止位置52を基準点として、保安制御目標停止位置52から走行体10aの現在の走行位置51まで逆引きに算出する。
【0043】
第2の実施形態においては、走行体10aの減速性能として、走行体10aのブレーキ性能だけでなく、走行路の勾配値や曲線半径による走行抵抗や、走行体10aの走行速度およびトンネル部を走行中か明かり部を走行中かによって変化する走行抵抗に基づいたデータを使用する。走行体10の制御部22は、走行体10に搭載された走行体位置検出手段22bおよび走行体速度検出手段22cから得られる情報と、運転計画に含まれる制限速度のデータに基づいて、走行体10aの駆動・減速手段26を動作させて、走行体10の走行速度を制御する。なお、上述した第2実施形態においては、走行体10aは、制御部22によって運転計画に基づいた運転が行われるように構成しているが、これは本実施形態が適用される走行体制御システムの構成を何ら制限するものでなく、制御部22が運転計画に関するデータを利用できる構成であれば、どのようなものでも良い。例えば、通常の鉄道システムのように自動列車制御部(ATC: Automatic Train Control)などを搭載して、これによって運転計画を作成して走行体10を制御するように構成しても良い。
【0044】
以上の構成により、第1実施形態の効果に加えて、走行体10に搭載した電力貯蔵手段24によって駆動・減速手段26への電力供給をまかなっているため、通常の電気鉄道のように走行路の全長にわたって走行体10に電力を供給するための架線を敷設することが不要である。ただし、停車場内や走行路上の一部に断続的に架線を敷設しており、架線が敷設されている場所では、走行体10に取り付けたパンタグラフを介して電力貯蔵手段24に電力を貯蔵することができるようする。このように、走行体10外部から電力を供給するための架線の設置を必要最小限の箇所のみに抑えられるため、地上設備を軽減したり、建造物などによる制約によって新たに架線を敷設することが困難な都市近郊におけるLRT(Light Rail Transit)システムを実現することもできる。
【0045】
また、本実施形態では、架線を停車場内や走行路の一部に断続的に敷設する構成としているが、本実施形態を適用する走行体制御システムの構成を何ら限定するものではなく、走行体10に搭載する電力貯蔵手段24に貯蔵できる電力量が走行体10を走行させるために充分であれば、走行路上にいっさいの架線を設置しない構成などであっても良い。また、通常の電気鉄道のように走行路の全長にわたって架線を敷設する構成であっても良い。この場合には、架線に電力を供給する変電所などの地上設備を軽減することができるとともに、電力貯蔵手段24など走行体10側の設備も第1実施形態に示した構成と比較して小規模なものとすることが可能である。このような構成の適用例として、例えば走行体の運行密度の高い都市圏部の輸送機関などが考えられる。このような線区では、同一の起電区間において複数の走行体が同時に発車する場合など、起電圧が低下することによって走行体が充分な加速力を得られなかったり、電力を供給するための変電所の容量が不足するなどの問題が生じることがあるが、走行体に電力貯蔵手段24を搭載して動力源として利用することで、これらの問題を解消することができる。
【0046】
(第3実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を図面を参照して説明する。本発明の第3実施形態では、走行体10の構成は、第2実施形態と同様である。保安制御手段22eを備えるとともに、保安制御手段22eによって走行体の走行速度の変更指示が行われた際には、制御部22が運転計画作成指示信号を出力して運転計画作成手段22dに運転計画を再作成させるようにする。なお、第1実施形態と同様のものには同符号を付し、詳しい説明は上述に譲る。
【0047】
図8〜図12では、後続走行体10aと先行走行体10bが停車場16aから停車場16bに向かって走行する様子が示されている。図8では、先行走行体10bが停車場16aから停車場16bに向けて停車場間を走行中であり、後続走行体10aは停車場16aに停車中である状態を示している。後続走行体10aが停車場16aを発車する予定時刻より設定時間だけ早い時刻になると、制御部22によって運転計画作成指示信号が出力され、これを受信した走行体10aの運転計画作成手段22dは、走行体10aの走行計画を作成する。このとき作成される運転計画が運転計画80である。
【0048】
運転計画80では、走行体10a、10bが停車場16aの停止位置Aから加速を開始し、速度制限区間にさしかかると制限速度にて定速走行を行い、速度制限区間を抜けた地点から再度加速して最高速度で走行する区間に至る。停車場16a〜停車場16b間をしばらく定速走行した後、停車場16bに接近した地点で、走行体10aの加速を停止して惰行運転を行う。さらに停車場16bの直前に存在する速度制限区間に接近すると制限速度に向けて減速を開始する。速度制限区間では制限速度にて定速走行を行い、最後に再び減速を行って停車場16bの停止位置Bに停止する。このような運転計画80が作成されると、走行体10aの停車場16aでの出発時刻を経過すると、走行体10aは、運転計画80に従って走行を開始する。
【0049】
図9に示すように、後続走行体10aの進行方向前方に先行走行体10bが存在する場合、後続走行体10aの保安制御地上装置181では、先行走行体10bへの衝突を防止するための運転計画92が作成される。現在、例えば、先行走行体10bが停車場間で何らかの原因により停車しており、後続走行体10aが先行走行体10bに接近してゆき、後続走行体10aの走行位置が保安制御停止目標位置96から保安制御接近距離98だけ離れた位置である走行位置94に達すると、図10に示すように、走行体10aに搭載された制御部22は、運転計画作成手段22dに運転計画作成指示信号を送信して運転計画再作成を指示する。運転計画作成手段22dが運転計画作成指示信号を受信すると、走行体10aの現在における走行位置94から停車場16bまでの運転計画93を作成する。運転計画93は、運転計画92を取り込んだ上で、運転計画92の保安制御停止目標位置96より前方における運転計画93を作成する。運転計画93では、停車場16aの出発時に計画された運転計画80には存在しない減速操作が行われるため、走行体10aが保安制御停止目標位置96に達する時間は遅れることが予測できる。そこで、保安制御停止目標位置96より前方の運転計画に関しては、この遅延を回復するように、運転計画80では惰行運転を行っていた区間でも、例えば、最高速度まで加速させた上で定速運転させるような運転計画を作成する。
【0050】
しかし、再作成された運転計画93通りに走行する際に、条件によっては運行ダイヤに定められた停車場16bへの到着時刻より早く到着してしまう場合も考えられる。ただし図10の時点では、走行体10aが保安制御停止目標位置96に停車した後の停車時間が不明であるため、保安制御停止目標位置96から停車場16bまでを最短の走行時間で走行できるような運転計画を作成する。そして、走行体10aが実際に保安制御停止目標位置96に停車した場合、先行走行体10bが走行再開するなどして運転計画80が解除されたのち、走行体10aが保安制御停止目標位置96から走行を再開した時点で再度運転計画が作成される。
【0051】
また、図11は、走行体10aが運転計画92に従って減速を開始して、走行位置94bに達した位置で、走行体10bの走行再開によって運転計画92が解除されて運転計画99に更新された場合を示している。走行体10aは、走行位置94bにおいて、運転計画92が解除されるため、ここで走行計画の再作成を行う。走行体10aは、走行位置94bで減速を終了し、更新された運転計画99と交差するまで加速させるような運転計画100が作成される。
【0052】
保安制御停止目標位置94cより前方についての運転計画100は、走行体10aを加速させた後、停車場16bの手前の速度制限区間では制限速度に向けての減速を行い、速度制限区間を定速運転で走行した後、停車場16bに向けて減速を行うものである。なお、上述した運転計画の作成方法は基本的なものであり、第3実施形態においても制御部22が残電力検出手段22aによって随時、電力貯蔵手段24の残電力を検出し、残電力が規定値より低下している場合などには、省エネルギー走行を行うような運転計画を作成するようになっている。例えば、図11では、保安制御停止目標位置94cより前方の運転計画は運転計画100であるが、保安制御停止目標位置94cにおいて残電力が規定値以下である場合には、走行体10aの制御部22は運転計画作成手段22dに対して省エネルギー走行を実現する運転計画を作成するような運転計画作成指示信号を出力する。これによって、運転計画作成手段22dは、図12に示すような省エネルギー運転計画101が作成され、制御部22によって走行体10aの省エネルギー運転が実施される。
【0053】
以上の構成により、第1および第2実施形態の効果に加えて、省エネルギーでかつ遅延のない走行体の的確な走行を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1実施形態に係る走行体が備える制御装置を適用した走行体制御システムを示す模式図。
【図2】本発明の第1実施形態に係る走行体の構成を示した機能ブロック図。
【図3】本発明の第1実施形態に係る走行体の運転曲線を示した模式図。
【図4】本発明の第2実施形態に係る走行体の構成を示した機能ブロック図。
【図5】本発明の第2実施形態に係る保安制御手段の処理の形態を示した模式図。
【図6】本発明の第2実施形態に係る保安制御手段の処理の形態を示した模式図。
【図7】本発明の第2実施形態に係る運転計画の一形態を示した模式図。
【図8】本発明の第3実施形態に係る運転計画の一形態を示した模式図。
【図9】本発明の第3実施形態に係る運転計画の一形態を示した模式図。
【図10】本発明の第3実施形態に係る運転計画の一形態を示した模式図。
【図11】本発明の第3実施形態に係る運転計画の一形態を示した模式図。
【図12】本発明の第3実施形態に係る運転計画の一形態を示した模式図。
【符号の説明】
【0055】
10、10a、10b…走行体、12a、12b…走行路、16a、16b…停車場、20…記憶部、20a…路線データベース記憶領域、20b…運行ダイヤデータ記憶領域、20c…走行体性能データベース記憶領域、22e…保安制御手段、22…制御部、22a…残電力検出手段、22b…走行体位置検出手段、22c…走行体速度検出手段、22d…運転計画作成手段、24…電力貯蔵手段、26…駆動・減速手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力を利用して走行路上を移動する走行体の制御を行う制御装置であって、
前記走行体が利用する電力を蓄電する電力貯蔵手段の貯蔵残電力を計測する残電力検出手段で検出した残電力量、走行体の位置を検出する位置検出手段で検出された走行体の位置情報、走行体の速度を検出する速度検出手段で検出された走行体の速度情報に基づいて走行体の走行計画を立てる運転計画作成手段と、
走行体の走行路の安全状態を監視、制御を行う保安制御手段と、
を具備することを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記保安制御手段は、前記走行体の状態に応じて、走行体の停止または速度制御を行うことを特徴とする制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の制御装置において、
前記運転計画作成手段は、残電力検出手段で検出した残電力量が所定値以下となった場合または所定値以上となった場合は、運転計画を立てることを特徴とする制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の制御装置において、
前記運転計画作成手段によって立てられた運転計画と実際の運転実績とを比較し、所定の誤差よりも大きくなった場合は、運転計画を再度立てることを特徴とする制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−244198(P2007−244198A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−150901(P2007−150901)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【分割の表示】特願2003−355429(P2003−355429)の分割
【原出願日】平成15年10月15日(2003.10.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】