説明

制振材料の制振周波数制御方法、制振材料及び防音装置

【課題】容易に制振材料を多様な周波数を制振するための対応をできるようにする制振材料の制振周波数制御方法、制振材料及び防音装置を提供する。
【解決手段】制振材料10の一部に屈曲し易い易屈曲部位1を設けておくことで、振動に対してたわみやすくして高効率で制振を行うことが可能な周波数をブロード化させることができ、また易屈曲部位1を設けて制振材料10における結節点を適宜の場所に設定することで、制振の対象となる振動に対して制振に最適な振幅を行うような材料とすることで多様な周波数を簡便且つ高効率に制振するようにできる。また易屈曲部位1を形成するのみで配合や材料の厚みを変更する必要がないことから、多様な周波数を制振するための対応は容易なものとなり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電・誘電・導電材料と、有機高分子材料マトリックスとからなり、外部からの騒音および振動エネルギーを吸収し熱エネルギーとして放出することにより騒音および振動エネルギーを効率的に減衰させることができる有機ハイブリッド系制振材料において、制振材料が高効率で制振できる周波数を制御する制振材料の制振周波数制御方法、制振材料及び防音装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、各家庭での電気製品による騒音や、高速道路および橋梁における自動車等の車による騒
音振動に対して無機材料で製作された厚い防音壁を設けたり、その重量化を図ることにより対応することが一般的であった。一方、軽質化の試みとして無機材料のロックウール、ガラスウール等の多孔質繊維材料も使用されてきた。また、無機セラミック圧電体を使用して電気エネルギーへの変換効果を向上させることを目的としたものもあり、さらに、防音壁等の構造壁としては重量を軽くする目的で二重構造壁も使用されている。
【0003】
しかしながら、前記の提案の如く無機材料の防音壁を厚くしたり、重量化する方法では材料の価格が高くなり、構造上の特別な配慮が必要となるなどの欠点を有するものである。また、前記の軽質化の試みでは無機材料のロックウール、ガラスウール等の多孔質繊維材料は損失正接tanδが最大0.5程度であり、低周波数領域においては減衰効率が劣るという欠点があった。前記二重構造壁による軽量化で対応する場合でも、二重構造壁の質量とその間の空気バネによって生じる共振現象により特定周波数において音響透過損失が低下し十分な遮音ができないなどの問題があった。
【0004】
そのような課題に対応するものとして、例えば極性側鎖を有する有機ポリマーマトリックス材料と圧電・誘電・導電効果を示す材料とを少なくとも含有する複合制振材料であって、該圧電・誘電・導電効果を示す材料が、(I)スルフェンアミド類、ベンゾチアゾール類、ベンゾトリアゾール類およびグアニジン類からなる群より選択される少なくとも一種の塩基性窒素含有化合物、および特定の構造を有する一種または二種以上のフェノール系化合物を混合してなることで、圧電・誘電・導電効果に基づく新素材としての制振複合材料を提供するものであり損失正接tanδが高く、かつ、経時劣化を抑制し安定的で高機能な制振性能を達成することができる制振材料が開示されている(例えば特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−69424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のような有機ハイブリッド系制振材料において、制振材料が高効率で制振できる制振周波数を設定するには、制振材料の配合比率や、制振材料自体の厚みを変更して設定するものであり、繁雑な工程が必要となったり、単一の材料で制振周波数を制御できなかったりするもので、多様な周波数を制振するための対応が困難なものであった。
【0007】
本発明は上記の如き課題に鑑みてなされたものであり、容易に制振材料を多様な周波数を制振するための対応をできるようにする制振材料の制振周波数制御方法、制振材料及び防音装置を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は以下のような構成としている。すなわち、本発明に係わる制振材料の制振周波数制御方法は、圧電・誘電・導電材料と、有機高分子材料マトリックスとからなるシート状の制振材料において、該制振材料に厚みの小さくするか又は欠損させるかのいずれか一方若しくは両方により易屈曲部位を部分的に設けることを特徴とするものである。
【0009】
本発明に係わる制振材料の制振周波数制御方法によれば、屈曲し易い易屈曲部位を設けておくことで、シート状の制振材料を振動に対してたわみやすくして高効率で制振を行うことが可能な周波数をブロード化させることができ、また易屈曲部位を設けて制振材料における結節点を適宜の場所に設定することで、制振の対象となる振動に対して制振に最適な振幅を行うような材料とすることで多様な周波数を簡便且つ高効率に制振するようにできる。また易屈曲部位を形成するのみで配合や材料の厚みを変更する必要がないことから、多様な周波数を制振するための対応は容易なものとなり得る。
【0010】
圧電・誘電・導電材料とは、4−4’−ブチリデンビスを主成分とする酸化防止剤であるスミライザー(登録商標)、(N,N’-ジシクロへキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)等であり、その分子量は30〜10000程度が好適である。また有機高分子材料マトリックスとは、塩素化ポリエチレン、アクリルゴム等の合成樹脂材料であり、その分子量は10000〜1000000程度が好適であり、分子量20000〜500000が更に好ましい。上記の有機高分子材料マトリックス100重量部に対して、上記の如き圧電・誘電・導電材料を5〜80重量部添加することで制振材料とするものである。
【0011】
また前記易屈曲部位は、穴明けにより形成されるものであれば、簡便な作業にて制振材料を欠損させて振動に対する結節点を確実に生じさせることができ、また欠損させる部位を狭い範囲に効果的に設けることができ好ましい。
【0012】
また前記易屈曲部位は、制振材料の幅を等分に分ける間隔に配置されていれば、膜振動モードの節又は腹にて制振材料を円滑に屈曲させて制振効果を高めることができ好ましい。
【0013】
また前記易屈曲部位は、刃物により形成されたノッチであれば、簡便な作業にて制振材料に厚みの小さい部位を設けて振動に対する結節点を確実に生じさせることができ、また制振周波数に係わる位置及び厚みを、ノッチを形成する位置及び深さにより容易に制御することができ好ましい。
【0014】
また本発明に係わる制振材料は、請求項1〜4のいずれかに記載の制振材料の制振周波数制御方法における易屈曲部位を備えていることを特徴とするものである。
【0015】
本発明に係わる制振材料によれば、多様な周波数を制振するのに、制振材料の配合比率や、制振材料自体の厚みを変更して設定する必要がなく、単一の材料であっても、また簡便な工程により制振周波数を制御して対応可能なものとできる。
【0016】
また本発明に係わる防音装置は、請求項5に記載の制振材料を用いて形成されていることを特徴とするものである。
【0017】
本発明に係わる防音装置によれば、制振材料に単一の材料であっても、また簡便な工程により制振周波数を制御して対応可能なものを用いることで、防音の対象となる騒音の周波数が多様なものであっても容易且つ簡便に形成可能なものとできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係わる制振材料の制振周波数制御方法によれば、屈曲し易い易屈曲部位を設けておくことで、シート状の制振材料を振動に対してたわみやすくして高効率で制振を行うことが可能な周波数をブロード化させることができ、また易屈曲部位を設けて制振材料における結節点を適宜の場所に設定することで、制振の対象となる振動に対して制振に最適な振幅を行うような材料とすることで多様な周波数を簡便且つ高効率に制振するようにできる。また易屈曲部位を形成するのみで配合や材料の厚みを変更する必要がないことから、多様な周波数を制振するための対応は容易なものとなり得る。
【0019】
また本発明に係わる制振材料によれば、多様な周波数を制振するのに、制振材料の配合比率や、制振材料自体の厚みを変更して設定する必要がなく、単一の材料であっても、また簡便な工程により制振周波数を制御して対応可能なものとできる。
【0020】
また本発明に係わる防音装置によれば、制振材料に単一の材料であっても、また簡便な工程により制振周波数を制御して対応可能なものを用いることで、防音の対象となる騒音の周波数が多様なものであっても容易且つ簡便に形成可能なものとできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に係わる最良の実施の形態について、図面に基づき以下に具体的に説明する。
【0022】
図1は、本発明に係わる制振材料の制振周波数制御方法における易屈曲部位が形成された制振材料の、実施の一形態を示す平面図である。制振材料10は直径94mmで厚み1.2mmである円形のシート状で、円形の中央と、垂直軸Y及び水平軸Xに直径3mmの丸孔である易屈曲部位1がそれぞれ三体となるよう穴明けにより形成されている。易屈曲部位1は、22mmの等間隔をおいて設けられていることで垂直軸Y及び水平軸Xが四等分されて、制振材料10が膜振動した際に節及び腹に位置するように設けられている。
【0023】
図2は、易屈曲部位1を設けている場合と設けていない場合の、膜振動の状態を示す縦断面図である。例えば水平軸Xの断面において、易屈曲部位1を設けていない場合には(a)に示す如く、膜振動モードが一時振動モードとなり、制振材料10の表裏面の空気が圧縮・膨張されることで制振材料10の変形量がそれ程大きくならず、制振材料10の内部エネルギー損失を効率よく発揮させることができていない。対して易屈曲部位1を設けている場合には(b)に示す如く、膜振動モードが二次振動モードとなり、制振材料10の表裏面の空気が殆ど圧縮・膨張されることがなく制振材料10が円滑に屈曲することで変形量が大きくなり、制振材料10の内部エネルギー損失をより大きく発揮させることが可能となされている。
【0024】
穴明けによる易屈曲部位1の形成においては、等分とする数を多くするほどに制振材料10を円滑に屈曲させることができるが、余りに多くし過ぎると制振材料10自体の体積が小さくなり逆に制振効果が損なわれる。丸孔を設ける場合、大きさは制振材料の幅の2/100〜1/10程度としておくのが好ましく、また穴明けによる欠損面積は全体の9/2500〜9/500程度としておくのが好ましい。更に穴明けは適宜の形状により行うことができるが、丸孔により行うことで、制振材料10の破れの起点となる応力集中がなされる部位を生じさせることをなくすることができ好ましい。
【0025】
図3は、本発明に係わる制振材料の制振周波数制御方法における易屈曲部位が形成された制振材料の、実施の一形態を示す平面図である。制振材料10は上記と同じく直径94mmで厚み1.2mmである円形のシート状であるが、易屈曲部位1はカッターにより5mmの格子状に深さ0.8mmでノッチが設けられたものであり、すなわち厚みの小さい部分は制振材料10が0.4mmの厚みとなされたものである。かかる垂直軸Y及び水平軸Xにおいて等間隔に設けられたノッチにより、制振材料10による遮音性を保持した状態で制振材料10が円滑に屈曲して制振効果が高いものとなされ、吸遮音効果が極めて高い制振材料10とすることができる。
【0026】
次に、本発明に係わる防音装置の、最良の実施の形態について、図面に基づき以下に具体的に説明する。
【0027】
図4は、本発明に係わる防音装置の、実施の一形態を示す正面図である。防音装置100は駐車場と民地の境界等に設置されるもので、地表面Gから立設された支柱30間に、防音パネル20が複数段積み重ねられて形成されたものである。防音パネル2は、板状体201の四囲に枠体202が取り付けられて形成されている。
【0028】
図5は、図4におけるA−A縦断面図であるが、防音パネル20は板状体201が二体設けられ、その間が空間となされている。この空間内に、四囲(上下の枠体のみ図示)が枠体101により支持された状態の、上記実施例に示した如き制振材料1が配置されている。枠体101からは内側に取付用のプレート102が突設され、このプレート102に制振材料10がボルトBにより固定されることで、制振材料10の緊張が保持されている。更に制振材料10の表裏面と、板状体201の内面とは間隔をおいて配置されているが、この間隔Kは低減の対象となる騒音による制振材料10の振幅の幅より大きくなされており、制振材料10が振動した際に板状体201の内面に当たって制振性能が損なわれるのを防止している。また板状体201及び枠体202によって制振材料10が雨水等から隔絶されることで保護され、板状体201による遮音性能の向上、及び制振材料10の保護を同時に図るようになされている。
【0029】
本発明に係わる制振材料の制振周波数制御方法の効果について、以下の実施例により具体的に説明する。
【0030】
(実施例1)
制振材料として、分子量50000〜350000の塩素化ポリエチレンを50重量%、分子量383の酸化防止剤(商品名:スミライザーGM−1、主成分4−4’−ブチリデンビス)を50重量%を配合した樹脂組成物を熱プレスにより直径94mm、厚み1.2mmの円形のシート状に成形した。この制振材料に、図1に示した如く直径3mmの丸孔を五体穿設して易屈曲部位とし、本発明の実施例1に係わる制振材料を得た。
【0031】
(実施例2)
制振材料の厚みを0.54mmとして、易屈曲部位を図3に示した如く5mmの格子状に深さ0.2mmのノッチを等間隔で設けた以外は実施例1と同様にして、本発明の実施例2に係わる制振材料を得た。
【0032】
(比較例1)
丸孔による易屈曲部位を設けていない以外は実施例1と同様にして、比較例1の制振材料とした。
【0033】
(比較例2)
易屈曲部位としてノッチを設けていない以外は実施例1と同様にして、比較例2の制振材料とした。
【0034】
これら実施例及び比較例に係わる制振材料を、(JIS A 1405)に基づく垂直入射吸音率の測定方法にて、周波数63〜2000Hzにおける吸音率を測定した。その結果を図6及び図7のグラフにて示す。図6中、A:実施例1、B:比較例1における吸音率の推移を、図7中、C:実施例2、D:比較例2における吸音率の推移を示すものである。
【0035】
実施例1と比較例1との吸音率のピークを比較すると、実施例1は約500Hz、比較例1は約250Hzとなっており、単一の配合及び厚みの制振材料を用いているにも係わらず2種類の周波数において高い吸音率で吸音させることが易屈曲部位を設けることで可能となることが示されている。また実施例1は500Hz付近でブロードなピークが現れており、比較例1のシャープなピークと較べて広い範囲における高効率での吸音が可能となされ、防音装置等へ好適に用いることができる吸音特性が得られている。
【0036】
また実施例2と比較例2との吸音率のピークを比較すると、実施例2は130〜300Hz付近においてブロードなピークが現れ、比較例2は300Hz及び480Hz付近でシャープなピークが現れており、こちらも単一の配合及び厚みの制振材料を用いているにも係わらず2種類の周波数において高い吸音率で吸音させることが易屈曲部位を設けることで可能となることが示されている。またピークにおける吸音率は比較例2のほうが高いものの、ピークを外れた場合には極端に吸音率が低下することから、実施例2のほうが防音装置等への適用に適する特性が得られていることが示されている。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係わる制振材料の制振周波数制御方法の、実施の一形態を示す正面図である。
【図2】本発明に係わる制振材料の制振周波数制御方法を適用した制振材料の、従来の制振材料との振動モードの違いを示す縦断面図である。
【図3】本発明に係わる制振材料の制振周波数制御方法の、他の実施形態を示す正面図である。
【図4】本発明に係わる防音装置の、実施の一形態を示す正面図である。
【図5】図4のA−A縦断面図である。
【図6】実施例1及び比較例1の、周波数毎の垂直入射吸音率を示すグラフである。
【図7】実施例2及び比較例2の、周波数毎の垂直入射吸音率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0038】
1 易屈曲部位
10 制振材料
20 防音パネル
100 防音装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電・誘電・導電材料と、有機高分子材料マトリックスとからなるシート状の制振材料において、該制振材料に厚みの小さくするか又は欠損させるかのいずれか一方若しくは両方により易屈曲部位を部分的に設けることを特徴とする制振材料の制振周波数制御方法。
【請求項2】
前記易屈曲部位は、穴明けにより形成されるものであることを特徴とする請求項1に記載の制振材料の制振周波数制御方法。
【請求項3】
前記易屈曲部位は、制振材料の幅を等分に分ける間隔に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の制振材料の制振周波数制御方法。
【請求項4】
前記易屈曲部位は、刃物により形成されたノッチであることを特徴とする請求項3に記載の制振材料の制振周波数制御方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の制振材料の制振周波数制御方法における易屈曲部位を備えていることを特徴とする制振材料。
【請求項6】
請求項5に記載の制振材料を用いて形成されていることを特徴とする防音装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−246851(P2007−246851A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−75808(P2006−75808)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000002462)積水樹脂株式会社 (781)
【Fターム(参考)】