説明

制振装置

【課題】ハイブリッド型制振装置において、停電時等に、弱い揺れにも対応してパッシブ制振できるようにする。
【解決手段】制振対象構造物上に設けたベース架台12の上に、制振体17を、リニアガイド機構を介して前後方向スライド可能に設ける。制振体17とベース架台12の間に、制振体17の固有振動数を制振対象構造物の固有振動数に同期させるばねユニットを設ける。ベース架台12上に前後方向にボールねじ機構11を設け、そのナット部材10を別のリニアガイド機構14にガイドさせる。ナット部材10の上側には嵌合穴16を備えた嵌合部材15を設ける。制振体17に、ピン昇降駆動機構20により昇降可能な嵌合ピン19を設ける。平常時は嵌合ピン19を嵌合穴16に嵌合させて、ボールねじ機構11により制振体17を駆動させ、停電時等の異常時には、嵌合ピン19を嵌合穴16より離脱させることで、制振体17によるパッシブ制振を行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビルや吊橋のタワー等の地上構造物やその他所要の制振対象構造物に設置して、該制振対象構造物の揺れに応じて可動マスを往復駆動することにより上記制振対象構造物の制振を行うようにしてある能動型の制振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記各種地上構造物等が風荷重や地震により揺れを生じたときに、その振幅、振動を速やかに減衰させるための制振装置として従来提案されているものの一つに、マス・ダンパ形式の制振装置がある。
【0003】
この種のマス・ダンパ形式の制振装置は、上記各種地上構造物等の制振対象構造物の上部に、所要質量の錘である制振体(可動マス)を、制振を望む方向に沿って往復移動可能に設けてなる構成として、該制振体を、制振対象構造物の揺れに応じて往復移動させることにより該制振対象構造物の制振を行うようにしてあるものであり、上記制振体の往復移動を、制振対象構造物との力学的バランスを利用して自然に行わせるようにしてある受動型(パッシブ方式)のものと、外部からの供給エネルギーを利用して上記制振体を往復駆動する能動型のものに大別されている。
【0004】
更に、上記能動型の制振装置は、アクティブ方式とハイブリッド方式のものが知られており、このうち、ハイブリッド方式の制振装置は、上記受動型の制振装置と同様に、制振対象構造物の制振を望む方向に沿って往復移動可能な所要質量の制振体を備え、更に、該制振体を所要のアクチュエータにより往復駆動させるようにしたものである。
【0005】
図6(イ)(ロ)は、上記ハイブリッド方式のアクティブ型制振装置の一例の概略を示すもので、制振対象構造物1の上にベース架台2を設け、該ベース架台2上に、左右一対のガイドレール3aが、制振対象構造物1の揺れ方向となる前後方向に延びるように設置してある。更に、上記各ガイドレール3a上に、錘である制振体4が、ガイドブロック3bを介して前後方向移動自在に取り付けてあり、上記ガイドレール3aとガイドブロック3bとからリニアガイド機構3が形成してある。
【0006】
上記制振体4の所要個所と、該各個所に対応するベース架台2の所要個所との間には、ばね定数や伸縮ストロークを調整可能な固有振動数調整用のばね要素5が、略上下方向に配置して取り付けてある。
【0007】
上記ベース架台2上の前後方向両端部の幅方向中央部には、駆動モータ6と、ロータリートルクダンパや回転式油圧ダンパや渦流ダンパ等の機械式ダンパ7が対向させて設置してあり、その間に、前後方向に延びるねじ軸8を配置して長手方向の両端部を軸受9を介して上記ベース架台2上に回転自在に支持させると共に、該ねじ軸8の上記各軸受9よりそれぞれ突出する各突出端部が、上記駆動モータ6の出力軸と機械式ダンパ7の入力軸にそれぞれ連結してある。
【0008】
更に、上記ねじ軸8に螺合するナット部材10を、上記制振体4に固定した構成として、上記駆動モータ6と、該駆動モータ6により回転駆動されるねじ軸8と、ねじ軸8の回転に伴って該ねじ軸8の長手方向に移動するナット部材10からなるボールねじ機構11が構成してある。
【0009】
かかる構成としてあるハイブリッド方式のアクティブ型制振装置によれば、上記ばね要素5により上記制振体4の固有振動数を制振対象構造物1の固有振動数に合わせるように調整した状態にて、上記制振対象構造物1に空気力等による揺れが発生して、図示しない揺れ検知センサにより検知されると、その信号に基づいて位相制御された変位信号が図示しない制御装置から上記駆動モータ6へ送られて、該駆動モータ6が正逆転駆動させられることにより、駆動モータ6に出力側に連結してあるねじ軸8に螺合させたナット部材10と一体に制振体4が往復移動させられ、この制振体4の慣性力が上記制振対象構造物1に生じた揺れを打ち消すように作用することで、該制振対象構造物1の振動の振幅が抑制されると共に速やかに減衰されるようにしてある。
【0010】
更に、この際、上記リニアガイド機構3によりガイドされて上記制振体4が往復移動するときに前後斜め方向に引き伸ばされる上記ばね要素5の復元力の水平分力が、上記制振体4に作用するようにしてあることで、該制振体4を上記制振対象構造物1の固有振動数に同調した反復運動を安定して行わせることができるようにしてあると共に、上記ばね要素5の復元力の水平分力を、上記反復移動する制振体4の中立位置への戻り力として利用することで、上記駆動モータ6の駆動力を低減できるようにしてある。
【0011】
ところで、上記構成としてあるハイブリッド方式のアクティブ型制振装置によれば、停電等により上記駆動モータ6電力供給が停止した場合には、アクティブな制振を行えなくなる。しかし、この場合は、上記駆動モータ6をフリーな状態とすることにより、制振対象構造物1に発生した揺れのエネルギーを、制振体4の水平方向の運動エネルギーに変換させ、該制振体4の運動エネルギーを、ナット部材10を介して上記ねじ軸8の回転エネルギーに変換させ、該ねじ軸8の回転エネルギーを、上記機械式ダンパ7により消費させることで、パッシブ型の制振作用を発揮させることができるようにしてある(たとえば、特許文献1参照)。
【0012】
又、制振体の駆動機構としてボールねじ機構を用いるようにしてあるハイブリッド方式のアクティブ型制振装置にて、上記ボールねじ機構における駆動モータとねじ軸とをクラッチを介して連結してなる構成として、停電時には上記クラッチを切り離すことで、パッシブ型の制振作用を発揮させるようにすることも従来提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−322201号公報
【特許文献2】特開平7−317834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところが、上記特許文献1に示されたハイブリッド方式のアクティブ型制振装置にて、駆動モータ6へ電力供給が行われなくなった場合に、該駆動モータ6をフリーな状態とすると、制振対象構造物1の揺れのエネルギーを、制振体4の水平方向の運動エネルギーに変換した後、ボールねじ機構11にてナット部材10を介してねじ軸8の回転エネルギーに変換させ、該ねじ軸8の回転エネルギーを機械式ダンパ7により消費させることで、上記制振対象構造物1に対してパッシブ型の制振作用を発揮させることができて有効であるが、上記ボールねじ機構11におけるねじ軸8とナット部材10による逆効率や、駆動モータ6の回転子等の駆動装置の効率が影響するため、パッシブ型の制振作用を発揮させる際に制振体4の動きの効率を更に高めることが望まれている。
【0015】
又、上記特許文献2に示されたように、ボールねじ機構における駆動モータとねじ軸との間にクラッチを設けた構成として、停電時に上記クラッチを切り離すようにしても、パッシブ型の制振作用を発揮させる際に、上記ボールねじ機構におけるねじ軸とナット部材との間の逆効率の影響は残ることとなる。
【0016】
したがって、従来、制振体を往復駆動するための駆動機構としてボールねじ機構を採用してなるハイブリッド方式のアクティブ型制振装置では、停電時等に上記ボールねじ機構の駆動モータに電力供給が行われなくなるときに、該駆動モータをフリーな状態としたり、駆動モータとねじ軸をクラッチにより切り離すようにしたとしても、制振対象構造物の揺れがある程度大きくならないと制振体が動き出さないというのが実状である。
【0017】
そのために、上記従来のハイブリッド方式のアクティブ型制振装置は、停電等によってボールねじ機構の駆動モータへ電力供給が行われないときには、制振対象構造物に生じる比較的小さな揺れには対応することが難しかった。
【0018】
そこで、本発明は、ボールねじ機構を用いて制振体を往復動させるようにしてなるハイブリッド方式のアクティブ型制振装置を更に発展させて、停電時、更には、不測の事態によって制振体の駆動系統に障害が発生した場合でも、制振対象構造物の小さな揺れに対して、その揺れのエネルギーにより制振体を円滑に単弦振動させてパッシブ方式の制振作用を十分に発揮することができる制振装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、制振対象構造物上に制振体をリニアガイド機構を介して水平方向に移動自在に設け、且つ上記制振体と上記制振対象構造物上の固定部との間に、上記制振体の固有振動数を調整するためのばね要素を取り付け、更に、上記制振対象構造物上に、上記制振体用のリニアガイド機構と平行な別のリニアガイド機構を設けると共に、該別のリニアガイド機構上に沿って延びるねじ軸と、該ねじ軸を回転させるための駆動モータと、上記ねじ軸に螺合したナット部材からなるボールねじ機構を設けて、上記ナット部材を上記別のリニアガイド機構に取り付け、且つ上記ナット部材上に、嵌合穴を備えた嵌合部材を、又、上記制振体の所要個所に、ピン昇降駆動機構により昇降可能な嵌合ピンをそれぞれ設けて、該ピン昇降駆動機構により昇降させられる上記嵌合ピンを上記ナット部材上の嵌合部材の嵌合穴に嵌合させた状態と、該嵌合穴より離脱させた状態を切換えることができるようにしてなる構成を有する制振装置とする。
【0020】
又、上記構成において、平常時はピン昇降駆動機構により嵌合ピンをボールねじ機構のナット部材に設けてある嵌合部材の嵌合穴に嵌合させてアクティブ動作できるようにし、停電時、制振体の駆動系統に障害発生時の如き異常時は、上記ピン昇降装置により上記嵌合ピンを嵌合部材の嵌合穴より離脱させて制振体をパッシブ動作できるよう切替えるための切替制御回路を備えるようにした構成とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の制振装置によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)制振対象構造物上に制振体をガイド機構を介して水平方向に移動自在に設け、且つ上記制振体と上記制振対象構造物上の固定部との間に、上記制振体の固有振動数を調整するためのばね要素を取り付け、更に、上記制振対象構造物上に、上記制振体用のガイド機構と平行な別のガイド機構を設けると共に、該別のガイド機構上に沿って延びるねじ軸と、該ねじ軸を回転させるための駆動モータと、上記ねじ軸に螺合したナット部材からなるボールねじ機構を設けて、上記ナット部材を上記別のガイド機構に取り付け、且つ上記ナット部材上に、嵌合穴を備えた嵌合部材を、又、上記制振体の所要個所に、ピン昇降駆動機構により昇降可能な嵌合ピンをそれぞれ設けて、該ピン昇降駆動機構により昇降させられる上記嵌合ピンを上記ナット部材上の嵌合部材の嵌合穴に嵌合させた状態と、該嵌合穴より離脱させた状態を切換えることができるようにしてなる構成としてあるので、平常時は、嵌合ピンをボールねじ機構のナット部材上の嵌合部材の嵌合穴に嵌合させることで、制振体を上記ボールねじ機構によりアクティブ動作させて制振対象構造物の揺れを抑制すると共に速やかに減衰させることができる。又、停電時や不測の事態によって制振体の駆動系統に何等かの障害が生じてアクティブ制御が不能になる異常時には、上記嵌合ピンを嵌合部材の嵌合穴より離脱させることで、制振体をボールねじ機構より切り離すことができるため、該制振体を制振対象構造物の揺れに応じて往復移動させてパッシブ型の制振効果を発揮させることができる。
(2)しかも、上記のようにパッシブ型の制振効果を発揮させる際に、上記制振体が制振対象構造物の揺れに応じて動くときに、上記ボールねじ機構のねじ軸とナット部材の間の逆効率が作用する虞を解消できるため、制振対象構造物に生じる揺れが弱い場合であっても、上記制振体の制振対象構造物の揺れに伴う動作を円滑に開始させることができて、パッシブ型の制振効果を得ることができる。
(3)平常時はピン昇降駆動機構により嵌合ピンをボールねじ機構のナット部材に設けてある嵌合部材の嵌合穴に嵌合させてアクティブ動作できるようにし、停電時、制振体の駆動系統に障害発生時の如き異常時は、上記ピン昇降装置により上記嵌合ピンを嵌合部材の嵌合穴より離脱させて制振体をパッシブ動作できるよう切替えるための切替制御回路を備えるようにした構成とすることにより、平常時のアクティブ制振と、異常時のパッシブ制振とを自動的に切替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の制振装置の実施の一形態を示す概略側面図である。
【図2】図1のA−A方向矢視図である。
【図3】図2のB部を拡大して示す図である。
【図4】図1の制振装置の幅方向中央部での切断側面を示すもので、(イ)は嵌合ピンをボールねじ機構のナット部材上の嵌合部材の嵌合穴に嵌合させた状態を、(ロ)は嵌合ピンをナット部材上の嵌合部材の嵌合穴より離脱させた状態をそれぞれ示す図である。
【図5】図1の制振装置における切替制御回路を示すもので、(イ)は全体構成を示す図、(ロ)はモータ用コントローラのシーケンス図である。
【図6】従来提案されているハイブリッド方式のアクティブ制振装置の一例の概略を示すもので、(イ)は一部切断概略側面図、(ロ)は(イ)のC−C方向矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0024】
図1乃至図5(イ)(ロ)は本発明の制振装置の実施の一形態を示すもので、以下のようにしてある。なお、装置構成を説明する便宜上、制振対象構造物1の制振を望む揺れの方向を前後方向、それに直交する方向を左右方向と云うものとする。
【0025】
すなわち、制振対象構造物1上に、矩形フレーム形状のベース架台12を据付ける。上記ベース架台12上における左右両側位置に、上記制振対象構造物1の揺れ方向となる前後方向に沿って延びる左右一対の制振体用のガイドレール13aを平行に設置する。上記ベース架台12の幅方向中央部には、所要の長さ寸法を有する別のガイドレール14aを、上記各制振体用のガイドレール13aと平行に設置する。
【0026】
更に、駆動モータ6と、該駆動モータ6の出力側に取り付けたねじ軸8と、該ねじ軸8に螺合したナット部材10を具備してなるボールねじ機構11を、上記ねじ軸8が上記ベース架台12の幅方向中央部に設けたガイドレール14aの真上に平行に沿うように配置して、上記ベース架台12上に設置すると共に、上記ナット部材10を、上記ガイドレール14aにスライド自在に取り付けてあるガイドブロック(スライダ)14b上に載置して取り付ける。これにより、上記ベース架台12の幅方向中央部のガイドレール14aとガイドブロック14bから、上記ボールねじ機構11のナット部材10用のガイド機構としてのリニアガイド機構14を形成して、上記ねじ軸8の回転による上記ナット部材10のねじ軸8の長手方向への移動を阻害することなく、該ナット部材10が上記ねじ軸8の周りで上下方向に旋回しないようにして、該ナット部材10を常に正立姿勢に保持できるようにしてある。
【0027】
上記ナット部材10の上側には、上面部に嵌合穴16を備えた嵌合部材15を取り付ける。
【0028】
更に、上記ベース架台12の左右両側位置に設けた各制振体17用のガイドレール13aの上側に、下面の幅方向中央部に前後方向に延びる凹部(溝)を備えた形状として上記ボールねじ機構11を跨ぐように配置した所要質量の制振体(可動マス)17の幅方向両側部の底面を、それぞれガイドブロック(スライダ)13bを介してスライド自在に取り付ける。
【0029】
上記制振体17の所要個所と、上記ベース架台12の所要個所との間には、固有振動数調整用のばね要素としてのばねユニット18を取り付けて、上記制振体17を、上記ベース架台12の左右両側位置のガイドレール13aと上記ガイドブロック13bからなるガイド機構としての各制振体用リニアガイド機構13を介して上記ベース架台12上で、上記ばねユニット18のバネ定数に応じて定まる所定の固有振動数で単弦振動(往復動)させることができるようにする。
【0030】
更に、上記制振体17の所要個所に、上記嵌合部材15の嵌合穴16に上方より嵌合させるため嵌合ピン19を上下方向スライド可能に設けると共に、該嵌合ピン19を昇降させるためのピン昇降駆動機構20を制振体17上に設けた構成とする。これにより、上記制振体17に取り付けてある上記嵌合ピン19の真下に、上記ボールねじ機構11のナット部材10に取り付けてある嵌合部材15の嵌合穴16を配置した状態で、上記ピン昇降駆動機構20により上記嵌合ピン19を下降させて上記嵌合部材15の嵌合穴16に上方より挿入して嵌合させた状態とすると、上記ボールねじ機構11の駆動モータ6を運転して上記ねじ軸8を正逆転駆動することにより、該ねじ軸8に螺合させてある上記ナット部材10と一緒に、上記嵌合部材15と嵌合ピン19を介して上記制振体17を上記制振体用リニアガイド機構13のガイドレール13aに沿って前後方向に往復動させることができるようにしてある。
【0031】
一方、上記制振体17に設けてあるピン昇降駆動機構20により上記嵌合ピン19を上昇させて、該嵌合ピン19を上記嵌合部材15の嵌合穴16より離脱させると、上記制振体17を、上記ガイドレール13a上で、上記ばねユニット18のバネ定数によって定まる所定の固有振動数で単弦振動させることができるようにしてある。
【0032】
更に、上記ベース架台12上の所要個所と、上記制振体17の底部所要個所との間に、該制振体17の移動方向に沿って配置したダンパとしてのオイルダンパ21を介装し、更に、停電時や後述する所定の条件のときに上記ピン昇降駆動機構20を駆動して本発明の制振装置を、アクティブ動作している状態からパッシブ動作できるように切換えるための切替制御回路22を備えて本発明の制振装置を構成する。
【0033】
詳述すると、上記嵌合ピン19は、上下方向に所要寸法延びるスライドロッド23の下端部に一体に取り付けてあり、且つ、上記制振体17の前後方向一端部(図4(イ)における右端部)における幅方向の中央部に、上記スライドロッド23が、上下方向のリニアガイド機構24を介して上下方向にスライド可能に取り付けてある。
【0034】
上記スライドロッド23の上端部には、図3に示すように、上下方向に所要寸法延びる円柱部材25の下端部が一体に取り付けてあり、該円柱部材25の外周に、皿ばね26と、外周面の180度対向する左右位置に外向きに所要寸法突出する支持軸28を一体に設けた環状部材27を順に嵌めた状態で、該円柱部材25の上端部に、該上端部のみに刻設した図示しないねじ部を介してロックナット29を螺着して固定してある。これにより、上記円柱部材25上端部に固定したロックナット29により上記環状部材27が該円柱部材25の上方へ抜けないようにしてある。
【0035】
上記嵌合ピン19の昇降駆動機構20は、図4(イ)に示すように、制振体17の上面部における所要個所に、駆動モータとしてのステッピングモータ31により伸縮駆動できるようにしたパワーシリンダ30が、前後方向の一端側(図4(イ)では右側)へ向けて配置した状態で、ブラケット32を介して上下に揺動可能に設置してある。
【0036】
上記パワーシリンダ30の作動ロッド30aの先端部には、上記制振体17の上面部における前後方向一端寄り位置に立設したブラケット33に長手方向両端部を回転自在に保持させた軸34の中間部に上端側が一体に固定してある上下方向のレバー35の下端部が、揺動可能に接続してある。且つ上記軸34の長手方向両端寄り位置には、前後方向へ所要寸法延びて先端部となる前後方向一端部が上記スライドロッド23の上方に配置されたレバー36の基端部となる前後方向他端部が一体に固定してある。
【0037】
更に、上記各前後方向レバー36の前後方向一端部に、上記スライドロッド23の上端部の円柱部材25に取り付けてある上記環状部材27の支持軸28が、リンク37を介してそれぞれ連結してある。これにより、図4(イ)に示すように、上記ステッピングモータ31の運転により上記パワーシリンダを収縮作動させると、上記ブラケット32に支持されている軸34を支点として上下方向レバー35及び前後方向レバー36を、図4(イ)における時計回り方向に一体に回動させ、この回動に伴って該前後方向レバー36の先端部となる前後方向の一端部を下降させて、該前後方向レバー36の前後方向一端部にリンク37を介して支持軸28が連結されている環状部材27を押し下げることで、上記スライドロッド23の下端部に取り付けてある嵌合ピン19を、その下方に配置したボールねじ機構11のナット部材10に取り付けてある嵌合部材15の嵌合穴16に嵌合させると共に、上記環状部材27の押し下げにより、該環状部材27と上記スライドロッド23の上端面との間に介装してある上記皿ばね26を上方より圧縮し、該圧縮された皿ばね26の復元力により、上記スライドロッド23と一体に嵌合ピン19を下向きに付勢することで、上記嵌合部材15の嵌合穴16に上方より該嵌合ピン19を嵌合させた状態で、がたつきが生じる虞を未然に防止できるようにしてある。
【0038】
一方、図4(ロ)に示すように、上記ステッピングモータ31の運転により上記パワーシリンダ30を伸長作動させると、上記ブラケット32に支持されている軸34を支点として上下方向レバー35及び前後方向レバー36を図4(ロ)における反時計回り方向に一体に回動させ、この回動に伴って該前後方向レバー36の先端部となる前後方向の一端部を上昇させて、該前後方向レバー36の前後方向一端部にリンク37を介して支持軸28が連結されている環状部材27を引き上げ、この環状部材27により上記円柱部材25の上端部に取り付けてあるロックナット29が係止されることで、上記円柱部材25及びスライドロッド23と一体に上記嵌合ピン19を上方へ引き上げて、上記ボールねじ機構11のナット部材10に取り付けてある嵌合部材15の嵌合穴16より、上記嵌合ピン19を上方へ離脱させることができるようにしてある。
【0039】
上記ブラケット33には、上記上下方向レバー35の図4(イ)における時計回り方向の回動量を制限するためのストッパ38が設けてあり、該ストッパ38により上記軸34を中心とする上記上下方向レバー35と一体の前後方向レバー36の図4(イ)における時計回り方向の回動量を制限することで、上記スライドロッド23より上記嵌合ピン19を介して上記ボールねじ機構11のナット部材10上の嵌合部材15に過剰な荷重がかかる虞を未然に防止できるようにしてある。
【0040】
上記ばねユニット18は、図1及び図2に示すように上記制振体17の前後方向中間部における上部の左右両側位置に配置して取付部材39を介して該制振体17の上面所要個所に取り付けたブラケット40と、上記ベース架台12の前後方向中間部の左右両側に突設した固定軸41との間、及び、上記ベース架台12の前後方向両端部にそれぞれ設けた上記制振体17を取り囲む門型の支持架構42の上端部の左右両側に設けたブラケット43と、上記制振体17の左右両側面の前後両端部位置よりそれぞれ斜め下向きに前後方向に突出させて取り付けたアーム部材44の下端部に設けたブラケット45との間に、それぞれ上下方向に介装させてある。これにより、上記ベース架台12上にて、上記制振体17が対応するリニアガイド機構13によりガイドされて該ベース架台12の前後方向中間部の中立位置より前後方向に変位すると、上記各ばねユニット18が前後斜め方向に引き伸ばされるようにしてあり、この各ばねユニット18の復元力の水平分力により、上記制振体17を上記中立位置へ戻すことができるようにしてある。更に、該各ばねユニット18は、上記制振体17が前後方向へ往復移動するときの固有振動数を、制振対象構造物1の固有振動数に同調させるための図示しない調整機構を備えているものとする。
【0041】
上記切替制御回路22は、たとえば、図5(イ)(ロ)に示す如く、所要の電源46に、無停電電源装置(UPS)47を介して上記パワーシリンダ30(図4(イ)参照)のステッピングモータ31のドライブユニット48が接続してある。
【0042】
更に、上記無停電電源装置47には、AC/DC電源49を介してPLC50が接続してある。上記PLC50には、該PLC50自体の故障を検出するためのPLC故障出力接点RY1が設けてある。
【0043】
更に又、上記無停電電源装置47には、上記ドライブユニット48に設けてあるモータ回転指令用の接点48aへモータ回転指令信号aを出力するためのモータ用コントローラ52が、別のAC/DC電源51を介して接続してある。
【0044】
又、図5(ロ)にシーケンス図を示す如く、本発明の制振装置の図示しないカバーに設けてあるアクセスドアの開閉を検出するためのドア開閉検出スイッチ53と、上記パワーシリンダ30(図4(イ)参照)が伸長作動側のストロークエンドに達すると開操作されるようにしてある伸長作動側のリミットスイッチ54と、リレーCとを直列に接続し、且つ上記ドア開閉検出スイッチ53のドア閉側の接点53bに、上記PLC故障出力接点RY1によりPLC50の故障が検出されない平常時は開で、PLC50の故障が検出されると閉となるb接点ry1、及び、上記PLC50により後述する所定のパッシブ切替条件が検出されない平常時は開で、パッシブ切替条件が検出されてその検出信号bが出力されると閉止される接点55を並列に接続する一方、上記ドア開閉検出スイッチ53のドア開側の接点53aに、本発明の制振装置をアクティブ動作状態からパッシブ動作に切換える場合に手動で閉操作するためのパッシブ切替用手動スイッチ56を接続してなる構成を備えたパッシブ切替用の回路が、直流制御母線PとNとの間に設けてある。
【0045】
更に、上記パワーシリンダ30(図4(イ)参照)が収縮作動側のストロークエンドに達すると開操作されるようにしてある収縮作動側のリミットスイッチ57と、本発明の制振装置をパッシブ動作状態からアクティブ動作に復帰させる場合に手動で閉操作するためのアクティブ復帰用手動スイッチ58と、リレーDとを直列に接続してなる構成のアクティブ復帰用の回路が、上記直流制御母線PとNとの間に、上記パッシブ切替用の回路と並列に設けてある。
【0046】
更に又、図5(イ)に示すように、上記モータ用コントローラ52を、上記図5(ロ)に示したパッシブ切替用の回路に設けたリレーCが励磁されると閉操作される接点cと、アクティブ復帰用の回路に設けたリレーDが励磁されると閉操作される接点dをそれぞれ備えてなる構成として、上記接点cが閉操作されると、該モータ用コントローラ52が、上記ドライブユニット48のモータ回転指令用の接点48aへ、パワーシリンダ30の作動ロッド30aを伸長作動させる方向へステッピングモータ31を回転させるためのモータ回転指令信号aを出力し、一方、上記接点dが閉操作されると、上記ドライブユニット48のモータ回転指令用の接点48aへ、パワーシリンダ30の作動ロッド30aを収縮作動させる方向へステッピングモータ31を回転させるためのモータ回転指令信号aを出力するようにしてある。
【0047】
なお、上記PLC50によるパッシブ切替条件は、上記パワーシリンダ30のステッピングモータ31のドライブユニット48から故障、異常の信号が出力されて上記PLC50に入力された場合、及び、制振体17の往復移動の振幅を制御するようにしてある図示しない制振演算器(DSP)より出力される故障、異常の検出信号が上記PLC50に入力された場合、及び、本発明の制振装置を作動させるために制振対象構造物1に設けてある図示しない加速度センサによって検出されて上記PLC50に入力される加速度信号と、上記ベース架台12にリファレンスとするために設けてある図示しない加速度センサによって検出されて上記PLC50に入力される加速度信号のレベルに一定以上の乖離が検出された場合、及び、上記ドライブユニット48の主電源(ブレーカー)のオーバーロードあるいは漏電等の異常が検出されてその検出信号が上記PLC50に入力された場合、及び、上記無停電電源装置47の上位で停電が生じたことが該無停電電源装置47により検出され、その検出信号が上記PLC50に入力された場合、及び、上記ボールねじ機構11の駆動モータ6の電源供給回路(図示せず)に停電が生じた場合としてある。
【0048】
なお、図示しない制御盤に設けてあるドアインタロック解除の切替スイッチが入っているときには、自動的にパッシブに切り替わらないようにしてあるものとする。
【0049】
図1及び図2における符号59は、ベース架台12より制振対象構造物1側へ高周波の振動の伝達をカットするための防振ゴムを備えた脚である。その他、図6(イ)(ロ)に示したものと同一のものには同一符号が付してある。
【0050】
以上の構成としてある、本発明の制振装置を使用する場合は、予め、上記モータ用コントローラ52からのモータ回転指令信号aにより上記制振体17上に設けてあるパワーシリンダ30の作動ロッド30aを収縮作動状態とさせて、上記嵌合ピン19をスライドロッド23と一緒に下降させて、ボールねじ機構11のナット部材10上の嵌合部材15の嵌合穴16に嵌合させた状態としておく。又、図示しないカバーのアクセスドアを閉じることで、図5(ロ)のドア開閉検出スイッチ53が、ドア閉側接点53bに接続されるようにしておく。
【0051】
この状態で、上記制振対象構造物1に揺れが発生して、図示しない揺れ検知センサにより検知されると、図6(イ)(ロ)に示した従来の制振装置と同様に、上記図示しない揺れ検知センサの信号に基づいて位相制御された変位信号が図示しない制御装置から上記ボールねじ機構11の駆動モータ6へ送られて、該駆動モータ6が正逆転駆動させられることにより、駆動モータ6の出力側に連結してあるねじ軸8に螺合させたナット部材10と一緒に、該ナット部材10上の嵌合部材15の嵌合穴16に嵌合ピン19を介して係止されている上記制振体17が往復移動させられ、この往復移動する制振体17の慣性力が上記制振対象構造物1に生じた揺れを打ち消すように作用することで、該制振対象構造物1の振動の振幅が抑制されると共に速やかに減衰されるようになる。よって、アクティブ動作による制振効果が発揮される。
【0052】
この状態で、上記PLC50により前記した各種パッシブ切替条件、すなわち、ドライブユニット48の故障、異常の信号の上記PLC50への入力、及び、制振体17の往復移動の振幅を制御する図示しない制振演算器(DSP)の故障、異常の検出信号の上記PLC50への入力、及び、制振対象構造物1に設けてある図示しない加速度センサによって検出されて上記PLC50に入力される加速度信号と、上記ベース架台12にリファレンスとするために設けてある図示しない加速度センサによって検出されて上記PLC50に入力される加速度信号のレベルの一定以上の乖離、及び、上記ドライブユニット48の主電源(ブレーカー)のオーバーロードあるいは漏電等の異常の検出信号の上記PLC50への入力、及び、上記無停電電源装置47の上位での停電の発生の検出信号の上記PLC50への入力、及び、上記ボールねじ機構11の駆動モータ6の電源供給回路(図示せず)の停電のいずれかが発生すると、上記PLC50より出力されるパッシブ切替条件の検出信号に基づいて、上記接点55が閉止される。
【0053】
上記のようにして接点55が閉止されると、該接点55及び上記ドア閉側接点53bに接続したドア開閉検出スイッチ53と、上記したようにパワーシリンダ30の作動ロッド30aを収縮作動状態とさせてあることで閉状態となっている伸長作動側リミットスイッチ54を介して制御母線P,NよりリレーCへの通電が行われ、このリレーCの励磁により、上記モータ用コントローラ52では上記リレーCの接点cが閉操作されるようになるため、該モータ用コントローラ52から、上記パワーシリンダ30のステッピングモータ31用のドライブユニット48の対応する接点48aへ、上記パワーシリンダ30を伸長作動させる方向へステッピングモータ31を回転させるようにモータ回転指令信号aが発せられるようになる。
【0054】
したがって、上記ドライブユニット48による上記ステッピングモータ31の運転が行われて上記パワーシリンダ30が伸長作動させられるようになるため、図4(ロ)に示したように、上記上下方向レバー35と軸34と前後方向レバー36が、上記軸34を中心に旋回させられ、これにより、上記前後方向レバー36の先端部となる前後方向一端部が引き上げられて、該前後方向レバー36の前後方向一端部にリンク37を介して支持軸28が連結されている環状部材27が引き上げられることで、該環状部材27に係止されるロックナット29と一緒に、円柱部材25、スライドロッド23及び嵌合ピン19が上昇させられて、該嵌合ピン19が、上記ボールねじ機構11のナット部材10上の嵌合部材15の嵌合穴16より離脱させられる。その後、上記パワーシリンダ30が伸長側のストロークエンドに達して、伸長作動側リミットスイッチ54が開作動すると、上記リレーCが消磁されて、上記モータ用コントローラ52に設けてある上記リレーCの接点cが開操作されるため、該モータ用コントローラ52より上記ドライブユニット48へのモータ回転指令信号aも停止されて上記ステッピングモータ31によるパワーシリンダ30の伸長作動が停止される。
【0055】
上記のようにして嵌合ピン19が上記嵌合部材15の嵌合穴16より離脱すると、上記制振体17は、上記ボールねじ機構11から完全に切り離される。よって、この状態で、制振対象構造物1に揺れが発生すると、その揺れのエネルギーが、上記ばねユニット18によって制振対象構造物1の固有振動数と固有振動数が同期するように調整されている上記制振体17の水平方向の運動エネルギーに変換され、該制振体17の運動エネルギーが、上記制振体17とベース架台12との間に設けてあるオイルダンパ21により消費されることで、エネルギーが減衰させられ、このエネルギーの減衰によるパッシブ型の制振作用が発揮されるようになる。この際、上記制振体17が制振対象構造物1の揺れに応じて動くときに、上記ボールねじ機構11のねじ軸8とナット部材10間の逆効率が作用することはないため、制振対象構造物1に生じる揺れが弱い場合であっても、上記制振体17の制振対象構造物1の揺れに伴う動作が円滑に開始されてパッシブ型の制振効果が発揮されるようになる。
【0056】
又、本発明の制振装置にて、上記と同様に上記ボールねじ機構11による上記制振体17の往復移動を行わせることでアクティブ動作による制振効果が発揮できるようにしてある状態で、何等かの不測の事態により上記PLC50に故障が生じて、PLC故障出力接点RY1により故障の検出が行われた場合は、そのb接点ry1が閉じて、該b接点ry1及び上記ドア閉側接点53bに接続したドア開閉検出スイッチ53及び上記伸長作動側リミットスイッチ54を介して上記リレーCへの通電が行われ、このリレーCの励磁により、上記モータ用コントローラ52では上記リレーCの接点cが閉操作されるようになるため、上記PLC50の故障によっても、上記と同様に、制振体17に設けてある嵌合ピン19が、上記ボールねじ機構11のナット部材10上の嵌合部材15の嵌合穴16より離脱させられることで、本発明の制振装置によるパッシブ型の制振効果が発揮されるようになる。
【0057】
更に、本発明の制振装置の図示しないカバーのアクセスドアを開いた状態とすることで、図5(ロ)のドア開閉検出スイッチ53が、ドア開側接点53aに接続されるようにした状態で、パッシブ切替用手動スイッチ56を閉操作することによっても、上記リレーCへの通電が行われて、このリレーCの励磁により上記モータ用コントローラ52における上記リレーCの接点cが閉操作されるようになるため、上記と同様に、本発明の制振装置を、アクティブ動作させる状態から、パッシブ型の制振効果が発揮されるように切換えられる。
【0058】
上記のようにして、制振体17側に設けてある嵌合ピン19を、上記ボールねじ機構11のナット部材10上の嵌合部材15の嵌合穴16より離脱させることで、パッシブ型の制振効果を発揮させるようにしてある本発明の制振装置を、アクティブ動作に復帰させる場合は、上記ボールねじ機構11のねじ軸8を、たとえば、該ねじ軸8における駆動モータ6接続側とは反対側の端部に6角の面取りを設けておき、該面取り部にレンチをかけて手動で回す等の所要の手法により回転させて、上記ナット部材10を移動させることで、該ナット部材10上の嵌合部材15の嵌合穴16を、上記制振体17側に設けてある嵌合ピン19の真下に配置させ、この状態で、図5(ロ)におけるアクティブ復帰用手動スイッチ58を閉操作する。これにより、該アクティブ復帰用手動スイッチ58及び収縮作動側リミットスイッチ57を介して制御母線P,NよりリレーDへの通電が行われ、このリレーDの励磁により、上記モータ用コントローラ52では上記リレーDの接点dが閉操作されるようになるため、該モータ用コントローラ52から、上記パワーシリンダ30のステッピングモータ31用のドライブユニット48の対応する接点48aへ、上記パワーシリンダ30を収縮作動させる方向へステッピングモータ31を回転させるようにモータ回転指令信号aが発せられるようになる。
【0059】
したがって、上記ドライブユニット48による上記ステッピングモータ31の運転が行われて上記パワーシリンダ30が収縮作動させられるようになることで、図4(イ)に示したように、上記上下方向レバー35と軸34と前後方向レバー36が、上記軸34を中心に旋回させられ、これにより、上記前後方向レバー36の先端部となる前後方向一端部が下げられて、該前後方向レバー36の前後方向一端部にリンク37を介して支持軸28が連結されている環状部材27が押し下げられることで、皿ばね26を介してスライドロッド23及び嵌合ピン19が下方へ付勢されて、該嵌合ピン19が、上記ボールねじ機構11のナット部材10上の嵌合部材15の嵌合穴16に嵌合させられるようになる。その後、上記パワーシリンダ30が収縮側のストロークエンドに達して、収縮作動側リミットスイッチ57が開作動すると、上記リレーDが消磁されて、上記モータ用コントローラ52に設けてある上記リレーDの接点dが開操作されるため、該モータ用コントローラ52より上記ドライブユニット48へのモータ回転指令信号aも停止されて上記ステッピングモータ31によるパワーシリンダ30の収縮作動が停止される。これにより、本発明の制振装置が、制振体17をアクティブ動作させることが可能な初期状態に復帰されるようになる。
【0060】
このように、本発明の制振装置によれば、平常時は制振体17をアクティブ動作させて制振対象構造物1の揺れを抑制すると共に、速やかに減衰させることができ、又、停電時や不測の事態によって制振体17の駆動系統に何等かの障害が生じてアクティブ制御が不能になる場合は、制振体17を自動的にボールねじ機構11より切り離してパッシブ型の制振効果を発揮させることができる。
【0061】
しかも、上記のようにパッシブ型の制振効果を発揮させる際、上記制振体17が制振対象構造物1の揺れに応じて動くときに、上記ボールねじ機構11のねじ軸8とナット部材10間の逆効率が作用する虞を解消できるため、制振対象構造物1に生じる揺れが弱い場合であっても、上記制振体17の制振対象構造物1の揺れに伴う動作を円滑に開始させることができて、パッシブ型の制振効果を得ることができる。
【0062】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、ピン昇降駆動機構20は、制振体17に上下方向に変位可能に設けてある嵌合ピン19を、ステッピングモータ31のような駆動モータの動力により昇降駆動して、該嵌合ピン19を、ボールねじ機構11のナット部材10上に設けてある嵌合部材15の嵌合穴16に上方より嵌合させた状態と、該嵌合穴16より離脱させた状態を切換えることができるようにしてあれば、図示した以外の形式のピン昇降駆動機構20を設けるようにしてもよい。
【0063】
嵌合ピン19は、制振体17に、ボールねじ機構11のナット部材10上に設けてある嵌合部材15の嵌合穴16に上方より嵌合させた状態から、該嵌合穴16より離脱させた状態まで上下方向変位可能に取り付けてあれば、取付位置は適宜変更してもよい。
【0064】
ばね要素は、ベース架台12側の所要個所と制振体17の所要個所との間に介装して、制振体用リニアガイド機構13によりガイドされて往復移動する制振体17の固有振動数を、制振対象構造物1の固有振動数に同期するように調整することができるようにしてあれば、図示したばねユニット18以外のいかなる構成のばね要素を採用してもよく、又、制振体17の重量や形状に応じて数や配置を適宜変更してもよい。
【0065】
切替制御回路22は、平常時は制振体17をアクティブ動作させることができ、一方、、停電時や、不測の事態によって制振体17の駆動系統に何等かの障害が生じてアクティブ制御が不能になるようなPLC50による所定のパッシブ切替条件に応じて、ピン昇降駆動機構20を、嵌合ピン19をボールねじ機構11のナット10部材に取り付けた嵌合部材15の嵌合穴16より離脱させるように動作させることができるようにしてあれば、図5(イ)(ロ)に記載した以外の回路構成としてもよい。
【0066】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0067】
1 制振対象構造物
6 駆動モータ
8 ねじ軸
10 ナット部材
11 ボールねじ機構
13 リニアガイド機構(ガイド機構)
14 リニアガイド機構(ガイド機構)
15 嵌合部材
16 嵌合穴
17 制振体
18 ばねユニット(ばね要素)
19 嵌合ピン
20 ピン昇降駆動機構
22 切替制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制振対象構造物上に制振体をガイド機構を介して水平方向に移動自在に設け、且つ上記制振体と上記制振対象構造物上の固定部との間に、上記制振体の固有振動数を調整するためのばね要素を取り付け、更に、上記制振対象構造物上に、上記制振体用のガイド機構と平行な別のガイド機構を設けると共に、該別のガイド機構上に沿って延びるねじ軸と、該ねじ軸を回転させるための駆動モータと、上記ねじ軸に螺合したナット部材からなるボールねじ機構を設けて、上記ナット部材を上記別のガイド機構に取り付け、且つ上記ナット部材上に、嵌合穴を備えた嵌合部材を、又、上記制振体の所要個所に、ピン昇降駆動機構により昇降可能な嵌合ピンをそれぞれ設けて、該ピン昇降駆動機構により昇降させられる上記嵌合ピンを上記ナット部材上の嵌合部材の嵌合穴に嵌合させた状態と、該嵌合穴より離脱させた状態を切換えることができるようにしてなる構成を有することを特徴とする制振装置。
【請求項2】
平常時はピン昇降駆動機構により嵌合ピンをボールねじ機構のナット部材に設けてある嵌合部材の嵌合穴に嵌合させてアクティブ動作できるようにし、停電時、制振体の駆動系統に障害発生時の如き異常時は、上記ピン昇降装置により上記嵌合ピンを嵌合部材の嵌合穴より離脱させて制振体をパッシブ動作できるよう切替えるための切替制御回路を備えるようにした請求項1記載の制振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−38592(P2011−38592A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186485(P2009−186485)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(509338994)株式会社IHIインフラシステム (104)
【Fターム(参考)】