制震補強架構における支柱の拘束装置
【課題】例えば既存の、あるいは新設のコンクリート造等の主構造体の構面外にその構面に平行に構築され、主構造体を制震補強する制震補強架構において、構面内水平方向に隣接する支柱間に架設されるダンパー一体型ブレースのダンパーの効きを高める。
【解決手段】柱・梁からなるフレーム6を有する主構造体60の構面外にその構面に平行に配列する支柱2と、隣接する支柱2、2間に架設されるダンパー一体型ブレース5を備え、支柱2が鉛直方向に複数本の支柱材21、22、23に分離し、上下に分離した支柱材21、22、23間に両者間の相対水平移動を許容する絶縁装置4が介在し、構面内水平方向に隣接する支柱材22、22(23、23)間につなぎ梁4が架設された制震補強架構において、構面内水平方向両側に位置する支柱2の周囲に、最上部の支柱材23頂部の水平方向の相対移動を許容し、鉛直方向の移動を拘束する拘束装置8を構築する。
【解決手段】柱・梁からなるフレーム6を有する主構造体60の構面外にその構面に平行に配列する支柱2と、隣接する支柱2、2間に架設されるダンパー一体型ブレース5を備え、支柱2が鉛直方向に複数本の支柱材21、22、23に分離し、上下に分離した支柱材21、22、23間に両者間の相対水平移動を許容する絶縁装置4が介在し、構面内水平方向に隣接する支柱材22、22(23、23)間につなぎ梁4が架設された制震補強架構において、構面内水平方向両側に位置する支柱2の周囲に、最上部の支柱材23頂部の水平方向の相対移動を許容し、鉛直方向の移動を拘束する拘束装置8を構築する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば既存の、あるいは新設のコンクリート造、鉄骨造等の主構造体の構面外にその構面に平行に構築され、主構造体を制震補強する制震補強架構を構成し、構面内水平方向に隣接する支柱間に架設されるダンパー一体型ブレースのダンパーの効きを高める制震補強架構における支柱の拘束装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば既存のコンクリート造躯体等の主構造体に耐震性能、あるいは制震性能を付与する目的で、主構造体の表面に接した状態で構築される制震補強架構は主構造体の構面外にその構面内水平方向に配列する支柱と、隣接する支柱間に架設される、ブレース本体にダンパーを組み込んだダンパー一体型ブレースと、同じく隣接する支柱材間に架設されるつなぎ梁を基本的な構成要素とする(特許文献1参照)。
【0003】
各支柱は特許文献1の図3に示すように鉛直方向に分離した複数本の支柱材からなり、上下に分離した支柱材間には両者間の相対水平移動を許容する、水平剛性の小さい絶縁装置(積層ゴム支承や滑り支承)が介在し、ダンパー一体型ブレースは隣接する支柱の支柱材間に、層間に跨るように架設される。
【0004】
つなぎ梁は主構造体が層間変形を生じたときに、その層間変形に制震補強架構が追従するよう、主構造体と制震補強架構を一体構造化するために、隣接する支柱材間に架設されながら、主構造体に接合される(特許文献1の段落0066)。絶縁装置は構面内水平方向に隣接する支柱材間の相対移動時には支柱材が鉛直状態を維持するように、上下に隣接する支柱材間に介在させられる。特許文献1の図3は本件明細書に添付の図11である。
【0005】
主構造体(制震補強架構)の構面内水平方向に地震が発生し、その方向に層間変形が生じたときには主構造体の各階のスラブ等に接合され、制震補強架構の一部となるつなぎ梁とそのつなぎ梁に接合されている支柱材が主構造体に追従して相対移動し(特許文献1の図3)、構面内水平方向に隣接する支柱材間に架設されているブレースのダンパーが伸縮することにより減衰力を発生し、振動エネルギを吸収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4038472号公報(請求項1、段落0013〜0026、図1、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では制震補強架構の構面内水平方向の層間変形時に、上下に分離した支柱材間に介在する絶縁装置がせん断変形することにより上下の支柱材が互いに平行な状態を維持したまま相対移動し、結果としてブレースのダンパーに軸方向力を与え、ダンパーに減衰力を発生させる(特許文献1の図3)。
【0008】
しかしながら、特許文献1では絶縁装置(積層ゴム)を構成するゴムに引張力を負担させないよう、絶縁装置上に位置する支柱材がその下方に位置する支柱材から浮き上がりを生ずることが許容されているため(特許文献1の段落0071、図5)、制震補強架構の構面内水平方向両側に位置する支柱材の上端部は鉛直方向にも水平方向にも拘束を受けていないこともあって、水平方向への相対移動に伴い、本件の図12に示すように鉛直方向上向きに相対移動する(浮き上がりが生ずる)ことが想定される。
【0009】
図12では構面内水平方向左側の支柱2の内、最上部に位置する支柱材23の上端部が鉛直方向上向きに相対移動するときと、下向きに相対移動する(沈み込みを生ずる)ときを示しているが、特許文献1の支柱材23は絶縁装置の接続状態から主に浮き上がりを生じ易い。図12では浮き上がり状態と沈み込み状態を破線で示している。二点鎖線は浮き上がりも沈み込みもなく、水平方向に移動したときの様子を示している。
【0010】
本来、支柱材には水平方向に相対移動する挙動のみが期待されているが(特許文献1の図3)、鉛直方向の相対移動が伴うことで、ダンパーの伸縮量が想定量より小さくなり、ダンパーが十分なエネルギ吸収能力を発揮できないことが起こり得る。
【0011】
例えば特許文献1の図3(本件の図11)において、本件の図12に破線で示すように構面内水平方向左側の最上部に位置する支柱材が静止状態から右側へ相対移動したときに、支柱材の上端部が上方へ移動すれば、その上端部に接続されているブレースの収縮量が本来の収縮量より小さくなるため、それだけダンパーの効きが低下し、エネルギ吸収効果も低下する。同様に構面内水平方向左側の最上部に位置する支柱材が静止状態から左側へ相対移動したときに、支柱材の上端部が下方へ移動すれば、その上端部に接続されているブレースの伸長量が本来の伸長量より小さくなるため、それだけダンパーの効きが低下する。
【0012】
各支柱2が4本の支柱材21、22、23からなる場合の特許文献1の制震補強架構1のモデルを図13に示す。構面内水平方向に隣接する支柱2、2間には、支柱2、2を互いに連結すると共に、主構造体に接合するためのつなぎ梁4が架設される。このモデルの内、太線で示す構面内水平方向中間部(端部より中心側)に位置する支柱2、2間に架設されるブレース5に内蔵されるダンパーの各層での履歴特性を図14−(a)〜(d)に、同じく太線で示す構面内水平方向両側(端部)に位置する支柱2、2間に架設されるブレース5に内蔵されるダンパーの各層での履歴特性を図15−(a)〜(d)に示している。
【0013】
図14と図15の(a)は1階と3階間に架設されるブレースのダンパー、(b)は3階と5階間に架設されるブレースのダンパー、(c)は5階と7階間に架設されるブレースのダンパー、(d)は7階と9階間に架設されるブレースのダンパーの履歴特性を示している。図14に示すように構面内水平方向中間部に位置するブレースのダンパーは下層から最上層まで荷重−変形曲線が面積を持った紡錘形のループを描いているのに対し、構面内水平方向端部に位置するブレースのダンパーは図15に示すように上層階程、曲線(ループ)が潰れる傾向を示している。
【0014】
図15を見る限り、構面内水平方向の端部(両側)に架設されるブレースの内、1−3階から5−7階までのブレース内のダンパーは履歴曲線が紡錘形のループを描き、ダンパーとしてのエネルギ吸収能力を発揮しているのに対し、7−9階のブレース内のダンパーは履歴曲線が潰れ、ほとんどエネルギ吸収能力を発揮できていないことが分かる。一方、構面内水平方向の中間部に架設されているブレースのダンパーは図14に示すように7−9階においても1−3階から5−7階までより面積が小さくなるものの、紡錘形のループを描き、エネルギ吸収能力を発揮していることが分かる。
【0015】
図14と図15の対比から、構面内水平方向両側で、上層部に位置するブレースのダンパーは本来のエネルギ吸収能力を発揮できていないことが推定される。図14と図15の履歴曲線の違いは前記のように構面内水平方向両側に位置する支柱を構成し、最上部に位置する支柱材の上端部が水平方向の相対移動に伴って鉛直方向に、特に鉛直方向上向きに相対移動することに起因して発生すると考えられる。
【0016】
この発明は上記背景より、既存の構造体等、主構造体を制震補強する制震補強架構において、その架構を構成し、構面内水平方向両側の支柱の内、特に最上部に位置する支柱材に接続されるブレースのダンパーの効きを高める支柱の拘束装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1に記載の発明の制震補強架構における支柱の拘束装置は、柱・梁からなるフレームを有する主構造体の構面外にその構面に平行に配列し、互いに間隔を隔てて地上、もしくは基礎上に立設される支柱と、構面内水平方向に隣接する支柱間に架設される、ブレース本体にダンパーを組み込んだダンパー一体型ブレースを備え、
前記支柱が鉛直方向に複数本の支柱材に分離し、上下に分離した支柱材間に両者間の相対水平移動を許容する絶縁装置が介在すると共に、構面内水平方向に隣接する支柱材間につなぎ梁が架設された、前記主構造体を制震補強するための制震補強架構において、
前記制震補強架構の構面内水平方向両側に位置する前記支柱の周囲に構築され、前記支柱の少なくとも最上部に位置する支柱材の頂部の水平方向の相対移動を許容しながら、鉛直方向の移動を拘束していることを構成要件とする。
【0018】
主構造体を含む構造物は例えば既存のコンクリート造(鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造を含む)構造物の他、鉄骨造の構造物であり、建築構造物と土木構造物の双方を含む。制震補強架構が接合される主構造体は建物の柱、梁、スラブ、基礎等の他、橋梁の橋桁、橋脚、フーチング等が該当する。主構造体は主として鉄筋コンクリート造構造物の一部であるが、無筋コンクリートやモルタル等の場合もある。
【0019】
主構造体と制震補強架構の接合部位は問われず、例えば新旧のスラブ同士、梁(桁)同士、柱同士、基礎同士等、あるいは付加構造体の構築位置等に応じ、これらの任意の組み合わせ等になるが、制震補強架構は主構造体のいずれかの部位の表面に制震補強架構を構成するスラブや梁等が接合された状態で構築される。主構造体に対する制震補強架構の構築の時期も問われず、主構造体との打ち継ぎのように主構造体の構築直後に制震補強架構を構築する場合の他、主構造体の構築が完了し、使用期間中に主構造体に対する補強の必要性が発生したとき等になる。
【0020】
制震補強架構は主構造体の構面に平行に配列し、その構面内水平方向に互いに間隔を隔てて地上、もしくは基礎上に立設され、鉛直方向に複数本の支柱材に分離した支柱と、上下に分離した支柱材間に介在し、両者間の相対水平移動を許容する絶縁装置と、同一レベルで隣接する支柱材間に架設され、両支柱材を互いにつなぐつなぎ梁と、既存フレームの構面内の支柱材間に架設される上記ブレースから構成される。
【0021】
制震補強架構は主構造体の構面外に、主構造体に接する形で構築される場合と、構面から距離を置いて構築される場合がある。つなぎ梁は前記の通り、隣接する支柱材間に架設されながら、主構造体に接合されることにより(特許文献1の段落0066)、主構造体と制震補強架構を一体構造化し、主構造体の層間変形に制震補強架構を追従させる。
【0022】
各支柱は地上や基礎上に定着される最下部の支柱材とその上に位置する上部の支柱材の、計2本の支柱材からなる場合と、図11(特許文献1の図3)に示すように最下部の支柱材とその上に位置する2本以上の上部の支柱材の、計3本以上の支柱材からなる場合がある。
【0023】
最下部に位置する支柱材は地盤、もしくは基礎に定着され、最下部より上に位置する支柱材は主構造体に、支柱材をつなぐつなぎ梁が主構造体に接合されることにより間接的に接合されて主構造体と共に挙動する。最下部より上に位置する支柱材が直接主構造体に接合されることも想定されるが、支柱材と主構造体との一体性を高め、主構造体からの地震力を制震補強架構に伝達させる上では、つなぎ梁を主構造体(のフレーム)に接合することが有効である。
【0024】
ダンパー一体型ブレース(ブレース)は具体的には水平方向に間隔を隔てて配列する支柱間において、いずれかの支柱を構成するいずれかの支柱材と、その支柱材より上、もしくは下に位置し、その支柱の両側に隣接する支柱を構成する支柱材との間に傾斜し、前記いずれかの支柱に関して対称に架設される(請求項5)。
【0025】
ブレースがいずれかの支柱に関して対称に架設されることで、図11に矢印で示すようにある層に架設されているブレースに作用する引張力、もしくは圧縮力が支柱に関して対称位置にあるブレースに流れ、最終的には地盤、もしくは基礎に伝達されるため、制震補強架構を構成する支柱自身が最終的に引張力と圧縮力を負担し、処理する場合より支柱の耐力(強度)が小さくて済み、支柱の断面も小さくて済む利点がある。
【0026】
ブレースは制震補強架構の層間変形時における構面内水平方向に隣接する支柱の、レベルの相違する支柱材間の相対変形時に軸方向力を負担するため、この隣接する支柱の、レベルの相違する支柱材間に架設される。この関係で、ブレースの一端は構面内水平方向に隣接する支柱材の内、一方の支柱材の、フレーム、もしくはつなぎ梁との接合部、またはつなぎ梁の、支柱材との接合部に接続され、他端は他方の支柱材の、フレーム、もしくはつなぎ梁との接合部、またはつなぎ梁の、支柱材との接合部に接続される(請求項5)。
【0027】
主構造体が地震力により構面内で変形しようとするときには、図11に二点鎖線で示すように主構造体に一体化している、最下部の支柱材より上の支柱材が主構造体と共に挙動することと、その直下の支柱材から分離し、両支柱材間に両者間の相対水平移動を許容する絶縁装置が介在していることで、最下部の支柱材より上の支柱材が直下の支柱材に対して相対水平移動する。
【0028】
ブレースは主構造体に一体化している支柱材やその付近のつなぎ梁と、その直下、または直上の支柱材に隣接する支柱材やその付近のつなぎ梁との間に架設されていることで、上下の支柱材の相対水平移動に伴って伸長、または収縮し、その伸長量や収縮量、あるいは伸縮時の速度に応じた減衰力をダンパーが発生し、振動エネルギを吸収する。同時にダンパーが発生する減衰力が主構造体に一体化している支柱材やつなぎ梁から主構造体に作用することで、主構造体の揺れが抑制される。
【0029】
図11に示すように主構造体の構面内水平方向の変形に伴い、分離した上下の支柱材が相対水平移動したとき、ブレースが接続された支柱材にはダンパーからの軸方向力が作用するが、最下部の支柱材に作用する軸方向力に対する反力は地盤や基礎で負担される。
【0030】
また最下部より上の支柱材に作用する軸方向力に対する反力はつなぎ梁を介して支柱材が接続される主構造体で負担されるため、ダンパーからの軸方向力によって支柱材に過大な曲げモーメントとせん断力が作用する事態は回避され、分離している各支柱材が転倒する可能性と、支柱材の脚部や頂部に過大な応力を生じさせる可能性は解消される。支柱材の脚部や頂部に過大な応力を生じさせる可能性が解消されることで、支柱材自身は必ずしもダンパーからの軸方向力に抵抗し得る強度を有する必要はない。
【0031】
特に最下部の支柱材と最上部の支柱材の中間位置でブレースが接続される支柱材のようにブレースが構面内水平方向の両側に、2方向に接続される支柱材には変形前に同一線上に位置するブレースからの軸方向力が実質的に相殺されるため、支柱材にはダンパーからの軸方向力による曲げモーメントとせん断力はほとんど作用しない。
【0032】
主構造体に入力する地震力の一部は主構造体に接合され、ブレースが接続されている支柱材からブレースに伝達され、そのブレースが負担する。最終的にはブレースが接続され、地盤や基礎に定着されている最下部の支柱材から地盤に伝達され、負担される。地震力の一部がブレースで負担され、最終的に地盤で負担されることで、主構造体が負担すべき地震力が軽減されるため、主構造体の地震力に対する安全性が向上する。
【0033】
ブレースが地震力の一部を負担しても、制震補強架構を構成する支柱とつなぎ梁は主構造体に入力する地震力を主構造体と共に分担するのではなく、最下部の支柱材より上の支柱材が主構造体と共に挙動して直下の支柱材との間で相対移動を生ずることで、ダンパーが発生する減衰力を主構造体に作用させる働きをする。このため、支柱とつなぎ梁は地震力に抵抗するブレースのダンパーから受ける軸方向力に対する反力を地盤や基礎、あるいは主構造体から受けることができればよく、支柱とつなぎ梁が全長に亘って地震力に抵抗する必要がない。
【0034】
ブレースが接続される支柱材にはダンパーからの軸方向力が作用する結果、軸方向力の鉛直成分が絶縁装置を通じてその上下に隣接する支柱材に伝達されるものの、その上下に隣接する支柱材とは絶縁装置によって切り離されているため、絶縁装置の水平変形可能な範囲で軸方向力の水平成分は上下に隣接する支柱材には伝達されない。また上記のように支柱材自身は必ずしもダンパーからの軸方向力に抵抗し得る強度を有する必要がないことから、支柱とつなぎ梁は主構造体の耐力と剛性を補う程の耐力と剛性を有する必要がなく、地震力を主構造体と共に分担する場合より断面を減ずることが可能になる。
【0035】
制震補強架構を構成する支柱とつなぎ梁が主構造体と共に地震力を分担するとすれば、大地震時に地震力に抵抗することで損傷を受ける可能性があるが、支柱とつなぎ梁は全長に亘って地震力に抵抗する必要がなく、またそれぞれの断面の低減により地震力を主構造体と共に分担する場合より制震補強架構自体の剛性を低下させることができることで、制震補強架構は大地震に対しても柔軟に変形することができるため、損傷を受けることは回避される。
【0036】
請求項1において、支柱の拘束装置が「制震補強架構の構面内水平方向両側に位置する支柱の周囲に構築される」とは、平面上、拘束装置が拘束の対象とする支柱の周囲に制震補強架構とは別に構築される場合(図1)と、制震補強架構の一部(支柱等)を利用する形で(図2〜図4)、あるいは制震補強架構に組み込まれる形で構築される場合(図5、図6)があることを言う。図1〜図4の例は後述の請求項2の具体的な場合に該当し、図5、図6は請求項3の具体的な場合に該当している。
【0037】
制震補強架構を構成する支柱の内、拘束装置が主として拘束の対象とする支柱が「構面内水平方向両側に位置する支柱」であって、両側以外に位置する支柱を除外する趣旨ではないため、拘束装置は「構面内水平方向両側に位置する支柱」とその内側に位置する支柱に対しても構築されることがある。拘束装置の対象とする支柱が「構面内水平方向両側に位置する支柱」以外の支柱を含むことは請求項4においても同様であり、請求項4の拘束装置は「構面内水平方向両側に位置する支柱」とその内側に位置する支柱の支柱材間に架設されることもある。
【0038】
「支柱の少なくとも最上部に位置する支柱材」とは、支柱を構成する複数本の支柱材の内、少なくとも最上部に位置する支柱材のことであり、「少なくとも」であるから、最上部に位置する支柱材に加え、それ以外の高さ方向の中間部に位置する支柱材も含む趣旨である。
【0039】
「支柱材の頂部の水平方向の相対移動」とは、主構造体の構面内水平方向の層間変形に追従して制震補強架構が層間変形を生ずるときに、制震補強架構と支柱材の頂部との間に生ずる水平方向の相対移動を指す。拘束装置はこの支柱材頂部の、制震補強架構に対する水平方向の相対移動を許容する一方、その相対移動に伴って発生し得る鉛直方向の移動を拘束する(請求項1)。
【0040】
拘束装置が支柱材頂部の水平方向の相対移動を許容する理由は、主構造体の構面内方向の層間変形に追従して制震補強架構が自由に層間変形を生ずるようにするためであり、拘束装置が支柱材頂部の相対移動を許容しなければ、制震補強架構自体が自由な層間変形を阻害されるためである。
【0041】
「鉛直方向の移動」は「上向きの移動(浮き上がり)」と「下向きの移動(沈み込み)」を含むが、前記のように制震補強架構を構成する支柱の支柱材間に介在する絶縁装置が下側の支柱材から浮き上がり可能な状態にあることから(特許文献1の段落0071)、支柱材は下側に隣接する支柱材に対して上向きに移動する可能性が高いため、「鉛直方向の移動」は主として「上向きの移動(浮き上がり)」を言う。
【0042】
拘束装置が支柱材頂部の鉛直方向上向きの移動と下向きの移動を拘束することで、図12に破線で示すような浮き上がりと沈み込みがなくなり、二点鎖線で示すように主構造体の構面内方向の層間変形時に原則として支柱材の頂部を水平方向にのみ相対移動させることができる。「原則として」とは、水平方向の相対移動に伴う多少の鉛直方向の相対移動は許容されることがある趣旨である。層間変形時の支柱材頂部の移動の方向が原則として水平方向に制限されることで、ブレースのダンパーに主構造体の層間変形に見合った、本来の伸縮変形を与え、ダンパーの効きを高めることが可能になり、ダンパーのエネルギ吸収能力を有効に発揮させることが可能になる。
【0043】
上記のように制震補強架構を構成する支柱の支柱材は積層ゴム支承等の絶縁装置を介して互いに連結されるものの、絶縁装置自身は下側の支柱材には定着されないことから、上側に隣接する支柱材が下側の支柱材から浮き上がり(上向きに移動)を生ずる可能性が高く、下向きに移動(沈み込み)を生ずる可能性は高くはない。このため、拘束装置は鉛直方向の相対移動を拘束すべき支柱材の頂部に対しては、基本的に浮き上がり(上向きの移動)を拘束することができれば足りる。
【0044】
拘束装置は具体的には「水平方向の相対移動を許容しながら、鉛直方向の移動を拘束」すべき支柱の周囲の、地上、もしくは基礎上に立設される柱部材と、その柱部材の頂部と最上部に位置する支柱材の頂部を通って架設される梁部材と、この梁部材と前記支柱材の頂部との間に介在し、前記支柱材の頂部の水平方向の相対移動を許容する絶縁装置からなる(請求項2)。この他、主構造体と制震補強架構とに跨って架設され、主構造体に接合されるフレーム材と、このフレーム材と制震補強架構との間に介在し、両者間の水平方向の相対移動を許容する絶縁装置からなる場合(請求項3)がある。
【0045】
前者の場合(請求項2)、梁部材は拘束対象である支柱の周囲に立設された複数本の柱部材間に、支柱材の頂部を通って架設される場合(図1)と、支柱の脇に立設された1本、もしくは複数本の柱部材とその支柱の最上部の支柱材の頂部との間に架設される場合(図2)がある。
【0046】
いずれの場合も、主構造体の構面内方向の層間変形に追従して制震補強架構が層間変形を生ずるときに、絶縁装置が支柱材頂部の梁部材に対する水平方向の相対移動を許容しながら、梁部材が鉛直方向の相対移動を拘束することで、図12に二点鎖線で示すように支柱材の頂部を水平方向にのみ移動可能にするため、その支柱材に接続されているブレースの端部に浮き上がりも沈み込みも生じさせることがない。
【0047】
請求項2の場合、梁部材は主にその下に配置される絶縁装置を介して支柱材の頂部を下向きに押さえ込むことで、支柱材頂部の浮き上がりを阻止する。支柱材の頂部が沈み込みを生じようとするときには、絶縁装置が支柱材の頂部に連結されることで、支柱材頂部の沈み込み時に絶縁装置が引張力を負担し得る範囲で、支柱材頂部の沈み込みを阻止することができる。
【0048】
請求項2の拘束装置を構成する柱部材は制震補強架構とは別に構築されるため、梁部材が最上部の支柱材頂部の浮き上がり、または浮き上がりと沈み込みを拘束するときの反力は地盤、もしくは基礎が負担する。
【0049】
請求項3のフレーム材は図6に示すように主構造体側の一部において主構造体に接合された状態で、制震補強架構側の一部において制震補強架構のいずれかの部分、例えば支柱材の一部、あるいは支柱材から主構造体側へ張り出した部分(突出部24)に絶縁装置を介して鉛直方向上向きの移動を拘束した状態に置かれる。フレーム材は請求項2の梁部材と同じく、絶縁装置を介して制震補強架構の一部を下向きに押さえ込む働きをするため、絶縁装置はフレーム材の下に配置され、絶縁装置の下に制震補強架構の一部が入り込む(図6)。
【0050】
請求項3ではフレーム材が主構造体と制震補強架構間に跨って架設され、フレーム材の下と制震補強架構のいずれかの部分との間に絶縁装置が介在することで(図5、図6)、主構造体の構面内方向の層間変形に追従して制震補強架構が層間変形を生ずるときには、フレーム材自身は相対移動(相対変形)することなく、層間変形前の状態(形態)を維持しようとする。
【0051】
絶縁装置はその下に位置する制震補強架構の、フレーム材に対する水平方向の相対移動を許容しながら、鉛直方向の相対移動(主に上向きの移動(浮き上がり))を拘束することで、支柱材の頂部を水平方向にのみ移動可能に保持するため、その支柱材に接続されているブレースの端部に浮き上がりも沈み込みも生じさせることがない。
【0052】
請求項3ではフレーム材の制震補強架構側の一部が支柱材等、制震補強架構の一部の上向きの移動を拘束した状態にあることで、請求項2の梁部材と同様に、制震補強架構の支柱材等、制震補強架構の一部を下向きに押さえ込むため、支柱材等の浮き上がりを阻止することになる。支柱材等が沈み込みを生じようとするときには、絶縁装置が支柱材等に連結されることで、支柱材等の沈み込み時に絶縁装置が引張力を負担し得る範囲で、支柱材等の沈み込みを阻止することができる。
【0053】
この結果、請求項3では制震補強架構の一部がフレーム材による拘束を受けることによってブレース端部に浮き上がりも沈み込みも生じないことで、請求項2の場合と同じく、図12において支柱材が右側へ相対移動するときにはそれに接続されているブレースは収縮し、左側へ相対移動するときには伸長するため、ブレースの内蔵されているダンパーは収縮量と伸長量に応じた減衰力を発生することが可能になる。ダンパーはブレースの収縮時と伸長時に生ずる相対移動量に応じた減衰力を発生する場合と相対移動時の相対速度に応じた減衰力を発生する場合がある。
【0054】
請求項3では拘束装置を構成するフレーム材が主構造体と制震補強架構間に跨って架設され、主構造体に接合されているフレーム材が制震補強架構の一部(支柱材を含む)の浮き上がり、または浮き上がりと沈み込みを拘束するため、フレーム材が制震補強架構の浮き上がり、または浮き上がりと沈み込みを拘束するときの反力は主構造体が負担する。
【0055】
請求項2、請求項3では前記のように拘束の対象とする支柱材の頂部が、あるいは制震補強架構の一部が主として鉛直方向上向きの移動に対して拘束されればよいため、梁部材、またはフレーム材は支柱材の頂部等を少なくとも上から押さえ付ける状態にあればよく、必ずしも梁部材等の下に位置する絶縁装置が支柱材の頂部等に連結されている必要はない。絶縁装置は支柱材の頂部等を水平方向に自由に相対移動させればよいため、絶縁装置には図示するような積層ゴム支承、滑り支承の他、弾性滑り支承等が使用される。絶縁装置は支柱材の頂部等に連結されている場合もある。
【0056】
支柱の拘束装置はまた、図7〜図10に示すように制震補強架構の構面内水平方向両側に位置する支柱内の、上下に隣接する支柱材間に架設され、支柱材間の鉛直方向の、互いに分離する向きの相対移動を拘束する引張材からなる場合もある(請求項4)。
【0057】
引張材は主構造体の層間変形に追従した制震補強架構の構面内方向の層間変形時に、上下に隣接する支柱材が互いに水平方向に相対移動しようとするときに、上側に位置する支柱材を下側の支柱材に対して水平方向に自由に相対移動させながら、上側の支柱材が下側の支柱材に対して上昇する移動(上向きの移動)を抑える働きをする。上側の支柱材の水平移動を許容するために、引張材には軸方向に伸縮自在な機能が与えられるが、伸長時に上側の支柱材の上昇を抑えるために、一定量を超える伸長が制限される。
【0058】
引張材は軸方向の伸縮時に伸長量が一定量以内に制限されることにより上側の支柱材の浮き上がりを抑制する。伸長量を一定量以内に制限することは、一定量を超える伸長が引張材に生じようとするときに、引張材を構成する部材間の軸方向の相対移動を、圧油(オイル)等の流体の流れを停止させる(流量を制御する)ことで拘束(ロック)する形式のダンパーを使用することにより、あるいは一定量を超える伸長が生じない形式のコイルスプリングや皿ばね、輪ばね等のばねを使用することにより可能になる。
【0059】
引張材がダンパーの場合、上側に位置する支柱材が下側の支柱材に対して水平方向に相対移動しようとするときに、引張材は軸方向に伸長しながら伸長量の増大に伴って圧油等、流体の流量を制限することで、伸長量を制限し、上側の支柱材の浮き上がりを阻止しながら水平方向の相対移動を許容する。引張材がばねの場合にも、上側に位置する支柱材が下側の支柱材に対して水平方向に相対移動しようとするときに、引張材は軸方向に伸長しながら伸長量の増大に伴って復元力を増大させることで、自ら伸長量を制限し、上側の支柱材の浮き上がりを阻止しながら水平方向の相対移動を許容する。
【0060】
ダンパーを使用する場合には引張材の伸長時に減衰力を得ることが可能であり、ばねを使用する場合には引張材の伸長時に復元力を期待することが可能であるから、ダンパーとばねはそれぞれ単独で使用される他、併用されることもある。
【0061】
いずれの場合も、主構造体の構面内方向の層間変形に追従して制震補強架構が層間変形を生じるときに、引張材が支柱材頂部の梁部材に対する水平方向の相対移動を許容しながら、鉛直方向の相対移動を拘束することで、図12に二点鎖線で示すように支柱材の頂部を水平方向にのみ移動可能にするため、その支柱材に接続されているブレースの端部に浮き上がりを生じさせることがない。
【0062】
この結果、図12において支柱材が右側へ相対移動するときにはそれに接続されているブレースは収縮し、左側へ相対移動するときには伸長するため、ブレースの内蔵されているダンパーは収縮量と伸長量に応じた減衰力を発生することが可能になる。ダンパーはブレースの収縮時と伸長時に生ずる相対移動量に応じた減衰力を発生する場合と相対移動時の相対速度に応じた減衰力を発生する場合がある。
【0063】
図16に、図1等に示す8層構造物の主構造体60に2層のフレーム6に亘るブレース5を持つ制震補強架構1が接合された場合のみの、各ブレース5内のダンパー52によるエネルギ吸収量と、本発明の拘束装置8が付加された場合の各ブレース5内のダンパー52によるエネルギ吸収量の差(解析結果データ)を示している。
【0064】
ダンパー52によるエネルギ吸収量は図14、図15に示すような荷重−変形関係を表す履歴曲線のループの面積から算出される値であり、横軸はブレース5が跨る主構造体60の層と、制震補強架構1における構面内方向の架設区間を示し、縦軸はエネルギ吸収量を98J(tf・cmのSI単位換算値)の倍数で表している。図16は図1、図2に示す形式の拘束装置8のモデルを用いた場合の結果を示している。
【0065】
図1等では制震補強架構1の隣接する支柱2、2で挟まれたブレース5の架設区間が6区間ある場合の例を示しているが、図16における横軸の末尾の数字はこの区間位置(立面上、左から、もしくは右からの位置)を指している。図16ではまた、制震補強架構1のみのダンパー52によるエネルギ吸収量を四角の点を持つ折れ線(破線)で、拘束装置8が付加された場合にダンパー52によるエネルギ吸収量を三角の点を持つ折れ線(実線)で示している。
【0066】
図16より、制震補強架構1全体では下層寄りに架設されるブレース5内のダンパー52より、上層寄り、特に最上層に架設されるブレース5内のダンパー52によるエネルギ吸収量が低下していることが分かる。
【0067】
但し、四角の点を持つ折れ線(破線)で示す制震補強架構1のみの場合には構面内方向両側におけるダンパー52によるエネルギ吸収量が極端に小さいのに対し、三角の点を持つ折れ線(実線)で示す拘束装置8付きの場合には構面内方向両側におけるダンパー52によるエネルギ吸収量の低下がないか、少ないことが分かる。すなわち、制震補強架構1の構面内方向両側への拘束装置8の設置によって制震補強架構1内の構面内方向両側におけるダンパー52によるエネルギ吸収効果が有効に発揮されることが分かる。
【0068】
この制震補強架構1内の構面内方向両側におけるダンパー52によるエネルギ吸収量の確保が本発明の拘束装置8付加の目的であり、解析結果データからその目的が十分に達成されていることが確認される。解析結果に拘束装置8付加の効果が顕著に表れることで、逆に解析モデルを簡素化することができるため、モデルの構築(モデル化)もし易く、解析結果への信頼性も高い、と言える。
【発明の効果】
【0069】
請求項1乃至請求項3では支柱の拘束装置が制震補強架構の構面内水平方向両側に位置する支柱の少なくとも最上部に位置する支柱材頂部の水平方向の相対移動を許容しながら、鉛直方向の移動を拘束するため、制震補強架構の構面内方向の層間変形時にその支柱材に接続されているブレースの端部に少なくとも浮き上がりを生じさせずに済む。この結果、最上部の支柱材が水平方向に相対移動するときにはそれに接続されているブレースを純粋に収縮、もしくは伸長させることができるため、ブレースに内蔵されているダンパーに収縮量と伸長量に応じた減衰力を発生させることができる。
【0070】
請求項4では支柱の拘束装置が制震補強架構の構面内水平方向両側に位置する支柱内の、上下に隣接する支柱材間に架設され、支柱材間の鉛直方向の、互いに分離する向きの相対移動を拘束する引張材からなり、制震補強架構の構面内方向の層間変形時に、上側の支柱材の、下側の支柱材に対する上昇を抑えるため、軸方向の伸縮時に伸長量を一定量以内に制限することにより上側の支柱材の浮き上がりを抑制することができる。
【0071】
この結果、支柱材の頂部を水平方向にのみ移動可能にすることができ、その支柱材に接続されているブレースの端部に浮き上がりを生じさせることがないため、ブレースを純粋に収縮、もしくは伸長させることができ、ブレースに内蔵されているダンパーに収縮量と伸長量に応じた減衰力を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】支柱の拘束装置が制震補強架構の構面内水平方向両側に位置する支柱の両側に並列して立設される柱部材と、両柱部材の頂部間に架設される梁部材からなる場合の制震補強架構と拘束装置の関係を示した斜視図である。
【図2】支柱の拘束装置が制震補強架構の構面内水平方向両側に位置する支柱の片側に立設される柱部材と、最上部に位置する支柱材の頂部との間に架設される梁部材からなる場合の制震補強架構と拘束装置の関係を示した斜視図である。
【図3】図2における拘束装置の頂部での梁部材と支柱材との取合いの様子を示した拡大図である。
【図4】図2における拘束装置の中間部での梁部材と支柱材との取合いの様子を示した拡大図である。
【図5】支柱の拘束装置が主構造体と制震補強架構とに跨って架設されるフレーム材と、このフレーム材と制震補強架構との間に介在する絶縁装置からなる場合の制震補強架構と拘束装置の関係を示した斜視図である。
【図6】図5における制震補強架構の高さ方向中間部の拡大図である。
【図7】支柱の拘束装置が制震補強架構の構面内水平方向両側に位置する支柱内の、上下に隣接する支柱材間に架設され、コイルスプリングを用いた引張材からなる場合の制震補強架構と拘束装置の関係を示した斜視図である。
【図8】図7における拘束装置部分の拡大図である。
【図9】支柱の拘束装置が制震補強架構の構面内水平方向両側に位置する支柱内の、上下に隣接する支柱材間に架設され、ダンパーを用いた引張材からなる場合の制震補強架構と拘束装置の関係を示した斜視図である。
【図10】図9における拘束装置部分の拡大図である。
【図11】制震補強架構を構成する支柱が3本の支柱材からなる場合に、制震補強架構に層間変形が生じ、最下層より上の支柱材が水平方向に相対移動したときの様子を示した立面図である。
【図12】制震補強架構の層間変形時に最上部に位置する支柱材に想定される浮き上がり、もしくは沈み込みの様子を示した立面図である。
【図13】図12に示す最上部の支柱材に生ずる浮き上がりや沈み込みによるダンパーのエネルギ吸収能力への影響を確認するための、4本の支柱材からなる制震補強架構のモデルを示した立面図である。
【図14】(a)〜(d)は構面内水平方向両側より内側に架設される各層のブレース内のダンパーの履歴特性を示した荷重−変形曲線図である。
【図15】(a)〜(d)は構面内水平方向両側に架設される各層のブレース内のダンパーの履歴特性を示した荷重−変形曲線図である。
【図16】主構造体が図1等に示す8層の構造物である場合に、図示するように2層に亘るブレースに内蔵されたダンパーによる各2層単位でのエネルギ吸収量を構面内方向の架設区間毎に纏めて表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0073】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0074】
図1は柱61と梁62からなるフレーム6を有する主構造体60の構面外にその構面に平行に配列し、構面内水平方向に互いに間隔を隔てて地上、もしくは基礎上に立設される支柱2と、構面内水平方向に隣接する支柱2、2間に架設される、ブレース本体51にダンパー52を組み込んだダンパー一体型ブレース(以下、ブレース)5を備え、主構造体60を制震補強するための制震補強架構1における支柱の拘束装置8の構成例を示す。主構造体60の柱61と梁62は図6に示している。
【0075】
支柱2は鉛直方向に複数本の支柱材21、22、23に分離し、上下に分離した支柱材21、22間、及び支柱材22、23間に両者間の相対水平移動を許容する絶縁装置3が介在すると共に、構面内水平方向に隣接する支柱材21、22(22、23)間に、制震補強架構1と主構造体60のフレーム6を一体化させるつなぎ梁4が架設される。以下、支柱2を構成する支柱材21〜23の内、最下部に位置する支柱材を21、最上部に位置する支柱材を23、その中間部に位置する支柱材を22とする。
【0076】
つなぎ梁4は構面内水平方向に配列する複数本の支柱2、2をつなぐ働きをすればよいため、つなぎ梁4が支柱2の構面内方向の側面に突き当たる形で接合されるか、支柱2の構面外方向の側面に重なる形で接合されるかは問われない。
【0077】
主構造体60のフレーム6は建築構造物で言えば、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造、外壁等にALC版を張り付けた鉄骨造、あるいは鋼管コンクリート造の別を問わず、制震補強架構1を構成する支柱2とつなぎ梁4も鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄骨造、鋼管コンクリート造の場合がある。コンクリート造の場合は現場打ちコンクリート造とプレキャストコンクリート製の場合がある。制震補強架構1、すなわち制震補強架構1を構成する支柱2とつなぎ梁4も鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄骨造の場合がある。図1、図2以下に示す例では主構造体60が8階建て(8層)の構造物(建物)であり、その主構造体60のスパン方向の片面に接合される制震補強架構1が主構造体60の2層に亘って架設されるブレース5を持つ場合を示している。
【0078】
最下部に位置する支柱材21は図1等に示すように地盤、もしくは既存建物の基礎10(11)等に定着され、最下部の支柱材21より上に位置する支柱材22、23はつなぎ梁4を介してフレーム6に間接的に接合されることによりフレーム6と共に挙動する。図1等では支柱材21の、地中に位置する下端部に基礎10としてのフーチングを形成し、フーチングを地中に埋設することにより地盤に定着させているが、地盤や基礎10への定着方法は問われない。基礎10は杭11を含む。
【0079】
ブレース5は支柱2、2とつなぎ梁4、4からなる架構(フレーム)内に、水平と鉛直に対して傾斜して架設されるから、ブレース5の一端は構面内水平方向に隣接する支柱材21、21(22、22)の内、一方の支柱材21(22)、もしくはその支柱材21(22)寄りのつなぎ梁4に接続(連結)され、他端は他方の支柱材21(22)の直下、または直上の支柱材22(21)、もしくはその支柱材22(21)寄りのつなぎ梁4に接続(連結)される。
【0080】
制震補強架構1を構成する支柱2、2が図1、図2等に示すように構面内水平方向に3本以上、配列する場合には、ブレース5は構面内水平方向両側以外の中間部に位置するいずれかの支柱2を構成するいずれかの支柱材21(22、23)と、その支柱材21(22、23)より上、もしくは下に位置し、その支柱2の両側に隣接する支柱2、2を構成する支柱材21(22、23)との間に傾斜し、前記いずれかの支柱2に関して対称(線対称)に架設される。
【0081】
図示しないが、例えば1本の支柱2が2本の支柱材21、22からなる場合、ブレース5の一端は最下部の支柱材21やつなぎ梁4に接続され、他端は水平方向に隣接する最下部の支柱材21の直上の支柱材22やつなぎ梁4に接続される。図1等では主構造体60が複数層に亘る集合住宅等の建築物であり、フレーム6の構面が平面をなす場合の例を示しているが、構面が曲面の場合を含め、既存建物の形態、あるいは既存建物の用途は限定されない。
【0082】
図11に示すように1本の支柱2が3本以上の支柱材21、22、23からなる場合はブレース5の架設層が2層以上に亘ることから、最下層のブレース5の一端は2本の場合と同じく最下部の支柱材21やつなぎ梁4に接続され、他端は水平方向に隣接する最下部の支柱材21の直上の支柱材22やつなぎ梁4に接続される。その直上層のブレース5の一端は最下部の支柱材21の直上の支柱材22やつなぎ梁4に接続され、他端はその支柱材22に隣接する支柱材22の直上の支柱材23やつなぎ梁4に接続される。その直上層のブレース5も同様に接続される。
【0083】
最上部の支柱材23を除き、基本的に各支柱材21、22はブレース5への地震力の入力と、その軸方向の変形に伴うダンパー52によるエネルギ吸収の効果を発揮させるために、フレーム6の層間変位に追従するよう、つなぎ梁4を介したフレーム6への接合位置に応じ、1層分乃数層分の高さを有する。最上部の支柱材23はつなぎ梁4を介したフレーム6への接合と、ブレース5の接続ができればよく、必ずしも1層分の高さを有する必要がないため、図1等では最上部の支柱材23の高さをつなぎ梁4の成程度、あるいはそれより大きめの程度に留めている。
【0084】
支柱材21、22が数層分の高さを有する場合は1本のブレース5が数層に亘って架設されることになることで、1層の場合より層間変位によるブレース5の変形量が大きくなるため、ダンパー52によるエネルギ吸収効率が高まる利点がある。
【0085】
ブレース5は互いに軸方向に相対移動自在なブレース本体51、51と、一方のブレース本体51に内蔵され、他方のブレース本体51に接続されるダンパー52からなり、ブレース本体51、51の端部に一体化したブラケット53、53において、例えば制震補強架構1の支柱2やつなぎ梁4に接合されたベースプレート等に一体化したガセットプレート7に連結される。ブレース5はブレース本体51、51がその両端間に作用する圧縮力と引張力によって相対移動するときにダンパー52が減衰力を発生することによりフレーム6の揺れを抑制する。ダンパー52にはオイルダンパー(油圧シリンダ)等の粘性流体を用いたダンパーが使用される。
【0086】
絶縁装置3には積層ゴム支承、または支柱材21、22(22、23)からの離脱防止のための変形制限機構付きの弾性滑り支承や滑り支承等が使用される。絶縁装置3として積層ゴム支承を使用した場合、ゴムの引張破断を防止するために絶縁装置3は図3、図6に示すように上端と下端のいずれか一方において上下に分離した支柱材21、22(22、23)の内のいずれか一方の支柱材21(22)に接合され、他方において他方の支柱材22(23)に鉛直方向に相対移動自在に接続(支持)される。「鉛直方向に相対移動自在」とは、支柱材21(22)からの抜け出しが自在であることであり、上側の支柱材22(23)からは下向きに抜け出し自在で、下側の支柱材21(22)からは浮き上がり自在であることを言う。
【0087】
絶縁装置3は積層ゴムの上下に一体化しているフランジ31、32の内の例えば上部のフランジ31を上側の支柱材22(23)の下面に定着させ、下部のフランジ32を下側の支柱材21(22)の上面に定着させることなく、図3、図6に示すようにフランジ32の下面に接合されたシアキー33を下側の支柱材21(22)の上面から形成された空洞2aに嵌合させ、水平方向に係合させることにより支柱材22(23)に鉛直方向に相対移動自在に接続される。シアキー33を上部のフランジ31の上面に接合し、これを上側の支柱材22(23)の下面から形成された空洞2aに嵌合させると共に、下部のフランジ32を下側の支柱材21(22)の上面に定着させることもある。
【0088】
シアキー33を空洞2aに嵌合させる場合、絶縁装置3より上側の支柱材22(23)からの鉛直荷重はフランジ31、32と積層ゴムを通じて、またはフランジ31、32と積層ゴム、及びシアキー33を通じて下側の支柱材21(22)に伝達される。
【0089】
図1は拘束装置8が制震補強架構1の構面内(構面内水平)方向両側に位置する支柱2の周囲に並列して立設される複数本の柱部材81、81と、最上部の支柱材23の頂部を通って柱部材81、81間に架設される梁部材82と、梁部材82と支柱材23の頂部との間に介在し、支柱材23の頂部の水平方向の相対移動を許容する絶縁装置9から構成される場合の具体例を示している。この絶縁装置9も上下に隣接する支柱材21、22(22、23)間に介在する絶縁装置3と同じく、積層ゴム支承の他、弾性滑り支承や滑り支承等が使用される。
【0090】
柱部材81、81は制震補強架構1の支柱2と干渉しない領域に立設され、下端部は基礎10、もしくは杭11に接合される。柱部材81を支持する基礎10や杭11は制震補強架構1を支持する基礎10や杭11である場合と、制震補強架構1の基礎10等とは別に地中に構築される場合がある。図1の例では梁部材82は少なくとも2本の柱部材81、81間に架設されるから、柱部材81、81は少なくとも2本で対になる。
【0091】
図1の場合、柱部材81の下端部は地盤、もしくは基礎10に定着されることにより、鉛直方向上向きの反力が地盤、もしくは基礎10等に負担される。基礎10は既設の場合と新設の場合がある。
【0092】
図1では制震補強架構1の構面内水平方向両側に位置する支柱2の周囲に拘束装置8を構築しているが、拘束装置8はいずれか片側の支柱2の周囲にのみ構築される場合の他、少なくともいずれか片側の支柱2と両側より内側に位置する支柱2の周囲に構築される場合もある。拘束装置8を構成する柱部材81と梁部材82は鉄骨造の場合と鉄筋コンクリート造(プレキャストコンクリート製を含む)の場合がある。柱部材8はまた、1本の連続した部材である場合と、軸方向に連結(接合)されながら構築される場合がある。2本の柱部材81、81とその頭部間に架設される梁部材82はラーメン構造のフレームを構成する。
【0093】
図1ではまた、柱部材81、81の頂部間にのみ梁部材82を架設しているが、梁部材82は図2に示すように柱部材81、81の高さ方向(軸方向)の中間部間にも架設される場合がある。その場合、高さ方向中間部の梁部材82は高さ方向中間部の支柱材22のいずれかの部分、もしくは支柱材22の側面から突出した部分(突出部41)、あるいはつなぎ梁4を通って柱部材81、81間に架設される。
【0094】
更に図1では制震補強架構1の構面内水平方向両側に位置する支柱2を挟むように支柱2の両側に柱部材81、81が立設されることから、制震補強架構1との干渉を回避するために、両柱部材81、81は制震補強架構1の構面に対して振った方向(構面外方向)に立設される。
【0095】
絶縁装置9の軸方向の上端と下端にはそれぞれ梁部材82と支柱材23に接続、あるいは接合されるための上部フランジ91と下部フランジ92が一体化する。絶縁装置9が積層ゴム支承等の場合、本体の積層ゴムが水平力を受けてせん断変形するから、上部フランジ91は基本的に梁部材82の下面にボルト等により一体的に接合され、下部フランジ92は図1に示すように支柱材23の頂部、あるいは支柱材23の頂部の位置に架設されるつなぎ梁4の上面にボルト等により一体的に接合される。但し、絶縁装置9自身が梁部材82と支柱材23(つなぎ梁4)に対して水平方向に相対移動自在であってもよいため、それぞれ梁部材82の長さ方向とつなぎ梁4の長さ方向(水平方向)にスライド自在に支持(接続)されることもある。
【0096】
図2は拘束装置8が制震補強架構1の構面内水平方向両側に位置する支柱2と並列して立設される柱部材81と、その支柱2の最上部の支柱材23の頂部と柱部材81の頂部との間に架設される梁部材82と、梁部材82の先端部と支柱材23の頂部との間に介在する絶縁装置9から構成される場合の具体例を示している。図3は図2における梁部材82部分の拡大図、図4は柱部材81の高さ方向(軸方向)中間部から水平に、支柱2側へ張り出す張出部材83の部分の拡大図である。図2では制震補強架構1の構面と同一面内に柱部材81を立設しているが、必ずしもその必要はなく、図1のように制震補強架構1の構面に対して振った方向(構面外方向)に立設されることもある。
【0097】
図1、図2では制震補強架構1の構面内水平方向両側に位置する支柱2の高さ方向中間部に位置する支柱材22と、最上部に位置する支柱材23から、制震補強架構1の構面内方向に主構造体60との接合のための突出部41を突出させている。突出部41はつなぎ梁4の延長線上に、支柱材22、23から構面内方向の外側に向かって突出する。つなぎ梁4は例えば主構造体60のフレーム6と制震補強架構1との接合のためのスラブ63を増し打ちするような場合に、そのスラブ63の端部とつなぎ梁4との接合のために突出させられ、その結果として突出部41が形成されるが、突出部41はスラブ63の有無に拘らず、形成されないこともある。
【0098】
図2における張出部材83は図4に示すように柱部材81からこのつなぎ梁4の突出部41側へ向かって張り出し、この張出部材83の下面とつなぎ梁4の突出部41との間に絶縁装置9が介在させられる。張出部材83は図6におけるフレーム材84の横枠84bのようにつなぎ梁4以外の方向に張り出す(突出する)部材との間に架設され、両者間に絶縁装置9が介在させられることもある。
【0099】
図2では拘束装置8を構成する柱部材81が1本であることで、拘束装置8(柱部材81)が片持ち梁になり、支柱2の浮き上がりを阻止する上での曲げ剛性が乏しい可能性があるため、柱部材81の高さ方向の複数箇所で支柱2の浮き上がりを押さえるよう、柱部材81の頂部と高さ方向中間部から梁部材82と張出部材83を張り出させている。但し、柱部材81単体の剛性の程度によっては必ずしも張出部材83を張り出させる必要はない。その場合、柱部材81の頂部のみから梁部材82を架設すればよく、梁部材82の下面に配置される絶縁装置9によって最上部の支柱材23の頂部を下向きに押さえ込めればよい。
【0100】
図5は拘束装置8が主構造体60と制震補強架構1とに跨って架設されるフレーム材84と、このフレーム材84と制震補強架構1との間に介在し、両者間の水平方向の相対移動を許容する絶縁装置9からなる場合の具体例を示している。図6は図5におけるフレーム材84部分の拡大図である。
【0101】
フレーム材84は例えば主構造体60の柱61や壁等に接触した状態で接合される縦枠84aと縦枠84aの上端部と下端部の少なくともいずれかから制震補強架構1側へ張り出す横枠84bから図示するようにコの字形、もしくはL字形等の立面形状をし、横枠84bの制震補強架構1側の端部において絶縁装置9を介して制震補強架構1の構面内方向両側に位置する支柱2のいずれかの部分を下向きに押さえ込む。
【0102】
フレーム材84は支柱2の最上部に位置する支柱材23の頂部を押さえ込むこともあるが、図面ではフレーム材84の横枠84bが主構造体60の最上階と中間階に増し打ちされたスラブ63の下面に入り込んだ状態で主構造体60に接合されている関係で、高さ方向の中間部に位置する支柱材22と最上部に位置する支柱材23の高さ方向中間部から主構造体60側へ突出する突出部24の上に横枠84bが位置し、各横枠84bの下と突出部24との間に絶縁装置9が配置されるようにしている。図5、図6の場合も絶縁装置9は横枠84bの下面と突出部24の上面との間に配置され、フランジ91、92がそれぞれにボルト等により接合される。
【0103】
図5、図6では横枠84bが支柱材22、23の突出部24からの上向きの反力を受けるときの横枠84bの変形を抑制するために、横枠84bと縦枠84aとの間にブレース84cを架設している。ここでは特に制震補強架構1のブレース5と同様に、横枠84bの縦枠84aに対する相対変形時にエネルギを吸収できるよう、ブレース84cにダンパー84dを内蔵させている。
【0104】
図7〜図10は拘束装置8が制震補強架構1の構面内水平方向両側に位置する支柱2内の、上下に隣接する支柱材21、22(22、23)間に架設され、その支柱材21、22(22、23)間の鉛直方向の、互いに分離する向きの相対移動を拘束する引張材85からなる場合の具体例を示す。図7、図8は特に引張材85がコイルスプリングや皿ばね等のばねである場合の例を、図9、図10は引張材85が制震補強架構1のブレース5やフレーム材84のダンパー84dと同様の油圧シリンダ等のダンパーである場合の例を示している。
【0105】
引張材85が図7、図8に示すコイルスプリング等である場合、上下に隣接する支柱材21、22(22、23)間に水平方向の相対移動が生じていないときに自然長の状態、またはある程度伸長した状態にあり、水平方向に相対移動が生じたときに伸長し、一定量を超える伸長量に達した後にはそれ以上の伸長が生じない状態に至ることで、上側の支柱材22(23)の浮き上がりを防止(阻止)する。
【0106】
一定量を超える伸長後に伸長しないことは、引張材85(コイルスプリング等)に例えば変形量の増大に伴ってばね定数が増加するハードニングばね(硬化ばね)を使用することにより、あるいは一定量の伸長時に伸長仕切るばねを使用することにより可能であり、その場合、ばね(コイルスプリング)に一定の伸長が生じた後にはそれ以上の伸長が不能になるため、浮き上がりが阻止される。この場合、引張材85(コイルスプリング)のばね定数は支柱材21、22(22、23)間に許容される水平方向の相対移動量までは伸長可能な大きさに設定される。許容される水平方向の相対移動量は絶縁装置9のせん断変形量等、水平変形量でもある。
【0107】
引張材85が図9、図10に示すダンパーの場合、上下に隣接する支柱材21、22(22、23)間に水平方向の相対移動が生じていないときに引張材85(ダンパー)に引張力が作用していない状態、または既に一定の引張力を負担した状態にあり、水平方向に相対移動が生じたときに引張力を負担し、一定量を超える引張力を負担したとき以降は、それ以上の引張力を負担しない状態に設定されることで、上側の支柱材22(23)の浮き上がりを防止(阻止)する。引張材85(ダンパー)が一定量を超える引張力を負担しない状態は引張力が一定値を超えたときに、ダンパーを構成するシリンダ内の、ピストンを挟んだ油圧室間を移動する圧油等、流体の流量を制限するか、停止させることによって実現される。
【符号の説明】
【0108】
1……制震補強架構、2……支柱、21、22、23……支柱材、2a……空洞、24……突出部、
3……絶縁装置、31……上部フランジ、32……下部フランジ、33……シアキー、
4……つなぎ梁、41……突出部、
5……ダンパー一体型ブレース、51……ブレース本体、52……ダンパー、53……ブラケット、
6……フレーム、60……主構造体、61……柱、62……梁、63……スラブ、
7……ガセットプレート、
8……拘束装置、81……柱部材、82……梁部材、83……張出部材、84……フレーム材、84a……縦枠、84b……横枠、85……引張材、
9……絶縁装置、91……フランジ、92……フランジ、
10……基礎、11……杭。
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば既存の、あるいは新設のコンクリート造、鉄骨造等の主構造体の構面外にその構面に平行に構築され、主構造体を制震補強する制震補強架構を構成し、構面内水平方向に隣接する支柱間に架設されるダンパー一体型ブレースのダンパーの効きを高める制震補強架構における支柱の拘束装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば既存のコンクリート造躯体等の主構造体に耐震性能、あるいは制震性能を付与する目的で、主構造体の表面に接した状態で構築される制震補強架構は主構造体の構面外にその構面内水平方向に配列する支柱と、隣接する支柱間に架設される、ブレース本体にダンパーを組み込んだダンパー一体型ブレースと、同じく隣接する支柱材間に架設されるつなぎ梁を基本的な構成要素とする(特許文献1参照)。
【0003】
各支柱は特許文献1の図3に示すように鉛直方向に分離した複数本の支柱材からなり、上下に分離した支柱材間には両者間の相対水平移動を許容する、水平剛性の小さい絶縁装置(積層ゴム支承や滑り支承)が介在し、ダンパー一体型ブレースは隣接する支柱の支柱材間に、層間に跨るように架設される。
【0004】
つなぎ梁は主構造体が層間変形を生じたときに、その層間変形に制震補強架構が追従するよう、主構造体と制震補強架構を一体構造化するために、隣接する支柱材間に架設されながら、主構造体に接合される(特許文献1の段落0066)。絶縁装置は構面内水平方向に隣接する支柱材間の相対移動時には支柱材が鉛直状態を維持するように、上下に隣接する支柱材間に介在させられる。特許文献1の図3は本件明細書に添付の図11である。
【0005】
主構造体(制震補強架構)の構面内水平方向に地震が発生し、その方向に層間変形が生じたときには主構造体の各階のスラブ等に接合され、制震補強架構の一部となるつなぎ梁とそのつなぎ梁に接合されている支柱材が主構造体に追従して相対移動し(特許文献1の図3)、構面内水平方向に隣接する支柱材間に架設されているブレースのダンパーが伸縮することにより減衰力を発生し、振動エネルギを吸収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4038472号公報(請求項1、段落0013〜0026、図1、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では制震補強架構の構面内水平方向の層間変形時に、上下に分離した支柱材間に介在する絶縁装置がせん断変形することにより上下の支柱材が互いに平行な状態を維持したまま相対移動し、結果としてブレースのダンパーに軸方向力を与え、ダンパーに減衰力を発生させる(特許文献1の図3)。
【0008】
しかしながら、特許文献1では絶縁装置(積層ゴム)を構成するゴムに引張力を負担させないよう、絶縁装置上に位置する支柱材がその下方に位置する支柱材から浮き上がりを生ずることが許容されているため(特許文献1の段落0071、図5)、制震補強架構の構面内水平方向両側に位置する支柱材の上端部は鉛直方向にも水平方向にも拘束を受けていないこともあって、水平方向への相対移動に伴い、本件の図12に示すように鉛直方向上向きに相対移動する(浮き上がりが生ずる)ことが想定される。
【0009】
図12では構面内水平方向左側の支柱2の内、最上部に位置する支柱材23の上端部が鉛直方向上向きに相対移動するときと、下向きに相対移動する(沈み込みを生ずる)ときを示しているが、特許文献1の支柱材23は絶縁装置の接続状態から主に浮き上がりを生じ易い。図12では浮き上がり状態と沈み込み状態を破線で示している。二点鎖線は浮き上がりも沈み込みもなく、水平方向に移動したときの様子を示している。
【0010】
本来、支柱材には水平方向に相対移動する挙動のみが期待されているが(特許文献1の図3)、鉛直方向の相対移動が伴うことで、ダンパーの伸縮量が想定量より小さくなり、ダンパーが十分なエネルギ吸収能力を発揮できないことが起こり得る。
【0011】
例えば特許文献1の図3(本件の図11)において、本件の図12に破線で示すように構面内水平方向左側の最上部に位置する支柱材が静止状態から右側へ相対移動したときに、支柱材の上端部が上方へ移動すれば、その上端部に接続されているブレースの収縮量が本来の収縮量より小さくなるため、それだけダンパーの効きが低下し、エネルギ吸収効果も低下する。同様に構面内水平方向左側の最上部に位置する支柱材が静止状態から左側へ相対移動したときに、支柱材の上端部が下方へ移動すれば、その上端部に接続されているブレースの伸長量が本来の伸長量より小さくなるため、それだけダンパーの効きが低下する。
【0012】
各支柱2が4本の支柱材21、22、23からなる場合の特許文献1の制震補強架構1のモデルを図13に示す。構面内水平方向に隣接する支柱2、2間には、支柱2、2を互いに連結すると共に、主構造体に接合するためのつなぎ梁4が架設される。このモデルの内、太線で示す構面内水平方向中間部(端部より中心側)に位置する支柱2、2間に架設されるブレース5に内蔵されるダンパーの各層での履歴特性を図14−(a)〜(d)に、同じく太線で示す構面内水平方向両側(端部)に位置する支柱2、2間に架設されるブレース5に内蔵されるダンパーの各層での履歴特性を図15−(a)〜(d)に示している。
【0013】
図14と図15の(a)は1階と3階間に架設されるブレースのダンパー、(b)は3階と5階間に架設されるブレースのダンパー、(c)は5階と7階間に架設されるブレースのダンパー、(d)は7階と9階間に架設されるブレースのダンパーの履歴特性を示している。図14に示すように構面内水平方向中間部に位置するブレースのダンパーは下層から最上層まで荷重−変形曲線が面積を持った紡錘形のループを描いているのに対し、構面内水平方向端部に位置するブレースのダンパーは図15に示すように上層階程、曲線(ループ)が潰れる傾向を示している。
【0014】
図15を見る限り、構面内水平方向の端部(両側)に架設されるブレースの内、1−3階から5−7階までのブレース内のダンパーは履歴曲線が紡錘形のループを描き、ダンパーとしてのエネルギ吸収能力を発揮しているのに対し、7−9階のブレース内のダンパーは履歴曲線が潰れ、ほとんどエネルギ吸収能力を発揮できていないことが分かる。一方、構面内水平方向の中間部に架設されているブレースのダンパーは図14に示すように7−9階においても1−3階から5−7階までより面積が小さくなるものの、紡錘形のループを描き、エネルギ吸収能力を発揮していることが分かる。
【0015】
図14と図15の対比から、構面内水平方向両側で、上層部に位置するブレースのダンパーは本来のエネルギ吸収能力を発揮できていないことが推定される。図14と図15の履歴曲線の違いは前記のように構面内水平方向両側に位置する支柱を構成し、最上部に位置する支柱材の上端部が水平方向の相対移動に伴って鉛直方向に、特に鉛直方向上向きに相対移動することに起因して発生すると考えられる。
【0016】
この発明は上記背景より、既存の構造体等、主構造体を制震補強する制震補強架構において、その架構を構成し、構面内水平方向両側の支柱の内、特に最上部に位置する支柱材に接続されるブレースのダンパーの効きを高める支柱の拘束装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1に記載の発明の制震補強架構における支柱の拘束装置は、柱・梁からなるフレームを有する主構造体の構面外にその構面に平行に配列し、互いに間隔を隔てて地上、もしくは基礎上に立設される支柱と、構面内水平方向に隣接する支柱間に架設される、ブレース本体にダンパーを組み込んだダンパー一体型ブレースを備え、
前記支柱が鉛直方向に複数本の支柱材に分離し、上下に分離した支柱材間に両者間の相対水平移動を許容する絶縁装置が介在すると共に、構面内水平方向に隣接する支柱材間につなぎ梁が架設された、前記主構造体を制震補強するための制震補強架構において、
前記制震補強架構の構面内水平方向両側に位置する前記支柱の周囲に構築され、前記支柱の少なくとも最上部に位置する支柱材の頂部の水平方向の相対移動を許容しながら、鉛直方向の移動を拘束していることを構成要件とする。
【0018】
主構造体を含む構造物は例えば既存のコンクリート造(鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造を含む)構造物の他、鉄骨造の構造物であり、建築構造物と土木構造物の双方を含む。制震補強架構が接合される主構造体は建物の柱、梁、スラブ、基礎等の他、橋梁の橋桁、橋脚、フーチング等が該当する。主構造体は主として鉄筋コンクリート造構造物の一部であるが、無筋コンクリートやモルタル等の場合もある。
【0019】
主構造体と制震補強架構の接合部位は問われず、例えば新旧のスラブ同士、梁(桁)同士、柱同士、基礎同士等、あるいは付加構造体の構築位置等に応じ、これらの任意の組み合わせ等になるが、制震補強架構は主構造体のいずれかの部位の表面に制震補強架構を構成するスラブや梁等が接合された状態で構築される。主構造体に対する制震補強架構の構築の時期も問われず、主構造体との打ち継ぎのように主構造体の構築直後に制震補強架構を構築する場合の他、主構造体の構築が完了し、使用期間中に主構造体に対する補強の必要性が発生したとき等になる。
【0020】
制震補強架構は主構造体の構面に平行に配列し、その構面内水平方向に互いに間隔を隔てて地上、もしくは基礎上に立設され、鉛直方向に複数本の支柱材に分離した支柱と、上下に分離した支柱材間に介在し、両者間の相対水平移動を許容する絶縁装置と、同一レベルで隣接する支柱材間に架設され、両支柱材を互いにつなぐつなぎ梁と、既存フレームの構面内の支柱材間に架設される上記ブレースから構成される。
【0021】
制震補強架構は主構造体の構面外に、主構造体に接する形で構築される場合と、構面から距離を置いて構築される場合がある。つなぎ梁は前記の通り、隣接する支柱材間に架設されながら、主構造体に接合されることにより(特許文献1の段落0066)、主構造体と制震補強架構を一体構造化し、主構造体の層間変形に制震補強架構を追従させる。
【0022】
各支柱は地上や基礎上に定着される最下部の支柱材とその上に位置する上部の支柱材の、計2本の支柱材からなる場合と、図11(特許文献1の図3)に示すように最下部の支柱材とその上に位置する2本以上の上部の支柱材の、計3本以上の支柱材からなる場合がある。
【0023】
最下部に位置する支柱材は地盤、もしくは基礎に定着され、最下部より上に位置する支柱材は主構造体に、支柱材をつなぐつなぎ梁が主構造体に接合されることにより間接的に接合されて主構造体と共に挙動する。最下部より上に位置する支柱材が直接主構造体に接合されることも想定されるが、支柱材と主構造体との一体性を高め、主構造体からの地震力を制震補強架構に伝達させる上では、つなぎ梁を主構造体(のフレーム)に接合することが有効である。
【0024】
ダンパー一体型ブレース(ブレース)は具体的には水平方向に間隔を隔てて配列する支柱間において、いずれかの支柱を構成するいずれかの支柱材と、その支柱材より上、もしくは下に位置し、その支柱の両側に隣接する支柱を構成する支柱材との間に傾斜し、前記いずれかの支柱に関して対称に架設される(請求項5)。
【0025】
ブレースがいずれかの支柱に関して対称に架設されることで、図11に矢印で示すようにある層に架設されているブレースに作用する引張力、もしくは圧縮力が支柱に関して対称位置にあるブレースに流れ、最終的には地盤、もしくは基礎に伝達されるため、制震補強架構を構成する支柱自身が最終的に引張力と圧縮力を負担し、処理する場合より支柱の耐力(強度)が小さくて済み、支柱の断面も小さくて済む利点がある。
【0026】
ブレースは制震補強架構の層間変形時における構面内水平方向に隣接する支柱の、レベルの相違する支柱材間の相対変形時に軸方向力を負担するため、この隣接する支柱の、レベルの相違する支柱材間に架設される。この関係で、ブレースの一端は構面内水平方向に隣接する支柱材の内、一方の支柱材の、フレーム、もしくはつなぎ梁との接合部、またはつなぎ梁の、支柱材との接合部に接続され、他端は他方の支柱材の、フレーム、もしくはつなぎ梁との接合部、またはつなぎ梁の、支柱材との接合部に接続される(請求項5)。
【0027】
主構造体が地震力により構面内で変形しようとするときには、図11に二点鎖線で示すように主構造体に一体化している、最下部の支柱材より上の支柱材が主構造体と共に挙動することと、その直下の支柱材から分離し、両支柱材間に両者間の相対水平移動を許容する絶縁装置が介在していることで、最下部の支柱材より上の支柱材が直下の支柱材に対して相対水平移動する。
【0028】
ブレースは主構造体に一体化している支柱材やその付近のつなぎ梁と、その直下、または直上の支柱材に隣接する支柱材やその付近のつなぎ梁との間に架設されていることで、上下の支柱材の相対水平移動に伴って伸長、または収縮し、その伸長量や収縮量、あるいは伸縮時の速度に応じた減衰力をダンパーが発生し、振動エネルギを吸収する。同時にダンパーが発生する減衰力が主構造体に一体化している支柱材やつなぎ梁から主構造体に作用することで、主構造体の揺れが抑制される。
【0029】
図11に示すように主構造体の構面内水平方向の変形に伴い、分離した上下の支柱材が相対水平移動したとき、ブレースが接続された支柱材にはダンパーからの軸方向力が作用するが、最下部の支柱材に作用する軸方向力に対する反力は地盤や基礎で負担される。
【0030】
また最下部より上の支柱材に作用する軸方向力に対する反力はつなぎ梁を介して支柱材が接続される主構造体で負担されるため、ダンパーからの軸方向力によって支柱材に過大な曲げモーメントとせん断力が作用する事態は回避され、分離している各支柱材が転倒する可能性と、支柱材の脚部や頂部に過大な応力を生じさせる可能性は解消される。支柱材の脚部や頂部に過大な応力を生じさせる可能性が解消されることで、支柱材自身は必ずしもダンパーからの軸方向力に抵抗し得る強度を有する必要はない。
【0031】
特に最下部の支柱材と最上部の支柱材の中間位置でブレースが接続される支柱材のようにブレースが構面内水平方向の両側に、2方向に接続される支柱材には変形前に同一線上に位置するブレースからの軸方向力が実質的に相殺されるため、支柱材にはダンパーからの軸方向力による曲げモーメントとせん断力はほとんど作用しない。
【0032】
主構造体に入力する地震力の一部は主構造体に接合され、ブレースが接続されている支柱材からブレースに伝達され、そのブレースが負担する。最終的にはブレースが接続され、地盤や基礎に定着されている最下部の支柱材から地盤に伝達され、負担される。地震力の一部がブレースで負担され、最終的に地盤で負担されることで、主構造体が負担すべき地震力が軽減されるため、主構造体の地震力に対する安全性が向上する。
【0033】
ブレースが地震力の一部を負担しても、制震補強架構を構成する支柱とつなぎ梁は主構造体に入力する地震力を主構造体と共に分担するのではなく、最下部の支柱材より上の支柱材が主構造体と共に挙動して直下の支柱材との間で相対移動を生ずることで、ダンパーが発生する減衰力を主構造体に作用させる働きをする。このため、支柱とつなぎ梁は地震力に抵抗するブレースのダンパーから受ける軸方向力に対する反力を地盤や基礎、あるいは主構造体から受けることができればよく、支柱とつなぎ梁が全長に亘って地震力に抵抗する必要がない。
【0034】
ブレースが接続される支柱材にはダンパーからの軸方向力が作用する結果、軸方向力の鉛直成分が絶縁装置を通じてその上下に隣接する支柱材に伝達されるものの、その上下に隣接する支柱材とは絶縁装置によって切り離されているため、絶縁装置の水平変形可能な範囲で軸方向力の水平成分は上下に隣接する支柱材には伝達されない。また上記のように支柱材自身は必ずしもダンパーからの軸方向力に抵抗し得る強度を有する必要がないことから、支柱とつなぎ梁は主構造体の耐力と剛性を補う程の耐力と剛性を有する必要がなく、地震力を主構造体と共に分担する場合より断面を減ずることが可能になる。
【0035】
制震補強架構を構成する支柱とつなぎ梁が主構造体と共に地震力を分担するとすれば、大地震時に地震力に抵抗することで損傷を受ける可能性があるが、支柱とつなぎ梁は全長に亘って地震力に抵抗する必要がなく、またそれぞれの断面の低減により地震力を主構造体と共に分担する場合より制震補強架構自体の剛性を低下させることができることで、制震補強架構は大地震に対しても柔軟に変形することができるため、損傷を受けることは回避される。
【0036】
請求項1において、支柱の拘束装置が「制震補強架構の構面内水平方向両側に位置する支柱の周囲に構築される」とは、平面上、拘束装置が拘束の対象とする支柱の周囲に制震補強架構とは別に構築される場合(図1)と、制震補強架構の一部(支柱等)を利用する形で(図2〜図4)、あるいは制震補強架構に組み込まれる形で構築される場合(図5、図6)があることを言う。図1〜図4の例は後述の請求項2の具体的な場合に該当し、図5、図6は請求項3の具体的な場合に該当している。
【0037】
制震補強架構を構成する支柱の内、拘束装置が主として拘束の対象とする支柱が「構面内水平方向両側に位置する支柱」であって、両側以外に位置する支柱を除外する趣旨ではないため、拘束装置は「構面内水平方向両側に位置する支柱」とその内側に位置する支柱に対しても構築されることがある。拘束装置の対象とする支柱が「構面内水平方向両側に位置する支柱」以外の支柱を含むことは請求項4においても同様であり、請求項4の拘束装置は「構面内水平方向両側に位置する支柱」とその内側に位置する支柱の支柱材間に架設されることもある。
【0038】
「支柱の少なくとも最上部に位置する支柱材」とは、支柱を構成する複数本の支柱材の内、少なくとも最上部に位置する支柱材のことであり、「少なくとも」であるから、最上部に位置する支柱材に加え、それ以外の高さ方向の中間部に位置する支柱材も含む趣旨である。
【0039】
「支柱材の頂部の水平方向の相対移動」とは、主構造体の構面内水平方向の層間変形に追従して制震補強架構が層間変形を生ずるときに、制震補強架構と支柱材の頂部との間に生ずる水平方向の相対移動を指す。拘束装置はこの支柱材頂部の、制震補強架構に対する水平方向の相対移動を許容する一方、その相対移動に伴って発生し得る鉛直方向の移動を拘束する(請求項1)。
【0040】
拘束装置が支柱材頂部の水平方向の相対移動を許容する理由は、主構造体の構面内方向の層間変形に追従して制震補強架構が自由に層間変形を生ずるようにするためであり、拘束装置が支柱材頂部の相対移動を許容しなければ、制震補強架構自体が自由な層間変形を阻害されるためである。
【0041】
「鉛直方向の移動」は「上向きの移動(浮き上がり)」と「下向きの移動(沈み込み)」を含むが、前記のように制震補強架構を構成する支柱の支柱材間に介在する絶縁装置が下側の支柱材から浮き上がり可能な状態にあることから(特許文献1の段落0071)、支柱材は下側に隣接する支柱材に対して上向きに移動する可能性が高いため、「鉛直方向の移動」は主として「上向きの移動(浮き上がり)」を言う。
【0042】
拘束装置が支柱材頂部の鉛直方向上向きの移動と下向きの移動を拘束することで、図12に破線で示すような浮き上がりと沈み込みがなくなり、二点鎖線で示すように主構造体の構面内方向の層間変形時に原則として支柱材の頂部を水平方向にのみ相対移動させることができる。「原則として」とは、水平方向の相対移動に伴う多少の鉛直方向の相対移動は許容されることがある趣旨である。層間変形時の支柱材頂部の移動の方向が原則として水平方向に制限されることで、ブレースのダンパーに主構造体の層間変形に見合った、本来の伸縮変形を与え、ダンパーの効きを高めることが可能になり、ダンパーのエネルギ吸収能力を有効に発揮させることが可能になる。
【0043】
上記のように制震補強架構を構成する支柱の支柱材は積層ゴム支承等の絶縁装置を介して互いに連結されるものの、絶縁装置自身は下側の支柱材には定着されないことから、上側に隣接する支柱材が下側の支柱材から浮き上がり(上向きに移動)を生ずる可能性が高く、下向きに移動(沈み込み)を生ずる可能性は高くはない。このため、拘束装置は鉛直方向の相対移動を拘束すべき支柱材の頂部に対しては、基本的に浮き上がり(上向きの移動)を拘束することができれば足りる。
【0044】
拘束装置は具体的には「水平方向の相対移動を許容しながら、鉛直方向の移動を拘束」すべき支柱の周囲の、地上、もしくは基礎上に立設される柱部材と、その柱部材の頂部と最上部に位置する支柱材の頂部を通って架設される梁部材と、この梁部材と前記支柱材の頂部との間に介在し、前記支柱材の頂部の水平方向の相対移動を許容する絶縁装置からなる(請求項2)。この他、主構造体と制震補強架構とに跨って架設され、主構造体に接合されるフレーム材と、このフレーム材と制震補強架構との間に介在し、両者間の水平方向の相対移動を許容する絶縁装置からなる場合(請求項3)がある。
【0045】
前者の場合(請求項2)、梁部材は拘束対象である支柱の周囲に立設された複数本の柱部材間に、支柱材の頂部を通って架設される場合(図1)と、支柱の脇に立設された1本、もしくは複数本の柱部材とその支柱の最上部の支柱材の頂部との間に架設される場合(図2)がある。
【0046】
いずれの場合も、主構造体の構面内方向の層間変形に追従して制震補強架構が層間変形を生ずるときに、絶縁装置が支柱材頂部の梁部材に対する水平方向の相対移動を許容しながら、梁部材が鉛直方向の相対移動を拘束することで、図12に二点鎖線で示すように支柱材の頂部を水平方向にのみ移動可能にするため、その支柱材に接続されているブレースの端部に浮き上がりも沈み込みも生じさせることがない。
【0047】
請求項2の場合、梁部材は主にその下に配置される絶縁装置を介して支柱材の頂部を下向きに押さえ込むことで、支柱材頂部の浮き上がりを阻止する。支柱材の頂部が沈み込みを生じようとするときには、絶縁装置が支柱材の頂部に連結されることで、支柱材頂部の沈み込み時に絶縁装置が引張力を負担し得る範囲で、支柱材頂部の沈み込みを阻止することができる。
【0048】
請求項2の拘束装置を構成する柱部材は制震補強架構とは別に構築されるため、梁部材が最上部の支柱材頂部の浮き上がり、または浮き上がりと沈み込みを拘束するときの反力は地盤、もしくは基礎が負担する。
【0049】
請求項3のフレーム材は図6に示すように主構造体側の一部において主構造体に接合された状態で、制震補強架構側の一部において制震補強架構のいずれかの部分、例えば支柱材の一部、あるいは支柱材から主構造体側へ張り出した部分(突出部24)に絶縁装置を介して鉛直方向上向きの移動を拘束した状態に置かれる。フレーム材は請求項2の梁部材と同じく、絶縁装置を介して制震補強架構の一部を下向きに押さえ込む働きをするため、絶縁装置はフレーム材の下に配置され、絶縁装置の下に制震補強架構の一部が入り込む(図6)。
【0050】
請求項3ではフレーム材が主構造体と制震補強架構間に跨って架設され、フレーム材の下と制震補強架構のいずれかの部分との間に絶縁装置が介在することで(図5、図6)、主構造体の構面内方向の層間変形に追従して制震補強架構が層間変形を生ずるときには、フレーム材自身は相対移動(相対変形)することなく、層間変形前の状態(形態)を維持しようとする。
【0051】
絶縁装置はその下に位置する制震補強架構の、フレーム材に対する水平方向の相対移動を許容しながら、鉛直方向の相対移動(主に上向きの移動(浮き上がり))を拘束することで、支柱材の頂部を水平方向にのみ移動可能に保持するため、その支柱材に接続されているブレースの端部に浮き上がりも沈み込みも生じさせることがない。
【0052】
請求項3ではフレーム材の制震補強架構側の一部が支柱材等、制震補強架構の一部の上向きの移動を拘束した状態にあることで、請求項2の梁部材と同様に、制震補強架構の支柱材等、制震補強架構の一部を下向きに押さえ込むため、支柱材等の浮き上がりを阻止することになる。支柱材等が沈み込みを生じようとするときには、絶縁装置が支柱材等に連結されることで、支柱材等の沈み込み時に絶縁装置が引張力を負担し得る範囲で、支柱材等の沈み込みを阻止することができる。
【0053】
この結果、請求項3では制震補強架構の一部がフレーム材による拘束を受けることによってブレース端部に浮き上がりも沈み込みも生じないことで、請求項2の場合と同じく、図12において支柱材が右側へ相対移動するときにはそれに接続されているブレースは収縮し、左側へ相対移動するときには伸長するため、ブレースの内蔵されているダンパーは収縮量と伸長量に応じた減衰力を発生することが可能になる。ダンパーはブレースの収縮時と伸長時に生ずる相対移動量に応じた減衰力を発生する場合と相対移動時の相対速度に応じた減衰力を発生する場合がある。
【0054】
請求項3では拘束装置を構成するフレーム材が主構造体と制震補強架構間に跨って架設され、主構造体に接合されているフレーム材が制震補強架構の一部(支柱材を含む)の浮き上がり、または浮き上がりと沈み込みを拘束するため、フレーム材が制震補強架構の浮き上がり、または浮き上がりと沈み込みを拘束するときの反力は主構造体が負担する。
【0055】
請求項2、請求項3では前記のように拘束の対象とする支柱材の頂部が、あるいは制震補強架構の一部が主として鉛直方向上向きの移動に対して拘束されればよいため、梁部材、またはフレーム材は支柱材の頂部等を少なくとも上から押さえ付ける状態にあればよく、必ずしも梁部材等の下に位置する絶縁装置が支柱材の頂部等に連結されている必要はない。絶縁装置は支柱材の頂部等を水平方向に自由に相対移動させればよいため、絶縁装置には図示するような積層ゴム支承、滑り支承の他、弾性滑り支承等が使用される。絶縁装置は支柱材の頂部等に連結されている場合もある。
【0056】
支柱の拘束装置はまた、図7〜図10に示すように制震補強架構の構面内水平方向両側に位置する支柱内の、上下に隣接する支柱材間に架設され、支柱材間の鉛直方向の、互いに分離する向きの相対移動を拘束する引張材からなる場合もある(請求項4)。
【0057】
引張材は主構造体の層間変形に追従した制震補強架構の構面内方向の層間変形時に、上下に隣接する支柱材が互いに水平方向に相対移動しようとするときに、上側に位置する支柱材を下側の支柱材に対して水平方向に自由に相対移動させながら、上側の支柱材が下側の支柱材に対して上昇する移動(上向きの移動)を抑える働きをする。上側の支柱材の水平移動を許容するために、引張材には軸方向に伸縮自在な機能が与えられるが、伸長時に上側の支柱材の上昇を抑えるために、一定量を超える伸長が制限される。
【0058】
引張材は軸方向の伸縮時に伸長量が一定量以内に制限されることにより上側の支柱材の浮き上がりを抑制する。伸長量を一定量以内に制限することは、一定量を超える伸長が引張材に生じようとするときに、引張材を構成する部材間の軸方向の相対移動を、圧油(オイル)等の流体の流れを停止させる(流量を制御する)ことで拘束(ロック)する形式のダンパーを使用することにより、あるいは一定量を超える伸長が生じない形式のコイルスプリングや皿ばね、輪ばね等のばねを使用することにより可能になる。
【0059】
引張材がダンパーの場合、上側に位置する支柱材が下側の支柱材に対して水平方向に相対移動しようとするときに、引張材は軸方向に伸長しながら伸長量の増大に伴って圧油等、流体の流量を制限することで、伸長量を制限し、上側の支柱材の浮き上がりを阻止しながら水平方向の相対移動を許容する。引張材がばねの場合にも、上側に位置する支柱材が下側の支柱材に対して水平方向に相対移動しようとするときに、引張材は軸方向に伸長しながら伸長量の増大に伴って復元力を増大させることで、自ら伸長量を制限し、上側の支柱材の浮き上がりを阻止しながら水平方向の相対移動を許容する。
【0060】
ダンパーを使用する場合には引張材の伸長時に減衰力を得ることが可能であり、ばねを使用する場合には引張材の伸長時に復元力を期待することが可能であるから、ダンパーとばねはそれぞれ単独で使用される他、併用されることもある。
【0061】
いずれの場合も、主構造体の構面内方向の層間変形に追従して制震補強架構が層間変形を生じるときに、引張材が支柱材頂部の梁部材に対する水平方向の相対移動を許容しながら、鉛直方向の相対移動を拘束することで、図12に二点鎖線で示すように支柱材の頂部を水平方向にのみ移動可能にするため、その支柱材に接続されているブレースの端部に浮き上がりを生じさせることがない。
【0062】
この結果、図12において支柱材が右側へ相対移動するときにはそれに接続されているブレースは収縮し、左側へ相対移動するときには伸長するため、ブレースの内蔵されているダンパーは収縮量と伸長量に応じた減衰力を発生することが可能になる。ダンパーはブレースの収縮時と伸長時に生ずる相対移動量に応じた減衰力を発生する場合と相対移動時の相対速度に応じた減衰力を発生する場合がある。
【0063】
図16に、図1等に示す8層構造物の主構造体60に2層のフレーム6に亘るブレース5を持つ制震補強架構1が接合された場合のみの、各ブレース5内のダンパー52によるエネルギ吸収量と、本発明の拘束装置8が付加された場合の各ブレース5内のダンパー52によるエネルギ吸収量の差(解析結果データ)を示している。
【0064】
ダンパー52によるエネルギ吸収量は図14、図15に示すような荷重−変形関係を表す履歴曲線のループの面積から算出される値であり、横軸はブレース5が跨る主構造体60の層と、制震補強架構1における構面内方向の架設区間を示し、縦軸はエネルギ吸収量を98J(tf・cmのSI単位換算値)の倍数で表している。図16は図1、図2に示す形式の拘束装置8のモデルを用いた場合の結果を示している。
【0065】
図1等では制震補強架構1の隣接する支柱2、2で挟まれたブレース5の架設区間が6区間ある場合の例を示しているが、図16における横軸の末尾の数字はこの区間位置(立面上、左から、もしくは右からの位置)を指している。図16ではまた、制震補強架構1のみのダンパー52によるエネルギ吸収量を四角の点を持つ折れ線(破線)で、拘束装置8が付加された場合にダンパー52によるエネルギ吸収量を三角の点を持つ折れ線(実線)で示している。
【0066】
図16より、制震補強架構1全体では下層寄りに架設されるブレース5内のダンパー52より、上層寄り、特に最上層に架設されるブレース5内のダンパー52によるエネルギ吸収量が低下していることが分かる。
【0067】
但し、四角の点を持つ折れ線(破線)で示す制震補強架構1のみの場合には構面内方向両側におけるダンパー52によるエネルギ吸収量が極端に小さいのに対し、三角の点を持つ折れ線(実線)で示す拘束装置8付きの場合には構面内方向両側におけるダンパー52によるエネルギ吸収量の低下がないか、少ないことが分かる。すなわち、制震補強架構1の構面内方向両側への拘束装置8の設置によって制震補強架構1内の構面内方向両側におけるダンパー52によるエネルギ吸収効果が有効に発揮されることが分かる。
【0068】
この制震補強架構1内の構面内方向両側におけるダンパー52によるエネルギ吸収量の確保が本発明の拘束装置8付加の目的であり、解析結果データからその目的が十分に達成されていることが確認される。解析結果に拘束装置8付加の効果が顕著に表れることで、逆に解析モデルを簡素化することができるため、モデルの構築(モデル化)もし易く、解析結果への信頼性も高い、と言える。
【発明の効果】
【0069】
請求項1乃至請求項3では支柱の拘束装置が制震補強架構の構面内水平方向両側に位置する支柱の少なくとも最上部に位置する支柱材頂部の水平方向の相対移動を許容しながら、鉛直方向の移動を拘束するため、制震補強架構の構面内方向の層間変形時にその支柱材に接続されているブレースの端部に少なくとも浮き上がりを生じさせずに済む。この結果、最上部の支柱材が水平方向に相対移動するときにはそれに接続されているブレースを純粋に収縮、もしくは伸長させることができるため、ブレースに内蔵されているダンパーに収縮量と伸長量に応じた減衰力を発生させることができる。
【0070】
請求項4では支柱の拘束装置が制震補強架構の構面内水平方向両側に位置する支柱内の、上下に隣接する支柱材間に架設され、支柱材間の鉛直方向の、互いに分離する向きの相対移動を拘束する引張材からなり、制震補強架構の構面内方向の層間変形時に、上側の支柱材の、下側の支柱材に対する上昇を抑えるため、軸方向の伸縮時に伸長量を一定量以内に制限することにより上側の支柱材の浮き上がりを抑制することができる。
【0071】
この結果、支柱材の頂部を水平方向にのみ移動可能にすることができ、その支柱材に接続されているブレースの端部に浮き上がりを生じさせることがないため、ブレースを純粋に収縮、もしくは伸長させることができ、ブレースに内蔵されているダンパーに収縮量と伸長量に応じた減衰力を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】支柱の拘束装置が制震補強架構の構面内水平方向両側に位置する支柱の両側に並列して立設される柱部材と、両柱部材の頂部間に架設される梁部材からなる場合の制震補強架構と拘束装置の関係を示した斜視図である。
【図2】支柱の拘束装置が制震補強架構の構面内水平方向両側に位置する支柱の片側に立設される柱部材と、最上部に位置する支柱材の頂部との間に架設される梁部材からなる場合の制震補強架構と拘束装置の関係を示した斜視図である。
【図3】図2における拘束装置の頂部での梁部材と支柱材との取合いの様子を示した拡大図である。
【図4】図2における拘束装置の中間部での梁部材と支柱材との取合いの様子を示した拡大図である。
【図5】支柱の拘束装置が主構造体と制震補強架構とに跨って架設されるフレーム材と、このフレーム材と制震補強架構との間に介在する絶縁装置からなる場合の制震補強架構と拘束装置の関係を示した斜視図である。
【図6】図5における制震補強架構の高さ方向中間部の拡大図である。
【図7】支柱の拘束装置が制震補強架構の構面内水平方向両側に位置する支柱内の、上下に隣接する支柱材間に架設され、コイルスプリングを用いた引張材からなる場合の制震補強架構と拘束装置の関係を示した斜視図である。
【図8】図7における拘束装置部分の拡大図である。
【図9】支柱の拘束装置が制震補強架構の構面内水平方向両側に位置する支柱内の、上下に隣接する支柱材間に架設され、ダンパーを用いた引張材からなる場合の制震補強架構と拘束装置の関係を示した斜視図である。
【図10】図9における拘束装置部分の拡大図である。
【図11】制震補強架構を構成する支柱が3本の支柱材からなる場合に、制震補強架構に層間変形が生じ、最下層より上の支柱材が水平方向に相対移動したときの様子を示した立面図である。
【図12】制震補強架構の層間変形時に最上部に位置する支柱材に想定される浮き上がり、もしくは沈み込みの様子を示した立面図である。
【図13】図12に示す最上部の支柱材に生ずる浮き上がりや沈み込みによるダンパーのエネルギ吸収能力への影響を確認するための、4本の支柱材からなる制震補強架構のモデルを示した立面図である。
【図14】(a)〜(d)は構面内水平方向両側より内側に架設される各層のブレース内のダンパーの履歴特性を示した荷重−変形曲線図である。
【図15】(a)〜(d)は構面内水平方向両側に架設される各層のブレース内のダンパーの履歴特性を示した荷重−変形曲線図である。
【図16】主構造体が図1等に示す8層の構造物である場合に、図示するように2層に亘るブレースに内蔵されたダンパーによる各2層単位でのエネルギ吸収量を構面内方向の架設区間毎に纏めて表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0073】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0074】
図1は柱61と梁62からなるフレーム6を有する主構造体60の構面外にその構面に平行に配列し、構面内水平方向に互いに間隔を隔てて地上、もしくは基礎上に立設される支柱2と、構面内水平方向に隣接する支柱2、2間に架設される、ブレース本体51にダンパー52を組み込んだダンパー一体型ブレース(以下、ブレース)5を備え、主構造体60を制震補強するための制震補強架構1における支柱の拘束装置8の構成例を示す。主構造体60の柱61と梁62は図6に示している。
【0075】
支柱2は鉛直方向に複数本の支柱材21、22、23に分離し、上下に分離した支柱材21、22間、及び支柱材22、23間に両者間の相対水平移動を許容する絶縁装置3が介在すると共に、構面内水平方向に隣接する支柱材21、22(22、23)間に、制震補強架構1と主構造体60のフレーム6を一体化させるつなぎ梁4が架設される。以下、支柱2を構成する支柱材21〜23の内、最下部に位置する支柱材を21、最上部に位置する支柱材を23、その中間部に位置する支柱材を22とする。
【0076】
つなぎ梁4は構面内水平方向に配列する複数本の支柱2、2をつなぐ働きをすればよいため、つなぎ梁4が支柱2の構面内方向の側面に突き当たる形で接合されるか、支柱2の構面外方向の側面に重なる形で接合されるかは問われない。
【0077】
主構造体60のフレーム6は建築構造物で言えば、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造、外壁等にALC版を張り付けた鉄骨造、あるいは鋼管コンクリート造の別を問わず、制震補強架構1を構成する支柱2とつなぎ梁4も鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄骨造、鋼管コンクリート造の場合がある。コンクリート造の場合は現場打ちコンクリート造とプレキャストコンクリート製の場合がある。制震補強架構1、すなわち制震補強架構1を構成する支柱2とつなぎ梁4も鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄骨造の場合がある。図1、図2以下に示す例では主構造体60が8階建て(8層)の構造物(建物)であり、その主構造体60のスパン方向の片面に接合される制震補強架構1が主構造体60の2層に亘って架設されるブレース5を持つ場合を示している。
【0078】
最下部に位置する支柱材21は図1等に示すように地盤、もしくは既存建物の基礎10(11)等に定着され、最下部の支柱材21より上に位置する支柱材22、23はつなぎ梁4を介してフレーム6に間接的に接合されることによりフレーム6と共に挙動する。図1等では支柱材21の、地中に位置する下端部に基礎10としてのフーチングを形成し、フーチングを地中に埋設することにより地盤に定着させているが、地盤や基礎10への定着方法は問われない。基礎10は杭11を含む。
【0079】
ブレース5は支柱2、2とつなぎ梁4、4からなる架構(フレーム)内に、水平と鉛直に対して傾斜して架設されるから、ブレース5の一端は構面内水平方向に隣接する支柱材21、21(22、22)の内、一方の支柱材21(22)、もしくはその支柱材21(22)寄りのつなぎ梁4に接続(連結)され、他端は他方の支柱材21(22)の直下、または直上の支柱材22(21)、もしくはその支柱材22(21)寄りのつなぎ梁4に接続(連結)される。
【0080】
制震補強架構1を構成する支柱2、2が図1、図2等に示すように構面内水平方向に3本以上、配列する場合には、ブレース5は構面内水平方向両側以外の中間部に位置するいずれかの支柱2を構成するいずれかの支柱材21(22、23)と、その支柱材21(22、23)より上、もしくは下に位置し、その支柱2の両側に隣接する支柱2、2を構成する支柱材21(22、23)との間に傾斜し、前記いずれかの支柱2に関して対称(線対称)に架設される。
【0081】
図示しないが、例えば1本の支柱2が2本の支柱材21、22からなる場合、ブレース5の一端は最下部の支柱材21やつなぎ梁4に接続され、他端は水平方向に隣接する最下部の支柱材21の直上の支柱材22やつなぎ梁4に接続される。図1等では主構造体60が複数層に亘る集合住宅等の建築物であり、フレーム6の構面が平面をなす場合の例を示しているが、構面が曲面の場合を含め、既存建物の形態、あるいは既存建物の用途は限定されない。
【0082】
図11に示すように1本の支柱2が3本以上の支柱材21、22、23からなる場合はブレース5の架設層が2層以上に亘ることから、最下層のブレース5の一端は2本の場合と同じく最下部の支柱材21やつなぎ梁4に接続され、他端は水平方向に隣接する最下部の支柱材21の直上の支柱材22やつなぎ梁4に接続される。その直上層のブレース5の一端は最下部の支柱材21の直上の支柱材22やつなぎ梁4に接続され、他端はその支柱材22に隣接する支柱材22の直上の支柱材23やつなぎ梁4に接続される。その直上層のブレース5も同様に接続される。
【0083】
最上部の支柱材23を除き、基本的に各支柱材21、22はブレース5への地震力の入力と、その軸方向の変形に伴うダンパー52によるエネルギ吸収の効果を発揮させるために、フレーム6の層間変位に追従するよう、つなぎ梁4を介したフレーム6への接合位置に応じ、1層分乃数層分の高さを有する。最上部の支柱材23はつなぎ梁4を介したフレーム6への接合と、ブレース5の接続ができればよく、必ずしも1層分の高さを有する必要がないため、図1等では最上部の支柱材23の高さをつなぎ梁4の成程度、あるいはそれより大きめの程度に留めている。
【0084】
支柱材21、22が数層分の高さを有する場合は1本のブレース5が数層に亘って架設されることになることで、1層の場合より層間変位によるブレース5の変形量が大きくなるため、ダンパー52によるエネルギ吸収効率が高まる利点がある。
【0085】
ブレース5は互いに軸方向に相対移動自在なブレース本体51、51と、一方のブレース本体51に内蔵され、他方のブレース本体51に接続されるダンパー52からなり、ブレース本体51、51の端部に一体化したブラケット53、53において、例えば制震補強架構1の支柱2やつなぎ梁4に接合されたベースプレート等に一体化したガセットプレート7に連結される。ブレース5はブレース本体51、51がその両端間に作用する圧縮力と引張力によって相対移動するときにダンパー52が減衰力を発生することによりフレーム6の揺れを抑制する。ダンパー52にはオイルダンパー(油圧シリンダ)等の粘性流体を用いたダンパーが使用される。
【0086】
絶縁装置3には積層ゴム支承、または支柱材21、22(22、23)からの離脱防止のための変形制限機構付きの弾性滑り支承や滑り支承等が使用される。絶縁装置3として積層ゴム支承を使用した場合、ゴムの引張破断を防止するために絶縁装置3は図3、図6に示すように上端と下端のいずれか一方において上下に分離した支柱材21、22(22、23)の内のいずれか一方の支柱材21(22)に接合され、他方において他方の支柱材22(23)に鉛直方向に相対移動自在に接続(支持)される。「鉛直方向に相対移動自在」とは、支柱材21(22)からの抜け出しが自在であることであり、上側の支柱材22(23)からは下向きに抜け出し自在で、下側の支柱材21(22)からは浮き上がり自在であることを言う。
【0087】
絶縁装置3は積層ゴムの上下に一体化しているフランジ31、32の内の例えば上部のフランジ31を上側の支柱材22(23)の下面に定着させ、下部のフランジ32を下側の支柱材21(22)の上面に定着させることなく、図3、図6に示すようにフランジ32の下面に接合されたシアキー33を下側の支柱材21(22)の上面から形成された空洞2aに嵌合させ、水平方向に係合させることにより支柱材22(23)に鉛直方向に相対移動自在に接続される。シアキー33を上部のフランジ31の上面に接合し、これを上側の支柱材22(23)の下面から形成された空洞2aに嵌合させると共に、下部のフランジ32を下側の支柱材21(22)の上面に定着させることもある。
【0088】
シアキー33を空洞2aに嵌合させる場合、絶縁装置3より上側の支柱材22(23)からの鉛直荷重はフランジ31、32と積層ゴムを通じて、またはフランジ31、32と積層ゴム、及びシアキー33を通じて下側の支柱材21(22)に伝達される。
【0089】
図1は拘束装置8が制震補強架構1の構面内(構面内水平)方向両側に位置する支柱2の周囲に並列して立設される複数本の柱部材81、81と、最上部の支柱材23の頂部を通って柱部材81、81間に架設される梁部材82と、梁部材82と支柱材23の頂部との間に介在し、支柱材23の頂部の水平方向の相対移動を許容する絶縁装置9から構成される場合の具体例を示している。この絶縁装置9も上下に隣接する支柱材21、22(22、23)間に介在する絶縁装置3と同じく、積層ゴム支承の他、弾性滑り支承や滑り支承等が使用される。
【0090】
柱部材81、81は制震補強架構1の支柱2と干渉しない領域に立設され、下端部は基礎10、もしくは杭11に接合される。柱部材81を支持する基礎10や杭11は制震補強架構1を支持する基礎10や杭11である場合と、制震補強架構1の基礎10等とは別に地中に構築される場合がある。図1の例では梁部材82は少なくとも2本の柱部材81、81間に架設されるから、柱部材81、81は少なくとも2本で対になる。
【0091】
図1の場合、柱部材81の下端部は地盤、もしくは基礎10に定着されることにより、鉛直方向上向きの反力が地盤、もしくは基礎10等に負担される。基礎10は既設の場合と新設の場合がある。
【0092】
図1では制震補強架構1の構面内水平方向両側に位置する支柱2の周囲に拘束装置8を構築しているが、拘束装置8はいずれか片側の支柱2の周囲にのみ構築される場合の他、少なくともいずれか片側の支柱2と両側より内側に位置する支柱2の周囲に構築される場合もある。拘束装置8を構成する柱部材81と梁部材82は鉄骨造の場合と鉄筋コンクリート造(プレキャストコンクリート製を含む)の場合がある。柱部材8はまた、1本の連続した部材である場合と、軸方向に連結(接合)されながら構築される場合がある。2本の柱部材81、81とその頭部間に架設される梁部材82はラーメン構造のフレームを構成する。
【0093】
図1ではまた、柱部材81、81の頂部間にのみ梁部材82を架設しているが、梁部材82は図2に示すように柱部材81、81の高さ方向(軸方向)の中間部間にも架設される場合がある。その場合、高さ方向中間部の梁部材82は高さ方向中間部の支柱材22のいずれかの部分、もしくは支柱材22の側面から突出した部分(突出部41)、あるいはつなぎ梁4を通って柱部材81、81間に架設される。
【0094】
更に図1では制震補強架構1の構面内水平方向両側に位置する支柱2を挟むように支柱2の両側に柱部材81、81が立設されることから、制震補強架構1との干渉を回避するために、両柱部材81、81は制震補強架構1の構面に対して振った方向(構面外方向)に立設される。
【0095】
絶縁装置9の軸方向の上端と下端にはそれぞれ梁部材82と支柱材23に接続、あるいは接合されるための上部フランジ91と下部フランジ92が一体化する。絶縁装置9が積層ゴム支承等の場合、本体の積層ゴムが水平力を受けてせん断変形するから、上部フランジ91は基本的に梁部材82の下面にボルト等により一体的に接合され、下部フランジ92は図1に示すように支柱材23の頂部、あるいは支柱材23の頂部の位置に架設されるつなぎ梁4の上面にボルト等により一体的に接合される。但し、絶縁装置9自身が梁部材82と支柱材23(つなぎ梁4)に対して水平方向に相対移動自在であってもよいため、それぞれ梁部材82の長さ方向とつなぎ梁4の長さ方向(水平方向)にスライド自在に支持(接続)されることもある。
【0096】
図2は拘束装置8が制震補強架構1の構面内水平方向両側に位置する支柱2と並列して立設される柱部材81と、その支柱2の最上部の支柱材23の頂部と柱部材81の頂部との間に架設される梁部材82と、梁部材82の先端部と支柱材23の頂部との間に介在する絶縁装置9から構成される場合の具体例を示している。図3は図2における梁部材82部分の拡大図、図4は柱部材81の高さ方向(軸方向)中間部から水平に、支柱2側へ張り出す張出部材83の部分の拡大図である。図2では制震補強架構1の構面と同一面内に柱部材81を立設しているが、必ずしもその必要はなく、図1のように制震補強架構1の構面に対して振った方向(構面外方向)に立設されることもある。
【0097】
図1、図2では制震補強架構1の構面内水平方向両側に位置する支柱2の高さ方向中間部に位置する支柱材22と、最上部に位置する支柱材23から、制震補強架構1の構面内方向に主構造体60との接合のための突出部41を突出させている。突出部41はつなぎ梁4の延長線上に、支柱材22、23から構面内方向の外側に向かって突出する。つなぎ梁4は例えば主構造体60のフレーム6と制震補強架構1との接合のためのスラブ63を増し打ちするような場合に、そのスラブ63の端部とつなぎ梁4との接合のために突出させられ、その結果として突出部41が形成されるが、突出部41はスラブ63の有無に拘らず、形成されないこともある。
【0098】
図2における張出部材83は図4に示すように柱部材81からこのつなぎ梁4の突出部41側へ向かって張り出し、この張出部材83の下面とつなぎ梁4の突出部41との間に絶縁装置9が介在させられる。張出部材83は図6におけるフレーム材84の横枠84bのようにつなぎ梁4以外の方向に張り出す(突出する)部材との間に架設され、両者間に絶縁装置9が介在させられることもある。
【0099】
図2では拘束装置8を構成する柱部材81が1本であることで、拘束装置8(柱部材81)が片持ち梁になり、支柱2の浮き上がりを阻止する上での曲げ剛性が乏しい可能性があるため、柱部材81の高さ方向の複数箇所で支柱2の浮き上がりを押さえるよう、柱部材81の頂部と高さ方向中間部から梁部材82と張出部材83を張り出させている。但し、柱部材81単体の剛性の程度によっては必ずしも張出部材83を張り出させる必要はない。その場合、柱部材81の頂部のみから梁部材82を架設すればよく、梁部材82の下面に配置される絶縁装置9によって最上部の支柱材23の頂部を下向きに押さえ込めればよい。
【0100】
図5は拘束装置8が主構造体60と制震補強架構1とに跨って架設されるフレーム材84と、このフレーム材84と制震補強架構1との間に介在し、両者間の水平方向の相対移動を許容する絶縁装置9からなる場合の具体例を示している。図6は図5におけるフレーム材84部分の拡大図である。
【0101】
フレーム材84は例えば主構造体60の柱61や壁等に接触した状態で接合される縦枠84aと縦枠84aの上端部と下端部の少なくともいずれかから制震補強架構1側へ張り出す横枠84bから図示するようにコの字形、もしくはL字形等の立面形状をし、横枠84bの制震補強架構1側の端部において絶縁装置9を介して制震補強架構1の構面内方向両側に位置する支柱2のいずれかの部分を下向きに押さえ込む。
【0102】
フレーム材84は支柱2の最上部に位置する支柱材23の頂部を押さえ込むこともあるが、図面ではフレーム材84の横枠84bが主構造体60の最上階と中間階に増し打ちされたスラブ63の下面に入り込んだ状態で主構造体60に接合されている関係で、高さ方向の中間部に位置する支柱材22と最上部に位置する支柱材23の高さ方向中間部から主構造体60側へ突出する突出部24の上に横枠84bが位置し、各横枠84bの下と突出部24との間に絶縁装置9が配置されるようにしている。図5、図6の場合も絶縁装置9は横枠84bの下面と突出部24の上面との間に配置され、フランジ91、92がそれぞれにボルト等により接合される。
【0103】
図5、図6では横枠84bが支柱材22、23の突出部24からの上向きの反力を受けるときの横枠84bの変形を抑制するために、横枠84bと縦枠84aとの間にブレース84cを架設している。ここでは特に制震補強架構1のブレース5と同様に、横枠84bの縦枠84aに対する相対変形時にエネルギを吸収できるよう、ブレース84cにダンパー84dを内蔵させている。
【0104】
図7〜図10は拘束装置8が制震補強架構1の構面内水平方向両側に位置する支柱2内の、上下に隣接する支柱材21、22(22、23)間に架設され、その支柱材21、22(22、23)間の鉛直方向の、互いに分離する向きの相対移動を拘束する引張材85からなる場合の具体例を示す。図7、図8は特に引張材85がコイルスプリングや皿ばね等のばねである場合の例を、図9、図10は引張材85が制震補強架構1のブレース5やフレーム材84のダンパー84dと同様の油圧シリンダ等のダンパーである場合の例を示している。
【0105】
引張材85が図7、図8に示すコイルスプリング等である場合、上下に隣接する支柱材21、22(22、23)間に水平方向の相対移動が生じていないときに自然長の状態、またはある程度伸長した状態にあり、水平方向に相対移動が生じたときに伸長し、一定量を超える伸長量に達した後にはそれ以上の伸長が生じない状態に至ることで、上側の支柱材22(23)の浮き上がりを防止(阻止)する。
【0106】
一定量を超える伸長後に伸長しないことは、引張材85(コイルスプリング等)に例えば変形量の増大に伴ってばね定数が増加するハードニングばね(硬化ばね)を使用することにより、あるいは一定量の伸長時に伸長仕切るばねを使用することにより可能であり、その場合、ばね(コイルスプリング)に一定の伸長が生じた後にはそれ以上の伸長が不能になるため、浮き上がりが阻止される。この場合、引張材85(コイルスプリング)のばね定数は支柱材21、22(22、23)間に許容される水平方向の相対移動量までは伸長可能な大きさに設定される。許容される水平方向の相対移動量は絶縁装置9のせん断変形量等、水平変形量でもある。
【0107】
引張材85が図9、図10に示すダンパーの場合、上下に隣接する支柱材21、22(22、23)間に水平方向の相対移動が生じていないときに引張材85(ダンパー)に引張力が作用していない状態、または既に一定の引張力を負担した状態にあり、水平方向に相対移動が生じたときに引張力を負担し、一定量を超える引張力を負担したとき以降は、それ以上の引張力を負担しない状態に設定されることで、上側の支柱材22(23)の浮き上がりを防止(阻止)する。引張材85(ダンパー)が一定量を超える引張力を負担しない状態は引張力が一定値を超えたときに、ダンパーを構成するシリンダ内の、ピストンを挟んだ油圧室間を移動する圧油等、流体の流量を制限するか、停止させることによって実現される。
【符号の説明】
【0108】
1……制震補強架構、2……支柱、21、22、23……支柱材、2a……空洞、24……突出部、
3……絶縁装置、31……上部フランジ、32……下部フランジ、33……シアキー、
4……つなぎ梁、41……突出部、
5……ダンパー一体型ブレース、51……ブレース本体、52……ダンパー、53……ブラケット、
6……フレーム、60……主構造体、61……柱、62……梁、63……スラブ、
7……ガセットプレート、
8……拘束装置、81……柱部材、82……梁部材、83……張出部材、84……フレーム材、84a……縦枠、84b……横枠、85……引張材、
9……絶縁装置、91……フランジ、92……フランジ、
10……基礎、11……杭。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱・梁からなるフレームを有する主構造体の構面外にその構面に平行に配列し、互いに間隔を隔てて地上、もしくは基礎上に立設される支柱と、構面内水平方向に隣接する支柱間に架設される、ブレース本体にダンパーを組み込んだダンパー一体型ブレースを備え、
前記支柱は鉛直方向に複数本の支柱材に分離し、上下に分離した支柱材間に両者間の相対水平移動を許容する絶縁装置が介在すると共に、構面内水平方向に隣接する支柱材間につなぎ梁が架設された、前記主構造体を制震補強するための制震補強架構において、
前記制震補強架構の構面内水平方向両側に位置する前記支柱の周囲に構築され、前記支柱の少なくとも最上部に位置する支柱材の頂部の水平方向の相対移動を許容しながら、鉛直方向の移動を拘束していることを特徴とする制震補強架構における支柱の拘束装置。
【請求項2】
前記支柱の周囲の、地上、もしくは基礎上に立設される柱部材と、その柱部材の頂部と前記最上部に位置する支柱材の頂部を通って架設される梁部材と、この梁部材と前記支柱材の頂部との間に介在し、前記支柱材の頂部の水平方向の相対移動を許容する絶縁装置からなることを特徴とする請求項1に記載の制震補強架構における支柱の拘束装置。
【請求項3】
前記主構造体と前記制震補強架構とに跨って架設され、前記主構造体に接合されるフレーム材と、このフレーム材と前記制震補強架構のいずれかの部分との間に介在し、両者間の水平方向の相対移動を許容する絶縁装置からなることを特徴とする請求項1に記載の制震補強架構における支柱の拘束装置。
【請求項4】
柱・梁からなるフレームを有する主構造体の構面外にその構面に平行に配列し、互いに間隔を隔てて地上、もしくは基礎上に立設される支柱と、構面内水平方向に隣接する支柱間に架設される、ブレース本体にダンパーを組み込んだダンパー一体型ブレースを備え、
前記支柱は鉛直方向に複数本の支柱材に分離し、上下に分離した支柱材間に両者間の相対水平移動を許容する絶縁装置が介在すると共に、構面内水平方向に隣接する支柱材間につなぎ梁が架設された、前記主構造体を制震補強するための制震補強架構において、
前記制震補強架構の構面内水平方向両側に位置する前記支柱内の、上下に隣接する支柱材間に架設され、前記支柱材間の鉛直方向の、互いに分離する向きの相対移動を拘束する引張材からなることを特徴とする制震補強架構における支柱の拘束装置。
【請求項5】
前記ダンパー一体型ブレースは水平方向に間隔を隔てて配列する支柱間において、いずれかの支柱を構成するいずれかの支柱材と、その支柱材より上、もしくは下に位置し、その支柱の両側に隣接する支柱を構成する支柱材との間に傾斜し、前記いずれかの支柱に関して対称に架設され、
前記隣接する支柱間に架設されたダンパー一体型ブレースの一端は一方の支柱材の、フレーム、もしくはつなぎ梁との接合部、またはつなぎ梁の、支柱材との接合部に接続され、他端は他方の支柱材の、フレーム、もしくはつなぎ梁との接合部、またはつなぎ梁の、支柱材との接合部に接続されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の制震補強架構における支柱の拘束装置。
【請求項1】
柱・梁からなるフレームを有する主構造体の構面外にその構面に平行に配列し、互いに間隔を隔てて地上、もしくは基礎上に立設される支柱と、構面内水平方向に隣接する支柱間に架設される、ブレース本体にダンパーを組み込んだダンパー一体型ブレースを備え、
前記支柱は鉛直方向に複数本の支柱材に分離し、上下に分離した支柱材間に両者間の相対水平移動を許容する絶縁装置が介在すると共に、構面内水平方向に隣接する支柱材間につなぎ梁が架設された、前記主構造体を制震補強するための制震補強架構において、
前記制震補強架構の構面内水平方向両側に位置する前記支柱の周囲に構築され、前記支柱の少なくとも最上部に位置する支柱材の頂部の水平方向の相対移動を許容しながら、鉛直方向の移動を拘束していることを特徴とする制震補強架構における支柱の拘束装置。
【請求項2】
前記支柱の周囲の、地上、もしくは基礎上に立設される柱部材と、その柱部材の頂部と前記最上部に位置する支柱材の頂部を通って架設される梁部材と、この梁部材と前記支柱材の頂部との間に介在し、前記支柱材の頂部の水平方向の相対移動を許容する絶縁装置からなることを特徴とする請求項1に記載の制震補強架構における支柱の拘束装置。
【請求項3】
前記主構造体と前記制震補強架構とに跨って架設され、前記主構造体に接合されるフレーム材と、このフレーム材と前記制震補強架構のいずれかの部分との間に介在し、両者間の水平方向の相対移動を許容する絶縁装置からなることを特徴とする請求項1に記載の制震補強架構における支柱の拘束装置。
【請求項4】
柱・梁からなるフレームを有する主構造体の構面外にその構面に平行に配列し、互いに間隔を隔てて地上、もしくは基礎上に立設される支柱と、構面内水平方向に隣接する支柱間に架設される、ブレース本体にダンパーを組み込んだダンパー一体型ブレースを備え、
前記支柱は鉛直方向に複数本の支柱材に分離し、上下に分離した支柱材間に両者間の相対水平移動を許容する絶縁装置が介在すると共に、構面内水平方向に隣接する支柱材間につなぎ梁が架設された、前記主構造体を制震補強するための制震補強架構において、
前記制震補強架構の構面内水平方向両側に位置する前記支柱内の、上下に隣接する支柱材間に架設され、前記支柱材間の鉛直方向の、互いに分離する向きの相対移動を拘束する引張材からなることを特徴とする制震補強架構における支柱の拘束装置。
【請求項5】
前記ダンパー一体型ブレースは水平方向に間隔を隔てて配列する支柱間において、いずれかの支柱を構成するいずれかの支柱材と、その支柱材より上、もしくは下に位置し、その支柱の両側に隣接する支柱を構成する支柱材との間に傾斜し、前記いずれかの支柱に関して対称に架設され、
前記隣接する支柱間に架設されたダンパー一体型ブレースの一端は一方の支柱材の、フレーム、もしくはつなぎ梁との接合部、またはつなぎ梁の、支柱材との接合部に接続され、他端は他方の支柱材の、フレーム、もしくはつなぎ梁との接合部、またはつなぎ梁の、支柱材との接合部に接続されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の制震補強架構における支柱の拘束装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−31587(P2012−31587A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170097(P2010−170097)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【特許番号】特許第4585046号(P4585046)
【特許公報発行日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(503361444)
【出願人】(510207243)株式会社KSE network (4)
【出願人】(000149594)株式会社大本組 (40)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【特許番号】特許第4585046号(P4585046)
【特許公報発行日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(503361444)
【出願人】(510207243)株式会社KSE network (4)
【出願人】(000149594)株式会社大本組 (40)
【Fターム(参考)】
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