説明

刺繍データ作成装置、刺繍データ作成プログラム、および刺繍データ作成プログラムを記憶したコンピュータ読取り可能な媒体

【課題】刺繍模様を構成するブロックを埋めるように刺繍縫製を行う場合に、針落ち点の密集を回避しながら見栄えのよい刺繍結果が得られる刺繍データを作成可能な刺繍データ作成装置を提供する。
【解決手段】ブロックの外形線を示す外形線データと、ブロックを埋める縫目の密度を示す糸密度データが取得される(S1、S2)。外形線データと糸密度に基づいて、ブロックの外形線に含まれる相対向する第1線分および第2線分が特定され(S3)、第1線分および第2線分上に、第1針落ち点および第2針落ち点がそれぞれ設定され、その縫い順が決定される(S5)。第1線分と第2線分の長さの比の値が閾値以上の場合(S7:YES)、第2針落ち点のうち一部の位置が、各々、縫い順がその次の第1針落ち点と、縫い順がさらに次の第2針落ち点とを結ぶ仮想線分上に変更された後(S10)、刺繍データが作成される(S21)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺繍縫製可能なミシンによって刺繍縫製を行うための刺繍データを作成する刺繍データ作成装置、刺繍データ作成プログラム、および刺繍データ作成プログラムを記憶したコンピュータ読取り可能な媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
刺繍縫製が可能なミシンは、針落ち点の座標を指定する刺繍データに基づいて、加工布と縫針とを相対的に移動させながら刺繍縫製を行う。例えば、刺繍模様を構成するブロック毎に刺繍データを作成する刺繍データ作成装置が知られている。ブロックは、三角形、四角形、扇形等の閉領域である。このような刺繍データ作成装置は、ブロックの外形線と糸密度のデータに基づき、外形線に含まれる相対向する一対の線分を交互に縫目で結ぶことでブロックを埋めるように刺繍縫製を行うための刺繍データを作成する。
【0003】
しかし、一対の線分の長さが大きく相違する場合、一対の線分上にすべての針落ち点を設定すると、短い方の線分上に針落ち点が密集してしまい、刺繍模様の見栄えを損なうとともに、糸切れや針折れの原因となる可能性がある。そこで、一対の線分の間に折り返し線を仮想的に配列し、短い方の線分の針落ち点の一部を、中落ち点として折り返し線上に設定する針落ちデータ作成装置が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−261699号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記針落ちデータ作成装置により作成される針落ちデータに基づいて刺繍縫製が行われると、短い方の線分上に針落ち点が集中することは避けられる。しかしながら、長い方の線分側にある縫目の端はその線分上に整列する一方で、対向する短い線分側にある縫目の端は、折り返し線上に中落ち点が設定されるために、一列には並ばない。そのため、ブロックを埋める縫目が形成された場合、全体として美しく見えない場合がある。
【0006】
本発明は、刺繍模様を構成するブロックを埋めるように刺繍縫製を行う場合に、針落ち点の密集を回避しながら見栄えのよい刺繍結果が得られる刺繍データを作成可能な刺繍データ作成装置、刺繍データ作成プログラム、および刺繍データ作成プログラムを記憶したコンピュータ読取り可能な媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係る刺繍データ作成装置は、刺繍縫製が可能なミシンにより、閉領域を規定する外形線に含まれる相対向する一対の線分を交互に縫目で結ぶことで前記閉領域を埋めるように刺繍縫製を行うための刺繍データを作成する刺繍データ作成装置であって、前記閉領域の前記外形線を示すデータである外形線データを取得する外形線データ取得手段と、前記閉領域を埋めるべき前記縫目の密度を示すデータである糸密度データを取得する糸密度データ取得手段と、前記外形線データ取得手段によって取得された前記外形線データと、前記糸密度データ取得手段によって取得された前記糸密度データに基づき、前記一対の線分のうち長い方の線分である第1線分上に複数の第1針落ち点を設定し、短い方の線分である第2線分上に複数の第2針落ち点を設定するとともに、前記複数の第1針落ち点と前記複数の第2針落ち点を交互に前記縫目で結ぶための縫い順を設定する針落ち点設定手段と、前記第1線分と前記第2線分の長さの比の値、または前記第1線分と前記第2線分との長さの差を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された前記比の値または前記差が所定の閾値以上の場合に、前記複数の第2針落ち点のうち一部の第2針落ち点の位置を、各々、前記複数の第1針落ち点のうち前記縫い順が前記一部の第2針落ち点の次の1点である第1縫目端点と、前記複数の第2針落ち点のうち前記縫い順が前記第1縫目端点の次の1点である第2縫目端点とを結ぶ仮想線分上に変更する針落ち点変更手段と、前記針落ち点設定手段によって前記第1線分上に設定された前記複数の第1針落ち点、および、前記針落ち点設定手段によって前記第2線分上に設定され、前記針落ち点変更手段によって前記一部の位置が変更された前記複数の第2針落ち点の各々の位置と、前記縫い順とを特定するデータである刺繍データを作成する刺繍データ作成手段を備えている。
【0008】
第1の態様に係る刺繍データ作成装置によれば、閉領域の外形線に含まれる相対向する一対の線分のうち、短い方の第2線分上に設定された複数の第2針落ち点の一部の位置が変更される。したがって、第2線分上に第2針落ち点が密集することを回避できる。
【0009】
また、第2針落ち点の変更後の位置は、縫い順が次の第1針落ち点(第1縫目端点)と、縫い順がさらにその次の第2針落ち点(第2縫目端点)とを結ぶ仮想線分上に設定される。作成された刺繍データに基づいてミシンで刺繍縫製が行われると、第1縫目端点と第2縫目端点とを結ぶ仮想線分上には縫目が形成される。しかも、その縫目は変更された第2針落ち点に縫針が落ちるよりも後に縫製されるので、位置を変更された第2針落ち点は、縫目で覆われ隠されることになる。したがって、第2線分上からずらされた第2針落ち点が目立たないため、見栄えのよい刺繍結果を得ることができる。
【0010】
第1の態様に係る刺繍データ作成装置において、前記針落ち点変更手段によって前記位置が変更される前記一部の第2針落ち点は、数においては前記複数の第2針落ち点の総数の2分の1以下であり、且つ、前記針落ち点設定手段によって設定された前記第2線分上の位置が互いに隣り合わなければよい。このような条件で一部の第2針落ち点の位置を変更することにより、位置が変更された第2針落ち点を必ず後に形成される縫目で覆い隠すことができる。
【0011】
第1の態様に係る刺繍データ作成装置において、前記針落ち点変更手段によって前記位置が変更される前記一部の第2針落ち点の数は、前記算出手段によって算出された前記長さの比の値または前記長さの差に応じて、前記長さの比の値または前記長さの差が大きいほど多くされてもよい。このように、第1線分と第2線分との比の値または差が大きいほど第2線分上から位置が変更される第2針落ち点の数を多くすることで、第1線分上の第1針落ち点の密集度合と第2線分上の第2針落ち点の密集度合との相違を適切に緩和することができる。
【0012】
第1の態様に係る刺繍データ作成装置において、前記針落ち点変更手段は、前記一部の第2針落ち点の各々の前記位置を、前記糸密度データ取得手段によって取得された前記密度に応じて、前記密度が高いほど前記仮想線分上の前記第1縫目端点により近い位置に変更してもよい。この場合、閉領域を埋めるべき縫目の糸密度が高いほど、第2線分上から位置が変更される第2針落ち点の位置は、仮想線分上の第1縫目端点に近い位置、すなわち、第1線分寄りの縫目同士の間隔がより広い位置に変更される。よって、糸密度に応じて、第2線分上からずらされた後の第2針落ち点が密集することを回避することができる。
【0013】
本発明の第2の態様に係る刺繍データ作成装置は、刺繍縫製が可能なミシンにより、閉領域を規定する外形線に含まれる相対向する一対の線分を交互に縫目で結ぶことで前記閉領域を埋めるように刺繍縫製を行うための刺繍データを作成する刺繍データ作成装置であって、前記閉領域の前記外形線を示すデータである外形線データを取得する外形線データ取得手段と、前記閉領域を埋めるべき前記縫目の密度を示すデータである糸密度データを取得する糸密度データ取得手段と、前記外形線データ取得手段によって取得された前記外形線データと、前記糸密度データ取得手段によって取得された前記糸密度データに基づき、前記一対の線分のうち長い方の線分である第1線分上に複数の第1針落ち点を設定し、短い方の線分である第2線分上に複数の第2針落ち点を設定するとともに、前記複数の第1針落ち点と前記複数の第2針落ち点を交互に前記縫目で結ぶための縫い順を設定する針落ち点設定手段と、前記第1線分と前記第2線分の長さの比の値、または前記第1線分と前記第2線分との長さの差を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された前記比の値または前記差が所定の閾値以上の場合に、前記複数の第2針落ち点のうち一部の第2針落ち点の位置を、各々、前記複数の第1針落ち点のうち前記縫い順が前記一部の第2針落ち点の次の1点である第1縫目端点と、前記複数の第2針落ち点のうち前記縫い順が前記第1縫目端点の次の1点である第2縫目端点とを結ぶことで形成される縫目によって覆われる位置に変更する針落ち点変更手段と、前記針落ち点設定手段によって前記第1線分上に設定された前記複数の第1針落ち点、および、前記針落ち点設定手段によって前記第2線分上に設定された後、前記針落ち点変更手段によって前記一部の位置が変更された前記複数の第2針落ち点の各々の位置と、前記縫い順とを特定するデータである刺繍データを作成する刺繍データ作成手段を備えている。
【0014】
第2の態様に係る刺繍データ作成装置によれば、閉領域の外形線に含まれる相対向する一対の線分のうち、短い方の第2線分上に設定された複数の第2針落ち点の一部の位置が変更される。したがって、第2線分上に第2針落ち点が密集することを回避できる。また、第2針落ち点の変更後の位置は、縫い順が次の第1針落ち点(第1縫目端点)と、縫い順がさらにその次の第2針落ち点(第2縫目端点)とを結ぶことで形成される縫目によって覆われる位置に設定される。よって、作成された刺繍データに基づいてミシンで刺繍縫製が行われると、位置を変更された第2針落ち点は、縫目で覆われ隠されることになる。その結果、第2線分上からずらされた第2針落ち点が目立たないため、見栄えのよい刺繍結果を得ることができる。
【0015】
本発明の第3の態様に係る刺繍データ作成プログラムは、前記第1の態様または第2の態様に係る刺繍データ作成装置の各種処理手段として、刺繍データ作成装置のコンピュータを機能させる。したがって、刺繍データ作成プログラムが第1または第2の態様に係る刺繍データ作成装置において実行されることにより、第1または第2の態様に係る刺繍データ作成装置と同様の効果を奏することができる。
【0016】
本発明の第4の態様に係るコンピュータ読取り可能な媒体は、前記第3の態様に係る刺繍データ作成プログラムを記憶している。したがって、媒体に記憶された刺繍データ作成プログラムが第1または第2の態様に係る刺繍データ作成装置において実行されることにより、第1または第2の態様に係る刺繍データ作成装置と同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】刺繍データ作成装置1の外観図である。
【図2】刺繍データ作成装置1の電気的構成を示すブロック図である。
【図3】変更頻度テーブル157の説明図である。
【図4】補正係数テーブル158の説明図である。
【図5】ミシン3の外観図である。
【図6】刺繍データ作成処理のメインフローチャートである。
【図7】刺繍データ作成処理で行われる針落ち点変更処理のフローチャートである。
【図8】最初に第1線分ACおよび第2線分BD上に設定された第1針落ち点Pnおよび第2針落ち点Qnの説明図である。
【図9】針落ち点変更処理後の第1針落ち点Pnおよび第2針落ち点Qnの説明図である。
【図10】刺繍データ作成処理で作成された刺繍データに基づく刺繍結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、これらの図面は、本発明が採用しうる技術的特徴を説明するために用いられるものであり、記載されている装置の構成、各種処理のフローチャートなどは、単なる説明例である。
【0019】
まず、刺繍データ作成装置1の構成について、図1および図2を参照して説明する。刺繍データ作成装置1は、後述のミシン3によって刺繍模様を縫製するのに使用される刺繍データを作成する装置である。本実施形態の刺繍データ作成装置1は、1以上のブロックで構成される刺繍模様の各ブロックを埋めるように刺繍縫製を行うための刺繍データを作成することができる。図1に示すように、刺繍データ作成装置1は、例えば、所謂パーソナルコンピュータ等の汎用型の装置である。図1に例示されている刺繍データ作成装置1は、装置本体10と、装置本体10に接続されたキーボード21、マウス22、ディスプレイ24およびイメージスキャナ装置25を備えている。
【0020】
図2を参照して、刺繍データ作成装置1の電気的構成について説明する。図2に示すように、刺繍データ作成装置1は、刺繍データ作成装置1の制御を司るコントローラであるCPU11を備えている。CPU11には、各種のデータを一時的に記憶するRAM12と、BIOS等を記憶したROM13と、データの受け渡しの仲介を行う入出力(I/O)インタフェイス14とが接続されている。I/Oインタフェイス14には、ハードディスク装置(HDD)15、入力機器であるマウス22、ビデオコントローラ16、キーコントローラ17、CD−ROMドライブ18、メモリカードコネクタ23、およびイメージスキャナ装置25が接続されている。また、図2には図示されていないが、刺繍データ作成装置1は、外部機器やネットワークとの接続のための外部インタフェイスを備えていてもよい。
【0021】
HDD15は、外形線データ記憶エリア151、作成データ記憶エリア152、テーブル記憶エリア153、プログラム記憶エリア154を含む複数の記憶エリアを有する。外形線データ記憶エリア151には、予め用意された、刺繍模様の外形を表す外形線データが記憶されている。刺繍模様は、四角形、三角形、扇形、円、円環等、様々な形状の閉領域であるブロックを基本的な単位として構成されている。刺繍模様は、いずれかの形状のブロック単体で構成されるものもあるが、アルファベット、文字、記号、その他の一般的図柄のように、複数のブロックで構成されるものもある。刺繍模様が複数のブロックから構成される場合は、その刺繍模様の外形線データは、複数のブロックの外形線データを含む。
【0022】
外形線データは、ブロックが四角形や三角形の場合には、その外形線を構成する複数の線分の各々の始点および終点の座標のデータ、線素が直線であることを示すデータ、並びに刺繍進行方向のデータを含む。ブロックが台形等の四角形であれば、4個の頂点にA〜Dの符号が付され、符号によって刺繍進行方向が指定される。ブロックを縫目で埋める刺繍縫製は、図8に示すように、相対向する一対の線分ACと線分BDに等ピッチで交互に縫針を落とし、矢印で示す刺繍進行方向に対して交差するジグザグ状の縫目を形成することによって行われる。縫目の始点は頂点AまたはB、その終点は、始点の対角にある頂点DまたはCに設定される。
【0023】
ブロックが三角形の場合は、相対向する一対の線分は存在しないが、1つの線分に対向する1つの頂点に2つの符号が付され、それが1つの線分とみなされる。これにより、四角形において相対向する一対の線分の一方が極端に短くなった場合と同様に取り扱われる。
【0024】
さらに、ブロックが扇形の場合にも、同様にして頂点にA〜Dの符号が付され、刺繍進行方向が指定される。なお、扇形の場合は、外形線データには、一対の線分が円弧であることを示すデータも含まれる。なお、扇形には、4本の線分で外形が規定される形状だけでなく、三角形の1辺が円弧になった形状(3本の線分外形が規定される形状)も含まれる。ブロックが円形の場合には、外形線データは、外周上の3点の座標と円であることを示すデータを含み、円環の場合には、外周上の3点と内周上の1点と円環であることを示すデータを含む。
【0025】
このように、外形線データ記憶エリア151には、様々な形状のブロックの外形線データが記憶されている。なお、刺繍模様を複数のブロックに分割する方法は公知であり、例えば、特許第3063100号に詳細に開示された方法がある。この方法で作成された複数のブロックデータが、刺繍模様の外形線データとして用いられてもよい。
【0026】
作成データ記憶エリア152には、CPU11が実行する刺繍データ作成プログラムによって作成された刺繍データが記憶される。刺繍データは、ミシン3で刺繍を行う際に使用されるデータであり、少なくとも、縫目を示す情報(針落ち点の座標および縫い順)が含まれている。本実施形態では、1以上のブロック(三角形、四角形、扇形等の閉領域)で構成される刺繍模様の各ブロックを縫目で埋めるように刺繍縫製を行うための刺繍データが作成され、作成データ記憶エリア152に記憶される。刺繍データ作成方法については後で詳述する。
【0027】
テーブル記憶エリア153には、後述する刺繍データ作成処理等で参照される各種テーブル(詳細は後述)が記憶されている。プログラム記憶エリア154には、CPU11によって実行される刺繍データ作成プログラムを含む複数のプログラムが記憶されている。なお、刺繍データ作成装置1がHDD15を備えていない場合は、ROM13に刺繍データ作成プログラムが記憶される。また、HDD15は、他に、刺繍データ作成処理等で参照される各種設定値が記憶された記憶エリア等を含む。
【0028】
ビデオコントローラ16には、情報を表示する表示機器であるディスプレイ24が接続されている。キーコントローラ17には、入力機器であるキーボード21が接続されている。CD−ROMドライブ18には、CD−ROM114を挿入することができる。例えば、刺繍データ作成プログラムのセットアップ時には、刺繍データ作成プログラムを記憶するCD−ROM114がCD−ROMドライブ18に挿入される。そして、刺繍データ作成プログラムが読み込まれ、HDD15のプログラム記憶エリア154に記憶される。メモリカードコネクタ23には、メモリカード55を接続して、情報の読み取りや書き込みを行うことができる。
【0029】
図3および図4を参照して、HDD15のテーブル記憶エリア153に記憶される各種テーブルの例について説明する。図3に示す変更頻度テーブル157は、針落ち点の初期設定位置を変更する頻度が設定されたテーブルである。ブロックを埋めるように刺繍縫製するための刺繍データは、通常、ブロックの外形を規定する外形線に含まれる相対向する一対の線分を特定し、これらの線分上に針落ち点を配置して、各々の針落ち点について、後述するミシン3に固有のX・Y座標系における座標と、その縫い順を定めることで作成される。本実施形態では、一対の線分のうち、長い方の線分(以下、第1線分という)上の針落ち点は、最初に配置された位置から変更されないが、短い方の線分(以下、第2線分という)上の針落ち点の一部は、最初に配置された位置から変更される場合がある。
【0030】
そこで、図3に示すように、変更頻度テーブル157には、第1線分と第2線分の長さの比の値に応じて、変更頻度mが設定されている。変更頻度mの数値は、何回に一回、第2線分上の針落ち点の位置を変更するかを示す。よって、小さい値ほど、変更頻度が高いことを意味する。図3の例では、第1線分と第2線分の長さの比の値が1.5以上2.5未満の場合は、変更頻度が「3」であるから、第2線分上の針落ち点のうち3つに1つずつ位置が変更されることを示し、2.5以上の場合は、2つに1つずつ位置が変更されることを示している。つまり、第2線分上で互いに隣り合う第2針落ち点の位置が両方とも変更されることはなく、位置が変更されうる第2針落ち点の数は、その総数の2分の1以下である。また、第1線分と第2線分の長さの比の値が大きいほど、第2線分上の針落ち点の位置が多く変更されることになる。
【0031】
なお、第1線分と第2線分の長さの比の値が1.5未満の場合が設定されていないのは、本実施形態では、1.5が第2線分上の針落ち点の位置を変更するか否かを決定する閾値とされており、1.5未満の場合は、第2線分上の針落ち点の位置は変更されないからである。
【0032】
図4に示す補正係数テーブル158は、刺繍縫製される刺繍模様に対して設定された糸密度に応じて、針落ち点の位置を変更するための補正係数Xを特定するのに使用されるテーブルである。本実施形態では、第1線分と第2線分の長さの比の値が閾値(1.5)以上の場合、第2線分上の針落ち点の一部の位置は、各々、縫い順が、変更対象の針落ち点の次およびさらにその次の2つの針落ち点を結ぶ仮想線分上の一点に変更される。補正係数Xは、その仮想線分上の一点を決定するために用いられる係数である。より具体的には、変更対象の針落ち点の次の針落ち点から、仮想線分の長さに補正係数Xを乗じて得られた距離だけ離れた仮想線上の一点が、変更後の針落ち点として決定される。
【0033】
図4に示すように、本実施形態では、「3.5本/mm未満」、「3.5本/mm以上4.5本/mm未満」、および「4.5本/mm以上」の3つの糸密度の範囲に対応して、それぞれ補正係数X「0.8」、「0.7」、および「0.6」が設定されている。つまり、本実施形態では、変更後の針落ち点の位置は、糸密度が高いほど、縫い順が変更対象の針落ち点の次の針落ち点により近い位置、すなわち、第1線分のより近い位置となる。
【0034】
図5を参照して、刺繍データ作成装置1で作成された刺繍データに基づいて刺繍模様を縫製することが可能なミシン3について、簡単に説明する。
【0035】
図5に示すように、ミシン3は、ベッド部30、脚柱部36、アーム部38、および頭部39を有する。ベッド部30は、縫製者に対して左右方向に長い、ミシン3の土台部である。脚柱部36は、ベッド部30の右端部から上方へ延びる。アーム部38は、ベッド部30に対向して脚柱部36の上端から左方へ延びる。頭部39は、アーム部38の左端に連結する部位である。ベッド部30の上方には、刺繍が施される加工布を保持する刺繍枠41を配置可能である。
【0036】
刺繍縫製時には、刺繍枠41は、ベッド部30上に配置されるY方向駆動部42、および本体ケース43内に収容されたX方向駆動機構(図示せず)によって、ミシン3に固有のX・Y座標系で示される針落ち点に移動される。刺繍枠41が移動されるのと合わせて、縫針44が装着された針棒35及び釜機構(図示せず)が駆動されることにより、加工布上に刺繍模様が形成される。なお、Y方向駆動部42、X方向駆動機構、針棒35等は、刺繍データに基づき、ミシン3に内蔵されたマイクロコンピュータ等を含む制御装置(図示せず)によって制御される。
【0037】
ミシン3の脚柱部36の側面には、メモリカード55を着脱可能なメモリカードスロット37が搭載されている。例えば、刺繍データ作成装置1で作成された刺繍データは、メモリカードコネクタ23を介してメモリカード55に記憶される。その後、メモリカード55がミシン3のメモリカードスロット37に装着され、記憶された刺繍データが読み出されて、ミシン3に刺繍データが記憶される。ミシン3の制御装置(図示せず)は、メモリカード55から読み出された刺繍データに基づいて、上記の要素による刺繍模様の縫製動作を制御する。このようにして、刺繍データ作成装置1で作成された刺繍データに基づき、ミシン3を用いて刺繍模様を縫製することができる。
【0038】
以下に、図6〜図10を参照して、本実施形態の刺繍データ作成装置1で行われる刺繍データ作成処理について説明する。刺繍データ作成処理は、HDD15のプログラム記憶エリア154に記憶された刺繍データ作成プログラムが起動されることで開始され、CPU11がこのプログラムを実行することにより行われる。
【0039】
図6に示すように、まず、刺繍模様を構成するブロックの外形線データが取得され、RAM12の所定の記憶エリアに記憶される(S1)。ブロックの外形線データは、いかなる方法で取得されてもよい。例えば、前述した外形線データ記憶エリア151(図2参照)に外形線データが記憶された刺繍模様の形状をディスプレイ24に表示させ、ユーザによって選択された刺繍模様に対応する外形線データが外形線データ記憶エリア151から読み出されてもよい。刺繍模様が複数のブロックで構成される場合には、複数の外形線データが読み出され、以下に説明する処理は、その各々に対して行われる。
【0040】
ブロックの外形線データは、他には、例えば、イメージスキャナ装置25によって読み取られ、RAM12に記憶された画像に対して公知の閉領域抽出処理を施すことにより、取得されてもよい。公知の閉領域抽出処理として、例えば、特開平11−123289号公報に開示されている手法を採用することができる。
【0041】
また、ディスプレイ24に表示された特定の指示画面において、ユーザに、任意の複数の位置でマウス22をクリックするよう促し、クリック時のポインタの位置を順に繋いだ線分の集合を外形線データとして取得されてもよい。また、マウス22のポインタの移動軌跡を外形線として、外形線データが取得されてもよい。この場合、ポインタの移動軌跡が閉じていない場合には、移動軌跡の始点と終点とを結んで、閉領域であるブロックとすればよい。さらに、任意の形状の閉領域の外形線データが、メモリカードコネクタ23または外部インタフェイス(図示せず)を介して、メモリカード55または外部から刺繍データ作成装置1に入力され、使用されてもよい。
【0042】
なお、イメージスキャナ装置25で読み取られた画像やユーザの指定により特定された閉領域等が使用される場合、その形状は、四角形、三角形、扇形、円、円環等の単純な形状とは限らない。そのような場合には、例えば、前述の特許第3063100号に詳細に開示された方法により、特定された閉領域が複数のブロックに分割され、各ブロックの外形線データ毎に、以下に説明する処理が行われればよい。
【0043】
外形線データが取得された後、糸密度データが取得され、RAM12に記憶される(S2)。糸密度とは、ブロックを埋めるべき縫目の密度である。本実施形態では、糸密度は、線上に針落ち点が設定される一対の線分のそれぞれの始点同士および終点同士を結んだ2本の線分の2つの中点を結ぶ線分(以下、ブロック中心線という)を、1mmあたり何本の縫目が横切るかを定義するものである。本実施形態では、糸密度のデフォルト値は、1mmあたり4本(4本/mm)と定められ、HDD15に設定値として記憶されている。ステップS2ではこの値が読み出され、ディスプレイ24に表示される設定画面に表示される。ユーザは、キーボード21の入力操作によりデフォルト値を変更することができる。よって、ステップS2では、ユーザによって糸密度が変更されない場合はデフォルト値を示すデータが、変更された場合は変更後の糸密度を示すデータが、糸密度データとして取得される。
【0044】
ステップS1で取得されたブロックの外形線データが示す頂点の座標を基にして、線上に針落ち点が配置される一対の線分のうち、長い方の線分である第1線分と、短い方の線分である第2線分とが特定される(S3)。例えば、図8に示す台形の外形線データがステップS1で取得された場合、線分ACが第1線分、線分BDが第2線分として特定される。なお、線分ACおよびBDの長さが同一の場合には、いずれか一方が第1線分、他方が第2線分とされればよい。
【0045】
外形線データおよび糸密度データに基づき、ブロック中心線を横切る縫目の本数Nが算出される(S4)。図8に示す台形の場合、外形線データから、第1線分ACの始点Aと第2線分BDの始点Bとを結んだ線分ABの中点Eと、第1線分ACの終点Cと第2線分BDの終点Dとを結んだ線分CDの中点Fとを結ぶ線分EFが、ブロック中心線として特定される。ブロック中心線の長さが1mm、糸密度がデフォルト値の「4本/mm」であれば、縫目本数Nは4である。なお、本実施形態の縫目本数Nは、第1線分ACと第2線分BDとを往復する縫目を1として数えられるので、実際に形成される縫目の数は倍になる。
【0046】
縫目本数Nに基づいて、第1線分および第2線分上に、それぞれ針落ち点が設定され、その縫い順が決定される(S5)。より具体的には、線分ACおよび線分BDがそれぞれN分割され、それぞれの分割点に、針落ち点が設定される。なお、以下では、ステップS5で第1線分上に設定された針落ち点を第1針落ち点Pn(nは、1からN+1までの整数)、第2線分上に設定された針落ち点を第2針落ち点Qn(nは、1からN+1までの整数)という。設定された第1針落ち点Pnおよび第2針落ち点Qnの座標と縫い順を示すデータは、RAM12に記憶される。
【0047】
縫目本数Nが4の場合、図8に示す例のように、線分ACが4分割され、針落ち点P1〜P5が設定される。なお、第1針落ち点P1は第1線分ACの始点Aに、第1針落ち点P5は、終点Cに設定される。また、線分BDが4分割され、第2針落ち点Q1〜Q5が設定される。なお、第2針落ち点Q1は第2線分BDの始点Bに、第2針落ち点Q5は、終点Dに設定される。頂点Aにある第1針落ち点P1を始点として、刺繍進行方向(図中の矢印方向)に従って、第1針落ち点Pnと第2針落ち点Qnを交互に結ぶように、縫い順が設定される。図8の例では、P1、Q1、P2、Q2、P3、Q3、P4、Q4、P5、Q5の順で縫い順が設定される。
【0048】
ブロックの頂点の座標を基にして、第1線分と第2線分の長さの比の値が算出され、RAM12に記憶される(S6)。本実施形態では、第1線分と第2線分の長さの比に応じて、第2線分上に設定された第2針落ち点Qnの位置変更の要否や位置変更の頻度を定めるからである。第1線分と第2線分の長さの比の値が、閾値以上か否かが判断される(S7)。本実施形態では、前述したように、閾値は予め1.5と設定され、HDD15に記憶されている。あるいは、ユーザによって設定された閾値が使用されてもよい。
【0049】
比の値が閾値未満の場合には(S7:NO)、第1線分の長さと第2線分の長さはそれほど大きく相違しないので、第2針落ち点の位置は変更されない。よって、ステップS5で設定され、RAM12に記憶されている針落ち点の座標と縫い順のデータを基にして、ミシン3に刺繍縫製を行わせるための刺繍データが作成される(S21)。具体的には、記憶されていた針落ち点の座標がミシン3に固有の座標系の座標に変換され、変換後の座標データ、縫い順を示すデータ、さらには刺繍糸の色を示すデータを含む刺繍データが作成される。作成された刺繍データは、HDD15の作成データ記憶エリア152(図2参照)に記憶される。その後、図6に示す刺繍データ作成処理は終了する。
【0050】
比の値が閾値以上の場合(S7:YES)、第1線分の長さと第2線分の長さが大きく相違しており、ステップS5で設定された第1針落ち点Pnおよび第2針落ち点Qnをそのまま使用すると、第2針落ち点Qnが第2線分上に密集してしまい、刺繍模様の見栄えを損なうとともに、糸切れや針折れの原因となる可能性がある。よって、第2針落ち点Qnの一部の位置を変更する針落ち点変更処理が行われる(S10および図7)。
【0051】
図7に示すように、針落ち点変更処理では、まず、変更頻度mが特定される(S11)。具体的には、テーブル記憶エリア153に記憶された変更頻度テーブル157(図3参照)が参照され、RAM12に記憶されている第1線分と第2線分の長さの比の値に対応する変更頻度mが特定される。例えば、算出された長さの比の値が3である場合、変更頻度mは2である。つまり、2つに1つずつ第2針落ち点Qnが変更されることが特定される。
【0052】
続いて、補正係数Xが特定される(S12)。具体的には、テーブル記憶エリア153に記憶された補正係数テーブル158(図4参照)が参照され、RAM12に記憶されている糸密度データが示す糸密度に対応する補正係数Xが特定される。例えば、糸密度がデフォルト値の「4本/mm」である場合、補正係数Xは0.7である。つまり、変更対象の第2針落ち点は、縫い順が次の第1針落ち点(以下、第1縫目端点という)と、縫い順がさらに次の第2針落ち点(以下、第2縫目端点という)とを結ぶ仮想線分上で、第1縫目端点から仮想線分の長さに0.7を乗じた距離だけ離れた位置にある点に変更することが特定される。
【0053】
処理対象とする第2針落ち点Qnを特定するための変数nが初期値の1とされ、RAM12に記憶される(S13)。変数nを変更頻度mで割ると、剰余がゼロであるか否かが判断される(S14)。変更頻度mが2の場合、最初の処理(n=1)では、剰余が生じ、ゼロではないので(S14:NO)、変数nに1が加算され、2とされる(S18)。続いて、変数nの値は、縫目本数Nの値以下であるか否かが判断される(S19)。N以下であれば(S19:YES)、まだすべての第2針落ち点Pnの処理が完了していないので、処理はステップS14に戻る。
【0054】
変数nが2になると、nを変更頻度2で割った場合の剰余はゼロである(S14:YES)。このような場合、第1縫目端点と第2縫目端点とを結ぶ仮想線分Sが算出される(S15)。第1縫い目端点は、処理対象の第2針落ち点Qnの次の縫い順の第1針落ち点である。縫い順が第1線分の始点P1から始まる場合は、第1縫目端点はPn+1であり、縫い順が第2線分の始点Q1から始まる場合は、第1縫目端点はPnである。第2縫目端点は、縫い順が第1縫目端点の次の第2針落ち点、言い換えると、縫い順が処理対象の第2針落ち点Qnの2つ後の第2針落ち点であり、Qn+1で表される。続いて、算出された仮想線分Sと補正係数Xに基づき、仮想線分S上の変更点の座標が算出される(S16)。具体的には、仮想線分Sの長さに補正係数Xを乗じて得られる距離Lが算出され、仮想線分上で第1縫目端点から距離Lだけ離れた点が変更点とされて、その座標が算出される。
【0055】
図8の例において、変数nが2、つまり第2針落ち点Q2が処理対象とされている場合、縫い順が最初の針落ち点は第1線分の始点P1であるから、ステップS15では、仮想線分Sとして線分P3Q3が算出される。さらに、補正係数が0.7の場合、ステップS16では、線分P3Q3上で、P3から線分P3Q3の長さに0.7を乗じて得られた距離だけ離れた変更点の座標が算出されることになる。
【0056】
RAM12に記憶されている処理対象の第2針落ち点Qnの座標が、算出された変更点の座標に変更される(S17)。変数nに1が加算され(S18)、nがN以下であれば(S19:YES)、処理はステップS14に戻り、次の処理対象の第2針落ち点Pnの処理が行われる。そして、nがN以下の間は(S19:YES)、前述の処理が繰り返される。
【0057】
針落ち点変更処理が、図8の例に示す残りの第2針落ち点Q3〜Q5に対して行われると、n=3の場合、つまり、Q3については、変更頻度m(2)で割った剰余はゼロではないから(S14:NO)、その位置は変更されない。n=4の場合、つまり、Q4については、剰余がゼロとなるので(S14:YES)、Q4の位置は、線分P5Q5上でP5から距離L(P5Q5の長さ×0.7)だけ離れた位置に変更される(S15〜S17)。その後、nに1が加算されると5となり(S18)、縫目本数N(4)を超える(S19:NO)。この場合、Qn+1、つまりQ6は存在せず、仮想線分Sも存在しないので、Q5の位置を変更することはできない。よって、全ての第2針落ち点Qnの処理を完了したことになり、針落ち点変更処理は終了する。処理の結果、図9に示すように、第2針落ち点Q2およびQ4の位置は、各々、線分P3Q3および線分P5Q5上に変更されている。
【0058】
図6に示すように、針落ち点変更処理(S10、図7)の後、ミシン3に刺繍縫製を行わせるための刺繍データが作成される(S21)。具体的には、ステップS5で設定された後、ステップS10の針落ち点変更処理で一部の位置が変更された針落ち点の座標全てが、ミシン3に固有の座標系の座標に変換される。そして、変換後の座標データ、縫い順を示すデータ、さらには刺繍糸の色を示すデータを含む刺繍データが作成される。作成された刺繍データは、HDD15の作成データ記憶エリア152(図2参照)に記憶される。その後、図6に示す刺繍データ作成処理は終了する。
【0059】
以上に説明したように、本実施形態の刺繍データ作成装置1では、刺繍模様を構成するブロックの外形線を示す外形線データと、糸密度データが取得され、取得された外形線データと糸密度データに基づいて、外形線に含まれる一対の線分(第1線分および第2線分)上に、それぞれ、複数の第1針落ち点および第2針落ち点が設定されるとともに、その縫い順が設定される。そして、第1線分と第2線分の長さの比の値が所定の閾値(1.5)以上の場合には、第2針落ち点のうち一部の第2針落ち点の位置が、各々、第1縫目端点と第2縫目端点とを結ぶ仮想線分S上に変更される。変更後の位置を反映して、ミシン3でブロックを埋めるように刺繍縫製を行うための刺繍データが作成される。
【0060】
刺繍データ作成装置1によれば、第1線分と第2線分との長さが大きく異なるために、そのままでは第2線分上に第2針落ち点が密集してしまう場合に、第2線分上に設定された針落ち点の一部の位置が変更されるので、第2針落ち点が密集することを回避できる。また、第2針落ち点の変更後の位置は、縫い順が次の第1針落ち点(第1縫目端点)と、縫い順がさらにその次の第2針落ち点(第2縫目端点)とを結ぶ仮想線分S上に設定される。よって、例えば、図9に示すように第2針落ち点Q2およびQ4の位置が変更された後、作成された刺繍データに基づいてミシン3で縫製が行われると、図10に示すような刺繍結果が得られる。
【0061】
図10から明らかなように、針落ち点変更処理によって位置が変更された第2針落ち点Q2およびQ4は、それぞれ、その後にP3Q3間に形成された縫目およびP5Q5間に形成された縫目によって覆い隠される。仮に、第2針落ち点Q2およびQ4が、縫目で覆い隠せない位置に変更された場合、第1針落ち点P1〜P5が同一線上に整列するのに対し、変更後の第2針落ち点Q2およびQ4は、位置が変更されていない第2針落ち点Q1、Q3およびQ5と同じ線上には整列しないため、全体として美しく見えない可能性がある。しかし、本実施形態では、図10に示すように、第2針落ち点がQ2およびQ4が覆い隠されて目立たないため、見栄えのよい刺繍結果を得ることができる。
【0062】
本実施形態では、刺繍データ作成処理で位置が変更される一部の第2針落ち点は、数においては第2針落ち点の総数の2分の1以下であり、且つ、最初に第2線分上に設定された時に互いに隣り合わない。このような条件で一部の第2針落ち点の位置を変更することにより、位置が変更された第2針落ち点を必ず後に形成される縫目で覆い隠すことができる。さらに、変更頻度テーブル157によって、第1線分と第2線分の長さの比の値が大きいほど多くの第2針落ち点の位置が変更されるように設定されている。これにより、第1線分上の第1針落ち点の密集度合と第2線分上の第2針落ち点の密集度合との相違を適切に緩和することができる。
【0063】
さらに、本実施形態では、第2針落ち点の一部の位置が変更される場合、糸密度が高いほど、仮想線分S上の第1縫目端点により近い位置に変更されている。つまり、糸密度が高いほど、第1線分寄りの縫目同士の間隔がより広い位置に変更される。よって、糸密度に応じて、第2線分上からずらされた後の第2針落ち点が密集することを回避することができるので、糸切れや針折れの可能性を確実に低減することができる。
【0064】
本実施形態において、図6のステップS1の処理を行うCPU11が、本発明の「外形線データ取得手段」に相当する。ステップS2の処理を行うCPU11が、「糸密度データ取得手段」に相当する。ステップS5の処理を行うCPU11が、「針落ち点設定手段」に相当する。ステップS6の処理を行うCPU11が、「算出手段」に相当する。ステップS10および図7に示す針落ち点変更処理を行うCPU11が、「針落ち点変更手段」に相当する。ステップS21の処理を行うCPU11が、「刺繍データ作成手段」に相当する。
【0065】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、実施形態では、第2針落ち点の位置が変更される場合、その位置は、縫い順が次の第1針落ち点(第1縫目端点)と、縫い順がさらに次の第2針落ち点(第2縫目端点)とを結ぶ仮想線分S上の変更点に設定される。しかしながら、変更点は、必ずしも厳密に仮想線分S上にある必要はなく、仮想線分Sから僅かに外れていてもよい。なぜなら、刺繍縫製で使用される刺繍糸はある程度の太さを有するため、変更後の第2針落ち点が仮想線分Sから僅かに外れていたとしても、第1縫目端点と第2縫目端点との間に形成される縫目で覆い隠される限り、第2針落ち点の密集を回避しながら見栄えのよい刺繍結果が得られることに変わりないからである。言い換えれば、変更点は、第1縫目端点と第2縫目端点との間に形成される縫目で覆い隠される位置にあればよい。よって、仮想線分Sからのズレの許容量は、刺繍糸の太さに依存する。
【0066】
また、実施形態では、第2針落ち点の一部の位置を変更するか否かを、第1線分と第2線分の長さの比の値に基づいて決定する例について説明したが、長さの比の値ではなく、単に長さの差に基づいて決定してもよい。この場合、図6に示す刺繍データ作成処理のステップS7では、第1線分の長さと第2線分の長さの差が、所定の閾値以上か否かが判断され、閾値以上の場合に(S7:YES)、針落ち点変更処理(S10)が行われればよい。所定の閾値は、HDD15に予め記憶された固定値でもよいし、例えば、特定された第2線分の2分の1の長さを算出して決定した値でもよい。なお、実施形態で使用した長さの比の値の閾値(1.5)は単なる例示であり、他の値が採用されてもよいことは勿論である。
【0067】
また、実施形態では、図3に示す変更頻度テーブル157を用いて、長さの比の値に応じて第2針落ち点の位置を変更する頻度を決定する例を説明したが、第1線分と第2線分の長さの比の値、または長さの差に関わらず、変更頻度mは一定であってもよい。例えば、第2針落ち点の一部の位置を変更するか否かを決める閾値のみを設定しておき、第1線分と第2線分の長さの比の値、または長さの差が閾値以上の場合は、一律で、変数nが偶数の場合に位置を変更してもよい。この場合、図7の針落ち点変更処理のステップS14の処理を、変数nが偶数か否かの判断処理とすればよい。反対に、第1線分と第2線分の長さの比の値、または長さの差に応じて、変更頻度をより細かい範囲で異ならせてもよい。範囲の上限および下限は、実施形態の例に限らないことは勿論である。
【0068】
同様に、第2針落ち点を変更する場合の変更点の位置も、必ずしも糸密度に応じて変える必要はない。つまり、補正係数Xは一定としてもよい。例えば、糸密度に関わらず、常に、仮想線分S上で、第1縫目端点から仮想線分の長さに補正係数0.7を乗じた距離だけ離れた位置にある点を変更点としてもよい。また、糸密度に応じて、変更点の位置をより細かい範囲で異ならせてもよい。範囲の上限および下限は、実施形態の例に限らないことは勿論である。なお、前述したように、本実施形態では糸密度は、ブロック中心線を横切る縫目の数で定義されているので、変更点の位置は、ブロック中心線よりは第2線分寄りになることが望ましい。
【0069】
実施形態では、刺繍データ作成装置1として、パーソナルコンピュータを用いたが、ミシン3等の刺繍縫製が可能なミシンにおいて、図6に示す刺繍データ作成処理が行われてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 刺繍データ作成装置
3 ミシン
11 CPU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刺繍縫製が可能なミシンにより、閉領域を規定する外形線に含まれる相対向する一対の線分を交互に縫目で結ぶことで前記閉領域を埋めるように刺繍縫製を行うための刺繍データを作成する刺繍データ作成装置であって、
前記閉領域の前記外形線を示すデータである外形線データを取得する外形線データ取得手段と、
前記閉領域を埋めるべき前記縫目の密度を示すデータである糸密度データを取得する糸密度データ取得手段と、
前記外形線データ取得手段によって取得された前記外形線データと、前記糸密度データ取得手段によって取得された前記糸密度データに基づき、前記一対の線分のうち長い方の線分である第1線分上に複数の第1針落ち点を設定し、短い方の線分である第2線分上に複数の第2針落ち点を設定するとともに、前記複数の第1針落ち点と前記複数の第2針落ち点を交互に前記縫目で結ぶための縫い順を設定する針落ち点設定手段と、
前記第1線分と前記第2線分の長さの比の値、または前記第1線分と前記第2線分との長さの差を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された前記比の値または前記差が所定の閾値以上の場合に、前記複数の第2針落ち点のうち一部の第2針落ち点の位置を、各々、前記複数の第1針落ち点のうち前記縫い順が前記一部の第2針落ち点の次の1点である第1縫目端点と、前記複数の第2針落ち点のうち前記縫い順が前記第1縫目端点の次の1点である第2縫目端点とを結ぶ仮想線分上に変更する針落ち点変更手段と、
前記針落ち点設定手段によって前記第1線分上に設定された前記複数の第1針落ち点、および、前記針落ち点設定手段によって前記第2線分上に設定され、前記針落ち点変更手段によって前記一部の位置が変更された前記複数の第2針落ち点の各々の位置と、前記縫い順とを特定するデータである刺繍データを作成する刺繍データ作成手段を備えたことを特徴とする刺繍データ作成装置。
【請求項2】
前記針落ち点変更手段によって前記位置が変更される前記一部の第2針落ち点は、数においては前記複数の第2針落ち点の総数の2分の1以下であり、且つ、前記針落ち点設定手段によって設定された前記第2線分上の位置が互いに隣り合わないことを特徴とする請求項1に記載の刺繍データ作成装置。
【請求項3】
前記針落ち点変更手段によって前記位置が変更される前記一部の第2針落ち点の数は、前記算出手段によって算出された前記長さの比の値または前記長さの差に応じて、前記長さの比の値または前記長さの差が大きいほど多くなることを特徴とする請求項1または2に記載の刺繍データ作成装置。
【請求項4】
前記針落ち点変更手段は、前記一部の第2針落ち点の各々の前記位置を、前記糸密度データ取得手段によって取得された前記密度に応じて、前記密度が高いほど前記仮想線分上の前記第1縫目端点により近い位置に変更することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の刺繍データ作成装置。
【請求項5】
刺繍縫製が可能なミシンにより、閉領域を規定する外形線に含まれる相対向する一対の線分を交互に縫目で結ぶことで前記閉領域を埋めるように刺繍縫製を行うための刺繍データを作成する刺繍データ作成装置であって、
前記閉領域の前記外形線を示すデータである外形線データを取得する外形線データ取得手段と、
前記閉領域を埋めるべき前記縫目の密度を示すデータである糸密度データを取得する糸密度データ取得手段と、
前記外形線データ取得手段によって取得された前記外形線データと、前記糸密度データ取得手段によって取得された前記糸密度データに基づき、前記一対の線分のうち長い方の線分である第1線分上に複数の第1針落ち点を設定し、短い方の線分である第2線分上に複数の第2針落ち点を設定するとともに、前記複数の第1針落ち点と前記複数の第2針落ち点を交互に前記縫目で結ぶための縫い順を設定する針落ち点設定手段と、
前記第1線分と前記第2線分の長さの比の値、または前記第1線分と前記第2線分との長さの差を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された前記比の値または前記差が所定の閾値以上の場合に、前記複数の第2針落ち点のうち一部の第2針落ち点の位置を、各々、前記複数の第1針落ち点のうち前記縫い順が前記一部の第2針落ち点の次の1点である第1縫目端点と、前記複数の第2針落ち点のうち前記縫い順が前記第1縫目端点の次の1点である第2縫目端点とを結ぶことで形成される縫目によって覆われる位置に変更する針落ち点変更手段と、
前記針落ち点設定手段によって前記第1線分上に設定された前記複数の第1針落ち点、および、前記針落ち点設定手段によって前記第2線分上に設定された後、前記針落ち点変更手段によって前記一部の位置が変更された前記複数の第2針落ち点の各々の位置と、前記縫い順とを特定するデータである刺繍データを作成する刺繍データ作成手段を備えたことを特徴とする刺繍データ作成装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の刺繍データ作成装置の各種処理手段として、刺繍データ作成装置のコンピュータを機能させるための刺繍データ作成プログラム。
【請求項7】
請求項6に記載の刺繍データ作成プログラムを記憶したコンピュータ読取り可能な媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−100788(P2012−100788A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250377(P2010−250377)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】