説明

刺繍データ処理装置、ミシン、刺繍データ処理プログラム、および刺繍データ処理プログラムを記憶した記憶媒体

【課題】ユーザが所望する並び方で単位模様を配置して多様な刺繍データを作成することができる刺繍データ処理装置、ミシン、刺繍データ処理プログラム、および刺繍データ処理プログラムを記憶した記憶媒体を提供する。
【解決手段】ミシン1は、単位模様の配置位置を決定するための少なくとも3つの基点の位置を設定する。ミシン1は、互いに交差する2本の直線であり、それぞれが複数の基点の少なくとも2つを通過する直線である基準線を設定する(S3)。基準線が通過する基点間の距離に基づいて、単位模様を配置する基準となるマトリクス状の基準平面を設定する(S4)。基準平面から、単位模様の各々の配置位置を割り出す(S7,S8)。ミシン1は、配置位置に配置する単位模様を選択する。選択した単位模様を配置位置に配置し、刺繍データを作成する(S11)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザが所望する刺繍模様を縫製するための刺繍データ処理装置、ミシン、刺繍データ処理プログラム、および刺繍データ処理プログラムを記憶した記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ユーザからの入力に応じて単位模様の配置方法を決定し、刺繍模様の縫製を行うミシンが知られている。例えば、特許文献1に記載のミシンでは、円形、ハート型等の外郭線をユーザが2本設定する。ミシンは、全ての単位模様が2本の外郭線に囲まれた領域に収まるように、複数個の単位模様の配置方法を決定する。決定した配置方法に基づいて、加工布への縫製を行う。このミシンによると、ユーザは所望の外郭線の形状内に単位模様を縫製させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のミシンでは、ユーザは、単位模様が配置される領域の形状を設定できるのみであった。ユーザは、単位模様同士の距離、並び方等を適宜設定して所望の刺繍模様をミシンに縫製させることはできなかった。よって、ミシンに縫製させることができる刺繍模様が単調なものとなっていた。
【0005】
本発明は、ユーザが所望する並び方で単位模様を配置して多様な刺繍データを作成することができる刺繍データ処理装置、ミシン、刺繍データ処理プログラム、および刺繍データ処理プログラムを記憶した記憶媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様に係る刺繍データ処理装置は、刺繍縫製可能なミシンを用いて、単位模様を規則的に複数並べて加工布に縫製するための刺繍データを作成する刺繍データ処理装置であって、縫製が実行される縫製領域内に、前記単位模様の配置位置を決定するための少なくとも3つの基点の位置を設定する基点設定手段と、互いに交差する2本の直線であり、それぞれが前記複数の基点のうち少なくとも2つの基点を通過する直線である基準線を設定する基準線設定手段と、前記基準線設定手段によって設定された前記基準線が通過する基点間の距離に基づいて、2本の前記基準線のそれぞれに平行な直線を規則的に複数設定することで、前記単位模様を配置する基準となるマトリクス状の基準平面を設定する平面設定手段と、前記平面設定手段によって設定された前記基準平面から、前記複数の単位模様の各々の前記配置位置を割り出す位置割り出し手段と、刺繍データを記憶する記憶手段に記憶された前記単位模様から、前記配置位置に配置する単位模様を選択する模様選択手段と、前記模様選択手段によって選択された単位模様を、前記位置割り出し手段によって割り出された配置位置に配置する配置手段とを備えている。
【0007】
第一の態様に係る刺繍データ処理装置は、設定された基点の位置に応じて、縫製される単位模様同士の距離、単位模様の並び方等が異なる様々な刺繍データを作成することができる。ユーザは、複数の単位模様を、所望する並び方で加工布に縫製することができる。
【0008】
前記平面設定手段は、1本の前記基準線が通過している複数の前記基点間の距離を基準として、前記基準線上に規則的に複数個の仮想基点を設定する仮想基点設定手段と、互いに交差する2本の前記基準線のうちの一方の前記基準線上の前記基点および前記仮想基点設定手段が設定した前記仮想基点の各々を通り、且つ他方の前記基準線に平行な仮想直線を複数設定することで、前記基準平面を設定する第一平面設定手段とを備えてもよい。この場合、ユーザは、基点の設定の仕方によって、単位模様同士の距離を自由に設定することができる。単位模様の並び方の規則性も自由に設定することができる。さらに、2本の基準線が交差する角度を自由に設定することもできる。よって、ユーザは、所望する様々な模様の縫製をミシンに実行させることができる。
【0009】
前記基点設定手段は、複数の前記基点の全てを、2本の前記基準線の少なくとも一方が通過する位置にのみ設定可能とする位置限定手段を備えてもよい。この場合、全ての基点が、少なくともいずれかの基準線上に必ず位置する。従って、刺繍データ処理装置は、4つ以上の基点が設定された場合でも、容易且つ確実に基準平面を設定することができる。
【0010】
前記刺繍データ処理装置は、前記基点設定手段によって設定された前記基点が、前記基準線設定手段によって設定されたいずれの前記基準線上にもない場合に、前記基点の位置を少なくとも一方の前記基準線上に補正する位置補正手段をさらに備えてもよい。この場合、刺繍データ処理装置は、基点が基準線上にない場合でも、少なくともいずれかの基準線上に基点の位置を補正することができる。よって、設定された基点を適切に利用して基準平面を作成することができる。
【0011】
前記刺繍データ処理装置は、前記基点設定手段によって設定された前記複数の基点のうちの3つの基点を頂点とする三角形を割り出す三角形割り出し手段と、前記三角形割り出し手段によって割り出された三角形から、前記三角形の3辺のうち1辺を平行四辺形の対角線とし、他の2辺のそれぞれを平行四辺形の対辺の一方とする3つの平行四辺形を割り出す平行四辺形割り出し手段と、前記平行四辺形割り出し手段によって割り出された3つの平行四辺形から1つを選択する形状選択手段とをさらに備えてもよい。前記基準線設定手段は、前記形状選択手段によって平行四辺形が選択された場合、前記三角形の3つの辺のそれぞれに重なる3つの直線のうち、選択された前記平行四辺形の対辺に重なる2つの直線を前記基準線に設定するとよい。前記平面設定手段は、前記形状選択手段によって選択された前記平行四辺形の1つの辺の長さを、前記1つの辺に交差する方向に延びる前記基準平面中の前記直線間の間隔として前記基準平面を設定する第二平面設定手段を備えるとよい。
【0012】
この場合、刺繍データ処理装置は、3つの平行四辺形から選択された1つの平行四辺形に基づいて基準平面を作成することができる。選択された平行四辺形が、基準平面上に複数形成されることとなる。従って、ユーザは、1つの単位模様が配置される平行四辺形の領域の形状を正確に把握して刺繍データを作成することができる。
【0013】
前記位置割り出し手段は、前記平面設定手段によって設定された前記基準平面中の前記直線の交点を、前記単位模様の中心位置として、前記複数の単位模様の各々の前記配置位置を割り出す第一位置割り出し手段を備えてもよい。この場合、設定された基点が単位模様の中心位置となり、単位模様が規則的に並ぶこととなる。従って、ユーザは、単位模様が配置される位置を容易に把握して刺繍データを作成することができる。
【0014】
前記位置割り出し手段は、前記平面設定手段によって設定された前記基準平面中の直線を、1つの前記単位模様が配置される領域の境界として、前記複数の単位模様の各々の前記配置位置を割り出す第二位置割り出し手段を備えてもよい。この場合、ユーザは、単位模様が配置される領域の境界を的確に把握しながら刺繍データを作成することができる。
【0015】
前記刺繍データ処理装置は、縫製を実行できる領域である縫製実行領域を前記縫製領域内に設定する領域設定手段と、前記位置割り出し手段によって割り出された配置位置に、前記模様選択手段によって選択された単位模様を配置した場合に、配置した前記単位模様が前記縫製実行領域内に収まるか否かを判断する判断手段とをさらに備えるのが望ましい。前記配置手段は、前記判断手段によって前記単位模様が前記縫製実行領域内に収まると判断された場合にのみ、前記配置位置に前記単位模様を配置するとよい。この場合、刺繍データ処理装置は、設定された縫製実行領域内に全ての単位模様が収まるように、単位模様を配置することができる。よって、ユーザは、縫製実行領域から刺繍がはみ出すことのない、縫製実行領域に適した刺繍データを、容易に作成することができる。
【0016】
前記基点設定手段は、画像を表示する表示手段に表示された前記加工布の前記縫製領域内に、ユーザによって操作される操作手段の操作に応じて前記基点の位置を設定する第一基点設定手段を備えてもよい。この場合、ユーザは、表示手段に表示された加工布を見ながら操作手段を操作することで、加工布上の適切な位置に、基点の位置を適宜設定することができる。
【0017】
前記基点設定手段は、画像を撮像する撮像手段によって撮像された前記加工布の画像データから、前記加工布に配置された点の位置を認識し、認識した前記点の位置を前記基点の位置に設定する第二基点設定手段を備えてもよい。この場合、ユーザは、基点の位置としたい加工布上の位置に点を配置して撮像手段に撮像させることで、加工布上の所望の複数箇所を容易に基点として設定することができる。
【0018】
本発明の第二の態様に係るミシンは、前記刺繍データ処理装置と、画像を撮像する撮像手段と、前記撮像手段によって撮像された前記加工布の前記縫製領域に、前記刺繍データに従って縫製を行う縫製手段とを備えている。前記ミシンは、縫製される単位模様同士の距離、単位模様の並び方等が異なる様々な刺繍データを作成することができる。さらに、撮像手段によって撮像された加工布の縫製領域の適切な位置に、作成した刺繍データに基づく縫製を実行することができる。
【0019】
本発明の第三の態様に係る刺繍データ処理プログラムは、1つの単位模様を、刺繍縫製可能なミシンを用いて規則的に複数並べて加工布に縫製するための刺繍データを作成する刺繍データ処理プログラムであって、コンピュータに、縫製が実行される縫製領域内に、前記単位模様の配置位置を決定するための少なくとも3つの基点の位置を設定する基点設定ステップと、互いに交差する2本の直線であり、それぞれが前記複数の基点のうち少なくとも2つの基点を通過する直線である基準線を設定する基準線設定ステップと、前記基準線設定ステップにおいて設定したそれぞれの前記基準線が通過する基点間の距離に基づいて、前記基準線に平行な直線を規則的に複数設定することで、前記単位模様を配置するマトリクス状の基準平面を設定する平面設定ステップと、前記平面設定ステップにおいて設定した前記基準平面から、前記複数の単位模様の各々の前記配置位置を割り出す位置割り出しステップと、刺繍データを記憶する記憶手段に記憶された前記単位模様から、前記配置位置に配置する単位模様を選択する模様選択ステップと、前記模様選択ステップにおいて選択した単位模様を、前記位置割り出しステップにおいて割り出した配置位置に配置する配置ステップとを実行させることを特徴とする。
【0020】
第三の態様に係る刺繍データ処理プログラムをコンピュータに実行させることにより、設定された基点の位置に応じて、縫製される単位模様同士の距離、単位模様の並び方等が異なる様々な刺繍データを作成することができる。ユーザは、複数の単位模様を、所望する並び方で加工布に縫製することができる。
【0021】
本発明の第四の態様に係る記憶媒体は、前記刺繍データ処理プログラムを記憶している。従って、第四の態様に係る記憶媒体に記憶された刺繍データ処理プログラムをコンピュータに実行させることにより、ユーザは、複数の単位模様を、所望する並び方で加工布に縫製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ミシン1の全体斜視図である。
【図2】ミシン1の電気的構成を示すブロック図である。
【図3】ミシン1が行う第一作成処理のフローチャートである。
【図4】第一作成処理中に実行される第一基準線設定処理のフローチャートである。
【図5】第一基準線設定処理によって設定される基点および基準線31,32の一例を示す図である。
【図6】第一作成処理中に実行される基準平面設定処理のフローチャートである。
【図7】基準平面設定処理によって設定される基準平面の一例を示す図である。
【図8】単位模様が縫製される領域の候補の一例を示す図である。
【図9】第一作成処理中に実行される単位模様配置処理のフローチャートである。
【図10】直線の交点が単位模様の中心の配置位置に設定された場合の刺繍模様の一例を示す図である。
【図11】直線が単位模様の境界に設定された場合の刺繍模様の一例を示す図である。
【図12】第一作成処理中に実行される第二基準線設定処理のフローチャートである。
【図13】第二基準線設定処理によって設定される基点および基準線51,52の一例を示す図である。
【図14】ミシン1が行う第二作成処理のフローチャートである。
【図15】第二作成処理中に実行される第三基準線設定処理のフローチャートである。
【図16】3つの平行四辺形54〜56を表示した液晶ディスプレイ10の画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る刺繍データ処理装置の一実施の形態であるミシン1について、図面を参照して説明する。なお、参照する図面は、本発明が採用し得る技術的特徴を説明するために用いるものである。図面に記載している装置の構成、各種処理のフローチャート等は、それのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例である。
【0024】
図1を参照して、ミシン1の物理的構成について説明する。図1の紙面右手前側を、ミシン1の前端側(正面側)とする。図1の紙面左奥側を、ミシン1の後端側とする。図1の紙面右側を、ミシン1の右側とする。図1の紙面左側を、ミシン1の左側とする。ミシン1は、ミシンベッド2、脚柱部3、アーム部4、および頭部5を備える。ミシンベッド2は左右方向に延びており、ミシン1を支持する。脚柱部3は、ミシンベッド2の右端部から上方へ延びる。アーム部4は、ミシンベッド2と対向するように、脚柱部3の上端から左方へ延びる。頭部5は、アーム部4の左先端部に設けられている。頭部5は、針棒7および押え棒8等を備える。ミシン1は、ミシンモータ79(図2参照)、主軸(図示せず)、針棒上下動機構(図示せず)等を内部に備えている。
【0025】
ミシンベッド2には、刺繍枠12が装着されている。刺繍枠12は、加工布13を挟み込んで固定し、刺繍枠移動機構14によってX軸方向(ミシン1の左右方向)およびY軸方向(ミシン1の前後方向)に移動する。ミシン1は、刺繍枠移動機構14によって加工布を移動しながら、針棒7等を駆動することで、刺繍模様の縫製を実行する。刺繍枠移動機構14、および針棒7等の動作は、刺繍データに基づいて、ミシン1のCPU61(図2参照)によって制御される。
【0026】
脚柱部3は、液晶ディスプレイ10を正面に備える。液晶ディスプレイ10の表面には、タッチパネル16が設けられている。液晶ディスプレイ10は、刺繍模様および入力キー等を表示する。液晶ディスプレイ10に表示された刺繍模様または入力キーの表示位置に対応したタッチパネル16の部分にユーザが触れることで、ユーザが所望する刺繍模様または動作指示がミシン1に入力される。また、後述するイメージセンサ50によって撮像された画像が、液晶ディスプレイ10に表示される。ユーザは、タッチペン(図示せず)等を用いてタッチパネル16を操作することで、後述する基点の位置の指定、刺繍模様の縫製実行領域の指定等を行うこともできる。脚柱部3の右側面には、メモリカード70(図2参照)を装着するカードスロット17(図2参照)が設けられている。
【0027】
アーム部4は、縫製に用いられる糸駒(図示せず)等を内部に備える。アーム部4および頭部5の正面に設けられている正面カバー19には、縫製開始・停止スイッチ21、返し縫いスイッチ22等の操作スイッチが設けられている。縫製開始・停止スイッチ21は、縫製の開始及び停止を指示するためのスイッチである。返し縫いスイッチ22は、布を通常とは逆方向である後方から前方へ送るためのスイッチである。また、正面カバー19には、縫製速度(主軸の回転速度)を調整する速度調整摘み23が設けられている。さらに、正面カバー19の内部における左側の下端部25には、イメージセンサ50(図2参照)が配設されている。
【0028】
イメージセンサ50は周知のCMOSイメージセンサであり、画像を撮像する。イメージセンサ50は下方へ向けて取り付けられており、針棒7に装着された縫針(図示せず)が挿通する針落ち点の近傍を撮像することができる。イメージセンサ50はCCDカメラであってもよいし、他の撮像素子であってもよい。
【0029】
図2を参照して、ミシン1の主な電気的構成について説明する。ミシン1は、CPU61、ROM62、RAM63、EEPROM64、カードスロット17、外部アクセスRAM68、入力インターフェイス65、出力インターフェイス66等を有し、これらはバス67によって相互に接続されている。
【0030】
CPU61は、制御プログラムに従って各種演算および処理を実行し、ミシン1の制御を司る。ROM62は、読み出し専用の記憶素子であり、制御プログラム等を記憶する。RAM63は、任意に読み書き可能な記憶素子である。RAM63は、イメージセンサ50によって撮像された画像のデータ、演算結果等の各種データを一時的に記憶する。EEPROM64は不揮発性のメモリであり、液晶ディスプレイ10に表示されるメッセージおよび操作キー等の画像データを含む種々のデータを記憶する。外部アクセスRAM68は、カードスロット17に接続されたメモリカード70から、単位模様の刺繍データ等の各種データを読み出す。本実施の形態では、外部アクセスRAM68に接続されるメモリカード70は、複数の単位模様に関する各種データを記憶する単位模様データ記憶エリア71を備えている。ミシン1は、ユーザからの指示に応じて単位模様を規則的に複数並べることで、多様な刺繍データを作成することができる。
【0031】
入力インターフェイス65には、縫製開始・停止スイッチ21、返し縫いスイッチ22、速度調整摘み23、タッチパネル16、イメージセンサ50等が接続されている。出力インターフェイス66には、駆動回路73〜77が電気的に接続されている。駆動回路73は、送り量調整用パルスモータ78を駆動する。送り量調整用パルスモータ78は、送り歯(図示せず)による布の送り量を調整するモータである。駆動回路74は、ミシンモータ79を駆動する。ミシンモータ79は主軸を回転させる。駆動回路75はX軸モータ80を駆動し、駆動回路76はY軸モータ81を駆動する。X軸モータ80は、刺繍枠12をX軸方向に移動し、Y軸モータ81は、刺繍枠12をY軸方向に移動する。駆動回路77は、液晶ディスプレイ10を駆動する。
【0032】
図3〜図16を参照して、本実施の形態に係るミシン1が行う処理について説明する。以下説明する処理は、CPU61が、ROM62に記憶されたプログラムに従って実行する。ミシン1は、ユーザが選択した単位模様を、ユーザからの指示に応じて規則的に並べることで、ユーザが所望する刺繍データを作成する。
【0033】
ミシン1は、刺繍データを作成する処理として、第一作成処理および第二作成処理の2つの処理を実行できる。第一作成処理は、互いに交差する2本の基準線と、基準線上にある複数の基点の位置とに基づいて刺繍データを作成する処理である。第二作成処理は、3つの基点から平行四辺形を割り出し、平行四辺形の形状に基づいて刺繍データを作成する処理である。ユーザは、第一作成処理および第二作成処理のいずれを実行させるかを、タッチパネル16等を操作してミシン1に指示する。
【0034】
ミシン1は、刺繍データを作成する基準となる基準線を第一作成処理において設定する場合、第一基準線設定処理および第二基準線設定処理を実行できる。第一基準線設定処理では、ユーザは、タッチパネル16を操作することで、ミシン1に基準線を設定させることができる。第二基準線設定処理では、ユーザは、加工布13上に点を配置してイメージセンサ50に撮像させることで、基準線を設定させることができる。ユーザは、第一基準線設定処理および第二基準線設定処理のいずれを実行させるのかをミシン1に指示する。なお、基準線は、刺繍データの作成の基準とするために仮想的に用いられるものであり、加工布13上に実際に基準線が付与されるわけではない。
【0035】
以下、第一作成処理について説明する。ユーザが第一作成処理の実行をミシン1に指示すると、CPU61は、図3に示す第一作成処理を開始する。第一作成処理では、まず、イメージセンサ50によって加工布13が撮像される(S1)。撮像された加工布13の画像を含む基準線設定画面が、液晶ディスプレイ10に表示される(S2)。次いで、基準線設定処理が行われる(S3)。以下、第一基準線設定処理の実行指示が行われている場合について説明する。
【0036】
図4に示すように、第一基準線設定処理が開始されると、点[1]の位置の指定、および点[2]の位置の指定が受け付けられる(S21、S22)。ここで、点[1]および点[2]は、基準線を設定するための基点である。ユーザは、液晶ディスプレイ10を見ながらタッチパネル16を操作し、加工布13の撮像画像上の所望の位置に基点を指定する。2つの基点の位置が指定されると、点[1]および点[2]を通過する仮想的な直線である基準線が設定され、液晶ディスプレイ10に表示される(S23)。
【0037】
次いで、基点の番号を示すカウンタiが「1」とされる(S24)。点[i]と点[i+1]との間に基点を設定する操作が行われたか否かが判断される(S25)。ユーザが基点を追加設定する操作を行った場合には(S25:YES)、基準線上の点[i]と点[i+1]との間に限定して、点[i+2]の位置の指定が受け付けられる(S26)。カウンタiに「1」が加算されて(S27)、処理はS25の判断へ戻る。基点の設定を完了する操作がユーザによって行われた場合には(S25:NO)、互いに交差する2本の基準線が設定されたか否かが判断される(S28)。設定されていなければ(S25:NO)、処理はS21へ戻り、次の基準線を設定する処理が行われる。
【0038】
図5に、第一基準線設定処理によって設定される基点および基準線31,32の一例を示す。ユーザは、必要となる2本の基準線のうちの一方である第一基準線31を設定するために、点[1]を指定し(S21)、次いで点[2]を指定する(S22)。点[1]および点[2]を通る第一基準線31が設定される(S23)。ユーザが基点を追加設定する操作を行うと(S25:YES)、CPU61は、第一基準線31上に限り、点[3]の指定を受け付ける(S26)。次いで、第二基準線32についても同様の処理が行われる(S28:NO、S21〜27)。図5に示す例では、ユーザは、第一基準線31上の点[1]と第二基準線32上の点[1]とを、2本の基準線に共通の基点としている。しかし、2本の基準線上の基点を別々に指定してもよいことは言うまでもない。
【0039】
交差する2本の基準線の設定が完了すると(図4、S28:YES)、処理は第一作成処理(図3参照)へ戻り、基準平面設定処理が行われる(S4)。
【0040】
図6に示すように、基準平面設定処理が開始されると、設定された2本の基準線のうちの一方が選択される(S31)。選択された基準線上に設定されている2以上の基点(通過基点)が、一端側の基点から他端側の基点までを1単位として基準線上繰り返し規則的にコピーされる(S32)。図7に示すように、本実施の形態では、点[1]から点[2]までを1単位とし、隣接する2つの単位中の一方の点[1]と他方の点[2]とが重なるように、基準線上に規則的に基点がコピーされる。コピーされた基点を仮想基点とする。次いで、通過基点および仮想基点のそれぞれを通り、且つ他方の基準線に平行な直線が設定される(S33)。交差する2方向の両方についての直線の設定が完了したか否か判断される(S34)。完了していなければ(S34:NO)、他方の基準線が選択されて直線が設定される(S31〜S33)。その結果、図7に示すように、規則的に並んだ複数の平行四辺形からなるマトリクス状の基準平面が設定される。2方向の直線の設定が完了すると(S34:YES)、処理は第一作成処理へ戻る。
【0041】
図3の説明に戻る。基準平面設定処理(S4)が終了すると、単位模様の配置位置の指定が受け付けられる(S5)。本実施の形態では、基準平面上の直線の交点を単位模様の中心の配置位置とするか、直線を単位模様の境界とするかを、ユーザが選択できる。ユーザがタッチパネル16を操作し、交点を単位模様の中心の配置位置とする指定を行った場合(S6:YES)、その旨が設定され、交点が単位模様の中心の配置位置として割り出される(S7)。一方、直線を単位模様の境界とする設定をユーザが行った場合には(S6:NO)、直線に囲まれた平行四辺形の領域の中心点を単位模様の中心の配置位置とする設定が行なわれ、平行四辺形の中心点が配置位置として割り出される(S8)。
【0042】
次いで、2本の基準線31,32のそれぞれに平行な対辺を有し、各基準線上の基点間の最短距離を対辺の長さとする平行四辺形の領域が算出される(S9)。図7に示す例では、第一基準線31上の基点間の最短距離minAと、第二基準線32上の基点間の最短距離minBとを対辺の長さとする平行四辺形の領域が算出される。
【0043】
次いで、算出された平行四辺形の領域内に収まる長方形の領域が割り出される。割り出された長方形の領域の1つが、単位模様が縫製される領域に設定される(S10)。つまり、長方形の領域の大きさが、縫製される各単位模様の大きさとされる。本実施の形態では、図8に示すように、平行四辺形の領域内に収まる複数の長方形34〜36が割り出され、縫製領域の候補として液晶ディスプレイ10に表示される。長方形34は、平行四辺形に内接する最大の長方形である。長方形35は、長さがminAである辺に2辺が重複する最大の長方形である。長方形36は、長さがminBである辺に2辺が重複する最大の長方形である。ユーザは、液晶ディスプレイ10に表示された矢印を見ながらタッチパネル16を操作し、所望する長方形を選択する。さらに、ユーザは、いずれの方向を単位模様の上方向とするかを選択する。CPU61は、ユーザによって選択された長方形を、単位模様が縫製される領域に設定する。CPU61は、ユーザが選択した方向を、単位模様の上方向に設定する。図3の説明に戻る。単位模様の大きさの設定(S10)が終了すると、単位模様配置処理が行われる(S11)。
【0044】
図9に示すように、単位模様配置処理が開始されると、ユーザによる単位模様の選択を受け付ける処理が行われる(S41)。この処理では、メモリカード70内の単位模様データ記憶エリア71(図2参照)に記憶されている単位模様の画像が、液晶ディスプレイ10に表示される。ユーザは、タッチパネル16を操作し、表示された単位模様のうちの1つを選択する。CPU61は、選択された単位模様を、刺繍模様を構成する単位模様に設定する。次いで、ユーザによる縫製実行領域の指定を受け付ける処理が行われる(S42)。この処理では、加工布13の撮像画像が液晶ディスプレイに表示される。ユーザは、タッチパネル16を操作することで、縫製を実行する最大の領域である縫製実行領域38(図10および図11参照)を加工布13上に指定する。CPU61は、指定された縫製実行領域38を液晶ディスプレイ10に表示する。
【0045】
次いで、S7またはS8において設定された配置位置のうち、縫製実行領域38内にある配置位置の1つが選択される(S43)。選択された配置位置に単位模様が配置される場合に、配置される単位模様が縫製実行領域38に収まるか否かが判断される(S44)。縫製実行領域38に収まらない場合、つまり、配置される単位模様が縫製実行領域38の境界に重複する場合には(S44:NO)、処理はそのまま次の判断(S46)へ移行する。単位模様が縫製実行領域38に収まる場合には(S44:YES)、選択された配置位置に単位模様が配置される(S45)。次いで、縫製実行領域38内の全ての配置位置についてS44,S45の処理が完了したか否かが判断される(S46)。完了していなければ(S46:NO)、処理はS43へ戻る。完了していれば(S46:YES)、処理は第一作成処理へ戻る。図3に示すように、単位模様配置処理(S11)が終了すると、撮像された加工布13上に設定された縫製実行領域38内に、作成された刺繍模様が縫製される(S12)。処理は終了する。
【0046】
図10は、直線の交点が単位模様の中心の配置位置に設定された場合の刺繍模様の一例を示す。この例では、3つの長方形34〜36(図8参照)の中から、単位模様が縫製される領域として長方形34が設定されている。この場合、長方形34の全体が縫製実行領域38に収まる場合にのみ、縫製実行領域38内の直線の交点に、長方形34の形状の単位模様が配置される。よって、ユーザは、所望する刺繍模様を縫製実行領域38内に適切に縫製させることができる。ユーザが設定する基点の位置が変更されると、直線の交点の位置が変更されるため、単位模様の中心の配置位置が変わる。よって、ユーザは、基点の位置を適宜設定することで、所望する刺繍模様をミシン1に作成させることができる。
【0047】
図11は、直線が単位模様の境界に設定された場合の刺繍模様の一例を示す。この場合、直線に囲まれた平行四辺形の中心点が、単位模様の中心の配置位置として割り出される。本実施の形態では、基準平面上の隣り合う2本の直線の中間を通る直線が新たに割り出され、割り出された直線の交点が配置位置とされる。しかし、平行四辺形の対角線の交点を配置位置として割り出してもよい。図10に示す場合と同様に、ユーザは、基点の位置を適宜設定することで、多様な刺繍模様をミシン1に作成させることができる。また、図10および図11に示すように、ユーザは、直線の交点を単位模様の配置位置に設定するか、直線を単位模様の境界に設定するかを選択することで、異なる刺繍模様をミシン1に作成させることができる。
【0048】
以上説明したように、本実施の形態のミシン1は、少なくとも3つの基点の位置を設定する。設定した基点の位置に基づいて、互いに交差する2本の基準線31,32を設定する。基準線31,32が通過する基点間の距離に基づいて、基準線31,32のそれぞれに平行な直線を規則的に複数設定することで、マトリクス状の基準平面を設定する。ミシン1は、設定した基準平面から、複数の単位模様の各々の配置位置を割り出す。割り出した配置位置に、選択された単位模様を配置することで、刺繍データを作成する。従って、ミシン1は、設定された基点の位置に応じて、縫製される単位模様同士の距離、単位模様の並び方等が異なる様々な刺繍データを作成することができる。ユーザは、複数の単位模様を、所望する並び方で加工布13に縫製することができる。
【0049】
詳細には、ユーザは、基点の設定の仕方によって、単位模様同士の距離を自由に設定することができる。単位模様の並び方の規則性も自由に設定することができる。さらに、基準線が交差する角度を自由に設定することもできる。よって、ユーザは、所望する様々な模様の縫製をミシン1に実行させることができる。
【0050】
ミシン1は、複数の基点の全てを、2本の基準線31,32の少なくとも一方が通過するように、タッチパネル16の操作に応じて基点の位置を設定する。従って、ミシン1は、4つ以上の基点が設定された場合でも、設定された基点に基づいて容易且つ確実に基準平面を設定し、刺繍データを作成することができる。
【0051】
ミシン1は、基準平面中の直線の交点を、単位模様の中心の配置位置として割り出すことができる。この場合、設定された基点が単位模様の中心位置となり、単位模様が規則的に並ぶこととなる。従って、ユーザは、単位模様が配置される位置を容易に把握して刺繍データを作成することができる。また、ミシン1は、基準平面中の直線を、単位模様が配置される領域の境界として、単位模様の配置位置を割り出すこともできる。この場合、ユーザは、単位模様が配置される領域の境界を的確に把握しながら刺繍データを作成することができる。
【0052】
ミシン1は、ユーザによって設定された縫製実行領域38内に全ての単位模様が収まるように、単位模様を配置することができる。よって、ユーザは、縫製実行領域38から刺繍がはみ出すことのない、縫製実行領域に適した刺繍データを作成することができる。また、ユーザは、第一基準線設定処理の実行をミシン1に指示した場合、液晶ディスプレイ10に表示された加工布13を見ながらタッチパネル16を操作することで、加工布13上の適切な位置に基点を適宜設定することができる。さらに、ミシン1は、イメージセンサ50によって撮像された加工布13の縫製領域の適切な位置に、作成した刺繍データに基づく縫製を実行することができる。ユーザは、刺繍データが作成された後に加工布13の位置を調整する等の作業を行う必要がない。
【0053】
次に、第二基準線設定処理の実行指示が行われている場合の処理について説明する。前述したように、第二基準線設定処理では、ユーザは、加工布13上に点を配置してイメージセンサ50に撮像させることで、基準線を設定させることができる。この場合、ユーザは、加工布13上の所望する位置に3つ以上の点をあらかじめ配置し、刺繍枠12を用いて加工布13をミシン1に固定しておく(図1参照)。ミシン1のCPU61は、第二基準線設定処理の実行指示が行われていれば、図3に示すように、加工布の撮像(S1)、および基準線設定画面の表示(S2)を行った後、第二基準線設定処理を行う(S3)。
【0054】
図12に示すように、第二基準線設定処理が開始されると、加工布13の撮像画像に対して周知の画像処理が行われる。その結果、加工布13に配置されている点(以下、「配置点」という。)の位置が認識され、撮像画像と配置点とが液晶ディスプレイ10に表示される(S51)。認識された配置点の位置は、基点の位置とされる。次いで、2本の基準線の指定が受け付けられる(S52)。ユーザは、3つ以上の配置点のうちの2つを選択することで、選択した2つの配置点を通る1本の直線を基準線に指定する。図13に示す例では、配置点41および配置点42が選択されることで、第一基準線51が指定されている。配置点43および配置点46が選択されることで、第二基準線52が指定されている。
【0055】
次いで、指定された基準線51,52が延長され、液晶ディスプレイ10に表示される(S53)。基準線51,52上にない配置点のうちの1つ、または、ユーザが位置を補正するために選択した1つの配置点が抽出される(S54)。抽出された配置点の位置が、基準線上に補正される(S55)。図13に示す例では、基準線51,52のいずれも配置点48を通っていない。従って、CPU61は、より配置点48に近い基準線である第二基準線52に対して垂直に配置点48を移動し、配置点48の位置を第二基準線52上に補正する。また、図13に示す例では、ユーザは、第二基準線52上にある配置点43を、2本の基準線51,52の交点に移動するために選択している。CPU61は、ユーザによるタッチパネル16の操作に従い、配置点43の位置を2本の基準線51,52の交点に移動する。
【0056】
次いで、基準線51,52上にない配置点が存在するか否かが判断される(S56)。存在すれば(S56:YES)、処理はS54に戻り、配置点の位置が基準線上に補正される(S54,S55)。基準線51,52上にない配置点が存在しなければ(S56:NO)、基準線の設定をやり直す指示があるか否かが判断される(S57)。やり直す指示があれば(S57:YES)、処理はS52へ戻る。基準線の設定を完了する指示があれば(S57:NO)、その時点の配置点の位置が基点の位置に確定され、処理は第一作成処理(図3参照)へ戻る。以降の処理は、前述した第一基準線設定処理の終了後の処理と同じであるため、説明を省略する。
【0057】
以上説明したように、ユーザは、第二基準線設定処理の実行をミシン1に指示した場合、加工布13上に点を配置してイメージセンサ50に撮像させることで、加工布13上の適切な位置に容易に基点を設定することができる。ミシン1は、配置点が基準線51,52上にない場合でも、少なくともいずれかの基準線上に配置点(基点)の位置を補正することができる。よって、イメージセンサ50によって認識された配置点を適切に利用して基準平面を作成することができる。
【0058】
次に、第二作成処理について説明する。前述したように、第二作成処理は、3つの基点から平行四辺形を割り出し、平行四辺形の形状に基づいて刺繍データを作成する処理である。第二作成処理は、平行四辺形の形状から刺繍データを作成する点のみが第一作成処理と異なる。従って、以下の説明では、第一作成処理中の各処理と同じ処理については同一のステップ番号を付し、その説明を省略または簡略化する。
【0059】
ユーザは、加工布13上に3つの基点を配置し、第二作成処理の実行指示をミシン1に入力する。ミシン1のCPU61は、第二作成処理の実行指示が入力されると、図14に示す第二作成処理を開始する。第二作成処理では、まず、イメージセンサ50によって加工布13が撮像される(S1)。撮像された加工布13の画像を含む基準線設定画面が、液晶ディスプレイ10に表示される(S2)。次いで、第三基準線設定処理が行われる(S63)。
【0060】
図15に示すように、第三基準線設定処理では、加工布13上に配置されている3つの配置点の位置が画像処理によって認識される。認識された位置が基点の位置とされる。撮像された画像と共に、基点が液晶ディスプレイ10に表示される(S81)。3つの基点を頂点とする三角形が割り出される(S82)。割り出された三角形の3辺のうち1辺を対角線とし、他の2辺のそれぞれを対辺の一方とする3つの平行四辺形が割り出される。割り出された3つの平行四辺形が、液晶ディスプレイ10に表示される(S83)。図16は、3つの平行四辺形54〜56を表示した液晶ディスプレイ10の画面の一例を示す。平行四辺形54は、三角形90の第一辺91を対角線とし、第二辺92および第三辺93を対辺の一方とする。同様に、平行四辺形55は第三辺93を対角線とし、平行四辺形56は第二辺92を対角線とする。
【0061】
次いで、ユーザによる平行四辺形の選択が受け付けられる(S84)。ユーザは、液晶ディスプレイ10に表示された矢印を見ながらタッチパネル16を操作し、3つの平行四辺形54〜56から所望する平行四辺形を1つ選択する。CPU61は、選択された平行四辺形の4つの辺のうち、互いに交差する2辺を抽出し、抽出した2辺を延長した直線を基準線に設定する(S85)。処理は第二作成処理(図14参照)へ戻る。
【0062】
図14の説明に戻る。第三基準線設定処理(S63)が終了すると、基準平面設定処理が行われる(S4)。基準平面設定処理では、2本の基準線と3つの基点とに基づいて、マトリクス状の基準平面が設定される。詳細には、基準線上にある2つの基点間の距離、つまり、選択された平行四辺形の辺の長さを直線間の距離として、複数の直線が設定され、基準平面が設定される。この処理は、先述した図6に示す基準平面設定処理と同じである。次いで、単位模様の配置位置の指定が受け付けられる(S5)。基準平面上の直線の交点を単位模様の中心の配置位置とするように指定されると(S6:YES)、その旨が設定される(S7)。直線を単位模様の境界とするように指定されると(S6:NO)、直線に囲まれた領域の中心点が単位模様の中心の配置位置に設定される(S8)。次いで、2つの基準線上の基点間の距離を2方向の対辺の長さとする平行四辺形の領域が算出される(S69)。平行四辺形の領域に収まる長方形の領域の1つが、単位模様が縫製される領域に設定される(S10)。前述した単位模様配置処理(図9参照)が行われて、刺繍データが作成される(S11)。作成された刺繍模様が、加工布13上に縫製される(S12)。処理は終了する。
【0063】
以上説明したように、ミシン1は、第二作成処理の実行が指示された場合、3つの平行四辺形の中から選択された1つの平行四辺形に基づいて基準平面を作成することができる。選択された平行四辺形が、基準平面上に複数形成されることとなる。従って、ユーザは、1つの単位模様が配置される平行四辺形の領域の形状を正確に把握して刺繍データを作成することができる。
【0064】
上記実施の形態において、ミシン1が本発明の「刺繍データ処理装置」に相当する。図4のS21,S22,S26、図12のS51、および図15のS81で基点を設定するCPU61が「基点設定手段」として機能する。図4のS23、図12のS52、および図15のS85で基準線を設定するCPU61が「基準線設定手段」として機能する。図6に示す基準平面設定処理を行うCPU61が「平面設定手段」として機能する。図3のS7,S8で単位模様の中心の配置位置を割り出すCPU61が「位置割り出し手段」として機能する。メモリカード70が「記憶手段」に相当する。図9のS41で単位模様の選択を受け付けるCPU61が「模様選択手段」として機能する。図9のS45で配置位置に単位模様を配置するCPU61が「配置手段」として機能する。
【0065】
図6のS32で基点を基準線上に規則的にコピーして仮想基点を設定するCPU61が「仮想基点設定手段」として機能する。図4のS26で基点の設定位置を基準線上に限定するCPU61が「位置限定手段」として機能する。図6のS33で基準線に平行な直線を複数設定するCPU61が「第一平面設定手段」および「第二平面設定手段」として機能する。図12のS54〜S56で基点の位置を補正するCPU61が「位置補正手段」として機能する。図15のS82で三角形を割り出すCPU61が「三角形割り出し手段」として機能する。図15のS83で3つの平行四辺形を割り出すCPU61が「平行四辺形割り出し手段」として機能する。図15のS84で平行四辺形の選択を受け付けるCPU61が「形状選択手段」として機能する。図3のS7で基準平面中の直線の交点を単位模様の中心位置として割り出すCPU61が「第一位置割り出し手段」として機能する。図3のS8で基準平面中の直線を単位模様の境界として配置位置を割り出すCPU61が「第二位置割り出し手段」として機能する。
【0066】
図9のS43で縫製実行領域を設定するCPU61が「領域設定手段」として機能する。図9のS44で単位模様が縫製実行領域に収まるか否かを判断するCPU61が「判断手段」として機能する。図4のS21,S22,S26でタッチパネル16の操作に応じて基点の位置を設定するCPU61が「第一基点設定手段」として機能する。液晶ディスプレイ10が「表示手段」に相当する。図12のS51および図15のS81で撮像映像から基点の位置を設定するCPU61が「第二基点設定手段」として機能する。イメージセンサ50が「撮像手段」に相当する。図3のS12および図14のS12で刺繍模様を縫製する処理を行うCPU61が「縫製手段」として機能する。第一作成処理および第二作成処理を実行するためのプログラムを記憶したROM62が「記憶媒体」に相当する。
【0067】
図4のS21,S22,S26、図12のS51、および図15のS81で基点を設定する処理が「基点設定ステップ」として機能する。図4のS23、図12のS52、および図15のS85で基準線を設定する処理が「基準線設定ステップ」として機能する。図6に示す基準平面設定処理が「平面設定ステップ」として機能する。図3のS7,S8で単位模様の中心の配置位置を割り出す処理が「位置割り出しステップ」として機能する。図9のS41で単位模様の選択を受け付ける処理が「模様選択ステップ」として機能する。図9のS45で配置位置に単位模様を配置する処理が「配置ステップ」として機能する。
【0068】
本発明は、上記実施の形態に限定されることはなく、様々な変形が可能であることは言うまでもない。例えば、上記実施の形態では、複数個の単位模様を縫製するための刺繍データの作成を、ミシン1が行っている。しかし、周知のパーソナルコンピュータ等の他の機器で上記の刺繍データの作成処理を行ってもよいことは勿論である。この場合、刺繍データを作成するパーソナルコンピュータ等の機器が本発明の「刺繍データ処理装置」に相当する。また、上記実施の形態では、CPU61が上記の各種処理を行うためのプログラムは、ROM62に記憶されている。しかし、EEPROM64、図示しないCDROM等の他の記憶媒体にプログラムが記憶されてもよいことは言うまでもない。
【0069】
上記実施の形態では、CPU61は、平行四辺形の形状に基づいて刺繍データを作成する第二作成処理を行う場合、加工布13に配置された点の位置を画像処理によって認識することで基点を設定している。しかし、CPU61は、第二作成処理においても、図4のS21,S22,S26の処理と同様に、タッチパネル16等の操作手段の操作に応じて基点を設定してもよい。
【0070】
上記実施の形態の基準平面設定処理(図4参照)では、基準線上に設定されている2以上の基点の全てが、一端側の基点から他端側の基点までの全ての基点の各基点間の距離が維持されたまま規則的にコピーされることで、仮想基点が設定されている。例えば、4つの基点が設定され、隣接する基点同士の距離が順に「3、1、2(cm)」であれば、仮想基点は、順に「3、1、2、3、1、2、3、1、2・・・・・」の距離を置いて設定される。しかし、設定された全ての基点間の距離を基準として仮想基点を設定する必要はない。例えば、設定された3つ以上の基点のうち2以上の基点をユーザに選択させる。そして、選択された基点のみを規則的にコピーすることで、仮想基点を設定してもよい。
【0071】
上記実施の形態では、ユーザによるタッチパネル16の操作に応じて、単位模様の選択(S41、図9参照)、および平行四辺形の選択(S84、図15参照)が行われている。しかし、CPU61は、ユーザによる操作に基づくことなく、単位模様または平行四辺形を選択してもよい。例えば、CPU61は、単位模様または平行四辺形をランダムに選択してもよい。
【0072】
上記実施の形態では、CPU61は、基準平面上の直線を単位模様の境界とする指示が行われた場合、直線に囲まれた平行四辺形の中心点を単位模様の中心の配置位置として割り出す。しかし、平行四辺形の中心点を単位模様の中心の配置位置とする必要はない。つまり、CPU61は、配置する単位模様が直線に重複しない範囲で、単位模様の配置位置を自由に割り出せばよい。CPU61は、単位模様が配置される平行四辺形の領域の大きさに応じて、配置する単位模様の大きさを変更してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 ミシン
10 液晶ディスプレイ
16 タッチパネル
31,51 第一基準線
32,52 第二基準線
38 縫製実行領域
50 イメージセンサ
54〜56 平行四辺形
61 CPU
62 ROM
70 メモリカード
90 三角形

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刺繍縫製可能なミシンを用いて、単位模様を規則的に複数並べて加工布に縫製するための刺繍データを作成する刺繍データ処理装置であって、
縫製が実行される縫製領域内に、前記単位模様の配置位置を決定するための少なくとも3つの基点の位置を設定する基点設定手段と、
互いに交差する2本の直線であり、それぞれが前記複数の基点のうち少なくとも2つの基点を通過する直線である基準線を設定する基準線設定手段と、
前記基準線設定手段によって設定された前記基準線が通過する基点間の距離に基づいて、2本の前記基準線のそれぞれに平行な直線を規則的に複数設定することで、前記単位模様を配置する基準となるマトリクス状の基準平面を設定する平面設定手段と、
前記平面設定手段によって設定された前記基準平面から、前記複数の単位模様の各々の前記配置位置を割り出す位置割り出し手段と、
刺繍データを記憶する記憶手段に記憶された前記単位模様から、前記配置位置に配置する単位模様を選択する模様選択手段と、
前記模様選択手段によって選択された単位模様を、前記位置割り出し手段によって割り出された配置位置に配置する配置手段と
を備えたことを特徴とする刺繍データ処理装置。
【請求項2】
前記平面設定手段は、
1本の前記基準線が通過している複数の前記基点間の距離を基準として、前記基準線上に規則的に複数個の仮想基点を設定する仮想基点設定手段と、
互いに交差する2本の前記基準線のうちの一方の前記基準線上の前記基点および前記仮想基点設定手段が設定した前記仮想基点の各々を通り、且つ他方の前記基準線に平行な仮想直線を複数設定することで、前記基準平面を設定する第一平面設定手段と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の刺繍データ処理装置。
【請求項3】
前記基点設定手段は、
複数の前記基点の全てを、2本の前記基準線の少なくとも一方が通過する位置にのみ設定可能とする位置限定手段を備えたことを特徴とする請求項2に記載の刺繍データ処理装置。
【請求項4】
前記基点設定手段によって設定された前記基点が、前記基準線設定手段によって設定されたいずれの前記基準線上にもない場合に、前記基点の位置を少なくとも一方の前記基準線上に補正する位置補正手段をさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載の刺繍データ処理装置。
【請求項5】
前記基点設定手段によって設定された前記複数の基点のうちの3つの基点を頂点とする三角形を割り出す三角形割り出し手段と、
前記三角形割り出し手段によって割り出された三角形から、前記三角形の3辺のうち1辺を平行四辺形の対角線とし、他の2辺のそれぞれを平行四辺形の対辺の一方とする3つの平行四辺形を割り出す平行四辺形割り出し手段と、
前記平行四辺形割り出し手段によって割り出された3つの平行四辺形から1つを選択する形状選択手段とをさらに備え、
前記基準線設定手段は、前記形状選択手段によって平行四辺形が選択された場合、前記三角形の3つの辺のそれぞれに重なる3つの直線のうち、選択された前記平行四辺形の対辺に重なる2つの直線を前記基準線に設定し、
前記平面設定手段は、前記形状選択手段によって選択された前記平行四辺形の1つの辺の長さを、前記1つの辺に交差する方向に延びる前記基準平面中の前記直線間の間隔として前記基準平面を設定する第二平面設定手段を備えたことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の刺繍データ処理装置。
【請求項6】
前記位置割り出し手段は、
前記平面設定手段によって設定された前記基準平面中の前記直線の交点を、前記単位模様の中心位置として、前記複数の単位模様の各々の前記配置位置を割り出す第一位置割り出し手段を備えたことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の刺繍データ処理装置。
【請求項7】
前記位置割り出し手段は、
前記平面設定手段によって設定された前記基準平面中の直線を、1つの前記単位模様が配置される領域の境界として、前記複数の単位模様の各々の前記配置位置を割り出す第二位置割り出し手段を備えたことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の刺繍データ処理装置。
【請求項8】
縫製を実行できる領域である縫製実行領域を前記縫製領域内に設定する領域設定手段と、
前記位置割り出し手段によって割り出された配置位置に、前記模様選択手段によって選択された単位模様を配置した場合に、配置した前記単位模様が前記縫製実行領域内に収まるか否かを判断する判断手段と
をさらに備え、
前記配置手段は、前記判断手段によって前記単位模様が前記縫製実行領域内に収まると判断された場合にのみ、前記配置位置に前記単位模様を配置することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の刺繍データ処理装置。
【請求項9】
前記基点設定手段は、画像を表示する表示手段に表示された前記加工布の前記縫製領域内に、ユーザによって操作される操作手段の操作に応じて前記基点の位置を設定する第一基点設定手段を備えたことを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の刺繍データ処理装置。
【請求項10】
前記基点設定手段は、画像を撮像する撮像手段によって撮像された前記加工布の画像データから、前記加工布に配置された点の位置を認識し、認識した前記点の位置を前記基点の位置に設定する第二基点設定手段を備えたことを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の刺繍データ処理装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の刺繍データ処理装置と、
画像を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段によって撮像された前記加工布の前記縫製領域に、前記刺繍データに従って縫製を行う縫製手段と
を備えたことを特徴とするミシン。
【請求項12】
1つの単位模様を、刺繍縫製可能なミシンを用いて規則的に複数並べて加工布に縫製するための刺繍データを作成する刺繍データ処理プログラムであって、
コンピュータに、
縫製が実行される縫製領域内に、前記単位模様の配置位置を決定するための少なくとも3つの基点の位置を設定する基点設定ステップと、
互いに交差する2本の直線であり、それぞれが前記複数の基点のうち少なくとも2つの基点を通過する直線である基準線を設定する基準線設定ステップと、
前記基準線設定ステップにおいて設定したそれぞれの前記基準線が通過する基点間の距離に基づいて、前記基準線に平行な直線を規則的に複数設定することで、前記単位模様を配置するマトリクス状の基準平面を設定する平面設定ステップと、
前記平面設定ステップにおいて設定した前記基準平面から、前記複数の単位模様の各々の前記配置位置を割り出す位置割り出しステップと、
刺繍データを記憶する記憶手段に記憶された前記単位模様から、前記配置位置に配置する単位模様を選択する模様選択ステップと、
前記模様選択ステップにおいて選択した単位模様を、前記位置割り出しステップにおいて割り出した配置位置に配置する配置ステップと
を実行させることを特徴とする刺繍データ処理プログラム。
【請求項13】
請求項12に記載の刺繍データ処理プログラムを記憶した記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−101695(P2011−101695A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257191(P2009−257191)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】