説明

刺繍機及びそれを用いた刺繍機システム

【課題】 糸情報の入力を省力化し、糸情報を正確に入力することができ、さらに、刺繍機の構造的な特徴を活かしたコンパクトな糸情報の入力システムを備えた刺繍機を提供すること。
【解決手段】 糸駒2がそれぞれ装着される複数の糸立棒1と、異なる前記糸駒2からそれぞれ糸が供給される複数の針58〜58と、刺繍データ8に依拠して、前記複数の針58〜58を切り換え駆動することにより、複数色の縫製模様を形成する刺繍機システム10であって、糸駒2に巻かれた糸に関する情報をもった無線タグ3が貼付され、複数の糸立棒1に無線タグ3がもつ情報を読み取る受信手段1aが設けらている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺繍機及びそれを用いた刺繍機システムに関し、特に、異なる糸駒から異なる糸が供給される複数の針を備え、複数の針を適宜切り換え駆動することにより、複数色の縫製模様を形成する多針糸替え刺繍機及びそれを用いた刺繍機システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、多針自動糸替え刺繍機において、キーボード、マウス、その他の入力装置から、複数の針にそれぞれ供給されている糸の色等の糸情報を、パーソナルコンピュータに入力し、パーソナルコンピュータが、これらの糸情報と刺繍模様を示す刺繍データとを照合し、該照合結果に基づき、例えば、糸情報が示す糸の色が刺繍データが示す糸の色と異なっている場合、自動的に、刺繍データが示す糸の色を補正する、すなわち、刺繍の色替設定を行う技術が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−129947(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、RGBデータで示される糸色、糸の材質及び糸の太さを人手により入力するには、大変な手間が掛かり、特に、複数の糸駒からそれぞれ異なる糸が供給される多針糸替え刺繍機においては、糸情報に関する入力量は膨大なものとなる。
【0005】
本発明の目的は、糸情報の入力を省力化し、糸情報を正確に入力することができ、さらに、刺繍機の構造的な特徴を活かしてコンパクトに糸情報の入力システムを構築できる刺繍機及びそれを用いた刺繍機システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1の視点において、糸駒がそれぞれ装着される複数の糸立棒と、異なる前記糸駒からそれぞれ糸が供給される複数の針と、刺繍データに依拠して、前記複数の針を切り換え駆動することにより、複数色の縫製模様を形成する刺繍機システムであって、前記糸駒に該糸駒に巻かれた糸に関する情報をもった無線タグが貼付され、前記複数の糸立棒に前記無線タグがもつ情報を読み取る受信手段が設けられたことを特徴とする刺繍機を提供する。
【0007】
本発明は、第2の視点において、糸駒に貼付され該糸駒に巻かれた糸のIDが記録された無線タグから、該IDを受信する受信手段を装備した一又は複数の多針自動糸替え刺繍機と、前記一又は複数の多針自動糸替え刺繍機とネットワークを介して接続されるサーバー装置と、前記サーバー装置の内部又は外部に設けられ前記糸のIDと糸情報が対応付けされて記録されているデータベースと、前記サーバー装置に設けられ前記受信手段が受信した前記糸のIDに基づいて前記データベースを照合して糸情報を得る照合手段と、を有することを特徴とする刺繍機システムを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、糸駒に糸の色、太さ及び材質等の糸情報を持った無線タグを貼付し、刺繍機本体側には糸駒を立てる糸立棒に前記糸情報を読み取る受信手段を設けたことにより、刺繍機に対する糸情報の入力を省力化し、又刺繍機に対して糸情報を正確に入力することができる。また、糸立棒や糸駒を用いて糸情報の無線入力システムを構築することにより、無線タグと受信手段(アンテナ)の距離を近接させることができるため、読み取り精度が高くなり、又、無線入力システムを構築するにあたって必要な刺繍機の改造箇所も少なくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、無線タグの受信手段を装備した一又は複数の多針自動糸替え刺繍機の糸立棒に無線タグがあらかじめ取り付けられた糸駒をセットすると、刺繍機は受信装置を介してそのIDを読み取り、そのIDをネットワーク内に設置されたサーバーPCのデータベースと照合し、そこからこの糸駒の情報を得る。
【0010】
取得する糸情報としては、糸メーカー、糸色(番号、RGBコード)、材質(レーヨン、ポリエステルなど)又は太さがある。以上のシステムにて簡単に確実に糸情報を得ることにより、更なる安定した設定、制御に反映することができ、操作性、生産性の向上に大いに貢献できる。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、得られた糸情報に対応して、以下のような動作が行われる。
【0012】
・糸色情報(RGBコードを刺繍機の各針棒に対応):サーバー装置側の刺繍データが持っているRGBコードと照合し、合致する糸又は近い糸が供給されている針(針棒番号)を対応させ設定する。
【0013】
・糸の材質(レーヨン、ポリエステルなど):糸調子又は布を保持するXY枠の動作タイミングを制御することにより、縫い上がり調整や、糸切れ防止に応用できる。
【0014】
・糸の太さ:糸調子制御又はデータの糸密度調整を行う。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態において、糸駒は、糸立棒が挿入される中空芯を備え、中空芯の内壁に無線タグが貼付される。
【0016】
本発明の好ましい実施の形態において、前記照合手段による照合結果に基づいて、前記サーバー装置から、前記一又は複数の多針自動糸替え刺繍機に、前記糸情報として、糸替え、糸調子及び糸密度の1以上の指示が送信される。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態において、前記刺繍データにおいて、前記各針に供給された糸の色と異なる色が指定されている場合、前記指定された色は、前記各針に供給された糸の色のうちで最も近い色を指定したものとみなす。
【実施例1】
【0018】
本発明の一実施例を添付図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施例に係る刺繍機の構造を説明するための図である。
【0020】
図1を参照すると、刺繍機EMは、刺繍枠56を水平面上で二次元方向(X方向およびY方向)に駆動する公知の枠駆動機構と、針通し穴60の真上にある針58〜58を上下駆動する公知の縫い機構と、例えば特公昭53−43336号公報又は特公昭55−8626号公報に開示された如きの選針装置16と、糸立台55r,55Lと、を備えている。
【0021】
選針装置16は、6本の針58〜58の1つを選択的に針通し穴60の真上に設定し、針通し穴60の真上にある針に糸掛けされている糸の刺繍縫いが行われる。
【0022】
糸立台55r,55Lには、複数の糸立棒1がそれぞれ建てられ、複数の糸駒(ボビン)を常置しておくことができる。
【0023】
複数個の糸駒の内、所定の糸駒に巻かれた各糸が、糸調子61を介して、また糸案内板62の各穴を通して、更に天ビンの穴を通して、所定の針58〜58にそれぞれ糸掛けされる。
【0024】
図2は、糸立棒に装着された糸駒の様子を示す模式図である。図3は、糸駒に貼付された無線タグと、糸立棒に内蔵されたアンテナ(受信手段)とを示す模式図である。
【0025】
図2及び図3を参照すると、糸駒2の内芯2aに糸のIDが記録された無線タグ3が貼付され、糸駒2が装着される複数の糸立棒1に無線タグ3がもつ糸のIDを読み取る受信手段1aがそれぞれ設けらている。無線タグ3には糸のIDが記録されており、受信手段1a側から発信された電波を受信して、糸のIDを示す信号を送信し、受信手段1aがこの信号を受信して、刺繍機EMのコントローラ6(図1参照)へ糸のIDを示す信号を送信する。
【0026】
次に、以上説明した刺繍機を含んで構成される刺繍機システムを説明する。
【0027】
図4は、図1に示した刺繍機を含んで構成される刺繍機システムのブロック図である。
【0028】
図1〜図4を参照すると、刺繍機システム10は、糸駒2に貼付され糸駒2に巻かれた糸のIDが記録された無線タグ3から、IDを受信する受信手段1aを糸立棒1に装備した複数台の多針自動糸替え型の刺繍機EMと、複数台の刺繍機EMとネットワークNを介して接続されるサーバー装置と、を備えている。
【0029】
図4を参照すると、サーバー装置PCの内部又は外部記憶装置には、数種の刺繍模様の刺繍縫い情報つまり刺繍データ8(図5参照)が書込まれている。これらの刺繍模様は固有名(ファイル名)で指定される。各模様の固有名(ファイル名)の刺繍縫い情報は、少数の管理データと多数のステッチデータで構成され、管理データの中に、所要糸色Ciと糸色選択順を示すデータが含まれている。
【0030】
サーバー装置PCから送信される刺繍データに基づいて、複数台の刺繍機EMが、同時に(場合によっては所定の時間差をおいて)駆動されて、刺繍枠(図1の56)に展張された布(図示略)に所定の複数色の縫製模様を形成する。
【0031】
ステッチデータは2種類であり、1種は制御データであって、これに、糸換え指示データ、エンド(刺繍終了)指示データ等が含まれる。もう1種は、前回の刺繍枠位置(スタート時では枠中心が針通し穴60の真上にある位置)からの所要駆動量(X軸移動量とY軸移動量)を示す枠駆動量データである。
【0032】
ステッチデータは、糸換えがなくしかも刺繍終了でない間は、1針縫いの単位で、枠駆動量データが順番に並んでおり、糸換えのタイミングの所に、糸換え指示データが介挿されている。刺繍が終わるタイミングの所、すなわちステッチデータの末尾が、エンド指示データである。上に述べた糸色はRGBコードが採用されている。
【0033】
さらに、サーバー装置PCは、糸のIDと糸情報が対応付けされて記録されている糸情報データベース9(図5参照)と、受信手段(図3の1a)が受信した糸のIDに基づいて糸情報データベース9を照合して糸情報を得る照合手段7と、を有している。なお、照合手段7は、サーバー装置PCで動作するプログラムとして構成することができる。
【0034】
図5は、図4に示した刺繍機システムの動作を説明するためのブロック図である。図6は、図5に示した刺繍機システムにおける糸情報の認識手順を説明するためのフローチャートである。図7は、糸情報の一例を示すテーブルである。
【0035】
図5を参照すると、本発明の一実施例に係る刺繍機システムは、糸駒2に貼付され糸駒2に巻かれた糸のIDが記録された無線タグ3(図3参照)から、該IDを受信する受信手段1aを装備した一又は複数の多針自動糸替え型の刺繍機EMと、一又は複数の刺繍機EMとネットワークを介して接続されるサーバー装置PCと、サーバー装置PCの内部又は外部に設けられ糸のIDと糸情報が対応付けされて記録されている糸情報データベース9と、サーバー装置PCに設けられ受信手段1aが受信した糸のIDに基づいて糸情報データベース9を照合して糸情報を得る照合手段7と、を有する。
【0036】
さらに、本発明の一実施例に係る刺繍機システムは、各刺繍機EMにおいて、各受信手段1aと、コントローラ6との間に、順に、スイッチ4及び読取り装置5を有し、読取り装置からの制御信号に基づいてスイッチ4の接点が切り替えられ、順次、各受信手段1aが受信した糸のIDが針番号ないし糸駒番号と共に、コントローラ6を介して、サーバー装置PCに送信される。
【0037】
図3〜図6を参照して、本発明の刺繍機システムにおける糸情報の取得方法について説明する。
【0038】
糸立棒1に糸駒2が装着され、刺繍機EMのコントローラ6及びサーバー装置PCが起動される。
【0039】
図6のステップ1〜3を参照して、まず、1本目の針58に対応する糸立棒1に内蔵された受信手段1aから所定の電波が発信され、該糸立棒1に装着された糸駒2に貼付された無線タグ3から、該糸駒2に巻かれた糸のIDが送信され、受信手段1aはこのIDを受信する。
【0040】
図6のステップ4〜5を参照して、糸のIDは針番号ないし糸駒番号(Nj)と共に、対の形式[Nj,ID](j=1〜6)で、読取り装置5、コントローラ6及びネットワークNを介して、サーバー装置PCに送信され、サーバー装置PCの照合手段7は、針58に供給されている糸のIDを用いて、糸情報データベース9を検索し、58に供給されている糸の糸情報、例えば、糸メーカー、糸色(RGB)、太さを得る(図7参照)。
【0041】
照合手段7は、これらの糸情報をコントローラ6に送信し、必要に応じて、糸替え、糸調子又は糸密度などの変更要求を表示させる。また、別に、照合手段7の照合結果に基づいて、サーバー装置PC側の刺繍データ8を補正してもよい。
【0042】
図6のステップ6、1を参照して、スイッチ4が読取り装置5からの制御信号に基づいて順次切り替えられ、以上の動作が針58〜58の本数分ないし糸駒2の駒数分繰り返され、全ての糸駒2の糸情報が得られる。
【0043】
コントローラ6は、ネットワークNを介して、[Nj,ID]に関する信号をサーバー装置PCへ送信する。
【0044】
サーバー装置PCにおいて、照合手段7は、[Nj,ID]のうち、糸のIDと、糸情報データベース9に記録されている、そのIDに対応する糸情報を照合し、この照合結果に基づいて、サーバー装置PCから、刺繍機EMに、糸情報として、糸替え、糸調子又は糸密度の指示等を送信することができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、多針糸替え刺繍機、特に、多針自動糸替え刺繍機に適用され、さらに、このような刺繍機を並列に接続して用いる刺繍機システムに適用される。さらに、多種自動糸替えを必要とする編機ないし編機システム等にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施例に係る刺繍機を含んで構成される刺繍機システムのブロック図である。
【図2】図1のような刺繍機において、糸立棒に装着された糸駒の様子を示す模式図である。
【図3】図1のような刺繍機において、糸駒に貼付された無線タグと、糸立棒に内蔵された受信手段(アンテナ)とを示す模式図である。
【図4】図1に示した刺繍機を含んで構成される刺繍機システムのブロック図である。
【図5】図4に示した刺繍機システムの動作を説明するためのブロック図である。
【図6】図5に示した刺繍機システムにおける糸情報の認識手順を説明するためのフローチャートである。
【図7】本発明の一実施例に係る刺繍機システムが用いる糸情報の一例を示すテーブルである。
【符号の説明】
【0047】
1 糸立棒
1a 受信手段(アンテナ)
2 糸駒(ボビン)
2a 内芯
3 無線タグ
4 スイッチ(SW)
5 読取り装置
6 コントローラ
7 照合手段
8 刺繍データファイル
9 糸情報データベース
10 刺繍機システム
16 選針装置
55r、55L 糸立台(ボビン台)
56 刺繍枠
60 針通し穴
61 糸調子
62 糸案内板
58〜58
N ネットワーク
EM 刺繍機
PC サーバー装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸駒がそれぞれ装着される複数の糸立棒と、異なる前記糸駒からそれぞれ糸が供給される複数の針と、刺繍データに依拠して、前記複数の針を切り換え駆動することにより、複数色の縫製模様を形成する刺繍機であって、
前記糸駒に該糸駒に巻かれた糸に関する情報をもった無線タグが貼付され、
前記複数の糸立棒に前記無線タグがもつ情報を読み取る受信手段が設けられたことを特徴とする刺繍機。
【請求項2】
前記糸駒は、前記糸立棒が挿入される中空芯を備え、前記中空芯の内壁に前記無線タグが貼付されたことを特徴とする請求項1記載の刺繍機。
【請求項3】
糸駒に貼付され該糸駒に巻かれた糸のIDが記録された無線タグから、該IDを受信する受信手段を装備した一又は複数の多針自動糸替え刺繍機と、前記一又は複数の多針自動糸替え刺繍機とネットワークを介して接続されるサーバー装置と、前記サーバー装置の内部又は外部に設けられ前記糸のIDと糸情報が対応付けされて記録されているデータベースと、前記サーバー装置に設けられ前記受信手段が受信した前記糸のIDに基づいて前記データベースを照合して糸情報を得る照合手段と、を有することを特徴とする刺繍機システム。
【請求項4】
前記照合手段による照合結果に基づいて、前記サーバー装置から、前記一又は複数の多針自動糸替え刺繍機に、前記糸情報として、糸替え、糸調子及び糸密度の1以上の指示が送信されることを特徴とする請求項3記載の刺繍機システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−87502(P2006−87502A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−273664(P2004−273664)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】