説明

剛体電車線凹凸測定装置

【課題】構造が簡単で、測定操作が比較的に容易であり、しかも凹凸を高精度で簡易に測定することができる剛体電車線凹凸測定装置を提供する。
【解決手段】本発明の剛体電車線凹凸測定装置は、レール2上を移動する自走式架線工作車1に固定される固定枠6と、この固定枠6に対して可動する可動枠7と、可動枠7に固定されて剛体電車線のパンタグラフ摺接面との間の変位を非接触状態で測定する計測するレーザ変位センサ10と、レーザ変位センサ10の上下振動の加速度を計測する上下加速度センサ9とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下鉄などに採用されている導電鋼レール方式の剛体電車線のパンタグラフ摺接面における微少凹凸を高精度で測定する剛体電車線凹凸測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常の屋外を走行する電車線路においては、電気車両のパンタグラフに給電するためにワイヤなどのトロリ線を張架してこれを介し給電する方式が採用されている。このようなトロリ線を水平に張架するためには、種々の構造物を配する必要があるが、地下鉄などのトンネル内を走行する電車線路の場合、地下の限られた空間内に、これらの構造物を配するための空間を設けることができないというケースが考えられる。そこで導電鋼レール方式と呼ばれる剛体電車線を用いる方式が地下鉄には採用されることがある。この剛体電車線には、ワイヤなどのトロリ線などに比べて寿命が長いというメリットがある。
【0003】
ワイヤからなるトロリ線、剛体電車線いずれにおいても、電気車両のパンタグラフと摺接するものであるので、鉄道の営業開始後定期的にその状態をチェックする必要がある。そのための装置として、例えば、特許文献1には、長尺体の変位を測定して変位信号を求め、この変位信号から長尺体の傾斜を表す傾斜信号を算出し、この傾斜信号を積分することによって長尺体の凹凸を連続的に測定する装置が開示されている。
【特許文献1】特開平11−173838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1に開示されているものは、特にワイヤからなるトロリ線の凹凸測定に適している。現在、出願人は、剛体電車線の凹凸測定のために以下のような方法を採用している。まず、剛体電車線の凹凸測定器を電気検測車の作業台に取り付ける。そして、電気検測車を走行させながら、剛体電車線の凹凸を連続的に測定する。剛体電車線の変位は、CCDレーザ変位センサを用いて基準点と剛体電車線側面との距離を測定して、またレーザ寸法センサの取付架台の昇降量は、長距離レーザ変位センサ10を用いて基準点と取付架台どの距離を測定して得ておき、電気検測車の走行速度は、走行路鉄板にて速度センサを近接配置して測定して得る。電車線の支持点は、左右変位各200mmの位置に設置した超音波センサを用いて検出する。測定車両の傾斜(軌道のカント、勾配に相当)は、3軸ジャイロを電気検測車の作業台の床面に固定して測定する。以上のようにして得た各データをデータレコーダに記録しておき、再生・AD変換をして専用の処理プログラムを用いたデジタル処理によって剛体電車線の凹凸を算出する。
【0005】
ところが、このような従来の方法においては、電気検測車に上記のような各種のレーザ、センサ、ジャイロを設定した上でこれらを調整するものであるので、剛体電車線の凹凸の測定準備に多大な手間と時間がかかる、という問題があった。また、上記のように装置の規模が非常に大がかりであるという問題もあった。また、実測定においては、上記のレーザ、センサ、ジャイロの各測定装置の操作に熟練が必要であり、一般の作業員が関与することはできなった。このために、従来の測定装置では電気鉄道営業区間の一部のみを手軽に測定するということなど到底できるものではなかったし、非常にコストのかかるものであった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するために、請求項1に係る発明は、レール上を移動する自走式架線工作車によって剛体電車線の凹凸を非接触状態で測定する剛体電車線凹凸測定装置において、該自走式架線工作車に固定される固定枠と、該固定枠に対して可動する可動枠と、該可動枠に固定されて剛体電車線のパンタグラフ摺接面と間の変位を計測する変位計と、当該変位計の上下振動の加速度を計測する加速度計とからなることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の剛体電車線凹凸測定装置において、該可動枠は水平方向に可動であることを特徴とする。
【0008】
また、請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の剛体電車線凹凸測定装置において、該可動枠は垂直方向に可動であり、該可動枠には垂直方向による移動量を検出するポテンショメータが設けられていることを特徴とする。
【0009】
また、請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3に記載の剛体電車線凹凸測定装置において、該変位計はレーザ変位センサであることを特徴とする。
【0010】
また、請求項5に係る発明は、請求項4に記載の剛体電車線凹凸測定装置において、該可動枠には、該レーザ変位センサのレーザ光が照射されている目安とするレーザーポインタが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の剛体電車線凹凸測定装置は、構造が簡単で、小型軽量化が図られているので、自走式架線工作車1にも簡単に設置することができ、さらに測定操作が比較的に容易であるために、そのための訓練を受けた熟練の作業員でなくても、測定が可能となる。したがって、測定のための複雑な準備や熟練作業員が必要ないため、コストをかけずに剛体電車線の凹凸を測定することができる。また、本発明の剛体電車線凹凸測定装置によれば、電気車両のパンタグラフが剛体電車線4を摺動することによって発生する当該剛体電車線4の凹凸を高精度で簡易に測定することができる。そして、本発明のような簡易な測定装置によって、早期に剛体電車線の異常摩耗を発見し対処を行うことができるので、剛体電車線の維持管理がしやすくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る剛体電車線凹凸測定装置の概略構成を模式的に示す図である。本実施形態においては、15kg導電鋼レール方式の剛体電車線の測定を例にとり説明する。
【0013】
図1において、1は本実施形態の剛体電車線凹凸測定部を搭載する自走式架線工作車、2は電気車両が走行するためのレール、3は自走式架線工作車1の車輪、4は電気車両のパンタグラフに給電を行うための剛体電車線、5は自走式架線工作車1に載置された剛体電車線凹凸測定部、6は剛体電車線凹凸測定部5のうち自走式架線工作車1に固定される固定枠、7は固定枠6に対して可動する可動枠、8は可動枠7に固定されたポテンショメータ、9は可動枠7に固定された上下加速度センサ、10は可動枠7に固定されたレーザ変位センサ、11は可動枠7に固定されたレーザポインタをそれぞれ示している。なお、図1は進行方向から、剛体電車線凹凸測定装置の概略構成を模式的にみたものである。
【0014】
図1において、剛体電車線4は天井付近に不図示の構造物によって支持されて、通常使用時には電気車両のパンタグラフに給電を行うものである。レーザ変位センサ10は、レーザ光を物体(本発明の場合、剛体電車線4のA面)に照射してその反射光を受光して物体の変位を測定するセンサである。本発明は、このレーザ変位センサ10によって剛体電車線4のA面とレーザ変位センサ10との間の距離の変位によって凹凸を測定するものであるが、レーザ変位センサ10は自走式架線工作車1の移動と共に振動するので、後述するように上下加速度センサ9によって振動分を補正する。レーザ変位センサとしては、例えば、キーエンス社製の高精度CCDレーザ変位センサLK−G155を使用する。
【0015】
上下加速度センサ9は、レーザ変位センサ10の振動に伴う上下変位を検出するために、レーザ変位センサ10の近傍に設置される。
【0016】
剛体電車線凹凸測定部5を構成する主要なセンサ類は全て可動枠9に搭載されている。この可動枠7は、固定枠6に対して、図示するように垂直方向であるY方向と、水平方向であるZ方向に移動可能に構成されている。剛体電車線4が設置されている高さは、路線毎によって異なることがあるので、剛体電車線4とレーザ変位センサ10との距離を路線毎によって適当なものに調節するため可動枠7のY方向が移動できるようになっている。可動枠7のY方向の変位量を検知するため構成がポテンショメータ8であり、このポテンショメータ8によって、レーザ変位センサ10はレール2面からどの程度の距離にあるのかを検出することができる。
【0017】
本発明の剛体電車線凹凸測定装置においては、自走式架線工作車1を移動させながら、レーザ変位センサ10のレーザ光を剛体電車線4のA面に照射させ変位を計測するものであるが、本実施形態では、路線のカーブなどに対応して、可動枠7のZ方向の調整を作業員が手動で行うことによって、レーザ変位センサ10のレーザ光を常に剛体電車線4のA面に照射させるように追随させている。このような可動枠7のZ方向の調整作業を行うための指標として用いられるのが、レーザポインタ11である。レーザ変位センサ10のレーザ光は、剛体電車線4の表面に照射しても視認性がよくないので、このようなレーザポインタ11を別途設けることによって、前記の調整作業がしやすいようになっている。作業員はレーザポインタ11によって照射される赤いスポットを目視確認しながら、自走式架線工作車1の移動に伴い、赤いスポットが剛体電車線4のA面から外れないように、可動枠7のZ方向の調整を行う。このようにすることで、自走式架線工作車1が進行しても、レーザ変位センサ10のレーザ光が剛体電車線4のA面から外れることがない。なお、可動枠7には、レーザポインタ11を一つ設ける例について示したが、これを複数も受けておくとより視認性が向上して作業がし易くなる。剛体電車線4の変位にレーザ変位センサ10のレーザスポットを確実に手動で追随させるための目安としては、特に3個のレーザポインタを摺動面に当てるようにするとよい。
【0018】
なお、可動枠7には不図示の超音波センサが設けられており、この超音波センサによって、剛体電車線4の支持点位置(継ぎ目、剛体電車線4の支持金具)を検出するようになっている。この他、支持点(支持金具)を検出するための前記超音波センサの他に、キロ程・番札位置を作業員が記録するための不図示の押しボタン等が取り付けられており、上記の各センサ類の測定データと共にコンピュータに保存される。前記超音波センサデータや、押しボタン等によるマーカーデータは、路線の剛体電車線4の位置を確認するためのものである。例えば、本発明の剛体電車線凹凸測定装置によって、修復を要する剛体電車線4が発見された場合には、これらのデータによって、何駅から何駅までの間の何番目の剛体電車線4を修復すべきであるのか、などということを割り出すことができる。
【0019】
以上のように本発明の剛体電車線凹凸測定装置は、比較的構造が簡単で、小型軽量化が図られているので、自走式架線工作車1にも簡単に設置することができる。また、本発明の剛体電車線凹凸測定装置は、操作が比較的に容易であるために、そのための訓練を受けた熟練の作業員でなくても、測定が可能である。
【0020】
以上のように構成される本実施形態の剛体電車線凹凸測定装置のセットアップについて説明する。剛体電車線4の凹凸の状態を調査するために、鉄道の営業時間外に剛体電車線凹凸測定部5が搭載された自走式架線工作車1がレール2上に準備される。
【0021】
次にポテンショメータ8によって、可動枠7の高さ調整に伴うレーザ変位センサ10の高さを測定する。これは、レーザ変位センサ10がレール2面からどの程度の距離にあるのかを測定するものであり、ここで測定された値は、後述する基準高さyS(0)とされる。また、基準高さyS(0)を測定した後には、可動枠7のY方向への移動は不図示の移動規制手段によって規制する。より具体的には、剛体電車線4の摺接面の上下変位を計測するレーザ変位センサ10は、摺接面の基準高さからおよそ150mm下方にセットされる。
【0022】
以上のように準備をしておき、基本的には、自走式架線工作車1を約5km/h程度の速度で走行させつつ、レーザ変位センサ10のレーザを剛体電車線4の下方から当てその変位を測定し、剛体電車線4の凹凸状態を計算する。
【0023】
次に、上記のように準備された剛体電車線凹凸測定装置の測定原理について説明する。図2は、本発明の実施の形態に係る剛体電車線凹凸測定装置の測定原理を示す図である。図1は進行方向に対して横の方向から、剛体電車線凹凸測定装置の概略構成を模式的にみた状態を示している。
【0024】
本発明の基本的な考え方としては、まず、剛体電車線4の変位を測定するための変位計であるレーザ変位センサ10を設けておき、これによって剛体電車線4の凹凸を検出しようとする。ただし、レーザ変位センサ10が搭載される自走式架線工作車1は、剛体電車線4のスキャンをすべく走行するのでその走行中振動が発生する。この振動のためにレーザ変位センサ10で測定された変位データは補正をする必要がでてくる。このために、剛体電車線4の変位を測定する変位計(レーザ変位センサ10)自体の振動による誤差を補正するための手段である加速度計(加速度センサ9)を設けるのである。この加速度センサ9を積分することによって、振動によるレーザ変位センサ10の上下の変位量を算出して、レーザ変位センサ10で測定された変位データの補正を行う。
【0025】
次に、本発明の剛体電車線凹凸測定装置の詳細な測定原理について説明する。時刻tにおけるレーザ変位センサ10の測定変位をyL(t)、自走式架線工作車1の振動に伴うレーザ変位センサ10の上下振動変位をyA(t)、レーザ変位センサ10のレール2(軌条面)からの基準高さ(不変)をyS(0)とすると、剛体電車線の凹凸(高さ)y(t)は、次の
【0026】
【数1】

【0027】
で求めることができる。
【0028】
レーザ変位センサ10の振動変位yA(t)は、レーザ変位センサ10直近に取り付けられた加速度センサ9により測定された加速度a(t)を2回積分して変位に換算する。ただし計算時の発散を防ぐため、0.5Hz以下の周波数成分は除く。
【0029】
一方、自走式架線工作車1の進行速度v(t)を測定しておき、上記の各変位データを
【0030】
【数2】

【0031】
により測定位置を求める。ただし位置x0は、時刻t=0における測定位置である。自走式架線工作車1の速度は、自走式架線工作車1のモータからの回転パルス信号などから求めることができる。以上のような測定原理によれば(x(t),y(t))を求めることができ、これによれば、剛体電車線4の長手方向のどの位置で、どの程度の凹凸があるのかを計算することができる。より具体的には、本発明の剛体電車線凹凸測定装置によれば、剛体電車線4のパンタグラフ摺接面の微少凹凸を高精度で計算することができる。
【0032】
本発明の剛体電車線凹凸測定装置のデータ処理方法の一例としては、各センサ類からの各出力信号をバッファアンプ経由でAD変換した後、リアルタイムでパソコンに取り込み保存する。そして、測定終了後、以上のような測定原理に基づいて、処理ソフトを用いて計算処理を行い、剛体電車線4の凹凸データを得る。
【0033】
本発明のこのような測定方法によれば、自走式架線工作車1の上下振動に伴うレーザ変位センサ10の測定誤差を低減できることから、高い測定精度が期待できる。一方、レーザ変位センサ10を電車線路の偏位に応じて左右に動かす必要があることや、振動面内でのレーザスポットの位置によって測定値に差異が生じる可能性があることが短所として挙げられる。ただし、短所のうち前者のものに対する改善策としては、レーザ変位センサ10を、剛体電車線4の変位に伴い自動的に追随させるような機構を設けておくことなどが考えられる。
【0034】
以上のように本発明の剛体電車線凹凸測定装置は、構造が簡単で、小型軽量化が図られているので、自走式架線工作車1にも簡単に設置することができ、さらに測定操作が比較的に容易であるために、そのための訓練を受けた熟練の作業員でなくても、測定が可能となる。したがって、測定のための複雑な準備や熟練作業員が必要ないため、コストをかけずに剛体電車線の凹凸を測定することができる。また、本発明の剛体電車線凹凸測定装置によれば、電気車両のパンタグラフが剛体電車線4を摺動することによって発生する当該剛体電車線4の凹凸を高精度で簡易に測定することができる。そして、本発明のような簡易な測定装置によって、早期に剛体電車線の異常摩耗を発見し対処を行うことができるので、剛体電車線の維持管理がしやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態に係る剛体電車線凹凸測定装置の概略構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る剛体電車線凹凸測定装置の測定原理を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1・・・自走式架線工作車、2・・・レール、3・・・車輪、4・・・剛体電車線、5・・・剛体電車線凹凸測定部、6・・・固定枠、7・・・可動枠、8・・・ポテンショメータ、9・・・上下加速度センサ、10・・・レーザ変位センサ、11・・・レーザポインタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レール上を移動する自走式架線工作車によって剛体電車線の凹凸を非接触状態で測定する剛体電車線凹凸測定装置において、
該自走式架線工作車に固定される固定枠と、該固定枠に対して可動する可動枠と、該可動枠に固定されて剛体電車線のパンタグラフ摺接面と間の変位を計測する変位計と、当該変位計の上下振動の加速度を計測する加速度計とからなることを特徴とする剛体電車線凹凸測定装置。
【請求項2】
該可動枠は水平方向に可動であることを特徴とする請求項1に記載の剛体電車線凹凸測定装置。
【請求項3】
該可動枠は垂直方向に可動であり、該可動枠には垂直方向による移動量を検出するポテンショメータが設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の剛体電車線凹凸測定装置。
【請求項4】
該変位計はレーザ変位センサであることを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の剛体電車線凹凸測定装置。
【請求項5】
該可動枠には、該レーザ変位センサのレーザ光が照射されている目安とするレーザーポインタが設けられていることを特徴とする請求項4に記載の剛体電車線凹凸測定装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−2945(P2008−2945A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−172510(P2006−172510)
【出願日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(591048830)日本電設工業株式会社 (21)
【Fターム(参考)】