説明

剥離紙用基材およびそれを使用した粘着シート

【課題】400〜1,000m/分の高速度でカーテン塗布方式にて塗布、乾燥して下塗り層を形成することにより優れたバリヤ性を発揮し、しかも耐ブロッキング性にも優れた剥離紙用基材および粘着紙を提供する。
【解決手段】基紙の少なくとも一方の面に、顔料とバインダを主成分とする下塗り層を設けた剥離紙用基材であって、該下塗り層塗液に0.1質量%水溶液の動的表面張力が30〜60mN/mとなる界面活性剤を含有させ、該下塗り層塗液をカーテン塗布方式にて塗布、乾燥させて下塗り層を形成したことにより、次に剥離剤層を形成した際に、ピンホールや凹凸ができるのを抑制でき、糊残り適性が極めて効果的に改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離紙用基材に関し、特に下塗り層塗液を高速度でカーテン塗布方式にて塗布、乾燥して下塗り層を形成した剥離紙用基材およびそれを使用した粘着シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
粘着ラベル、粘着シール等の粘着シートのセパレータ(剥離紙)に使用される剥離紙用基材としては、従来、ポリエチレンラミネートタイプ、グラシンタイプ、クレーコートタイプ等の紙が知られている。
【0003】
これらの剥離紙用基材の中では、例えば、木材パルプを主原料とする上質紙、片艶紙およびクラフト紙等の基紙の表面に、ポリエチレンフィルム層を形成させたものが一般的である。
このポリエチレンフィルム層は、該ポリエチレンフィルム層上に設けられる剥離剤層を形成する剥離剤、例えばシリコーン塗液等の浸透を抑制(以下、バリヤ性と称する。)し、剥離紙の剥離性能を向上させる目的で設けられている。
【0004】
ところが、該ポリエチレンフィルム層は、強固な連続皮膜であり、水に不溶性である。そのため、該ポリエチレンフィルム層を有する剥離紙用基材を回収し、パルプをリサイクルすることは困難であり、このことは産業廃棄物処理上の大きな問題となっている。したがって、剥離紙用基材および剥離紙には、剥離紙としての剥離性能が良好であると共に、基紙のリサイクルを可能とするリサイクル適性が求められる。
【0005】
上記要求に対して、これまでに、基紙の少なくとも一方の面に、下塗り層と剥離剤層とが順次設けられた剥離紙が提案されている。例えば、基紙に、従来のポリエチレンフィルムに代えて不織繊維を用い、下塗り層に、デンプン類およびブタジエン系重合体を含むバインダ層を設けた提案(特許文献1参照。)がされている。
【0006】
また、木材パルプを主原料とする基紙上に、下塗り層として、ポリアクリルアミド−アクリル酸エステル共重合体、特定のスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、およびポリスチレン−アクリル酸エステル重合物−ポリビニルアルコール共重合体から選ばれる一種以上の樹脂を含有するバリヤ層を設けた提案(特許文献2参照。)、あるいは、無機顔料と特定のスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスとを主成分とする塗工層を設けた提案(特許文献3、4参照。)等がされている。
【0007】
また、木材パルプを主原料とする基紙上に、水溶性高分子、特定のアクリル樹脂および/またはスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスと、適宜顔料を含有する下塗り層を設けた提案(特許文献5参照。)がされている。
【0008】
【特許文献1】特開平7−279099号公報
【特許文献2】特開平8−144198号公報
【特許文献3】特開2000−119997号公報
【特許文献4】特開2006−307386号公報
【特許文献5】特開平10−131094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1〜3の提案によれば、溶剤バリヤ性が改善され、剥離紙としての剥離性能とリサイクル適性の向上が図られている。しかしながら、剥離剤層と下塗り層との密着性が経時的に劣化し、印刷工程における剥離剤層の脱落、脱落物のガイドロールへの堆積、インキ密着不良等が発生するという問題があった。
【0010】
前記の剥離剤層脱落の問題を解決するために、剥離剤塗液にシランカップリング剤を添加する等の対策が考えられる。しかしながら、剥離剤塗液にシランカップリング剤を添加した場合、剥離紙の剥離性能が充分に満足できないものとなってしまう。
【0011】
また、特許文献4、5の提案によれば、剥離紙の剥離性能の問題は改善されているものの、下記で説明する「糊残り適性」について充分なものではなかった。
【0012】
一方、剥離紙用基材は、該剥離紙用基材の製造後に一旦巻き取られてロール状とされ、その後、このロールから引き出した剥離紙用基材に剥離剤層が設けられる。該ロールから引き出す際の剥離紙用基材同士の剥がれやすさ、すなわち耐ブロッキング性も、剥離紙用基材には要求される特性である。
【0013】
さらに、無溶剤型剥離剤塗液を剥離紙用基材に塗布する場合には溶剤を使用していないので、剥離紙用基材上に塗布する液量は非常に少ない。そのため、無溶剤型剥離剤塗液を用いる場合には、溶剤型剥離剤に比べて、より薄い均一な剥離剤層を剥離紙用基材上に形成させなければならない。ところが、このような剥離剤層の剥離紙用基材表面のカバーリングが充分に行われなかった場合、剥離剤層にピンホールや凹凸ができ、次に該剥離剤層上に粘着剤層を形成させる工程で粘着剤がそのピンホールや凹部に入り込み、剥離紙上に粘着剤が残るという現象(以下、この現象を「糊残り現象」と呼ぶ)がみられる。この糊残り現象は粘着シートをラベル加工、すなわち、印刷、ダイカット(打抜き)等の加工を施す際に剥離剤塗布面と接触するガイドロール等に粘着剤が付着し、紙送り不良や見当ずれ等のトラブルを誘発させ、作業性や品質面において極めて重大な障害となっていた。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、剥離性能に優れ、糊残り適性にも優れた剥離紙の製造に適し、かつ耐ブロッキング性に優れた剥離紙用基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、検討を重ねた結果、剥離紙用基材の下塗り層に特定の動的表面張力を有する界面活性剤を含有させることにより、これらの問題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明に係る剥離紙用基材は、基紙の少なくとも一方の面に、顔料とバインダを主成分とする下塗り層を設けた剥離紙用基材であって、該下塗り層塗液に0.1質量%水溶液の動的表面張力が30〜60mN/mとなる界面活性剤を含有させ、該下塗り層塗液をカーテン塗布方式にて塗布、乾燥させて下塗り層を形成したことを特徴とする剥離紙用基材である。
界面活性剤がアニオン系またはノニオン系であることが好ましい。
界面活性剤が分子内に1個の3重結合を有する次の3種の界面活性剤から選択されることが好ましい。次の3種の界面活性剤:アセチレングリコール、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、およびアセチレンアルコール。
界面活性剤がジアルキルスルホコハク酸アルカリ金属塩であることが好ましい。
下塗り層を構成するバインダがコア部とシェル部とが共にスチレンをモノマー単位に含む共重合体ラテックスを主成分とするコア・シェル構造の複合体ラテックスであることが好ましい。
本発明に係る粘着シートは、以上のごとくの剥離紙用基材に、下塗り層、剥離剤層、粘着剤層、表面基材をこの順に少なくとも備えた粘着シートである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば粘着シートを構成した場合の剥離性能に優れ、しかも糊残り適性にも優れた剥離紙の製造に適し、かつ耐ブロッキング性に優れた剥離紙用基材を提供することができる。
界面活性剤がアニオン系またはノニオン系であると濡れ性が向上し、起泡性も抑制されるため塗液のカーテン膜が安定して形成されるため下塗り層のピンホールや凹凸が発生し難くなる。
界面活性剤が分子内に1個の3重結合を有するアセチレン系界面活性剤であると濡れ性と消泡性に優れる。
面活性剤がジアルキルスルホコハク酸アルカリ金属塩であると濡れ性に優れる。
バインダがコア・シェル構造の複合体ラテックスであると、コア部とシェル部に異なる特性を付与することができ、耐ブロッキング性、剥離性能、糊残り適性のバランスに優れる。
本発明の粘着シートの構成をとることにより、剥離性能と糊残り適性に優れた粘着シートが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、下塗り層塗液中に0.1%水溶液の動的表面張力が30〜60mN/m、好ましくは30〜55mN/mとなる界面活性剤を含有させたことに大きな特徴がある。30mN/m以上であれば下塗り層塗液の泡立ちが起こるおそれが無く、60mN/m以下では下塗り層塗液を基紙上に塗布する際、基紙上での下塗り層塗液のハジキが防止され、優れた塗布面が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
本発明でいう最大泡圧法(Maximum Bubble Pressure Method)とは、液中に気泡を発生させ、その気泡にかかる圧力から表面張力を測定する手段であり、気泡周波数を変化させることで液体の動的表面張力の測定が可能である。
【0019】
具体的には、液の中に差し込んだ細管から窒素ガスを吹き出して泡を膨らますことにより、液体と気体の界面を広げ、その際の最大圧力から表面張力を求めるというものである。球状の泡の半径をRからR+dRに増加させるとき、泡の表面積の増加分(ΔA)は、
ΔA=4π(R+dR)2−4πR2=8πR・dR
一方、この時圧力によって行われた仕事(W)は面積が4πR2の球面をdRだけ押し動かすことになる。
W=ΔP・4πR2dR
したがって、表面張力(γ)は、
γ=W/ΔA(表面張力の定義)
=ΔP・4πR2dR/8πR・dR
=ΔP・R/2
として求める方法である。
なお、気泡周波数とは、いいかえれば泡の吹き出し間隔のことであり、泡の吹き出し間隔を短くして本発明では毎秒6個の場合に上記の方法で表面張力を測定して動的表面張力としている。また、泡の吹き出し間隔を長くして毎秒1個の場合を静的表面張力としている。
【0020】
本発明に用いる界面活性剤は0.1%水溶液の動的表面張力が30〜60mN/mとなる物質であれば特に限定されず、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、各種のノニオン系もしくはアニオン系界面活性剤等が挙げられる。ここで、メガファック141、メガファックF−142D、メガファックF−1405(大日本インキ化学工業社製)、ZONYL FSN(デュポン社製)等のパーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物等のフッ素系界面活性剤やSILWET FZ−2166(日本ユニカー社製)、BYK 348(ビックケミー・ジャパン社製)、KF−615(信越化学工業社製)等のポリエーテル変性ジメチルシロキサン等のシリコーン系界面活性剤は濡れ性には優れるものの起泡性が劣る懸念があるため、起泡性の低い各種のノニオン系界面活性剤が好ましい。特にノニオン系界面活性剤の中でも分子内に1個の3重結合を有するアセチレングリコール(2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオール等)、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物(2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキサイド10モル付加物、2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールのエチレンオキサイド誘導体等)、アセチレンアルコール(2,4,4,7,9−ペンタメチル−5−デシン−7−オール等)が濡れ性と消泡性に優れるので好ましい。また、ラウリルアルコールのエチレンオキサイド付加物が例示できる。具体的にはサーフィノール104PA、サーフィノール420、サーフィノル440、サーフィノール465、サーフィノール504、サーフィノールPSA204、サーフィノールPSA216、サーフィノールPSA336、ダイノール604(日信化学工業社製)、オルフィンE1004、オリフィンE1010,オルフィンPD−001、オルフィンPD−002W、オルフィンWE−001、オルフィンWE−002、オルフィンWE−003、オルフィンPD−004、オルフィンEXP.4001、オルフィンEXP.4036、オルフィンEXP.4051F、オルフィンAF−103、オルフィンAF−104(日信化学工業社製)が挙げられる。さらに、アニオン性界面活性剤の中ではスルホコハク酸ラウリル−2ナトリウム、スルホコハク酸ラウレス−2ナトリウム、スルホコハク酸(C12〜C14)パレス−2ナトリウム、スルホコハク酸シトステレス−14−2ナトリウム、ジイソブチルスルホコハク酸ナトリウム、ジペンチルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジシクロヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジトリデシルスルホコハク酸ナトリウム等が例示できるが、これらのうちジヘキシルスルホコハク酸ナトリウムやジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸アルカリ金属塩が濡れ性に優れるので好ましく、特にジオクチルスルホコハク酸ナトリウムが好ましい。具体的には、AEROSOL OT−75(三井サイテック社製)、ネオコールSWC(第一工業製薬社製)、リパール860K(ライオン社製)、ペレックスOT−P(花王社製)等が挙げられる。
【0021】
本発明に用いる界面活性剤の下塗り層塗液中の配合量は、好ましくは固形分質量で0.01〜10質量%である。配合量が0.01質量%未満の場合、下塗り層塗液をカーテンコータで塗布する際均一なカーテン膜が形成できないおそれがある。また、10質量%を超えるとバリヤ性が低下してしまったり、下塗り層塗液の発泡が著しくなってしまうおそれがある。
【0022】
《剥離紙用基材》
本発明の剥離紙用基材は、基紙の少なくとも一方の面に、顔料とバインダを主成分とする下塗り層を設けたものである。下塗り層は、1層であってもよく、複数の層であってもよい。
【0023】
<基紙>
基紙としては、広葉樹晒クラフトパルプ、針葉樹晒クラフトパルプ、または他の化学パルプや機械パルプを主原料として用い、長網多筒型抄紙機、長網ヤンキー型抄紙機、あるいは円網抄紙機で抄紙された上質紙、中質紙、片艶紙、およびクラフト紙等を包含するものを用いることができる。これらは、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。そのパルプ配合は、強度および寸法安定性の面から針葉樹パルプを20〜100質量%配合することが好ましく、40〜100質量%配合するのがより好ましい。ここで、用いられる針葉樹パルプとしては、晒パルプ、未晒パルプでもよく、少なくとも70質量%以上は針葉樹を原料としてパルプ化されたものを指す。パルプの平均繊維長は0.1mm以上である。また、基紙中には、有機および無機の顔料、並びに製紙用の補助薬品が含まれていてもよい。
【0024】
パルプの叩解度は、JIS P8122(2004年)に規定されるカナダ標準ろ水度試験方法で300〜600mlであり、好ましくは400〜550mlである。叩解度を大きくすると、すなわち、ろ水度を300mlより小さくすると、繊維長が短くなり、寸法変化率が大きくなる。逆に叩解度を小さくすると、すなわち、ろ水度を600mlより大きくすると、繊維同士の絡み合いが弱くなり、強度が低下し易い。したがって、上記パルプの叩解度を制御すること等により、基紙の寸法安定性を向上させ、剥離紙用原紙や剥離紙の寸法変化を低く抑えることができる。特に、横方向の伸縮率は変形やカール等の問題に対して重要な因子となる。横方向の伸縮率は、1.2%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましい。横方向の伸縮率が1.2%を超えて大きくなると、シールやラベル加工をして使用する際、カールが大きくなったり、トンネリング等の問題が生じるおそれがある。
【0025】
また、上記パルプに内添されるサイズ剤は特に限定されないが、優れた強度が得られることから中性サイズ剤が好ましい。中性サイズ剤とは、剥離紙のpHが6以上でサイズ効果が発現するサイズ剤のことであり、例えばアルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸、アルケニルコハク酸、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ワックス等の中から適宜選択使用することができる。具体的には、荒川化学社製「サイズパインK−287」、日本PMC社製「AS−211」を代表的な材料として挙げることができる。
【0026】
基紙のステキヒトサイズ度(JIS P8122(2004年))としては良好な塗工性が得られ、また、原紙としての強度を確保する上で、3秒以上、特に10〜200秒であることが好ましい。通常使用されるサイズ剤と定着剤である硫酸バンドを添加してもよい。また、その他必要に応じて染料、紙力剤、湿潤紙力増強剤、耐水化剤、架橋剤、電位調整剤等の公知の内添剤を添加することができる。
【0027】
<下塗り層>
下塗り層は、主として剥離剤層に用いられるシリコーン塗液等の浸透を抑制する機能(バリヤ性)を発揮する。
下塗り層は、顔料とバインダを主成分とする顔料コート層が好ましい。中でも、該バインダがコア・シェル構造を有する複合体ラテックスを含有することがより好ましい。さらに前記したように0.1%水溶液の動的表面張力が30〜60mN/mとなる界面活性剤を必須成分として含有する。
【0028】
(顔料)
顔料としては、その種類、配合率については特に制限はなく、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、雲母等の無機顔料を適宜選択して用いることができる。顔料は最密充填する場合、一般に、板状顔料の空隙率は、球状顔料に比べて低く、緻密な塗布層が形成される。このことから上記顔料の中でも、特に板状顔料を用いることが好ましく、中でもカオリンが好ましい。
下塗り層中における顔料の配合量は、バインダ100質量部に対して50〜150質量部が好ましく、80〜120質量部がより好ましい。
【0029】
(バインダ)
バインダとしては、コア・シェル構造を有する複合体ラテックスを少なくとも含有することが好ましい。コア・シェル構造とは、コア部(内層)がシェル部(外層)により覆われた2重構造を意味する。このようなコア・シェル構造とすることにより、コア部とシェル部とに、各々異なる特性を持たせることができる。コア・シェル構造を採用した場合、主としてコア部の特性によって「糊残り適性」に影響する成膜性が左右され、主としてシェル部の特性によって、耐ブロッキング性や剥離性能が左右される。
すなわち、コア部のラテックスとして成膜性に優れるものを採用し、シェル部のラテックスとして耐ブロッキング性、剥離性能に優れるものを採用すれば、糊残り適性と、良好な耐ブロッキング性及び剥離性能とを同時に満足させられる。
【0030】
該複合体ラテックスでは、コア部とシェル部の主成分が、共にスチレンをモノマー単位に含む共重合体ラテックスである。ただし、コア部の主成分となる共重合体ラテックス(以下「コア部主成分」という。)とシェル部の主成分となる共重合体ラテックス(以下「シェル部主成分」という。)の組成は同じではない。上述のように、コア部には成膜性に優れる特性を、シェル部には耐ブロッキング性及び剥離性能に優れる特性を持たせる必要があり、そのような観点で各々スチレンと共重合させる他のモノマー単位が選択される。
【0031】
コア部主成分は、スチレン以外のモノマー単位としてブタジエンを含むことが好ましい。ブタジエンをモノマー単位として含むことにより、成膜性に優れたラテックスとすることができる。コア部主成分におけるブタジエンの共重合比(質量比)は、スチレンに対して30〜170%であることが好ましく、60〜140%であることがより好ましい。ブタジエンの共重合比が小さすぎるとブタジエン単位含有による成膜性向上の効果が充分に得難く、大きすぎると耐ブロッキング性が悪くなる傾向がある。
コア部主成分におけるスチレンとブタジエン以外のモノマー単位としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、ステアリン酸等が挙げられる。コア部主成分におけるスチレンとブタジエン以外のモノマー単位の共重合比(質量比)は、スチレンに対して20%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。
コア部におけるコア部主成分の割合は、80質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。コア部主成分以外のコア部の成分としては、例えば、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等が挙げられる。
【0032】
コア部のガラス転移温度(Tg)は、−50〜−5℃が好ましく、−30〜−6℃がより好ましい。コア部のTgが−50℃より低くなると耐ブロッキング性が悪化するおそれがある。また、−5℃を超えると、成膜性が充分得られないおそれがある。
【0033】
シェル部主成分は、スチレン以外のモノマー単位としてアクリル酸を含むことが好ましい。アクリル酸をモノマー単位として含むことにより、耐ブロッキング性に優れたラテックスとすることができる。
シェル部主成分におけるアクリル酸の共重合比(質量比)は、スチレンに対して20〜100%であることが好ましく、40〜80%であることがより好ましい。アクリル酸の共重合比が小さすぎるとアクリル酸単位含有による耐ブロッキング性の向上の効果が充分に得難く、大きすぎると下塗り層塗膜が硬くなりすぎ、カールが発生し易くなる傾向がある。シェル部主成分におけるスチレンとアクリル酸以外のモノマー単位としては、例えば、メタクリル酸、オレイン酸等が挙げられる。
シェル部主成分におけるスチレンとアクリル酸以外のモノマー単位の共重合比(質量比)は、スチレンに対して20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
シェル部におけるシェル部主成分の割合は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。 シェル部主成分以外のシェル部の成分としては、例えば、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル等が挙げられる。
【0034】
シェル部のTgは、−5〜30℃が好ましく、5〜25℃がより好ましい。シェル部のTgが−5℃未満であると、下塗り層のベタツキが酷くなり、特に剥離紙用基材の巻き取り製品での耐ブロッキング性に劣る傾向になる。また、30℃を超えると、耐ブロッキング性は良好となるもののカールが発生し易くなるおそれがある。
【0035】
コア部およびシェル部を合わせた全体のゲル分率は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。ゲル分率が90質量%以上であることにより、下塗り層のベタツキが軽減し、耐ブロッキング性、バリヤ性、剥離性能が良好なものとなる。結局、剥離剤塗液の浸透を効果的に防止でき、剥離性能に優れる。
ここで「ゲル分率」とは、トルエン(抽出処理溶剤)に対するゲル含量(質量%)をいい、ラテックス中の複合体(固形物)をトルエンで抽出処理したときの複合体(固形物)全量に対するトルエン不溶分の割合を意味する。
【0036】
また、コア部およびシェル部の質量比(コア部/シェル部)は、4/96〜20/80が好ましく、7/93〜15/85がより好ましい。コア部およびシェル部の質量比が上記範囲であることにより、成膜性、耐ブロッキング性、剥離性能のいずれもが良好なものとなる。
さらに、共重合体ラテックスの粒子径としては、特に限定されるものではないが、良好なバリヤ性が得られることから、100〜400nmのものを用いることが好ましい。
【0037】
下塗り層には、上記の複合体ラテックス以外のバインダを適宜併用することができる。例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル樹脂、ワックス等の疎水性樹脂エマルション、ポリビニルアルコールおよびその誘導体、澱粉およびその誘導体、セルロース誘導体、カゼイン等が挙げられる。バインダ中に占める上記の複合体ラテックスの割合は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。この複合体ラテックスはコア・シェル構造のスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスが好ましい。
【0038】
(その他の成分)
本発明の下塗り層には、顔料とバインダ以外に必要に応じて、分散剤、耐水化剤、滑剤、消泡剤、防腐剤、着色剤等を適宜添加することが出来る。
【0039】
<製造方法>
本発明の剥離紙用基材は、基紙の少なくとも一方の面に、上記で説明した下塗り層塗液をカーテン塗布方式にて塗布・乾燥し、下塗り層を形成することによって製造することができる。特にエクストルージョンホッパー型カーテンコータ、スライドホッパー型カーテンコータを用いると400〜1,000m/分の高速度で平滑な塗布面が得られ、該下塗り層上に剥離剤層を形成すると、ピンホールや凹凸ができるのを抑制でき、糊残り適性が極めて効果的に改善されるので好ましい。
下塗り層の塗布量は、特に制限はないが、品質や価格等を考慮すると、絶乾質量(固形分)で2〜10g/mとすることが好ましい。なお、下塗り層形成のためにカーテンコータによる同時多層塗布してもよい。
また、塗布後、必要に応じてスーパーカレンダ等の仕上げ処理を施してもよい。該仕上げ処理を施すことにより、下塗り層の表面の平滑性を高めることができる。その結果、剥離剤層のシリコーン塗液等を均一に塗布することができ、剥離剤層にピンホールや凹凸の発生を効果的に抑制され、糊残り適性に優れたものとなる。
【0040】
上記剥離紙用基材は、ISO8791−4(1992年)に準じてクランプ圧1000kPa、ソフトタイプのバッキングディスクにて測定した剥離シート表面の平滑度(以下PPSと略する。)が1.0〜3.0μmであることが好ましい。PPSが3.0μmを超えると剥離紙用基材に剥離剤層を設けた際にピンホールや凹凸の発生が酷く、糊残り適性が悪化するおそれがある。逆にPPSが1.0μm未満であると、剥離剤塗液が転写しにくくなり、充分な剥離性能が得られないおそれがある。ここで、平滑度はMessmer社製パーカープリントサーフ(型式:M596)を用いて測定することができる。なお、本発明の後述する各実施例においては本方法にてPPSを上記装置によって実際に測定して上記の範囲内にあることを確認した。本剥離紙用基材表面のPPSは実際的には後述の剥離剤層を設けた剥離紙の剥離面にて測定した。剥離紙用基材表面のPPSも測定したが同じ値であった。これは剥離剤層の塗布厚みがせいぜい1μm程度であるので下塗り層を形成した段階の平滑度が剥離紙表面の平滑度と同じになるということである。
【0041】
《剥離紙》
剥離紙は、上述の本発明である剥離紙用基材の下塗り層の面に、剥離剤層を設けたものである。
【0042】
<剥離剤層>
剥離剤層は、剥離紙用基材の下塗り層の面に、剥離剤層塗液を塗布し、硬化させて形成する。剥離剤は、例えばシリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、長鎖アルキル系樹脂等が用いられ、中でもシリコーン系樹脂が好ましく用いられる。
シリコーン系樹脂としては、トルエンやヘキサン等の有機溶剤に希釈した溶剤希釈型シリコーン、有効固形分が100質量%の無溶剤型シリコーン等が用いられる。中でも、環境保護の観点から、無溶剤型シリコーンが好ましく用いられる。無溶剤型シリコーンは、その硬化方法によって、熱硬化タイプ、電子線硬化タイプ、紫外線硬化タイプに大別される。中でも、低速剥離から高速剥離までの広範囲の剥離速度領域で安定した剥離性能が得られる熱硬化タイプの無溶剤型シリコーンが好ましく用いられる。これらの無溶剤型シリコーンの塗布方法としては特に限定するものではないが、一般に多段式ロールコータ、オフセットグラビアコータ等が使用される。この場合の塗布量は0.05〜3.00g/m程度、好ましくは0.2〜1.5g/m程度の範囲で適宜調節される。尚、塗布量が0.05g/m未満では剥離剤層としての作用効果に乏しく、また3.00g/mを超えると、経済的な面から必要性に乏しい。
【0043】
《粘着シート》
粘着シートは常法に従って、上述の剥離紙に粘着剤塗液を塗布、乾燥して表面基材を貼り合せて、必要により剥離紙裏面を調湿して製造される。粘着剤層を形成するための塗布方法としては、例えばリバースロールコータ、ナイフコータ、エアーナイフコータ、ダイコータ、カーテンコータ、リバースグラビアコータ、バリオグラビアコータ等の装置が挙げられる。粘着剤層の塗布量は8〜30g/m、好ましくは10〜27g/mである。塗布速度は400〜1,000m/分が好ましい。塗布速度が400m/分未満の場合、粘着剤塗液を塗布してから乾燥ゾーンに到達するまでに時間がかかりすぎ、剥離紙上でハジキが発生するおそれがある。逆に塗布速度が1,000m/分を超えると、5×10(s−1)程度以上のせん断速度となり、粘着剤塗液の粘度が低下してハジキが発生するおそれがある。
【0044】
(粘着剤)
粘着剤としては特に限定されず、アクリル系、ゴム系、ビニルエーテル系等のエマルション型、溶剤型、ホットメルト型、液状硬化型、電離放射線硬化型等が適宜選択して使用されるが、粘着性能の制御の容易さやラベル加工適性に優れることからアクリル系エマルション型粘着剤が好ましい。
【0045】
(表面基材)
表面基材としては、特に限定されず、キャスト紙、コート紙、アート紙、上質紙、感熱記録体、熱転写記録体、インクジェット記録体、合成紙、金属蒸着紙、布、不織布、金属ホイル、各種高分子フィルム等を適宜選択して使用できる。
【0046】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
[下塗り層塗液]
下塗り層中のバインダとして下記組成(モノマー単位とその質量比、Tg)
コア部 (スチレン:ブタジエン=5:5、Tg −19℃)
シェル部(スチレン:アクリル酸:オレイン酸=70:18:2、Tg −19℃)のコア・シェル構造(2重構造)を有する複合体ラテックス(ゲル分率96質量%、複合体ラテックス全体のTg −19℃、旭化成(製))を用いた。
顔料として板状のカオリン(商品名:「コンツァー1500」、イメリスミネラルズ・ジャパン社製)を用いた。そして、上記バインダ100質量部、板状カオリン100質量部、ノニオン系界面活性剤(2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール)(商品名:「サーフィノール104」、日信化学社製)(動的表面張力:35.1mN/m)0.2質量部、助剤(分散剤、滑剤、消泡剤)1質量部を混合し、濃度約50質量%(溶剤:水)の下塗り層塗液を調製した。
【0048】
[剥離紙用基材の作製]
ろ水度が450mlに叩解された針葉樹パルプ(NBKP)100質量%のスラリーに内添剤として中性サイズ剤(荒川化学工業社製「サイズパインK−287」)を固形分質量で対パルプ0.15%添加し、サイズプレスにより酸化澱粉(日本コーンスターチ社製、「SK−20」)を塗布して上質紙を得た。
上記上質紙(米坪 78g/m)の片面に、上記下塗り層塗液をエクストルージョンホッパー型カーテンコータにより絶乾質量(固形分)で約7g/mを塗布(塗布速度:800m/分)し、乾燥後、カレンダ処理にて平滑化した。また、カールコントロールを裏面蒸気加湿(スチームボックス)で実施した。以上により、剥離紙用基材を得た。
【0049】
[剥離紙の作製]
下記組成を有する熱硬化型無溶剤シリコーン塗液を調製し、上記剥離紙用基材の下塗り層の面に、多段式ロールコータで絶乾質量(固形分)で約1.1g/mを塗布し、熱風により硬化させて剥離紙を得た。
シリコーン塗工液の組成:
ベースポリマー1(商品名:「POLY360」、荒川化学工業社製) 28質量部
ベースポリマー2(商品名:「621V230」、荒川化学工業社製) 50質量部
ベースポリマー3(商品名:「11367」、荒川化学工業社製) 18質量部
架橋剤(商品名:「XL323」、荒川化学工業社製) 3.7質量部
白金触媒 4質量部
【0050】
[粘着シートの作製]
上記剥離紙上にアクリルエマルション型粘着剤(日本カーバイド社製、「ニカゾールL−501」)を乾燥塗布量が20g/mとなるようにリバースロールコータで塗布し、130℃で乾燥した後、表面基材(王子製紙社製、「Nミラー73」)を貼り合わせて粘着シートを作製した。
【0051】
(実施例2)
[下塗り層塗液]
下塗り層中のバインダとして下記組成(モノマー単位とその質量比、Tg)
コア部 (スチレン:ブタジエン=8:2、Tg 26℃)
シェル部(スチレン:アクリル酸:オレイン酸=54:34:2、Tg 26℃)
のコア・シェル構造(2重構造)を有する複合体ラテックス(ゲル分率95質量%、複合体ラテックス全体のTg 26℃、旭化成(製))を用いた。
顔料として板状のカオリン(商品名:「コンツァー100」、イメリスミネラルズ・ジャパン社製)を用いた。そして、上記バインダ100質量部、板状カオリン100質量部、ノニオン系界面活性剤(2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキサイド10モル付加物)(商品名:「サーフィノール465」、日信化学社製)(動的表面張力:40.2mN/m)0.5質量部、助剤(分散剤、滑剤、消泡剤)1質量部を混合し、濃度約50質量%(溶剤:水)の下塗り層塗液を調製した。
【0052】
[剥離紙用基材の作製]
実施例1と同じ上質紙(米坪 78g/m)の片面に、上記下塗り層塗液をスライドホッパー型カーテンコータで2層同時塗布(各層の絶乾質量(固形分)は約3.5g/mでトータルとして約7g/m)(塗布速度:800m/分)し、乾燥後、カレンダ処理にて平滑化した。また、カールコントロールを裏面蒸気加湿(スチームボックス)で実施した。以上により、剥離紙用基材を得た。
【0053】
[剥離紙の作製]
下記組成を有する熱硬化型無溶剤シリコーン塗液を調製し、上記剥離紙用基材の下塗り層の面に、多段式ロールコータで絶乾質量(固形分)で約1.1g/mを塗布し、熱風により硬化させて剥離紙を得た。
シリコーン塗工液の組成:
ベースポリマー(商品名:「SL160」、東レ・ダウコーニング社製) 100質量部
剥離コントロール剤(商品名:「SL10」、東レ・ダウコーニング社製) 25質量部
架橋剤(商品名:「SL9」、東レ・ダウコーニング社製) 5.7質量部
白金触媒 1質量部
【0054】
[粘着シートの作製]
上記剥離紙上にアクリルエマルション型粘着剤(日本カーバイド社製、「ニカゾールL−501」)を乾燥塗布量が20g/mとなるようにリバースロールコータで塗布し、130℃で乾燥した後、表面基材(王子製紙社製、「Nミラー73」)を貼り合わせて粘着シートを作製した。
【0055】
(実施例3)
[下塗り層塗液]
下塗り層中のバインダとして下記組成(モノマー単位とその質量比、Tg)
コア部 (スチレン:ブタジエン=5:5、Tg −19℃)
シェル部(スチレン:アクリル酸:オレイン酸=54:34:2、Tg 26℃)
のコア・シェル構造(2重構造)を有する複合体ラテックス(商品名:A6160、ゲル分率96質量%、複合体ラテックス全体のTg 21℃、旭化成(製))を用いた。
顔料として板状のカオリン(商品名:「XP8390」、イメリスミネラルズ・ジャパン社製)を用いた。そして、上記バインダ100質量部、板状カオリン100質量部、アニオン系界面活性剤(ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム)(商品名:「ネオコールSWC」、第一工業製薬社製)(動的表面張力:32.8mN/m)0.2質量部、助剤(分散剤、滑剤、消泡剤)1質量部を混合し、濃度約50質量%(溶剤:水)の下塗り層塗液を調製した。
【0056】
[剥離紙用基材の作製]
実施例1と同じ上質紙(米坪 78g/m)の片面に、上記下塗り層塗液をエクストルージョンホッパー型カーテンコータで絶乾質量(固形分)で約7g/mを塗布(塗布速度:800m/分)し、乾燥後、カレンダ処理にて平滑化した。また、カールコントロールを裏面蒸気加湿(スチームボックス)で実施した。以上により、剥離紙用基材を得た。
【0057】
[剥離紙の作製]
下記組成を有する熱硬化型無溶剤シリコーン塗液を調製し、上記剥離紙用基材の下塗り層の面に、多段式ロールコータで絶乾質量(固形分)で約1.1g/mを塗布し、熱風により硬化させて剥離紙を得た。
シリコーン塗工液の組成:
剥離剤(商品名:「KNS−320」、信越化学工業社製) 100質量部
白金触媒 2質量部
[粘着シートの作製]
上記剥離紙上にアクリルエマルション型粘着剤(日本カーバイド社製、「ニカゾールL−501」)を乾燥塗布量が20g/mとなるようにリバースロールコータで塗布し、130℃で乾燥した後、表面基材(王子製紙社製、「Nミラー73」)を貼り合わせて粘着シートを作製した。
【0058】
(実施例4)
下塗り層塗液の界面活性剤をノニオン系界面活性剤であるラウリルアルコールのエチレンオキサイド5モル付加物(動的表面張力:53.9mN/m)に置き換えた以外は実施例3と同様にして剥離紙用基材および剥離紙を得た。
【0059】
[粘着シートの作製]
上記剥離紙上にアクリルエマルション型粘着剤(日本カーバイド社製、「ニカゾールL−501」)を乾燥塗布量が20g/mとなるようにリバースロールコータで塗布し、130℃で乾燥した後、表面基材(王子製紙社製、「Nミラー73」)を貼り合わせて粘着シートを作製した。
【0060】
(実施例5)
下塗り層塗液の界面活性剤をノニオン系界面活性剤である2,4,4,7,9−ペンタメチル−5−デシン−7−オール(動的表面張力:35.9mN/m)に置き換え、12段スーパーカレンダ処理した以外は実施例1と同様にして剥離紙用基材および剥離紙を得た。
【0061】
[粘着シートの作製]
上記剥離紙上にアクリルエマルション型粘着剤(日本カーバイド社製、「ニカゾールL−501」)を乾燥塗布量が20g/mとなるようにリバースロールコータで塗布し、130℃で乾燥した後、表面基材(王子製紙社製、「Nミラー73」)を貼り合わせて粘着シートを作製した。
【0062】
(比較例1)
下塗り層塗液の界面活性剤をノニオン系界面活性剤である2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオール7質量部、エパン680(第一工業製薬社製)93質量部の混合物(動的表面張力:66.3mN/m)に置き換えた以外は実施例1と同様にして剥離紙用基材および剥離紙を得た。
【0063】
[粘着シートの作製]
上記剥離紙上にアクリルエマルション型粘着剤(日本カーバイド社製、「ニカゾールL−501」)を乾燥塗布量が20g/mとなるようにリバースロールコータで塗布し、130℃で乾燥した後、表面基材(王子製紙社製、「Nミラー73」)を貼り合わせて粘着シートを作製した。
【0064】
(比較例2)
下塗り層塗液の界面活性剤をノニオン系界面活性剤であるダイノール604(日信化学工業社製)(動的表面張力:28.3mN/m)に置き換えた以外は実施例1と同様にして剥離紙用基材および剥離紙を得た。
【0065】
[粘着シートの作製]
上記剥離紙上にアクリルエマルション型粘着剤(日本カーバイド社製、「ニカゾールL−501」)を乾燥塗布量が20g/mとなるようにリバースロールコータで塗布し、130℃で乾燥した後、表面基材(王子製紙社製、「Nミラー73」)を貼り合わせて粘着シートを作製した。
【0066】
(参考例1)
実施例1において、下塗り層塗液に界面活性剤(2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール)(商品名:「サーフィノール104」、日信化学社製)を添加せずに下塗り層塗液を調整した(濃度約50質量%)。
上記下塗り層塗液をロッドブレードコーターで絶乾質量(固形分)で約7g/mを塗布し、乾燥後、カレンダ処理にて平滑化した。また、カールコントロールを裏面蒸気加湿(スチームボックス)にて行い、剥離紙用基材を得た。
この剥離紙用基材を用いて実施例1と同様にして剥離紙および粘着シートを得た。
【0067】
(参考例2)
比較例1において、下塗り層中のバインダを
(スチレン:ブタジエン:ステアリン酸=25:55:20、Tg −16℃)
のコア・シェル構造(2重構造)を有しないスチレン系共重合体ラテックス(商品名:RL−002、ゲル分率85質量%、旭化成(製))に変更した以外は、参考例1と同様にして剥離紙用基材、剥離紙および粘着シートを得た。
【0068】
<評価方法>
実施例1〜5、比較例1〜2で製造した剥離紙用基材、剥離紙について、下記に示す方法で評価した。その結果を表1に示す。
なお、耐ブロッキング性は、剥離紙用基材を対象とした評価である。剥離力、糊残り適性は、剥離紙を対象とした評価である。
【0069】
(糊残り適性)
各例で製造した粘着シートから粘着剤層付き表面基材を剥した後、剥離紙の剥離剤塗布表面とPETフィルム表面とを擦り合わせ、剥離剤塗布表面に残っている粘着剤をPET表面に転写させ、転写した粘着剤の量によって評価した。
<評価基準>
◎:糊残りが全くない
○:糊残りがあまり目立たない
△:糊残りが多少目立つ
X:糊残りがかなり目立つ
【0070】
(剥離力)
各例で製造した剥離紙を用いて粘着シートを構成し、PSTC 101(14thEd.−2003年)に準じて300mm/分の速度で粘着剤層の付いた表面基材を180°の角度で剥離紙から引き剥がすのに要する力(剥離力)を測定した。
【0071】
(耐ブロッキング性)
各例で製造した剥離紙用基材を数枚重ねた上に、1kgの錘を乗せ、その状態で40℃、90%RH環境下で、24時間静置した。その後、数枚重ねた剥離紙用基材を1枚ずつ剥がして、ブロッキングレベルを下記基準で目視評価した。
○:ブロッキングがほとんどみられない。
△:ブロッキングがややみられるが、実用上問題ない。
X:ブロッキングが多い。
【0072】
(動的表面張力)
各界面活性剤の0.1質量%水溶液の動的表面張力を20℃、65%RH雰囲気下で最大泡圧法により測定した。具体的には、動的表面張力測定装置としてKRUESS社製「バブルプレッシャーBP2」を用い、先端部の内径が0.236mmであるキャピラリーを、液面下1cmの位置に先端部がくるようにセットして、気泡発生ガスに空気を用いて気泡周波数6Hzで測定した。
【0073】
(総合評価)
各例で製造した剥離紙を用いて粘着シートを構成し、剥離紙用基材および剥離紙としての総合評価を行った。
○:剥離紙用基材および剥離紙として全く問題がない。
△:剥離紙用基材および剥離紙として若干問題があるが、実用可能なレベルである。
X:剥離紙用基材および剥離紙として重大な問題があり、実用不可能なレベルである。
【0074】
【表1】

【0075】
表1の結果より、特定の動的表面張力を有する界面活性剤を配合した下塗り層を用いた実施例1〜5は、耐ブロッキング性、剥離力、糊残り適性のいずれもが良好であった。
また、動的表面張力が低い界面活性剤を用いた実施例3は、特に優れており、総合評価的にも他の実施例より一段と優れたものであった。
一方、規定した値からはずれる動的表面張力を有する界面活性剤を配合した下塗り層を用いた比較例1〜2は良好なカーテン膜が形成できず、糊残り適性、剥離性能が不充分であった。さらに、後添加で特に界面活性剤を配合していない下塗り層塗液用いた参考例1〜2も、糊残り適性、耐ブロッキング性が不充分であった。
以上より、本発明によれば剥離性能と糊残り適性に優れた剥離紙の製造に適し、かつ耐ブロッキング性に優れた剥離紙用基材、および当該剥離紙用基材を用いた剥離紙を提供できることが確認された。
400〜1,000m/分の高速度でカーテン塗布方式にて塗布、乾燥して下塗り層を形成することにより優れたバリヤ性を発揮し、しかも耐ブロッキング性にも優れた剥離紙用基材および剥離性能、糊残り性に優れた剥離紙である。
【0076】
結局、本発明により経時による剥離剤層の脱落がなく安定した剥離性能を発揮させることができる。また本発明により、良好な糊残り適性を得ることができる。これにより、粘着シートを印刷、打抜き等の加工を施す際に剥離剤層と接触するガイドロール等に粘着剤が付着し、紙送り不良や見当ずれが発生するのを抑制することが可能となる。また、下塗り層に界面活性剤を含有させているため、剥離紙用基材を一定期間ロール状に保管しておいた後該ロールから引出す際の耐ブロッキングを改善することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙の少なくとも一方の面に、顔料とバインダを主成分とする下塗り層を設けた剥離紙用基材であって、該下塗り層塗液に0.1質量%水溶液の動的表面張力が30〜60mN/mとなる界面活性剤を含有させ、該下塗り層塗液をカーテン塗布方式にて塗布、乾燥させて下塗り層を形成したことを特徴とする剥離紙用基材。
【請求項2】
界面活性剤がアニオン系またはノニオン系である請求項1に記載の剥離紙用基材。
【請求項3】
界面活性剤が分子内に1個の3重結合を有する次の3種の界面活性剤から選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載の剥離紙用基材。
次の3種の界面活性剤:アセチレングリコール、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、およびアセチレンアルコール。
【請求項4】
界面活性剤がジアルキルスルホコハク酸アルカリ金属塩である請求項1または2に記載の剥離紙用基材。
【請求項5】
下塗り層を構成するバインダがコア部とシェル部とが共にスチレンをモノマー単位に含む共重合体ラテックスを主成分とするコア・シェル構造の複合体ラテックスである請求項1から4のいずれか一項に記載の剥離紙用基材。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の剥離紙用基材、下塗り層、剥離剤層、粘着剤層、表面基材をこの順に少なくとも備えた粘着シート。

【公開番号】特開2008−274465(P2008−274465A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118035(P2007−118035)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【出願人】(595178748)王子タック株式会社 (76)
【Fターム(参考)】