説明

力学量検出センサ

【課題】加工プロセスに起因したセンサ感度のばらつきを抑えて製造時の歩留まりを向上することができる力学量検出センサを提供すること。
【解決手段】枠体11の内側に梁部13により変位部12を揺動可能に支持する第1の基板2と、開口部23を有する支持部21、変位部12に接続した錘部22が形成された第2の基板3と、梁部13の撓み量に基づいて力学量に応じた信号を出力する検出素子17とを備え、平面視において、第1の基板2および第2の基板3が、少なくとも枠体11の内縁11aにおける梁部13との接続部分が支持部21の開口縁21aの外側に位置すると共に、少なくとも変位部12の外縁12aにおける梁部13との接続部分が錘部22の外縁22aの内側に位置するよう構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸の3軸方向の加速度を検出可能な力学量検出センサに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車産業や機械産業では、加速度を正確に検出できる小型の力学量検出センサの需要が高まっている。このような力学量検出センサとして、互いに直交する3軸方向の加速度を同時に検出できる加速度センサが知られている(例えば、特許文献1参照)。この加速度センサは、シリコン製の第1の半導体基板、酸化シリコン製の絶縁層、シリコン製の第2の半導体基板を接合した3層構造のSOI基板をエッチングして形成される。
【0003】
第1の半導体基板にはエッチングにより枠体と、枠体の中央に位置する変位部と、枠体の四辺から変位部に連なる梁部とが形成され、第2の半導体基板にはエッチングにより枠体に接合された支持部と、変位部に接合された錘部とが形成される。また、各梁部の上面には検出素子が配置されており、錘部に慣性力が作用して各梁部が撓み変形することで、3軸方向の加速度が検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−322300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の力学量検出センサは、SOI基板の表面と裏面とからエッチングすることにより形成されるため、枠体と支持部、および変位部と錘部の間でアライメントズレが生じていた。すなわち、エッチングレートを微調整することが困難であり、例えば、一部においては枠体に対して支持部がはみ出るように段差が形成され、他の一部においては逆に支持部に対して枠体がはみ出るように段差が形成されてしまっていた。
【0006】
このようなアライメントズレにより、第1の半導体基板においてバネとして機能する範囲がばらつくため、センサ感度もばらつき、製造時の歩留まりが低下するという問題があった。特に、平面視において、枠体の内縁の外側に支持部の開口縁が位置する場合や、変位部の外縁の外側に錘部の外縁が位置する場合には、本来、バネとして機能しない部分までバネとして機能するため、センサ感度のばらつきが大きくなっていた。
【0007】
さらに、このような加工プロセスにより形成される力学量検出センサにおいては、梁部側面と枠体の内側面との角部や、梁部の側面と錘部の外側面との角部がR形状に加工され、このR形状の曲率に応じて梁部の接続部分における応力値も変わるため、センサ感度がばらつき、製造時の歩留まりが低下するという問題があった。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、加工プロセスに起因したセンサ感度のばらつきを抑えて製造時の歩留まりを向上することができる力学量検出センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の力学量検出センサは、枠体と、前記枠体の内側に位置する変位部と、前記枠体に対し前記変位部を揺動可能に支持する梁部とが形成された第1の基板と、開口部を有し、前記枠体に接続された支持部と、前記変位部に接続された錘部とが形成され、前記第1の基板に積層された第2の基板と、前記梁部の撓み量に基づいて力学量に応じた信号を出力する検出素子とを備え、平面視において、前記第1の基板および前記第2の基板が、少なくとも前記枠体の内縁における前記梁部との接続部分が前記支持部の開口縁の外側に位置する第1の位置関係および/または少なくとも前記変位部の外縁における前記梁部との接続部分が前記錘部の外縁の内側に位置する第2の位置関係をとることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、アライメントズレが生じていても、梁部の根本部分において、常に枠体に対して支持部がはみ出るように段差が形成されると共に、変位部に対して錘部がはみ出るように段差が形成されるため、第1の基板においてバネとして機能する範囲のばらつきを小さくし、センサ感度のばらつきを抑えて製造時の歩留まりを向上させることができる。特に、平面視において、本来、バネとして機能しない枠体の一部および変位部の一部がバネとして機能するのを防止することができる。さらに、梁部の側面と枠体の内側面および変位部の外側面との角部がR形状に加工されていても、R形状の曲率の違いによる応力値の影響を小さくして、センサ感度のばらつきを抑えて製造時の歩留まりを向上させることができる。
【0011】
本発明は、上記力学量検出センサにおいて、平面視において、前記支持部の開口縁の外側に前記枠体の内縁が位置し、前記錘部の外縁の内側に前記変位部の外縁が位置することを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、容易な加工により、平面視において、枠体と梁部の接続部分を支持部の開口縁の外側に位置させると共に、変位部と梁部の接続部分を錘部の外縁の内側に位置させることができる。
【0013】
本発明は、上記力学量検出センサにおいて、前記支持部の前記開口部を形成する内側面と前記支持部の前記枠体に接続される接続面とで形成される角部が面取りされていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、支持部の面取りされた部分において梁部に生じる負荷が分散されるため、梁部に対する応力集中を防ぎ、衝撃による梁部の破損を防止することができる。また、梁部と支持部との衝突による損傷を軽減することができる。
【0015】
本発明は、上記力学量検出センサにおいて、前記錘部の外側面と前記錘部の前記変位部に接続される接続面とで形成される角部が面取りされていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、錘部の面取りされた部分において梁部に生じる負荷が分散されるため、梁部に対する応力集中を防ぎ、衝撃による梁部の破損を防止することができる。また、梁部と錘部との衝突による損傷を軽減することができる。
【0017】
本発明は、上記力学量検出センサにおいて、前記面取りは、曲面状に面取りされていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、エッチング加工により簡易に面取りすることができる。
【0019】
本発明は、上記力学量検出センサにおいて、前記第1の基板と前記第2の基板は、絶縁層を介して積層されており、前記梁部は、前記第1の基板と前記絶縁層とを積層した状態で形成されることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、絶縁層を残存した状態で梁部が形成されるため、支持部や錘部において梁部を支持する角部からの反力により梁部に対し直に応力が集中するのを防ぎ、梁部の破損を防止することができる。また、絶縁層を残存させることで、絶縁層の除去による加工量のばらつきに応じたバネ定数の変化を小さくし、センサ感度のばらつきを抑えて製造時の歩留まりを向上させることができる。
【0021】
本発明は、上記力学量検出センサにおいて、前記梁部の前記枠体側で前記梁部の側面と前記支持部の内側面とが平面視において直角に交わることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、梁部の枠体側で梁部の側面と支持部の内側面とが平面視において直角に交わるため、枠体側の根本部分のR形状の曲率のばらつきに起因したセンサ感度のばらつきを抑えて、製造時の歩留まりを向上させることができる。
【0023】
本発明は、上記力学量検出センサにおいて、前記梁部の前記変位体側で前記梁部の側面と前記錘部の外側面とが平面視において直角に交わることを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、梁部の変位体側で梁部の側面と錘部の外側面とが平面視において直角に交わるため、変位部側の根本部分のR形状の曲率のばらつきに起因したセンサ感度のばらつきを抑えて、製造時の歩留まりを向上させることができる。
【0025】
本発明は、上記力学量検出センサにおいて、前記検出素子は、圧電素子であることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、簡易な構成により検出素子を構成することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、加工プロセスに起因したセンサ感度のばらつきを抑えて製造時の歩留まりを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る力学量検出センサの実施の形態を示す図であり、力学量検出センサの斜視図である。
【図2】本発明に係る力学量検出センサの実施の形態を示す図であり、力学量検出センサの分解斜視図である。
【図3】本発明に係る力学量検出センサの実施の形態を示す図であり、力学量検出センサの上面模式図である。
【図4】本発明に係る力学量検出センサの実施の形態を示す図であり、(a)は図3のA−A線に沿う断面模式図、(b)は図3のB−B線に沿う断面模式図である。
【図5】本発明に係る力学量検出センサの実施の形態を示す図であり、(a)は錘部がX軸回りに回動する際の力学量検出センサの検出動作説明図であり、(b)は錘部がZ軸方向に直動する際の力学量検出センサの検出動作説明図である。
【図6】本発明に係る力学量検出センサの実施の形態を示す図であり、加工プロセスの一例を説明するための図である。
【図7】本発明に係る力学量検出センサの実施の形態を示す図であり、テスト用の力学量検出センサの上面模式図である。
【図8】本発明に係る力学量検出センサの実施の形態を示す図であり、図7で用いた力学量検出センサの出力電圧結果である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る力学量検出センサの斜視図である。図2は、本発明の実施の形態に係る力学量検出センサの分解斜視図である。
【0030】
図1および図2に示すように、力学量検出センサ1は、第1の半導体基板2と第2の半導体基板3とを絶縁層4を介して接合して構成されている。力学量検出センサ1は、例えば、第1の半導体基板2をシリコン層、絶縁層4を酸化シリコン層、第2の半導体基板3をシリコン層とした3層構造をなすSOI(Silicon On Insulator)基板を用いて製造可能である。
【0031】
第1の半導体基板2には、第2の半導体基板3と比較して相対的に薄板状のシリコン層で構成され、矩形枠状の枠体11と、枠体11の内側に配置された変位部12と、枠体11の四辺と変位部12とを接続する4つの梁部13とが形成されている。枠体11、変位部12、梁部13は、第1の半導体基板2をエッチングにより変位部12の周囲に上面視L字状の4つの開口を設けることで形成される。
【0032】
枠体11は、L字状の4つの開口により変位部12を囲うように形成されている。変位部12は、略正方形状に形成され、枠体11の枠内中央に配置されている。4つの梁部13は、それぞれ枠体11の一辺から対向辺に向かって延在する長尺部15と、長尺部15に連なり、変位部12の四隅に接続される短尺部16とから構成される。このように、4つの梁部13は、長尺部15を有しているため、撓み易い構成となっている。
【0033】
各梁部13の上面には、枠体11との接続部分に位置してそれぞれ検出素子17が設けられており、この検出素子17により各梁部13の撓み量が検出される。検出素子17は、いわゆる圧電素子であり、図示しない下地膜の上面に、下部電極25、圧電体膜26、上部電極27の順に蒸着等により成膜することで形成される(図4参照)。検出素子17は、梁部13に生じた撓みにより変形し、この変形による圧力を電圧に変換して出力する。
【0034】
第2の半導体基板3には、第1の半導体基板2と比較して相対的に厚板状のシリコン層で構成され、矩形状の開口部23を有する支持部21と、開口部23の内側に配置された錘部22とが形成されている。支持部21および錘部22は、第1の半導体基板2をエッチングにより錘部22の周囲に矩形枠状の開口を設けることで形成される。
【0035】
支持部21は、上面視において枠体11に対応した形状を有しており、枠体11の下面に絶縁層4を介して接合されている。錘部22は、略直方体形状に形成されており、変位部12の下面に絶縁層4を介して接合されている。このように、錘部22は、支持部21の開口部23の内側において、変位部12を介して4つの梁部13により揺動自在に支持される。よって、錘部22の重心位置に慣性力が作用すると、X軸回りの回動、Y軸回りの回動、Z軸方向の直動が可能となっている。
【0036】
次に、図3および図4を参照して、第1の半導体基板と第2の半導体基板の接合状態について詳細に説明する。図3は、本発明の実施の形態に係る力学量検出センサの上面模式図である。図4は、図3の断面模式図であり、(a)はA−A線に沿う断面模式図、(b)はB−B線に沿う断面模式図である。
【0037】
図3に示すように、枠体11の内縁11aの各辺は、それぞれ変位部12の外縁12aの各辺に対して平行に形成されており、枠体11の内縁11aの各辺から対向する変位部12の外縁12aの各辺までの距離はそれぞれ同一となるように形成されている。また、支持部21の開口縁21aの各辺は、それぞれ錘部22の外縁22aの各辺に対して平行に形成されており、支持部21の開口縁21aの各辺から対向する錘部22の外縁22aの各辺までの距離はそれぞれ同一となるように形成されている。このとき、枠体11の内縁11aの各辺から対向する変位部12の外縁12aの各辺までの距離よりも、支持部21の開口縁21aの各辺から対向する錘部22の外縁22aの各辺までの距離の方が短く形成されている。
【0038】
よって、支持部21の開口縁21aの外側に枠体11の内縁11aが位置されるため、支持部21の開口縁21aを露出するように段差が形成される。この構成により、枠体11の内縁11aにおける梁部13との接続部分が支持部21の開口縁21aの外側に位置するため、枠体11と支持部21との間で加工プロセスによるアライメントズレが生じた場合であっても、常に枠体11に対して支持部21がはみ出るように段差が形成されるため、梁部13の一部が揺動時の支点となり、枠体11の一部が揺動時の支点となることがない。
【0039】
同様に、錘部22の外縁22aの内側に変位部12の外縁12aが位置されるため、錘部22の外縁22aを露出するように段差が形成される。この構成により、変位部12の外縁12aにおける梁部13との接続部分が錘部22の外縁22aの内側に位置するため、変位部12と錘部22との間で加工プロセスによるアライメントズレが生じた場合であっても、常に変位部12に対して錘部22がはみ出るように段差が形成されるため、梁部13の一部が揺動時の支点となり、変位部12の一部が揺動時の支点となることがない。
【0040】
このように、アライメントズレにより枠体11や変位部12が揺動時の支点となることがないため、枠体11の一部や変位部12の一部がバネとして機能することを確実に防止し、センサ感度のばらつきを抑えることが可能となる。なお、枠体11と支持部21とで形成される段差、および変位部12と錘部22とで形成される段差の突出長は、5μm程度のアライメントズレを考慮して10μm程度に設計されている。
【0041】
図4(a)に示すように、支持部21の開口部23を形成する内側面21bと枠体11に接合される接合面21cとで形成される角部には、曲面状の面取部21dが形成されている。同様に、錘部22の外側面22bと変位部12に接合される接合面22cとで形成される角部にも、曲面状の面取部22dが形成されている。このように、支持部21および錘部22が面取りされているため、衝撃により梁部13が矢印方向に大きく揺動して支持部21および錘部22に衝突しても、梁部13の損傷を軽減することが可能となる。
【0042】
また、図4(a)および図4(b)に示すように、梁部13は、枠体11との接続部分および変位部との接続部分において、揺動時に面取部21d、22dにより支持される。この構成により、面取部21d、22dにおいて梁部13に生じる負荷が分散されるため、梁部13に対する応力集中を防ぎ、衝撃による梁部13の破損を防止することが可能となる。なお、本実施の形態では、面取部21d、22dを曲面で形成したが、この構成に限定されるものではない、梁部13に作用する負荷を分散可能な構成であればよく、例えば、傾斜面で形成する構成としてもよい。
【0043】
さらに、梁部13は、絶縁層4を残存させた状態で形成されている。この構成により、支持部21や錘部22から受ける反力により、梁部13に対して直に応力が集中するのを防ぎ、梁部13の破損を防止することが可能となる。また、絶縁層4を残存させることで、絶縁層4の除去による加工量のばらつきに応じたバネ定数の変化を小さくし、センサ感度のばらつきを抑えることが可能となる。なお、梁部13の加工プロセスについては、力学量検出センサ1の加工プロセスと共に後述する。
【0044】
また、図3に戻り、梁部13の長尺部15の枠体11側が支持部21の段差に支持され、平面視において梁部13の長尺部15の両側面15aがそれぞれ支持部21の内側面21aに対して直交している。また、梁部13の短尺部16の変位部12側が錘部22の段差に接し、平面視において梁部13の短尺部16の両側面16aがそれぞれ錘部22の外側面22aに対して直交している。このように、梁部13は、両端側において両側面が支持部21の内側面21aおよび錘部22の外側面22aに直交して根本部分を避けた位置を支点として揺動されるため、梁部13の根本部分のR形状の曲率のばらつきに起因したセンサ感度のばらつきを抑えることが可能となる。
【0045】
次に、図5を参照して、力学量検出センサの動作について簡単に説明する。図5は、力学量検出センサの検出動作説明図であり、(a)は錘部がX軸回りに回動する際の検出動作説明図であり、(b)は錘部がZ軸方向に直動する際の検出動作説明図である。
【0046】
図5(a)に示すように、力学量検出センサ1に対して加速度が働いて、錘部22に対してY軸方向に慣性力が作用すると、錘部22はX軸回りに回動する。このとき、梁部13a、bの変位部12側がZ軸方向下方に移動して、梁部13a、bの枠体11側にZ方向上方に力が作用する。また、梁部13c、dの変位部12側がZ軸方向上方に移動して、梁部13c、dの枠体11側にZ軸方向下方に力が作用する。そして、梁部13a、bの枠体11側はZ軸方向上方に膨らむように撓み、梁部13c、dの枠体11側はZ軸方向下方に凹むように撓む。
【0047】
検出素子17a、bは、それぞれ梁部13a、bの枠体11側の撓みに合わせてZ軸方向上方に膨らむように変形し、変形に応じた電圧を出力する。また、検出素子17c、dは、それぞれ梁部13c、dの枠体11側の撓みに合わせてZ軸方向下方に凹むように変形し、変形に応じた電圧を出力する。各検出素子17a、b、c、dから出力された電圧は、図示しない演算回路において演算され、加速度が算出される。
【0048】
なお、錘部22がY軸回りに回動する場合には、逆に、梁部13a、bの枠体11側にZ軸方向下方に力が作用し、梁部13c、dの枠体11側にZ軸方向上方に力が作用する。したがって、検出素子17a、bは、それぞれ梁部13a、bの枠体11側の撓みに合わせてZ軸方向下方に凹むように変形し、検出素子17c、dは、それぞれ梁部13c、dの枠体11側の撓みに合わせてZ軸方向上方に膨らむように変形する。
【0049】
図5(b)に示すように、力学量検出センサ1に対して加速度が働いて、錘部22に対してZ軸方向下方に慣性力が作用すると、錘部22はZ方向下方に直動する。このとき、梁部13a、b、c、dの変位部12側がZ軸方向下方に移動して、梁部13a、b、c、dの枠体11側にZ軸方向上方に力が作用する。そして、梁部13a、b、c、dの枠体11側はZ軸方向上方に膨らむように撓み、検出素子17a、b、c、dもZ軸方向上方に膨らむように変形する。そして、各検出素子17a、b、c、dから出力された電圧は、図示しない演算回路において演算され、加速度が算出される。
【0050】
なお、力学量検出センサ1において、錘部22および変位部12の質量、各梁部13のバネ定数、枠体11と支持部21との間の段差および変位部12と錘部22との間の段差の突出長を適宜変更することによってセンサ感度を任意に調整することも可能である。
【0051】
以下、図6を参照して、力学量検出センサの加工プロセスの一例について説明する。図6は、本発明の実施の形態に係る加工プロセスの一例を説明するための図である。
【0052】
図6(a)に示すように、第1の半導体基板2、絶縁層4、第2の半導体基板3を積層したSOI基板を準備し、第1の半導体基板2の上面にサポート基板31が配置される。次に、図6(b)に示すように、第2の半導体基板3の下面が研磨され薄化されると共に、第2の半導体基板3がフォトリソグラフィおよびエッチングにより加工されて支持部21および錘部22が形成される。このとき、支持部21の内側面21bと第1の半導体基板2側の接合面21cとで形成される角部、および錘部22の外側面22bと第1の半導体基板2側の接合面22cとで形成される角部が面取りされる(図4参照)。
【0053】
なお、本実施の形態においては、エッチングの条件を調整することにより、支持部21および錘部22と絶縁層4との境界部分付近においてオーバエッジが進行するようにして面取部21d、22dを形成する構成としたが、面取部21d、22dを形成可能であればどのような構成でよい。また、面取りとは、支持部21および錘部22の絶縁層4側の角部において、支持部21と枠体11との間、および錘部22と変位部12との間に隙間を生じさせることを示すものであり、加工方法が限定されるものではない。
【0054】
次に、図6(c)に示すように、ベース基板32がフォトリソグラフィおよびエッチングにより加工されてキャビティ33が形成され、第2の半導体基板3の下面に接合される。次に、図6(d)に示すように、第1の半導体基板2の上面からサポート基板31が剥離され、第1の半導体基板2の上面が研磨されて所望の厚みに薄化される。次に、図6(e)に示すように、第1の半導体基板2の上面にスパッタリングにより金属材および圧電材が被着され、フォトリソグラフィおよびエッチングによりパターンニングされて検出素子17が形成される。
【0055】
次に、図6(f)に示すように、第1の半導体基板2および絶縁層4がフォトリソグラフィおよびエッチングにより加工されて枠体11、梁部13、変位部12が形成される。このとき、梁部13に接合された絶縁層4はエッチングにより除去されずに残存される。このようにして、図1に示す力学量検出センサ1を得ることが可能となる。
【0056】
ここで、図7および図8を参照して、本件出願人により枠体と支持体との間に段差を設けたことによるセンサ感度のばらつきを検証するために実施されたテストについて説明する。このテストにおいては、梁部の根本部分のR形状の有無による出力電圧結果を比較することでセンサ感度のばらつきを検証する。
【0057】
図7は、テスト用の力学量検出センサの上面模式図であり、(a)は段差無しでR形状有り、(b)は段差無しでR形状無し、(c)は段差有りでR形状有り、(d)は段差有りでR形状無しの力学量検出センサをそれぞれ示している。図8は、図7で用いた力学量検出センサの出力電圧結果である。なお、テストにおいては、一梁構造の力学量検出センサを用いている。まず、一梁構造の力学量検出センサについて簡単に説明する。
【0058】
図7(a)に示すように、一梁構造の力学量検出センサにおいては、1つの梁部45により変位部43および錘部44が支持される。梁部45は、枠体42に一端側が接続された長尺部48と、長尺部48の他端側に一端側が接続された中尺部47と、中尺部47の他端側に一端側が接続され、変位部43に他端側が接続された短尺部46とから構成される。長尺部48の枠体42側には第1の検出素子51、長尺部48の中間位置には第2の検出素子52、中尺部47の中間位置には第3の検出素子53がそれぞれ配置される。
【0059】
また、梁部45の根本部分において梁部45の側面と枠体42の内側面との角部55がR形状であり、枠体42と支持部41が面一に形成されている。なお、図7(b)は、図7(a)と梁部45の根本部分において梁部45の側面と枠体42の内側面との角部56が直角形状である点においてのみ相違する。図7(c)は、図7(a)と枠体42と支持部41との間に段差が形成されている点においてのみ相違する。図7(d)は、図7(a)と梁部45の根本部分において梁部45の側面と枠体42の内側面との角部56が直角形状である点および枠体42と支持部41との間に段差が形成されている点においてのみ相違する。
【0060】
このように構成された力学量検出センサに対し、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向に1G(9.8m/s)の加速度を加えると、図8に示すような出力電圧結果が得られる。まず、枠体42と支持部41との間に段差を設けていない場合について説明する。図8(a)に示すように、Z軸方向に加速度が加わったときに、図7(a)に示す力学量検出センサについては第1の検出素子51に0.555vの出力電圧が生じ、図7(b)に示す力学量検出センサについては0.584vの出力電圧が生じる。すなわち、梁部45の根本部分のR形状の有無により約5%のセンサ感度のばらつきが生じている。
【0061】
一方、枠体42と支持部41との間に段差を設けた場合には、図8(b)に示すように、Z軸方向に加速度が加わったときに、図7(c)に示す力学量検出センサについては第1の検出素子51に0.566vの出力電圧が生じ、図7(d)に示す力学量検出センサについては0.569vの出力電圧が生じる。すなわち、梁部45の根本部分のR形状の有無により約0.4%のセンサ感度のばらつきが生じている。
【0062】
このように、枠体42と支持部41との間に段差を設けた場合には、段差を設けない場合と比較して梁部45の根本部分のR形状の有無によるセンサ感度のばらつきを1/10以下に抑制することが可能となる。
【0063】
以上のように、本実施の形態に係る力学量検出センサ1によれば、アライメントズレが生じていても、梁部13の根本部分において、常に枠体11に対して支持部21がはみ出るように段差が形成されると共に、変位部12に対して錘部22がはみ出るように段差が形成されるため、第1の半導体基板2においてバネとして機能する範囲のばらつきを小さくし、センサ感度のばらつきを抑えて製造時の歩留まりを向上させることが可能となる。特に、本来、バネとして機能しない枠体11の一部や変位部12の一部がバネとして機能するのを防止することが可能となる。さらに、梁部13の側面と枠体11の内側面との角部がR形状に加工されていても、R形状の曲率の違いによる応力値の影響を小さくして、センサ感度のばらつきを抑えて製造時の歩留まりを向上させることが可能となる。
【0064】
なお、上記した実施の形態においては、四梁構造の力学量検出センサを例示して説明したが、この構成に限定されるものではない。梁により錘部を支持する構成であればよく、例えば、錘部の形状や梁部の形状および数量が限定されるものではない。
【0065】
また、上記した実施の形態においては、検出素子として圧電素子を例示して説明したが、この構成に限定されるものではない。梁部の撓みに基づいて力学量に応じた信号を出力する構成であればよく、例えば、圧電素子の代わりにピエゾ素子を用いてもよい。
【0066】
また、上記した実施の形態においては、枠体の内縁および支持部の開口縁の全周に亘って段差が形成される構成としたが、この構成に限定されるものではない。少なくとも、枠体と梁部との接続部分に対応して段差が形成されればよい。同様に、変位部の外縁および錘部の外縁の全周に亘って段差が形成される必要はなく、少なくとも、変位部と梁部との接続部分に対応して段差が形成されればよい。
【0067】
また、上記した実施の形態においては、枠体と支持部との間および変位部と錘部との間に段差が形成される構成としたが、いずれか一方にのみに段差が形成されるようにしてもよい。また、支持部および錘部のうち、いずれか一方のみに面取部が形成されるようにしてもよい。さらに、枠体と梁部との根本部分および変位部と梁部との根本部分のうちいずれか一方のみが直角形状に形成される構成としてもよい。
【0068】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上説明したように、本発明は、加工プロセスに起因したセンサ感度のばらつきを抑えて製造時の歩留まりを向上することができるという効果を有し、特に、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸の3軸方向の加速度を検出する力学量検出センサに有用である。
【符号の説明】
【0070】
1 力学量検出センサ
2 第1の半導体基板(第1の基板)
3 第2の半導体基板(第2の基板)
4 絶縁層
11 枠体
11a 内縁
12 変位部
12a 外縁
13 梁部
17 検出素子
21 支持部
21a 開口縁
22 錘部
22a 外縁
21d、22d 面取部
23 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠体と、前記枠体の内側に位置する変位部と、前記枠体に対し前記変位部を揺動可能に支持する梁部とが形成された第1の基板と、
開口部を有し、前記枠体に接続された支持部と、前記変位部に接続された錘部とが形成され、前記第1の基板に積層された第2の基板と、
前記梁部の撓み量に基づいて力学量に応じた信号を出力する検出素子とを備え、
平面視において、前記第1の基板および前記第2の基板が、少なくとも前記枠体の内縁における前記梁部との接続部分が前記支持部の開口縁の外側に位置する第1の位置関係および/または少なくとも前記変位部の外縁における前記梁部との接続部分が前記錘部の外縁の内側に位置する第2の位置関係をとることを特徴とする力学量検出センサ。
【請求項2】
平面視において、前記支持部の開口縁の外側に前記枠体の内縁が位置し、前記錘部の外縁の内側に前記変位部の外縁が位置することを特徴とする請求項1に記載の力学量検出センサ。
【請求項3】
前記支持部の前記開口部を形成する内側面と前記支持部の前記枠体に接続される接続面とで形成される角部が面取りされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の力学量検出センサ。
【請求項4】
前記錘部の外側面と前記錘部の前記変位部に接続される接続面とで形成される角部が面取りされていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の力学量検出センサ。
【請求項5】
前記面取りは、曲面状に面取りされていることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の力学量検出センサ。
【請求項6】
前記第1の基板と前記第2の基板は、絶縁層を介して積層されており、
前記梁部は、前記第1の基板と前記絶縁層とを積層した状態で形成されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の力学量検出センサ。
【請求項7】
前記梁部の前記枠体側で前記梁部の側面と前記支持部の内側面とが平面視において直角に交わることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の力学量検出センサ。
【請求項8】
前記梁部の前記変位体側で前記梁部の側面と前記錘部の外側面とが平面視において直角に交わることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の力学量検出センサ。
【請求項9】
前記検出素子は、圧電素子であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の力学量検出センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−216834(P2010−216834A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60859(P2009−60859)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】