説明

加圧ローラ用フィルム

【課題】 接着層を必要としない加圧ローラ用フィルムであって、引張強度、引裂強度などと共に、優れた被記録材との離型性など、従来より得られていた特性を、維持ないし向上させた加圧ローラ用フィルムを得ること。
【解決手段】 フッ素樹脂パウダーが分散されたポリイミド層を有することを特徴とする加圧ローラ用フィルム。特に、フッ素樹脂パウダーがポリイミド層中に、10〜20vol%分散されており、平均粒子径が、1〜20μmであることを特徴とする加圧ローラ用フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式を用いた画像形成装置、特に複写機、レーザープリンターなどの画像形成装置において、被記録材に転写されたトナーを定着させるための定着装置の加圧ローラ用フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
複写機、レーザープリンターなどの画像形成装置において、被記録材に転写されたトナーを定着させる一般的な定着装置は、加熱用回転体としての定着ローラと、定着ローラに圧接させた加圧用回転体としての加圧ローラより構成されている。
【0003】
未定着画像(トナー画像)が形成された被記録材(転写紙、印字用紙、静電記録紙など)は、これらのローラを回転させることによって、ローラ間の圧接ニップ部に導入される。そして、圧接ニップ部を通過する際に、定着加熱ローラからの熱と圧接ニップ部の圧力によって、未定着画像を形成するトナーが被記録材上に永久画像として熱圧定着される。
【0004】
このような画像形成装置における定着装置の加圧ローラには、フィルムが用いられているものがある。
【0005】
前記フィルムとしては、引張強度、引裂強度などの特性と共に、トナーとの離型性が求められており、図2のようなフィルムが用いられている。
【0006】
即ち、トナーとの優れた離型性を有するフッ素樹脂からなるシート1と、ポリイミドからなるシート2とを、接着剤3により貼り合わせたフィルムが用いられている。(特許第3032726号公報)
【0007】
しかし、前記のフィルムでは、フッ素樹脂の接着力が弱く、フッ素樹脂からなるシート1と、ポリイミドからなるシート2とを、接着するための接着剤3が必要であるため、接着剤3の影響による剥離、製造工程数の増加、接着層を含めた複数層の品質管理、高コストなどの問題点があった。
【特許文献1】特許第3032726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、接着層を必要としない加圧ローラ用フィルムであって、引張強度、引裂強度などと共に、優れた被記録材との離型性など、従来より得られていた特性を、維持ないし向上させた加圧ローラ用フィルム、およびそれを用いた加圧ローラを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、フッ素樹脂パウダーを、ポリイミドに分散させることにより、前記の課題を達成させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明は、フッ素樹脂パウダーが分散されたポリイミド層を有することを特徴とする加圧ローラ用フィルムを提供するものである。
【0011】
従来、トナーとの離型性の観点より、優れた離型性を有するフッ素樹脂の層が、フィルム表面に設けられていたが、フッ素樹脂の層を設けなくても、フッ素樹脂のパウダーを、ポリイミドに分散させることにより、加圧ローラ用フィルムに必要とされる離型性を十分に満足させられることが分かった。
【0012】
図1は、本発明の加圧ローラ用フィルムの断面図であり、4はポリイミド層、5はポリイミド層4に分散されたフッ素樹脂パウダーである。
【0013】
ポリイミド層に分散させるフッ素樹脂パウダーとしては、離型性、ポリイミド層中での分散性などより、ビニリデンフロライド、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、テトラフルオロプロピレン、ヘキサフルオロプロピレンなどの単量体の重合体、共重合体が好ましい。
【0014】
請求項2は、この好ましい態様に対応するものであり、前記の加圧ローラ用フィルムであって、フッ素樹脂パウダーが、ビニリデンフロライド、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、テトラフルオロプロピレン、ヘキサフルオロプロピレンの単量体の重合体、共重合体のいずれか1種又は2種以上であることを特徴とする加圧ローラ用フィルムを提供する。
【0015】
フッ素樹脂パウダーは、ポリイミド層中に、10〜20vol%分散されていることが好ましい。10vol%以上とすることにより、トナーとの離型性を十分確保でき、20vol%以下とすることにより、フィルムの引張強度、引裂強度を十分確保することができる。
【0016】
請求項3は、この好ましい態様に対応するものであり、フッ素樹脂パウダーが、ポリイミド層中に、10〜20vol%分散されていることを特徴とする加圧ローラ用フィルムを提供する。
【0017】
フッ素樹脂パウダーの平均粒子径は、表面粗度に影響し、ひいては、強度、離型性に影響を与える。このため、平均粒子径が、1〜20μmの範囲であることが、好ましい。
【0018】
請求項4は、この好ましい態様に対応するものであり、前記の加圧ローラ用フィルムであって、フッ素樹脂パウダーの平均粒子径が、1〜20μmであることを特徴とする加圧ローラ用フィルムを提供する。
【0019】
定着加圧ローラ用フィルムの引張強度、引裂強度を十分確保するため、フィルムの厚さは、30〜150μmであることが好ましい。30μm以上とすることにより、引張強度、引裂強度を十分確保することができ、一方、150μm以下とすることにより、熱容量が小さくなり、トナーの熱融着に必要な熱量を少なくすることができる。
【0020】
請求項5は、この好ましい態様に対応するものであり、前記の加圧ローラ用フィルムであって、厚さが、30〜150μmであることを特徴とする加圧ローラ用フィルムを提供する。
【0021】
前記してきた加圧ローラ用フィルムは、加圧ローラに必要とされる離型性を有すると共に、使用中にフッ素樹脂層の剥離による問題もない。
【発明の効果】
【0022】
本発明の加圧ローラ用フィルムは、フッ素樹脂パウダーが、ポリイミドに分散されていることを特徴とする加圧ローラ用フィルムであるため、接着剤層を形成する必要がなく、このため接着剤の影響による剥離の問題がなく、製造工程数も少なく、接着層を含めた複数層の品質管理も単層のフィルムの管理だけで済み、さらにコストが安い。その一方、トナーとの離型性に優れ、また内面摺動性(加圧ローラ内面と他の部品との摺動性)が向上し、安定した品質の高い加圧ローラ用フィルムを得ることができる。
【0023】
また、フッ素樹脂パウダーが、加圧ローラ用フィルムに、10〜20vol%分散されている加圧ローラ用フィルムの場合、トナーとの離型性を満足させることができると共に、フィルムの引張強度、引裂強度を十分確保することができる。
【0024】
また、フッ素樹脂パウダーの平均粒子径が、1〜20μmである加圧ローラ用フィルムの場合、トナーとの離型性を十分満足させることができると共に、フィルムの引張強度、引裂強度を十分確保することができる。
【0025】
また、厚さが、30〜150μmである加圧ローラ用フィルムの場合、フィルムの引張強度、引裂強度を十分確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
実験例
三井・デュポンフロロケミカル株式会社製、品番MP−311の四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA、平均粒子径約10μm)を用い、これに、宇部興産株式会社製、品番U−ワニスS301のポリイミドワニスを、両者の合計量に対して表1で示す割合となるように添加した。
【0027】
得られた混合物を、混練し、円筒状に成形して乾燥した。
【0028】
その後、2時間、400℃の雰囲気下で焼成させ、加圧ローラ用フィルムを得た。
【0029】
次に、得られた加圧ローラ用フィルムについて、株式会社島津製作所製、型番AGS−500Dの引張試験機で、加圧ローラの軸方向および周方向の引張強度を調べた。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
次に、加圧ローラ用フィルムについて、株式会社島津製作所製、型番AGS−500Dの引張圧縮試験機で、加圧ローラの軸方向および周方向の伸びを調べた。結果を表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
次に、加圧ローラ用フィルムについて、株式会社島津製作所製、型番AGS−500Dの引張圧縮試験機で、加圧ローラの軸方向および周方向の引裂強度を調べた。結果を表3に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
次に、前記と同様の製法により、全長100mmと10mmの加圧ローラ用フィルムを得た。その後、株式会社島津製作所製、型番AGS−500Dの引張圧縮試験機で、加圧ローラ用フィルムの座屈荷重を調べた。測定においては、φ32.3ベルト(膜厚90μm)を、軸方向に圧縮させ、座屈した時の最大荷重を座屈荷重とした。結果を表4に示す。
【0036】
【表4】

【0037】
次に、加圧ローラ用フィルムについて、株式会社東京精密製、型番サーフコム480Aの表面粗さ形状測定機で、加圧ローラの軸方向および周方向の外表面粗度(Rz)を調べた。結果を表5に示す。
【0038】
【表5】

【0039】
次に、加圧ローラ用フィルムについて、株式会社東京精密製、型番サーフコム480Aの表面粗さ形状測定機で、加圧ローラの軸方向および周方向の内表面粗度(Rz)を調べた。結果を表6に示す。
【0040】
【表6】

【0041】
次に、加圧ローラ用フィルムについて、協和界面科学株式会社製、型番CA−D型の接触角計で、表面側の接触角(測定面に滴下した水滴の断面の角度)を調べた。
測定は、表面研磨したフィルムと表面研磨していないフィルムについて行った。表面研磨は、前記により得られた加圧ローラ用フィルムを、600rpmで回転させ、研磨フィルムを押し当てて研磨することにより行った。結果を表7に示す。
【0042】
【表7】

【0043】
以上の結果より分かる通り、本発明の範囲にある試料番号2、3の試料では、加圧ローラ用フィルムに求められる特性が、十分に満足させられている。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の加圧ローラ用フィルムの一例を示す断面図である。
【図2】従来の加圧ローラ用フィルムの一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 フッ素樹脂からなるシート
2 ポリイミドからなるシート
3 接着剤
4 ポリイミド層
5 フッ素樹脂パウダー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂パウダーが分散されたポリイミド層を有することを特徴とする加圧ローラ用フィルム。
【請求項2】
フッ素樹脂パウダーが、ビニリデンフロライド、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、テトラフルオロプロピレン、ヘキサフルオロプロピレンの単量体の重合体、共重合体のいずれか1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1に記載の加圧ローラ用フィルム。
【請求項3】
フッ素樹脂パウダーが、ポリイミド層中に、10〜20vol%分散されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の加圧ローラ用フィルム。
【請求項4】
フッ素樹脂パウダーの平均粒子径が、1〜20μmであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の加圧ローラ用フィルム。
【請求項5】
厚さが、30〜150μmであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の加圧ローラ用フィルム。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−113226(P2006−113226A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−299541(P2004−299541)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】