説明

加圧浮上装置及び加圧浮上方法

【課題】加圧浮上装置及び加圧浮上方法において、2次デカンタ汁液や脱蛋白処理液等の排水を原水として用いた場合であっても、泡成分に起因する不具合の発生を抑制する。
【解決手段】急速攪拌槽1に供される前の原水X1に対して消泡剤Y3を供給すると共に、原水X1、pH調整剤Y1及び無機凝集剤Y2を急速攪拌槽1に貯留される原水X1の液面より下方に供給し、高分子凝集剤Y4を緩速攪拌槽3に貯留される原水X1の液面より下方に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体成分を含む原水に気体が溶解された加圧水を供給してから圧力開放することによって、原水を固体成分と液体成分とに分離する加圧浮上装置及び加圧浮上方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、固体成分を含む原水を固体成分と液体成分とに分離する固液分離装置として、加圧浮上装置が知られている。
この加圧浮上装置は、固体成分を含む原水に対して加圧することによって空気等の気体を溶解させ、大気圧等に圧力開放する際に発生する気泡を固体成分に付着させて浮上させることで、原水を固体成分と液体成分とに分離する。
【0003】
さて近年においては、馬鈴薯澱粉を製造する際に発生した排水の処理方法が求められている。例えば、特許文献1には、馬鈴薯澱粉を製造する際に発生する排水の1つでる1次デカンタ汁液に含まれる蛋白質を凝固させて分離回収すると共に回収した凝固蛋白質を微生物によって処理する脱蛋白処理が提案されている。
【0004】
ところが、馬鈴薯澱粉を製造する際に発生する排水は、上記1次デカンタ汁液に限られるものではなく、1次デカンタ汁液よりも蛋白質の含有量が少ない2次デカンタ汁液等の他の排水も存在する。
また、特許文献1に示されるような脱蛋白処理にて蛋白質が分離回収された1次デカンタ汁液(脱蛋白処理液)も完全に蛋白質が除去されるわけではない。
このような2次デカンタ汁液や、脱蛋白処理液等の排水は、蛋白質の含有量が少ないため、熱エネルギー収支の面から脱蛋白処理を行うことが好ましくない。
【0005】
このため、従来においては、2次デカンタ汁液や脱蛋白処理液等の排水は、大型の重力式の沈殿槽で長時間貯留されることによって処理されている。
しかしながら、このような沈殿槽における処理は、大型の沈殿槽を設置するスペースを確保する必要があると共に処理に長時間かかるという問題を有している。さらには、排水に含まれるコロイド状の成分(浮遊性固形物)は、沈殿されないため、液体成分から分離することが難しい。
【0006】
そこで、2次デカンタ汁液や脱蛋白処理液等の排水を原水として、上述した加圧浮上装置に供することによって処理する方法が考えられる。
具体的には、排水に薬剤を添加して蛋白質が凝固及び凝集され、排水に含まれる固体成分が気泡によって分離される。
【特許文献1】特許3846131号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、2次デカンタ汁液や脱蛋白処理液等の排水を加圧浮上装置に供した場合には、これらの排水に含まれる蛋白質に起因して大量の泡成分が発生する。
そして、このような泡成分は、加圧浮上装置における処理において様々な不具合を生じさせる。具体的には、泡成分が原水となる排水と薬剤との混合を阻害してしまい、大量の薬剤を添加しないと凝固や凝集が進まず、過剰な薬剤が必要となる。また、泡成分が気泡による固形成分の浮上を阻害し、固形成分を十分に分離回収することが困難となる。また、泡成分が原水や処理水の上層に溜まるため、原水や処理水の液面の検出が困難となる。さらに、原水や処理水を送り出すポンプに泡成分が入り込むことによってキャビテーションが発生する。
【0008】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、加圧浮上装置及び加圧浮上方法において、2次デカンタ汁液や脱蛋白処理液等の排水を原水として用いた場合であっても、泡成分に起因する不具合の発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の加圧浮上装置は、蛋白質及び浮遊性固形物を含む原水にpH調整剤及び無機凝集剤を添加して攪拌することによって上記原水中に微小固形物を生成する急速攪拌槽と、上記微小固形物が生成された上記原水に高分子凝集剤を添加して攪拌することによって上記微小固形物を凝集させて凝集フロックとする緩速攪拌槽と、上記凝集フロックを含有する上記原水に気体が溶解された加圧水を供給する加圧水供給部と、上記加圧水が供給された上記原水を圧力開放することによって上記原水を固体成分と液体成分とに分離する分離部とを備える加圧浮上装置であって、上記急速攪拌槽に供給される前の上記原水に対して消泡剤を供給する消泡剤供給手段を備えると共に、上記原水、上記pH調整剤及び上記無機凝集剤が上記急速攪拌槽に貯留される上記原水の液面より下方に供給され、上記高分子凝集剤が上記緩速攪拌槽に貯留される上記原水の液面より下方に供給されることを特徴とする。
【0010】
このような特徴を有する本発明の加圧浮上装置によれば、消泡剤供給手段によって急速攪拌槽に供給される前の原水に対して消泡剤が供給され、急速攪拌槽に貯留される原水の液面より下方にpH調整剤及び無機凝集剤が供給され、緩速攪拌槽に貯留される原水の液面より下方に高分子凝集剤が供給される。
【0011】
また、本発明の加圧浮上装置においては、上記原水の蛋白質濃度が6200ppmである場合に、上記消泡剤の添加量は10.7ppmであるという構成を採用する。
【0012】
また、本発明の加圧浮上装置においては、上記無機凝集剤としてポリ鉄溶液を用い、該無機凝集剤の添加量を4000cc/m〜6000cc/mとするという構成を採用する。
【0013】
また、本発明の加圧浮上装置においては、上記無機凝集剤の添加量を4000cc/mとするという構成を採用する。
【0014】
また、本発明の加圧浮上装置においては、上記高分子凝集剤としてポリアクリルアミドを主成分とするノニオン・アニオン系の両性ポリマーを用い、上記高分子凝集剤の添加量を3000cc/m〜5000cc/mとすると共に濃度を0.15wt%とするという構成を採用する。
【0015】
また、本発明の加圧浮上装置においては、上記高分子凝集剤の添加量を3500cc/mとするという構成を採用する。
【0016】
また、本発明の加圧浮上装置においては、上記原水に上記pH調整剤を添加することによって、上記原水のpH値を5〜7とするという構成を採用する。
【0017】
また、本発明の加圧浮上装置においては、上記原水のpH値を6とするという構成を採用する。
【0018】
次に、本発明の加圧浮上方法は、蛋白質及び浮遊性固形物を含む原水にpH調整剤及び無機凝集剤を添加して攪拌することによって上記原水中に微小固形物を生成する急速攪拌工程と、上記微小固形物が生成された上記原水に高分子凝集剤を添加して攪拌することによって上記微小固形物を凝集させて凝集フロックとする緩速攪拌工程と、上記凝集フロックを含有する上記原水に気体が溶解された加圧水を供給する加圧水供給工程と、上記加圧水が供給された上記原水を圧力開放することによって上記原水を固体成分と液体成分とに分離する分離工程とを有する加圧浮上方法であって、上記急速攪拌工程に供される前の上記原水に対して消泡剤を供給する消泡剤供給工程を有すると共に、上記原水、上記pH調整剤及び上記無機凝集剤が上記急速攪拌工程にて貯留される上記原水の液面より下方に供給され、上記高分子凝集剤が上記緩速攪拌工程にて貯留される上記原水の液面より下方に供給されることを特徴とする。
【0019】
このような特徴を有する本発明の加圧浮上方法によれば、消泡剤供給工程によって急速攪拌工程に供される前の原水に対して消泡剤が供給され、急速攪拌工程にて貯留される原水の液面より下方にpH調整剤及び無機凝集剤が供給され、緩速攪拌工程にて貯留される原水の液面より下方に高分子凝集剤が供給される。
【0020】
また、本発明の加圧浮上方法においては、上記原水の蛋白質濃度が6200ppmである場合に、上記消泡剤の添加量は10.7ppmであるという構成を採用する。
【0021】
また、本発明の加圧浮上方法においては、上記無機凝集剤としてポリ鉄溶液を用い、該無機凝集剤の添加量を4000cc/m〜6000cc/mとするという構成を採用する。
【0022】
また、本発明の加圧浮上方法においては、上記無機凝集剤の添加量を4000cc/mとするという構成を採用する。
【0023】
また、本発明の加圧浮上方法においては、上記高分子凝集剤としてポリアクリルアミドを主成分とするノニオン・アニオン系の両性ポリマーを用い、上記高分子凝集剤の添加量を3000cc/m〜5000cc/mとすると共に濃度を0.15wt%とするという構成を採用する。
【0024】
また、本発明の加圧浮上方法においては、上記高分子凝集剤の添加量を3500cc/mとするという構成を採用する。
【0025】
また、本発明の加圧浮上方法においては、上記原水に上記pH調整剤を添加することによって、上記原水のpH値を5〜7とするという構成を採用する。
【0026】
また、本発明の加圧浮上方法においては、上記原水のpH値を6とするという構成を採用する。
【発明の効果】
【0027】
本発明の加圧浮上装置によれば、消泡剤供給手段によって急速攪拌槽に供給される前の原水に対して消泡剤が供給され、急速攪拌槽に貯留される原水の液面より下方にpH調整剤及び無機凝集剤が供給され、緩速攪拌槽に貯留される原水の液面より下方に高分子凝集剤が供給される。
このような本発明の加圧浮上装置によれば、消泡剤供給手段によって急速攪拌槽に供給される前の原水に対して消泡剤が供給されることによって、泡成分の発生を抑制することが可能となる。さらに、急速攪拌槽に貯留される原水の液面より下方にpH調整剤及び無機凝集剤が供給され、緩速攪拌槽に貯留される原水の液面より下方に高分子凝集剤が供給されることによって、pH調整剤、無機凝集剤及び高分子凝集剤を原水の上層に溜まる泡成分に影響されることなく効率的に原水に混合することが可能となる。
このように本発明の加圧浮上装置によれば、泡成分の発生を抑制することが可能であると共に、pH調整剤、無機凝集剤及び高分子凝集剤等の薬剤を原水に効率的に混合することが可能となる。このため、加圧浮上装置において、2次デカンタ汁液や脱蛋白処理液等の排水を原水として用いた場合であっても、泡成分に起因する不具合の発生を抑制することが可能となる。
【0028】
本発明の加圧浮上方法によれば、消泡剤供給工程によって急速攪拌工程に供される前の原水に対して消泡剤が供給され、急速攪拌工程にて貯留される原水の液面より下方にpH調整剤及び無機凝集剤が供給され、緩速攪拌工程にて貯留される原水の液面より下方に高分子凝集剤が供給される。
このような本発明の加圧浮上方法によれば、消泡剤供給工程において急速攪拌工程に供される前の原水に対して消泡剤が供給されることによって、泡成分の発生を抑制することが可能となる。さらに、急速攪拌工程にて貯留される原水の液面より下方にpH調整剤及び無機凝集剤が供給され、緩速攪拌工程にて貯留される原水の液面より下方に高分子凝集剤が供給されることによって、pH調整剤、無機凝集剤及び高分子凝集剤を原水の上層に溜まる泡成分に影響されることなく効率的に原水に混合することが可能となる。
このように本発明の加圧浮上方法によれば、泡成分の発生を抑制することが可能であると共に、pH調整剤、無機凝集剤及び高分子凝集剤等の薬剤を原水に効率的に混合することが可能となる。このため、加圧浮上方法において、2次デカンタ汁液や脱蛋白処理液等の排水を原水として用いた場合であっても、泡成分に起因する不具合の発生を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明に係る加圧浮上装置及び加圧浮上方法の一実施形態について説明する。なお、以下の図面においては、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0030】
図1は、本実施形態の加圧浮上装置の概略構成を示したフロー図である。
この図に示すように、本実施形態の加圧浮上装置S1は、急速攪拌槽1、消泡剤供給部2、緩速攪拌槽3、加圧水供給部4、浮上セル5、処理水槽6及びフロス槽7を備えている。
【0031】
急速攪拌槽1は、外部から供給される原水X1にpH調整剤Y1及び無機凝集剤Y2を添加して攪拌することによって、原水X1に溶解した成分を凝固させて固形物を生成するものである。
なお、本実施形態において原水X1は、例えば、馬鈴薯澱粉の製造の過程において発生する2次デカンタ汁液と1次デカンタ汁液を脱蛋白処理した処理液である脱蛋白処理液との混合液、あるいは、この混合液に希釈水とメタン発酵処理液(1次デカンタ汁液を脱蛋白処理することによって得られる回収蛋白をメタン発酵させる際に得られる排水)を混合した排水とされる。このように原水X1は、蛋白質及び浮遊性固形物を予め含んでいる。そして、原水X1は、原水X1の流路途中に設置されたバルブ8によって下流の急速攪拌槽1に供給される流量が調節される。
また、pH調整剤としては、原水が酸性である場合にはアルカリ性のもの、原水がアルカリ性である場合には酸性のものを用いる。
また、無機凝集剤Y2としては、ポリ鉄溶液あるいはポリ塩化アルミニウム等を用いることができる。
【0032】
急速攪拌槽1は、原水X1を貯留する貯留槽11と、貯留槽11に貯留された原水X1をpH調整剤Y1及び無機凝集剤Y2と共に急速攪拌する攪拌装置12とを備えている。
そして、本実施形態においては、貯留槽11に貯留された原水X1の液面より下方に新たに供給される原水X1、pH調整剤Y1及び無機凝集剤Y2が供給される。なお、具体的には、原水X1、pH調整剤Y1及び無機凝集剤Y2の供給配管の開口端が原水X1の液面より下方に配置されており、この供給配管を介して原水X1、pH調整剤Y1及び無機凝集剤Y2を貯留槽11内に供給することによって、原水X1、pH調整剤Y1及び無機凝集剤Y2を貯留槽11に貯留された原水X1の液面より下方に供給する。
【0033】
消泡剤供給部2は、急速攪拌槽1に供給される前の原水X1に消泡剤Y3を供給するものである。この消泡剤供給部2は、消泡剤Y3を送り出す消泡剤供給ポンプ21と、消泡剤Y3の流路途中に設置される開閉弁22及び逆止弁23とを備えている。
なお、消泡剤Y3としては、例えばアルコール系消泡剤あるいはシリコン系消泡剤のものを用いることができる。
【0034】
緩速攪拌槽3は、急速攪拌槽1から供給される微小固形物を含む原水X1に高分子凝集剤Y4を添加して攪拌することによって、原水X1に含まれる微小固形物(急速攪拌槽1で生成された固形物及び予め含む浮遊固形物)を凝集させて凝集フロックとするものである。
なお、高分子凝集剤Y4としては、例えばポリアクリルアミドを主成分としてのノニオン・アニオン系の両性ポリマーを用いることができる。
【0035】
緩速攪拌槽3は、急速攪拌槽1の貯留槽11からオーバーフローした原水X1を受けると共にその原水X1を貯留する貯留槽31と、貯留槽31に貯留された原水X1を高分子凝集剤Y4と共に緩速攪拌する攪拌装置32とを備えている。
そして、本実施形態においては、貯留槽31に貯留された原水X1の液面より下方に高分子凝集剤Y4が供給される。なお、具体的には、高分子凝集剤Y4の供給配管の開口端が原水X1の液面より下方に配置されており、この供給配管を介して高分子凝集剤Y4を貯留槽31に貯留された原水X1の液面より下方に供給する。
【0036】
加圧水供給部4は、緩速攪拌槽3から排出される原水X1に対して空気(気体)が溶解された加圧水X3を供給するものである。なお、本実施形態において加圧水供給部4は、浮上セル5から排出された処理水X2の一部を加圧して空気を溶解させて加圧水X3を生成し、この生成した加圧水X3を原水X1に供給する。
【0037】
加圧水供給部4は、浮上セル5から排出された処理水の一部を取り込むと共に送り出すと共に加圧する循環ポンプ41と、圧縮空気を送り出すコンプレッサ42と、処理水と圧縮空気とを混合して加圧水X3を生成する混合部43と、加圧水X3の圧力を調節するバルブ44とを備えている。
【0038】
浮上セル5は、加圧水X3が供給された原水X1を圧力開放することによって原水X1中に気泡を発生させ、この気泡を原水X1が含む凝集フロックに付着させて浮上させることで、原水X1を固体成分と液体成分とに分離するものである。そして、浮上セル5は、分離された固体成分を浮上フロスX4として排出し、分離された液体成分を処理水X2として排出する。
【0039】
この浮上セル5は、加圧水X3が供給された原水X1を受けると共に大気圧にて貯留することで圧力開放する貯留槽51と、貯留槽51に貯留された原水X1を攪拌するための攪拌装置52とを備えている。
【0040】
処理水槽6は、浮上セル5から排出された処理水X2を一時的に貯留してから排出するものであり、処理水X2を一時的に貯留する貯留槽61と、貯留槽61に貯留された処理水X2を貯留槽61の外部に排出するためのポンプ62とを備えている。
【0041】
フロス槽7は、浮上セル5から排出された浮上フロスX4を一時的に貯留してから排出するものであり、浮上フロスX4を一時的に貯留する貯留槽71と、貯留槽71に貯留された浮上フロスX4を貯留槽71の外部に排出するためのポンプ72とを備えている。
【0042】
次に、このように構成された本実施形態の加圧浮上装置の動作(加圧浮上方法)について説明する。
【0043】
まず、急速攪拌槽1に供給される前の原水X1は、消泡剤供給部2において消泡剤Y3が供給される(消泡剤供給工程)。このように原水X1に消泡剤Y3を供給することによって、下流側において原水X1に泡成分が発生することを抑制することができる。
【0044】
消泡剤Y3が供給された原水X1は、急速攪拌槽1に供給される。
ここで原水X1は、急速攪拌槽1の貯留槽11に先に貯留された原水X1の液面よりも下方に供給される。このため、急速攪拌槽1の貯留槽11の上層に泡成分が溜まっている場合であっても、新たな原水X1を確実に貯留槽11に供給することができると共に、供給の際に原水X1が掻き乱されないため、原水X1に泡成分が生じることを抑制することができる。
【0045】
急速攪拌槽1に供給された原水X1は、pH調整剤Y1と無機凝集剤Y2とが添加され、これらの薬剤と共に急速攪拌される。これによって、原水X1に溶解された成分が凝固して微小固形物が生成される(急速攪拌工程)。
ここで、pH調整剤Y1と無機凝集剤Y2とは、急速攪拌槽1の貯留槽11に先に貯留された原水X1の液面よりも下方に供給される。このため、急速攪拌槽1の貯留槽11の上層に泡成分が溜まっている場合であっても、先に貯留された原水X1とpH調整剤Y1及び無機凝集剤Y2とを確実に混合することができると共に、供給の際に原水X1が掻き乱されないため、原水X1に泡成分が生じることを抑制することができる。
【0046】
続いて、微小固形物を含む原水X1は、緩速攪拌槽3に供給される。そして、緩速攪拌槽3に供給された原水X1は、高分子凝集剤Y4が添加され、この高分子凝集剤Y4と共に緩速攪拌される。これによって、急速攪拌槽1にて生成された微小固形物及び予め含む浮遊性固形物が凝集されて凝集フロックとなる(緩速攪拌工程)。
ここで、高分子凝集剤Y4は、緩速攪拌槽3の貯留槽31に先に貯留された原水X1の液面よりも下方に供給される。このため、緩速攪拌槽3の貯留槽31の上層に泡成分が溜まっている場合であっても、先に貯留された原水X1と高分子凝集剤Y4とを確実に混合することができると共に、供給の際に原水X1が掻き乱されないため、原水X1に泡成分が生じることを抑制することができる。
【0047】
続いて、凝集フロックを含む原水X1は、加圧水供給部4によって加圧水X3を供給される。そして、加圧水X3が供給された原水X1は、浮上セル5に供給される。
浮上セル5に供給された原水X1は、圧力開放され、これによって生じた気泡によって固体成分と液体成分とに分離される(分離工程)。そして、液体成分が処理水X2として浮上セル5から排出され、固体成分が浮上フロスX4として浮上セル5から排出される。
【0048】
浮上セル5から排出された処理水X2は、一部が循環ポンプ41によって汲み取られ、加圧されて圧縮空気と混合されることによって加圧水X3とされ、残りが処理水槽6に供給されて一時的に貯留された後に、処理水槽6の外部に排出される。
【0049】
浮上セル5から排出された浮上フロスX4は、フロス槽7に供給されて一時的に貯留された後に、フロス槽7の外部に排出される。
【0050】
以上のような本実施形態の加圧浮上装置によれば、消泡剤供給部2によって急速攪拌槽1に供給される前の原水X1に対して消泡剤Y3が供給され、急速攪拌槽に貯留される原水の液面より下方にpH調整剤Y1及び無機凝集剤Y2が供給され、緩速攪拌槽3に貯留される原水X1の液面より下方に高分子凝集剤Y4が供給される。
このような本実施形態の加圧浮上装置によれば、消泡剤供給部2によって、急速攪拌槽1に供給される前の原水X1に対して消泡剤Y3が供給されることで、泡成分の発生を抑制することが可能となる。さらに、急速攪拌槽1に貯留される原水X1の液面より下方にpH調整剤Y1及び無機凝集剤Y2が供給され、緩速攪拌槽3に貯留される原水X1の液面より下方に高分子凝集剤Y4が供給されることによって、pH調整剤Y1、無機凝集剤Y2及び高分子凝集剤Y4を原水X1の上層に溜まる泡成分に影響されることなく効率的に原水X1に混合することが可能となる。
このように本実施形態の加圧浮上装置によれば、泡成分の発生を抑制することが可能であると共に、pH調整剤Y1、無機凝集剤Y2及び高分子凝集剤Y4等の薬剤を原水X1に効率的に混合することが可能となる。このため、加圧浮上装置において、2次デカンタ汁液や脱蛋白処理液等の排水を原水X1として用いた場合であっても、泡成分に起因する不具合の発生を抑制することが可能となる。
【0051】
また、本実施形態の加圧浮上方法によれば、消泡剤供給工程によって急速攪拌工程に供される前の原水X1に対して消泡剤Y3が供給され、急速攪拌工程にて貯留される原水X1の液面より下方にpH調整剤Y1及び無機凝集剤Y2が供給され、緩速攪拌工程にて貯留される原水X1の液面より下方に高分子凝集剤Y4が供給される。
このような本実施形態の加圧浮上方法によれば、消泡剤供給工程において急速攪拌工程に供される前の原水X1に対して消泡剤Y3が供給されることによって、泡成分の発生を抑制することが可能となる。さらに、急速攪拌工程にて貯留される原水X1の液面より下方にpH調整剤Y1及び無機凝集剤Y2が供給され、緩速攪拌工程にて貯留される原水X1の液面より下方に高分子凝集剤Y4が供給されることによって、pH調整剤Y1、無機凝集剤Y2及び高分子凝集剤Y4を原水X1の上層に溜まる泡成分に影響されることなく効率的に原水に混合することが可能となる。
このように本実施形態の加圧浮上方法によれば、泡成分の発生を抑制することが可能であると共に、pH調整剤Y1、無機凝集剤Y2及び高分子凝集剤Y4等の薬剤を原水X1に効率的に混合することが可能となる。このため、加圧浮上方法において、2次デカンタ汁液や脱蛋白処理液等の排水を原水として用いた場合であっても、泡成分に起因する不具合の発生を抑制することが可能となる。
【0052】
図2〜図4は、上記実施形態の加圧浮上装置S1の実施例の実験結果を示すものである。なお、本実施例においては、原水X1として、全固形物が7725mg/lであり、浮遊性固形物が1393mg/lであり、有機物濃度(COD)が1571mg/lであるものを使用し、その流量を84m/hrとした。
【0053】
図2は、高分子凝集剤Y4として濃度0.15wt%のポリアクリルアミドを主成分とするノニオン・アニオン系の両性ポリマーを用い、高分子凝集剤Y4の添加量を5000cc/mとし、pH調整後の原水X1のpH値を6とし、無機凝集剤Y2としてポリ鉄溶液を用い、さらに無機凝集剤Y2の添加量を3000cc/m、4000cc/m、5000cc/m、6000cc/m、7000cc/mに変化させた場合における泡成分の影響に対する判定を比較するための表である。なお、図2においては、無機凝集剤Y2及び高分子凝集剤Y4の添加量として、原水に1リットルに対する添加グラム数を併記している。
そして、この図に示すように、無機凝集剤Y2の添加量が4000cc/m、5000cc/m、6000cc/mの場合に好ましい結果が得られ、無機凝集剤Y2の使用量を削減するという観点からすると、無機凝集剤Y2の添加量を4000cc/mとすることが特に好ましいことが分かる。
【0054】
図3は、pH調整後の原水X1のpH値を6とし、無機凝集剤Y2としてポリ鉄溶液を用い、さらに無機凝集剤Y2の添加量を4000cc/mとし、高分子凝集剤Y4として濃度0.15wt%のポリアクリルアミドを主成分とするノニオン・アニオン系の両性ポリマーを用い、高分子凝集剤Y4の添加量を3000cc/m、3500cc/m、4000cc/m、4500cc/m、5000cc/mに変化させた場合における泡成分の影響に対する判定を比較するための表である。なお、図3においても、無機凝集剤Y2及び高分子凝集剤Y4の添加量として、原水に1リットルに対する添加グラム数を併記している。
そして、この図に示すように、高分子凝集剤Y4の添加量が3000cc/m、3500cc/m、4000cc/m、4500cc/m、5000cc/mの全て場合において好ましい結果が得られ、高分子凝集剤Y4の使用量を削減するという観点からすると、高分子凝集剤Y4の添加量を3500cc/mとすることが特に好ましいことが分かる。
【0055】
図4は、無機凝集剤Y2としてポリ鉄溶液を用い、さらに無機凝集剤Y2の添加量を4000cc/mとし、高分子凝集剤Y4として濃度0.15wt%のポリアクリルアミドを主成分とするノニオン・アニオン系の両性ポリマーを用い、さらに高分子凝集剤Y4の添加量を3500cc/mとし、pH調整後の原水X1のpH値を5、6、7と変化させた場合泡成分の影響に対する判定を比較するための表である。なお、図4においても、無機凝集剤Y2及び高分子凝集剤Y4の添加量として、原水に1リットルに対する添加グラム数を併記している。
そして、この図に示すように、pH調整後の原水X1のpH値が5、6、7の全ての場合において好ましい結果が得られ、特にpH値が6とすることが好ましいことが分かる。
【0056】
以上の実験例によって、無機凝集剤Y2の添加量を4000cc/mとし、高分子凝集剤Y4の添加量を3500cc/mとし、pH調整後の原水X1のpH値を6とすることが好ましいことが分かった。上述のように原水X1においては、全固形物が7725mg/lであり、浮遊性固形物が1393mg/lであり、有機物濃度(COD)が1571mg/lであったのに対して、本実験例では、処理水X2においては、全固形物が7098mg/lであり、浮遊性固形物が62mg/lであり、有機物濃度(COD)が492mg/lとなった。また本実験例から分かるように、無機凝集剤Y2の添加量を4000cc/mとし、高分子凝集剤Y4の添加量を3500cc/mとし、pH調整後の原水X1のpH値を6とすることによって、特に原水X1の浮遊固形物を減少させることができる。
なお、本実験例においては、原水X1の蛋白質濃度が6200ppm(全窒素濃度1000ppm)である場合に、消泡剤の添加量は10.7ppmであることが好ましいことが分かっている。
【0057】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る加圧浮上装置及び加圧浮上方法の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0058】
例えば、上記実施形態においては、原水X1として、馬鈴薯澱粉の製造の過程において発生する2次デカンタ汁液と1次デカンタ汁液を脱蛋白処理した処理液である脱蛋白処理液との混合液、あるいは、この混合液に希釈水とメタン発酵処理液(1次デカンタ汁液を脱蛋白処理することによって得られる回収蛋白をメタン発酵させる際に得られる排水)を混合した排水を用いる構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、少なくとも蛋白質及び浮遊固形物を含む液体を原水として用いることによって効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態である加圧浮上装置の概略構成を示すフロー図である。
【図2】本発明の一実施形態である加圧浮上装置において無機凝集剤の添加量を変化させた場合の結果を比較するための表である。
【図3】本発明の一実施形態である加圧浮上装置において高分子凝集剤の添加量を変化させた場合の結果を比較するための表である。
【図4】本発明の一実施形態である加圧浮上装置においてpH調整後の原水のpH値を変化させた場合の結果を比較するための表である。
【符号の説明】
【0060】
S1……加圧浮上装置、1……急速攪拌槽、2……消泡剤供給部、3……緩速攪拌槽、4……加圧水供給部、5……浮上セル(分離部)、6……処理水槽、7……フロス槽、X1……原水、X2……処理水、X3……加圧水、X4……浮上フロス、Y1……pH調整剤、Y2……無機凝集剤、Y3……消泡剤、Y4……高分子凝集剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白質及び浮遊性固形物を含む原水にpH調整剤及び無機凝集剤を添加して攪拌することによって前記原水中に微小固形物を生成する急速攪拌槽と、前記微小固形物が生成された前記原水に高分子凝集剤を添加して攪拌することによって前記微小固形物を凝集させて凝集フロックとする緩速攪拌槽と、前記凝集フロックを含有する前記原水に気体が溶解された加圧水を供給する加圧水供給部と、前記加圧水が供給された前記原水を圧力開放することによって前記原水を固体成分と液体成分とに分離する分離部とを備える加圧浮上装置であって、
前記急速攪拌槽に供給される前の前記原水に対して消泡剤を供給する消泡剤供給手段を備えると共に、
前記原水、前記pH調整剤及び前記無機凝集剤が前記急速攪拌槽に貯留される前記原水の液面より下方に供給され、
前記高分子凝集剤が前記緩速攪拌槽に貯留される前記原水の液面より下方に供給される
ことを特徴とする加圧浮上装置。
【請求項2】
前記原水の蛋白質濃度が6200ppmである場合に、前記消泡剤の添加量は10.7ppmであることを特徴とする請求項1記載の加圧浮上装置。
【請求項3】
前記無機凝集剤としてポリ鉄溶液を用い、該無機凝集剤の添加量を4000cc/m〜6000cc/mとすることを特徴とする請求項1または2記載の加圧浮上装置。
【請求項4】
前記無機凝集剤の添加量を4000cc/mとすることを特徴とする請求項3記載の加圧浮上装置。
【請求項5】
前記高分子凝集剤としてポリアクリルアミドを主成分とするノニオン・アニオン系の両性ポリマーを用い、前記高分子凝集剤の添加量を3000cc/m〜5000cc/mとすると共に濃度を0.15wt%とすることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の加圧浮上装置。
【請求項6】
前記高分子凝集剤の添加量を3500cc/mとすることを特徴とする請求項5記載の加圧浮上装置。
【請求項7】
前記原水に前記pH調整剤を添加することによって、前記原水のpH値を5〜7とすることを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の加圧浮上装置。
【請求項8】
前記原水のpH値を6とすることを特徴とする請求項7記載の加圧浮上装置。
【請求項9】
蛋白質及び浮遊性固形物を含む原水にpH調整剤及び無機凝集剤を添加して攪拌することによって前記原水中に微小固形物を生成する急速攪拌工程と、前記微小固形物が生成された前記原水に高分子凝集剤を添加して攪拌することによって前記微小固形物を凝集させて凝集フロックとする緩速攪拌工程と、前記凝集フロックを含有する前記原水に気体が溶解された加圧水を供給する加圧水供給工程と、前記加圧水が供給された前記原水を圧力開放することによって前記原水を固体成分と液体成分とに分離する分離工程とを有する加圧浮上方法であって、
前記急速攪拌工程に供される前の前記原水に対して消泡剤を供給する消泡剤供給工程を有すると共に、
前記原水、前記pH調整剤及び前記無機凝集剤が前記急速攪拌工程にて貯留される前記原水の液面より下方に供給され、
前記高分子凝集剤が前記緩速攪拌工程にて貯留される前記原水の液面より下方に供給される
ことを特徴とする加圧浮上方法。
【請求項10】
前記原水の蛋白質濃度が6200ppmである場合に、前記消泡剤の添加量は10.7ppmであることを特徴とする請求項9記載の加圧浮上方法。
【請求項11】
前記無機凝集剤としてポリ鉄溶液を用い、該無機凝集剤の添加量を4000cc/m〜6000cc/mとすることを特徴とする請求項9または10記載の加圧浮上方法。
【請求項12】
前記無機凝集剤の添加量を4000cc/mとすることを特徴とする請求項11記載の加圧浮上方法。
【請求項13】
前記高分子凝集剤としてポリアクリルアミドを主成分とするノニオン・アニオン系の両性ポリマーを用い、前記高分子凝集剤の添加量を3000cc/m〜5000cc/mとすると共に濃度を0.15wt%とすることを特徴とする請求項9〜12いずれかに記載の加圧浮上方法。
【請求項14】
前記高分子凝集剤の添加量を3500cc/mとすることを特徴とする請求項13記載の加圧浮上方法。
【請求項15】
前記原水に前記pH調整剤を添加することによって、前記原水のpH値を5〜7とすることを特徴とする請求項9〜14いずれかに記載の加圧浮上方法。
【請求項16】
前記原水のpH値を6とすることを特徴とする請求項15記載の加圧浮上方法。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−279537(P2009−279537A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135512(P2008−135512)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】