説明

加圧焼結用のMo合金粉末の製造方法およびスパッタリング用ターゲット材の製造方法

【課題】 加圧焼結によってMo合金焼結体を作製するための焼結素材として、焼結体の組成偏在を低減すると供に焼結体の変形を低減するための加圧焼結用のMo合金粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】 平均粒径20μm以下のMo粉末と平均粒径500μm以下の遷移金属粉末とを混合した混合粉末を還元性雰囲気で焼結した仮焼体とし、次いで平均粒径0.02〜10mmに粉砕する加圧焼結用のMo合金粉末の製造方法である。また、仮焼体を平均粒径0.05〜3mmに粉砕する加圧焼結用のMo合金粉末の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加圧焼結に用いるMo合金粉末の製造方法およびその製造方法により得たMo合金粉末を用いたスパッタリング用ターゲット材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display、以下LCDという)等の平面表示装置の薄膜電極および薄膜配線等には、電気抵抗の小さいMo等の高融点金属膜が用いられており、その金属薄膜を形成するための材料として、スパッタリング用ターゲット材が広く利用されている。そして、従来から、Mo等の高融点金属のスパッタリング用ターゲット材の製造には、原料粉末を加圧焼結した焼結体を加工する粉末焼結法が適用されている。
【0003】
近年のLCDサイズの大型化に伴い、金属膜を形成するためのスパッタリング用ターゲット材に対しても1m以上の長尺品、スパッタリング面積が1mを超える大型品の要求があるため、特に、Moに添加元素を含むMo合金ターゲット材にも、1m以上の長尺品やスパッタリング面積が1mを超える大型品が要求されている。このため、加圧焼結において焼結体の変形とともに成分偏在の抑制されたMo合金ターゲット材の要求がある。
【0004】
従来より、Mo等の高融点金属をターゲット材として製造するためには、粉末焼結法が用いられてきたが、このような大型一体物のターゲット素材を粉末焼結法で作製する際に重要なのは、高密度化の達成と大型化への対応である。粉末焼結法には、種々の方法があるが、素材を均一に高密度化できるという利点を有する熱間静水圧プレス(HIP)法やホットプレス法等の加圧焼結法が一般的に利用されている。そして、HIP法は、プレス圧力を3次元的に高圧で付加することが可能であることから、2次元的にしかプレス圧力を付加できないホットプレス法に比べて素材をより均一に高密度化できるという利点がある。
【0005】
HIP法においては、焼結素材を加圧容器に充填して、プレス圧力を付加する必要があるため、焼結素材である原料粉末を加圧容器やプレス型に、高率で均一な充填を行う必要がある。そこで、プレス圧力を充填した原料粉末に与える方法が提案されている(例えば、特許文献1および2参照)
【特許文献1】特開2002−167669号公報
【特許文献2】特開2003−342720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1および2に記載されるターゲット材の製造方法によっても、Moに添加元素を含んだMo合金のターゲット材を加圧焼結法によって製造する場合には、添加元素の偏在が発生しやすいという問題を解決できない。また、さらに加圧焼結体の変形が大きいという課題も存在する。
【0007】
本発明の目的は、上記の課題を解決すべく、加圧焼結の原料粉末に着目し、加圧焼結によってMo合金焼結体を作製するための焼結素材として、焼結体の成分偏在を低減するとともに焼結体の変形を低減するための加圧焼結用のMo合金粉末の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、Mo合金粉末の製造方法を種々検討した結果、加圧焼結前の粉末の状態で添加元素が分散すると同時に、加圧容器に充填する際の粉末の粒径を制御することで、上記の課題を解決できることを見出し本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、平均粒径20μm以下のMo粉末と平均粒径500μm以下の遷移金属粉末とを混合した混合粉末を還元性雰囲気で焼結した仮焼体とし、次いで平均粒径0.02〜10mmに粉砕する加圧焼結用のMo合金粉末の製造方法である。
好ましくは、前記仮焼体を平均粒径0.05〜3mmに粉砕する加圧焼結用のMo合金粉末の製造方法である。
また、本発明は、前記の方法で得られた加圧焼結用のMo合金粉末を、加圧容器に充填し、次いで加圧焼結するスパッタリング用ターゲット材の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明で得られたMo合金粉末を使用することにより、加圧容器への焼結原料のMo合金粉末の充填密度を向上させることで焼結体の変形を低減させるとともに、成分の偏在を抑制したMo合金ターゲット材を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の重要な特徴は、Mo粉末と添加元素である遷移金属粉末とを混合した後、一度還元性雰囲気で焼結した仮焼体とし、この仮焼体を粉砕処理して平均粒径0.02〜10mmとすることで、加圧容器へ充填した際の成分の偏在を容易に低減できると供に、加圧容器への充填率を向上させることができる加圧焼結用のMo合金粉末を実現した点にある。
【0012】
粉末焼結法でMo合金のターゲット材を製造する場合において、一般に使用されるMo粉末は化学的製法により作製されるため平均粒径20μm以下の微細粒径を有している。また、添加元素となるNb、Cr、Ti等の遷移金属粉末は、溶解インゴットを粉砕して作製されるものが多いため平均粒径500μm以下の比較的大きな粒径を有している。このように、Mo粉末と添加元素となる遷移金属粉末とは、粒径および比重、形状といった粉末性状が異なるために、単純に混合しても均一な分散状態を有する混合粉末とすることが困難である。
また、特に加圧焼結においてはこの混合粉末を加圧容器に充填する必要がある。微細粒径のMo粉末は、凝集性が高く流れ性が悪いため、加圧容器へ充填する際にMo粉末単独でも加圧容器中で充填のばらつきが生じやすい。Mo合金の場合には、さらに添加元素となる遷移金属粉末が加わるため、上述のMo粉末の特徴と相まって遷移金属粉末が加圧容器中で偏在を生じやすくなる。そこで、添加元素である遷移金属粉末とMo粉末とを混合した混合粉末を一度還元性雰囲気での焼結により仮焼体とし、さらに、粉砕することで粉末の状態で遷移金属が分散したMo合金粉末を作製することが、焼結体の成分偏在を抑制する上で重要となる。
【0013】
以下に、本発明の製造方法に関して詳細に説明する。
本発明においては、まず、平均粒径20μm以下のMo粉末と平均粒径500μm以下の遷移金属粉末とを混合した混合粉末を作製する。この混合によって、Mo粉末と遷移金属粉末を一定程度分散した状態とする。なお、この混合においては、例えば、V型混合機、クロスロータリーミキサー等の一般的な混合機が利用可能である。
また、本発明において、Mo粉末の平均粒径を20μm以下としたのは、一般的に使用されている化学的製法によるMo粉末の平均粒径が20μm以下であるためであり、遷移金属粉末の平均粒径を500μm以下としたのは、平均粒径がこの値を超えると焼結体とした際の成分偏在の低減が困難なためである。
【0014】
また、Mo粉末は平均粒径10μm以下であることがより好ましい。その理由は、Mo粉末の粒径が小さいほど加圧焼結後の焼結体の相対密度を容易に高めることができるためである。加圧容器への充填密度を向上させる点からは、充填する粉末つまりはMo合金粉末の粒径を大きくすることに効果があるが、加圧焼結における焼結性の点では、密度の高いMo粉末の粒径は小さいことが望ましい。特に、本発明で得られるMo合金粉末の主たる構成元素であるMoは高融点金属で一般的な拡散温度は高温であるため、拡散を促進させるためには高温処理すると同時に接触面積を増大することが好ましい。よって、原料粉末の平均粒径としては、10μm以下であることが好ましい。
なお、Mo粉末および遷移金属粉末の平均粒径の下限に関しては、微細粉末になると酸化しやすくなる点やハンドリング性を考慮すると平均粒径1μm以上であることが望ましい。
【0015】
次に、この混合粉末を一度還元性雰囲気で焼結して仮焼体とする。仮焼体を作製するのは、Mo粉末と遷移金属粉末との混合粉末でMoと遷移金属が一定程度分散した状態で相互移動しないように位置を固定するためである。また、混合粉末の焼結を還元性雰囲気で行うのは、焼結の際に仮焼体に含まれる酸素含有量を極力低減するためである。なお、焼結を実施する還元性雰囲気としては、水素含有雰囲気や真空雰囲気等の酸化還元反応を利用した雰囲気が使用できる。また、特に、Nb、Ti等の水素を吸蔵する遷移金属粉末を使用する場合には、真空雰囲気での焼結が望ましく、その際の減圧条件は、ロータリーポンプ、メカニカルブースターあるいは拡散ポンプといった汎用排気装置で処理できるため1×10〜1×10−4Paとすることが望ましい。焼結の温度条件としては、Mo粉末と遷移金属粉末の混合粉末の焼結が進行する温度であれば特に限定はしないが、好ましくは、400〜1200℃である。それは、400℃に満たないと焼結効果がなく、1200℃を超えると、混合粉末の焼結が進行し過ぎて、仮焼体の粉砕が困難になる場合があるためである。
【0016】
次いで、仮焼体を平均粒径0.02〜10mmに粉砕してMo合金粉末とする。このMo合金粉末を平均粒径0.02〜10mmとすることが加圧容器への充填性において重要となる。それは、Mo合金粉末をある程度大きく粒径調整をすることで加圧容器への粉末の充填率を向上させることが可能となるためである。このMo合金粉末の平均粒径の下限を0.02mm以上とした理由は、この平均粒径を下回っては、加圧容器への充填率を高めるという効果が阻害されるためである。また、このMo合金粉末の平均粒径の上限を10mm以下に規定した理由は、10mmを超えると加圧容器への充填時に粉末同士のブリッジ現象により充填密度が低下傾向を示すほか、焼結体でその粒の境界線が明瞭に現れ、一種の模様状の形態をなすためである。したがって、外観上判別しにくく、平均化するためにも平均粒径10mm以下である必要がある。なお、Moと遷移金属との分散性をより高めるため、より好ましいMo合金粉末の平均粒径は0.05〜3mmである。
【0017】
また、仮焼体の粉砕には、ボールミル、振動ミル、ジョークラッシャー、インパクトクラッシャー、ハンマーミル、インパクトミル等が利用可能であり、特に限定するものではないが、Mo合金粉末を平均粒径で0.02〜10mmとできるものであることが望ましい。
【0018】
また、仮焼体の相対密度としては、50〜85%とするのが望ましい。それは、仮焼体の相対密度が50%に満たないと、粉砕後のMo合金粉末の相対密度が著しく低下し、加圧焼結用の粉末として好ましくないためである。一方、相対密度が85%を超えると仮焼体の粉砕が困難になる場合があるためである。
【0019】
なお、本発明における平均粒径とは、Mo粉末、遷移金属粉末、Mo合金粉末の粒径分布において、個数がその総量の50%をしめるときの粒径(D50)をいう。
【0020】
本発明のMo合金粉末を構成する遷移金属元素としては、元素周期律表のIVa族、Va族、VIa族、VIIa族、VIII族に含まれる元素を挙げることができる。その中でも、平面表示装置用の薄膜電極、配線としてMoTi、MoV、MoNb、MoTa、MoCr、MoW等のMo合金が利用されているため、遷移金属としてはTi、V、Nb、Ta、Cr、Wの場合に工業的に適用する価値が高いので好ましい。
【0021】
本発明の製造方法により作製したMo合金粉末を、加圧容器に充填した上で、熱間静水圧プレス等の加圧焼結を実施すると成分偏在が抑制されたMo合金の焼結体が作製でき、この焼結体を機械加工によって、所望の寸法形状のMo合金ターゲット材を得ることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径20μm以下のMo粉末と平均粒径500μm以下の遷移金属粉末とを混合した混合粉末を還元性雰囲気で焼結した仮焼体とし、次いで平均粒径0.02〜10mmに粉砕することを特徴とする加圧焼結用のMo合金粉末の製造方法。
【請求項2】
前記仮焼体を平均粒径0.05〜3mmに粉砕することを特徴とする請求項1に記載の加圧焼結用のMo合金粉末の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法により得られた加圧焼結用のMo合金粉末を、加圧容器に充填し、次いで加圧焼結することを特徴とするスパッタリング用ターゲット材の製造方法。

【公開番号】特開2006−169547(P2006−169547A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−359293(P2004−359293)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】