説明

加工性および耐汚染性に優れる塗装金属板

【課題】 従来技術のプレコート金属板の耐汚染性をさらに向上させ、同時に良好な加工性も有するプレコート金属板を提供する。
【解決手段】 金属板の上に、最表層と前記最表層の下に配置された下層とを配置し、前記最表層がアミノブラスト樹脂を含み、該最表層内の表面部分のアミノブラスト樹脂の濃度が前記下層との界面部分における濃度よりも高く、前記下層がアミノブラスト樹脂を含み、前記下層内の前記最表層側の界面部分のアミノブラスト樹脂の濃度が、前記下層内の前記金属板側の界面部分における濃度よりも高いプレコート金属板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家電、建材、自動車用等に用いられる加工性と耐汚染性に優れる塗装金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、家電、建材、自動車等の生産ラインにおいては、作業環境の改善、公害問題からの解放、工程の省略による生産効率の向上等のニーズから、プレコートされた金属板(以下、塗装金属板と略称する)の使用量が増加してきている。
【0003】
塗装金属板は、成形加工されることが必須であるため、高度の加工性が要求される一方、硬度や耐汚染性など従来から要求されてきた性能も満足しなければならず、その塗膜設計は技術的に困難なものであった。
【0004】
特開平8−168723号公報には、塗膜構造をグロー放電発光分光分析(GDS)、X線光電子分光分析(XPS)により、分析、解析することにより、膜厚方向においてある特定の成分構造を有する塗膜が、加工性と耐汚染性、硬度に優れた塗膜を提供することが記載されている。実施例には、金属板上に下塗り層を設け、その上にアミノプラスト樹脂を含んだポリエステル樹脂系塗膜が最表層として形成されている。
【0005】
この公報に記載されている、良好な加工性と耐汚染性を有する塗装金属板は、ポリエステル樹脂系塗膜が最表層に形成されている塗装金属板において、ポリエステル樹脂系塗膜について、下記(A)〜(C)の条件が満たされていることを特徴とする。
【0006】
(A)高周波放電式グロー放電発光分光分析(以下高周波GDSと称する)で、ポリエステル樹脂系塗膜の深さ方向の元素濃度分布を測定したときに、ポリエステル樹脂系塗膜の空気に接している表面の窒素のスペクトル強度が、空気とは逆の界面での窒素のスペクトル強度の1.2倍以上である。
【0007】
(B)高周波GDSで、ポリエステル樹脂系塗膜の深さ方向の元素濃度分布を測定したときに、空気との界面からの深さがポリエステル樹脂系塗膜の厚みの1/10の測定点から、空気との界面に向かって窒素のスペクトル強度の増加が見られる。
【0008】
(C)空気との界面をXPSしたときに、炭素のスペクトル中のメラミン樹脂のメラミン環に由来するスペクトル成分の面積が、全炭素スペクトルの面積の30%以上である。
【0009】
この塗膜は、塗膜中の窒素濃度が表面に向かって高くなっており、塗膜の極表面でかなり濃化している。窒素は主に塗膜中のアミノプラスト樹脂中の窒素に由来するものであり、アミノプラスト樹脂の濃度が、塗膜の深さ方向で異なっており、表面に向かって濃度が高くなることを特徴とする。この表面に向かって傾斜するアミノブラスト樹脂濃度が、加工性、硬度、耐汚染性が高度に両立された塗膜を提供するのである。
【0010】
しかし、この耐汚染性はこの塗膜の下にある下地層の影響を受けることがわかった。下地層表面の硬度(架橋度)が低いとメラミンが下層に移行して最表層中のメラミン濃度が低下し、結果として最表層のメラミン濃度が低下し、最表層の硬度、耐汚染性が期待するものよりも低くなる。下地層表面の架橋密度を上げるためには、下地層を塗布した後にこれを十分硬化させ、その後に最表層を塗布して硬化させること(いわゆる、2コート2ベークタイプ)が必要である。この塗工法の場合、下地層表面の架橋密度は上がるが、最表層との間の層間密着性が悪くなり剥離しやすくなる。この問題を解決するため、現行では下地層の架橋密度があまり上がらないように硬化させて、最表層を塗布している。
【0011】
【特許文献1】特開平8−168723号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、従来技術のプレコート金属板の耐汚染性をさらに向上させ、同時に良好な加工性も有するプレコート金属板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上述した従来技術のプレコート金属板の下地層表面の架橋密度および層間密着性の問題点を、最表層と下地層を同時硬化させることにより解決した。
【0014】
即ち、本発明は、
(1)金属板の上に配置された、最表層と前記最表層の下に配置された下層とを有するプレコート金属板であって、
前記最表層がアミノブラスト樹脂を含み、該最表層内の表面部分のアミノブラスト樹脂の濃度が前記下層との界面部分における濃度よりも高く、
前記下層がアミノブラスト樹脂を含み、前記下層内の前記最表層側の界面部分のアミノブラスト樹脂の濃度が、前記下層内の前記金属板側の界面部分における濃度よりも高いプレコート金属板。
【0015】
(2)前記下層と前記最表層との界面のRaが0.3〜0.6μmである(1)記載のプレコート金属板。
【0016】
(3)前記下層内の前記最表層側の界面部分のGDSで測定したN/(C+O+N)の値が0.4以上である(1)または(2)記載のプレコート金属板。
【0017】
(4)前記最表層および前記下層を形成する塗布液が、両者とも水酸基価が40以下のポリエステル樹脂、メチル化メラミン樹脂、揮発性の塩基で中和された酸触媒を含んでいる(1)〜(3)のいずれかに記載のプレコート金属板。
【0018】
(5)下層および最表層を多層同時塗布するか、またはウェットオンウェット塗布した後両層を同時に硬化させる(1)〜(4)のいずれかに記載のプレコート金属板の製造方法。
【0019】
(6)金属板の上に配置された、最表層と前記最表層の下に配置された下層とを有するプレコート金属板であって、
前記最表層がアミノブラスト樹脂を含み、該最表層内の表面部分のアミノブラスト樹脂の濃度が前記下層との界面部分における濃度よりも高く、
前記下層と前記最表層が塗布された後、同時硬化されているプレコート金属板。
【発明の効果】
【0020】
最表層と下層とを同時硬化させることにより、下層内の、最表層と該下層との間の界面部分の架橋密度を高め需要者の高度な要求に応え得る加工性と硬度、耐汚染性に特に優れた塗装金属板を提供することができる。同時硬化させるのであれば、塗布は多層同時塗布でもウェットオンウェット塗布でもよい。
【0021】
下層の成分構成を最表層と同様の処方にして、下層内にアミノブラスト樹脂濃度の勾配を形成することにより、塗膜全体の耐汚染性および加工性をさらに向上させる。
【0022】
多層同時塗布およびウェットオンウェット方式を用いて最表層と下層とを同時に硬化することにより、層間界面のRaが大きくなるようにコントロールして高い層間密着性を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
最表層に用いるポリエステル樹脂系塗膜とは、ポリエステル樹脂とアミノプラスト樹脂を必須成分とする塗膜を意味する。
【0024】
ポリエステル樹脂は、樹脂中にエステル基を有する樹脂であり、オイルフリーポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、線状高分子量ポリエステル樹脂、分岐型高分子量ポリエステル樹脂と呼ばれているものである。最表層に用いるポリエステル樹脂は、水酸基価40以下、好ましくは水酸基価が、2〜30の樹脂である。水酸基価が前記範囲より大きいと切断、折り曲げなどの加工性が低下するため好ましくない。
【0025】
ポリエステル樹脂にさらに他の樹脂、例えばエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、アミド樹脂、イミド樹脂等を1種または2種以上混合してもよい。
【0026】
アミノプラスト樹脂とは、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等であり、メラミン樹脂には、メチル化メラミン樹脂、ブチル化メラミン樹脂、ブチル−メチルなどの混合エーテル化メラミン樹脂などが挙げられる。メチル化メラミン樹脂が好ましい。
【0027】
アミノプラスト樹脂の他に、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基等、ポリエステル樹脂など、塗膜中に加えた成分と反応する基を有する架橋剤成分を加えることは差し支えない。
【0028】
本発明の最表層組成物には、上記の各樹脂以外に酸触媒を配合する。用いることができる酸触媒には、特に限定されないが、ドデシルベンゼンスルフォン酸、トルエンスルフォン酸が挙げられる。揮発性の塩基で中和してブロックした酸触媒用いることが好ましい。揮発性の塩基としては、特に限定されないが、アンモニア、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン等が挙げられる。
【0029】
またポリエステル樹脂系塗膜には、酸化チタン、弁柄、硫酸バリウム、シリカ、シアニンブルーなどの着色顔料や、体質顔料、樹脂ビーズ、アルミフレーク、マイカなどの添加物、消泡剤、レベリング剤などの添加剤など、必要に応じて含有させることができる。
【0030】
最表層の膜厚は任意であるが、塗装金属板においては1〜50μm程度、特に5〜30μmの乾燥膜厚が一般的である。
【0031】
本発明の最表層ポリエステル樹脂系塗膜については、高周波GDSを用いた分析で、最表層内の空気と接触している表面部分の窒素の濃度が下層との界面部分における窒素濃度よりも高くなっていることが必要である。窒素は主に塗膜中のアミノプラスト樹脂中の窒素に由来するものであり、アミノプラスト樹脂の濃度が、塗膜の深さ方向で異なっており、表面に向かって濃度が高くなっている状態を示している。したがって、表面部分の架橋密度が高くなることにより、高硬度と耐汚染性が提供され、界面部分に向かって架橋密度が低くなる勾配を有することにより加工性が提供される。
【0032】
最表層の下に配置される下層の成分としては、一般的に、熱硬化性樹脂、例えば、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂となることができる。
【0033】
本発明においては、下層が最表層と同様の成分構成を有することが好ましい。即ち、下層がアミノブラスト樹脂を含み、下層内の最表層側の界面部分のアミノブラスト樹脂の濃度が、前記下層内の前記金属板側の界面部分における濃度よりも高いことが好ましい。この構成をとることにより、下層内においてもアミノブラスト樹脂濃度の勾配を形成し、下層の最表層側の界面部分の架橋密度がさらに高くなり、高硬度と耐汚染性が提供され、金属板側に向かって架橋密度が低くなる勾配を有することによりさらに加工性が提供される。このようにして塗膜全体の耐汚染性および加工性をさらに向上させることができる。具体的には、N/(C+O+N)の値で表した下層内の最表層側の界面部分の窒素濃度が0.4以上である場合に良好な結果が得られた。
【0034】
下層の膜厚は任意であるが、塗装金属板においては1〜30μm程度、特に3〜12μmの乾燥膜厚が一般的である。
【0035】
金属板としては、例えば鋼板、アルミ板、ステンレス板、チタン板、銅板等が挙げられる。この内、鋼板の例として、冷や延鋼板、熱延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、亜鉛−鉄合金めっき鋼板、亜鉛−アルミ合金めっき鋼板、アルミめっき鋼板、クロムめっき鋼板、ニッケルめっき鋼板、亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板、錫めっき鋼板等が挙げられる。
【0036】
金属板に下層を塗布する前に、種々の塗装前処理を施すこともできる。たとえば、水や溶剤等による洗浄、脱脂など被塗物表面を清浄にする処理、コロナ放電処理、火炎処理など表面に極性基を生成させて密着性を向上する処理、リン酸亜鉛処理、クロメート処理、複合酸化塗膜処理、クロメートフリーの下地処理など主に金属に適用される処理、ブラシかけ、研削など凹凸を付与したり表面の密着性を阻害する成分を除去する処理、酸洗、アルカリ洗浄などの薬品処理、あるいはこれらを組み合わせた処理を施すことができる。塗装前処理の条件は適宜選択することができる。
【0037】
なお本発明では、形成される塗膜層の数を何等制限されず、必要に応じて、何層かの塗膜を形成したのち、本発明による下層および最表層を形成すればよい。各塗膜層の厚みや、樹脂組成、顔料組成等は限定されない。
【0038】
下層と最表層の塗布には、いわゆる多層同時塗布あるいはウェットオンウェット方式を用いる。下層の上に最表層をウェットオンウェットで塗布する方法としては、下層をロールコーター、ローラーカーテンまたはカーテン塗工機、スプレー塗工機等を用いて形成し、引き続きその上に、ローラーカーテン塗工、スリット式カーテン塗工またはスプレー塗工等を用いて最表層を形成する塗布工程が考えられる。各層の塗布方式は特に限定されないが、塗膜の外観、膜厚制御の観点から、最表層の塗工方法はすでに形成されている下層塗膜に接触しない塗工方法が望ましい。本発明では、下層、最表層の塗布にカーテンコーターを用いるのが好ましい。多層同時塗布の方式としては、特に限定されないが、スライドホッパー型カーテン塗工、スライド塗工、ダイフィード型カーテンコーター、ダイコーター、多層フィード型コーター等を用いることができる。特に、下層と最表層とを2層に重ね合わせてダイから吐出して、金属板上に2層を同時塗布するスライドホッパー型カーテン塗工を用いることができる。本発明の塗工方法としてはスライドホッパー型カーテン塗工を用いるのが好ましい。
【0039】
具体的には、最表層および下層を塗工する塗工機として、写真感光材料に使用されている特公昭49−24133号公報に開示されたスライドホッパー型カーテン塗工装置が使用できる。このスライドホッパー型カーテン塗工機の概略図を図1に示す。スライドホッパー1には3層の塗料がギアポンプ等により定量的に送り出される塗料供給孔8およびスリット6が設置されている。スライド面7の唇部7Aの両端部に接するようにチェーン状のカーテンガイド3が設けられている。該唇部7Aの下方には塗料パン5が設置され、カーテンガイド3は塗料パン5の底部まで垂らしている。塗料Pはスライドホッパー1の各々の塗料供給孔8からスリット6を通してスライド面7に幅方向均一に供給され、スライド面7上で積層される。積層された塗料はスライド面7の先端部(唇部7A)で塗料パン5に落下する際にカーテンガイド3により拡げられるため、塗料のカーテン4として幅方向に均一な液膜として流れる。この液膜に帯状の金属板、例えば鋼帯2を通板することにより、鋼帯2の面上に複数層の塗料を同時に塗布することができる。
【0040】
金属板上に下層および最表層を塗布した後、2層を同時に乾燥硬化させる。乾燥の方法は公知の方法が適用でき、例えば自然乾燥や、熱風加熱、誘導加熱、赤外線による加熱など塗膜に熱を与えて乾燥硬化させる方法や、紫外線や電子線などの放射線を塗膜に照射して乾燥硬化させる方法や、触媒を充満させたブースを通過させることによって塗膜を乾燥硬化させる方法、あるいはこれらを組み合わせる方法などがあり、塗装された塗料の種類に応じて選択することができる。
【0041】
このようにして、下層および最表層を同時に乾燥硬化させると、2コート2ベークした場合程には下層表面の架橋密度は高くないが、最表層中メラミンが下層に移行するのを防止するには十分な架橋密度が得られる。
【0042】
下層と前記最表層との界面の粗さ(Ra)は、0.3〜0.6μmの範囲内であることが好ましい。下層を塗布した後乾燥硬化し、その後に最表層を塗布して乾燥硬化するいわゆる2コート2ベーク様式で作成した塗膜の下層と上層との間の界面は通常0.3μm未満である。これは、下層表面が十分にレベリングし平滑になるからである。界面の粗さがあまりに小さいと、塗装後の成形時に最表層との間の密着性が悪くなり剥離しやすくなる。下層と最表層とを同時硬化させ、両層間の界面の粗さ(Ra)を、約0.3〜約0.6μmの範囲内にコントロールすると、下層と最表層との密着性が確保される。このような、本発明の塗膜の大きな界面粗さは、下層と最表層とを同時塗布するかウェットオンウェット方式で塗布し、その後同時乾燥することで実現される。
【0043】
乾燥条件は塗料の内容に応じて適宜選択すればよいが、熱風炉や誘導加熱炉、近赤外線炉等で最高到達板温150〜250℃、到達時間10〜200秒程度の条件が一般的である。
【0044】
高周波GDSによる測定
このようにして形成された塗膜を、高周波GDSを用いて解析する。高周波GDSの測定条件は特に限定されないが、例えば放電電力20〜60W、アルゴン流量150ml〜350ml/分、窒素検出用のフォトマル電圧は450〜650V、サンプリング間隔0.3〜2.5秒で測定する。
【0045】
なお一回の測定についてこれらの値は一定とし、測定途中での変更はしない。最表層の塗膜とその下層、さらには、金属板や下塗り或いは中塗りの塗膜層との界面の位置をスペクトル上で知るために、他の元素も併せて測定すると良い。例えば下層が金属板である場合には、その金属のスペクトルを、また下層が下塗り塗膜層である場合には、下塗り塗膜層に特有の、例えば防錆顔料に含まれるCrなどを測定すると、界面が判別しやすい。
【0046】
高周波GDSの測定によって得られるスペクトルから、ポリエステル樹脂系塗膜の空気に接している表面の窒素のスペクトル強度Iaと、空気とは逆の界面での窒素のスペクトル強度Iiを求める。空気と接している表面のスペクトルは、放電の不安定のためにやや乱れることがあるが、この場合には、図2に示すように、塗膜内部のスペクトルを空気と接している表面に向かって外挿して求めればよい。
【0047】
図2は、本発明のプレコート金属板の最表層を高周波GDSで測定した例である。塗膜中の窒素濃度が表面に向かって高くなっており、塗膜の極表面でかなり濃化していることを意味する。窒素は主に塗膜中のアミノプラスト樹脂中の窒素に由来するものであり、アミノプラスト樹脂の濃度が、塗膜の深さ方向で異なっており、表面に向かって濃度が高くなっている状態を示している。
【0048】
下層と最表層の間の界面の粗さ測定
各実施例の本発明のプレコート金属板を切断して、樹脂に埋め込んだ後に研磨することで、塗膜の表面に垂直な断面を平滑にして、3500倍の走査型顕微鏡で写真を撮影した後に、その界面の粗さRaを評価した。
界面のRaは、写真の上から、OHPに用いられる透明シートをかぶせて、界面の凹凸を精密にトレースした後に、図3に示すように、縦線の部分の面積を画像処理装置で測定して、その平均値として以下の式から求めることができる。
【0049】
【数1】

【0050】
さらに、簡便に界面のRaを測定するには、写真の上から、OHPに用いられる透明シートをかぶせて、界面の凹凸を精密にトレースした後に、平均値を引いて、凹凸に沿って透明シートを切り取り、平均値の上下の凹凸部分の重量を測定して、その重量を平均長さに換算してRaを求めてもよい。本発明例の界面の平均粗さ(Ra)は、いずれも0.3μm〜0.6μmの範囲内であった。
【実施例1】
【0051】
[発明例1]
電気亜鉛めっき鋼板(片面めっき付着量20g/m2 )にクロメートフリー型処理E300N(日本パーカライジング社製)を100mg/m2塗布(乾燥後付着量)を施し、70℃で乾燥させた金属板を用意した。
【0052】
最表層の成分
ポリエステル樹脂:数平均分子量12000、ガラス転移温度(Tg)20℃、水酸基価5。
完全アルキル化メチル化メラミン(重合度1.3):ポリエステル樹脂100重量部に対して35重量部。
酸触媒:ドデシルベンゼンスルフォン酸
をポリエチレン樹脂100重量部に対して1.5重量部。
下層の成分
ポリエステル樹脂:数平均分子量15000、ガラス転移温度(Tg)25℃、水酸基価8。
完全アルキル化メチル化メラミン(重合度1.3):ポリエステル樹脂100重量部に対して35重量部。
酸触媒:ドデシルベンゼンスルフォン酸
をポリエチレン樹脂100重量部に対して1.5重量部。
【0053】
上述したように用意した電気亜鉛めっき鋼板上に、スライドホッパー型カーテン塗工装置を用いて、下層と最表層とを同時塗布し、塗料を塗布した亜鉛めっき鋼板は、誘導加熱炉にて両層を同時に焼き付けた。
【0054】
[発明例2]
下層をロールコーターで塗布し、ウェットオンウェットで最表層をカーテンコーターで塗布した後、誘導加熱炉にて両層を同時に焼き付けた。
【0055】
[比較例1]
発明例1と同じ成分の下層および最表層を用いた。用意した電気亜鉛めっき鋼板上に下層をロールコーターで塗布した後乾燥硬化させ、その後最表層を塗布して硬化させた。
【0056】
[比較例2]
揮発性の塩基で中和させていない酸触媒を用いた以外は発明例1と同じである。
【0057】
このようにして得られたプレコート金属板の上塗り塗膜を、高周波GDSよって分析した。
高周波GDSの測定
理学電機工業社製System3860を用いて、塗膜表面から鋼板との界面付近までの高周波GDSを測定した。放電電力は30W、サンプリング間隔2秒とし、C、O、Nの原子の積分強度から、以下の式で窒素濃度を計算し、深さ方向の窒素濃度の分布を調べた。フォトマル電圧(V)の値は、C:480、O:900、N:640に設定した。GDSにおいては、各元素の厳密な濃度比は定量できないので、相対的な濃度比を下式によって求めた。
窒素濃度(mol%)=(Nの積分強度)×100/(N、C、Oの積分強度の和)
この際のGDSのスポット径は5mmφとした。
【0058】
[加工性の評価]
プレコート金属板の加工性を20℃で評価した。プレコート金属板を180度に折り曲げ、屈曲部に発生するクラックを20倍のルーペで観察し、クラックの入らない限界のTの数を表示した。例えば2Tとは、折り曲げ部にプレコート金属板と同じ板厚の板を2枚挟んだ場合、0Tとは同じ板厚の板を挟まないで180度折り曲げた場合を言う。この加工性を温度20℃で評価した。
【0059】
[層間密着性の評価]
作成したプレコート金属板について、油圧式エリクセンタイプのプレス加工試験機にて円筒絞りを行った。円筒絞りは、絞り比:2.3で行った。胴部にカットを入れテープを貼り、その後剥がして剥離の有無を観察し、下記の基準で評価した。
◎:剥離が無い
○:僅かに剥離がある
△:カット部で剥離する
×:カット部以外でも剥離する
【0060】
[耐汚染性の評価]
マジックインクを用いて耐汚染性耐汚染性を評価した。赤マジックインキで塗膜面に線を引いた後、20℃で24時間放置し、エタノールで拭き取った後の線の跡を目視評価し、下記の基準で評価した。
◎:線の跡が無い
○:若干線の跡が残る
△:明瞭に線の跡が残る
×:線がエタノールで拭き取れない
【0061】
からしを用いて耐汚染性耐汚染性を評価した。市販のSB和風からし(商標)を水に溶き(90質量%)、塗膜上に載せた後、30℃で24時間放置し、水洗した後のからし跡を目視評価し、下記の基準で評価した。
◎:跡が無い
○:若干跡が残る
△:明瞭に跡が残る
×:ほとんど取れていない
【0062】
青染料を用いて耐汚染性耐汚染性を評価した。メチルバイオレットをアセトンに、飽和するまで溶解した。この溶液に実施例の各プレコート金属板を浸漬した。この金属板を24時間後に取りだし、水洗した後の色残りを目視評価し、下記の基準で評価した。
◎:跡が無い
○:若干跡が残る
△:明瞭に跡が残る
×:ほとんど取れていない
【0063】
以下、作成したプレコート金属板の評価結果を表に記載する。
【表1】

【0064】
発明例1および2は、いずれも、加工性、層間密着性、および耐汚染性において良好な結果を示した。これらの例の界面の平均粗さ(Ra)は、いずれも0.5μmであった。
【0065】
比較例1は、界面の平均粗さ(Ra)が0.1μmと非常に小さい。このため層間密着性が非常に悪かった。
【0066】
比較例2は、揮発性の塩基で中和してブロックした酸触媒を用いなかった例である。GDSによるN/(C+O+N)からわかるように、最表層においても、下層においても層内でメラミンの濃度勾配が生じてない。このため、耐汚染性と加工性とが悪くなっている。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明で使用されるスライドホッパー型塗装機の概略図。
【図2】高周波GDSチャートからIa,Ib,Iiを求める方法を示す図面である。
【図3】塗膜界面のRa評価方法について説明する図である。
【符号の説明】
【0068】
1 ダイ
2 鋼帯
3 カーテンガイド
4 カーテン
5 塗料パン
6 スリット
7 スライド面
8 塗料供給孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の上に配置された、最表層と前記最表層の下に配置された下層とを有するプレコート金属板であって、
前記最表層がアミノブラスト樹脂を含み、該最表層内の表面部分のアミノブラスト樹脂の濃度が前記下層との界面部分における濃度よりも高く、
前記下層がアミノブラスト樹脂を含み、前記下層内の前記最表層側の界面部分のアミノブラスト樹脂の濃度が、前記下層内の前記金属板側の界面部分における濃度よりも高いプレコート金属板。
【請求項2】
前記下層と前記最表層との界面のRaが0.3〜0.6μmである請求項1記載のプレコート金属板。
【請求項3】
前記下層内の前記最表層側の界面部分のGDSで測定したN/(C+O+N)の値が0.4以上である請求項1または2記載のプレコート金属板。
【請求項4】
前記最表層および前記下層を形成する塗布液が、両者とも水酸基価が40以下のポリエステル樹脂、メチル化メラミン樹脂、揮発性の塩基で中和された酸触媒を含んでいる請求項1〜3のいずれか一項記載のプレコート金属板。
【請求項5】
下層および最表層を多層同時塗布するか、またはウェットオンウェット塗布した後両層を同時に硬化させる請求項1〜4のいずれか一項記載のプレコート金属板の製造方法。
【請求項6】
金属板の上に配置された、最表層と前記最表層の下に配置された下層とを有するプレコート金属板であって、
前記最表層がアミノブラスト樹脂を含み、該最表層内の表面部分のアミノブラスト樹脂の濃度が前記下層との界面部分における濃度よりも高く、
前記下層と前記最表層が塗布された後、同時硬化されているプレコート金属板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−175815(P2006−175815A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−373781(P2004−373781)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】