説明

加工方法及び加工装置

【課題】加工対象物の加工面の仕上がりが良好となるように、加工対象物を加工し、断面観察用の断面を形成する。
【解決手段】加工方法は、棒状の加工部材3をその長手軸周りに一方向に回転させながら、加工部材3をその長手方向に沿って加工対象物に押し付けることによって、加工対象物を切断又は加工することで、加工対象物に断面観察用の断面を形成する工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工方法及び加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体装置の断面観察のためには、半導体装置に対して切断等を行うことによって、断面観察用の断面を形成する。
【0003】
半導体装置を切断する方法としては、回転するブレードにより半導体装置を切断する方法がある。
【0004】
また、切断対象物を切断する装置としては、例えば、特許文献1に記載されているようなワイヤソーがある。このワイヤソーにおいては、それぞれ砥粒が固着され且つ円筒状に形成された複数のビーズが、数珠状に(つまり互いに所定間隔で)連ねてワイヤに固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−156635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、半導体装置等の加工対象物に断面観察用の断面を形成する際に、クラック等の欠陥が生じてしまうと、その欠陥が断面形成により生じたものなのか、断面形成前に生じていたものなのかを判別できず、断面観察に基づく評価を適切に行うことが困難となってしまう。
【0007】
本発明者は、半導体装置などのように複数の層構造を有する加工対象物を切断し、断面観察用の断面を形成するにあたり、回転するブレード、或いはワイヤソーを用いると、その切断面にクラック等の欠陥が生じて、切断面の仕上がりが悪くなってしまうことを見出した。
その原因について本発明者が更に検討した結果、回転するブレード、或いはワイヤソーを用いると、層剥離を生じさせる方向の力が加工対象物に対して作用するために、クラック等の欠陥が生じてしまうことを見出した。
【0008】
このように、加工対象物の加工面(切断面或いは研磨面)の仕上がりが良好となるように、加工対象物を加工(切断或いは研磨)し、断面観察用の断面を形成することは困難だった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、棒状の加工部材をその長手軸周りに一方向に回転させながら、前記加工部材の周面を加工対象物に押し付けることによって、前記加工対象物を切断又は研磨することで、前記加工対象物に断面観察用の断面を形成する工程を有することを特徴とする加工方法を提供する。
【0010】
この加工方法によれば、加工対象物の加工面(切断面或いは研磨面)の仕上がりが良好となるように、加工対象物を加工(切断或いは研磨)し、断面観察用の断面を形成することができる。
すなわち、切断を行う場合には、例えば、切断により形成される一対の(互いに対向する)切断面のうちの一方については、加工部材から作用する力の方向が、層剥離を生じさせる方向とは異なる方向になる(例えば、常に、押付部による押し付けの方向と一致する)。このため、加工対象物の表層の剥離等を抑制できる結果、切断面の仕上がりを良好にできる。
同様に、例えば切断分離された切断面に対して研磨を行う場合には、加工部材から研磨面に対して作用する力の方向が、層剥離を生じさせる方向とは異なる方向になる(例えば、押付部による押し付けの方向と一致する)ように、研磨面に対する加工部材の回転方向を設定することにより、加工対象物の表層の剥離等を抑制でき、その結果、切断面の仕上がりを良好にできる。また、例えば、円弧状の研磨面を研磨する場合には、研磨面のうち、加工部材の回転方向の上手側の半部に対しては、加工部材から研磨面に対して作用する力の方向が、層剥離を生じさせる方向とは異なる方向になるので、この場合にも、加工対象物の表層の剥離等を抑制でき、その結果、切断面の仕上がりを良好にできる。
【0011】
また、本発明は、加工対象物を切断又は研磨し、断面観察用の断面を形成する加工部材と、
前記加工部材を駆動させる駆動部と、
前記加工部材を前記加工対象物に対して押し付ける押付部と、
を有し、
前記加工部材は、棒状に形成され、
前記押付部は、前記加工部材の周面を前記加工対象物に押し付け、
前記駆動部は、前記加工部材を、その長手軸周りに一方向に回動させることを特徴とする加工装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、加工対象物の加工面(切断面或いは研磨面)の仕上がりが良好となるように、加工対象物を加工(切断或いは研磨)し、断面観察用の断面を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施形態に係る加工装置のメカニズムを説明するための斜視図である。
【図2】第1の実施形態に係る加工装置による切断動作を示す断面図である。
【図3】第1の実施形態に係る加工装置の具体的な構成の例を示す斜視図である。
【図4】加工対象物としての半導体パッケージの要部の断面図である。
【図5】切断後の半導体パッケージの斜視図である。
【図6】第2の実施形態に係る加工装置の加工部材を示す図である。
【図7】比較例1に係る切断装置を示す斜視図及び断面図である。
【図8】比較例2に係る切断装置を示す斜視図及び断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。
【0015】
〔第1の実施形態〕
図1は第1の実施形態に係る加工装置のメカニズムを説明するための斜視図である。図2は第1の実施形態に係る加工装置による切断動作を示す断面図であり、図1のA−A矢視断面図である。図3は第1の実施形態に係る加工装置の具体的な構成の例を示す斜視図である。
【0016】
本実施形態に係る加工装置は、加工対象物(例えば半導体パッケージ1)を切断又は研磨し、断面観察用の断面を形成する加工部材3と、加工部材3を駆動させる駆動部(例えばモータ302)と、加工部材3を加工対象物に対して押し付ける押付部(後述)と、を有し、加工部材3は、棒状に形成され、押付部は、加工部材3の周面を加工対象物に押し付け、駆動部は、加工部材3を、その長手軸周りに一方向に回動させる。以下、詳細に説明する。
【0017】
本実施形態では、加工装置が、加工対象物の切断を行う切断装置である例について説明する。
【0018】
加工部材3は、直線状、且つ、断面が略円形で、径が一定の棒状に形成されている。加工部材3の径は、加工対象物の寸法等に合わせて適宜に設定することができるが、加工対象物が半導体パッケージ1の場合には、例えば、1mm以上10mm以下程度とすることができ、好ましくは、2mm以上3mm以下である。
加工部材3の径が細いほど、切断開始から、切断面が切断の進行方向(矢印16の方向)と平行になる(つまり切断面が平坦になる)までの時間を短くできる。一方で、加工部材3の径が太いほど、切断面の底部(加工対象物が切断分離されない段階での底部)の勾配を緩やかにすることができる。
【0019】
加工部材3の周面には、該加工部材3の長手方向に沿って直線状に延在する溝301(図2:凹部)が形成されている。なお、溝301は、必ずしも直線状でなくても良く、例えば螺旋状等の曲線状に延在していても良い。
【0020】
加工部材3には、2本以上の溝301が形成されていることが好ましい。ただし、溝301が多すぎると、加工部材3の周面において溝301以外の部分の比率が小さくなり、切断の効率が低下する可能性がある。加工部材3の周面の面積を1とすると、周面において溝301を除く部分の面積は0.5以上であることが好ましい。また、この観点から、溝301の本数は、例えば、6本以下、或いは、7本以下程度が好ましい。これら溝301は、加工部材3の周面において所定間隔(例えば、一定間隔)に配置されている。
【0021】
溝301の深さ及び幅は、切断時に用いられる研磨材(例えば、ダイヤモンドスラリー308(図3))に含まれる砥粒の粒径よりも大きいことが好ましい。砥粒の粒径は、例えば、10μm未満である。このため、溝301の深さ及び幅は、それぞれ、10μm以上であることが好ましい。なお、溝301の具体的な深さ及び幅は、例えば、50μm以上300μm以下とすることができる。なお、溝301の深さと幅とは、同程度にしても良いし、異なる寸法にしても良い。
【0022】
なお、溝301は、ある程度深く形成しておく方が、加工部材3が長持ちする。摩耗により加工部材3の径が細くなるとともに、溝301が浅くなったり消失したりした場合には、加工部材3が使用に耐えうる程度の径を有する限りは、新たに溝301を形成するこことによって、加工部材3を引き続き使用することができる。
【0023】
加工部材3の材質は、加工対象物を切断できるものであれば、特に限定されないが、例えば、金属であることが好ましい。溝301の加工性を考慮すると、例えば、真鍮により加工部材3を構成することが好ましい。
【0024】
また、加工部材3の周面には、必要に応じて、砥粒(図示略)が接着材(図示略)で固定されていても良い。この場合、砥粒の粒径は、例えば、3μm以上30μm以下とすることができる。
【0025】
この加工部材3は、駆動部としてのモータ302(図3)によってその長手軸周りに一方向(矢印15の方向)に回動される。また、加工部材3は、後述する押付部によって、該加工部材3の長手方向に沿って加工対象物としての半導体パッケージ1に対して押し付けられる(矢印16の方向に押し付けられる)。これにより、加工部材3の周面と半導体パッケージ1との摩擦により、図2に示すように半導体パッケージ1を徐々に切断することができる。
【0026】
ここで、切断によって半導体パッケージ1に形成される互いに対向する一対の切断面のうち、一方の切断面11(加工部材3の回転方向の上手側の断面)には、切断中、常に、半導体パッケージ1の表面側から裏面側へ向かう摩擦力14が作用する。より詳細には、一方の切断面11においては、半導体チップ100の表面の配線層102側から半導体基板101側へ向かう摩擦力14が作用する。このため、一方の切断面11においては、半導体パッケージ1のストレス状態、切断中における加工部材3の横ブレ、半導体パッケージ1の傾斜(後述する保持台2上での配置の傾斜)などに依らず、配線層102の剥離が抑制される。すなわち、一方の切断面11にクラックやチッピング等のダメージが発生してしまうことを抑制できる。
よって、断面観察する側の切断面が、切断面11となるように、加工部材3を半導体パッケージ1に対して接触させることによって、半導体パッケージ1の切断面の仕上がりが良好となるように半導体パッケージ1を切断することができる。
【0027】
図3に示すように、加工装置は、例えば平坦に形成された基台300と、この基台300上に配置された脚310付きのステージ304と、このステージ304上に配置された保持台2と、を有している。
【0028】
ステージ304の上面は平坦に形成され、水平に配置されている。また、保持台2は、上面及び下面がそれぞれ平坦且つ互いに平行な直方体状(或いは盤状)の形状をなしている。従って、ステージ304上に保持台2を配置することで、保持台2の上面も水平となる。
【0029】
本実施形態の場合、加工部材3による切断が、加工対象物のみならず保持台2にも及ぶことを想定している。この場合、保持台2の材質としては、加工部材3による切断速度が、加工対象物と比べて極端に小さくならないものを選択することが好ましい。具体的には、例えば、アクリル或いはガラス等が好ましい。なお、加工部材3による切断が保持台2には及ばない場合、保持台2の材質は、加工部材3を保持(支持)できるものであれば何でも良い。
【0030】
加工対象物(例えば、半導体パッケージ1)を切断する際には、加工対象物は、マウンティングワックス201(図2)を介して保持台2上に貼り付けられて固定される。なお、マウンティングワックス201は、熱を加えると溶融する。マウンティングワックス201を溶融させることにより、加工対象物を保持台2から容易に剥がすことができる。つまり、マウンティングワックス201は、熱可塑性の接着材ということができる。
【0031】
また、加工部材3の一端には滑車305が固定されている。この滑車305には、ワイヤ306を介して重り307が吊されている。つまり、加工部材3の一端を下方に付勢するように重り307が宙づりされている。
ここで、滑車305は、その内側部分と外側部分とが相互に滑車305の軸周りに回転できる構造となっていて、内側部分が加工部材3に固定され、外側部分にワイヤ306が引っ掛けられている。このため、ワイヤ306を介して重り307を宙づりした状態でも、滑車305の内側部分は、加工部材3と共にその軸周りに自由に回転できるようになっている。
【0032】
また、加工部材3の他端は、モータ302の駆動軸に固定され、該駆動軸と同じ方向に加工部材3が軸周りに回転するようになっている。このモータ302は、固定部材309に固定されている。この固定部材309には、一対のガイド303が挿通されている。ガイド303は、それぞれ直立するように基台300上に固定され、且つ、互いに所定間隔に配置されている。
【0033】
固定部材309は、ガイド303に沿って、上下に摺動可能となっている。このため、固定部材309に固定されたモータ302と、モータ302に固定された加工部材3とは、固定部材309と一体的に、上下に移動可能となっている。
つまり、モータ302はガイド303によって上下に移動自在にガイドされ、モータ302及び固定部材309の自重によって加工部材3の他端が下方に付勢されている。
【0034】
そして、このように加工部材3の両端がそれぞれ下方に付勢されることによって、加工部材3を加工対象物に押し付けることができるようになっている。
【0035】
なお、滑車305、ワイヤ306及び重り307の合計重量によって加工部材3の一端を下方に付勢する力と、モータ302及び固定部材309の合計重量によって加工部材3の他端を下方に付勢する力とが釣り合うように、これらの各々の部材の重量・寸法及び形状が設定されていることが好ましい。これにより、加工部材3の両端に加わる荷重のバランスが取れるので、加工部材3の長手方向に亘って均一な力で加工部材3を切断対象物に押し付けることができる。
【0036】
以上において、ガイド303、固定部材309、(モータ302、)滑車305、ワイヤ306及び重り307によって、押付部が構成されている。
【0037】
なお、仮にモータ302を手などで固定する場合は、加工部材3の横ブレが発生しやすくなる。加工部材3が横ブレを起こすと、上から見た切断面が湾曲することがある。切断面が湾曲すると、切断後の研磨の際に研磨盤に切断面を均一に押し付けることが困難となるとともに、切断面を平坦とするためには長時間の研磨が必要となる。
【0038】
本実施形態では、押付部によって加工部材3の横ブレが抑制できるので、平坦な切断面を形成することが可能になるとともに、切断位置の制御も容易になる。
【0039】
次に、上記の加工装置を用いて、加工対象物(例えば、半導体パッケージ1)に断面観察用の断面を形成する方法を説明する。この方法は、本実施形態に係る加工方法を包含する。
この加工方法は、棒状の加工部材3をその長手軸周りに一方向に回転させながら、加工部材3の周面を加工対象物に押し付けることによって、加工対象物を切断又は研磨することで、加工対象物に断面観察用の断面を形成する工程を有する。
以下、詳細に説明する。
【0040】
図4は半導体パッケージ1の要部の断面図である。図4に示すように、半導体パッケージ1は、例えば、次のように構成されている。半導体チップ100がマウント材103を介してパッケージ基板104上に搭載されている。半導体チップ100はボンディングワイヤ105を介して図示しないリードに対してワイヤボンディングされている。モールド樹脂106によって片面封止することにより、半導体チップ100及びボンディングワイヤ105がモールド樹脂106内に埋設されている。なお、半導体パッケージ1は、図2に示すように、下面に半田ボール107を有するタイプのものであっても良い。
【0041】
半導体チップ100は、半導体基板101と、この半導体基板101の表面に形成された図示しないトランジスタ等の半導体素子と、半導体基板101上に形成された配線層102と、を有している。配線層102は、薄膜を加工して形成され、半導体素子の相互接続等を行う。
【0042】
この配線層102は、半導体基板101、パッケージ基板104及びモールド樹脂106に比べて非常に薄い上、モールド樹脂106及び半導体基板101の双方から応力を受けているため、配線層102に切断或いは研磨による摩擦力が加わることにより、半導体基板101から容易に剥がれることがある。
【0043】
パッケージ不良の解析や半導体チップ100の実装状態の評価のために、半導体パッケージ1の断面観察を行うには、断面観察位置の近傍を切断した後、切断面を研磨する。
ここで、半導体パッケージ1の断面には、モールド樹脂106等のプラスチックや金属など、種々の材料が含まれる。このため、それらの材料が当初の構造を損なってしまうことが抑制されるように、切断条件及び研磨条件を適切に設定し、適切な切断速度及び研磨速度で切断及び研磨を行うことが好ましい。
特に、観察したい断面に半導体チップ100が含まれる場合、半導体チップ100へのダメージを抑える必要性から、これらの条件設定の難度が高まる。半導体パッケージ1の断面観察により半導体チップ100にクラック等が確認された場合は、そのクラック等が半導体パッケージ1の切断や研磨で発生したものでないことが保証されなければ、半導体チップ100の実装状態等の評価を正しく行うことが困難である。
【0044】
切断後の研磨は、切断時に形成されたダメージ層(切断時のダメージによりクラックやチッピングが発生した層)を除去することを目的として実施するため、切断時のダメージはある程度までは許容できる。しかしながら、ダメージが大きい場合、そのダメージを研磨で回復することができない可能性がある。なぜなら、一旦ダメージが発生してしまうと、ダメージにより形成された隙間内に、砥粒や研磨屑が入り込んで隙間を切断面の奥へ広げるため、その後の研磨で隙間が開いていない状態を回復させることが困難となるからである。特に、切断面に半導体基板101が含まれる場合には、研磨で回復できない程のダメージが入りやすい。
【0045】
このような事情に対し、本実施形態では、以下に説明するようにして半導体パッケージ1を切断することにより、切断によるダメージの発生を抑制できる。つまり、切断面の仕上がりが良好となるように半導体パッケージ1を切断し、断面観察用の断面を形成することができる。
【0046】
半導体パッケージ1を切断するには、先ず、ステージ304上に保持台2を配置し、更に、マウンティングワックス201を介して半導体パッケージ1を保持台2上に貼り付けて固定する。この際、配線層102が半導体基板101の上に位置するように半導体パッケージ1を配置する。
【0047】
次に、モータ302によって加工部材3をその長手軸周りに一方向に回転駆動させながら、上記の押付部によって、加工部材3をその長手方向に沿って半導体パッケージ1の上面に押し付ける。これにより、半導体パッケージ1をその上面側から徐々に切断することができる(図2)。なお、加工部材3の表面に形成した溝301には、研磨屑を効率よく掻き出す働きがあり、切断速度を上げる効果がある。
【0048】
ここで、固定砥粒による砥石切断を行う場合は、加工部材3としては、その周面に砥粒(図示略)が接着材で固定されたものを用い、この砥粒で半導体パッケージ1を研磨しながら切断を進める。このとき、半導体パッケージ1の表面に潤滑剤(図示略)を垂らしながら切断することにより、半導体パッケージ1へのダメージを抑制することができる。
【0049】
一方、遊離砥粒によるラッピング切断を行う場合は、半導体パッケージ1の表面にダイヤモンドスラリー308などの研磨剤をノズル311を介して垂らしながら、切断を行う。この場合の研磨は、半導体パッケージ1と加工部材3との間に入り込んだ研磨剤により半導体パッケージ1を研磨しながら進行する。このとき、研磨剤の溶媒は、潤滑剤として働き、半導体パッケージ1へのダメージを抑制する効果がある。
【0050】
図1乃至図3の例では、加工部材3は時計回りで回転しており、加工部材3が接触する部分のモールド樹脂106、配線層102、半導体基板101、マウント材103、パッケージ基板104、半田ボール107が、砥粒により順次削り取られて、半導体パッケージ1の切断が進行する。
【0051】
このとき、半導体パッケージ1において、加工部材3の右半分が接触する部分は、常に上から下へ向かう摩擦力14を受ける。一方、半導体パッケージ1において、加工部材3の左半分が接触する部分は、常に下から上へ向かう摩擦力を受ける。
このように、断面観察用の断面となる切断面11が加工部材3の右側に位置するように、半導体パッケージ1及び加工部材3の配置と、加工部材3の回転方向とを設定することにより、切断中に切断面11に作用する摩擦力14の方向は、常に、上から下へ向かう方向にすることができる。すなわち、切断面11の配線層102は、切断中、常に、半導体基板101に押し付けられる方向に力を受ける。
このため、切断面11においては、配線層102を半導体基板101から剥離させる方向の力が作用することが十分に抑制される。
従って、配線層102と半導体基板101との間の隙間の発生を抑制することができるので、クラックやチッピングのダメージの発生を抑制しながら切断を行うことができる。
【0052】
ここで、図2(a)に示すのは、加工部材3が半田ボール107までを切断し、半導体パッケージ1の切断分離が完了した状態である。この段階では、観察用の断面となる切断面11が未だ平坦となっておらず、切断面11の下部が弧状のままとなっている。
【0053】
このため、観察用の断面として、平坦な切断面11が必要な場合には、半導体パッケージ1の切断分離が完了した段階から、更に、およそ加工部材3の半径以上の深さだけ保持台2を切断する(図2(b)の状態)。これにより、切断面11を平坦に仕上げることができ、その後で切断面11をより平坦に研磨する作業を容易にすることができる。なお、この研磨は、例えば、切断面11を平坦な研磨盤(図示略)に押し当てて研磨盤を盤面方向に回転させることによって行う。
ここで、このように観察用の断面として平坦な切断面11が必要な場合、保持台2は、加工部材3の半径以上の厚さを有し、且つ、半導体パッケージ1の切断に適した切断条件でも比較的容易に切断できる材質のものとする。また、消耗品であることから、ガラス板やアクリル板のような、比較的安価なものが好ましい。
【0054】
その後、切断面11を観察することにより、半導体パッケージ1における半導体チップ100の実装状態等の評価を行うことができる。なお、このように切断面11を平坦に加工して断面観察を行うことにより、半導体パッケージ1の各部分の厚さを正確に把握できる利点がある。
【0055】
一方で、切断により形成された切断面11の底部が弧状の面となっている段階で切断を終えて、断面観察を行う場合には、以下に説明するメリットが有る。すなわち、図5に示すように、切断面17の少なくとも底部が弧状の面(ハーフパイプ状の面)となっている段階で切断を終えると、上記のように切断面11を平坦にする場合と比べて、層構造の積層方向に引き延ばした切断面17が得られる。このため、例えば、観察対象の部分が薄い膜であっても断面観察がしやすくなり、異常の有無の判断が容易になる場合がある。しかも、この場合は切断面17を作成するのに要する時間を短縮できる上、保持台2の表面に切り込みが入ることもないため、保持台2を繰り返し使用することができる。
なお、図5に示すような切断面17を観察する場合にも、観察する箇所は、加工部材3の回転方向における上手側の部分とする。
【0056】
ここで、比較例1に係る切断装置を説明する。
【0057】
図7は比較例1に係る切断装置を示す図である。このうち図7(a)は斜視図、図7(b)は図7(a)のB−B矢視断面図である。なお、図7(b)において、ブレード4はその輪郭のみを示している。
【0058】
図7に示すように、比較例1に係る切断装置は、一方向(矢印415の方向)に回転するブレード4を一方向(矢印416の方向)に移動させながら、半導体パッケージ1を切断する。この切断装置の場合、切断中に半導体パッケージ1又はブレード4の横ブレが発生したり、切断面とブレード4との間に研磨屑などの異物が入り込んだりすると、配線層102を半導体基板101から引き剥がす方向の摩擦力12(図7(b))が切断面に作用する。このため、配線層102の剥離を抑制することは困難である。
【0059】
次に、比較例2に係る切断装置を説明する。
【0060】
図8は比較例2に係る切断装置を示す図である。このうち図8(a)は斜視図、図8(b)及び図8(c)はそれぞれ図8(a)のC−C矢視断面図である。なお、図8(b)及び(c)においては、ワイヤ5を二点鎖線で示している。また、図8(b)及び(c)は、図8(a)よりも拡大されているため、ワイヤ5が図8(a)よりも太く示されている。
【0061】
図8に示すように、比較例2に係る切断装置はワイヤソーであり、複数のビーズが数珠状に連ねて固定されたワイヤ5と、それぞれ一方向に回転駆動される複数(4つ)のプーリ501と、を有している。ワイヤ5は所定の張力が付与された状態で、複数のプーリ501間にループ状に架け渡されている。
このワイヤソーは、複数のプーリ501によってワイヤ5を一方向に回転させながら、ワイヤ5において一対のプーリ501(図8(a)の下側2つのプーリ501)間の部位を半導体パッケージ1に押し当てることによって、切断を行う。
【0062】
ワイヤソーは、半導体パッケージ1の表面にほぼ平行な方向に摩擦力を加えるため、一見すると、配線層102が剥がす方向の力は加わり難いように思われる。しかし、実際には、半導体基板101の表面と平行に切断が進行するとは限らない。
【0063】
図8(b)はマウント材103の偏りに起因して、半導体基板101が半導体パッケージ1の表面(つまりモールド樹脂106の表面)に対して傾斜して実装されている場合を示す。この場合、半導体パッケージ1の表面と半導体基板101とが平行でない。このため、ワイヤ5の移動方向に対して上手側の半導体基板101端部が高くなるような位置関係で切断すると、半導体パッケージ1の表面(つまりモールド樹脂106の表面)と平行にワイヤ5を押し当てて切断を行ったとしても、配線層102を半導体基板101から引き剥がす方向の摩擦力12が切断面に作用する。このため、配線層102の剥離を抑制することは困難である。
【0064】
図8(c)はワイヤ5を半導体パッケージ1側に押し付ける矢印516(図8(a))の方向への荷重によりワイヤ5が撓む場合を示す。この場合、モールド樹脂106よりも硬い半導体基板101の切断を行う段階では、ワイヤ5の撓みに起因して、半導体基板101が存在しない部分の切断が、半導体基板101が存在する部分の切断に先行する。このため、半導体基板101の端部には、ワイヤ5が傾いた状態で接触するため、ワイヤ5の移動方向に対して上手側の半導体基板101端部では、配線層102を半導体基板101から引き剥がす方向の摩擦力12が切断面に作用する。よって、配線層102の剥離を抑制することは困難である。
【0065】
これら比較例1、2に対し、本実施形態では、以下のような効果が得られる。
【0066】
すなわち、第1の実施形態によれば、棒状の加工部材3を、その長手軸周りに回転させながら、半導体パッケージ1に押し当てて切断を行う。このため、切断により形成される互いに対向する一対の切断面のうち、加工部材3の回転方向における上手側の部分が接触する切断面11には、切断中、常に、半導体基板101の表面の配線層102から半導体基板101側へ向かう摩擦力が作用する。従って、断面観察により観察される断面が切断面11となるように、加工部材3を半導体パッケージ1に当てることにより、配線層102が剥がれにくい状態で切断を行うことができる。よって、半導体パッケージ1にチッピングやクラック等のダメージが発生しにくいような切断が可能である。
【0067】
しかも、配線層102を半導体基板101側に押し付ける力の方向は、半導体基板101の表面に対してほぼ垂直となるので、加工部材3や半導体パッケージ1の横ブレが発生したり、半導体パッケージ1内で半導体基板101が傾斜していたりしても、半導体基板101側から配線層102へ向かう摩擦力の成分の発生は十分に抑制される。従って、配線層102と半導体基板101との隙間の発生をより確実に抑制することができる。
【0068】
要するに、半導体パッケージ1等の加工対象物の切断面11の仕上がりが良好となるように、加工対象物を切断し、断面観察用の断面を形成することができる。
【0069】
また、その結果、半導体パッケージ1の断面観察で確認される半導体チップ100のクラックやチッピングが半導体パッケージ1の切断や研磨で発生したものでないことを保証しやすくなるので、半導体チップ100の実装状態を正しく評価することが可能となる。
【0070】
〔第2の実施形態〕
図6は第2の実施形態に係る加工装置の加工部材を示す図であり、このうち図6(a)は、この加工部材の第1の例を示す斜視図、図6(b)はこの加工部材の第2の例を示す断面図である。
【0071】
上記の第1の実施形態では、加工装置が切断装置である例を説明したが、本実施形態では、加工装置が研磨装置である例を説明する。
【0072】
上記の第1の実施形態に係る加工装置による切断後の切断面11は表面粗さが十分に小さくなっていない場合があり、その場合、切断後の切断面11を研磨した上で、観察を行う。
【0073】
上記の第1の実施形態に係る加工装置の加工部材の代わりに、図6(a)に示すような研磨用の加工部材31をモータ302に取り付けることにより、加工装置を研磨装置として利用することができる。
【0074】
この加工部材31は、溝301を有していない点で、上記の第1の実施形態に係る加工装置の加工部材3と相違する。また、研磨の際に用いる研磨材としては、ダイヤモンドスラリー308を用いることができるが、このダイヤモンドスラリー308に含まれる砥粒の粒径は、上記の第1の実施形態よりも小さくする。具体的には、この砥粒の粒径は、例えば、1μm以下とする。
【0075】
このような加工部材31とダイヤモンドスラリー308とを用いることにより、加工装置によって加工対象物の研磨(例えば、中仕上げの研磨)が可能である。
【0076】
また、ダイヤモンドスラリー308の代わりにアルミナペーストを研磨材として用い、図6(b)に示すように加工部材31と同形状の金属等の棒状部材32の周囲にバフ33を巻回させて貼り付けたものを加工部材34とすることにより、仕上げ加工も可能になる。
ここで、バフ33は、例えば、ウレタン、布、ナイロン布などの柔軟な材料により構成されたシート状の研磨用具を意味し、このバフ33に研磨材を塗布して研磨を行う。
【0077】
なお、加工部材31の周面には、必要に応じて砥粒を固着させていても良い。この砥粒の粒径は、加工部材3の周面に固着する砥粒の粒径よりも小さくする。具体的には、加工部材31に固着させる砥粒の粒径は、例えば、0.1μm以上1μm以下とすることができる。
【0078】
上記の各実施形態では、加工対象物が半導体パッケージ1である例を説明したが、半導体パッケージ1以外の加工対象物を加工することも可能である。特に、加工対象物が複数の層構造を有する場合に、隣り合う層どうしの界面でのダメージの発生を抑制できるため有用である。
【符号の説明】
【0079】
1 半導体パッケージ
2 保持台
3 加工部材
4 ブレード
5 ワイヤ
11 切断面
12 摩擦力
14 摩擦力
17 切断面
31 加工部材
32 棒状部材
33 バフ
34 加工部材
100 半導体チップ
101 半導体基板
102 配線層
103 マウント材
104 パッケージ基板
105 ボンディングワイヤ
106 モールド樹脂
107 半田ボール
201 マウンティングワックス
300 基台
301 溝
302 モータ
303 ガイド
304 ステージ
305 滑車
306 ワイヤ
307 重り
308 ダイヤモンドスラリー
309 固定部材
310 脚
311 ノズル
501 プーリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状の加工部材をその長手軸周りに一方向に回転させながら、前記加工部材の周面を加工対象物に押し付けることによって、前記加工対象物を切断又は研磨することで、前記加工対象物に断面観察用の断面を形成する工程を有することを特徴とする加工方法。
【請求項2】
前記加工対象物は半導体パッケージであることを特徴とする請求項1に記載の加工方法。
【請求項3】
前記断面を形成する工程の後で、
前記断面を観察する工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の加工方法。
【請求項4】
前記加工部材の周面には、凹部が形成され、
前記断面を形成する工程では、前記加工対象物を切断することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の加工方法。
【請求項5】
前記加工部材の周面には、砥粒が固着されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の加工方法。
【請求項6】
前記加工対象物を保持台上に保持した状態で前記切断を行い、
前記加工対象物の切断分離が完了した段階から、更に、前記加工部材の半径以上の深さだけ前記保持台を切断することを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の加工方法。
【請求項7】
前記加工対象物において前記切断により形成された切断面の底部が、弧状の面となっている段階で、前記切断を終えることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の加工方法。
【請求項8】
前記加工部材の周面には、バフが巻回されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の加工方法。
【請求項9】
前記バフには研磨剤が塗布されていることを特徴とする請求項8に記載の加工方法。
【請求項10】
前記加工部材の一端を下方に付勢するように重りを宙づりし、且つ、前記加工部材を回転させる駆動部をガイドによって上下に移動自在にガイドし前記駆動部の自重によって前記加工部材の他端を下方に付勢することによって、前記加工部材を前記加工対象物に押し付けることを特徴とする請求項1乃至9の何れか一項に記載の加工方法。
【請求項11】
加工対象物を切断又は研磨し、断面観察用の断面を形成する加工部材と、
前記加工部材を駆動させる駆動部と、
前記加工部材を前記加工対象物に対して押し付ける押付部と、
を有し、
前記加工部材は、棒状に形成され、
前記押付部は、前記加工部材の周面を前記加工対象物に押し付け、
前記駆動部は、前記加工部材を、その長手軸周りに一方向に回動させることを特徴とする加工装置。
【請求項12】
前記加工対象物は半導体パッケージであることを特徴とする請求項11に記載の加工装置。
【請求項13】
前記加工部材は、前記加工対象物を切断するものであり、
前記加工部材の周面には、凹部が形成されていることを特徴とする請求項11又は12に記載の加工装置。
【請求項14】
前記加工部材の周面には、砥粒が固着されていることを特徴とする請求項11乃至13の何れか一項に記載の加工装置。
【請求項15】
前記加工部材の周面には、バフが巻回されていることを特徴とする請求項11又は12に記載の加工装置。
【請求項16】
前記バフに研磨剤が塗布されていることを特徴とする請求項15に記載の加工装置。
【請求項17】
前記押付部は、前記加工部材の一端を下方に付勢するように宙づりされた重りを含むことを特徴とする請求項11乃至16の何れか一項に記載の加工装置。
【請求項18】
前記押付部は、前記駆動部を上下に移動自在にガイドするガイドを含み、前記駆動部がその自重により前記加工部材の他端を下方に付勢することを特徴とする請求項17に記載の加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−96325(P2012−96325A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246361(P2010−246361)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】