説明

加工機用ノズル、溶接用コンタクトチップ、加工機用ノズルの製造方法、溶接用コンタクトチップの製造方法

加工機用ノズルの高寿命化を図るために、加工機用ノズルの金属母材表面に硬質セラミックスの被膜を形成する。加工機用ノズルの金属母材表面に硬質セラミックスの被膜を形成することにより、この加工機用ノズルは表面に傷が付きにくく、熱に強いものとされる。これにより、この加工機用ノズルでは加工中のワークの返りとの接触などによる傷の発生、熱による変形などに起因して寿命が短くなることが防止され、高寿命化が実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
この発明は、加工機用ノズル、溶接用コンタクトチップといった過酷な条件下で使用される部材の高寿命化を図る技術に関するものである。
【背景技術】
従来、金属粉末または金属の化合物の粉末、または、セラミックスの粉末を圧縮成形した圧粉体、もしくは、該圧粉体を加熱処理した圧粉体を電極として、油系の加工液中において電極とワークの間にパルス状の放電を発生させ、そのエネルギにより、ワーク表面に電極材料または電極材料が放電エネルギにより反応した物質からなる被膜を形成する放電表面処理技術に関しては、例えばワーク表面に硬質炭化物被膜を形成する方法として技術が確立している(例えば、特許文献1、特許文献2及び特許文献3参照)。
また、溶接ノズル、溶接用コンタクトチップに関する発明として、ノズルまたはコンタクトチップの寿命を延ばすことを目的としてなされた技術が提案されている(例えば、特許文献4、特許文献5、特許文献6及び特許文献7参照)。
【特許文献1】 国際公開第99/58744号パンフレット
【特許文献2】 国際公開第01/05545号パンフレット
【特許文献3】 国際公開第01/23640号パンフレット
【特許文献4】 特開平3−291169号公報
【特許文献5】 特開昭61−266189号公報
【特許文献6】 特開昭63−188477号公報
【特許文献7】 特開昭61−111783号公報
レーザ加工用ノズル、溶射用ノズル、溶接用ノズル、溶接用コンタクトチップなどの部材は、熱と、溶融した材料のスパッタと、に曝された過酷な条件下で使用されるため寿命が短い。このため、これらの部材は交換作業が頻繁に必要であった。すなわち、通常で数日おき、寿命の短いものでは数時間おきでの交換が必要であった。
前述した文献に記載された技術はこのような部材の寿命を延長するためになされたものである。しかしながら、前述した文献に記載された技術ではこのような部材の寿命の改善において十分な効果が上がっているとは言いがたいという問題があった。すなわち、上述したような過酷な条件下で使用されるこれらの部材の寿命の改善に関しては未だ改善の余地がある。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、加工機用ノズル、溶接用コンタクトチップといった過酷な条件下で使用される部材の寿命の短い点を大きく改善して、寿命の長い加工機用ノズル、溶接用コンタクトチップおよびこれらの製造方法を提供することを目的としている。
【発明の開示】
本発明にかかる加工機用ノズルにあっては、金属母材表面に硬質セラミックスの被膜を形成したことを特徴とする。
この発明によれば、加工機用ノズルの金属母材表面に硬質セラミックスの被膜が形成されていることにより、この加工機用ノズルは表面に傷が付きにくく、熱に強いものとされている。これにより、本発明にかかる加工機用ノズルでは加工中のワークの返りとの接触などによる傷の発生、熱による変形などに起因して寿命が短くなることが防止され、高寿命化が図られている。
したがって、本発明にかかる加工機用ノズルは長時間にわたって連続して使用することができ、大幅な作業の削減、コストの削減を実現することが可能であるという効果を奏する。
また、本発明にかかる加工機用ノズルの好ましい態様にあっては、硬質セラミックスの被膜上に、Cr、Ni、Fe、W、Moからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を主成分とする被膜を形成したことを特徴とする。
このような加工機用ノズルは、表面に傷が付きにくく、熱に強く、またスパッタが付着しにくいものとされている。これにより、本発明にかかる加工機用ノズルでは、加工中のワークの返りとの接触などによる傷の発生、熱による変形、スパッタの付着および剥離による変形や穴のつまりなどに起因して寿命が短くなることが防止され、高寿命化が図られている。
したがって、本発明にかかる加工機用ノズルは、より長時間にわたって連続して使用することができ、大幅な作業の削減、コストの削減をより効果的に実現することが可能であるという効果を奏する。
また、上記の硬質セラミックスの被膜は、炭化しやすい金属の粉末または金属炭化物の粉末を主成分とした粉末を圧縮成形した圧粉体電極を用いて、加工液中において放電表面処理により形成された被膜であることが好ましい。このような放電表面処理により形成された硬質セラミックスの被膜は、密着性に優れ剥離しにくいという特徴を有するため、加工機用ノズルの寿命延長の効果に優れる。したがって、放電表面処理により形成された硬質セラミックスの被膜をそなえることにより寿命の極めて長い加工機用ノズルが実現できる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、レーザ加工用ノズルを説明する概略断面図であり、第2図は、鋼材にTiC被膜を形成した場合の断面写真であり、第3図は、溶接ノズルおよび溶接用コンタクトチップを説明する概略断面図であり、第4図は、溶射用ノズルを説明する概略断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に、本発明にかかる加工機用ノズル、溶接用コンタクトチップ及びこれらの製造方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の記述に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、添付の図面においては、理解の容易のため、各部材における縮尺が異なる場合がある。
実施の形態1
第1図は本発明の実施の形態1にかかるレーザ加工用ノズル10を説明する概略断面図である。まずレーザ加工用ノズル10の構成について第1図を用いて説明する。第1図に示すように、本実施の形態にかかるレーザ加工用ノズル10は、金属母材である銅、鉄またはアルミニウムを主成分としたレーザ加工用ノズル本体1の表面に硬質セラミックスの被膜であるTiC(炭化チタン)の被膜2が形成され、さらに硬質セラミックスであるTiCの被膜2の上に金属被膜としてニッケルクロムメッキ層3が形成されてなるものである。レーザ加工用ノズル10には、レーザビーム4およびアシストガス6を通過させる貫通孔7がレーザ加工用ノズル10の略中心部に設けられており、この貫通孔7を通してレーザビーム4及びアシストガス6がワーク5の方向に供給される。
従来、レーザ加工用ノズルはCu(銅)を主成分とした材料で作られるのが一般的であった。しかしながら、レーザ加工中にワークの返りと接触した際の傷、熱による変形、スパッタの付着及び剥離による変形および穴のつまりなどに起因して、寿命が短くなることが問題であった。
そこで、本実施の形態にかかるレーザ加工用ノズル10は、金属母材である銅、鉄またはアルミニウムを主成分としたレーザ加工用ノズル本体1と、該レーザ加工用ノズル本体1の表面に形成された硬質セラミックスの被膜であるTiC(炭化チタン)の被膜2と、さらに該TiC(炭化チタン)の被膜2の上に形成された金属被膜であるニッケルクロムメッキ層3と、から構成されるものである。
本実施の形態にかかるレーザ加工用ノズル10は、上述したような構成とされることにより、レーザ加工用ノズル10の表面に傷が付きにくく、熱に強く、またスパッタが付着しにくいものとされている。これにより、このレーザ加工用ノズル10ではレーザ加工中のワークの返りとの接触による傷の発生、熱による変形、スパッタの付着および剥離による変形や穴のつまりなどに起因して寿命が短くなることが防止され、高寿命化が図られている。
すなわち、本実施の形態にかかるレーザ加工用ノズル10は寿命が極めて長いものであり長時間にわたって連続して使用することができるため、交換作業の大幅な削減、コストの削減を実現するものである。
ここで、硬質セラミックスの被膜は、ビッカース硬さで1000以上のセラミックス材料である。このような硬質セラミックスの被膜は、炭化チタン(TiC)以外の他の材料として、例えば窒化チタン(TiCN)、炭化珪素(SiC)、炭化ホウ素(BC)、炭化クロム(Crなど)、炭化バナジウム(VC)、炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化ニオブ(NbCなど)、炭化モリブデン(MoCなど)、炭化タングステン(WC)などを用いることができる。その中でも、本発明者による実験の結果によれば、炭化チタン(TiC)を硬質セラミックスとして用いた場合に、レーザ加工用ノズル10の寿命延長効果が最も良好であった。
また、硬質セラミックスの被膜の上に形成される金属被膜も、ニッケルクロム以外の他の材料、例えばCr(クロム)、Ni(ニッケル)、Fe(鉄)、W(タングステン)またはMo(モリブデン)などの金属元素を主成分とする金属材料の被膜であれば同様の効果が認められた。これらの金属元素は、いずれも融点が千数百℃以上とであり、融点が比較的高い材料であることが共通している。
そして、上述した金属元素の中でもCr、Mo、Wは高温で酸化物を形成して潤滑性を発揮する材料である。したがって、これらの元素を主成分とする金属材料の被膜を用いることにより、スパッタの付着を効果的に防止することができる。
レーザ加工用ノズル10の最表面の金属被膜(本実施の形態では、ニッケルクロムメッキ層)の形成方法は、メッキや蒸着などの種々の方法を用いることができる。そして、この金属被膜の形成方法が異なってもレーザ加工用ノズル10の寿命延長に関しては大きな差はなかった。
一方、レーザ加工用ノズル本体1と金属被膜との間の中間層である硬質セラミックスの被膜は、以下に述べる放電表面処理による方法が最も寿命延長の効果があることが本発明者の実験により見出された。
放電表面処理とは、国際公開第99/58744号パンフレット、国際公開第01/05545号パンフレット、国際公開第01/23640号パンフレットなどに開示された方法であり、炭化しやすい金属の粉末または金属炭化物の粉末を主成分とした粉末を圧縮成形した圧粉体または該圧粉体を加熱処理した圧粉体と、ワークと、の間に、加工液中において電圧を印加してパルス状の放電を発生させることで、ワークの表面に電極材料が炭化して形成される金属炭化物の被膜を形成する方法である。
この放電表面処理により形成された硬質炭化物被膜は、密着性に優れており剥離し難いという特徴を有する。これは、被膜表面は硬質炭化物が多く、内部にいくにしたがって母材の割合が多くなる傾斜性を持っているためと考えられている。
一例として鋼材からなるワークにTiC被膜を形成した場合の断面写真を第2図に示す。第2図においては、A−A線がTiC被膜形成前のワーク(母材)表面の位置である。また、S−S線がTiC被膜形成後のワーク表面の位置である。TiC被膜は、S−S線とB−B線との間の領域Cに形成されている。そして、第2図においてB−B線の右側の領域DがTiC被膜形成後のワーク(母材)の領域である。
また、第2図におけるラインL−Lに沿ってFe−KαとTi−kαについて組成分析を行った鉄とチタンの含有割合を示す特性曲線を断面写真に重ねて示す。特性曲線の強度は、第2図の写真の左側に示す縦軸(a.u.)で表される。
分析は、第2図におけるラインL−Lに沿ったFe−KαとTi−kαの強度で行った。第2図において特性曲線I(Fe−Kα)は、鉄の含有割合を示すものであり、この値が高いほど鉄の含有量が多い。また、I(Ti−kα)は、チタンの含有割合を示すものであり、この値が高いほどチタンの含有量が多い。
第2図より、ワークの表面ほどチタン(Ti)元素が多く、徐々に母材である鉄(Fe)が増えてくることがわかる。また、ワークの最表面近くでTi−kαの強度が下がっているのは、試験片のエッジのだれによるものであり、実施には最表面ではTiは多くなっている。
次に、本発明を評価試験の結果に基づいてより具体的に説明する。以下では、上述した放電表面処理により銅からなるレーザ加工用ノズル本体にTiC被膜を形成した後、さらに該TiC被膜上にニッケルクロムメッキを施した銅製のレーザ加工用ノズルについて寿命の評価試験を行なった場合について説明する。
評価試験は、以下に示す4種類のサンプルを用いて行なった。
<レーザ加工用ノズル>
(サンプル1)
銅製のレーザ加工用ノズル(従来品)
(サンプル2)
銅製のレーザ加工用ノズルの表面にニッケルクロムメッキを施したもの
(サンプル3)
銅製のレーザ加工用ノズルの表面に放電表面処理によりTiC被膜を形成したもの
(サンプル4)
銅製のレーザ加工用ノズルの表面に放電表面処理によりTiC被膜を形成した後、さらにその上にニッケルクロムメッキを施したもの
評価内容および寿命(サンプル1の寿命を1としたときの比較)を表1に示す。

表1に示すように、サンプル2(銅製のレーザ加工用ノズルの表面にニッケルクロムメッキを施したもの)、およびサンプル3(銅製のレーザ加工用ノズルに放電表面処理によりTiC被膜を形成したもの)、でも多少の寿命の延びは得られた。そして、サンプル2とサンプル3との比較では、サンプル3の方がより寿命延長効果を得ることができた。すなわち、銅製のレーザ加工用ノズルに放電表面処理によりTiC被膜を形成することにより、ある程度良好な寿命延長効果を得ることができるといえる。
一方、サンプル4(銅製のレーザ加工用ノズルに放電表面処理によりTiC被膜を形成し、さらにその上にニッケルクロムメッキを施したもの)は、それらの結果よりも遥かに大きな効果が得られた。サンプル4の寿命が極端に長くなった原因は以下のように推察している。
銅は熱伝導特性が良い材質であるが、融点が高い。逆にTiCは熱伝導特性は悪いが、融点は高い。そして、熱伝導特性が悪いと局部的に温度が上がりやすいため、スパッタが付着し、被膜の破損の原因になりやすい。しかしながら、放電表面処理により形成された被膜は前述のように傾斜性を持った被膜であり、硬いTiCの被膜はすぐに熱伝導特性のよい銅の成分と融合した被膜となっている。したがって、熱による溶融は融点の高い表面のTiCの成分で防ぎ、レーザ加工用ノズルへの入熱は、熱伝導特性が良好な直下の銅の成分ですぐに発散できる理想的な被膜となっていると考えている。
しかし、放電表面処理により形成された硬質セラミックスの被膜は、面粗さが10μm程度と粗く、被膜の厚みにばらつきが大きい。このため、硬質セラミックスの被膜のみでも上述した寿命を延長する効果を得られるが、該硬質セラミックスの被膜だけではレーザ加工用ノズルの寿命の延長の効果が限られると考えられる。これを補うために、放電表面処理により形成された硬質セラミックスの被膜の表面を比較的融点の高い材料であるニッケルクロム等の金属被膜により覆うことが本発明の趣旨である。
なお、上述した評価試験においては、レーザ加工用ノズル本体として銅製のレーザ加工用ノズルを用いた場合について説明したが、レーザ加工用ノズル本体として鉄(Fe)製のレーザ加工用ノズル本体およびアルミニウム(Al)製のレーザ加工用ノズル本体を用いた場合においても上記と同様の効果が得られることが実験により確認された。
したがって、本発明によれば、従来のレーザ加工用ノズルに比べて、遥かに傷がつきにくく、またスパッタが付着しにくい、高寿命なレーザ加工用ノズルを得ることができる。
なお、上記試験は、レーザによる板金の切断の連続加工により行ったが、ピアシング(穴空け)加工のように、ノズルに熱が集中して入らないような加工ではサンプル3の形態のノズルでも十分に寿命を延ばすことができることがわかった。これは、ピアシングのような加工では、熱によるダメージよりも、加工で生じたバリがノズルと擦れることにより受けるダメージの方が大きいからである。このようなダメージには、被膜の硬さのみで十分に耐えることができる。
実施の形態2
溶接においても、実施の形態1において説明したレーザ加工と同様に、溶接ノズルや溶接用コンタクトチップには熱やスパッタの付着に起因して寿命が短くなるという問題がある。
そこで、上述した実施の形態1と同様に、溶接ノズルや溶接用コンタクトチップの表面に硬質セラミックスの被膜を形成することにより、寿命を延ばすことが可能である。さらに、硬質セラミックスの被膜の上に所定の金属被膜を形成することにより、より効果的に寿命を延ばすことが可能である。これにより、長時間にわたって連続して使用することができ、交換作業の大幅な削減、コストの削減を実現する溶接ノズルおよび溶接用コンタクトチップを提供することができる。
以下、実施の形態2にかかる溶接ノズルおよび溶接用コンタクトチップについて説明する。第3図は本発明の実施の形態2にかかる溶接ノズル11および溶接用コンタクトチップ21を説明する概略断面図である。
まず、本実施の形態にかかる溶接ノズル11および溶接用コンタクトチップ21の構成について第3図を用いて説明する。第3図に示すように、本実施の形態にかかる溶接ノズル11は、金属母材である銅、鉄またはアルミニウムを主成分とした溶接ノズル本体12の表面に、放電表面処理により硬質セラミックスの被膜であるTiC(炭化チタン)の被膜13が形成され、さらに硬質セラミックスであるTiCの被膜13の上に金属被膜としてニッケルクロムメッキ層14が形成されてなるものである。
また、第3図に示すように、本実施の形態にかかる溶接用コンタクトチップ21は、金属母材である銅、鉄またはアルミニウムを主成分とした溶接用コンタクトチップ本体22の表面に、放電表面処理により硬質セラミックスの被膜であるTiC(炭化チタン)の被膜23が形成され、さらに硬質セラミックスであるTiCの被膜23の上に金属被膜としてニッケルクロムメッキ層24が形成されてなるものである。
そして、溶接用コンタクトチップ21には、中心部を長手方向に貫通する貫通孔が設けられており、貫通孔に溶接棒25が配置される。また、溶接時には溶接ノズル11および溶接用コンタクトチップ21との間にシールドガス31が供給される。
本実施の形態にかかる溶接ノズル11および溶接用コンタクトチップ21は、上述したような構成とされることにより、溶接時の熱に強く、またスパッタが付着しにくいものとされている。これにより、この溶接ノズル11および溶接用コンタクトチップ21では溶接中の熱による変形、スパッタの付着および剥離による変形などに起因して寿命が短くなることが防止され、高寿命化が図られている。
すなわち、本実施の形態にかかる溶接ノズル11および溶接用コンタクトチップ21は寿命が極めて長いものであり長時間にわたって連続して使用することができるため、交換作業の大幅な削減、コストの削減を実現するものである。
ここで、硬質セラミックスの被膜は、上述した実施の形態1の場合と同様に炭化チタン(TiC)、窒化チタン(TiCN)、炭化珪素(SiC)、炭化ホウ素(BC)、炭化クロム(Crなど)、炭化バナジウム(VC)、炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化ニオブ(NbCなど)、炭化モリブデン(MoCなど)、炭化タングステン(WC)などを用いてもよい。
また、硬質セラミックスの被膜の上に形成される金属被膜も、上述した実施の形態1の場合と同様に、ニッケルクロム以外にCr(クロム)、Ni(ニッケル)、Fe(鉄)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)などの金属元素を主成分とする金属材料の被膜とすることができる。そして、上述した金属元素の中でもCr、Mo、Wを主成分とする金属材料の被膜を用いることにより、スパッタの付着を効果的に防止することができる。
次に、本発明を評価試験の結果に基づいてより具体的に説明する。以下では、上述した放電表面処理により銅からなる溶接ノズル本体にTiC被膜を形成した後、さらに該TiC被膜上にニッケルクロムメッキを施した銅製の溶接ノズルについて寿命の評価試験を行なった場合について説明する。
また、上述した放電表面処理により銅からなる溶接用コンタクトチップ本体にTiC被膜を形成した後、さらに該TiC被膜上にニッケルクロムメッキを施した銅製の溶接用コンタクトチップについて寿命の評価試験を行なった場合について説明する。
評価試験は、それぞれ以下に示す4種類のサンプルを用いて行なった。
<溶接ノズル>
(サンプル5)
銅製の溶接ノズル(従来品)
(サンプル6)
銅製の溶接ノズルの表面にニッケルクロムメッキを施したもの
(サンプル7)
銅製の溶接ノズルの表面に放電表面処理によりTiC被膜を形成したもの
(サンプル8)
銅製の溶接ノズルの表面に放電表面処理によりTiC被膜を形成し、さらにその上にニッケルクロムメッキを施したもの
以上のサンプルについての評価内容および寿命(サンプル5の寿命を1としたときの比較)を表2に示す。
<溶接ノズル>
(サンプル9)
銅製の溶接用コンタクトチップ(従来品)
(サンプル10)
銅製の溶接用コンタクトチップの表面にニッケルクロムメッキを施したもの
(サンプル11)
銅製の溶接用コンタクトチップの表面に放電表面処理によりTiC被膜を形成したもの
(サンプル12)
銅製の溶接用コンタクトチップの表面に放電表面処理によりTiC被膜を形成し、さらにその上にニッケルクロムメッキを施したもの
以上のサンプルについての評価内容および寿命(サンプル9の寿命を1としたときの比較)を表3に示す。


表2に示すように、サンプル6(銅製の溶接ノズルの表面にニッケルクロムメッキを施したもの)、およびサンプル7(銅製の溶接ノズルに放電表面処理によりTiC被膜を形成したもの)、でも多少の寿命の延びは得られた。そして、サンプル6とサンプル7との比較では、サンプル7の方がより寿命延長効果を得ることができた。すなわち、銅製の溶接ノズルに放電表面処理によりTiC被膜を形成することにより、ある程度良好な寿命延長効果を得ることができるといえる。
一方、サンプル8(銅製の溶接ノズルに放電表面処理によりTiC被膜を形成し、さらにその上にニッケルクロムメッキを施したもの)は、レーザノズルほどではないものの、それらの結果よりも大きな効果が得られた。
また、表3に示すように、サンプル10(銅製の溶接用コンタクトチップの表面にニッケルクロムメッキを施したもの)、およびサンプル11(銅製の溶接用コンタクトチップに放電表面処理によりTiC被膜を形成したもの)、でも多少の寿命の延びは得られた。そして、サンプル10とサンプル11との比較では、サンプル11の方がより寿命延長効果を得ることができた。すなわち、銅製の溶接用コンタクトチップに放電表面処理によりTiC被膜を形成することにより、ある程度良好な寿命延長効果を得ることができるといえる。
一方、サンプル12(銅製の溶接用コンタクトチップに放電表面処理によりTiC被膜を形成し、さらにその上にニッケルクロムメッキを施したもの)は、それらの結果よりも大きな効果が得られた。
サンプル8およびサンプル12の寿命が長くなった原因は以下のように推察している。
銅は熱伝導特性が良い材質であるが、融点が高い。逆にTiCは、熱伝導特性は悪いが、融点は高い。そして、熱伝導特性が悪いと局部的に温度が上がりやすいため、スパッタが付着し、被膜の破損の原因になりやすい。しかしながら、放電表面処理により形成された被膜は前述のように傾斜性を持った被膜であり、硬いTiCの被膜はすぐに熱伝導特性の良い銅の成分と融合した被膜となっている。したがって、熱による溶融は融点の高い表面のTiCの成分で防ぎ、溶接ノズルまたは溶接用コンタクトチップへの入熱は、熱伝導特性が良好な直下の銅の成分ですぐに発散できる理想的な被膜となっていると考えている。
しかし、放電表面処理により形成された硬質セラミックスの被膜は、面粗さが10μm程度と粗く、被膜の厚みにばらつきが大きい。このため、硬質セラミックスの被膜のみでも上述した寿命を延長する効果を得られるが、該硬質セラミックスの被膜だけではレーザ加工用ノズルの寿命の延長の効果が限られると考えられる。これを補うために、放電表面処理により形成された硬質セラミックスの被膜の表面を比較的融点の高い材料であるニッケルクロム等の金属被膜により覆うことが本発明の趣旨である。
特に溶接用コンタクトチップでは、溶接の熱が直接伝わるため、溶接用コンタクトチップは数百℃の高温になる。溶接用コンタクトチップが高温になると、ニッケルクロムメッキ被膜中のCr(クロム)が酸化して、Cr(酸化クロム)になり潤滑性を発揮するため、溶接用コンタクトチップ表面に付着物が付きにくくなるという効果があるように推察している。
なお、上述した評価試験においては、溶接ノズル本体および溶接用コンタクトチップ本体として銅製の溶接ノズル本体および溶接用コンタクトチップ本体を用いた場合について説明したが、溶接ノズル本体および溶接用コンタクトチップ本体として鉄(Fe)製の溶接ノズル本体および溶接用コンタクトチップ本体、またはアルミニウム(Al)製の溶接ノズル本体および溶接用コンタクトチップ本体を用いた場合においても上記と同様の効果が得られることが実験により確認された。
したがって、本発明によれば、従来の溶接ノズル、溶接用コンタクトチップに比べて、高寿命な溶接ノズル、溶接用コンタクトチップを得ることができる。これにより、長時間にわたって連続して使用することができ、交換作業の大幅な削減、コストの削減を実現する溶接ノズルおよび溶接用コンタクトチップを提供することができる。
実施の形態3
溶射はノズルから溶融した材料を噴出してワーク表面に付着させる方法である。溶接においても、実施の形態1において説明したレーザ加工と同様に、溶射用ノズルには熱やスパッタの付着に起因して寿命が短くなるという問題がある。
そこで、上述した実施の形態1と同様に、溶射用ノズルの表面に硬質セラミックスの被膜を形成することにより、寿命を延ばすことが可能である。さらに、硬質セラミックスの被膜の上に所定の金属被膜を形成することにより、より効果的に寿命を延ばすことが可能である。これにより、長時間にわたって連続して使用することができ、交換作業の大幅な削減、コストの削減を実現する溶射用ノズルを提供することができる。
以下、実施の形態3にかかる溶射用ノズルについて説明する。第4図は本発明の実施の形態3にかかる溶射用ノズル51を説明する概略断面図である。
まず、本実施の形態にかかる溶射用ノズル51の構成について第4図を用いて説明する。第4図に示すように、本実施の形態にかかる溶射用ノズル51は、金属母材である銅、鉄またはアルミニウムを主成分とした溶射用ノズル本体52の表面に、放電表面処理により硬質セラミックスの被膜であるTiC(炭化チタン)の被膜53が形成され、さらに硬質セラミックスであるTiCの被膜53の上に金属被膜としてニッケルクロムメッキ層54が形成されてなるものである。
本実施の形態にかかる溶射用ノズル51は、上述したような構成とされることにより、溶接時の熱に強く、またスパッタが付着しにくいものとされている。これにより、この溶射用ノズル51では溶接中の熱による変形、スパッタの付着および剥離による変形などに起因して寿命が短くなることが防止され、高寿命化が図られている。
すなわち、本実施の形態にかかる溶射用ノズル51は寿命が極めて長いものであり長時間にわたって連続して使用することができるため、交換作業の大幅な削減、コストの削減を実現するものである。
本実施の形態においても、硬質セラミックスの被膜および該硬質セラミックスの被膜の上に形成される金属被膜は、上述した実施の形態1と同様の材料を用いることができる。
次に、本発明を評価試験の結果に基づいてより具体的に説明する。以下では、上述した放電表面処理により銅からなる溶射用ノズル本体にTiC被膜を形成した後、さらに該TiC被膜上にニッケルクロムメッキを施した銅製の溶射用ノズルについて寿命の評価試験を行なった場合について説明する。
評価試験は、それぞれ以下に示す4種類のサンプルを用いて行なった。
<溶射用ノズル>
(サンプル13)
銅製の溶射用ノズル(従来品)
(サンプル14)
銅製の溶射用ノズルの表面にニッケルクロムメッキを施したもの
(サンプル15)
銅製の溶射用ノズルの表面に放電表面処理によりTiC被膜を形成したもの
(サンプル16)
銅製の溶射用ノズルの表面に放電表面処理によりTiC被膜を形成し、さらにその上にニッケルクロムメッキを施したもの
以上のサンプルについての評価内容および寿命(サンプル13の寿命を1としたときの比較)を表4に示す。

表4に示すように、サンプル14(銅製の溶射用ノズルの表面にニッケルクロムメッキを施したもの)、およびサンプル15(銅製の溶射用ノズルに放電表面処理によりTiC被膜を形成したもの)、でも多少の寿命の延びは得られた。そして、サンプル14とサンプル15との比較では、サンプル15の方がより寿命延長効果を得ることができた。すなわち、銅製の溶射用ノズルに放電表面処理によりTiC被膜を形成することにより、ある程度良好な寿命延長効果を得ることができるといえる。
一方、サンプル16(銅製の溶射用ノズルに放電表面処理によりTiC被膜を形成し、さらにその上にニッケルクロムメッキを施したもの)は、それらの結果よりも大きな効果が得られた。
サンプル16の寿命が長くなった原因は以下のように推察している。
銅は熱伝導特性が良い材質であるが、融点が高い。逆にTiCは、熱伝導特性は悪いが、融点は高い。そして、熱伝導特性が悪いと局部的に温度が上がりやすいため、スパッタが付着し、被膜の破損の原因になりやすい。しかしながら、放電表面処理により形成された被膜は前述のように傾斜性を持った被膜であり、硬いTiCの被膜はすぐに熱伝導特性の良い銅の成分と融合した被膜となっている。したがって、熱による溶融は融点の高い表面のTiCの成分で防ぎ、溶射用ノズルへの入熱は、熱伝導特性が良好な直下の銅の成分ですぐに発散できる理想的な被膜となっていると考えている。
しかし、放電表面処理により形成された硬質セラミックスの被膜は、面粗さが10μm程度と粗く、被膜の厚みにばらつきが大きい。このため、硬質セラミックスの被膜のみでも上述した寿命を延長する効果を得られるが、該硬質セラミックスの被膜だけでは溶射用ノズルの寿命の延長の効果が限られると考えられる。これを補うために、放電表面処理により形成された硬質セラミックスの被膜の表面を比較的融点の高い材料であるニッケルクロム等の金属被膜により覆うことが本発明の趣旨である。
特に溶射用ノズルでは、溶融した材料の熱が直接伝わるため、溶射用ノズルは数百℃の高温になる。溶射用ノズルが高温になると、ニッケルクロムメッキ被膜中のCr(クロム)が酸化して、Cr(酸化クロム)になり潤滑性を発揮するため、溶射用ノズル表面に付着物が付きにくくなるという効果があるように推察している。
なお、上述した評価試験においては、溶射用ノズル本体として銅製の溶射用ノズル本体を用いた場合について説明したが、溶射用ノズルとして鉄(Fe)製の溶射用ノズル本体、またはアルミニウム(Al)製の溶射用ノズル本体を用いた場合においても上記と同様の効果が得られることが実験により確認された。
したがって、本発明によれば、従来の溶射用ノズルに比べて、高寿命な溶射用ノズルを得ることができる。これにより、長時間にわたって連続して使用することができ、交換作業の大幅な削減、コストの削減を実現する溶射用ノズルを提供することができる。
【産業上の利用可能性】
以上のように、本発明にかかる加工機用ノズルは、過酷な条件下での使用が行われる加工関連産業に用いられるのに適しており、特に熱や溶融した材料などのスパッタに曝される条件下での使用が行われる加工関連産業に用いられるのに適している。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属母材表面に硬質セラミックスの被膜を形成したことを特徴とする加工機用ノズル。
【請求項2】
前記硬質セラミックスの被膜上に、Cr、Ni、Fe、W、Moからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を主成分とする被膜を形成したことを特徴とする請求の範囲第1項に記載の加工機用ノズル。
【請求項3】
前記硬質セラミックスの被膜は、炭化しやすい金属の粉末または金属炭化物の粉末を主成分とした粉末を圧縮成形した圧粉体電極を用いて、加工液中において放電表面処理により形成されてなることを特徴とする請求の範囲第1項または第2項に記載の加工機用ノズル。
【請求項4】
前記金属母材は、銅、鉄またはアルミニウムを主成分とすることを特徴とする請求の範囲第1項〜第3項に記載の加工機用ノズル。
【請求項5】
金属母材表面に硬質セラミックスの被膜を形成したことを特徴とする溶接用コンタクトチップ。
【請求項6】
前記硬質セラミックスの被膜上に、Cr、Ni、Fe、W、Moからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を主成分とする被膜を形成したことを特徴とする請求の範囲第5項に記載の溶接用コンタクトチップ。
【請求項7】
前記硬質セラミックスの被膜は、炭化しやすい金属の粉末または金属炭化物の粉末を主成分とした粉末を圧縮成形した圧粉体電極を用いて、加工液中において放電表面処理により形成されてなることを特徴とする請求の範囲第5項または第6項に記載の溶接用コンタクトチップ。
【請求項8】
前記金属母材は、銅、鉄またはアルミニウムを主成分とすることを特徴とする請求の範囲第5項〜第7項に記載の溶接用コンタクトチップ。
【請求項9】
金属母材表面に硬質セラミックスの被膜を形成する工程を含むことを特徴とする加工機用ノズルの製造方法。
【請求項10】
前記硬質セラミックスの被膜上に、Cr、Ni、Fe、W、Moからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を主成分とする被膜を形成する工程を含むことを特徴とする請求の範囲第9項に記載の加工機用ノズルの製造方法。
【請求項11】
前記Cr、Ni、Fe、W、Moからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を主成分とする被膜を表面処理により形成することを特徴とする請求の範囲第10項に記載の加工機用ノズルの製造方法。
【請求項12】
前記硬質セラミックスの被膜を形成する工程において、炭化しやすい金属の粉末または金属炭化物の粉末を主成分とした粉末を圧縮成形した圧粉体電極を用いて、加工液中において放電表面処理により前記硬質セラミックスの被膜を形成することを特徴とする請求の範囲第9項〜第11項に記載の加工機用ノズルの製造方法。
【請求項13】
前記金属母材として、銅、鉄またはアルミニウムを主成分とする金属材料を用いることを特徴とする請求の範囲第9項〜第12項に記載の加工機用ノズルの製造方法。
【請求項14】
金属母材表面に硬質セラミックスの被膜を形成する工程を含むことを特徴とする溶接用コンタクトチップの製造方法。
【請求項15】
前記硬質セラミックスの被膜上に、Cr、Ni、Fe、W、Moからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を主成分とする被膜を形成する工程を含むことを特徴とする請求の範囲第14項に記載の溶接用コンタクトチップの製造方法。
【請求項16】
前記Cr、Ni、Fe、W、Moからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を主成分とする被膜を表面処理により形成することを特徴とする請求の範囲第15項に記載の溶接用コンタクトチップの製造方法。
【請求項17】
前記硬質セラミックスの被膜を形成する工程において、炭化しやすい金属の粉末または金属炭化物の粉末を主成分とした粉末を圧縮成形した圧粉体電極を用いて、加工液中において放電表面処理により前記硬質セラミックスの被膜を形成することを特徴とする請求の範囲第14項〜第16項に記載の溶接用コンタクトチップの製造方法。
【請求項18】
前記金属母材として、銅、鉄またはアルミニウムを主成分とする金属材料を用いることを特徴とする請求の範囲第14項〜第17項に記載の溶接用コンタクトチップの製造方法。

【国際公開番号】WO2004/108338
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506722(P2005−506722)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000803
【国際出願日】平成16年1月29日(2004.1.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【Fターム(参考)】