説明

加硫可能な含フッ素エラストマーの製造方法

本発明は、高圧下でヨウ素移動重合を行うことにより、非ヨウ素移動重合法に匹敵する生産性の高い含フッ素エラストマーの製造方法を提供する。さらに、該方法により得られる含フッ素エラストマー、および含フッ素成形品を提供する。反応槽内の気相部分における各モノマーの臨界温度、臨界圧力、およびそれぞれの組成比からPeng−Robinson式を用いて算出した臨界定数の換算温度が0.95以上、換算圧力が0.80以上の条件下で行なわれる、バッチ式共重合法による含フッ素エラストマーの製造方法であって、一般式:R・I(ただし、式中、Rは炭素数1〜16の飽和もしくは不飽和のフルオロ炭化水素基またはクロロフルオロ炭化水素基であり、xはRの結合手の数であって、1以上4以下の整数である)の存在下に、少なくとも1種のフルオロオレフィンを含むエチレン性不飽和化合物を共重合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、高圧下でヨウ素移動重合による含フッ素エラストマーの製造方法に関する。さらに、この方法によって製造したエラストマー分岐が少なく、かつ末端ヨウ素含有率が高い含フッ素エラストマーと、エラストマーを加硫することにより得られる圧縮永久歪みと引張破断伸びのバランスに優れた含フッ素成形品に関する。
【背景技術】
ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン(VdF−HFP)系やテトラフルオロエチレン(TFE)−パーフルオロビニルエーテル系の含フッ素エラストマーは、それらの卓抜した耐薬品性、耐溶剤性、耐熱性を示すことから、過酷な環境下で使用されるO−リング、ガスケット、ホース、ステムシール、シャフトシール、ダイヤフラムなどとして自動車工業、半導体工業、化学工業などの分野において広く用いられている。
こうした用途に用いられるフッ素エラストマーとしては、分子末端に高活性のヨウ素原子を有するヨウ素含有フッ素エラストマーがある。このヨウ素含有含フッ素エラストマーは、分子末端のヨウ素原子により良好な架橋効率が可能で、加硫性に優れている。また、金属成分をもつ化学物質を添加する必要がないことから、パーオキサイド加硫成形品としても広く用いられている。
パーオキサイド加硫系(たとえば、特開昭53−125491号公報参照)は、耐薬品性、および耐スチーム(熱水)性に優れているが、耐圧縮永久歪みは、ポリオール加硫系と比べて劣っていたため、シール材用途として適切ではなかった。この問題は、エラストマー主鎖中に、加硫サイトを導入することで解決されている(たとえば、特開昭62−12734号公報参照)。しかし、加硫密度が上昇するため、引張破断伸びが犠牲となっていた。よって、耐圧縮永久歪みおよび引張破断伸びの両者を兼ね備えることは、非常に困難であった。
また、高圧重合による含フッ素エラストマー製造法としては、モノマーの少なくとも一種が超臨界の状態での重合法(たとえば、国際公開第00/47641号パンフレット参照)や、ポリマー粒子中のモノマー濃度が基準値以上での乳化重合法(たとえば、国際公開第01/34666号パンフレット参照)がある。しかし、いずれの特許文献においても本発明で述べるR・I存在下での重合が可能との記述はあるものの、具体的な実施例はなく、本発明で開示する効果についても一切触れられていない。
ヨウ素含有含フッ素エラストマーは、いわゆるヨウ素移動重合法などの乳化重合法により製造(たとえば、特公昭63−41928号公報参照)されているが、高い末端ヨウ素化率を達成するためには重合開始剤の使用量を抑える必要があり(たとえば、建元 正祥 P19、86/6 ミクロシンポジウム、ラジカル重合におけるポリマーの構造規制、高分子学会(1986)参照)、その分、生産性を上げることができない。重合開始剤の使用量の制約がない重合系では開始剤量を増やすことで容易に重合速度を大きくすることが可能であるが、ヨウ素移動重合系では開始剤末端濃度が最終製品の物性に大きな影響を与えるため開始剤使用量の増大は望めない。
生産性を向上させるために種々の提案がなされている。たとえば、乳化重合を連続して行なうことにより、生産性を向上させる方法(たとえば、特開平3−33108号公報、特開平3−221510号公報参照)が提案されているが、ヨウ素含有含フッ素エラストマーの特性である良好な引張強度や圧縮永久ひずみ性が得られない。
また、1.7MPa以上(ゲージ圧。以下同様)の高圧で重合する方法(たとえば、特開平5−222130号公報参照)が提案されているが、2.6〜2.7MPaの範囲の圧力が好適とされており、実施例においてもその範囲内での開示にとどまっている。また、重合時間も15時間をこえるものである。さらに、マイクロエマルション重合法(たとえば、特開昭63−8406号公報参照)が提案されているが、初期にマイクロエマルションを形成させるためにフッ素オイルなどの使用が必要であり、このフッ素オイルなどが製品に残留し汚染源となるので洗浄除去が必要となる。
単に重合系を安定させ、あるいは重合速度を上げるためには乳化剤の使用量を多くすればよいが、乳化剤自身が加硫阻害を起すため、これまた洗浄除去が必要となる上に、コスト面および環境面でも好ましくない。
これらを解決するために、ヨウ素移動重合を二段階の乳化重合法で行うことが提案されている(たとえば、国際公開第00/01741号パンフレット参照)。2段階の乳化重合とは、一段目の重合で比較的多量の乳化剤を使用して多数のポリマー粒子を合成し、ついで得られた乳濁液を希釈してポリマー粒子濃度および乳化剤濃度を下げ、この希釈乳濁液を用いて二段目の重合を行なう方法である。この方法では、今までの乳化重合用の設備を大きく変えることなく、均一な粒径でかつ本来の特性を維持したまま、重合速度を2倍以上短縮可能にしたが、依然としてヨウ素化合物を使用しない重合法と比較して生産性は劣っている。また、この重合法で得られたエラストマーに関しては従来のヨウ素移動重合法と比較して特に改良された部分はなく、上述のシール性においての課題は残されていた。
このようにヨウ素含有含フッ素エラストマーの生産性と特性の維持を両立させる製造法はない。
【発明の開示】
本発明は、高圧下でヨウ素移動重合を行うことにより、非ヨウ素移動重合法に匹敵する生産性の高い含フッ素エラストマーの製造方法を提供する。さらに、この方法によって製造した、ポリマー分岐が少なく、かつ末端ヨウ素含有率が高い含フッ素エラストマーと、エラストマーを加硫することにより得られる圧縮永久歪みと引張破断伸びのバランスに優れた含フッ素成形品を提供する。
すなわち、本発明は、反応槽内の気相部分における各モノマーの臨界温度、臨界圧力、およびそれぞれの組成比からPeng−Robinson式を用いて算出した臨界定数の換算温度が0.95以上、換算圧力が0.80以上の条件下で行なわれる、バッチ式共重合法による含フッ素エラストマーの製造方法であって、
一般式:R・I
(ただし、式中、Rは炭素数1〜16の飽和もしくは不飽和のフルオロ炭化水素基またはクロロフルオロ炭化水素基であり、xはRの結合手の数であって、1以上4以下の整数である)の存在下に、少なくとも1種のフルオロオレフィンを含むエチレン性不飽和化合物を共重合させる含フッ素エラストマーの製造方法に関する。
重合時の圧力は共重合するモノマーの種類や組成比によるが、たとえば4MPa以上とすることができる。前記圧力は、たとえば得ようとする含フッ素エラストマーが、ビニリデンフルオライドおよびヘキサフルオロプロピレンからなる共重合体であって、ビニリデンフルオライド:ヘキサフルオロプロピレンがモル比で9:1〜5:5である場合に好適に用いうる。また、重合圧力はたとえば3MPa以上とすることができる。前記圧力は、たとえば得ようとする含フッ素エラストマーがビニリデンフルオライド、ヘキサフルオロプロピレン、およびテトラフルオロエチレンからなる共重合体であって、ビニリデンフルオライド:ヘキサフルオロプロピレンがモル比で9:1〜5:5であり、かつテトラフルオロエチレンがエラストマー全体の40モル%以下である場合に好適に用いうる。
重合終了時に含フッ素エラストマー粒子数が水1gあたり5×1013個以上であることが好ましい。
フルオロオレフィンが、
CX=CX
(X〜Xは、水素原子またはハロゲン原子、Xは、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、炭素数1〜9で、水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたエーテル結合性酸素原子を含んでいてもよいアルキル基、または炭素数1〜9で、水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたエーテル結合性酸素原子を含んでいてもよいアルコキシ基であり、該オレフィンは少なくとも1つのフッ素原子を含む)であることが好ましい。
フルオロオレフィンが、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン、ビニルフルオライド、ヘキサフルオロイソブテン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)類、ポリフルオロジエン類、および下記式

(式中Yは、−CHI、−OH、−COOH、−SOF、−SOM(Mは水素、NH基またはアルカリ金属)、カルボン酸塩、カルボキシエステル基、エポキシ基、ニトリル基、ヨウ素原子、XおよびXは同じかまたは異なりいずれも水素原子またはフッ素原子、Rは炭素数0〜40の2価の含フッ素アルキレン基であり、エーテル結合性酸素原子を含んでいてもよい)からなる群から選択された化合物であることが好ましい。
含フッ素エラストマーの100℃におけるムーニー粘度が30以上であることが好ましい。
また、本発明は、含フッ素エラストマーが、ビニリデンフルオライド繰り返し単位20〜90モル%、ヘキサフルオロプロピレン繰り返し単位10〜80モル%を含み、
(a)エラストマー中に0.01〜10重量%のヨウ素原子を含有し、
(b)ポリマー数平均分子量が1,000〜300,000であり、
(c)ポリマー濃度約20%のアセトン溶液を高分解能19F−NMRで測定し、下記式

により求められる「VdF分岐率」が200ppm以下であり、パーオキサイド加硫が可能である含フッ素エラストマーに関する。
加硫して得られる成形体の引張破断伸びEbが200%以上、550%以下であり、かつ200℃、72時間での圧縮永久歪みCSが5%以上、30%以下であることが好ましい。
含フッ素エラストマーおよび加硫剤からなる含フッ素エラストマー硬化用組成物に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の含フッ素エラストマーの製造方法は、反応槽内の気相部分における各モノマーの臨界温度、臨界圧力、およびそれぞれの組成比からPeng−Robinson式を用いて算出した臨界定数の換算温度が0.95以上、換算圧力が0.80以上の条件下で行なわれる、バッチ式共重合法による含フッ素エラストマーの製造方法であって、
一般式:R・I
(ただし、式中、Rは炭素数1〜16の飽和もしくは不飽和のフルオロ炭化水素基またはクロロフルオロ炭化水素基であり、xはRの結合手の数であって、1以上4以下の整数である)の存在下に、少なくとも1種のフルオロオレフィンを含むエチレン性不飽和化合物を共重合させる含フッ素エラストマーの製造方法に関する。
本発明は、高圧下でヨウ素移動重合を行うことにより、重合開始剤が少ないにもかかわらず重合速度が大幅に増大し、非ヨウ素移動重合法に匹敵する生産性の高い含フッ素エラストマーの製造方法に関する。さらに、この方法によって製造したエラストマーは、分岐が少なく、末端ヨウ素含有率が高く、また、圧縮永久歪みが小さく、引張破断伸びが良い、優れた含フッ素成形品を提供することができるものである。
本発明の製造方法の特徴は、ヨウ素移動重合法を高圧下で行なうところにある。ヨウ素移動重合法に特に規定はないが、重合終了時の含フッ素ポリマー粒子数を多くすることが生産性の点で好ましく、その手段として、国際公開第00/01741号パンフレットに記載されているシード重合法が好ましい。
本発明に使用する反応槽は、加圧下に重合を行なうので、耐圧容器を使用する。この反応槽内に乳化重合用の目的とするポリマーと同じ組成のポリマー粒子を含む水性媒体(通常は純水)を入れ、液相部分とする。
反応槽はこの液相部分と気相部分とから構成されており、気相部分を窒素などで置換したのち重合性モノマーを導入する。ついで反応槽内、とくに液相部分を攪拌して重合性モノマーを気相部分から液相部分に供給する。液相部分に供給されたモノマーはポリマー粒子中に浸透し、ポリマー粒子内の重合性モノマー濃度を上げる。気相部分にモノマーを供給しつづけることにより、ポリマー粒子中のモノマー濃度が飽和状態となる(液相部分へのモノマー供給速度が平衡状態になるとも言える)ので、重合開始剤とヨウ素化合物を投入して重合を開始する。
重合を継続していくとモノマーが消費され、生成ポリマー粒子中のモノマー濃度が低下していくため、ポリマー粒子中に常にモノマー(追加モノマー)を供給し続ける。
追加モノマーの比率は、追加されるモノマーおよび目的とするポリマーの組成によるが、重合初期の反応槽内モノマー組成を一定に保つ比率であることが好ましい。
また、重合終了時に含フッ素ポリマー粒子数が水1gあたり5×10個以上になることが好ましく、粒子数が水1gあたり1.0×1014個以上であることがより好ましい。粒子数が、5×1013個未満であると、反応速度が低下するだけでなく、粒径が大きく不安定となり、重合槽へのポリマー付着が増加する傾向がある。
重合終了時の粒子数を多くする重合方法としては、シード重合法の他に、特公昭63−8406号公報、特公昭62−288609号公報に記載されているマイクロエマルション法や、一般的な方法として乳化剤の増量などがあげられる。これらのうち、マイクロエマルション法では、初期にマイクロエマルションを形成させるために、フッ素オイルなどの使用が必要であるため、製品にオイルが残留し、汚染源となるので洗浄除去が必要である。また、乳化剤増量についても、単に重合系を安定にさせ、あるいは重合速度を上げるためには効果的であるが、重合前後に泡立ち現象が発生しやすく、得られたエラストマーに残留した乳化剤が加硫阻害をおこしやすい。また、コストおよび環境の面からも好ましくない方法である。一方、シード重合法は上記の問題がなく、ヨウ素移動系で抜群の効果を示す。
本発明の製造方法においては、各モノマー単独の臨界温度、臨界圧力および初期モノマー組成比からPeng−Robinson式によって導いた気相モノマー混合物の臨界温度・臨界圧力から、若干の誤差を補正するための換算温度0.95以上、好ましくは、0.97以上、換算圧力0.80以上、好ましくは、0.85以上の条件でのバッチ式重合をおこなう。気相部の混合モノマーが換算温度、換算圧力ともに上回ることにより、高いモノマー密度のもとでの重合が可能になり、重合速度が速くなることに加え、主鎖の分岐やイオン末端が少ないポリマーが得られるため、圧縮永久歪みが大幅に改善される。ここで、換算温度とは、
換算温度 T=T/T
(式中、Tは重合時の実際の温度であり、TはPeng−Robinson式を用いて算出した臨界温度である)
により決定されるものであり、同様に換算圧力とは、
換算圧力 P=P/P
(式中、Pは重合時の実際の圧力であり、PはPeng−Robinson式を用いて算出した臨界圧力である)
により決定されるものである。
ここで、臨界温度および臨界圧力を決定するPeng−Robinson式について説明する。一般に、重合槽内の初期モノマー密度が高いほど得られるポリマーに組成分布が生じやすいこと、および、特に初期モノマーが臨界点付近からモノマー密度が急激に上昇することが知られている。ところが2成分以上のモノマーを共重合する場合、気相モノマー混合物の臨界点はモノマーの種類と組成比によって変動する。これを各モノマー単独の臨界温度、臨界圧力および初期モノマー組成比から混合モノマーの臨界点を算出する方法としてPeng−Robinson式を採用した。同式の原理はD.Y.Peng and D.B.Robinson,”ANew Two−Constant Equation of state”,Ind.Eng.Chem.Fund.,Vol.15,(1976),p.59−64で述べられている。概要としては下記の式を原理としており、実際の計算にはAspen Plus(Aspen Tech社製)などのプロセスシュミレーターが使用できる。
Peng−Robinson式の概略は下記の通りである。

ここで、上記式中のa、bは、それぞれ以下のように定義する。

また、各パラメータは下記のことを表す。
P :圧力
T :温度
:体積
R :気体定数
:モノマー成分iの組成比
ci:モノマー成分iの臨界温度
ci:モノマー成分iの臨界圧力
ω :モノマー成分iの偏心因子
具体的な計算例として、重合槽内組成がVdF/HFP=36/64(モル%)であるときのPeng−Robinson式による臨界温度、臨界圧力計算をAspen Plus Ver.11.1を用いて行なったところ、T=87.7℃、P=3.05MPaであった。前記換算温度0.95、換算圧力0.80による変換を行なうと、この場合の重合条件は、T=69.7℃以上、P=2.44MPa以上である。
換算温度が、0.95未満または換算圧力が、0.80未満であると、ポリマー粒子中のモノマー濃度が飽和に達せず、重合速度が低下するだけでなく、目的のポリマーが得られにくい傾向がある。また、前記式から算出される条件式を満たす温度および圧力の中でもさらに好ましい重合温度は、10〜120℃であり、特に好ましくは30〜100℃であり、好ましい重合圧力は、3MPa以上であり、より好ましくは3.5MPa以上であり、さらに好ましくは4MPa以上である。また、圧力の上限値は、特に限定はないが、モノマーの取扱いや、反応設備コストなどを考慮すると15MPa以下が好ましく、12MPa以下であることがより好ましい。
さらに、攪拌することが好ましい。攪拌することによって、ポリマー粒子中のモノマー濃度を、重合を通して高く維持できるためである。
攪拌の手段としては、たとえばアンカー翼、タービン翼、傾斜翼なども使用できるが、モノマーの拡散とポリマーの分散安定性が良好な点からフルゾーンやマックスブレンドと呼ばれる大型翼による攪拌が好ましい。
攪拌装置としては、横型攪拌装置でも縦型攪拌装置でもよい。
反応系は、実質的にモノマー相部分を有する。ここで、実質的にモノマー相を有するとは、重合容器の体積に対して、水などの媒体が占める体積が90%以下の状態で重合を行うことを示し、好ましくは80%以下である。体積が90%を超えると、モノマーが媒体に供給されにくく、重合速度が低下する、あるいはポリマー物性が悪化する傾向がある。
本発明で用いられる一般式:R・Iで示されるヨウ素化合物のRは、炭素数1〜16の飽和もしくは不飽和のフルオロ炭化水素基またはクロロフルオロ炭化水素基であり、炭素数4〜8のパーフルオロアルキル基であることが好ましい。炭素数が16をこえると、反応性が低下する傾向がある。
一般式:R・Iで示されるヨウ素化合物のxは、Rの結合手の数であって、1以上4以下の整数であり、2以上3以下であることが好ましい。xが4をこえても使用可能であるが、合成コストの点では好ましくない。ポリマー分岐が少ない点で、xは2が最も好ましい。
このヨウ素化合物の炭素−ヨウ素結合は、比較的弱い結合であって、ラジカル発生源の存在下にラジカルとして開裂する。生じたラジカルの反応性が高いために、モノマーが付加成長反応を起こし、しかる後にヨウ素化合物からヨウ素を引き抜くことにより反応を停止する。このようにして得られた分子末端の炭素にヨウ素が結合している含フッ素エラストマーは、末端ヨウ素が有効な加硫点となり効率的に加硫できる。
一般式:R・Iで示されるヨウ素化合物としては、モノヨードパーフルオロメタン、モノヨードパーフルオロエタン、モノヨードパーフルオロプロパン、モノヨードパーフルオロブタン〔たとえば、2−ヨードパーフルオロブタン、1−ヨードパーフルオロ(1,1−ジメチルエタン)〕、モノヨードパーフルオロペンタン〔たとえば1−ヨードパールフオロ(4−メチルブタン)〕、1−ヨードパーフルオロ−n−オクタン、モノヨードパーフルオロシクロブタン、2−ヨードパーフルオロ(1−シクロブチルエタン)シクロヘキサン、モノヨードパーフルオロシクロヘキサン、モノヨードトリフルオロシクロブタン、モノヨードジフルオロメタン、モノヨードモノフルオロメタン、2−ヨード−1−ハイドロパーフルオロエタン、3−ヨード−1−ハイドロパーフルオロプロパン、モノヨードモノクロロジフルオロメタン、モノヨードジクロロモノフルオロメタン、2−ヨード−1,2−ジクロロ−1,1,2−トリフルオロエタン、4−ヨード−1,2−ジクロロパーフルオロブタン、6−ヨード−1,2−ジクロロパーフルオロヘキサン、4−ヨード−1,2,4−トリクロロパーフルオロブタン、1−ヨード−2,2−ジハイドロパーフルオロプロパン、1−ヨード−2−ハイドロパーフルオロプロパン、モノヨードトリフルオロエチレン、3−ヨードパフルオロプロペン−1、4−ヨードパーフルオロペンテン−1、4−ヨード−5−クロロパーフルオロペンテン−1、2−ヨードパーフルオロ(1−シクロブテニルエタン)、1,3−ジヨードパフルオロプロパン、1,4−ジヨードパーフルオロ−n−ブタン、1,3−ジヨード−2−クロロパーフルオロプロパン、1,5−ジヨード−2,4−ジクロロパーフルオロ−n−ペンタン、1,7−ジヨードパーフルオロ−n−オクタン、1,2−ジ(ヨードジフルオロメチル)パーフルオロシクロブタン、2−ヨード−1,1,1−トリフルオロエタン、1−ヨード−1−ハイドロパーフルオロ(2−メチルエタン)、2−ヨード−2,2−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロエタン、2−ヨード−2−クロロ−1,1,1−トリフルオロエタンなどがあげられる。さらに、Rの炭化水素基には、エーテル結合性酸素原子、チオエーテル結合性硫黄原子、カルボキシル基などの官能基を含んでいてもよく、2−ヨードパーフルオロエチルパーフルオロビニルエーテル、2−ヨードパーフルオロエチルパーフルオロイソプロピルエーテル、3−ヨード−2−クロロパーフルオロブチルパーフルオロメチルチオエーテル、3−ヨード−4−クロロパーフルオロ酪酸などをあげることができる。
これらの中でも、合成の容易さ、反応性、経済性、安定性の点で、1,4−ジヨードパーフルオロ−n−ブタンが好ましい。
これらのヨウ素化合物は、適宜公知の方法により製造することができる。たとえば、2−ヨードパーフルオロプロパンは、フッ化カリウムの存在下にヘキサフルオロプロペンをヨウ素と反応させることにより、また1,5−ジヨード−2,4−ジクロロパーフルオロ−n−ペンタンは、3,5−ジクロロパーフルオロ−1,7−ヘプタン二酸の銀塩をヨウ素と反応させることにより、さらにまた4−ヨード−5−クロロパーフルオロ−1−ペンテンは、パーフルオロ−1,4−ペンタジエンに塩化ヨウ素を反応させることにより製造することができる。
ヨウ素化合物の添加量は、含フッ素エラストマーに対して、0.05〜2.0重量%であることが好ましい。添加量が、0.05重量%未満であると、加硫が不充分となり、圧縮永久歪み(CS)が悪化する傾向があり、2.0重量%をこえると、架橋密度が上がり過ぎるために、伸びなどのゴムとしての性能を損なう傾向がある。
上記ヨウ素化合物と含フッ素エラストマーを形成するモノマーとしては、少なくとも1種以上のフルオロオレフィンを含み、その共重合モノマーとして、フルオロオレフィン以外のエチレン性不飽和化合物を含んでいてもよい。
この組成が、含フッ素エラストマーを形成する目的には、好ましい。
本発明で用いられるフルオロオレフィンとしては、CX=CXで示されるものが好ましい。式中のX〜Xは、水素原子またはハロゲン原子、Xは、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、炭素数1〜9で、水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたアルキル基、または炭素数1〜9で、水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたアルコキシ基であり、該オレフィンは少なくとも1つのフッ素原子を含む。
CX=CXで示されるフルオロオレフィンとしては、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ビニリデンフルオライド(VdF)、テトラフルオロエチレン(TFE)、トリフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン、ビニルフルオライド、ヘキサフルオロイソブテン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ヘキサフルオロイソブテン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)などがあげられるが、エラストマー組成が得られやすい点から、ビニリデンフルオライド(VdF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)が好ましい。
また、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)類は、耐寒性、耐薬品性の点でも好ましい。
パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)などがあげられる。
また、CX=CX以外のフルオロオレフィンとしては、

で示されるフルオロオレフィンや、

(式中Yは、−CHI、−OH、−COOH、−SOF、−SOM(Mは水素、NH基またはアルカリ金属)、カルボン酸塩、カルボキシエステル基、エポキシ基、ニトリル基、ヨウ素原子、XおよびXは同じかまたは異なりいずれも水素原子またはフッ素原子、Rは炭素数0〜40の2価の含フッ素アルキレン基であり、エーテル結合性酸素原子を含んでいてもよい)で示される官能基含有フルオロオレフィンやポリフルオロジエン類などがあげられる。
官能基含有フルオロオレフィンは、表面改質、架橋密度アップなどの機能性モノマーとして好ましく、ポリフルオロジエン類は、架橋効率の点で好ましい。
官能基含有フルオロオレフィンとしては、


などがあげられる。
また、官能基含有フルオロオレフィンとして、特許文献2で開示されているモノマー
CF=CFOCFCFCH
は、架橋密度を上昇させる目的において好ましい。
ポリフルオロジエン類としては、CF=CFCF=CF、CF=CFCFOCF=CFなどがあげられる。
フルオロオレフィン以外のエチレン性不飽和化合物としては、特に限定されないが、エチレン(ET)、プロピレン、ブテン、ペンテンなどの炭素数2〜10のα−オレフィンモノマー、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテルなどの炭素数1〜20のアルキル基を有するアルキルビニルエーテルなどがあげられる。
これらは、低コスト、耐アミン性の点で好ましい。
本発明の含フッ素エラストマーを形成するモノマーの組み合わせとしては、上記CX=CXで示されるフルオロオレフィンを1種以上、CX=CX以外のフルオロオレフィンを1種以上、CX=CXで示されるフルオロオレフィンを1種以上とCX=CX以外のフルオロオレフィンを1種以上含む組合わせがあり、かつそれぞれの組み合わせの共重合モノマーとして、フルオロオレフィン以外のエチレン性不飽和化合物を含んでいてもよい。
上記フルオロオレフィン、およびフルオロオレフィン以外のエチレン性不飽和化合物の中でも、低コストで良好な加硫性を有する含フッ素エラストマーを形成する目的では、ビニリデンフルオライド(VdF)と共重合可能なエチレン性不飽和化合物からなることが好ましい。
本発明の製造方法により製造された含フッ素エラストマーの100℃におけるムーニー粘度は、好ましくは30以上、より好ましくは35以上であり、パーオキサイド加硫を行なうことにより、同粘度の従来品と比較して、伸びが大きく、圧縮永久歪み(CS)やロール加工性に優れている。高粘度領域になるほど圧縮永久歪み(CS)に関しては、従来品との差が大きくなる。
ムーニー粘度が、30未満では、従来品においても同粘度では、架橋効率が上がるため、従来品との差が小さくなる傾向があるが、従来品より悪化することはない。
次に、本発明の新規含フッ素エラストマーは、ビニリデンフルオライド繰り返し単位20〜90モル%、ヘキサフルオロプロピレン繰り返し単位10〜80モル%を含み、
(a)エラストマー中に0.01〜10重量%のヨウ素原子を含有し、
(b)ポリマー数平均分子量が1,000〜300,000であり、
(c)ポリマー濃度約20%のアセトン溶液を高分解能19F−NMRで測定し、下記式

により求められる「VdF分岐率」が200ppm以下であり、パーオキサイド加硫が可能である含フッ素エラストマーである。
本発明の含フッ素エラストマーは、上記の方法によって製造することができる。
本発明の含フッ素エラストマーは、ビニリデンフルオライド(VdF)繰り返し単位を20〜90モル%含むことが好ましく、より好ましくは40〜85モル%、ビニリデンフルオライド(VdF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)繰り返し単位10〜80モル%を含むことが好ましく、15〜60モル%がより好ましい。
VdFとHFPの2元共重合体からなる含フッ素エラストマーは、下記に限定するVdF分岐率が200ppm以下であることが好ましく、150ppm以下であることがより好ましい。VdF分岐率が、200ppmをこえると、特にヨウ素を含有するパーオキサイド加硫用エラストマーにおいて、ヨウ素末端が減少するため、加硫効率が低下し、圧縮永久歪み(CS)などの諸物性が悪化する傾向がある。
前記VdF分岐率が、200ppm以下であるVdF/HFPからなる含フッ素エラストマーに対し、その特性を損なわない範囲で、他の単量体を共重合させることも可能である。他の共重合体としては、例えばテトラフルオロエチレンが例示でき、共重合体組成としては、ビニリデンフルオライド(VdF)繰り返し単位を30〜89モル%、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)繰り返し単位を10〜50モル%、テトラフルオロエチレン(TFE)繰り返し単位を0.1〜40モル%の範囲があげられる。

測定ポリマーのアセトン溶液(濃度約20%)を高分解能19F−NMRで測定し、次の計算式で「VdF分岐率」を求める。

上記で規定した分岐とは、

主に上記のような構造単位で分岐CH基に隣接するCF基の面積を表し、これがδF−96.5〜−99.5ppm間に現れる。このピークの面積が、δF−88.0〜−124.0ppmに現れる全体のCF基合計面積に対して、占める割合が分岐率である。ところが、一本のCF連鎖に対して、3個の分岐隣接CF基が存在するため、単位VdFに対する分岐率は、この測定値の1/3と計算される。
ここで高分解能とは、500MHz以上のスペクトロメータによる測定をさす。
また、含フッ素エラストマーは、エラストマー中に0.01〜10重量%のヨウ素原子を含むことが好ましく、0.05〜2.0重量%がより好ましい。ヨウ素原子含有量が、0.05重量%未満であると加硫が不充分となり、圧縮永久歪みが悪化する傾向があり、2.0重量%をこえると架橋密度が高すぎ、伸びが小さすぎるなど、ゴムとしての性能が悪化する傾向がある。
さらに、エラストマーの数平均分子量が1,000〜300,000であることが好ましい。分子量が、1,000未満であると、粘度が低すぎて取り扱い性が悪化する傾向があり、300,000をこえると同様に粘度が上昇しすぎて取り扱い性が悪化する傾向がある。
分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は、1.5以上であることが好ましく、1.8以上であることがより好ましい。分子量分布が、1.5未満であると、物性面で問題はないものの、ロール加工性が悪化する傾向がある。
また、得られた含フッ素エラストマーに、さらに結晶性セグメントを逐次重合して得られるセグメント化エラストマーは、熱可塑性プラスチックなどに好適に用いられる。
結晶性セグメントとしては、特に限定されないが、テトラフルオロエチレン、パーフルオロ(プロピル)ビニルエーテル、ヘキサフルオロプロピレン、エチレン(ET)、プロピレン、ブテンなどがあげられる。
本発明の製造方法において、重合開始剤として油溶性ラジカル重合開始剤、または水溶性ラジカル開始剤を使用できる。
本発明で用いる油溶性ラジカル重合開始剤としては、通常周知の油溶性の過酸化物が用いられ、たとえばジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジsec−ブチルパーオキシジカーボネートなどのジアルキルパーオキシカーボネート類、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシピバレートなどのパーオキシエステル類、ジt−ブチルパーオキサイドなどのジアルキルパーオキサイド類などが、また、ジ(ω−ハイドロ−ドデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(ω−ハイドロ−テトラデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(ω−ハイドロ−ヘキサデカフルオロノナノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロブチリル)パーオキサイド、ジ(パーフルパレリル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロノナノイル)パーオキサイド、ジ(ω−クロロ−ヘキサフルオロブチリル)パーオキサイド、ジ(ω−クロロ−デカフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(ω−クロロ−テトラデカフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ω−ハイドロ−ドデカフルオロヘプタノイル−ω−ハイドロヘキサデカフルオロノナノイル−パーオキサイド、ω−クロロ−ヘキサフルオロブチリル−ω−クロ−デカフルオロヘキサノイル−パーオキサイド、ω−ハイドロドデカフルオロヘプタノイル−パーフルオロブチリル−パーオキサイド、ジ(ジクロロペンタフルオロブタノイル)パーオキサイド、ジ(トリクロロオクタフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(テトラクロロウンデカフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ジ(ペンタクロロテトラデカフルオロデカノイル)パーオキサイド、ジ(ウンデカクロロドトリアコンタフルオロドコサノイル)パーオキサイドのジ[パーフロロ(またはフルオロクロロ)アシル]パーオキサイド類などが代表的なものとしてあげられる。
しかし、代表的な油溶性開始剤である、ジ−イソプロピルパーオキシカーボネイト(IPP)やジ−n−プロピルパーオキシカーボネイト(NPP)などのパーオキシカーボネイト類は爆発の危険性がある上、高価であり、しかも重合反応中に重合槽の壁面などのスケールの付着が生じやすいという問題があるので、水溶性ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。
水溶性ラジカル重合性開始剤としては、通常周知の水溶性の過酸化物が用いられ、たとえば、過硫酸、過ホウ酸、過塩素酸、過リン酸、過炭酸などのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、t−ブチルパーマレエート、t−ブチルハイドロパーオキサイドなどがあげられる。
水溶性ラジカル開始剤の添加量は、特に限定はないが、重合速度が著しく低下しない程度の量(たとえば、数ppm対水濃度)以上を重合の初期に一括して、または逐次的に、または連続して添加すればよい。上限は、装置面から重合反応熱を除熱出来る範囲である。
本発明の製造法において、さらに乳化剤、分子量調整剤、pH調整剤などを添加してもよい。分子量調整剤は、初期に一括して添加してもよいし、連続的または分割して添加してもよい。
乳化剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤などが使用でき、とくにたとえばパーフルオロオクタン酸アンモニウムなどのフッ素系のアニオン性界面活性剤が好ましい。添加量(対重合水)は、好ましくは50〜5000ppmである。
分子量調整剤としては、たとえばマロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、コハク酸ジメチルなどのエステル類のほか、イソペンタン、イソプロパノール、アセトン、各種メルカプタン、四塩化炭素、シクロヘキサン、モノヨードメタン、1−ヨードメタン、1−ヨード−n−プロパン、ヨウ化イソプロピル、ジヨードメタン、1,2−ジヨードメタン、1,3−ジヨード−n−プロパンなどがあげられる。
そのほか緩衝剤などを適宜添加してもよいが、その量は本発明の効果を損なわない範囲とする。
本発明の含フッ素エラストマー組成物は、こうした含フッ素エラストマーおよび加硫剤からなり、加硫助剤を含んでもよい。
本発明で使用可能な加硫剤としては、採用する加硫系によって適宜選定すればよい。加硫系としてはポリアミン加硫系、ポリオール加硫系、パーオキサイド加硫系のいずれも採用できるが、とくにパーオキサイド加硫系で加硫したときに本発明の効果が顕著に発揮できる。
加硫剤としては、ポリオール加硫系ではたとえば、ビスフェノールAF、ヒドロキノン、ビスフェノールA、ジアミノビスフェノールAFなどのポリヒドロキシ化合物が、パーオキサイド加硫系ではたとえばα,α′−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物が、ポリアミン加硫系ではたとえばヘキサメチレンジアミンカーバメート、N,N′−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミンなどのポリアミン化合物があげられる。しかしこれらに限られるものではない。
これらの中でも、加硫性、取り扱い性の点から、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンが好ましい。
加硫剤の配合量はエラストマー100重量部に対して0.01〜10重量部であり、好ましくは0.1〜5重量部である。加硫剤が、0.01重量部より少ないと、加硫度が不足するため、含フッ素成形品の性能が損なわれる傾向があり、10重量部をこえると、加硫密度が高くなりすぎるため加硫時間が長くなることに加え、経済的にも好ましくない傾向がある。
ポリオール加硫系の加硫助剤としては、各種の4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩、環状アミン、1官能性アミン化合物など、通常エラストマーの加硫に使用される有機塩基が使用できる。具体例としては、たとえばテトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドなどの4級アンモニウム塩;ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド、トリブチルアリルホスホニウムクロリド、トリブチル−2−メトキシプロピルホスホニウムクロリド、ベンジルフェニル(ジメチルアミノ)ホスホニウムクロリドなどの4級ホスホニウム塩;ベンジルメチルアミン、ベンジルエタノールアミンなどの一官能性アミン;1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−ウンデク−7−エンなどの環状アミンなどがあげられる。
パーオキサイド加硫系の加硫助剤としては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリス(ジアリルアミン−s−トリアジン)、トリアリルホスファイト、N,N−ジアリルアクリルアミド、ヘキサアリルホスホルアミド、N,N,N′,N′−テトラアリルテトラフタラミド、N,N,N′,N′−テトラアリルマロンアミド、トリビニルイソシアヌレート、2,4,6−トリビニルメチルトリシロキサン、トリ(5−ノルボルネン−2−メチレン)シアヌレートなどがあげられる。これらの中でも、加硫性、加硫物の物性の点から、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)が好ましい。
加硫助剤の配合量は、エラストマー100重量部に対して0.01〜10重量部であり、好ましくは0.1〜5.0重量部である。加硫助剤が、0.01重量部より少ないと、加硫時間が実用に耐えないほど長くなる傾向があり、10重量部をこえると、加硫時間が速くなり過ぎることに加え、成形品の圧縮永久歪も低下する傾向がある。
さらに通常の添加剤である充填材、加工助剤、カーボンブラック、無機充填剤や、酸化マグネシウムのような金属酸化物、水酸化カルシウムのような金属水酸化物などを本発明の目的を損なわない限り使用してもよい。
本発明の組成物の調製法および加硫法はとくに制限はなく、たとえば、圧縮成形、押出し成形、トランスファー成形、射出成形など、従来公知の方法が採用できる。
加硫剤を用いて、含フッ素エラストマーを加硫した成形品の引張破断伸び(Eb)が200〜550%であることが好ましい。引張破断伸びが200%未満であると、いわゆる「ゴムらしさ」がなくなり、シール材として適さない傾向があり、550%をこえると、架橋密度が下がり過ぎ、圧縮永久歪み(CS)が悪化する傾向がある。
また、成形品の200℃、72時間での圧縮永久歪み(CS)は、5〜30%が好ましく、7〜25%がより好ましい。圧縮永久歪みが、5%未満であると、シール性は良好であるが、一般に伸びが小さすぎる傾向があり、30%をこえると、シール材としての性能が悪化する傾向がある。
ここで、本発明における加硫とは、下記に示す標準配合、標準加硫条件により加硫することをいう。
(標準配合)
含フッ素エラストマー 100重量部
トリアリルイソシアヌレート(TAIC) 4重量部
パーヘキサ25B 1.5重量部
カーボンブラックMT−C 20重量部
(標準加硫条件)
混練方法 :ロール練り
プレス加硫 :160℃で10分
オーブン加硫:180℃で4時間
本発明の製造方法では、従来の低圧でのヨウ素移動重合反応と比較して、重合時間が大幅に短縮され、さらに、得られた含フッ素エラストマーのロール加工性が向上した。このため、低圧ヨウ素移動重合により得られた含フッ素エラストマーと本発明品で、同等のムーニ粘度品を比較した場合に、低圧品では練り中に加硫剤(TAIC)が析出し、ゴムが切れやすくなる傾向があったが、本発明品では、そのような現象はみられなくなった。
本発明により得られた含フッ素エラストマーと加硫剤からなる組成物は、コーティング剤、金属、セラミック等の無機材料を含む基材にディスペンサー成形してなる基材一体型ガスケット、パッキン類、金属、セラミック等の無機材料を含む基材にコーティングしてなる複層品、磁気記録装置用ガスケット、燃料電池用シール材、クリーン設備用シール材として好適に用いられる。
評価法
<重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)>
装置:HLC−8000(東ソー(株)製)
昭和カラム:GPC KF−806M 2本
GPC KF−801 1本
GPC KF−801 2本
検出器:示差屈折率計
展開溶媒:テトラヒドロフラン
温度:35℃
試料濃度:0.1重量%
標準試料:単分散ポリスチレン各種((Mw/Mn)=1.14(Max))、TSK standard POLYSTYRENE(東ソー(株)製)
<ムーニー粘度>
ASTM−D1646およびJIS K6300に準拠して測定する。
測定機器:ALPHA TECHNOLOGIES社製 MV2000E型
ローター回転数:2rpm
測定温度:100℃
<圧縮永久歪み(CS)>
下記標準配合物を下記標準加硫条件で1次プレス加硫および2次オーブン加硫して0−リング(P−24)を作製し、JIS−K6301に準じて、1次プレス加硫後の圧縮永久歪みおよび2次オーブン加硫後の圧縮永久歪み(CS)を測定する(25%加圧圧縮下に200℃で72時間保持したのち25℃の恒温室内に30分間放置した試料を測定)。
(標準配合)
含フッ素エラストマー 100重量部
トリアリルイソシアヌレート(TAIC) 4重量部
パーヘキサ25B 1.5重量部
カーボンブラックMT−C 20重量部
(標準加硫条件)
混練方法 :ロール練り
プレス加硫 :160℃で10分
オーブン加硫:180℃で4時間
<100%モジュラス(M100)>
標準配合物を標準加硫条件で1次プレス加硫および2次オーブン加硫して厚さ2mmのシートとし、JIS−K6251に準じて測定する。
<引張破断強度(Tb)および引張破断伸び(Eb)>
標準配合物を標準加硫条件で1次プレス加硫および2次オーブン加硫して厚さ2mmのシートとし、JIS−K6251に準じて測定する。
<硬度(Hs)>
標準配合物を標準加硫条件で1次プレス加硫および2次オーブン加硫して厚さ2mmのシートとし、JIS−K6253に準じて測定する。
<加硫特性>
1次プレス加硫時にJSR型キュラストメータII型、およびV型を用いて170℃における加硫曲線を求め、最低粘度(ML)、加硫度(MH)、誘導時間(T10)および最適加硫時間(T90)を求める。
<ポリマーの平均粒子径測定>
マイクロトラック9340UPA(HONEYWELL社製)にて粒子径を測定した。
<粒子数計算>
上記ポリマーの平均粒子径の測定結果を用いて、下記式より粒子数を算出する。

<VdF分岐率測定>
測定サンプルをアセトンに溶解し、その濃度を約20%とした。これを19F−NMR(Bruker社製AMX500型)により測定し、処理ソフトにMestRe−C2.3a(MestRe−C Technologies社製)を用いて、分岐ピーク面積、および全CFピーク面積を算出し、得られた結果より分岐率を求める。
<組成分析>
19F−NMR(Bruker社製AC300P型)を用いて測定した。ただし、含TFEポリマーは、19F−NMR(日本電子(株)製FX100型)を用いて測定をした。
<元素分析>
横河フューレットパッカード社G2350A型を用いて測定した。
<Peng−Robinson式計算>
Aspen Plus Ver.11.1(Aspen Tech社製)を使用した。各モノマーの臨界温度、臨界圧力、偏心因子は全てソフトに内蔵の値を使用した。
: VdF 29.65℃、
TFE 33.3 ℃、
HFP 85.0 ℃
: VdF 4.46 MPa/SQCM、
TFE 3.94 MPa/SQCM、
HFP 3.21 MPa/SQCM
ω : VdF 0.136、
TFE 0.226、
HFP 0.382
参考例1
(シードポリマー粒子の重合)
攪拌装置として、電磁誘導攪拌装置を有する内容積1.8リットルの重合槽に、純水720g、10重量%のパーフルオロオクタン酸アンモニウム水溶液290g、およびマロン酸ジエチル0.6gを仕込み、系内を窒素ガスで充分置換したのち減圧にした。この操作を3回繰り返し、減圧状態でVdF20gとHFP51gを仕込み、攪拌下に80℃まで昇温した。ついで、純水0.6gに溶解した過硫酸アンモニウム塩(APS)0.02gを窒素ガスにて圧入して重合を開始した。重合圧力を2MPaとし、重合時の圧力低下を補うため、VdF/HFP混合モノマー(78/22(モル%))の連続的に供給し、攪拌下に重合を行った。重合終了までに、215gのモノマーを槽内に供給した。
得られた乳濁液の重量は1233g、ポリマー濃度が18.1重量%であり、ポリマー粒子の数は、1.2×1016個/水1gの乳化液を得た。30分後に攪拌を止め、モノマーを放出して重合を停止した。
参考例2
(シードポリマー粒子の重合)
攪拌装置として、電磁誘導攪拌装置を有する内容積1.8リットルの重合槽に、純水809g、10重量%のパーフルオロオクタン酸アンモニウム水溶液200gを仕込み、系内を窒素ガスで充分置換したのち減圧にした。この操作を3回繰り返し、減圧状態でイソペンタン0.5mL仕込み、80℃での相内組成がVdF/TFE/HFP=29.0/13.0/58.0モル%、槽内圧を1.4MPaになるように各モノマーを仕込んだ。昇温終了後、純水20gに溶解した過硫酸アンモニウム塩(APS)0.67gを窒素ガスにて圧入して重合を開始した。重合圧力を1.4MPaとし、重合時の圧力低下を補うため、VdF/TFE/HFP混合モノマー(50/20/30(モル%))を連続的に供給し、攪拌下に重合を行なった。重合終了までに、320gのモノマーを槽内に供給した。
得られた乳濁液の重量は1285g、ポリマー濃度が24.8重量%であり、ポリマー粒子の数は、1.0×1015個/水1gの乳化液を得た。360分後に攪拌を止め、モノマーを放出して重合を停止した。
【実施例1】
参考例1同様の電磁誘導攪拌装置を有する内容積2.5リットルの重合槽に、純水1324gと参考例1で製造したポリマー粒子の水性分散液33.5gと10重量%のパーフルオロオクタン酸アンモニウム水溶液19.1gを仕込み、系内を窒素ガスで充分置換したのち減圧にした。この操作を3回繰り返し、減圧状態で、VdF171gとHFP729gを仕込み、攪拌下に80℃まで昇温した。ついでオクタフルオロ−1,4−ジヨードブタン2.98gと純水15gに溶解したAPS0.068gを窒素ガスにて圧入して重合を開始し、(a)、(b)および(c)の条件で重合を継続し、4.3時間後に攪拌を止め、モノマーを放出して重合を停止した。
(a)重合槽内組成VdF/HFP=36/64(モル%)に対するPeng−Robinson式による臨界温度・臨界圧力計算をAspen Plus Ver.11.1を用いて行ったところ、T=87.7℃、P=3.05MPaであった。さらに換算温度T0.95、換算圧力P0.80による変換を行なうと、T=69.7℃、P=2.44MPaとなり、本実施例の重合条件は、換算温度以上かつ換算圧力以上である。
(b)VdF/HFP(95/5(モル%))モノマー混合物を連続的に供給し、気相部分の圧力を6MPaに維持した。また、重合終了までに、302gのモノマーを槽内に供給した。
(c)攪拌速度を560rpmで維持した。
(d)重合時間が3時間を過ぎた時点で、純水15gに溶解したAPS0.034gを仕込んだ。
得られた乳濁液の重量は1879g、ポリマー濃度が29.6重量%であり、ポリマー粒子の数は、2.7×1014個/水1gであった。また、含フッ素エラストマーとしては566gであり、GPCで測定した重量平均分子量Mwは23.6万、数平均分子量Mnは11.3万、Mw/Mnは2.1であった。また、19F−NMRで測定した重合体の組成はVdF/HFP=77/23(モル%)であった。
【実施例2】
APSを0.17gとしたこと以外は、実施例1と同様に含フッ素エラストマーを重合した。
重合時間は1.5時間、得られた乳濁液の重量は1909g、ポリマー濃度が30.1重量%であり、ポリマー粒子の数は、2.9×1014個/水1gであった。また、含フッ素エラストマー575gであり、GPCで測定した重量平均分子量Mwは27.7万、数平均分子量Mnは10.3万、Mw/Mnは2.7であった。また、19F−NMRで測定した重合体の組成はVdF/HFP=76/24(モル%)であった。
【実施例3】
オクタフルオロ−1,4−ジヨードブタンを5.96gとしたこと以外は、実施例1と同様にして含フッ素エラストマーを重合した。
重合時間は3.4時間、得られた乳濁液の重量は1899g、ポリマー濃度が28.6重量%であり、ポリマー粒子の数は、2.6×1014個/水1gであった。また、含フッ素エラストマーは543gであり、GPCで測定した重量平均分子量Mwは10.5万、数平均分子量Mnは5.63万、Mw/Mnは1.9であった。また、19F−NMRで測定した重合体の組成はVdF/HFP=77/23(モル%)であった。
比較例1
参考例1同様の電磁誘導攪拌装置を有する内容積2.5リットルの重合槽に、純水1324gと参考例1で製造したポリマー粒子の水性分散液33.5gと10重量%のパーフルオロオクタン酸アンモニウム水溶液19.1gを仕込み、系内を窒素ガスで充分置換したのち減圧にした。この操作を3回繰り返し、減圧状態で、VdF20gとHFP57gを仕込み、攪拌下に80℃まで昇温した。ついでオクタフルオロ−1,4−ジヨード−ブタン2.98gと純水15gに溶解したAPS0.068gを窒素ガスにて圧入して重合を開始し、(a)、(b)、(c)および(d)の条件で重合を継続し、16.5時間後に攪拌を止め、モノマーを放出して重合を停止した。
(a)重合槽内組成VdF/HFP=50/50(モル%)に対するPeng−Robinson式による臨界温度・臨界圧力計算をAspen Plus Ver.11.1を用いて行ったところ、T=57.3℃、P=3.83MPaであった。さらに換算温度T0.95、換算圧力P0.80による変換を行なうと、T=40.8℃、P=3.06MPaとなり、本比較例の重合条件は、換算温度以上かつ換算圧力以下である。
(b)VdF/HFP(78/22(モル%))モノマー混合物を連続的に供給し、気相部分の圧力を1.5MPaに維持した。また、重合終了までに、570gのモノマーを槽内に供給した。
(c)攪拌速度を560rpmで維持した。
(d)重合時間が3時間を過ぎる毎に、純水15gに溶解したAPS0.034gを仕込んだ。
得られた乳濁液の重量は2087g、ポリマー濃度が27.7重量%であり、ポリマー粒子の数は、1.4×1014個/水1gであった。また、含フッ素エラストマーは578gであり、GPCで測定した重量平均分子量Mwは18.3万、数平均分子量Mnは13.3万、Mw/Mnは1.4であった。また、19F−NMRで測定した重合体の組成はVdF/HFP=77.3/22.7(モル%)であった。
実施例4〜6および比較例2
実施例1〜3および比較例1で得られた含フッ素エラストマーを用い、下記の配合、加硫条件にしたがって、含フッ素成形品を得た。評価結果を表1に示す。
(標準配合)
含フッ素エラストマー 100重量部
トリアリルイソシアヌレート(TAIC) 4重量部
パーヘキサ25B 1.5重量部
カーボンブラックMT−C 20重量部
(標準加硫条件)
混練方法 :ロール練り
プレス加硫 :160℃で10分
オーブン加硫:180℃で4時間

【実施例7】
参考例1同様の電磁誘導攪拌装置を有する内容積1.8リットルの重合槽に、純水970gと参考例2で製造したポリマー粒子の水性分散液27gを仕込み、系内を充分に窒素置換したのち減圧にした。この操作を3回繰返し、減圧状態でVdF18g、TFE22g、HFP537gを仕込み、攪拌下に80℃まで昇温した。ついで、オクタフルオロ−1,4−ジヨードブタン2.8gと純水15gに溶解したAPS0.05gを窒素ガスにて圧入して重合を開始し、(a)、(b)、(c)の条件で重合を継続し、3.6時間後に攪拌を止め、モノマーを放出して重合を停止した。
(a)重合槽内組成VdF/TFE/HFP=6.5/5.0/88.5(モル%)に対するPeng−Robinson式による臨界温度・臨界圧力計算をAspen Plus Ver.11.1を用いて行ったところ、T=87.7℃、P=3.05MPaであった。さらに換算温度T0.95、換算圧力P0.80による変換を行なうと、T=69.7℃、P=2.44MPaとなり、本実施例の重合条件は、換算温度以上かつ換算圧力以上である。
(b)VdF/TFE/HFP(68.0/23.8/8.2(モル%))モノマー混合物を連続的に供給し、気相部分の圧力を3.5MPaに維持した。また、重合終了までに、247gのモノマーを槽内に供給した。
(c)攪拌速度を560rpmで維持した。
得られた乳濁液の重量は1368g、ポリマー濃度が26.8重量%であり、ポリマー粒子の数は、9.5×1014個/水1gであった。また、含フッ素エラストマーとしては369gであり、GPCで測定した重量平均分子量Mwは6.7万、数平均分子量Mnは4.8万、Mw/Mnは1.4であった。また、19F−NMRで測定した重合体の組成はVdF/TFE/HFP=50.7/19.5/29.8(モル%)であった。
【実施例8】
オクタフルオロ−1,4−ジヨードブタンを2.4gとしたこと以外は、実施例7と同様にして含フッ素エラストマーを重合した。
重合時間は4.2時間、得られた乳濁液の重量は1401g、ポリマー濃度が28.6重量%であり、ポリマー粒子の数は、3.5×1014個/水1gであった。また、含フッ素エラストマーは396gであり、GPCで測定した重量平均分子量Mwは8.7万、数平均分子量Mnは5.7万、Mw/Mnは1.5であった。また、19F−NMRで測定した重合体の組成はVdF/TFE/HFP=51.0/19.8/29.2(モル%)であった。
【実施例9】
(a)オクタフルオロ−1,4−ジヨードブタンを2.4g、
(b)仕込みモノマー量の50%時にCF=CFOCFCFCHIを3.96g、
(c)重合時間が3時間を過ぎる毎に、純水15gに溶解したAPS0.025gを仕込む、
としたこと以外は、実施例7と同様にして含フッ素エラストマーを重合した。
重合時間は3.8時間、得られた乳濁液の重量は1391g、ポリマー濃度が27.3重量%であり、ポリマー粒子の数は、8.3×1014個/水1gであった。また、含フッ素エラストマーは384gであり、GPCで測定した重量平均分子量Mwは9.2万、数平均分子量Mnは5.9万、Mw/Mnは1.6であった。また、19F−NMRで測定した重合体の組成はVdF/TFE/HFP=52.0/20.7/27.3(モル%)であった。
比較例3
参考例7同様の電磁誘導攪拌装置を有する内容積1.83リットルの重合槽に、純水970gと参考例2で製造したポリマー粒子の水性分散液27gを仕込み、系内を充分窒素置換したのち減圧にした。この操作を3回繰り返し、80℃での槽内組成がVdF/TFE/HFP=11.0/19.0/70.0(モル%)、槽内圧を1.5MPaになるように各モノマーを仕込んだ。ついでオクタフルオロ−1,4−ジヨードブタン1.7gと純水15gに溶解したAPS0.05gを窒素ガスにて圧入して重合を開始し、(a)〜(d)の条件で重合を継続し、15.3時間後に攪拌を止め、モノマーを放出して重合を停止した。
(a)重合槽内組成VdF/TFE/HFP=11/19/70(モル%)に対するPeng−Robinson式による臨界温度・臨界圧力計算をAspen Plus Ver.11.1を用いて行ったところ、T=69.0℃、P=3.48MPaであった。さらに換算温度T0.95、換算圧力P0.80による変換を行なうと、T=51.9℃、P=2.78MPaとなり、本実施例の重合条件は、換算温度以上かつ換算圧力以下である。
(b)VdF/TFE/HFP(50.0/20.0/30.0(モル%))モノマー混合物を連続的に供給し、気相部分の圧力を1.5MPaに維持した。また、重合終了までに、370gのモノマーを槽内に供給した。
(c)攪拌速度を560rpmで維持した。
(d)重合時間が3時間を過ぎる毎に、純水15gに溶解したAPS0.025gを仕込んだ。
得られた乳濁液の重量は1410g、ポリマー濃度が26.2重量%であり、ポリマー粒子の数は、3.9×1014個/水1gであった。また、含フッ素エラストマーは370gであり、GPCで測定した重量平均分子量Mwは8.5万、数平均分子量Mnは6.1万、Mw/Mnは1.4であった。また、19F−NMRで測定した重合体の組成はVdF/TFE/HFP=50.2/19.8/30.0(モル%)であった。
実施例10〜12および比較例4
実施例7〜9および比較例3で得られた含フッ素エラストマーを用い、下記の配合、加硫条件にしたがって、含フッ素成形品を得た。評価結果を表2に示す。
(標準配合)
含フッ素エラストマー 100重量部
トリアリルイソシアヌレート(TAIC) 4重量部
パーヘキサ25B 1.5重量部
カーボンブラックMT−C 20重量部
(標準加硫条件)
混練方法 :ロール練り
プレス加硫 :160℃で10分
オーブン加硫:180℃で4時間

【産業上の利用可能性】
本発明は、高圧下でヨウ素移動重合を行うことにより、重合開始剤が少ないにもかかわらず重合速度が大幅に増大し、非ヨウ素移動重合法に匹敵する生産性の高い含フッ素エラストマーの製造方法を提供する。さらに、この方法によって製造したエラストマーは、分岐が少なく、末端ヨウ素原子含有率が高く、また、含フッ素エラストマーと圧縮永久歪みと引張破断伸びのバランスが優れた含フッ素成形品を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応槽内の気相部分における各モノマーの臨界温度、臨界圧力、およびそれぞれの組成比からPeng−Robinson式を用いて算出した臨界定数の換算温度が0.95以上、換算圧力が0.80以上の条件下で行なわれる、バッチ式共重合法による含フッ素エラストマーの製造方法であって、
一般式:R・I
(ただし、式中、Rは炭素数1〜16の飽和もしくは不飽和のフルオロ炭化水素基またはクロロフルオロ炭化水素基であり、xはRの結合手の数であって、1以上4以下の整数である)の存在下に、少なくとも1種のフルオロオレフィンを含むエチレン性不飽和化合物を共重合させる含フッ素エラストマーの製造方法。
【請求項2】
重合時の槽内圧力が3MPa以上である請求の範囲第1項記載の含フッ素エラストマーの製造方法。
【請求項3】
重合終了時に含フッ素エラストマー粒子数が水1gあたり5×1013個以上である請求の範囲第1項または第2項記載の含フッ素エラストマーの製造方法。
【請求項4】
フルオロオレフィンが、
CX=CX
(X〜Xは、水素原子またはハロゲン原子、Xは、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、炭素数1〜9で、水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたエーテル結合性酸素原子を含んでいてもよいアルキル基、または炭素数1〜9で、水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたエーテル結合性酸素原子を含んでいてもよいアルコキシ基であり、該オレフィンは少なくとも1つのフッ素原子を含む)である請求の範囲第1項、第2項または第3項記載の含フッ素エラストマーの製造方法。
【請求項5】
フルオロオレフィンが、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン、ビニルフルオライド、ヘキサフルオロイソブテン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)類、ポリフルオロジエン類、および下記式

(式中Yは、−CHI、−OH、−COOH、−SOF、−SOM(Mは水素、NH基またはアルカリ金属)、カルボン酸塩、カルボキシエステル基、エポキシ基、ニトリル基、ヨウ素原子、XおよびXは同じかまたは異なりいずれも水素原子またはフッ素原子、Rは炭素数0〜40の2価の含フッ素アルキレン基であり、エーテル結合性酸素原子を含んでもよい)からなる群から選択された化合物を含む請求項1、2または3記載の含フッ素エラストマーの製造方法。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5記載の製造方法により得られ、100℃におけるムーニー粘度が30以上である含フッ素エラストマー。
【請求項7】
含フッ素エラストマーが、ビニリデンフルオライド繰り返し単位20〜90モル%、ヘキサフルオロプロピレン繰り返し単位10〜80モル%を含み、
(a)エラストマー中に0.01〜10重量%のヨウ素原子を含有し、
(b)ポリマー数平均分子量が1,000〜300,000であり、
(c)ポリマー濃度約20%のアセトン溶液を高分解能19F−NMRで測定し、下記式

により求められる「VdF分岐率」が200ppm以下であり、
パーオキサイド加硫が可能である含フッ素エラストマー。
【請求項8】
加硫して得られる成形体の引張破断伸びEbが200%以上、550%以下であり、かつ200℃、72時間での圧縮永久歪みCSが5%以上、30%以下である請求の範囲第7項記載の含フッ素エラストマー。
【請求項9】
請求の範囲第7項または第8項記載の含フッ素エラストマーおよび加硫剤からなる含フッ素エラストマー硬化用組成物。

【国際公開番号】WO2004/065436
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508111(P2005−508111)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000519
【国際出願日】平成16年1月22日(2004.1.22)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】