説明

加飾装置

【課題】大型化することなく、大きな基材に対しても加飾が可能な加飾装置を提供する。
【解決手段】底部1aと周壁部1bとを有し、底部1aに基材3を載置する載置部4を設けた第1チャンバー1と、天井部2aと周壁部2bとを有し、第1チャンバー1との間に加飾シートSを挟みつつ、周壁部1bに当該周壁部2bを当接して第1チャンバー1との間に密閉空間を形成する位置と、第1チャンバー1から離間する位置とに移動可能な第2チャンバー2と、第1チャンバー1内を減圧する減圧機構5と、第1チャンバー1に設けられ、周壁部1bにおいて加飾シートを挟持するシート挟持面1Aの位置よりも第2チャンバー2の側に向けて突出する位置であって、基材3から第2チャンバー2の側に向けて離間した位置に加飾シートSを保持可能に構成されたリフト機構6と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に対して加飾シートを転写またはラミネートして成形する加飾装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やパーソナルコンピュータの筐体或いは各種製品の表面に、意匠性を高めるべく、転写材を転写したり、ブラスチックフィルムをラミネートしたりして、加飾を施すことがある。従来、こういった加飾は、例えば真空成形装置を用いて図10(a)〜図10(d)による手順で行われる。
【0003】
図10(a)に示すように、第1チャンバー1に対して、基材3を大凡の位置にセッティングし、基材3の上面で基材3に接しない位置に加飾シートSを配置する。続いて図10(b)に示すように、第1チャンバー1と第2チャンバー2とを互いに近接させて第1チャンバー1と第2チャンバーとで加飾シートSを挟持しつつ、第1チャンバー1と加飾シートSとの間に第1密閉空間V1を形成し、第2チャンバー2と加飾シートSとの間に第2密閉空間V2を形成する。このとき、第1密閉空間V1は第1チャンバー1に設けられた減圧機構5によって真空減圧され、第2密閉空間V2は第2チャンバーに設けられた気圧調整機構8によって真空減圧される。
【0004】
その後、図10(c)に示すように、第1チャンバー1に設けられたリフト機構4によって基材3が加飾シートS側に持ち上げられて、加飾シートSと基材3の表面が接触する。このとき、第2密閉空間V2には気圧調整機構8により高圧気体が送られ、加飾シートSが第1チャンバー1に向けて押し付けられるので、基材3の表面及び側面への加飾シートSによる加飾が施される。加飾が終了した後、図10(d)に示すように、第1チャンバー1と第2チャンバー2を開放し、最終成形品を取り出す。こうして、基材3の表面に対して加飾シートSによる転写またはラミネートが施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3733564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示す加飾では、基材3の表面及び側面に加飾を施すために基材3を上下動させるリフト機構6を用いる。第1チャンバー1内の基材3をリフト機構6によって持ち上げる際に、加飾シートSを基材3に向けて押し付けるために第2密閉空間V2には高圧気体が流入されている。よって、第2密閉空間V2は高圧状態になり、この高圧な第2密閉空間V2に抗してリフト機構6が基材3を持ち上げることとなる。また、基材3の重量が増すにつれて、自然とリフト機構6はリフト能力が大きいものが必要となり、装置全体が大型化する。さらに、基材3の重量が増すと、リフト機構6によって基材3を上下動させる時間が増すことにもなるので、各製品の加飾に要する時間も増加する。
【0007】
そこで、本発明では、大型化することなく、大きな基材に対しても加飾が可能な加飾装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る加飾装置の第1特徴構成は、基材に対して加飾シートを用いて加飾する加飾装置であって、
底部と周壁部とを有し、前記底部に前記基材を載置する載置部を設けた第1チャンバーと、
天井部と周壁部とを有し、前記第1チャンバーとの間に前記加飾シートを挟みつつ、前記第1チャンバーの周壁部に当該周壁部を当接して前記第1チャンバーとの間に密閉空間を形成する位置と、前記第1チャンバーから離間する位置とに移動可能な第2チャンバーと、
前記第1チャンバー内を減圧する減圧機構と、
前記第1チャンバーに設けられ、前記第1チャンバーの前記周壁部において加飾シートを挟持するシート挟持面の位置よりも前記第2チャンバーの側に向けて突出する位置であって、前記載置部に載置された前記基材から前記第2チャンバーの側に向けて離間した位置に前記加飾シートを保持可能に構成されたリフト機構と、を備えた点にある。
【0009】
この構成により、加飾装置のリフト機構は、第1チャンバーのシート挟持面の位置よりも第2チャンバーの側に突出する位置であって、載置部に載置された基材から第2チャンバーの側に向けて離間した位置に加飾シートを保持できる。この状態で、第2チャンバーが第1チャンバーと当接して第1チャンバーが密閉されると、加飾シートを平らな状態にして挟持する場合に比べて、リフト機構が加飾シートを保持する位置と第1チャンバーのシート挟持面の位置との間の加飾シートが大きく撓むこととなり、撓みが大きくなった分だけ長い加飾シートが第1チャンバー内に取り込まれる。このため、リフト機構を後退させて第1チャンバー内を減圧すると、通常より長めに取り込まれた加飾シートは基材の側面にまで届き易くなり、基材の表面及び側面を確実に加飾することができる。こうして、加飾装置に加飾シートを保持するリフト機構を備えることで、基材を上下させるリフト機構を使用することなく基材の表面及び側面を確実に加飾でき、装置自体を小型化することができた。
【0010】
本発明に係る加飾装置の第2特徴構成は、前記第1チャンバーのシート挟持面の高さを、前記載置部に載置された前記基材の表面と同じ高さに設定してある点にある。
【0011】
この構成により、リフト機構が第1チャンバーの側に後退し、基材が加飾シートで加飾される際に、第1チャンバーのシート挟持面と基材の表面との間で必要な加飾シートは最短になる。よって、リフト機構により長めに引き込まれた加飾シートを、基材の側面に用いることができ、加飾シートを効率よく使用することができる。
【0012】
本発明に係る加飾装置の第3特徴構成は、前記リフト機構の外方に、前記加飾シートを受けるシート受け部を設けてある点にある。
【0013】
この構成により、リフト機構の外方の加飾シートは必要以上に垂れ下がることなく、シート受け部によって加飾シートの張り状態を維持される。すなわち、加飾シートは、基材から遠い位置では無駄に使用されることなく、基材の側面に近い位置で垂れ下がるようになる。よって、加飾シートは基材の側面に沿い易くなり、基材の側面への加飾を確実に行うことができる。
【0014】
本発明に係る加飾装置の第4特徴構成は、前記リフト機構における前記加飾シートのシート保持面を、前記基材側に向けて前記載置部側に傾斜するよう設定してある点にある。
【0015】
リフト機構における加飾シートの保持面を、基材側に向けて載置部側に傾斜するよう設定してあると、リフト機構が第1チャンバー側に後退する際に、加飾シートが基材に向けて傾斜し易くなるので、その分加飾シートが基材の側面に沿い易くなる。よって、基材の側面への加飾を確実に行うことができる。
【0016】
本発明に係る加飾装置の第5特徴構成は、前記第1チャンバーの外方に配置され、前記第1チャンバーのシート挟持面の位置よりも前記第2チャンバーの側に向けて突出する位置に前記加飾シートを挟持するシート挟持面を有し、当該シート挟持面が一定の張力で前記加飾シートの移動を許容するよう構成されたクランプ機構を備えた点にある。
【0017】
この構成のように、第1チャンバーの外方に配置され、第1チャンバーのシート挟持面の位置よりも第2チャンバーの側に向けて突出する位置に加飾シートを挟持するシート挟持面を有し、当該シート挟持面が一定の張力で加飾シートの移動を許容するよう構成されたクランプ機構を備えたので、加飾シートを、先にクランプ機構によって挟持し、その後、当接する第1チャンバー及び第2チャンバーによって挟持することができる。つまり、第1チャンバーに第2チャンバーが当接する前に、第1チャンバーの周囲に位置する加飾シートがクランプ機構によって確実に保持される。したがって、加飾シートは第1チャンバー及び第2チャンバーによって挟持され易い。
【0018】
クランプ機構のシート挟持面によって加飾シートが強固に挟持されていると、第1チャンバーに第2チャンバーが当接する際に、加飾シートが所定の張力を受けることになる。このとき、加飾シートがこの張力に耐え切れなくなると、加飾シートが破れたり、傷ついたりする可能性がある。
しかし、本構成は、クランプ機構のシート挟持面が一定の張力で加飾シートの移動を許容するよう構成されているので、第1チャンバーに第2チャンバーが当接した際に加飾シートが張力を受けても、その張力が一定以上になるとクランプ機構で挟持された加飾シートは第1チャンバー側に向けて移動する。こうして、加飾シートの受ける張力が抑制することで、加飾シートの損傷を防止することができる。
【0019】
本発明に係る加飾装置の第6特徴構成は、前記クランプ機構の前記シート挟持面を前記加飾シートが摩擦抵抗の小さい部材で構成してある点にある。
【0020】
この構成のように、クランプ機構のシート挟持面を加飾シートが摩擦抵抗の小さい部材で構成することで、一定の張力で加飾シートの移動が許容される状態で挟持するクランプ機構を簡単に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】加飾装置の要部斜視図であって、(a)は第1チャンバーに第2チャンバーが当接される(型締め)前の状態、(b)は第1チャンバーに第2チャンバーが当接された(型締め)後の状態をそれぞれ示す。
【図2】加飾装置の断面図であって、加飾の工程を示す。
【図3】加飾装置の断面図であって、加飾の工程を示す。
【図4】加飾装置の断面図であって、加飾の工程を示す。
【図5】加飾装置の断面図であって、加飾の工程を示す。
【図6】加飾装置の断面図であって、加飾の工程を示す。
【図7】加飾装置の断面図であって、加飾の工程を示す。
【図8】第2実施形態の加飾装置の断面図であって、加飾の一工程を示す。
【図9】第3実施形態の加飾装置の断面図であって、(a)はリフト機構のシート保持面が第1チャンバーのシート保持面より上方に位置する状態を示し、(b)はリフト機構のシート保持面が第1チャンバーのシート保持面より下方に位置する状態をそれぞれ示す。
【図10】従来の加飾装置の断面図であって、加飾の各工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る加飾装置については、図1(a)、図1(b)及び図2を用いて説明し、基材の加飾工程については、図2〜図7を用いて説明する。
【0023】
図1(a)は、第1チャンバー1に第2チャンバーが当接する(型締め)前の加飾装置を示し、図1(b)は、第1チャンバー1が第2チャンバー2に当接された(型締め)後の状態の加飾装置を示す。
【0024】
〔第1チャンバー〕
図1(a)に示すように、第1チャンバー1は底部1aと周壁部1bとを有する箱状であって、底部1aに基材3を載置する載置部4を備える。周壁部1bには、第2チャンバー2と当接したときに加飾シートSを挟持するシート挟持面1Aが設けられている。また、第1チャンバー1には、図2に示すように、加飾シートSとの間に形成される第1密閉空間V1を真空に減圧するための減圧機構5が備えられている。
【0025】
〔リフト機構〕
第1チャンバー1の載置部4の周囲には、第2チャンバー2の側に向けて出退自在な枠状のリフト機構6が備えられている。リフト機構6には、加飾シートSに当接して加飾シートSを保持するシート保持部6aが設けられている。リフト機構6は、図1(a)に示すように、基材3の表面から第2チャンバーの側に向けて離間した位置に加飾シートSを保持する位置まで突出(上昇)し、図1(b)に示すように、基材3に対して加飾シートSによる加飾が施される際に載置部4と略面一になるまで後退(下降)する。
【0026】
〔第2チャンバー〕
図2に示すように、第1チャンバー1の載置部4に対向する位置に箱状の第2チャンバー2が備えられている。第2チャンバー2は天井部2aと周壁部2bとを有し、周壁部2bには、第1チャンバー1と当接したときに加飾シートSを第1チャンバー1のシート挟持面1Aとで挟持するシート挟持面2Aが設けられている。第2チャンバー2は、第1チャンバー1と当接して第1チャンバー1と密閉空間を形成する位置と、第1チャンバー1から離間する位置とに移動可能に構成されている。第2チャンバー2が第1チャンバー1と当接すると、第2チャンバー2は第1チャンバー1に配置された加飾シートSとの間に第2密閉空間V2を形成する。
【0027】
第2チャンバー2内の天井部2aにはヒータ7が組み込まれており、第2チャンバー2が第1チャンバー1と当接する位置に移動した際に、加飾シートSをヒータ7によって加熱できるよう構成されている。なお、加熱されていない通常の状態の加飾シートSが基材3の形状に沿って容易に変形する場合には、ヒータ7は設けなくてもよい。
【0028】
〔クランプ機構〕
クランプ機構10は、第1チャンバー1の外方に設けられており、第1チャンバー1側の第1クランプ10aと、第1クランプ10aに対して近接離間する第2クランプ10bとを備える。第1クランプ10a及び第2クランプ10bの加飾シートSを挟持するシート挟持面10A,10Bは、一定の張力で加飾シートSの移動を許容するよう構成されている。一定の張力は、クランプ機構10のみで加飾シートSを挟持したときに、加飾シートSが平面状に保持される程度以上の張力、かつ、クランプ機構10で加飾シートSを挟持した状態で、第1チャンバー1と第2チャンバー2とで加飾シートSを挟持することで、加飾シートSが第1チャンバー1の内側に引き込まれたときに、加飾シートSが傷ついたり、破けたりしない程度以下の張力、に設定される。なお、本実施形態では、クランプ機構10を第1チャンバー1の周囲の対向する2辺の位置に設けたが、クランプ機構10は第1チャンバー1の周囲の四方の位置に設けてもよい。
【0029】
シート挟持面10A,10Bは、摩擦抵抗の小さい部材で構成している。例えば、シート挟持面10A,10Bにテフロン(登録商標)やコーティング済みリング等の摩擦を低減する部材を配置する、もしくは、摩擦を低減する処理を施して、一定の張力で加飾シートSの移動を許容するよう構成されている。こうすると、第1チャンバー1と第2チャンバー2とが当接(型締め)する際に、シート挟持面10A,10Bによって加飾シートSの移動が許容される。なお、クランプ機構10で挟持される前の加飾シートSは、第1チャンバー1側のシート挟持面10Aに備えられた吸引部11によって真空吸着されて保持されるよう構成されている。
【0030】
〔加飾シート〕
本実施形態で用いる加飾シートSは、基材3に対して転写して加飾する転写フィルムである。転写フィルムは転写層(加飾層)と基体シートとで構成され、転写層(加飾層)が基体シートから剥離して基材の表面を加飾する。転写フィルムの転写層は一般に、基材3の最外層となる剥離層と、基材3に融着される接着層とを有し、一般的に剥離層と接着層との間に図柄層が設けられている。転写フィルムは予め枚葉にして基材3の上方に配置される。
【0031】
基体シートの材質としては、例えば、ポロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂などの樹脂シート、アルミニウム箔、銅箔などの金属箔、グラシン紙、コート紙、セロハンなどのセルロース系シート、あるいはこれらが複合されたシートなどを用いることができる。また、基体シートの剥離性を高めるために、基体シートと転写層との間にアミノアルキド系樹脂等からなる離型層を形成してもよい。
【0032】
剥離層の材質としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、ゴム系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂などのほか、塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂などのコポリマーを用いることができる。剥離層に硬度が必要な場合には、紫外線硬化性樹脂などの光硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂などの放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂などを選定して用いてもよい。
【0033】
接着層は、融着させる対象の樹脂と親和性の高い材質を選択すべきである。例えば、被転写物の材質がアクリル系樹脂の場合には、アクリル系樹脂を用いるとよい。また、被転写物の材質がポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン共重合体系樹脂、ポリスチレン系ブレンド樹脂の場合には、これらの樹脂と親和性のあるアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを用いるとよい。また、樹脂成形品の材質がポリプロピレン樹脂の場合には、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂を用いるとよい。
【0034】
〔加飾の処理手順〕
まず、図1に示すように、図外のマニピュレータ等を用いて、基材3を第1チャンバー1の載置部4の所定位置に配置し、加飾シートSを基材3の上方に配置する。このとき、リフト機構6のシート保持部6aは、第1チャンバー1のシート挟持面1Aの位置よりも第2チャンバー2の側に向けて突出する位置まで上昇して、載置部4に載置された基材3から第2チャンバー2の側に向けて離間した位置にあるシート保持面6Aと、クランプ機構10のシート挟持面10Aとによって加飾シートSが保持されている。
【0035】
次に、図2に示すように、クランプ機構10の第2クランプ10bを第1クランプ10aに近接させて、第1チャンバー1に配置された加飾シートSを挟持する。すなわち、シート挟持面10A,10B及びシート保持面6Aによって、基材3から第2チャンバー2の側に向けて離間した位置に加飾シートSが保持されている。
【0036】
次に、図3に示すように、第1チャンバー1に対して第2チャンバー2を近接させ、第1チャンバー1と第2チャンバー2とを当接(型締め)する。このとき、リフト機構6のシート保持面6Aは、第1チャンバー1のシート挟持面1Aの位置よりも第2チャンバー2の側に突出した位置にあり、シート挟持面10A,10Bによって挟持された加飾シートSは、一定の張力で移動が許容される状態にある。第1チャンバー1が第2チャンバー2に当接(型締め)されると、加飾シートSを平らな状態にして挟持する場合に比べて、リフト機構6が加飾シートSを保持するシート保持面6Aの位置と第1チャンバーのシート挟持面1Aの位置との間の加飾シートが大きく撓むこととなり、撓みが大きくなった分だけ長い加飾シートSが第1チャンバー1内に取り込まれる。
【0037】
つまり、第1チャンバー1のシート挟持面1Aとリフト機構6のシート保持面6Aとの間の加飾シートSの長さL2は、第1チャンバー1が第2チャンバー2に当接(型締め)される前の、第1チャンバー1のシート挟持面1Aとリフト機構6のシート保持面6Aとの間の加飾シートSの長さL1より長くなる。換言すれば、第1チャンバー1のシート挟持面1Aと第2チャンバー2のシート挟持面2Aとで加飾シートSが挟持されると、加飾シートSは、「L2−L1」の長さだけ第1チャンバー1と第2チャンバー2との密閉空間内に引き込まれている。
【0038】
次に、図4及び図5に示すように、気圧調整機構8により第2密閉空間V2に高圧空気を送入しつつ、リフト機構6を第1チャンバー1の側に後退(下降)させる。第2密閉空間V2に送り込まれた高圧空気により加飾シートSが基材3の表面側に押し付けられる。また、リフト機構6が第1チャンバー1の側に後退(下降)することで、加飾シートSが基材3の上側面に密着していく。このとき、第1チャンバー1内の加飾シートSは、L2−L1の長さの分だけ通常より長めに存在する。つまり、基材3の周囲の加飾シートSは、L2−L1の長さの分だけ通常よりたるみやすくなり、基材3の表面3Aから側面3Bまで届き易くなる。こうして、加飾シートSによる基材3の表面及び側面の一部の加飾がより確実に施される。
【0039】
図6に示すように、基材3に対する加飾シートSによる加飾が完了すると、第1チャンバー1の真空状態を開放して大気圧に戻し、第2チャンバー2を第1チャンバー1から離間させるとともに、クランプ機構10の第1クランプ10bを第1クランプ10aから離間させる。その後、表面3A及び側面3Bの一部が加飾された基材3を第1チャンバー1から取り出して加飾の一連の工程が終了する。
【0040】
加飾シートSは、先にクランプ機構10によって挟持され、その後、当接する第1チャンバー1及び第2チャンバー2によって挟持される。つまり、第1チャンバー1に第2チャンバー2が当接する前に、第1チャンバー1の周囲に位置する加飾シートSはクランプ機構10によって確実に保持される。したがって、加飾シートSは第1チャンバー1及び第2チャンバー2によって挟持され易い。
【0041】
また、クランプ機構10のシート挟持面10A,10Bが一定の張力で加飾シートSの移動を許容するよう構成されているので、第1チャンバー1に第2チャンバー2が当接した際に加飾シートSが張力を受けても、その張力が一定以上になるとクランプ機構10で挟持された加飾シートSは第1チャンバー1側に向けて移動する。こうして、加飾シートSが受ける張力を抑制することで、加飾シートSの損傷を防止することができる。
【0042】
その他、第1チャンバー1のシート挟持面1Aの高さを、載置部4に載置された基材3の表面と同じ高さに設定してもよい。こうすると、リフト機構6が第1チャンバー1の側に後退し、基材3が加飾シートSで加飾される際に、第1チャンバー1のシート挟持面1Aと基材3の表面との間で必要な加飾シートSは最短になる。よって、リフト機構6により長めに引き込まれた加飾シートSを、基材3の側面3Bに用いることができ、加飾シートSを効率よく使用することができる。なお、第1チャンバー1のシート挟持面1Aの高さと基材3の表面3Aの高さとは完全に一致する必要はなく、第1チャンバー1のシート挟持面1Aと基材3の表面3Aとの間における加飾シートSの長さの差に影響が出ない範囲であれば、ある程度の誤差は許される。
【0043】
[第2実施形態]
本実施形態では、図8に示すように、第1チャンバー1のリフト機構6の外方に、加飾シートSを受けるシート受け部9を設けている。リフト機構6によって、第1チャンバー1内の加飾シートSを長めに取り入れることができたとしても、リフト機構6の外方で加飾シートSがたるんでしまうと、リフト機構6と基材3との間の加飾シートSは、基材3の側面3Bに加飾シートSが密着するのに十分な長さが確保されなくなる。
【0044】
第1チャンバー1のリフト機構6の外方に、例えば、図8に示すように、基材3側が低くなるようにして加飾シートSを受けるシート受け部9を設けると、リフト機構6の外方の加飾シートSは必要以上に垂れ下がることなく、シート受け部9によって加飾シートSの張り状態を維持される。すなわち、加飾シートSは、基材3から遠い位置では無駄に使用されることなく、基材3の側面3Bに近い位置で垂れ下がるようになる。よって、加飾シートSは基材3の側面3Bに沿い易くなり、基材3の側面3Bへの加飾を確実に行うことができる。図8に示すシート受け部9は、基材3の側が低くなる形状であるが、シート受け部9は基材3側に傾斜させずに水平方向に向けて形成されていてもよい。また、シート受け部9は、第1チャンバー1と一体的にして構成してもよい。
【0045】
[第3実施形態]
本実施形態では、図9(a)に示すように、リフト機構6における加飾シートSのシート保持面6Aが、基材3側に向けて載置部4側に傾斜するよう設定されている。このように保持面6Aが設定されていると、図9(b)に示すように、リフト機構6の下降に伴って加飾シートSがシート保持面6Aに沿って基材3側に向けて載置部4側に傾斜するようになる。そうなると、リフト機構6の外方の加飾シートSはある程度張り状態が維持されて下方にたるみ難くなり、リフト機構6と基材3との間の加飾シートSは、基材3の表面3Aに連続する側面3Bに加飾シートSを密着させるのに十分な長さが確保される。よって、基材3の側面3Bの加飾をより確実に行うことができる。
【0046】
[他の実施形態]
(1)上記の実施形態では、第1チャンバー1の外方にクランプ機構10を設けたが、第1チャンバー1に加飾シートSを配置する際に、リフト機構6のシート保持部6aのみで加飾シートSを保持できる場合には、クランプ機構10を設けずに加飾装置を構成してもよい。この場合、例えば、加飾シートSをリフト機構6のシート保持面6Aで真空吸着できるように構成してもよい。
【0047】
(2)上記の実施形態では、リフト機構6を枠状にして設けているが、リフト機構6は対向する2辺のみに設けてもよい。
【0048】
(3)上記の実施形態では、加飾装置を水平方向(横向き)に配置したが、垂直方向(縦向き)に配置してもよい。
【0049】
(4)上記の実施形態では、加飾シートSとして転写フィルムを用いる例を示したが、これに代えて無地の基体シートまたは基体シート上に模様等が付されたインサートシートをそのまま一体にして加飾する構成にしてもよい。また、上記の実施形態では、加飾シートSを予め枚葉にして基材3の上方に配置したが、加飾シートSをロール状の長尺フィルムにして基材3の上方に展開配置するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る加飾装置は、携帯電話やパーソナルコンピュータの各種機器の筐体や、様々な成形体に対して表面及びその表面に連続する側面に加飾を施す装置として広く利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 第1チャンバー
1a 底部
1b 周壁部
1A シート挟持面
2 第2チャンバー
2a 天井部
2b 周壁部
2A シート挟持面
3 基材
3A 表面
3B 側面
4 載置部
5 減圧機構
6 リフト機構
6a シート保持部
6A シート保持面
9 シート受け部
10 クランプ機構
10A シート挟持面
10B シート挟持面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に対して加飾シートを用いて加飾する加飾装置であって、
底部と周壁部とを有し、前記底部に前記基材を載置する載置部を設けた第1チャンバーと、
天井部と周壁部とを有し、前記第1チャンバーとの間に前記加飾シートを挟みつつ、前記第1チャンバーの周壁部に当該周壁部を当接して前記第1チャンバーとの間に密閉空間を形成する位置と、前記第1チャンバーから離間する位置とに移動可能な第2チャンバーと、
前記第1チャンバー内を減圧する減圧機構と、
前記第1チャンバーに設けられ、前記第1チャンバーの前記周壁部において加飾シートを挟持するシート挟持面の位置よりも前記第2チャンバーの側に向けて突出する位置であって、前記載置部に載置された前記基材から前記第2チャンバーの側に向けて離間した位置に前記加飾シートを保持可能に構成されたリフト機構と、を備えた加飾装置。
【請求項2】
前記第1チャンバーのシート挟持面の高さを、前記載置部に載置された前記基材の表面と同じ高さに設定してある請求項1記載の加飾装置。
【請求項3】
前記リフト機構の外方に、前記加飾シートを受けるシート受け部を設けてある請求項1又は2に記載の加飾装置。
【請求項4】
前記リフト機構における前記加飾シートのシート保持面を、前記基材側に向けて前記載置部側に傾斜するよう設定してある請求項1〜3のいずれか一項に記載の加飾装置。
【請求項5】
前記第1チャンバーの外方に配置され、前記第1チャンバーのシート挟持面の位置よりも前記第2チャンバーの側に向けて突出する位置に前記加飾シートを挟持するシート挟持面を有し、当該シート挟持面が一定の張力で前記加飾シートの移動を許容するよう構成されたクランプ機構を備えた請求項1〜4のいずれか一項に記載の加飾装置。
【請求項6】
前記クランプ機構の前記シート挟持面を前記加飾シートが摩擦抵抗の小さい部材で構成してある請求項5記載の加飾装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−251422(P2011−251422A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125173(P2010−125173)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】