説明

動力伝達装置及び作業機械

【課題】作業機械の旋回装置及び作業機械に好適の動力伝達装置に関し、簡素な構成で安価に製造することができ、かつ、エネルギー損失を抑制しながら小さなトルクを出力できるとともに大きなトルクも出力できるようにする。
【解決手段】駆動源の回転を減速機により減速して出力する動力伝達装置において、第1の駆動源としての油圧モータ20と、第2の駆動源としての電気モータ70と、電気モータ70の回転のエネルギーが伝達される太陽歯車81,太陽歯車81に噛合する複数の遊星歯車82,複数の遊星歯車82を回転自在に支持するとともに油圧モータ20の回転のエネルギーが伝達されるキャリア83,複数の遊星歯車82と回転自在に噛合する内歯車84,内歯車84の回転のエネルギーが伝達される出力軸85を有する遊星歯車機構の減速機80とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の旋回式作業機械の旋回装置に用いて好適の、駆動源として油圧モータと電気モータとを備えた動力伝達装置及び作業機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
旋回式作業機械には、一般に、旋回装置の動力伝達装置として遊星歯車機構の減速機(以下、遊星歯車減速機という)が用いられている。
図4に示すように、旋回式作業機械の代表例である油圧ショベル1は、下部走行体2と、下部走行体2上に旋回自在に結合された上部旋回体3と、上部旋回体3から前方へ延出するように取り付けられた作業装置4とから構成されている。
【0003】
そして、下部走行体2と上部旋回体3との間に配設された旋回装置10により、上部旋回体3は下部走行体2に対して旋回するようになっている。
下部走行体2は、その骨格としての走行フレーム(図示略)と、走行フレームの中央部上面に設けられた、大径なリング状の丸胴2aとを有している。
上部旋回体3は、その骨格としての旋回フレーム3aを有するとともに、旋回フレーム3a上に搭載されたエンジン(図示略)やエンジンにより駆動され作動油を吐出する油圧ポンプ5(図6参照)や作動油を貯留する作動油タンク6(図6参照)やオペレータが搭乗するキャブ7等を有している。
【0004】
旋回装置10は、図5に示すように、その下端11aを旋回フレーム3a上に取り付けられ段付きの円筒状に形成されたハウジング(減速機ボディ)11と、ハウジング11の上端11b側に配設された回転源(駆動源)としての油圧モータ(旋回モータ)20と、ハウジング11内に配設され油圧モータ20の回転を減速する遊星歯車減速機30と、ハウジング11の下端11bから下方に突出し、遊星歯車減速機30により減速された回転のエネルギーが伝達されるピニオンギア40と、ピニオンギア40の回転のエネルギー(以下、回転エネルギーともいう)が伝達されるリング状に形成された旋回輪(旋回ベアリング)50とから大略構成されている。ここで、油圧モータ20と遊星歯車減速機30とから、動力伝達装置が構成されている。
【0005】
遊星歯車減速機30は、油圧モータ20の油圧モータシャフト21にスプライン等を介して接続された(スプライン結合した)入力軸31と、入力軸31に接続され油圧モータ20の回転エネルギーが伝達される太陽歯車32と、太陽歯車32の外周に配置され太陽歯車32に噛合する複数の遊星歯車33と、複数の遊星歯車33の各自転軸(枢軸)を太陽歯車32を中心として回転可能に支持するキャリア34と、ハウジング11内周面に形成され複数の遊星歯車33と噛合する内歯車35と、スプライン等を介してキャリア34に接続されピニオンギア40に回転エネルギーを伝達する(即ち、遊星歯車減速機30によって減速された回転を出力する)出力軸36とを有している。
【0006】
旋回輪50は、丸胴2aと旋回フレーム3aとの間に設けられており、リング状に形成され丸胴2aの上面に固着された内輪51と、リング状に形成され旋回フレーム3aの下面に固着された外輪52と、内輪51と外輪52との間に配設された複数の鋼球53とにより構成されている。
内輪51の内周側には、その全周に亘ってピニオンギア40が噛合する内歯51aが形成されている。そして、内輪51の周囲を外輪52が回転することにより、外輪52に取り付けられた旋回フレーム3a即ち上部旋回体3が、旋回軸を中心として下部走行体2上で旋回するようになっている。
【0007】
旋回装置10の作用を詳述すると、油圧モータ20に圧油を給排して油圧モータ20を回転駆動すると回転エネルギーが発生し、この回転エネルギーは入力軸31を介して太陽歯車32に伝達され、太陽歯車32が自転する。すると、太陽歯車32に噛合する遊星歯車33が自転運動を行なう。このとき、遊星歯車33は内歯車35にも噛合しているので内歯車35にも回転エネルギーが伝達されるが、内歯車35はハウジング11内周面に形成され固定されているので、遊星歯車33は公転運動をも行なう。つまり、各遊星歯車33は、キャリア34に支持された枢軸を中心として自転しつつ、太陽歯車32を中心として公転する。
【0008】
遊星歯車33の公転運動のエネルギーは、遊星歯車33を支持するキャリア34に伝達され、キャリア34に接続された出力軸36の下端側に配設されたピニオンギア40に回転エネルギーが伝達される。
ピニオンギア40は、旋回輪50の内輪51の内歯51aに噛合しているので、上記回転エネルギーを受けて内歯51aに沿って自転しつつ内輪51の中心に対して公転する。そして、ピニオンギア40の公転力は、ピニオンギア40が接続されている遊星歯車減速機30が取り付けられた旋回フレーム3aに伝わり、旋回フレーム3aに固定された外輪52が走行フレームの丸胴2aに固定された内輪51の周囲を回転することで、旋回フレーム3a即ち上部旋回体3が、下部走行体2上で旋回するようになっている。
【0009】
つまり、遊星歯車減速機30は、入力軸31から伝達された油圧モータ20の回転を減速し、出力軸36に設けられたピニオンギア40を大きなトルクをもって回転させるようになっている。そして、ピニオンギア40は、旋回輪50の内歯51aに沿って自転しつつ公転し、このときの公転力によって上部旋回体3が下部走行体2上で旋回するようになっている。
【0010】
ここで、旋回装置10即ち動力伝達装置の回転源としては、上述のように油圧モータ20が利用されるのが一般的であるが、油圧モータ20は、旋回加速時や旋回減速時においてエネルギー損失(動力損失)が大きいという課題がある。
つまり、動力伝達装置の油圧回路C1を図6を用いて説明すると、この油圧回路C1は、エンジン出力で駆動される油圧ポンプ5から吐出された作動油がコントロール弁8を介して油圧モータ20へと供給される回路であって、作動油が油圧ポンプ5から油圧モータ20へと向かう吐出通路と、油圧モータ20から作動油タンク6へと還流する戻り通路とを有している。そして、コントロール弁8と油圧モータ20との間の吐出通路及び戻り通路を連通する通路には、油圧モータ20に内蔵されたリリーフ弁9a,9bが介装されている。
【0011】
油圧回路C1において、旋回加速時は、油圧モータ20を適正に加速させるため、油圧モータ20の負荷圧の最大値を一定に抑制するようにリリーフ弁9a,9bで一部の作動油を作動油タンク6へと還流することにより、油圧モータ20を過剰な負荷圧から保護しつつ滑らかな加速特性を得ている。言わば、リリーフ弁9a,9bは、その前後差圧と通過流量に応じた分の油圧エネルギーを熱エネルギーに変換している。リリーフ弁9a,9bからの戻り油は、作動油冷却用のオイルクーラを経て作動油タンク6に回収されるが、リリーフ弁9a,9bで発生した熱エネルギーはオイルクーラを通過するときに大気中に放出され、エネルギーの損失となっている。
【0012】
旋回減速時は、制動力として、リリーフ弁9a,9bにより油圧モータ20の負荷圧を一定に制御することで、油圧モータ20を過剰な負荷圧から保護しつつ、滑らかな減速特性を得ているので、旋回加速時と同様に、リリーフ弁9a,9bで油圧エネルギーは熱エネルギーに変換され、熱エネルギーはオイルクーラより大気中に放出され、エネルギーの損失となっている。
【0013】
また、従来のこうした遊星歯車減速機30では、減速比は固定される。したがって、微操作を行なうときには、油圧モータ20への流量を精密に制御しなくてはならず、コストがかかるという課題がある。
これらの課題に対し、例えば特許文献1及び特許文献2記載の技術のように、旋回装置の回転源を油圧モータから電気モータに置き換える技術が開発されている。
【0014】
旋回装置の回転源として電気モータを適用すれば、電気モータへの電流を制御することで、エネルギー損失を抑制しエンジン出力を抑制することができるとともに、滑らかな加速特性及び減速特性を得て微操作性を確保することができる。
【特許文献1】特開2001−12274号公報
【特許文献2】特開2004−190845号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、電気モータで油圧ショベルを旋回させようとすると、電気モータにおいては連続運転で高トルクを出力することができないため、油圧ショベルで多用される壁面押し付け掘削など、長時間に亘って高トルクが必要な作業が困難である。
また、電気モータで前述の加速特性及び減速特性を得るためには、容量の大きな大型の電気モータが必要となり、コストがかかる。
【0016】
本発明はこのような課題に鑑み案出されたもので、簡素な構成で安価に製造することができ、かつ、エネルギー損失を抑制しながら小さなトルクを出力できるとともに大きなトルクも出力できるようにした、動力伝達装置及び作業機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、請求項1記載の本発明の動力伝達装置は、駆動源の回転を減速機により減速して出力する動力伝達装置であって、第1の駆動源としての油圧モータと、第2の駆動源としての電気モータと、前記電気モータの回転のエネルギーが伝達される太陽歯車,前記太陽歯車の外周に配置され前記太陽歯車に噛合する複数の遊星歯車,前記複数の遊星歯車の各自転軸を前記太陽歯車を中心として回転可能に支持するとともに前記油圧モータの回転のエネルギーが伝達されるキャリア,前記複数の遊星歯車の外周に配置され前記複数の遊星歯車と回転自在に噛合する内歯車,前記内歯車の回転のエネルギーが伝達される出力軸を有する遊星歯車機構の減速機とを備えたことを特徴としている。
【0018】
請求項2記載の本発明の動力伝達装置は、駆動源の回転を減速機により減速して出力する動力伝達装置であって、第1の駆動源としての油圧モータと、第2の駆動源としての電気モータと、前記油圧モータの回転のエネルギーが伝達される太陽歯車,前記太陽歯車の外周に配置され前記太陽歯車に噛合する複数の遊星歯車,前記複数の遊星歯車の各自転軸を前記太陽歯車を中心として回転可能に支持するとともに前記電気モータの回転のエネルギーが伝達されるキャリア,前記複数の遊星歯車の外周に配置され前記複数の遊星歯車と回転自在に噛合する内歯車,前記内歯車の回転のエネルギーが伝達される出力軸を有する遊星歯車機構の減速機とを備えたことを特徴としている。
【0019】
請求項3記載の本発明の動力伝達装置は、請求項1記載の動力伝達装置において、前記油圧モータは、前記キャリアに前記油圧モータの回転のエネルギーを入力するための油圧モータシャフトを有し、前記電気モータは、前記太陽歯車に前記電気モータの回転のエネルギーを入力するための電気モータシャフトを有し、前記電気モータシャフトは、径方向中心部において中空に形成された中空部を有し、前記油圧モータシャフトは、前記電気モータシャフトの前記中空部を貫通するように配設されていることを特徴としている。
【0020】
請求項4記載の本発明の動力伝達装置は、第1の駆動源としての油圧モータと、第2の駆動源としての電気モータと、前記油圧モータと前記電気モータとの動力が複合して入力されるとともに、入力された前記油圧モータと前記電気モータとの動力を減速して出力する減速機とを備えたことを特徴としている。
請求項5記載の本発明の作業機械は、請求項1〜4の何れか1項に記載の動力伝達装置を有する旋回装置と、下部走行体と、前記旋回装置により前記下部走行体上に旋回自在に結合された上部旋回体とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
請求項1又は2記載の本発明の動力伝達装置によれば、一つの遊星歯車機構の減速機に対して、簡素且つ安価な構成で油圧モータ及び電気モータという2つの駆動源を備えることができる。
また、油圧モータ及び電気モータを単独もしくは複合して利用することができる。つまり、油圧モータは回転させずに(即ち、静止状態で)最大トルクを長時間に亘って出すことができるため油圧モータの駆動により良好に大きなトルクを出力することができるとともに、電気モータの駆動によりエネルギー損失を抑制しながら小さなトルクを出力することができる。
【0022】
また、電気モータ及び油圧モータの出力合計が従来技術の油圧モータと同等の出力であれば、機体性能を変えずに出力の小さなコンポーネントを使用することができ、コストをより低減することができる。
請求項3記載の本発明の動力伝達装置によれば、油圧モータシャフトを電気モータシャフトの径方向中心部の中空部に貫通するように配設し、よりコンパクトな構成とすることができる。
【0023】
請求項4記載の本発明の動力伝達装置によれば、一つの減速機に対して、簡素且つ安価な構成で油圧モータ及び電気モータという2つの駆動源を備えることができる。
また、油圧モータ及び電気モータを単独もしくは複合して利用することができる。つまり、油圧モータは回転させずに最大トルクを長時間に亘って出すことができるため油圧モータの駆動により良好に大きなトルクを出力することができるとともに、電気モータの駆動によりエネルギー損失を抑制しながら小さなトルクを出力することができる。
【0024】
また、電気モータ及び油圧モータの出力合計が従来技術の油圧モータと同等の出力であれば、機体性能を変えずに出力の小さなコンポーネントを使用することができ、コストをより低減することができる。
請求項5記載の本発明の作業機械によれば、旋回装置の旋回の要求に応じて、油圧モータの駆動により高トルクの旋回操作を長時間することができるとともに、電気モータの駆動によりエネルギー損失なく小さなトルクを出力し微操作性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面により、本発明の実施の形態について説明する。
[一実施形態]
図1〜図3は本発明の一実施形態に係る動力伝達装置を示すもので、図1はその動力伝達装置を有する旋回装置の模式的な断面図、図2は図1のA−A矢視断面図、図3はその動力伝達装置の電気・油圧回路図である。なお、従来技術と同様の部材には同一の符号を付すとともに、図4を適宜用いて説明する。
本実施形態では、油圧ショベルの旋回装置に適用された動力伝達装置について説明する 。
【0026】
<構成>
図4に示すように、油圧ショベル1は、下部走行体2と、下部走行体2上に旋回自在に結合された上部旋回体3と、上部旋回体3から前方へ延出するように取り付けられた作業装置4とから構成されている。
【0027】
そして、下部走行体2と上部旋回体3との間に配設された旋回装置60(図4では符号10で示している)を備え、この旋回装置60により、上部旋回体3は下部走行体2に対して旋回するようになっている。
下部走行体2は、その骨格としての走行フレーム(図示略)と、走行フレームの中央部上面に設けられた、大径なリング状の丸胴2aとを有している。
【0028】
上部旋回体3は、その骨格としての旋回フレーム3aを有するとともに、旋回フレーム3a上に搭載されたエンジン(図示略)やエンジンにより駆動され作動油を吐出する油圧ポンプ5(図3参照)や作動油を貯留する作動油タンク6(図3参照)やオペレータが搭乗するキャブ7等を有している。
旋回装置60は、図1に示すように、その下端を旋回フレーム3a上に取り付けられ段付きの円筒状に形成されたハウジング11と、ハウジング11の上端側に配設された回転源としての油圧モータ20及び電気モータ70と、ハウジング11内に配設され油圧モータ20及び電気モータ70から入力された回転を減速して出力する遊星歯車減速機80と、ハウジング11の下端から下方に突出し、遊星歯車減速機80により減速された回転のエネルギーが伝達されるピニオンギア40と、ピニオンギア40の回転エネルギーが伝達されるリング状に形成された旋回輪50とから大略構成されている。ここで、油圧モータ20及び電気モータ70と遊星歯車減速機80とから、動力伝達装置が構成されている。なお、油圧モータ20は、例えば、時計回りを正転とし反時計回りを逆転として回転するようになっている。電気モータ70も同様に、時計回りを正転とし反時計回りを逆転として回転するようになっている。
【0029】
電気モータ70は、電動機兼発電機として構成されており、動力伝達装置は、電気モータ70を回転駆動するための電力を電気モータ70へ供給するとともに電気モータ70で発電された電力を充電するバッテリ(蓄電器)90(図3参照)と、電気モータ70とバッテリ90との間の電流(交流電流の周波数)を制御するインバータ91(図3参照)とをさらに備えている。
【0030】
また、電気モータ70のシャフト(以下、電気モータシャフトという)71は、径方向中心部において中空に形成された中空部71aを有している。そして、この電気モータシャフト71の中空部71aに油圧モータ20のシャフト(以下、油圧モータシャフトという)21が貫通している。
遊星歯車減速機80は、図2に示すように、ハウジング11の径方向中心に配置されるとともに電気モータシャフト71に接続され電気モータ70の回転エネルギー(第1回転エネルギー)が伝達される太陽歯車81と、太陽歯車81の外周に配置され太陽歯車81に噛合する複数(ここでは4つ)の遊星歯車82と、複数の遊星歯車82の各枢軸を太陽歯車81を中心として回転可能に支持するとともに油圧モータシャフト21に接続され油圧モータ20の回転エネルギー(第2回転エネルギー)が伝達されるキャリア83と、複数の遊星歯車82の外周に配置され複数の遊星歯車82と回転自在に噛合する内歯車84と、内歯車84に接続され内歯車84の回転を回転エネルギーとしてピニオンギア40に伝達し出力する出力軸85とを有している。
【0031】
内歯車84は、図5に示す従来技術の遊星歯車減速機30と異なり固定されておらず、したがって、本遊星歯車減速機80は、電気モータシャフト71と油圧モータシャフト21という二つの入力軸と、一つの出力軸85とを有している。
旋回輪50は、丸胴2aと旋回フレーム3aとの間に設けられており、丸胴2aの上面に固着された内輪51と、旋回フレーム3aの下面に固着された外輪52と、内輪51と外輪52との間に配設された複数の鋼球53とにより構成されている。
【0032】
内輪51の内周側には、その全周に亘ってピニオンギア40が噛合する内歯51aが形成されている。そして、丸胴2aに固着された内輪51の周囲を外輪52が回転することにより、外輪52に取り付けられた旋回フレーム3a即ち上部旋回体3が、旋回軸を中心として下部走行体2上で旋回するようになっている。
ここで、旋回装置60の動力伝達装置の油圧・電気回路C2について図3を用いて説明すると、油圧・電気回路C2は、油圧ポンプ5から吐出された作動油がコントロール弁8を介して油圧モータ20へと供給される油圧回路C3(図3中に実線で示す)と、電気モータ70を有する電気回路C4(図3中に破線で示す)とを有している。そして、油圧・電気回路C2では、油圧モータ20及び電気モータ70が遊星歯車減速機80に対して並列に接続され、旋回装置60は、油圧モータ20及び電気モータ70それぞれが単独でも遊星歯車減速機80を介して上部旋回体3を旋回可能であるとともに、油圧モータ20及び電気モータ70が複合して遊星歯車減速機80を介して上部旋回体3を旋回可能になっている。
【0033】
油圧回路C3は、作動油が油圧ポンプ5から油圧モータ20へと向かう吐出通路と、油圧モータ20から作動油タンク6へと還流する戻り通路と、コントロール弁8から引出された吐出通路及び戻り通路を連通する上流側の連通路及び下流側の連通路とを有している。
上流側の連通路上には、無負荷弁12が介装されている。無負荷弁12は、コントロール弁8から引き出された上記の吐出通路及び戻り通路を短絡させて連通させることができるようになっている。つまり、無負荷弁12は、通常は閉止状態(閉状態)となっているが、油圧モータ20を空回りさせる必要がある場合には開状態となり、油圧モータ20への作動油の供給を遮断することができるようになっている。
【0034】
また、下流側の連通路上には、油圧モータ20に内蔵され、油圧モータ20の負荷圧を一定に制御するように一部の作動油を作動油タンク6へと還流させるリリーフ弁9a,9bが介装されている。
一方、電気回路C4は、電気モータ70と、バッテリ90と、電気モータ70とバッテリ90との間に介装され電流を制御するインバータ91とを備えている。
【0035】
インバータ91は、油圧モータ20により遊星歯車減速機80を駆動する定常旋回時はバッテリ90の充電状況によって電気モータ70を発電機として機能させることでバッテリ90を充電させるとともに、旋回減速時は電気モータ70を発電機として機能させることで旋回運動エネルギー(慣性エネルギー)を電気エネルギーに変換してバッテリ90を充電させる機能を有している。
【0036】
<作用・効果>
本発明の一実施形態にかかる動力伝達装置及び動力伝達装置を有する旋回装置は上述のように構成されているので、以下のような作用・効果がある。
動力伝達装置は、電気モータシャフト71が太陽歯車81にスプライン結合し、油圧モータシャフト21がキャリア83にスプライン結合しているので、簡素且つ安価な構成で、一つの遊星歯車減速機80に対して、電気モータ70と油圧モータ20との2つの異なる回転源の回転エネルギーを入力することができる。つまり、一つの遊星歯車減速機80を電気モータ70と油圧モータ20とで共用するようにしたので、電気モータ70専用の減速機や油圧モータ20専用の減速機が不要となり、装置の小型化及び軽量化を図りコストを抑制することができる。
【0037】
また、電気モータシャフト71の中空部71aに油圧モータシャフト21が貫通しているので、よりコンパクトな構成とすることができる。
また、電気モータ70及び油圧モータ20を状況に応じて単独で回転駆動したり複合して回転駆動したりすることで、動力伝達装置は、電気モータ70の利点と油圧モータ20の利点とを両方奏することができ、大きなトルクを出力することができるとともにエネルギー損失なく小さなトルクを出力することができる。
【0038】
そして、動力伝達装置を有する油圧ショベル1の旋回装置60は、旋回加速時の初回の微操作時には、無負荷弁12を開状態に制御して(上流側の連通路を連通させて)油圧モータ20への作動油の供給を遮断するとともに電気モータ70のみを回転駆動し電気モータ70の出力を制御すれば、油圧モータ20のリリーフ弁9a,9bからのエネルギー損失がなくなるので、エネルギー効率を良好にすることができる。また、電気モータ70起動後すぐに一瞬だけ無負荷弁12を開状態とすれば、遊星歯車減速機80のバックラッシュを抑制することができる。
【0039】
そして、ある程度加速した場合には、無負荷弁12を閉状態に制御して(上流側の連通路を連通させず)油圧モータ20へ作動油を供給し、油圧モータ20も複合して回転駆動し回転数及びトルクを上昇させる。
さらに、加速が進み定常回転に達した定常旋回時には、油圧モータ20のみ回転駆動するとともに電気モータ70を発電機として作用させ、油圧モータ20の余剰エネルギーをバッテリ90に充電することができる。そして、定常旋回時に油圧モータ20を利用すれば、油圧モータ20は回転させずに(即ち、静止状態で)最大トルクを長時間に亘って出力可能な特性を有しているので、壁面押付け掘削等の高トルクが必要な作業も長時間行なうことができる。
【0040】
また、旋回減速時には、油圧モータ20のみ回転駆動するとともに電気モータ70を発電機として作用させ、上部旋回体3の旋回に係る慣性エネルギーをバッテリ90に充電することができ、エネルギー損失を抑制することができる。
そして、旋回減速時に電気モータ70を発電機として作用させた場合、制動力による慣性エネルギーが電気モータ70の発電機としての容量を超えるエネルギーであった場合には、無負荷弁12を開状態として油圧モータ20のリリーフ弁9a,9bを作動させて、電気モータ70を保護することができる。
【0041】
また、微操作時には、油圧モータ20を一方向に回転駆動するとともに電気モータ70を油圧モータ20と逆方向に回転駆動する(例えば、油圧モータ20を正転駆動する一方、電気モータ70を逆転駆動する)ことで、無段階変速機とすることができ、微操作性をより向上させることができる。
つまり、微操作時に油圧モータ20に圧油を給排して油圧モータ20を回転駆動すると第2回転エネルギーが発生し、第2回転エネルギーは油圧モータシャフト21からキャリア83に伝達され、キャリア83は自転する。すると、キャリア83に支持される遊星歯車82が公転運動を行なう。同時に、電気モータ70に電流を流して電気モータ70を回転駆動すると第1回転エネルギーが発生し、第1回転エネルギーは電気モータシャフト71から太陽歯車81に伝達され、太陽歯車81が自転する。すると、太陽歯車81に噛合する遊星歯車82が自転運動を行なう。つまり、遊星歯車82は、自転運動するとともに公転運動を行なう。
【0042】
そして、内歯車84は固定されていないので、内歯車84は遊星歯車82の自転,公転運動を受け回転する。ここで、第1回転エネルギーと第2回転エネルギーの向きと大きさを適宜設定することで、出力軸85と接続する内歯車84の回転方向と回転数を決定することができる。
即ち、油圧モータ20への流量制御に加えて電気モータ70への電流制御を行なうことで、遊星歯車減速機80による減速比と回転方向とを決定することができ、遊星歯車減速機80を無段階変速機とすることができる。
【0043】
そして、このように減速比が決定された回転のエネルギーは、内歯車84に接続された出力軸85の下端側に配設されたピニオンギア40に伝達される。
ピニオンギア40は、旋回輪50の内輪51の内歯51aに噛合しているので、上記回転エネルギーを受けて内歯51aに沿って公転しつつ自転する。そして、ピニオンギア40の公転力は、ピニオンギア40が接続されている遊星歯車減速機80が取り付けられた旋回フレーム3aに伝わり、旋回フレーム3aに固定された外輪52が剛球53を介して丸胴2aに固定された内輪51の周囲を回転することで、旋回フレーム3a即ち上部旋回体3を、下部走行体2上で旋回させることができる。
【0044】
また、電気モータ70及び油圧モータ20の出力合計が、従来技術の旋回装置10に利用された油圧モータ20単独の出力と同等であれば、機体性能を変えずに出力の小さなコンポーネントを使用することができ、よりコストを低減させることができる。
なお、ここで、遊星歯車減速機80について、4個の遊星歯車82を有する1段式の遊星歯車減速機を例に挙げて説明したが、遊星歯車減速機はこのようなものに限定されず、遊星歯車の個数や各歯車の歯数や段数等は適宜設定されることが好ましい。
【0045】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
例えば、上記実施形態では、電気モータ70の第1回転エネルギーは太陽歯車81に伝達され、油圧モータ20の第2回転エネルギーはキャリア83に伝達される構成としたが、電気モータ70の第1回転エネルギーがキャリア83に伝達され、油圧モータ20の第2回転エネルギーが太陽歯車81に伝達される構成としても良い。この場合、油圧モータシャフト20のモータシャフト21が径方向中心部において中空に形成された中空部を有するとともに、電気モータシャフト71が油圧モータシャフト21の中空部を貫通するように配設されることが好ましい。
【0046】
また、上記実施形態では、減速機として遊星歯車機構のものを採用したが、減速機の構成はこれに限らず、例えば、ポンプインペラ,タービンランナ及びステータ等を有する油圧トルクコンバータからなる減速機を適宜変形して採用しても良いし、数種類のギアを備えギアを切り替えて選択する多段変速機を採用しても良いし、プーリやベルト等からなる無段変速機を採用しても良い。
【0047】
また、上記実施形態では、バッテリ90やインバータ91を備えて電気モータ70で発電された電力をバッテリ90に充電できるようになっているが、特に上記実施形態のようなバッテリ90を備えず、電気モータ70は、単に電動機として機能し、バッテリ90に限らない電源から電力を供給されて回転駆動されても良い。
また、上記実施形態では、油圧ショベル1の旋回装置10に本発明の動力伝達装置を適用した場合について説明したが、本発明の動力伝達装置は、クレーン等の作業機械やその他の旋回機構などにも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態に係る動力伝達装置を有する旋回装置を示す模式的な断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る動力伝達装置を有する旋回装置を示す図であって、図1のA−A矢視断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る動力伝達装置の電気・油圧回路図である。
【図4】従来技術に係る動力伝達装置を有する旋回装置を搭載した油圧ショベルを示す斜視図である。
【図5】従来技術に係る旋回装置を示す断面図である。
【図6】従来技術に係る動力伝達装置の油圧回路図である。
【符号の説明】
【0049】
1 油圧ショベル(作業機械)
2 下部走行体
2a 丸胴
3 上部旋回体
3a 旋回フレーム
4 作業装置
5 油圧ポンプ
6 作動油タンク
7 キャブ
8 コントロール弁
9a,9b リリーフ弁
10 旋回装置
11 ハウジング(減速機ボディ)
12 無負荷弁
20 油圧モータ(旋回モータ,動力伝達装置の一構成要素)
21 油圧モータシャフト(入力軸)
30 遊星歯車減速機(動力伝達装置の一構成要素)
31 入力軸
32 太陽歯車
33 遊星歯車
34 キャリア
35 内歯車
36 出力軸
40 ピニオンギア
50 旋回輪(旋回ベアリング)
51 内輪
51a 内歯
52 外輪
53 鋼球
60 旋回装置
70 電気モータ(旋回モータ,動力伝達装置の一構成要素)
71 電気モータシャフト(入力軸)
80 遊星歯車減速機(動力伝達装置の一構成要素)
81 太陽歯車
82 遊星歯車
83 キャリア
84 内歯車
85 出力軸
90 バッテリ(蓄電器)
91 インバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源の回転を減速機により減速して出力する動力伝達装置であって、
第1の駆動源としての油圧モータと、
第2の駆動源としての電気モータと、
前記電気モータの回転のエネルギーが伝達される太陽歯車,前記太陽歯車の外周に配置され前記太陽歯車に噛合する複数の遊星歯車,前記複数の遊星歯車の各自転軸を前記太陽歯車を中心として回転可能に支持するとともに前記油圧モータの回転のエネルギーが伝達されるキャリア,前記複数の遊星歯車の外周に配置され前記複数の遊星歯車と回転自在に噛合する内歯車,前記内歯車の回転のエネルギーが伝達される出力軸を有する遊星歯車機構の減速機とを備えた
ことを特徴とする、動力伝達装置。
【請求項2】
駆動源の回転を減速機により減速して出力する動力伝達装置であって、
第1の駆動源としての油圧モータと、
第2の駆動源としての電気モータと、
前記油圧モータの回転のエネルギーが伝達される太陽歯車,前記太陽歯車の外周に配置され前記太陽歯車に噛合する複数の遊星歯車,前記複数の遊星歯車の各自転軸を前記太陽歯車を中心として回転可能に支持するとともに前記電気モータの回転のエネルギーが伝達されるキャリア,前記複数の遊星歯車の外周に配置され前記複数の遊星歯車と回転自在に噛合する内歯車,前記内歯車の回転のエネルギーが伝達される出力軸を有する遊星歯車機構の減速機とを備えた
ことを特徴とする、動力伝達装置。
【請求項3】
前記油圧モータは、前記キャリアに前記油圧モータの回転のエネルギーを入力するための油圧モータシャフトを有し、
前記電気モータは、前記太陽歯車に前記電気モータの回転のエネルギーを入力するための電気モータシャフトを有し、
前記電気モータシャフトは、径方向中心部において中空に形成された中空部を有し、
前記油圧モータシャフトは、前記電気モータシャフトの前記中空部を貫通するように配設されている
ことを特徴とする、請求項1記載の動力伝達装置。
【請求項4】
第1の駆動源としての油圧モータと、
第2の駆動源としての電気モータと、
前記油圧モータと前記電気モータとの動力が複合して入力されるとともに、入力された前記油圧モータと前記電気モータとの動力を減速して出力する減速機とを備えた
ことを特徴とする、動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の動力伝達装置を有する旋回装置と、
下部走行体と、
前記旋回装置により前記下部走行体上に旋回自在に結合された上部旋回体とを備えた
ことを特徴とする、作業機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−8422(P2008−8422A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−180010(P2006−180010)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000190297)新キャタピラー三菱株式会社 (1,189)
【Fターム(参考)】