説明

動力伝達装置

【課題】螺子締結を利用したリミッタ方式の動力伝達装置を改良し、インナーハブと動力遮断部材とを安価な構成で回り止めする動力伝達装置を提供する。
【解決手段】プーリ2と一体で回転するインナーハブ4と、インナーハブ4の円筒部4041に嵌合され、被駆動装置のシャフト3と螺子結合する動力遮断部材5とを有する動力伝達装置1において、インナーハブ4の円筒部4041または動力遮断部材5の少なくとも一方に塑性加工により形成された回り止め手段11により回り止めする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関するもので、特に、エンジン等の外部動力源から、ベルト等を介して運転されるカーエアコン用の圧縮機に用いて有効な、動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、圧縮機に動力を伝達する動力伝達装置として、圧縮機が焼き付きを起こした際に動力伝達のためのベルト切れ等の不具合を回避する動力伝達装置が知られている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−307265号
【0003】
上記特許文献1における動力伝達装置は、過大なトルクが加わった場合、螺子面とシャフト先端の座面が滑り、螺子が増し締めされた結果、螺子面が設けられた部位を軸方向に引っ張る力(以下、軸力)が高くなり、シャフト先端の座面と接触するフランジ部と螺子面が設けられた部位との間に位置する狭径部を破断させるものである。
【0004】
また、特許文献2には、インナーハブと動力遮断部材を多角形状でインロー嵌合させて回り止めした動力伝達装置が記載されている。
【特許文献2】特開2006−266376号
【0005】
上記特許文献1及び2に記載の動力遮断部材では、インナーハブと動力伝達部材とが、一体となって回転する必要があり、上記特許文献2のように、インナーハブと動力遮断部材を多角形状でインロー嵌合させて回り止めをする構成では、インナーハブの嵌合部を多角形に加工する必要があり、製造コストが高騰するという課題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような課題を改善するために提案されたものであって、螺子締結を利用したリミッタ方式の動力伝達装置において、インナーハブと動力遮断部材とを安価な構成で回り止めする動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、動力源と動力的に結合してなるプーリ(2)と、プーリ(2)に接続されて、プーリ(2)と一体で回転するインナーハブ(4)と、インナーハブ(4)に嵌合され、被駆動装置のシャフト(3)と螺子結合する動力遮断部材(5)とを有し、プーリ(2)から前記被駆動装置のシャフト(3)へ、インナーハブ(4)を介して回転動力を伝達する動力伝達装置(1)であって、インナーハブ(4)は、円筒部を備え、動力遮断部材(5)は、円筒部に嵌合され、プーリ(2)からの回転力により過度にねじ込まれることで生じる、過大軸力によって分断する破断部(504)を備え、インナーハブ(4)と前記動力遮断部材(5)とは、インナーハブ(4)の円筒部または動力遮断部材(5)の少なくとも一方に塑性加工により形成された回り止め手段(11)により回り止めされていることを特徴とする。
これにより、インナーハブ(4)の動力遮断部材(5)との嵌合部を、多角形に加工する必要がなくなり、製造コストを低く抑えることができる。
【0008】
またより具体的には、請求項2、3に記載の発明のように、回り止め手段(11)を、インナーハブ(4)と動力遮断部材(5)との嵌合箇所において、インナーハブ(4)と動力遮断部材(5)いずれか一方にかしめ加工により突出形成した回り止め(402)と、他方に形成した突状の逃がし部(504)とにより構成することができる。
【0009】
また請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれか一つに記載の発明において、シャフト(3)は、インナーハブ(4)が接触する座面を備え、動力遮断部材(5)は、螺刻した前記シャフト(3)の外周部に螺着する螺子部(501)と、インナーハブ(4)の円筒部に嵌合し、螺子部(501)がねじ込まれるとインナーハブに圧接するフランジ部(502)とを有し、動力遮断部材(5)は、フランジ部(502)によってインナーハブをシャフト(3)の座面に圧接させることでプーリ(3)からの回転動力をシャフト(3)に伝達し、破断部(504)は、螺子部(501)とフランジ部(502)との間に位置していることを特徴とする。
これにより、被駆動装置のシャフト(3)が回転不能となったとき、螺子部(501)は、さらにシャフト(3)に沿ってねじ込まれが、フランジ部(502)は、円筒部に嵌合した状態で保持されている。よって、螺子部(501)とフランジ部(502)との間に、過大な軸力がかかり、動力遮断部材(5)は、フランジ部(502)と螺子部(501)との間の破断部(504)において、分断される。
【0010】
また請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれか一つに記載の発明において、破断部(504)に切込溝(p)を形成することを特徴とする。
これにより、動力遮断部材を破断部(504)において、確実に分断することができる。
【0011】
また請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれか一つに記載の発明において、インナーハブ(4)の動力遮断部材(5)との嵌合箇所において、動力遮断部材(5)の脱落防止用の抜け止め手段(403)を設けたことで、動力遮断部材(5)が分断しても、フランジ部(502)が脱落することはない。
【0012】
より具体的には、請求項7に記載の発明のように、抜け止め手段(403)を、円筒部の周縁部に、かしめ加工によって形成することができる。
なお、上記各手段、並びに以下に記載する各手段に付した括弧内の参照符号は、後述する実施形態記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1、図2は、エンジン等の動力源の動力を、エアコンを構成する圧縮機などの被駆動装置(図示省略)に伝達する動力伝達装置1を示す図である。
この動力伝達装置1は、動力源から圧縮機のシャフト3へ、回転動力を伝達するものであり、動力源とベルトにより機械的に連結し、回転動力が伝達されるプーリ2と、プーリ2と一体で回転するインナーハブ4と、インナーハブ4に嵌合され、圧縮機のシャフト3と螺子結合する動力遮断部材5とを備えている。
【0014】
プーリ2は、被駆動装置のハウジング6に、軸受7を介して回転可能に保持されている。軸受7は、被駆動装置のシャフト3と同軸に配置されており、被駆動装置のボス部外周に挿入され、環8、リング部材9によって抜け留めされている。
また、プーリ2の、シャフト3先端に向いた側の外周近傍の凹凸部201に、インナーハブ4が、弾性部材よりなる嵌合凸部401を介して一体的に嵌合している。
【0015】
シャフト3は、被駆動装置に図示しないベアリングを介して回転可能に保持されており、ボス部の内側において、径が拡大する座面Sを備えている。
座面Sは、動力遮断部材5とシャフト3の螺子結合によって発生する軸力で、ワッシャ10と摩擦接触し、インナーハブ4からワッシャ10を介して回転動力が伝達される部位である。
【0016】
インナーハブ4には、インナーハブ4をプーリ2と共にシャフト3に装着した際に、シャフト3の中心軸と中心軸が一致する嵌入口hを設けている。
またインナーハブ4の表面側には、動力遮断部材5を受け入れると共に嵌合させるための動力遮断部材5の外形(ここでは円筒形)と同形状の円筒部4041を形成し、円筒部4041の底部に、動力遮断部材5のフランジ部(後述)を押圧状態で当接させるようにしている。
さらにインナーハブ4は、圧縮機のシャフト3寄りの部位において、シャフト3との結合部位周囲に形成した適宜な素材のワッシャ10と当接している。
【0017】
そして動力遮断部材5は、外周部を螺刻したシャフト3に螺入していくことで、インナーハブ4の嵌入口hに嵌入させる螺子部501と、インナーハブ4表面の円筒部4041に嵌合し、螺子部501がねじ込まれるとインナーハブ4に圧接するフランジ部502とを有している。フランジ部502の外形は、インナーハブ4表面の円筒部4041と同形状(ここでは円形)の嵌合部503としている。
また、螺子部501とフランジ部502との間には破断部504が設けられ、破断部504には、微小な切込溝pが形成されている。
【0018】
このような動力遮断部材5を、シャフト3にねじ込むと、インナーハブ4の嵌入口hに螺子部501を嵌入し、インナーハブ4表面の円筒部4041に嵌合させて圧接状態となる。
これにより、シャフト3の座面Sが、動力遮断部材5とシャフト3の螺子結合によって発生する軸力で、ワッシャ10と摩擦接触し、インナーハブ4とシャフト3とがワッシャ10を介して圧接し、プーリ2からの所定の回転動力が、インナーハブ4からワッシャ10を介してシャフト3に伝達可能となる構成である(図3参照)。
【0019】
シャフト3に所定の回転動力を伝達するためには、インナーハブ4と動力遮断部材5とが、一体となってずれなく回転することが必要であるが、そのために、フランジ部502の嵌合部503とインナーハブ4表面の円筒部4041とが回り止め手段11を介して嵌合する構成としている。
回り止め手段11として、例えばインナーハブ4側には、インナーハブ4の円筒部4041の表面周縁部に、かしめ加工によって、凸形状に形成した回り止め402を形成し、動力遮断部材5側には、フランジ部502の外縁部に、インナーハブ4の回り止め402と噛み合う凹形状の逃がし部505を設けている。
【0020】
さらに、動力遮断部材5には、非常事態によって、螺子部501とフランジ部502とが分断した際に、フランジ部502が飛散しないようにするために、インナーハブ4の円筒部4041の周縁部に、かしめ加工によって、抜け止め手段403を設けている(図4参照)。
【0021】
本発明にかかる動力伝達装置1は、以上のように構成されるものであり、次にその作用について説明する。
今、エンジン側から、動力伝達装置1におけるプーリ2に掛け渡されたベルト等の動力伝達部材を介し、回転力が伝えられると、この回転力は、前記プーリ2の凹凸部201と嵌合した、インナーハブ4の凹凸部401を介してインナーハブ4側に動力伝達される。
【0022】
インナーハブ4と動力遮断部材5とは、インナーハブ4側の円筒部4041の表面周縁部に形成した回り止め402と、動力遮断部材5におけるフランジ部502の外縁部の逃がし部505とが噛み合っている。
その際、動力遮断部材5とシャフト3の螺子結合によって発生する軸力で、シャフト3の座面Sがワッシャ10と摩擦接触しているので、プーリ2からの所定の回転動力が、インナーハブ4、動力遮断部材5を通じて、シャフト3の座面Sを介し、エアコンの圧縮機のシャフト3に伝達することができ、エアコンを運転することができる。
圧縮機が正常に機能しているときは、所定のトルクで回転動作することができ、動力伝達装置1は、支障なく回転力を圧縮機に伝達することができる(図1参照)。
【0023】
ここで、圧縮機が何らかの故障(例えば焼き付き)で、シャフト3の回転が不能となったような場合、このような状況下でも、エンジン側から、動力伝達部材を介してプーリ2に回転力が伝わり、インナーハブ4と動力遮断部材5とは、インナーハブ4側の回り止め402と、動力遮断部材5における逃がし部505とが噛み合っているため、動力遮断部材5はインナーハブ4と共に回転し続けようとする。
そうすると、動力遮断部材5の螺子部501が、シャフト3に過度にねじ込まれることで、フランジ部502と螺子部501との間に過大な軸力がかかり、この過大な軸力により、破断部504の、微小な切込溝pにおいて確実に分断させることができる。
これによって、プーリ2から圧縮機への動力を遮断することができる(図5参照)。
【0024】
動力遮断部材5におけるフランジ部502と螺子部501とが分断すると、フランジ部502はフリーとなり、抜け落ちようとするが、インナーハブ4における円筒部4041の表面周縁部に形成した抜け止め手段403によって、フランジ部502が脱落して、飛散するようなことはない。
【0025】
以上のように本発明にかかる動力伝達装置1では、インナーハブ4側には、インナーハブ4の円筒部4041の表面周縁部に、かしめ加工によって、凸形状に形成した回り止め402を形成し、動力遮断部材5側には、フランジ部502の外縁部に、インナーハブ4の回り止め402と噛み合う凹形状の逃がし部505を設けるようにした。
このような構成により、インナーハブ4と動力遮断部材5とが、一体となってずれなく回転することができ、動力遮断部材5における破断部504が破断する、限界トルクを、安定したものとすることができる。
しかも、動力遮断部材5が破断したときも、フランジ部502の脱落を防止するのを、上述のように、かしめ加工という簡単な加工によって実現させることができ、製造コストを抑制することができる。
【0026】
本発明にかかる動力伝達装置1は、以下のように構成することもできる。なお、この動力伝達装置1において、前述の動力伝達装置1と実質的に同様の構成要素には、同符号を付して、その説明は省略するものとする。
すなわち、図6、図7に示すように、この動力伝達装置1では、インナーハブ4の円形凹形状の円筒部4041に、多角形(ここでは6角形)の動力遮断部材5を設けている。インナーハブ4側には、かしめによる回り止め402が形成され、動力遮断部材5の多角形の2面幅を構成する面と噛み合うことにより、回り止めを実現している。
【0027】
動力遮断部材5が、過大トルクによってシャフト3に過度にねじ込まれることで生じる、過大な軸力によって分断すると、フランジ部502が離脱するが、動力遮断部材5の多角形の頂点部に凹形状のかしめの逃がし部505を形成し、インナーハブ4をかしめにより凸形状とすることによって、抜け止め手段403としている。なお、動力遮断部材5は、図では、6角形としているが、勿論、6角形に限らない。また、図1、図2に示すように、円形でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明にかかる動力伝達装置の一例を示す、断面説明図である。
【図2】図1に示す動力伝達装置の、正面説明図である。
【図3】図1に示す動力伝達装置の、拡大的要部断面説明図である。
【図4】図3に示す動力伝達装置の、要部正面説明図である。
【図5】本発明にかかる動力伝達装置の動力遮断部材を作動した状態を示す、断面説明図である。
【図6】本発明にかかる動力伝達装置の別例を示す、拡大的要部断面説明図である。
【図7】図6に示す動力伝達装置の、要部正面説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1 動力伝達装置
2 プーリ
201 凹凸部
3 シャフト
4 インナーハブ
401 嵌合凸部
402 回り止め
403 抜け止めかしめ部
404 ハブ先端部
4041 円筒部
5 動力遮断部材
501 螺子部
502 フランジ部
503 破断部
504 逃がし部
S 被駆動軸
h 嵌入口
d 段差部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源と動力的に結合してなるプーリ(2)と、
前記プーリ(2)に接続されて、前記プーリ(2)と一体で回転するインナーハブ(4)と、
前記インナーハブ(4)に嵌合され、被駆動装置のシャフト(3)と螺子結合する動力遮断部材(5)とを有し、
前記プーリ(2)から前記被駆動装置のシャフト(3)へ、前記インナーハブ(4)を介して回転動力を伝達する動力伝達装置(1)であって、
前記インナーハブ(4)は、円筒部を備え、
前記動力遮断部材(5)は、前記円筒部に嵌合され、前記プーリ(2)からの回転力により過度にねじ込まれることで生じる、過大軸力によって分断する破断部(504)を備え、
前記インナーハブ(4)と前記動力遮断部材(5)とは、前記インナーハブ(4)の円筒部または前記動力遮断部材(5)の少なくとも一方に塑性加工により形成された回り止め手段(11)により回り止めされていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記回り止め手段(11)は、前記インナーハブ(4)と前記動力遮断部材(5)との嵌合箇所において、
前記インナーハブ(4)と前記動力遮断部材(5)いずれか一方に突出形成した回り止め(402)と、他方に形成した突状の逃がし部(504)とにより構成されることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記回り止め(402)は、かしめ加工より形成したものであることを特徴とする請求項2記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記シャフト(3)は、前記インナーハブ(4)が接触する座面を備え、
前記動力遮断部材(5)は、螺刻した前記シャフト(3)の外周部に螺着する螺子部(501)と、前記インナーハブ(4)の円筒部に嵌合し、前記螺子部(501)がねじ込まれると前記インナーハブ(4)に圧接するフランジ部(502)とを有し、
前記動力遮断部材(5)は、前記フランジ部(502)によって前記インナーハブ(4)を前記シャフト(3)の座面に圧接させることで前記プーリ(2)からの回転動力を前記シャフト(3)に伝達し、
前記破断部(504)は、前記螺子部(501)とフランジ部(502)との間に位置していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記破断部(504)には、切込溝(p)が形成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記円筒部の先端に、前記動力遮断部材(5)の脱落防止用の抜け止め手段(403)を設けたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一つに記載の動力伝達装置。
【請求項7】
前記抜け止め手段(403)は、前記円筒部の表面周縁部に、かしめ加工によって形成した、かしめ抜け止め部であることを特徴とする請求項6記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−157405(P2008−157405A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349506(P2006−349506)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】