説明

動力伝達装置

【課題】駆動力分配を行う動力伝達装置を車軸上へ無理なく配置することを可能とする。
【解決手段】分配ケース5に回転自在に支持され相互に平行に配置されてヘリカル・スパー・ギヤ25,26により連動可能な連結中空軸7及び伝達中間軸9と、分配ケース5に回転自在に支持され伝達中間軸9に交差して配置されリング・ギヤ27及びピニオン・ギヤ32により伝達中間軸9に対して連動し出力可能とした後輪側出力軸11とを備え、連結中空軸7は、車軸側に嵌合配置され、伝達中間軸9のヘリカル・スパー・ギヤ26を、連結中空軸7のヘリカル・スパー・ギヤ25に対して大径としたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等のトランスファ装置等に供される動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動力伝達装置の構造として、特許文献1に記載のような4輪駆動車の動力配分装置がある。
【0003】
この動力配分装置は、フロント・デファレンシャル装置への入力を後輪側へ配分出力するトランスファ装置であり、トランスファ・ケースに筒状シャフトと伝動中間軸と後輪側出力軸とが回転自在に支持されている。伝動中間軸に対して後輪側出力軸は直交配置され、筒状シャフトに対して伝動中間軸は平行に配置されている。
【0004】
筒状シャフト及び伝動中間軸間は、平行噛合ギヤであるドライブ・ギヤ及びアイドル・ギヤの噛み合いにより駆動力伝達が行われ、伝動中間軸及び後輪側出力軸間は、直交噛合ギヤである第1,第2ベベル・ギヤの噛み合いにより駆動力伝達が行われる。
【0005】
従って、トランスファ装置により後輪側への駆動力配分を行い、4輪駆動走行ができる。
【0006】
しかし、上記トランスファ装置では、ドライブ・ギヤがアイドル・ギヤに対して大径に形成されているため、前輪のドライブ・シャフト(前輪車軸)に嵌合配置される筒状シャフトのドライブ・ギヤの外周が、ドライブ・シャフトの軸心に対して前方のエンジン側へ大きく突出し、トランスファ・ケースとエンジン・ブロックとの間のクリアランスが取り難いという問題があった。
【0007】
特に、2輪駆動車をベースにして4輪駆動車を設計すると、前輪のドライブ・シャフトのエンジン・ブロック等の対向部材に対する前後位置が決まっており、ドライブ・ギヤの外周が、ドライブ・シャフトの軸心に対して前方の対向部材側に大きく突出する構造では、ドライブ・シャフトに対してトランスファ装置を配置ことに無理を招くことになる。
【特許文献1】特開2002−219955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする問題点は、駆動力分配を行う動力伝達装置を車軸上へ配置することに無理を招いた点である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、駆動力分配を行う動力伝達装置を車軸上へ無理なく配置するため、ケースに回転自在に支持され相互に平行に配置されて第1,第2の平行噛合ギヤにより連動可能な第1,第2の軸と、前記ケースに回転自在に支持され前記第2の軸に交差して配置され第1,第2の直交噛合ギヤにより第2の軸に対して連動し出力可能とした第3の軸とを備え、前記第1の軸は、車軸に嵌合配置される連結中空軸であり、第2の軸の第2の平行噛合ギヤを、前記第1の軸の第1の平行噛合ギヤに対して大径としたことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の動力伝達装置では、ケースに回転自在に支持され相互に平行に配置されて第1,第2の平行噛合ギヤにより連動可能な第1,第2の軸と、前記ケースに回転自在に支持され前記第2の軸に交差して配置され第1,第2の直交噛合ギヤにより第2の軸に対して連動し出力可能とした第3の軸とを備え、前記第1の軸は、車軸側に嵌合配置される連結中空軸であり、第2の軸の第2の平行噛合ギヤを、前記第1の軸の第1の平行噛合ギヤに対して大径とした。
【0011】
このため、車軸側に嵌合配置される連結中空軸の第1の平行噛合ギヤの外径を小さくすることができ、第1の平行噛合ギヤの外周が、車軸側の軸心に対しエンジン・ブロック等の対向部材側へ大きく突出するのを抑制することができる。
【0012】
従って、第1の平行噛合ギヤの外周径に合わせたケースの形状とすることで対向部材との間のクリアランスを取り易く、動力伝達装置の配置を車軸側に対し無理なく行わせることができる。
【0013】
特に、2輪駆動車をベースにして4輪駆動車を設計するときでも、第1の平行噛合ギヤの外周が、車軸側の軸心に対して前方の対向部材側に大きく突出することが抑制され、車軸側に対して動力伝達装置を無理なく配置することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
駆動力分配を行う動力伝達装置を車軸上へ無理なく配置するという目的を第2の平行噛合ギヤを、第1の平行噛合ギヤに対して大径にして実現した。
【実施例1】
【0015】
[動力伝達装置]
図1は、動力伝達装置のギヤを主体とした縦断面図、図2は動力伝達装置の軸を主体として横断面図、図3は、動力伝達装置の側面図、図4(a)は、実施例、(b)は、比較例に係る動力伝達装置のスケルトン図である。
【0016】
図1〜図3のように、動力伝達装置としてのトランスファ装置1は、前輪側の一方の回転軸である車軸中間軸3の外周に配置される。トランスファ装置1のケースである分配ケース5は、固定側であるトランス・ミッション側のベル・ハウジングに後述の構造により取り付けられる。このトランスファ装置1は、連結中空軸7、伝達中間軸9、及び後輪側出力軸11の3軸構造となっている。連結中空軸7は第1の軸、伝達中間軸9は第2の軸、後輪側出力軸11は第3の軸を構成し、この順に鉛直方向順次高位に配置されている。
【0017】
分配ケース5は、連結中空軸7及び伝達中間軸9を回転自在に支持する第1のケース部分13と後輪側出力軸11を回転自在に支持する第2のケース部分15とからなっている。第1のケース部分13は、ケース本体16及びケース・カバー17からなっている。
【0018】
ケース本体16に合わせ面19が設けられ、この合わせ面19に本体側締結部20が連結中空軸7及び伝達中間軸9の軸心を囲むように複数設けられている。ケース・カバー17にも対応する合わせ面21及びカバー側締結部22が形成されている。ケース・カバー17の合わせ面21がケース本体16の合わせ面19に突き合わされて締結部20,22がボルト34により締結され、ケース本体16に対するケース・カバー17の固定が行われている。合わせ面19,21は、連結中空軸7及び伝達中間軸9に直行する方向に沿って形成されている。
【0019】
前記第1のケース部分13は、第1,第2の収容部23,24を形成するものであり、ケース本体16の外側には、上下の取付ブラケット部29,28が形成されている。この取付ブラケット部29,28には、ケース側取付締結部30が形成されている。
【0020】
取付ブラケット部29のケース側取付締結部30は、伝達中間軸9の軸心を跨ぐようにして上部に配置されている。
【0021】
このため、大径のヘリカル・スパー・ギヤ25、大径のリング・ギヤ27を取り付けた重量のある伝動中間軸9の部分で分配ケース5を支持させることができ、確実な支持により、音振動の抑制等を図ることができる。
【0022】
しかも、取付ブラケット部28のケース側取付締結部30は、一方が伝達中間軸9の軸心の下部側に配置され、他方が連結中空軸7の軸心の下部側前方に配置され、取付ブラケット部28のケース側取付締結部30の双方が連結中空軸7の軸心を跨ぐようにして下部に配置されている。
【0023】
このため、重量のある伝動中間軸9側及び連結中空軸7を取付ブラケット部28により確実に支持し、音振動の抑制等を図ることができる。
【0024】
取付ブラケット部29,28は、トランス・ミッション側のベル・ハウジングの取付部に突き合わされ、ケース側取付締結部30が静止側であるベル・ハウジングの締結部にボルトなどにより締結されることでトランスファ装置1の分配ケース5がベル・ハウジングに取り付けられる。
【0025】
第1の収容部23は、連結中空軸7及び第1の平行噛合ギヤであるヘリカル・スパー・ギヤ25を収容する。第2の収容部24は、伝達中間軸9、第2の平行噛合ギヤであるヘリカル・スパー・ギヤ26、及び第1,第2の直交噛合ギヤであるリング・ギヤ27,ピニオン・ギヤ32を収容する。
【0026】
第1の収容部23では、ヘリカル・スパー・ギヤ25の軸方向一側において軸受支持部31及びシール支持部33がケース本体16に設けられ、ヘリカル・スパー・ギヤ25の軸方向他側において軸受支持部35及びシール支持部37がケース・カバー17に設けられている。
【0027】
軸受支持部31,35に、前記ヘリカル・スパー・ギヤ25を一体に設けた連結中空軸7が、ボール・ベアリング39,41により回転自在に支持されている。
【0028】
軸受支持部31,35は、段付き状に形成され、ボール・ベアリング41の外径は、ヘリカル・スパー・ギヤ25の外径より大径に形成され、軸受支持部35には、ケース本体16の合わせ面19の一部が軸方向に対向している。
【0029】
軸受支持部31には、ボール・ベアリング39のアウター・レース39aが支持され、軸受支持部35には、ボール・ベアリング41のアウター・レース41aが支持されている。
【0030】
軸受支持部35に支持されたボール・ベアリング41のアウター・レース41aには、ケース本体16の合わせ面19の一部が軸方向に突き当てられ、ボール・ベアリング41が軸方向双方に位置決められている。
【0031】
連結中空軸7には、軸方向の中間部に前記ヘリカル・スパー・ギヤ25が一体に形成されている。この連結中空軸7の両端部側に、回転支持受け部42,43が段付き状に形成され、この回転支持受け部42,43が、ボール・ベアリング39,41のインナー・レース39b,41bに回転自在に支持されている。回転支持受け部43に対しスナップ・リング44が取り付けられ、ボール・ベアリング41のインナー・レース41bに対し連結中空軸7が軸方向の双方に位置決められている。
【0032】
第1の収容部23のシール支持部33及びシール支持部37内周には、シールとしてオイル・シール45,47が取り付けられ、シール支持部33外周には、シールとしてオー・リング48が支持されている。オイル・シール45は、連結中空軸7外周に密接し、オイル・シール47は、車軸中間軸3外周に密接し、それぞれ相対摺動可能となっている。
【0033】
連結中空軸7の一端側内周に形成された結合用のスプライン部49は、第1の収容部23の一端の開口51において、フロント・デファレンシャル装置のデフ・ケース側52にスプライン係合されている。
【0034】
連結中空軸7の他端53内周側には、螺旋溝55が設けられ、螺旋溝55よりも軸方向内側にシール部材であるXリング56が支持され、Xリング56の内周側は、車軸中間軸3の外周に直接又は外周に圧入された図示外の摺動リングを介して摺動している。
【0035】
前記第2の収容部24は、伝達中間軸9の一端側においてケース本体16に閉じ壁部57有し、伝達中間軸9の他端側においてケース・カバー17に閉じ壁部59有している。
【0036】
閉じ壁部57には、軸受支持部61が段付き状に形成され、閉じ壁部59には、軸受支持部63が段付き状に形成されている。軸受支持部61,63は、前記軸受支持部31,35に対し径方向でオーバー・ラップし、それらの軸受支持部61,31,63,35の一部が共用化されるように径方向の対向側で一体に連結されている。
【0037】
なお、本発明における「径方向にオーバー・ラップ」についての定義をより明確にすると、複数の対象部材の配置位置を径方向に向けて投影するように見た場合、投影される範囲内に複数の対象部材が存在するように配置されることを意味する。
【0038】
軸受支持部61,63に、前記伝達中間軸9の両端が軸受けであるテーパー・ローラー・ベアリング65,67を介して回転自在に支持されている。軸受支持部61,63とテーパー・ローラー・ベアリング65,67のアウター・レース65a,67aとの間には、シム69,71が介設されている。
【0039】
こうして、前記第1,第2の軸である連結中空軸7及び伝達中間軸9を前記ケースである分配ケース5に対して軸止する軸受けであるボール・ベアリング39,41及びテーパー・ローラー・ベアリング65,67の位置が、径方向でオーバー・ラップして配置された構成となっている。
【0040】
伝達中間軸9には、両端部に回転支持受け部73,75が段付き状に形成されている。この回転支持受け部73,75に前記テーパー・ローラー・ベアリング65,67のインナー・レース65b,67bが嵌合している。そして、インナー・レース65bの一部は、リング・ギヤ27のギヤ部と径方向にオーバー・ラップして軸方向のコンパクト化がなされている。
【0041】
伝達中間軸9には、回転支持受け部73に隣接して前記リング・ギヤ27がスプライン係合され、このリング・ギヤ27の内周側にテーパー・ローラー・ベアリング65のインナー・レース65bが軸方向に突き当たっている。また、スプライン係合部は駆動トルクを伝達可能な軸方向長さを確保しつつその端部はヘリカル・スパー・ギヤ26のギヤ部と径方向にオーバー・ラップして軸方向のコンパクト化がなされている。
【0042】
伝達中間軸9には、回転支持受け部75に隣接して前記ヘリカル・スパー・ギヤ26が一体に形成され、このヘリカル・スパー・ギヤ26に前記リング・ギヤ27が軸方向に突き当たっている。伝達中間軸9のヘリカル・スパー・ギヤ26は、前記連結中空軸7のヘリカル・スパー・ギヤ25に対して大径に形成されており、減速ギヤ機構をなしている。
【0043】
そして、前記ケースである分配ケース5に、前記第2の軸である伝達中間軸9を一対の軸受けであるテーパー・ローラー・ベアリング65,67を介して回転自在に支持し、前記テーパー・ローラー・ベアリング65,67間に、前記第2の平行噛合ギヤであるヘリカル・スパー・ギヤ26及び第1の直交噛合ギヤであるリング・ギヤ27を隣接配置した構成となっている。
【0044】
前記第2のケース部分15は、後輪側出力軸11を支持するものであり、軸支部77及び延長部79から成っている。なお、支持や固定機能が成立するなら軸支部77と延長部79とは、一体に形成されても良い。
【0045】
第2のケース部分15は、軸支部77の一端が第1のケース部分13の第2の収容部29の後輪側出力方向の開口81に嵌合して組み付けられ、ボルト83により締結固定されている。
【0046】
軸支部77の一端部外周には、オー・リング85が取り付けられ、開口81内周に密接している。軸支部77の他端部には、延長部79がボルト87により締結結合されている。軸支部77の他端部に、オー・リング89が支持され、延長部79の端面に密接している。延長部79には、オイル通路91が形成され、且つブリーザー・パイプ93が取り付けられている。
【0047】
この第2のケース部分15の軸支部77には、軸受支持部95,97が設けられ、延長部79には、シール支持部99が設けられている。
【0048】
軸受支持部95,97には、テーパー・ローラー・ベアリング101,103を介して前記後輪側出力軸11が回転自在に支持されている。テーパー・ローラー・ベアリング101は、後輪側出力軸11に螺合するナット105により締結され、テーパー・ローラー・ベアリング101,103にプリ・ロードが付与されている。
【0049】
シール支持部99には、オイル・シール107が取り付けられ、このオイル・シール107が後輪側出力軸11のスプライン109にスプライン結合されるフランジ部材に密接し、相対摺動可能となっている。シール支持部99の外周側には、ダスト・カバー111が取り付けられ、オイル・シール107の外周側を覆っている。
【0050】
後輪側出力軸11の一端部には、第2の直交噛合ギヤであるピニオン・ギヤ32が一体に設けられている。
【0051】
このピニオン・ギヤ32が前記リング・ギヤ27に噛み合い、前記第1の直交噛合ギヤであるリング・ギヤ27が、前記第2の平行噛合ギヤであるヘリカル・スパー・ギヤ26と前記第2の直交噛合ギヤであるピニオン・ギヤ32との間に配置された構成となっている。上述した減速ギヤ機構に対して、リング・ギヤ27とピニオン・ギヤ32とは、増速ギヤ機構をなす。
【0052】
そして、後輪側出力軸11の軸心の延長上に、テーパー・ローラー・ベアリング65が配置されており、前記リング・ギヤ27に隣接するテーパー・ローラー・ベアリング65を、前記第3の軸である後輪側出力軸11の軸心の延長上に配置した構成となっている。
【0053】
また、分配ケース5(ケース)に回転自在に支持され相互に平行に配置されてヘリカル・スパー・ギヤ25,26(第1,第2の平行噛合ギヤ)により連動可能な連結中空軸7及び伝動中間軸9(第1,第2の軸)と、前記分配ケース5(ケース)に回転自在に支持され前記伝動中間軸9(第2の軸)に交差して配置されリング・ギヤ27及びピニオン・ギヤ32(第1,第2の直交噛合ギヤ)により伝動中間軸9(第2の軸)に対して連動しプロペラ・シャフトへ出力可能とした後輪側出力軸11(第3の軸)とを備えた構成となっている。
[トルク伝達]
エンジンからトランス・ミッションを介してフロント・デファレンシャル装置に伝達された駆動力は、一方で左右サイド・ギヤから車軸中間軸3側へ出力され、他方でデフ・ケースから連結中空軸7へ伝達される。
【0054】
連結中空軸7からは、ヘリカル・スパー・ギヤ25,26の噛み合いを介して伝動中間軸9へ駆動力伝達が行われる。
【0055】
伝動中間軸9からは、リング・ギヤ27及びピニオン・ギヤ32の噛み合いにより後輪側出力軸11へ駆動力伝達が行われ、後輪側出力軸11からプロペラ・シャフトへ出力される。
【0056】
従って、リヤ・デファレンシャル装置から左右後輪側へ駆動力が伝達され、4輪駆動状態で走行することができる。
[潤滑等]
潤滑オイルは、分配ケース5内において伝達中間軸9の回転中心下方でヘリカル・スパー・ギヤ26の歯部が浸る高さ付近まで収容されている。
【0057】
前記動力伝達時に、リング・ギヤ27が回転すると潤滑オイルがリング・ギヤ27によって掻き上げられ、飛散した潤滑オイルにより各部を的確に潤滑することができる。
[実施例の効果]
本発明実施例のトランスファ装置1では、分配ケース5に回転自在に支持され相互に平行に配置されてヘリカル・スパー・ギヤ25,26により連動可能な連結中空軸7及び伝達中間軸9と、前記分配ケース5に回転自在に支持され前記伝達中間軸9に交差して配置されリング・ギヤ27及びピニオン・ギヤ32により伝達中間軸9に対して連動し出力可能とした後輪側出力軸11とを備え、前記連結中空軸7は、車軸中間軸3に嵌合配置され、伝達中間軸9のヘリカル・スパー・ギヤ26を、前記連結中空軸7のヘリカル・スパー・ギヤ25に対して大径とした。
【0058】
このため、車軸中間軸3に嵌合配置される連結中空軸7のヘリカル・スパー・ギヤ25の外径を小さくすることができ、ヘリカル・スパー・ギヤ25の外周が、車軸中間軸3の軸心に対し前方のエンジン・ブロック側へ大きく突出するのを抑制することができる。このことより、本実施例においては、主となるケース本体16に対してケース・カバー17をヘリカル・スパー・ギヤ25の外周側で軸方向に沿うようにボルト34によって締結しても図示外のエンジン側との干渉を回避できるようにケース外径の大型化を抑制することができる。
【0059】
図4(a)は、実施例に係るトランスファ装置1のスケルトン図、(b)は、比較例に係るトランスファ装置1Aのスケルトン図である。
【0060】
図4(a)の構造に比較して図4(b)の構造では、連結中空軸7のヘリカル・スパー・ギヤ25が、伝達中間軸9のヘリカル・スパー・ギヤ26よりも大径であり、ヘリカル・スパー・ギヤ25が連結中空軸7に対してエンジン・ブロック等の対向部材側に大きく突出する。このヘリカル・スパー・ギヤ25が、伝達中間軸9のヘリカル・スパー・ギヤ26よりも大径であるという関係を維持したまま、ヘリカル・スパー・ギヤ25の突出を小さくすると、連結中空軸7及び伝達中間軸9間の軸間距離が短くなり、適正なリング・ギヤ27等の径も小さくせざるを得なくなる。このため、後輪側出力軸11への適正な増速に無理を招く。
【0061】
これに対し、図4(a)の本願実施例の構造では、連結中空軸7及び伝達中間軸9間の軸間距離を確保することができ、リング・ギヤ27等の径も十分に確保することができる。
【0062】
従って、本願実施例では、ヘリカル・スパー・ギヤ25の径を小さくしてその外周径に合わせた分配ケース5の形状とすることでエンジン・ブロック等の対向部材との間のクリアランスを取り易く、動力伝達装置の配置を車軸中間軸3に対し無理なく行わせることができる。
【0063】
特に、2輪駆動車をベースにして4輪駆動車を設計するときでも、ヘリカル・スパー・ギヤ25の外周が、車軸中間軸3の軸心に対して前方のエンジン・ブロック等の対向部材側に大きく突出することが抑制され、車軸中間軸3に対して動力伝達装置を無理なく配置することができる。
【0064】
前記ヘリカル・スパー・ギヤ25は、前記ヘリカル・スパー・ギヤ26と前記リング・ギヤ27との間に配置された。
【0065】
このため、伝達中間軸9の軸長を短くすることが可能となり、装置をコンパクトにすることができる。また、伝達中間軸9の軸長を短くすることで支持剛性を高め、音振動の発生を抑制することができる。
【0066】
前記連結中空軸7及び伝達中間軸9を前記分配ケース5に対して軸止するボール・ベアリング39,41とテーパー・ローラー・ベアリング65,67との位置が、径方向でオーバー・ラップして配置されている。
【0067】
このため、連結中空軸7及び伝達中間軸9の支持剛性を高めることができ、音振動の発生を抑制することができる。また、分配ケース5の外壁をシンプルな形状にすることが可能となり、狭いスペースに配置することを容易化することが可能となる。
【0068】
前記分配ケース5は、ケース本体16及び該ケース本体16に合わせ面19,21で突き合わせボルト34により締結結合するケース・カバー17を備え、前記分配ケース5の合わせ面19,21を、前記連結中空軸7及び伝達中間軸9に直交する方向に沿って形成した。
【0069】
このため、ボルト34をエンジン・ブロック及び分配ケース5間において、連結中空軸7及び伝達中間軸9の軸方向から締結することができ、締結を無理なく行わせることができる。
【0070】
前記分配ケース5をベル・ハウジング側に締結固定するケース側取付締結部30部を備え、前記ケース側取付締結部30を、前記伝達中間軸9上部に配置した。
【0071】
このため、大径のヘリカル・スパー・ギヤ26、大径のリング・ギヤ27を取り付けた重量のある伝動中間軸9の部分で分配ケース5を支持させることができ、確実な支持により、音振動の抑制等を図ることができる。
【0072】
記分配ケース5に、前記伝達中間軸9を一対のテーパー・ローラー・ベアリング65,67を介して回転自在に支持し、前記テーパー・ローラー・ベアリング65,67間に、前記ヘリカル・スパー・ギヤ26及びリング・ギヤ27を隣接配置し、前記リング・ギヤ27に隣接するテーパー・ローラー・ベアリング65を、前記後輪側出力軸11の軸心の延長上に配置した。
【0073】
このため、伝達中間軸9の軸長を短くすると共に、後輪側出力軸11を伝達中間軸9の径方向でオーバー・ラップさせることができ、全体として軸方向によりコンパクトな構造にすることができる。
【0074】
なお、エンジン・ブロック等の対向部材については、第1のケース部分13の外周側に対向する部材で、エンジン・ブロックの他に、エンジン本体、支持フレーム、オイル・パン、トランスミッション・ケース、補機類等、車両によって種々の対向部材が配置される。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】トランスファ装置の軸を主体とした横断面図である。(実施例1)
【図2】トランスファ装置のギヤを主体とした縦断面図である。(実施例1)
【図3】トランスファ装置の側面図である。(実施例1)
【図4】(a)は、実施例に係るトランスファ装置のスケルトン図、(b)は、比較例に係るトランスファ装置のスケルトン図である。
【符号の説明】
【0076】
1 トランスファ装置
3 車軸中間軸(車軸)
5 分配ケース(ケース)
7 連結中空軸(第1の軸)
9 伝動中間軸(第2の軸)
11 後輪側出力軸(第3の軸)
25 ヘリカル・スパー・ギヤ(第1の平行噛合ギヤ)
26 ヘリカル・スパー・ギヤ(第2の平行噛合ギヤ)
27 リング・ギヤ(第1の直交噛合ギヤ)
32 ピニオン・ギヤ(第2の直交噛合ギヤ)
39,41 ボール・ベアリング(軸受け)
65,67 テーパー・ローラー・ベアリング(軸受け)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースに回転自在に支持され相互に平行に配置されて第1,第2の平行噛合ギヤにより連動可能な第1,第2の軸と、
前記ケースに回転自在に支持され前記第2の軸に交差して配置され第1,第2の直交噛合ギヤにより第2の軸に対して連動し前記第1の軸に対し増速して出力可能とした第3の軸とを備え、
前記第1の軸は、車軸側に嵌合配置される連結中空軸であり、
第2の軸の第2の平行噛合ギヤを、前記第1の軸の第1の平行噛合ギヤに対して大径とした、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1記載の動力伝達装置であって、
前記第1の直交噛合ギヤは、前記第2の平行噛合ギヤと前記第2の直交噛合ギヤとの間に配置された、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
請求項2記載の動力伝達装置であって、
前記第1,第2の軸を前記ケースに対して支持する軸受けの位置が、径方向でオーバー・ラップして配置されている、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の動力伝達装置であって、
前記ケースは、ケース本体及び該ケース本体に合わせ面で突き合わせ締結具により締結結合するケース・カバーを備え、
前記ケースの合わせ面を、前記第1,第2の軸に直交する方向に沿って形成した、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の動力伝達装置であって、
前記ケースを静止側に締結固定するケース側取付締結部を備え、
前記ケース側取付締結部を、前記第2の軸の上部に配置した、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の動力伝達装置であって、
前記ケースに、前記第2の軸を一対の軸受けを介して回転自在に支持し、
前記軸受け間に、前記第2の平行噛合ギヤ及び第1の直交噛合ギヤを隣接配置し、
前記第1の直交噛合ギヤに隣接する軸受けを、前記第3の軸の軸心延長上に配置した、
ことを特徴とする動力伝達装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−274584(P2009−274584A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127643(P2008−127643)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(000225050)GKN ドライブライン トルクテクノロジー株式会社 (409)
【Fターム(参考)】