説明

動力伝達装置

【課題】小型化が可能な動力伝達装置を提供する。
【解決手段】動力伝達装置2000は、カバー2310を有するトルクコンバータ2300と、トルクコンバータ2300のカバー2310に設けられるロータを有する回転電機2200と、インプットシャフト1100とカバー2300とを接続および切断する、ハウジング2890を有する電磁クラッチ2800とを備える。電磁クラッチ2800は、回転電機2200の内周側に設けられ、ハウジング2890はカバー2310と一体化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は動力伝達装置に関し、より特定的には、トルクコンバータと回転電機とを有する動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、動力伝達装置は、たとえば特開2003−63264号公報(特許文献1)、特開2000−287303号公報(特許文献2)および特開2006−15997号公報(特許文献3)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−63264号公報
【特許文献2】特開2000−287303号公報
【特許文献3】特開2006−15997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、モータジェネレータのロータ内部に、湿式多盤クラッチよりなるトルクコンバータのロックアップクラッチと、エンジンの出力トルクの変動を吸収するダンパとを収納する構成が開示されている。
【0005】
特許文献2では、内側ハウジング内にはトルクコンバータが設けられ、トルクコンバータはロックアップ用の電磁/油圧クラッチが設けられる構成が開示されている。
【0006】
特許文献3では、エンジンおよび電動モータの少なくともいずれか一方の駆動に応じて入力軸が駆動される変速機と、クランクシャフトに固定されるフライホイールと入力軸との連結節理を切換え可能なクラッチ機構とを備えるハイブリッド車両駆動装置が開示されている。
【0007】
従来の装置では、通常エンジンとトルクコンバータの間には油圧供給や潤滑のための油路がなく、オートマチックトランスミッションフロード(ATF)が存在しない領域のため、この部分でクラッチを構成するには、油圧および潤滑油供給用の油路を追加すること、オイル漏れ対策として、シール材などを追加する必要があり、結果として全長が大きくなり、コストも増加するという問題があった。
【0008】
そこで、この発明は上述のような問題を解決するためになされたものであり、小型化が可能な動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に従った動力伝達装置は、カバーを有するトルクコンバータと、トルクコンバータのカバーに設けられるロータを有する回転電機と、回転するシャフトとトルクコンバータのカバーとを接続および切断する、ハウジングを有する電磁クラッチとを備え、電磁クラッチは、回転電機の内周側に設けられ、ハウジングはカバーと一体化されている。
【0010】
このように構成された動力伝達装置では、電磁クラッチのハウジングとトルクコンバータのカバーを一体化しているため、全長を短縮することができる。また、電磁クラッチにより、回転するシャフトとトルクコンバータのカバーとの接続および切断をするため、この部分に油路を配設することが不要となり、また全長短縮を図ることができる。
【0011】
好ましくは、動力伝達装置は、回転シャフトとハウジングとを接続または切断する第一クラッチと、第一クラッチの接続および切断を制御するカムと、カムを駆動させる、第一クラッチよりも容量の小さい第二クラッチと、第二クラッチを摩擦係合させることが可能な電磁石とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施形態1に従った動力伝達装置で用いられる回転電機を有する車両の駆動部の回路図である。
【図2】図1で示す回転電機とトルクコンバータとの接合部分を拡大して示す断面図である。
【図3】図2で示す動力伝達装置における、エンジンで発生した動力の伝達経路を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態では同一または相当する部分については同一の符号を付し、その説明については繰返さない。
【0014】
図1は、この発明の実施形態1に従った動力伝達装置で用いられる回転電機を有する車両の駆動部の回路図である。図1では、この発明に従った車輌に搭載される回転電機を駆動させるための電気回路をしている。図1を参照して、PCU(パワーコントロールユニット)2700は、コンバータ2710と、インバータ2720と、制御装置2730と、コンデンサC1,C2と、電源ラインPL1〜PL3と、出力ライン2740U,2740V,2740Wとを含む。コンバータ2710は、バッテリ3000とインバータ2720の間に接続され、インバータ2720は、出力ライン2740U,2740V,2740Wを介して回転電機2200と接続される。
【0015】
コンバータ2710に接続されるバッテリ3000は、たとえばニッケル水素やリチウムイオン等の二次電池である。バッテリ3000は、発生した直流電圧をコンバータ2710に供給し、また、コンバータ2710から受ける直流電圧によって充電される。
【0016】
コンバータ2710は、パワートランジスタQ1,Q2とダイオードD1,D2と、リアクトルLとからなる。パワートランジスタQ1,Q2は、電源ラインPL2,PL3間
に直列に接続され、制御装置2730からの制御信号をベースに受取る。ダイオードD1,D2は、それぞれパワートランジスタQ1,Q2のエミッタ側からコレクタ側へ電流を流すようにパワートランジスタQ1,Q2のコレクタ−エミッタ間にそれぞれ接続される。リアクトルLは、バッテリ3000の正極と接続される電源ラインPL1に一端が接続され、パワートランジスタQ1,Q2の接続点に他端が接続される。
【0017】
このコンバータ2710は、リアクトルLを用いてバッテリ3000から受ける直流電圧を昇圧し、その昇圧した昇圧電圧を電源ラインPL2に供給する。また、コンバータ2710は、インバータ2720から受ける直流電圧を降圧してバッテリ3000を充電する。
【0018】
インバータ2720は、U相アーム2750U、V相アーム2750VおよびW相アーム2750Wからなる。各相アームは、電源ラインPL2,PL3間に並列に接続される。U相アーム2750Uは、直列に接続されたパワートランジスタQ3,Q4を含み、V相アーム2750Vは、直列に接続されたパワートランジスタQ5,Q6を含み、W相アーム2750Wは、直列に接続されたパワートランジスタQ7,Q8を含む。ダイオードD3〜D8は、それぞれパワートランジスタQ3〜Q8のエミッタ側からコレクタ側へ電流を流すようにパワートランジスタQ3〜Q8のコレクタ−エミッタ間にそれぞれ接続される。そして、各相アームにおける各パワートランジスタの接続点は、出力ライン2740U,2740V,2740Wを介してモータジェネレータとしての回転電機2200の各相コイルの半中性点側にそれぞれ接続されている。
【0019】
インバータ2720は、制御装置2730からの制御信号に基づいて、電源ラインPL2から受ける直流電圧を交流電圧に変換して回転電機2200へ出力する。また、インバータ2720は、回転電機2200によって発電された交流電圧を直流電圧に整流して電源ラインPL2に供給する。
【0020】
コンデンサC1は、電源ラインPL1,PL3間に接続され、電源ラインPL1の電圧レベルを平滑化する。また、コンデンサC2は、電源ラインPL2,PL3間に接続され、電源ラインPL2の電圧レベルを平滑化する。
【0021】
制御装置2730は、モータトルク指令値、回転電機2200の各相電流値、およびインバータ2720の入力電圧に基づいて回転電機2200の各相コイル電圧を演算し、その演算結果に基づいてパワートランジスタQ3〜Q8をオン/オフするPWM(Pulse Width Modulation)信号を生成してインバータ2720へ出力する。
【0022】
また、制御装置2730は、上述したモータトルク指令値およびモータ回転数に基づいてインバータ2720の入力電圧を最適化するためのパワートランジスタQ1,Q2のデューティ比を演算し、その演算結果に基づいてパワートランジスタQ1,Q2をオン/オフするPWM信号を生成してコンバータ2710へ出力する。
【0023】
さらに、制御装置2730は、回転電機2200によって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ3000を充電するため、コンバータ2710およびインバータ2720におけるパワートランジスタQ1〜Q8のスイッチング動作を制御する。
【0024】
PCU2700においては、コンバータ2710は、制御装置2730からの制御信号に基づいて、バッテリ3000から受ける直流電圧を昇圧して電源ラインPL2に供給する。そして、インバータ2720は、コンデンサC2によって平滑化された直流電圧を電源ラインPL2から受け、その受けた直流電圧を交流電圧に変換して回転電機2200へ出力する。
【0025】
また、インバータ2720は、回転電機2200の回生動作によって発電された交流電圧を直流電圧に変換して電源ラインPL2へ出力する。そして、コンバータ2710は、コンデンサC2によって平滑化された直流電圧を電源ラインPL2から受け、その受けた直流電圧を降圧してバッテリ3000を充電する。
【0026】
図2は、図1で示す回転電機とトルクコンバータとの接合部分を拡大して示す断面図である。図2を参照して、エンジン1000に接続されるインプットシャフト1100の動力(回転力)が、電磁クラッチ2800により、トルクコンバータ2300および回転電機2200と接続および切断される。
【0027】
エンジン1000は、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンのいずれであってもよい。また、エンジン1000の形状は、直列型、V型、W型または水平対向型などのさまざまな形状のエンジン1000を採用することができる。
【0028】
インプットシャフト1100は、エンジン1000のクランクシャフトに接続され、エンジン1000の出力をトルクコンバータ2300および回転電機2200に伝える働きをする。
【0029】
回転電機2200はエンジン1000とトルクコンバータ2300との間に設けられている。回転電機2200は、ケース2201に固定されており、回転電機2200は、ステータコア2210と、ステータコア2210に巻かれたコイル2220と、ステータコア2210の内周側に位置するロータ2230とを有する。ロータ2230は、トルクコンバータ2300のカバー2310に固定されている。
【0030】
トルクコンバータ2300のカバー2310と、ロータ2230とは、インプットシャフト1100を中心として回転することが可能である。トルクコンバータ2300は、インプットシャフト1100で入力された回転力のトルクを増幅するための動力伝達部である。トルクコンバータ2300にロックアップクラッチが設けられてトルクコンバータ2300における損失を防止してもよい。
【0031】
トルクコンバータ2300のカバー2310は、電磁クラッチ2800のハウジング2890を構成している。電磁クラッチ2800は、電磁石2810と、ピストン2820と、第二摩擦係合部2830と、カム機構2850と、第一摩擦係合部2840とを有する。第二摩擦係合部2830は、外周側に位置する第一摩擦係合部材2831と内周側に位置する第二摩擦係合部材2832とが軸方向に積層された形状となっており、第一摩擦係合部材2831はインプットシャフト1100に接続され、第二摩擦係合部材2832はカム機構2850の第一保持部材2851に接続されている。電磁クラッチ2800を、図2において点線で囲んでいる。
【0032】
電磁石2810が駆動すると、ピストン2820が軸方向(トルクコンバータ2300に近づく方向)に移動する。これにより、第一摩擦係合部材2831と第二摩擦係合部材2832とが接触する。その結果、インプットシャフト1100の回転が第二摩擦係合部2830を解してカム機構2850を構成する第一保持部材2851へ伝達される。
【0033】
カム機構2850は、第一保持部材2851と、第二保持部材2852と、第一保持部材2851と第二保持部材2852との間に設けられたカム2853とを有する。第一保持部材2851と第二保持部材2852との間に回転差が生じるとカム2853が回転する。この回転力により、ピストンとしての第二保持部材2852が軸方向(トルクコンバータ2300に近づく方向)に移動する。
【0034】
第一摩擦係合部2840は、第一摩擦係合部材2841と第二摩擦係合部材2842とを有する。第一摩擦係合部材2841は、トルクコンバータ2300のカバー2310に接続されており、第二摩擦係合部材2842はインプットシャフト1100に接続されている。
【0035】
カム2853が第二保持部材2852を軸方向へ移動させると、第二保持部材2852が第一摩擦係合部2840の第一摩擦係合部材2841と第二摩擦係合部材2842とを押圧する。これにより、第一摩擦係合部材2841と第二摩擦係合部材2842との間で摩擦力が発生し、これによりインプットシャフト1100の回転がトルクコンバータ2300のカバー2310に伝達される。その結果、トルクコンバータ2300のカバー2310とともに、このカバー2310に設けられた回転電機2200のロータ2230も回転する。
【0036】
この例では、容量の小さな第二摩擦係合部2830をもちいて、容量の大きい第一摩擦係合部材を用いている。これにより、第二摩擦係合部電磁クラッチで直接駆動させる場合に比べて、電磁石2810の消費電力の低減を図ることができる。
【0037】
図3は、図2で示す動力伝達装置における、エンジンで発生した動力の伝達経路を示すブロック図である。図3で示すように、エンジン1000で発生した動力は、電磁クラッチ2800を経由して順に、回転電機2200、トルクコンバータ2300および変速機2900へ伝達される。トルクコンバータ2300内にはロックアップクラッチが設けられていてもよく、設けられていなくてもよい。変速機2900は、遊星歯車を用いた多段変速機であってもよく、ベルトとプーリーを用いた無段変速機であってもよい。
【0038】
トルクコンバータ2300のカバーと電磁クラッチ2800のハウジングとが一体化されているため、エンジン1000からトルクコンバータ2300までの全長を短縮することができる。
【0039】
さらに、電磁クラッチ2800において油路を設ける必要がないため、回転電機2200の内周側に電磁クラッチ2800を配置することができる。
【0040】
すなわち、この発明の実施の形態に従った動力伝達装置2000は、カバー2310を有するトルクコンバータ2300と、トルクコンバータ2300のカバー2310に設けられる、ロータ2230を有する回転電機2200と、回転するインプットシャフト1100とトルクコンバータ2300のカバー2310とを接続および切断する、ハウジング2890を有する電磁クラッチ2800とを備える。電磁クラッチ2800は、回転電機2200の内周側に取付けられる。電磁クラッチ2800のハウジング2890はトルクコンバータ2300のカバー2310と一体化されている。
【0041】
動力伝達装置2000は、インプットシャフト1100とハウジング2890とを接続または切断する第一クラッチとしての第一摩擦係合部2840と、第一摩擦係合部2840の接続および切断を制御するカム機構2850と、カム機構2850を駆動させる、第一摩擦係合部2840よりも容量の小さい第二摩擦係合部2830と、第二摩擦係合部2830を摩擦係合させることが可能な電磁石2810とを備える。
【0042】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0043】
1000 エンジン、1100 インプットシャフト、2000 動力伝達装置、2200 回転電機、2201 ケース、2210 ステータコア、2220 コイル、2230 ロータ、2300 トルクコンバータ、2310 カバー、2710 コンバータ、2720 インバータ、2730 制御装置、2740U,2740V,2740W 出力ライン、2800 電磁クラッチ、2810 電磁石、2820 ピストン、2830 第二摩擦係合部、2831,2841 第一摩擦係合部材、2832,2842 第二摩擦係合部材、2840 第一摩擦係合部、2850 カム機構、2851 第一保持部材、2852 第二保持部材、2853 カム、2890 ハウジング、2900 変速機、3000 バッテリ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カバーを有するトルクコンバータと、
前記トルクコンバータのカバーに設けられるロータを有する回転電機と、
回転するシャフトと前記トルクコンバータのカバーとを接続または切断する、ハウジングを有する電磁クラッチとを備え、
前記電磁クラッチは、前記回転電機の内周側に設けられ、
前記ハウジングは、前記カバーと一体化されている、動力伝達装置。
【請求項2】
前記回転シャフトと前記ハウジングとを接続または切断する第一クラッチと、
前記第一クラッチの接続および切断を制御するカムと、
前記カムを駆動させる、第一クラッチよりも容量の小さい第二クラッチと、
前記第二クラッチを摩擦係合させることが可能な電磁石とを備える、請求項1に記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−163050(P2010−163050A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6913(P2009−6913)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】