説明

動力伝達装置

【課題】入出力ギヤ及びカップリングの潤滑を十分に行わせ、エネルギ損失を招き難く、メンテナンスを容易にすることを可能とする。
【解決手段】前輪27に連結される中間軸3が内周を貫通しリング・ギヤ31を備えた中空の連結中空軸29と、リング・ギヤ31に噛み合うピニオン・ギヤ33を備えた後輪側出力軸35と、リング・ギヤ31と同軸上に配置され前記中間軸3及び連結中空軸29間で伝達トルクの調整を行う差動制限カップリング37と、リング・ギヤ31及び差動制限カップリング37とを収容支持する分配ケース5内に、リング・ギヤ31を収容するギヤ室GRと前記差動制限カップリング37を収容するカップリング室CRとに区画するシール部材87及びオー・リング113を設け、ギヤ室GR内と差動制限カップリング37内とに潤滑オイルを各別に収容し、カップリング室CRを、エア室としたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の動力伝達装置として、特許文献1に記載のようなものがある。
【0003】
この動力伝達装置では、入力ギヤを備えた第1の回転部材である入力軸と出力ギヤを備えた第2の回転部材であるドライブ・ピニオン・シャフトとカップリングとを備え、入力軸及びドライブ・ピニオン・シャフトとカップリングとは、キャリヤ・ケースである収容ケースに収容支持されている。
【0004】
入力軸は、中空に形成され車軸に連結される駆動軸としてのトルク伝達軸が貫通している。
【0005】
カップリングは、内外側回転部材間にクラッチを備えて入力ギヤと同軸上に配置され前記トルク伝達軸及び入力軸間で駆動トルクの伝達調整を行う。
【0006】
従って、入力軸からドライブ・ピニオン・シャフトへ入出力ギヤを介してトルク伝達が可能であり、また、トルク伝達軸及び入力軸間で駆動トルクの伝達調整を行うことができる。
【0007】
ところで、前記動力伝達装置では、キャリヤ・ケース内で前記入出力ギヤとカップリングのクラッチとが潤滑オイルを共用している。
【0008】
このため、入出力ギヤはその回転により潤滑オイルを掻き上げて十分な潤滑を行わせることはできるが、入出力ギヤとカップリングとの潤滑空間が入力軸をキャリヤ・ケースに支持するベアリング等により分断され、潤滑オイルがカップリング側へ流れ難く、十分な潤滑が行われ難いという問題があった。
【0009】
また、カップリングが潤滑されるとしても、潤滑オイルに対する回転抵抗を受け易く、エネルギ損失を招き易かった。
【0010】
さらに、カップリングの周囲が潤滑環境にあるため、カップリングのメンテナンスに際しては潤滑オイルを全て抜き取る必要があり、メンテナンスが煩雑となっていた。
【0011】
【特許文献1】特開2007−303505号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
解決しようとする問題点は、潤滑オイルがカップリング側へ流れ難く、十分な潤滑が行われ難く、エネルギ損失を招き易く、メンテナンスが煩雑となる点である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、入出力ギヤ及びカップリングの潤滑を十分に行わせ、エネルギ損失を招き難く、メンテナンスを容易にするため、車輪に連結される駆動軸が内周を貫通し入力ギヤを備えた中空の第1の回転部材と、前記入力ギヤに噛み合う出力ギヤを備えた第2の回転部材と、前記入力ギヤと同軸上に配置され前記駆動軸及び第1の回転部材間で伝達トルクの調整を行うカップリングと、前記入出力ギヤ及びカップリングとを収容支持するキャリヤ・ケースとを備え、前記キャリヤ・ケース内に、前記入出力ギヤを収容するギヤ室と前記カップリングを収容するカップリング室とに区画するシール部材を設け、前記ギヤ室内とカップリング内とに潤滑オイルを各別に収容し、前記カップリング室を、エア室としたことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の動力伝達装置では、車輪に連結される駆動軸が内周を貫通し入力ギヤを備えた中空の第1の回転部材と、前記入力ギヤに噛み合う出力ギヤを備えた第2の回転部材と、前記入力ギヤと同軸上に配置され前記駆動軸及び第1の回転部材間で伝達トルクの調整を行うカップリングと、前記入出力ギヤ及びカップリングとを収容支持するキャリヤ・ケースとを備え、前記キャリヤ・ケース内に、前記入出力ギヤを収容するギヤ室と前記カップリングを収容するカップリング室とに区画するシール部材を設け、前記ギヤ室内とカップリング内とに潤滑オイルを各別に収容し、前記カップリング室を、エア室とした。
【0015】
このため、ギヤ室とカップリング内とを別の潤滑環境とし、双方を十分に潤滑させることができる。
【0016】
また、カップリングの周囲はエア室となるため、カップリングが潤滑オイルの抵抗を受けることなく、エネルギ損失を抑制することができる。
【0017】
さらに、カップリングの周囲が潤滑環境にないため、カップリングのメンテナンスに際しては潤滑オイルを全て抜き取る必要がなく、メンテナンスが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
入出力ギヤ及びカップリングの潤滑を十分に行わせ、エネルギ損失を招き難く、メンテナンスを容易にするという目的を、シール部材の配置とカップリング周囲のエア室とにより実現した。
【実施例1】
【0019】
[4輪駆動車]
図1は、4輪駆動車のスケルトン平面図である。
【0020】
図1のように、動力伝達装置1は、前輪側の一方の駆動軸である中間軸3の外周に配置されている。動力伝達装置1のキャリヤ・ケースである分配ケース5は、固定側であるトランスミッション7側のベル・ハウジング9に締結固定されている。
【0021】
ベル・ハウジング9内には、デファレンシャル装置としてフロント・デファレンシャル装置11が支持されている。フロント・デファレンシャル装置11は、エンジン13からトランスミッション7を介して駆動入力を受ける。この駆動入力は、リング・ギヤ15を介しデフ・ケース17に対して行われる。
【0022】
フロント・デファレンシャル装置11の出力部である左右のサイド・ギヤには、中間軸19,3がそれぞれ結合されている。この各中間軸19,3が左右の前輪車軸21,23に結合され、フロント・デファレンシャル装置11と前輪車軸21,23との間が接続される。
【0023】
動力伝達装置1は、フロント・デファレンシャル装置11への駆動入力を後輪側へ分配するものである。動力伝達装置1の分配ケース5を貫通して前記中間軸3が配置されている。中間軸3は、分配ケース5から前輪車軸23側へ突出している。前輪車軸21,23は、左右の前輪25,27にそれぞれ連動連結されている。
【0024】
分配ケース5内には、中空の第1の回転部材である連結中空軸29が左右方向に延設されている。連結中空軸29の一端部は、フロント・デファレンシャル装置11のデフ・ケース17に連結されている。連結中空軸29は、中間軸3の外周に遊嵌し、この連結中空軸29に、入力ギヤとしてベベル・ギヤで形成されたリング・ギヤ31が取り付けられ、出力ギヤとしてベベル・ギヤで形成されたピニオン・ギヤ33に噛み合っている。ピニオン・ギヤ33は、第2の回転部材としての後輪側出力軸35に設けられている。
【0025】
前記中間軸3と前記連結中空軸29との間には、カップリングとして差動制限カップリング37が結合され、前記分配ケース5内に収容支持されている。差動制限カップリング37は、中間軸3と連結中空軸29とを介したデフ・ケース17との間の差動回転を制限し、左右車軸21,23間でトルク伝達を行う。すなわち、差動制限カップリング37は、中間軸3及び連結中空軸29間で伝達トルクの調整として差動制限トルクの調整を行うものであり、リング・ギヤ31と同軸上に配置されている。
【0026】
後輪側出力軸35には、ユニバーサル・ジョイント39を介してプロペラ・シャフト41が結合されている。プロペラ・シャフト41には、ユニバーサル・ジョイント43、4WD用のオン・デマンドのトルク伝達カップリング45を介してドライブ・ピニオン・シャフト47が結合されている。ドライブ・ピニオン・シャフト47のドライブ・ピニオン・ギヤ49は、リヤ・デファレンシャル装置51のリング・ギヤ53に噛み合っている。
【0027】
リヤ・デファレンシャル装置51は、キャリヤ・ケース54に支持され、このリヤ・デファレンシャル装置51には、左右の後輪車軸55,57を介して左右の後輪59,61が連動連結されている。
【0028】
従って、エンジン13からトランスミッション7を介してフロント・デファレンシャル装置11のリング・ギヤ15にトルクが入力されると、一方では中間軸19,3及び前輪車軸21,23を介して左右の前輪25,27へトルク伝達が行われる。他方では、デフ・ケース17、連結中空軸29、リング・ギヤ31,ピニオン・ギヤ33を介して後輪側出力軸35へトルク伝達が行われる。
【0029】
後輪側出力軸35からは、ユニバーサル・ジョイント39、プロペラ・シャフト41、ユニバーサル・ジョイント43、トルク伝達カップリング45、ドライブ・ピニオン・シャフト47、ドライブ・ピニオン・ギヤ49を介して、リヤ・デファレンシャル装置51のリング・ギヤ53にトルク伝達が行われる。リヤ・デファレンシャル装置51からは、左右の後輪車軸55,57を介して、左右の後輪59,61へトルク伝達が行われる。
【0030】
このトルク伝達により、前後輪25,27、59,61によって、オンデマンドの4輪駆動状態で走行することができる。
[動力伝達装置]
図2のように、前記分配ケース5は、ケース本体63,中間壁部65,カップリング・カバー部67を備えている。
【0031】
ケース本体63の一端開口69に中間壁部65の一端71がオー・リング73を介設して嵌合し、ボルト75等により締結固定されている。この中間壁部65の他端にカップリング・カバー部67が突き合わされ、ボルト77等により締結固定されている。
【0032】
ケース本体63側には、前記連結中空軸29及び後輪側出力軸35が配置され、連結中空軸29にボルト79により締結固定された前記リング・ギヤ31及び後輪側出力軸35に一体に形成された前記ピニオン・ギヤ33が収容されている。
【0033】
連結中空軸29は、一端がテーパー・ローラー・ベアリング81によりケース本体63に回転自在に支持され、他端がテーパー・ローラー・ベアリング83により中間壁部65に支持されている。テーパー・ローラー・ベアリング81の軸方向外側においてケース本体63にシール部材85が支持され、このシール部材85が連結中空軸29の外周に摺動可能に密接している。テーパー・ローラー・ベアリング83の軸方向カップリング側において中間壁部65にシール部材87が支持され、このシール部材87が連結中空軸29の外周に摺動可能に密接している。連結中空軸29の一端外周にはスプライン89が形成され、他端内周にはインナー・スプライン91が形成されている。連結中空軸29は、スプライン89においてデフ・ケース17側にスプライン結合され、インナー・スプライン91に差動制限カップリング37がスプライン結合される。
【0034】
後輪側出力軸35は、連結中空軸29に対して直交配置され、テーパー・ローラー・ベアリング93等によりケース本体63に回転自在に支持されている。
【0035】
前記中間軸3は、前記分配ケース5内で分断され前記リング・ギヤ31及びピニオン・ギヤ33側の第1の軸95と前記差動制限カップリング37側の第2の軸97とからなっている。第2の軸97は、前記差動制限カップリング37の内側回転部材を構成している。第1の軸95の端部にはスプライン99が形成され、第2の軸97の端部にはインナー・スプライン101が形成され、スプライン99がインナー・スプライン101に係合して第1,第2の軸95,97はスプライン結合されている。
【0036】
前記差動制限カップリング37は、カップリング・カバー部67内に収容され、内側回転部材としての前記第2の軸97及び外側回転部材としてのクラッチ・ハウジング103と第2の軸97及びクラッチ・ハウジング103間に配置されたクラッチとしてのメイン・クラッチ105とを備えている。この差動制限カップリング37は、前記メイン・クラッチ105を制御するアクチュエータ107を備え、該アクチュエータ107は、前記メイン・クラッチ105を挟んで前記リング・ギヤ31及びピニオン・ギヤ33の逆側に配置されている。
【0037】
クラッチ・ハウジング103は、第2の軸97の外周側に配置され、一端部に結合中空部109を備えている。結合中空部109の外周にはスプライン111が形成され、前記連結中空軸29のインナー・スプライン91にスプライン係合している。結合中空部109の外周には、スプライン111よりも基部側にシール部材としてオー・リング113が支持され、前記連結中空軸29の端部内周に摺動可能に密接している。
【0038】
このオー・リング113と前記シール部材87とにより、シール部材を、前記分配ケース5と連結中空軸29との間及び連結中空軸29とクラッチ・ハウジング103との間に配置した構成となり、分配ケース5内を、前記リング・ギヤ31及びピニオン・ギヤ33を収容するギヤ室GRと差動制限カップリング37を収容するカップリング室CRとに区画している。
【0039】
この場合、ギヤ室GRには潤滑オイルとしてギヤ・オイルが封入され、差動制限カップリング37内部には潤滑オイルとしてクラッチ・オイルが封入され、カップリング室CRは、エア室となっている。
【0040】
結合中空部109の内周は、ニードル・ベアリング115を介して前記第2の軸97の端部外周に相対回転自在に支持されている。ニードル・ベアリング115の軸方向外側で結合中空部109の内周に、シール部材であるXリング117が支持され、第2の軸97の端部外周に摺動可能に密接している。
【0041】
前記メイン・クラッチ105は、アウター・プレート119及びインナー・プレート121のそれぞれ複数枚からなり、アウター・プレート119がクラッチ・ハウジング103の内周にスプライン係合し、インナー・プレート121が第2の軸97の外周にスプライン係合している。
【0042】
前記アクチュエータ107は、パイロット・クラッチ123、ボール・カム125、カム・リング127、プレッシャー・プレート129、アーマチャ133、ロータ135、パイロット・クラッチ123の操作源である電磁石137を備えている。
【0043】
パイロット・クラッチ123は、クラッチ・ハウジング103とカム・リング127との間に配置されている。パイロット・クラッチ123のアウター・プレートは、クラッチ・ハウジング103にスプライン係合し、同インナー・プレートは、カム・リング127にスプライン係合している。パイロット・クラッチ123のアウター・プレート及びインナー・プレートには、非磁性部となる孔139が形成されている。
【0044】
カム・リング127は、第2の軸97の外周に相対回転可能に支持され、カム機構であるボール・カム125は、プレッシャー・プレート129とカム・リング127との間に形成されている。カム・リング127とプレッシャー・プレート129とは、ボール・カム125を介して軸方向に対向配置されている。
【0045】
プレッシャー・プレート129は、メイン・クラッチ105に隣接して配置されると共に、第2の軸97のハブ・スプラインにスプライン係合し、第2の軸97の外周に回転係合しつつ軸方向押圧移動可能に設けられている。このプレッシャー・プレート129は、ボール・カム125のカムスラスト力を受けてメイン・クラッチ105側へ押圧移動する。
【0046】
カム・リング127とロータ135との間には、スラスト・ベアリング143が配置されている。スラスト・ベアリング143は、ボール・カム125のカム反力を受けると共に、カム・リング127とロータ135との間の相対回転を吸収する。
【0047】
アーマチャ133はリング状に形成され、プレッシャー・プレート129とパイロット・クラッチ123との間に配置されパイロット・クラッチ123を挟んでロータ135に対向している。このアーマチャ133は、軸方向移動自在に配置され、クラッチ・ハウジング103のクラッチ・インナー・スプラインにスプライン係合している。
【0048】
ロータ135は、非磁性部145を備え、外周側がクラッチ・ハウジング103に螺合結合され、ナット147により緩み止めが行われている。ロータ135の外周には、オー・リング149が支持され、クラッチ・ハウジング103に密接している。
【0049】
ロータ135の内周部には、第2の軸97がニードル・ベアリング151を介して支持されている。ニードル・ベアリング151よりも軸方向外側でロータ135の内周部にXリング153が支持され、第2の軸97の外周に摺動可能に密接している。
【0050】
電磁石137は、コア155がカップリング・カバー部67に嵌合固定され、ピン157によりカップリング・カバー部67に対する回り止めが行われている。コア155に対し、前記ロータ135がシール・ベアリング158を介して回転自在に支持されている。
【0051】
電磁石137には、ハーネス159が結合され、ハーネス159のコネクタ161側は、カップリング・カバー部67のグロメット163から外部へ引き出されている。カップリング・カバー部67内においてハーネス159は、電磁石137と一体的な樹脂ガイド165,グロメットと一体的な板金カバー167により保護されている。
【0052】
ロータ135の端部側で第2の軸97には、前輪車軸23側がスプライン結合され、カップリング・カバー部67に支持されたシール部材169が前輪車軸23側の外周に摺動可能に密接している。
[駆動力伝達]
フロント・デファレンシャル装置11のデフ・ケース17へ入力された駆動力は、左右サイド・ギヤへ伝達されると共に、連結中空軸29、リング・ギヤ31,ピニオン・ギヤ37、後輪側出力軸35へと分配される。
【0053】
フロント・デファレンシャル装置11のサイド・ギヤからは、中間軸19,3を介して前輪車軸21,23へ駆動出力の伝達が行われる。
【0054】
前後輪25,27,59,61間の差動回転の制限は、メイン・クラッチ105の締結制御により中間軸3及び連結中空軸29間で伝達トルクの調整により行わせることができる。
【0055】
メイン・クラッチ105の締結制御は、電磁石137の通電制御により行われる。
【0056】
各種センサーによって検知した路面状態、車両の発進、加速、旋回のような走行条件及び操舵条件などに応じて、コントローラが左右の電磁石137の通電制御を統合して行う。この制御により、差動制限カップリング37の伝達トルクが調整される。
【0057】
電磁石137が励磁されると、磁束ループによってアーマチャ133が吸引され、ロータ135との間でパイロット・クラッチ123を締結し、パイロット・トルクを発生させる。パイロット・トルクが発生すると、パイロット・クラッチ123によってクラッチ・ハウジング103に連結されたカム・リング127が共に回転しようとする。
【0058】
これに対し、プレッシャー・プレート129は、中間軸19,3を介し前輪車軸21,23側に係合しているため、カム・リング127及びプレッシャー・プレート129間に相対回転が起こると、ボール・カム125の働きによりカム・リング127及びプレッシャー・プレート129が軸方向へ離間するようにスラスト力を受ける。
【0059】
このスラスト力は、一方においてスラスト・ベアリング143及びロータ135、シール・ベアリング158、コア155を介してカップリング・カバー部67へ入力され、他方においてプレッシャー・プレート129、メイン・クラッチ105を介してクラッチ・ハウジング103に入力される。
【0060】
この結果メイン・クラッチ105がプレッシャー・プレート129及びクラッチ・ハウジング103間で締結調整される。
【0061】
電磁石137の通電制御が無くなるとボール・カム125のカムスラスト力が無くなり、メイン・クラッチ105の締結制御が解除される。
[実施例1の効果]
本発明実施例1の動力伝達装置1では、前輪27に連結される中間軸3が内周を貫通しリング・ギヤ31を備えた中空の連結中空軸29と、前記リング・ギヤ31に噛み合うピニオン・ギヤ33を備えた後輪側出力軸35と、前記リング・ギヤ31と同軸上に配置され前記中間軸3及び連結中空軸29間で伝達トルクの調整を行う差動制限カップリング37と、前記リング・ギヤ31及び差動制限カップリング37とを収容支持する分配ケース5とを備え、前記分配ケース5内に、前記リング・ギヤ31を収容するギヤ室GRと前記差動制限カップリング37を収容するカップリング室CRとに区画するシール部材87及びオー・リング113を設け、前記ギヤ室GR内と差動制限カップリング37内とに潤滑オイルを各別に収容し、前記カップリング室CRを、エア室とした。
【0062】
このため、ギヤ室GRと差動制限カップリング37内とを別の潤滑環境とし、双方を十分に潤滑させることができる。
【0063】
また、差動制限カップリング37の周囲はエア室となるため、差動制限カップリング37が潤滑オイルの抵抗を受けることなく、エネルギ損失を抑制することができる。差動制限カップリング37の発熱は、エア室への放熱及びカップリング・カバー部67の外気による空冷で十分に冷却することができ、メイン・クラッチ105等のトルク調整特性性能を維持させることができる。
【0064】
さらに、差動制限カップリング37の周囲が潤滑環境にないため、差動制限カップリング37のメンテナンスに際しては潤滑オイルを全て抜き取る必要がなく、メンテナンスが容易となる。
【0065】
例えば、ボルト77を外してカップリング・カバー部67を離脱させると差動制限カップリング37が露出する。この状態で差動制限カップリング37を軸方向へ引き抜くことで連結中空軸29及び第1の軸95から容易に取り外すことができる。
【0066】
前記差動制限カップリング37は、第2の軸97及びクラッチ・ハウジング103と第2の軸97及びクラッチ・ハウジング103間に配置され前記駆動トルクの断続を行うメイン・クラッチ105とを備え、分配ケース5と連結中空軸29との間及び前記連結中空軸29とクラッチ・ハウジング103との間にシール部材87、オー・リング113を配置した。
【0067】
このため、シール部材87をクラッチ・ハウジング103外周よりも周速度の低い部分で摺動させることができ、シール部材87の耐久性を向上させることができる。
【0068】
前記中間軸3は、前記分配ケース5内で分断され前記リング・ギヤ31及びピニオン・ギヤ33側の第1の軸95と前記差動制限カップリング37側の第2の軸97とからなり、前記第2の軸97を差動制限カップリング37の内側回転部材をとした。
【0069】
このため、差動制限カップリング37が車軸の一部をなし、組み込みを容易にすることができる。また、部品点数を削減することができ、組み付け、部品管理を容易にすることができると共に構成が簡易化するので重量及びコストを低減することができる。
【0070】
前記第1,第2の軸95,97は、スプライン結合され、前記連結中空軸29と前記クラッチ・ハウジング103とは、スプライン結合された。
【0071】
このため、第2の軸97を含めサブアッセンブリ化することができ、差動制限カップリング37の組み付け時は、第1の軸95及び連結中空軸29に対し軸方向から移動させて第2の軸97及びクラッチ・ハウジング103をスプライン結合させることができ、差動制限カップリング37の組み付けを確実に容易化することができる。
【0072】
前記差動制限カップリング37は、前記メイン・クラッチ105を制御するアクチュエータ107を備え、該アクチュエータ107は、前記メイン・クラッチ105を挟んで前記リング・ギヤ31及びピニオン・ギヤ33の逆側に配置された。
【0073】
このため、連結中空軸29と第2の軸97との間のメイン・クラッチ105を介したトルク伝達経路を短くすることができ、確実なトルク伝達を行わせることができる。
【0074】
また、アクチュエータ107は、動力伝達装置における車軸23の軸方向外端部に位置するので外気による冷却性が向上し、カップリング37の制御特性が安定する。さらに、スプライン部91,99と軸方向に離間してアクチュエータ107が配置されているので駆動時の微振動を受けづらく耐久性が向上する。
【実施例2】
【0075】
図3は、本発明の実施例2に係る動力伝達装置の断面図である。なお、基本的な構成は実施例1と同様であり、同一又は対応する構成部分には同符号又は同符号にAを付し、重複した説明は省略する。
【0076】
本実施例の動力伝達装置1Aは、シール部材の配置を変更した。
【0077】
本実施例のシール部材は、分配ケース5Aの中間壁部65Aに支持されたシール部材87Aが、差動制限カップリング37Aのクラッチ・ハウジング103A外周面に摺動可能に密接し、クラッチ・ハウジング103Aの結合中空部109Aにスプライン111Aよりも先端側で支持されたオー・リング113Aが、連結中空軸29Aの内周面に摺動可能に密接している。
【0078】
このオー・リング113Aと前記シール部材87Aとにより、シール部材を、前記分配ケース5Aとクラッチ・ハウジング103Aとの間及び連結中空軸29Aとクラッチ・ハウジング103Aとの間に配置した構成となり、分配ケース5A内を、前記リング・ギヤ31及びピニオン・ギヤ33を収容するギヤ室GRと差動制限カップリング37Aを収容するカップリング室CRとに区画している。
【0079】
結合中空部109Aの基部内周は、ボール・ベアリング115Aを介して前記第2の軸97の端部外周に相対回転自在に支持されている。
【0080】
従って、本実施例においても、実施例1と同様な作用効果を奏することができる。
【0081】
また、本実施例では、シール部材87Aをクラッチ・ハウジング103Aのメイン・クラッチ105側外周に配置したから、テーパー・ローラー・ベアリング83との軸方向間隔を短縮させることができ、中間軸3軸方向での動力伝達装置1Aの長さを短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】4輪駆動車のスケルトン平面図である。(実施例1)
【図2】動力伝達装置の平断面図である。(実施例1)
【図3】動力伝達装置の平断面図である。(実施例2)
【符号の説明】
【0083】
1,1A 動力伝達装置
3 中間軸(駆動軸)
5,5A 分配ケース(キャリヤ・ケース)
27 前輪
29 連結中空軸(第1の回転部材)
31 リング・ギヤ(入力ギヤ)
33 ピニオン・ギヤ(出力ギヤ)
35 後輪側出力軸(第2の回転部材)
37,37A 差動制限カップリング(カップリング)
87 シール部材
95 第1の軸
97 第2の軸
103,103A クラッチ・ハウジング(外側回転部材)
107 アクチュエータ
113 オー・リング(シール部材)
GR ギヤ室
CR カップリング室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に連結される駆動軸が内周を貫通し入力ギヤを備えた中空の第1の回転部材と、
前記入力ギヤに噛み合う出力ギヤを備えた第2の回転部材と、
前記入力ギヤと同軸上に配置され前記駆動軸及び第1の回転部材間で伝達トルクの調整を行う密閉構造のカップリングと、
前記入出力ギヤ及びカップリングとを収容支持するキャリヤ・ケースとを備え、
前記キャリヤ・ケース内に、前記入出力ギヤを収容するギヤ室と前記カップリングを収容するカップリング室とに区画するシール部材を設け、
前記ギヤ室内とカップリング内とに潤滑オイルを各別に収容し、
前記カップリング室をエア室とした、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1記載の動力伝達装置であって、
前記カップリングは、内側回転部材及び外側回転部材と内外側回転部材間に配置され前記駆動トルクの断続を行うクラッチとを備え、
前記シール部材は、前記キャリヤ・ケースと前記第1の回転部材との間及び前記第1の回転部材と前記外側回転部材との間に配置した、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1記載の動力伝達装置であって、
前記カップリングは、内側回転部材及び外側回転部材と内外側回転部材間に配置され前記駆動トルクの伝達調整を行うクラッチとを備え、
前記シール部材は、前記キャリヤ・ケースと前記外側回転部材との間及び前記第1の回転部材と前記外側回転部材との間に配置した、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項4】
請求項2又は3の何れかに記載の動力伝達装置であって、
前記駆動軸は、前記キャリヤ・ケース内で分断され前記入出力ギヤ側の第1の軸と前記カップリング側の第2の軸とからなり、
前記カップリングの内側回転部材を、前記第2の軸とした、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の動力伝達装置であって、
前記第1,第2の軸は、スプライン結合され、
前記第1の回転部材と前記外側回転部材とは、スプライン結合された、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の動力伝達装置であって、
前記カップリングは、前記クラッチを制御するアクチュエータを備え、
該アクチュエータは、前記クラッチを挟んで前記入出力ギヤの逆側に配置された、
ことを特徴とする動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−32017(P2010−32017A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197037(P2008−197037)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000225050)GKN ドライブライン トルクテクノロジー株式会社 (409)
【Fターム(参考)】