説明

動力伝達装置

【課題】油に含まれるコンタミを低減する動力伝達装置を提供する。
【解決手段】動力伝達装置1は、軸部10と一体となって回転し、軸部10の軸に沿って油路11が形成され、油路11よりも径方向外側に油路11と連通する中空状の室12が形成される回転体5と、室12の径方向外側に設けられる磁石7と、室12から油を排出する排出孔14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プライマリプーリおよびセカンダリプーリの各可動プーリに油を給排し、可動プーリと固定プーリとによって形成されるプーリ溝の幅を変更し、変速比を変更するベルト式無段変速機が、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−324751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、可動プーリに給排される油の一部は、プーリの回転を支持するベアリングなどの潤滑にも使用される。そのため、微小な金属片(以下、コンタミと言う。)が混入した油がベアリングなどの他の部材に供給されると、コンタミが他の部材を傷つけ、他の部材を劣化させてしまう、といった問題点がある。
【0005】
本発明はこのような問題点を解決するために発明されたもので、油に混入したコンタミを除去し、ベアリングなど他の部材の劣化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様に係る動力伝達装置は、軸部と一体となって回転し、軸部の軸に沿って油路が形成され、油路よりも径方向外側に油路と連通する中空状の室が形成される回転体と、室の径方向外側に設けられる磁石と、室から油を排出する排出孔とを備える。
【発明の効果】
【0007】
この態様によると、磁石によってコンタミを吸着することができるので、油が供給される例えばベアリングなどの他の部材の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態の無段変速機の概略断面図である。
【図2】本実施形態のボルトの正面図である。
【図3】本実施形態のボルトの側面図である。
【図4】本実施形態のボルトの下面図である。
【図5】油が流れる様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態について図1を用いて説明する。
【0010】
図1は、本実施形態の無段変速機1の概略断面図である。
【0011】
無段変速機1は、プライマリプーリ2と、セカンダリプーリ3と、ベルト4を備える。
【0012】
プライマリプーリ2は、シーブ面5aを有する固定プーリ5と、固定プーリ5のシーブ面5aにシーブ面6aが対峙するように配置された可動プーリ6と、固定プーリ5に取付付けられたボルト7とを備える。可動プーリ6のシーブ面6aの背面側には油圧ピストン室8が形成されている。
【0013】
固定プーリ5は、軸部10をベアリング20によって支持されている。軸部10の内部には、油圧ピストン室8に油を給排する油路11が形成されている。固定プーリ5は、油路11よりも径方向外側の内部に中空状の室12が形成されている。固定プーリ5は、油路11と室12とを連通し、油路11から室12に油を流入する流入孔13と、室12から油を排出する排出孔14と、ボルト7を取り付ける取付孔15とを備える。
【0014】
流入孔13は、油路11の円周上に等間隔で形成されている。流入孔13は、固定プーリ5の軸部10の軸方向でシーブ面5a側、つまりプライマリプーリ2の可動プーリ6側に形成されている。
【0015】
排出孔14は、固定プーリ5のシーブ面5aとは反対側の面に複数形成される。排出孔14は、ベアリング20と対峙するように形成されている。
【0016】
取付孔15は、固定プーリ5の径方向外側の外周壁から室12に貫通して形成される。
【0017】
可動プーリ6は、ローラーベアリング22を介して軸部10によって支持されている。
【0018】
油圧ピストン室12は、油路11と連通しており、油路11を介して油が給排される。ピストン室12の油の量を調整することで、可動プーリ6が軸部10の軸方向に移動する。
【0019】
プライマリプーリ2は、固定プーリ5のシーブ面5aと可動プーリ6のシーブ面6aとによってベルト溝16を形成する。油圧ピストン室12に油を給排することで、ベルト溝16の溝幅が変更される。
【0020】
ベルト4は、プライマリプーリ2とセカンダリプーリ3とに巻き回れ、プライマリプーリ2とセカンダリプーリ3との間で回転を伝達する。
【0021】
ボルト7について図2、図3、図4を用いて説明する。図2はボルト7の正面図である。図3はボルト7の側面図である。図4はボルト7の下面図である。
【0022】
ボルト7は、磁石で構成され、固定プーリ5の取付孔15に脱着可能に取り付けられる。ボルト7は、取付孔15に螺合するネジ部30と、室12内に突出する突出部31とを備える。
【0023】
突出部31は、ボルト7の軸方向とは交差する方向に形成された第1貫通孔32と、ボルト7の軸方向に形成され、第1貫通孔32と連通する第2貫通孔33とを備える。
【0024】
第1貫通孔32は、固定プーリ5が回転した場合に、固定プーリ5のシーブ面5aに沿って流れる油の流れが妨げられることを抑制し、油に混入したコンタミをボルト7に付着させるように形成される。
【0025】
第2貫通孔33は、ボルト7の軸方向に沿って流れる油の流れが妨げられることを抑制し、コンタミをボルト7に付着させるように形成される。
【0026】
セカンダリプーリ3は、プライマリプーリ2と同様の構成をしており、ここでの説明は省略する。
【0027】
プライマリプーリ2のベルト溝16の溝幅、およびセカンダリプーリ3のベルト溝の溝幅を変更し、プライマリプーリ2とベルト4、およびセカンダリプーリ3とベルト4の接触半径を変更することで、無段変速機1は連続的に変速比を変更する。
【0028】
次に本実施形態の作用について図5を用いて説明する。ここではプライマリプーリ2について説明するが、セカンダリプーリ3についても同様の作用が生じる。図5において、油の流れを矢印で示す。
【0029】
固定プーリ5が回転すると、油路11を通っている油の一部は、流入孔13を介して室12内に流入する。流入孔13は、固定プーリ5の軸部10の軸方向でシーブ面5a側に形成されているので、室12内に流入した油の大部分は、固定プーリ5のシーブ面5aの背面に衝突し、シーブ面5aの背面に沿って固定プーリ5の径方向外側へ流れる。径方向外側に流れた油は、ボルト7の突出部31の第1貫通孔32を通って、または突出部31の外周に沿って流れ、排出孔14から排出される。また、ボルト7の軸方向に沿って流れる油は、ボルト7の突出部31の第2貫通孔33、第1貫通孔32を通って、または突出部31の外周に沿って流れ、排出孔14から排出される。油に混入したコンタミは、油よりも比重が重いので固定プーリ5の径方向外側に寄せられ、第1貫通孔32の内壁、第2貫通孔33の内壁、または突出部31の外周壁に吸着する。そのため、排出孔14から排出される油に含まれるコンタミの量は少なくなる。排出孔14から排出された油はベアリング20などに供給される。
【0030】
ボルト7に吸着したコンタミは、ボルト7を固定プーリ5から外した後に、容易に除去することができる。
【0031】
本発明の実施形態の効果について説明する。
【0032】
固定プーリ5に中空状の室12を形成し、軸部10の内部に油路11を形成する。そして、固定プーリ5の径方向外側に、磁石で構成されるボルト7を室12の一部を画成するように配置し、室12から油を排出する排出孔14を固定プーリ5に形成する。これによって、比重が油よりも重く、固定プーリ5の回転によって径方向外側に寄せられたコンタミをボルト7によって吸着させることができる。そのため、コンタミを低減した油を例えばベアリング20などに供給することができ、ベアリング20などの劣化を抑制することができる。
【0033】
固定プーリ5に中空状の室12を形成することで、固定プーリ5を軽量化することができる。
【0034】
室12と油路11とを連通する流入孔13を、固定プーリ5の軸部10の軸方向でシーブ面5a側に設けることで、流入孔13からシーブ面5aに流入した油をシーブ面5aの背面に沿ってボルト7へ流すことができ、多くのコンタミをボルト7によって吸着させることができる。
【0035】
排出孔14を、シーブ面5aとは反対側であり、かつボルト7よりも軸部10側の面に設けることで、コンタミの混入量が少なくなった油を室12から排出し、例えばベアリング20などに供給することができ、ベアリング20などの劣化を抑制することができる。
【0036】
ボルト7を固定プーリ5に脱着可能に取り付けることで、ボルト7を固定プーリ5から外すことでボルト7が吸着したコンタミを容易に除去することができる。そのため、特殊工具を用いた分解組立、およびシム調整を行わずにコンタミを除去することができ、メンテナンス時の作業工数を少なくすることができる。
【0037】
ボルト7を室12内に突出させて、ボルト7の軸方向とは交差する方向に第1貫通孔32を設けることで、シーブ面5aに沿って流れる油の流れが妨げられることを抑制し、第1貫通孔32に多くの油を流すことができ、多くのコンタミをボルト7に吸着させることができる。
【0038】
ボルト7の軸方向に沿って第1貫通孔32と連通する第2貫通孔33を設けることで、固定プーリ5の径方向に流れる油の流れが妨げられることを抑制し、第2貫通孔33、第1貫通孔32に多くの油を流すことができ、多くのコンタミをボルト7に吸着させることができる。
【0039】
本実施形態では、室12内に突出部31を突出させているが、これに限られることはなく、室12内を流れる油に混じったコンタミを吸着できればよく、室12内に突出させずに磁石の先端部が室12の内周壁の一部を画成するように設けてもよい。
【0040】
流入孔13を設けずに、室12と油路11とを一体的に設けてもよい。
【0041】
ボルト7を固定プーリ5の外周壁から室12内に突出させているが、コンタミが寄せられる径方向外側にボルト7を設け、コンタミを吸着できればよい。また、排出孔14をボルト7近傍に設けてもよく、ボルト7によってコンタミに混入量が少なくなった油を室12から排出できればよい。
【0042】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0043】
1 無段変速機(動力伝達装置)
5 固定プーリ(回転体)
7 ボルト(磁石)
10 軸部
11 油路
12 室
13 流入孔(連通孔)
14 排出孔
31 突出部
32 第1貫通孔
33 第2貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部と一体となって回転し、前記軸部の軸に沿って油路が形成され、前記油路よりも径方向外側に前記油路と連通する中空状の室が形成される回転体と、
前記室の径方向外側に設けられる磁石と、
前記室から油を排出する排出孔とを備えることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記回転体は、無段変速機のプーリであることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記室と前記油路とを連通し、前記プーリの前記軸部の軸方向でシーブ面側に位置する連通孔を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記排出孔は、前記シーブ面とは反対側であり、かつ前記磁石よりも前記軸部側に位置することを特徴とする請求項3に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記磁石は、前記回転体に脱着可能に取り付けられることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記磁石は、前記室内に突出し、前記磁石の軸方向とは交差する方向に貫通する第1貫通孔を有する突出部を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載の動力伝達装置。
【請求項7】
前記突出部は、前記磁石の軸方向に沿って形成され、前記第1貫通孔と連通する第2貫通孔を有することを特徴とする請求項6に記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−251631(P2012−251631A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126106(P2011−126106)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】