説明

動力伝達装置

【課題】2つの摩擦クラッチを押圧する2つの押圧部材を作動させる油圧室を有する動力伝達装置において、小型化することができる動力伝達装置を提供する。
【解決手段】相対回転可能な第1,第2回転部材3,5と、第1,第2回転部材3,5にそれぞれ連結可能な係合部材7と、第1回転部材3と係合部材7との間に設けられた第1摩擦クラッチ9と、第2回転部材5と係合部材7との間に設けられた第2摩擦クラッチ11と、係合部材7に形成された第1油圧室13と、第1摩擦クラッチ9を押圧する第1押圧部材15と、第1押圧部材15と係合部材7とによって形成された第2油圧室17と、第2摩擦クラッチ11を押圧する第2押圧部材19とを備えた動力伝達装置1において、第2押圧部材19を挟んで第2油圧室17の逆側に、第1押圧部材15と第2押圧部材19とで形成され、第1油圧室13と連通する第3油圧室21を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に適用される動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動力伝達装置としては、第1回転部材としての第1クラッチ出力軸と、この第1クラッチ出力軸と相対回転可能な第2回転部材としての第2クラッチ出力軸と、第1クラッチ出力軸及び第2クラッチ出力軸にそれぞれ連結可能な係合部材としてのハブ部材と、第1クラッチ出力軸とハブ部材との間に設けられた第1摩擦クラッチとしての第1クラッチプレートと、第2クラッチ出力軸とハブ部材との間に設けられ第1クラッチプレートの内径側に配置された第2摩擦クラッチとしての第2クラッチプレートと、第1油圧室としての第1クラッチピストン油圧室と、この第1クラッチピストン油圧室の油圧を受けて作動し第1クラッチプレートを押圧する第1押圧部材としての第1クラッチピストンと、第2油圧室としての第2クラッチピストン油圧室と、この第2クラッチピストン油圧室の油圧を受けて作動し第2クラッチプレートを押圧する第2押圧部材としての第2クラッチピストンとを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この動力伝達装置では、第1クラッチピストン油圧室がハブ部材に連結された第1クラッチ入力ドラムと第1クラッチピストンとによって形成され、第2クラッチピストン油圧室がハブ部材に連結された第2クラッチ入力ドラムと第2クラッチピストンとによって形成されている。
【0004】
また、第1クラッチピストンと第2クラッチ入力ドラムとの間には、第1クラッチピストンを第1クラッチプレートの接続解除方向に付勢する第1クラッチスプリングが配置され、第2クラッチピストンとハブ部材に軸方向の移動規制がなされた固定部材との間には、第2クラッチピストンを第2クラッチプレートの接続解除方向に付勢する第2クラッチスプリングが配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−98409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような動力伝達装置では、第1油圧室と第2油圧室とが離間してそれぞれ独立して設けられているので、2つの油圧室を区画するために多くの部材が必要であり、部品点数が増加すると共に、2つの油圧室の配置スペースもそれぞれ必要であり、装置が大型化していた。
【0007】
また、第1押圧部材及び第2押圧部材を摩擦クラッチの接続解除方向に付勢する第1クラッチスプリング及び第2クラッチスプリングは、油圧室と異なる空間部にそれぞれ配置されているので、これらの配置スペースによって装置が大型化していた。
【0008】
そこで、この発明は、2つの摩擦クラッチを押圧する2つの押圧部材を作動させる油圧室を有する動力伝達装置において、小型化することができる動力伝達装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、第1回転部材と、この第1回転部材と相対回転可能な第2回転部材と、前記第1回転部材及び前記第2回転部材にそれぞれ連結可能な係合部材と、前記第1回転部材と前記係合部材との間に設けられた第1摩擦クラッチと、前記第2回転部材と前記係合部材との間に設けられ前記第1摩擦クラッチの内径側に配置された第2摩擦クラッチと、前記係合部材に形成された第1油圧室と、この第1油圧室の油圧を受けて作動し前記第1摩擦クラッチを押圧する第1押圧部材と、この第1押圧部材と前記係合部材とによって形成された第2油圧室と、この第2油圧室の油圧を受けて作動し前記第2摩擦クラッチを押圧する第2押圧部材とを備えた動力伝達装置であって、前記第2押圧部材を挟んで前記第2油圧室の逆側には、前記第1押圧部材と前記第2押圧部材とで形成され、前記第1油圧室と連通する第3油圧室が設けられていることを特徴とする。
【0010】
この動力伝達装置では、第1油圧室と第2油圧室とが係合部材と第1押圧部材と第2押圧部材とによって形成されているので、第1油圧室と第2油圧室とを第1押圧部材と第2押圧部材とで区画することができ、部品点数を削減することができる。加えて、第1油圧室と第2油圧室とを第1押圧部材と第2押圧部材とで区画することによって、第1油圧室と第2油圧室とを近接して配置させることができ、装置を小型化することができる。
【0011】
また、第3油圧室は、第1押圧部材と第2押圧部材とで形成されるので、第3油圧室を設けるために部品点数が増加することがなく、装置も大型化することがない。
【0012】
従って、このような動力伝達装置では、2つの摩擦クラッチを押圧する2つの押圧部材を作動させる油圧室を有する動力伝達装置において、小型化することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、2つの摩擦クラッチを押圧する2つの押圧部材を作動させる油圧室を有する動力伝達装置において、小型化することができる動力伝達装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係る動力伝達装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1を用いて本発明の実施の形態に係る動力伝達装置について説明する。
【0016】
本実施の形態に係る動力伝達装置1は、第1回転部材3と、この第1回転部材3と相対回転可能な第2回転部材5と、第1回転部材3及び第2回転部材5にそれぞれ連結可能な係合部材としての第3回転部材7と、第1回転部材3と第3回転部材7との間に設けられた第1摩擦クラッチ9と、第2回転部材5と第3回転部材7との間に設けられ第1摩擦クラッチ9の内径側に配置された第2摩擦クラッチ11と、第3回転部材7に形成された第1油圧室13と、この第1油圧室13の油圧を受けて作動し第1摩擦クラッチ9を押圧する第1押圧部材15と、この第1押圧部材15と第3回転部材7とによって形成された第2油圧室17と、この第2油圧室17の油圧を受けて作動し第2摩擦クラッチ11を押圧する第2押圧部材19とを備えている。
【0017】
そして、第2押圧部材19を挟んで第2油圧室17の逆側には、第1押圧部材15と第2押圧部材19とで形成され、第1油圧室13と連通する第3油圧室21が設けられている。
【0018】
また、第2油圧室17内には、第2摩擦クラッチ11の接続解除方向への第2押圧部材19の作動を規制する規制部23が設けられている。
【0019】
さらに、第2油圧室17内には、第1押圧部材15と第3回転部材7との間に配置され、第1押圧部材15を第1摩擦クラッチ9の接続解除方向に付勢する付勢部材25が設けられている。
【0020】
また、規制部23には、付勢部材25が当接されている。
【0021】
さらに、第3回転部材7には、第1油圧室13と第2油圧室17とに制御油を供給する油路27,29が形成されている。
【0022】
図1に示すように、第1回転部材3及び第2回転部材5には、入力部材31から駆動力が入力される。入力部材31は、軸方向両側を一対のベアリング33,35を介してケーシング37に回転可能に支持されている。また、入力部材31には、入力部材31と一体回転可能に連結された第1入力ギヤ部39と、入力部材31と連続する一部材で第1入力ギヤ部39より大径に形成された第2入力ギヤ部41とが設けられている。
【0023】
この入力部材31は、軸方向端部外周に形成された連結部43に乾式単板クラッチからなるクラッチ部材(不図示)が連結されて駆動源としてのエンジン(不図示)からの駆動力の伝達が断続される。また、入力部材31には、変速機構(不図示)を介して駆動源としてのモータジェネレータ(不図示)からの駆動力が伝達される。
【0024】
このような入力部材31に入力された駆動源からの駆動力は、第1入力ギヤ部39を介して第1の速比で第1回転部材3に伝達されると共に、第2入力ギヤ部41を介して第2の速比で第2回転部材5に伝達される。
【0025】
第1回転部材3は、第1ギヤ部材45と、第1連結部材47とを備えている。第1ギヤ部材45は、第2回転部材5の第2ギヤ部材53上にニードルベアリング49,51を介して第2回転部材5と相対回転可能に配置されている。また、第1ギヤ部材45は、第1入力ギヤ部39より大径に形成され、第1入力ギヤ部39と噛み合っている。この第1ギヤ部材45には、第1連結部材47が一体回転可能に設けられている。
【0026】
第1連結部材47は、固定手段としてのボルトで第1ギヤ部材45と一体回転可能に固定されている。この第1連結部材47は、第1摩擦クラッチ9に連結され、第1の速比で伝達された駆動力を第1摩擦クラッチ9に入力する。このような第1回転部材3には、第2回転部材5が隣接配置されている。
【0027】
第2回転部材5は、第2ギヤ部材53と、第2連結部材55とを備えている。第2ギヤ部材53は、第3回転部材7の第3軸部材65上にニードルベアリング57,59を介して第3回転部材7と相対回転可能に配置されている。また、第2ギヤ部材53は、第2入力ギヤ部41より小径に形成され、第2入力ギヤ部41と噛み合っている。この第2ギヤ部材53には、第2連結部材55が一体回転可能に設けられている。
【0028】
第2連結部材55は、スプライン形状の連結部61で第2ギヤ部材53と一体回転可能に連結されている。この第2連結部材55には、溶接などの固定手段によって第2ハウジング63が一体に固定されている。この第2ハウジング63は、第2摩擦クラッチ11に連結され、第2の速比で伝達された駆動力を第2摩擦クラッチ11に入力する。このような第1回転部材3及び第2回転部材5からの駆動力は、第3回転部材7に伝達される。
【0029】
第3回転部材7は、第3軸部材65と、第3連結部材67と、第3出力ギヤ部材69とを備えている。第3軸部材65は、軸方向両側を一対のベアリング71,73を介してケーシング37に回転可能に支持されている。また、第3軸部材65は、第2摩擦クラッチ11に連結され、第2摩擦クラッチ11の接続状態で第2の速比で回転される。この第3軸部材65には、第3連結部材67が一体回転可能に設けられている。
【0030】
第3連結部材67は、一端側が固定手段としての溶接部で第3軸部材65と一体回転可能に固定されている。この第3連結部材67の他端側には、溶接などの固定手段によって第1ハウジング75が一体に固定されている。この第1ハウジング75は、第1摩擦クラッチ9に連結され、第1摩擦クラッチ9の接続状態で第1の速比で回転される。このような第3連結部材67が設けられた第3軸部材65の反対側には、第3出力ギヤ部材69が一体回転可能に設けられている。
【0031】
第3出力ギヤ部材69は、スプライン形状の連結部77で第3軸部材65と一体回転可能に連結されている。この第3出力ギヤ部材69は、第3出力ギヤ部材69より大径に形成されたリングギヤ79と噛み合い、第3回転部材7に伝達された駆動力を差動機構81に出力する。なお、第3出力ギヤ部材69には、パークロックギヤ83が一体回転可能に設けられ、このパークロックギヤ83は、車両の停車時にパークロックアクチュエータ(不図示)によってロックされ、第3回転部材7の回転を阻止する。
【0032】
差動機構81は、デフケース85と、ピニオンシャフト87と、ピニオン89と、一対のサイドギヤ91,93とを備えている。デフケース85は、軸方向両側に形成されたボス部でそれぞれベアリング95,97を介してケーシング37に回転可能に支持されている。このデフケース85は、リングギヤ79を介して駆動力が伝達されて回転駆動される。このようなデフケース85には、ピニオンシャフト87とピニオン89と一対のサイドギヤ91,93とが収容されている。
【0033】
ピニオンシャフト87は、端部をデフケース85に係合してピンで抜け止めされデフケース85と一体に回転駆動される。このピニオンシャフト87には、ピニオン89が支承されている。
【0034】
ピニオン89は、ピニオンシャフト87に支承されてデフケース85の回転によって公転する。また、ピニオン89は、一対のサイドギヤ91,93に駆動力を伝達すると共に、噛み合っている一対のサイドギヤ91,93に差回転が生じると回転駆動されるようにピニオンシャフト87に自転可能に支持されている。
【0035】
一対のサイドギヤ91,93は、デフケース85に相対回転可能に支持され、ピニオン89と噛み合っている。この一対のサイドギヤ91,93は、内周側にスプライン形状の連結部が設けられ、左右輪側に連結されたシャフトがサイドギヤ91,93と一体回転可能に連結されている。このように一対のサイドギヤ91,93は、デフケース85に入力された駆動力をシャフトを介して左右輪側へ出力する。
【0036】
このような差動機構81に駆動力を出力する第3回転部材7に伝達される駆動力は、それぞれ第1の速比と第2の速比とで第1摩擦クラッチ9と第2摩擦クラッチ11とに伝達され、第1摩擦クラッチ9及び第2摩擦クラッチ11の接続によって第3回転部材7に伝達される。
【0037】
第1摩擦クラッチ9は、第1回転部材3の第1連結部材47の外径と、第3回転部材7の第1ハウジング75の内径とにそれぞれ軸方向移動可能で一体回転可能に連結された複数のクラッチ板とからなる。この第1摩擦クラッチ9は、接続されると第1回転部材3から第1の速比で駆動力を第3回転部材7に伝達する。この第1摩擦クラッチ9の内径側には、第2摩擦クラッチ11が径方向にオーバーラップして配置されている。
【0038】
第2摩擦クラッチ11は、第2回転部材5の第2ハウジング63の内径と、第3回転部材7の第3軸部材65の外径とにそれぞれ軸方向移動可能で一体回転可能に連結された複数のクラッチ板とからなる。この第2摩擦クラッチ11は、接続されると第2回転部材5から第2の速比で駆動力を第3回転部材7に伝達する。
【0039】
このような第1摩擦クラッチ9と第2摩擦クラッチ11とは、第3回転部材7の端部に配置された油圧機構99から油圧が制御された制御油が第1油圧室13と第2油圧室17に供給され、この第1油圧室13と第2油圧室17に供給された制御油によって作動される第1押圧部材15と第2押圧部材19によって断続操作される。
【0040】
第1押圧部材15と第2押圧部材19との作動を制御する制御機構としての油圧機構99は、ケーシング37の内部に配置される内装タイプの2分割からなるバルブボディ101内に配置され、小型電動モータ(不図示)で駆動されるオイルポンプ(不図示)と、バルブボディ101内に設けられた油圧回路103とを備えている。
【0041】
オイルポンプは、例えば、2つのポンプギヤが組み合わされたギヤポンプからなる。このオイルポンプは、バルブボディ101内で第3回転部材7の端部側に配置されている。このオイルポンプは、ケーシング37内の油溜まりに貯留された油を、異物をろ過するオイルストレーナを介して吸入し、油に油圧を付与して油圧回路103を流通させる。
【0042】
油圧回路103は、バルブボディ101内に設けられた複数の油路などで形成され、小型電動モータで駆動されるオイルポンプにより、規定油圧を油圧室105内に蓄える。そして、ソレノイドバルブ(不図示)により油圧が制御された制御油が、径方向孔107,109から第3回転部材7の第3軸部材65の内部に設けられた油路27,29を介して第1油圧室13及び第2油圧室17へ供給され、第1押圧部材15及び第2押圧部材19が作動される。
【0043】
第1油圧室13は、第3回転部材7の第3軸部材65の外周面と第3連結部材67の内周面と第1押圧部材15の第3連結部材67との対向面との間に形成され、第3軸部材65の油路27と連通されている。また、第3連結部材67と第1押圧部材15との間、第1押圧部材15と第3軸部材65との間には、シール手段としてのシールリング111,113がそれぞれ配置され、第1油圧室13を区画している。この第1油圧室13に油圧機構99から油路27を介して制御油を供給することにより、第1押圧部材15を第1摩擦クラッチ9の接続方向に作動させる。
【0044】
第1押圧部材15は、第2押圧部材19の周囲を取り囲むように一側壁と外筒壁と他側壁とを備えて一体に形成され、一側壁の内周側で第3軸部材65上に軸方向移動可能に対向配置され、他側壁の内周側で第2押圧部材19上に軸方向移動可能に対向配置されている。また、第1押圧部材15は、一端側が第3連結部材67によって第1摩擦クラッチ9の接続解除方向への移動が規制され、軸方向の他端側が第1摩擦クラッチ9の複数のクラッチ板と軸方向に対向配置されている。なお、第1押圧部材15は、溶接などの固定手段によって2つの部材が一体に固定されているが、一側壁と外筒壁と他側壁とをそれぞれ別部材で形成して一体にするか、或いは他に考えうる形態で連続する一部材を備えてもよい。
【0045】
この第1押圧部材15は、第1油圧室13に供給される制御油によって、第1摩擦クラッチ9の接続方向に移動操作され、第1摩擦クラッチ9の複数のクラッチ板を押圧して第1摩擦クラッチ9を接続させる。このような第1押圧部材15の内径側には、第2油圧室17が設けられている。
【0046】
第2油圧室17は、第3回転部材7の第3軸部材65の外周面と第1押圧部材15の内周面と第2押圧部材19の第1押圧部材15との対向面との間に形成され、第3軸部材65の油路29と連通されている。また、第1押圧部材15と第2押圧部材19との間、第2押圧部材19と第3軸部材65との間には、シール手段としてのシールリング115,117がそれぞれ配置され、第2油圧室17を区画している。この第2油圧室17に油圧機構99から油路29を介して制御油を供給することにより、第2押圧部材19を第2摩擦クラッチ11の接続方向に作動させると共に、第1押圧部材15を第1摩擦クラッチ9の接続解除方向に作動させる。
【0047】
第2押圧部材19は、軸方向に凸状となるように形成され、第3軸部材65上に軸方向移動可能に配置され、第2摩擦クラッチ11の複数のクラッチ板と軸方向に対向配置されている。また、第2押圧部材19は、第2油圧室17内で第3軸部材65上に固定されたC型クリップなどの規制部23によって第2摩擦クラッチ11の接続解除方向への移動が規制されている。なお、規制部23は、第3軸部材65に一体固定されるC型クリップのような別部材でなくともよく、例えば、第3軸部材65又は第1押圧部材15に一体形成された突起部、或いは第1押圧部材15に一体固定された別部材であってもよい。
【0048】
この規制部23には、規制壁119が設けられている。なお、規制壁119には、第2油圧室17内に供給された制御油を第2押圧部材19に到達させる孔が設けられている。この規制壁119と第1押圧部材15との間、すなわち第1押圧部材15と第3回転部材7との間には、第1押圧部材15を第1摩擦クラッチ9の接続解除方向に付勢する付勢部材25が設けられている。なお、付勢部材25は、コイルスプリングとなっているが、皿バネなど、どのような付勢部材であってもよい。このように付勢部材25を第2油圧室17内に設けることにより、付勢部材25を配置させるための配置スペースを設ける必要がなく、装置が大型化することがない。
【0049】
ここで、第1押圧部材15は、第2油圧室17内に供給された制御油によって第1摩擦クラッチ9の接続解除方向に移動される。このため、第1押圧部材15を第1摩擦クラッチ9の接続解除方向に付勢する付勢部材25を設ける必要がないが、第1油圧室13内に油が残存していると、回転によって第1押圧部材15が第1摩擦クラッチ9の接続方向に作動されてしまうことがある。そこで、付勢部材25によって第1押圧部材15を第1摩擦クラッチ9の接続解除方向に付勢することにより、第2油圧室17に制御油を供給したときの第1押圧部材15の誤作動を防止して、確実に第2押圧部材19を作動させることができる。
【0050】
このような第2押圧部材19は、第2油圧室17に供給される制御油によって、第2摩擦クラッチ11の接続方向に移動操作され、第2摩擦クラッチ11の複数のクラッチ板を押圧して第2摩擦クラッチ11を接続させる。このとき、第1押圧部材15は、第2油圧室17に供給される制御油と付勢部材25とによって、第1摩擦クラッチ9の接続解除方向に移動操作され、第1摩擦クラッチ9の接続を解除する。このような第2押圧部材19を挟んで第2油圧室17の逆側には、第3油圧室21が設けられている。
【0051】
第3油圧室21は、第1押圧部材15と第2押圧部材19とのそれぞれ対向面によって覆われた部分に形成され、第1押圧部材15に設けられた連通路121によって第1油圧室13と連通されている。また、第1押圧部材15と第2押圧部材19との間には、シール手段としてのシールリング123が配置され、第3油圧室21を区画している。この第3油圧室21には、油圧機構99から油路27を介して第1油圧室13に制御油を供給することにより、連通路121を介して制御油が供給される。
【0052】
このような第3油圧室21に制御油を供給することにより、第1押圧部材15を第1摩擦クラッチ9の接続方向に作動させると共に、第2押圧部材19を第2摩擦クラッチ11の接続解除方向に作動させる。このため、第2押圧部材19を第2摩擦クラッチ11の接続解除方向に付勢する付勢部材を用いる必要がないと共に、付勢部材の配置スペースを設ける必要もない。また、第1押圧部材15は、第1油圧室13に供給された制御油と第3油圧室21に供給された制御油とで第1摩擦クラッチ9の接続方向に作動されるので、小さな操作力で第1押圧部材15を作動させることができる。
【0053】
このように構成された動力伝達装置1では、入力部材31から差動機構81へ第1の速比で駆動力を伝達する場合、油圧機構99から油路27を介して第1油圧室13に制御油を供給する。このとき、第1油圧室13に流入された制御油は、連通路121を介して第3油圧室21にも供給される。この第1油圧室13と第3油圧室21の制御油により、第1押圧部材15が第1摩擦クラッチ9の接続方向に作動され、第1摩擦クラッチ9を接続させる。このとき、第2押圧部材19は、第3油圧室21の制御油によって第2摩擦クラッチ11の接続解除方向に作動され、第2摩擦クラッチ11の接続が解除される。そして、第1摩擦クラッチ9の接続により、第1回転部材3から第1摩擦クラッチ9を介して第3回転部材7に駆動力が伝達され、第3回転部材7から差動機構81に第1の速比で駆動力が出力される。
【0054】
入力部材31から差動機構81へ第2の速比で駆動力を伝達する場合には、油圧機構99から油路29を介して第2油圧室17に制御油を供給する。この第2油圧室17の制御油により、第2押圧部材19が第2摩擦クラッチ11の接続方向に作動され、第2摩擦クラッチ11を接続させる。このとき、第1押圧部材15は、第2油圧室17の制御油と付勢部材25とによって第1摩擦クラッチ9の接続解除方向に作動され、第1摩擦クラッチ9の接続が解除される。そして、第2摩擦クラッチ11の接続により、第2回転部材5から第2摩擦クラッチ11を介して第3回転部材7に駆動力が伝達され、第3回転部材7から差動機構81に第2の速比で駆動力が出力される。
【0055】
このような動力伝達装置1では、第1油圧室13と第2油圧室17とが第3回転部材7と第1押圧部材15と第2押圧部材19とによって形成されているので、第1油圧室13と第2油圧室17とを第1押圧部材15と第2押圧部材19とで区画することができ、部品点数を削減することができる。加えて、第1油圧室13と第2油圧室17とを第1押圧部材15と第2押圧部材19とで区画することによって、第1油圧室13と第2油圧室17とを近接して配置させることができ、装置を小型化することができる。
【0056】
また、第2押圧部材19を挟んで第2油圧室17の逆側には、第1油圧室13と連通する第3油圧室21が設けられているので、第1油圧室13から第3油圧室21に流入された油圧によって第2押圧部材19を第2摩擦クラッチ11の接続解除方向に作動させることができ、第2押圧部材19を第2摩擦クラッチ11の接続解除方向に付勢する付勢部材を廃止することができる。このため、付勢部材のための配置スペースを設ける必要がなく、装置を小型化することができる。
【0057】
さらに、第3油圧室21は、第1押圧部材15と第2押圧部材19とで形成されるので、第3油圧室21を設けるために部品点数が増加することがなく、装置も大型化することがない。
【0058】
従って、このような動力伝達装置1では、2つの摩擦クラッチを押圧する2つの押圧部材を作動させる油圧室を有する動力伝達装置において、小型化することができる。
【0059】
また、第2油圧室17内には、第2摩擦クラッチ11の接続解除方向への第2押圧部材19の作動を規制する規制部23が設けられているので、第2押圧部材19の作動範囲を規定することができ、第2摩擦クラッチ11の断続特性を安定化させることができる。加えて、規制部23は、第2油圧室17内に設けられているので、装置の大型化を抑制することができる。
【0060】
さらに、第2油圧室17内には、第1押圧部材15と第3回転部材7との間に配置され、第1押圧部材15を第1摩擦クラッチ9の接続解除方向に付勢する付勢部材25が設けられているので、第2油圧室17内に制御油を供給したときに、第1押圧部材15が第1摩擦クラッチ9の接続方向に作動されることがなく、第1摩擦クラッチ9の誤接続を防止することができる。加えて、付勢部材25は、第2油圧室17内に設けられているので、付勢部材25を配置させるための配置スペースを設ける必要がなく、装置が大型化することがない。
【0061】
また、規制部23には、付勢部材25が当接されているので、規制部23に第2押圧部材19の第2摩擦クラッチ11の接続解除方向への作動規制と、第1押圧部材15の誤作動防止との2つの機能を持たせることができる。
【0062】
さらに、第3回転部材7には、第1油圧室13と第2油圧室17とに制御油を供給する油路27,29が形成されているので、第1油圧室13と第2油圧室17への制御油の供給路を別体で設ける必要がなく、装置を小型化することができる。
【0063】
なお、本発明の実施の形態に係る動力伝達装置では、係合部材が第3回転部材となっているが、係合部材は回転部材ではなく、例えば、回転部材を収容するケーシングに係合部材を一体形成してもよい。
【0064】
この場合には、第1摩擦クラッチ又は第2摩擦クラッチを接続することにより、第1回転部材又は第2回転部材がケーシングと連結されるので、第1回転部材又は第2回転部材の回転が制止されるように機能する。
【符号の説明】
【0065】
1…動力伝達装置
3…第1回転部材
5…第2回転部材
7…第3回転部材
9…第1摩擦クラッチ
11…第2摩擦クラッチ
13…第1油圧室
15…第1押圧部材
17…第2油圧室
19…第2押圧部材
21…第3油圧室
23…規制部
25…付勢部材
27,29…油路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転部材と、この第1回転部材と相対回転可能な第2回転部材と、前記第1回転部材及び前記第2回転部材にそれぞれ連結可能な係合部材と、前記第1回転部材と前記係合部材との間に設けられた第1摩擦クラッチと、前記第2回転部材と前記係合部材との間に設けられ前記第1摩擦クラッチの内径側に配置された第2摩擦クラッチと、前記係合部材に形成された第1油圧室と、この第1油圧室の油圧を受けて作動し前記第1摩擦クラッチを押圧する第1押圧部材と、この第1押圧部材と前記係合部材とによって形成された第2油圧室と、この第2油圧室の油圧を受けて作動し前記第2摩擦クラッチを押圧する第2押圧部材とを備えた動力伝達装置であって、
前記第2押圧部材を挟んで前記第2油圧室の逆側には、前記第1押圧部材と前記第2押圧部材とで形成され、前記第1油圧室と連通する第3油圧室が設けられていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1記載の動力伝達装置であって、
前記第2油圧室内には、前記第2摩擦クラッチの接続解除方向への前記第2押圧部材の作動を規制する規制部が設けられていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
請求項2記載の動力伝達装置であって、
前記第2油圧室内には、前記第1押圧部材と前記係合部材との間に配置され、前記第1押圧部材を前記第1摩擦クラッチの接続解除方向に付勢する付勢部材が設けられていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項4】
請求項3記載の動力伝達装置であって、
前記規制部には、前記付勢部材が当接されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、
前記係合部材は、前記第1回転部材及び前記第2回転部材に相対回転可能な第3回転部材であることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項6】
請求項5記載の動力伝達装置であって、
前記第3回転部材には、前記第1油圧室と前記第2油圧室とに制御油を供給する油路が形成されていることを特徴とする動力伝達装置。

【図1】
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【公開番号】特開2013−104478(P2013−104478A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248265(P2011−248265)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000225050)GKNドライブラインジャパン株式会社 (409)
【Fターム(参考)】