説明

動力分割変速機

【課題】コンパクトかつ軸間距離を大きくとることが可能であるとともに、第1の走行領域から第2の走行領域への切換時に良好な操作性を得ることが可能な動力分割変速機を提供すること。
【解決手段】無段階に調節可能な分岐部と、機械的な分岐部とを備えた動力分割変速機であって、両分岐部が、遊星歯車機構として形成された複合歯車装置13によって統合され、クラッチ26,29を介して切換可能な少なくとも2つの走行領域を有し、前進走行用のクラッチ4と、後進走行用のクラッチ8と、複数の歯車27,25,28,30及び複数のクラッチ26,29が配置された複数の軸32,33とを備えて成る前記動力分割変速機において、各軸2,7;32,33上に唯一のクラッチ4,8;26,29を設けるとともに、各軸2,7;32,33を互いに離間させて配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は請求項1の前提部分に基づく動力分割変速機に関するものであり、このような動力分割変速機は、無段階に調整可能な動力分割部と機械的な動力分割部を備え、これらが複合遊星歯車機構によって統合されるようになっている。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、無段階に調整可能な動力分割部と機械的な動力分割部を備え、これらが複合歯車装置によって統合されるように構成された動力分割変速機が開示されており、この複合歯車装置は、二重遊星歯車、2つのサンギヤ及びリングギヤを有する遊星歯車機構で構成されている。
【0003】
例えばショベルカーなどの動力機械においては、原動機が駆動軸よりも高い位置に配置されている。そのため、変速機の駆動軸間に大きな間隔を有する変速機が必要となる。さらに、動力機械においては、変速機の幅及び高さについての設置空間が極めて制限されるため、動力機械に対して、大きな軸間距離を有する幅が狭くて短い変速機が使用されることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許出願公開第102006004223号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的とするところは、コンパクトかつ軸間距離を大きくとることが可能であるとともに、第1の走行領域から第2の走行領域への切換時に良好な操作性を得ることが可能な動力分割変速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、独立請求項に記載した特徴を有する冒頭に述べたような動力分割変速機によって達成される。
【0007】
本発明による動力分割変速機は、無段階に調節可能な分岐部と、機械的な分岐部とを備えており、無段階に調節可能な分岐部を、斜板式又は斜軸式の無段階に調整可能な複数の油圧ユニットとして形成することが考えられる。この複数の油圧ユニットは、共通のヨークをによって調整されるよう互いに結合されている。また、このヨークは、第1の位置において、第1の油圧ユニットの行程容積をゼロにするとともに第2の油圧ユニットをその最大行程容積とするように調整される。一方、ヨークの第2の位置においては、第1の油圧ユニットの行程容積を最大にするとともに第2の油圧ユニットの行程容積をゼロとするように調整される。
【0008】
ところで、無段階に調節可能な油圧ユニットを電気ユニットとして形成することも可能である。そして、無段階に調節可能な分岐部及び機械的な分岐部は複合歯車装置において統合される。ここで、複合歯車装置は、遊星歯車機構として形成されているとともに、少なくとも1つの二重遊星歯車を備えている。なお、この二重遊星歯車は、リングギヤと2つのサンギヤに噛合している。
【0009】
また、動力分割変速機はクラッチを備えた複数の軸を有しており、この軸によって、前進走行と後進走行とを切り換えることができるとともに、駆動部の回転数を無段階に変化させて2つの走行領域を切り換えることも可能である。これら軸は互いに離間して配置されており、各軸上には、唯一のクラッチが設けられている。これにより、動力分割変速機について、より大きな軸間距離を確保しつつコンパクト化を図ることが可能である。
【0010】
複合歯車装置には、前進走行用のクラッチが動力分割変速機の駆動部と同軸に配置されているとともに、軸上の後進走行用のクラッチが前進走行用のクラッチに対して離間した位置に設けられている。これにより、各走行領域に対するクラッチを複合歯車装置に接続することが可能である。
【0011】
また、前進走行用のクラッチを動力分割変速機の駆動部と同軸に配置するとともに、軸上の後進走行用のクラッチを前進走行用のクラッチに対して離間した位置に設けるのが好ましい。各歯車の変速比は、後進走行用のクラッチに結合された軸が前進走行用のクラッチに結合された駆動軸よりも大きな回転数を有するように設定される。これにより、後進走行用のクラッチを備えた軸上に、例えば、駆動部の回転数が低い場合でも十分高い回転数を得ることができる油圧ポンプなどの負荷要素を設けることが可能である。また、この油圧ポンプを、例えば変速機システムへの油圧供給並びに冷却及び潤滑のために使用してもよい。さらに、その他の油圧ポンプを駆動油圧の供給に使用してもよい。
【0012】
複合変速装置における遊星歯車機構は、少なくとも1つの二重遊星歯車を支持しているとともに、複数の歯車、前進走行用のクラッチ及び後進走行用のクラッチを介して動力分割変速機の駆動部に接続可能となっている。また、複合歯車装置における第1のサンギヤは第1の無段階に調節可能なユニットに結合されており、複合歯車装置におけるリングギヤは複数の歯車を介して第2の無段階に調節可能なユニットに相互作用するよう結合されている。
【0013】
ところで、第1の走行領域に切り換えるために、第2の無段階に調節可能なユニットが第1の走行領域用のクラッチ及び他の複数の歯車を介して動力分割変速機の駆動部に結合されている。なお、動力分割変速機における複数の歯車は、複合歯車装置上へ至るまで、歯車として形成されている。
【0014】
一方、第2の走行領域に切り換えるためには、第1の走行領域用のクラッチが非接続状態にされるとともに、第2の走行領域用のクラッチが接続状態となる。これにより、複合歯車装置(複合遊星歯車機構)における第2のサンギヤが、動力分割変速機の動力部と相互作用するように接続可能となる。
【0015】
また、変速機の変速比を、第1の走行領域の終了時(まだ第1の走行領域用のクラッチが接続状態にある。)に、第1の走行領域用のクラッチが回転数の差が生じないよう、すなわちシンクロして接続されるよう設定するのが好ましい。そして、走行領域の切換中には、第1の走行領域用のクラッチが非接続状態とされる一方、第2の走行領域用のクラッチが接続状態とされる。ここで、この切換中には、例えば油圧ユニットである無段階に調節可能なユニットを、その回転数についてわずかだけ補正する必要がある。これは、補正が、圧力比の変動によって生じた漏れについてのみ補償しなければならないためである。
【0016】
また、第2の走行領域から第1の走行領域へ切り換える際には、上記とは逆に、第1の走行領域用のクラッチが接続状態とされる一方、第2の走行領域用のクラッチが非接続状態とされる。そして、第2の走行領域においては、第2の無段階に調節可能なユニットのみの行程容積がゼロから最大の行程容積へ調整され、かつ、第1の無段階に調整可能なユニットは最大の行程容積から最小の行程容積へ調整される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、動力分割変速機について、コンパクトかつ軸間距離を大きくとることが可能であるとともに、第1の走行領域から第2の走行領域への切換時に良好な操作性を得ることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】前後進走行それぞれについて2つの走行領域を有する動力分割変速機を示す図である。
【図2】前後進走行それぞれについて3つの走行領域を有する動力分割変速機を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0020】
<実施の形態1(図1)>
動力分割変速機の駆動軸2は、原動機1によって駆動されるとともに、固定ギヤとして形成された歯車3と、前進走行用のクラッチ4とに相対回転しないよう結合されている。この駆動軸2上にはフローティングギヤ5が設けられており、このフローティングギヤ5は、前進走行用のクラッチ4に相対回転しないよう結合されている。
【0021】
また、歯車3は固定ギヤとして形成された歯車6に噛合しており、この歯車6は、相対回転しないよう軸7に結合されている。さらに、この歯車6が結合された軸7上には後進走行用のクラッチ8が設けられている。また、軸7上にはフローティングギヤ9が設けられており、このフローティングギヤ9は、相対回転しないよう後進走行用のクラッチ8に結合されている。なお、軸7によって駆動される負荷要素(例えば油圧ポンプ)10が設けられている。
【0022】
ここで、変速比は、軸7すなわち負荷要素10の回転数が軸2の回転数よりも大きくなるよう設定されている。また、フローティングギヤ5,9はフローティングギヤ11に噛合するようになっており、このフローティングギヤ11は、相対回転しないよう複合遊星歯車機構13における遊星キャリア12に結合されている。
【0023】
この遊星キャリア12は少なくとも1つの二重遊星歯車機構14を支持するものであり、この二重遊星歯車機構14は、一方でリングギヤに噛合するとともに、他方で第1のサンギヤ16及び第2のサンギヤ17に噛合するようになっている。ここで、第1のサンギヤ16は、第1の無段階調整ユニット(例えば油圧ユニット)18に結合されている。また、リングギヤ15は相対回転しないようフローティングギヤ19に結合されており、このフローティングギヤ19は、固定ギヤとして形成された歯車20に噛合している。そして、この歯車20は、第2の無段階調整ユニット(例えば油圧ユニット)21に結合されている。なお、第2のサンギヤ17は、相対回転しないよう固定ギヤとして形成された歯車22に結合されている。
【0024】
動力分割変速機の駆動部23は相対回転しないよう固定ギヤとして形成された歯車24に結合されており、この歯車24は、一方で、固定ギヤとして形成された、第1の走行領域用のクラッチ26における歯車25を介して、及びフローティングギヤ27において歯車20に結合可能であるか、又は、他方で、第2の走行領域用のクラッチ29における歯車25及びフローティングギヤ28並びに固定ギヤとして形成された歯車30を介して歯車22に結合可能となっている。
【0025】
したがって、第1の走行領域用のクラッチ26を接続状態とし、かつ、第2の走行領域用のクラッチ29を非接続状態とすることで駆動部23が第1の走行領域において駆動され、一方、第1の走行領域用のクラッチ26を非接続状態とし、かつ、第2の走行領域用クラッチ29を接続状態とすることで駆動部23が第2の走行領域において駆動される。
【0026】
また、変速比は、第1の走行領域の終了(最大)部に達した場合に、クラッチ26が接続状態にあるままでフローティングギヤ28と歯車30がシンクロするように設定されている。これにより、クラッチ29は、回転数差なく接続状態へもたらされることになる。
【0027】
また、取付空間の観点から、フローティングギヤ19、歯車20及びフローティングギヤ27から成る歯車列を2つの組に分ける必要がある。これにより、固定ギヤとして形成された2つの歯車が軸31上に配置されることになり、より大きな変速比を得ることが可能となる。
【0028】
さらに、軸2,7,31〜33を互いに離間させて配置するとともに、これら軸上に唯一のクラッチを設けることで、コンパクトで、大きな軸間距離を有する動力分割変速機を得ることが可能である。
【0029】
<実施の形態2(図2)>
本実施の形態は、第3の走行領域が設定されている点でのみ図1に示す実施の形態と相違する。この第3の走行領域用のクラッチ34が設けられており、このクラッチ34は、第3の走行領域を得るために、固定ギヤとして形成された歯車36にフローティングギヤ35を接続させるものである。ここで、歯車36は歯車30又は歯車22に噛合し、フローティングギヤ35は歯車25と噛合するようになっている。
【0030】
なお、第1の走行領域は、第1の走行領域用のクラッチ26を接続状態とし、かつ、第2の走行領域用のクラッチ29及び第3の走行領域用のクラッチ34を非接続状態とすることで得られ、第2の走行領域は、第2の走行領域用のクラッチ29を接続状態とし、かつ、第1の走行領域用のクラッチ26及び第3の走行領域用のクラッチ34を非接続状態とすることで得られ、第3の走行領域は、第3の走行領域用のクラッチ34を接続状態とし、かつ、第1の走行領域用のクラッチ26及び第2の走行領域用のクラッチ29を非接続状態とすることで得られる。
【符号の説明】
【0031】
1 原動機
2 駆動軸
3 歯車
4 クラッチ
5 フローティングギヤ
6 歯車
7 軸
8 クラッチ
9 フローティングギヤ
10 負荷要素
11 フローティングギヤ
12 遊星キャリア
13 複合遊星歯車機構
14 二重遊星歯車機構
15 リングギヤ
16 第1のサンギヤ
17 第2のサンギヤ
18 第1の無段階調整ユニット
19 フローティングギヤ
20 歯車
21 第2の無段階調整ユニット
22 歯車
23 駆動部
24 歯車
25 歯車
26 クラッチ
27 フローティングギヤ
28 フローティングギヤ
29 クラッチ
30 歯車
31〜33 軸
34 クラッチ
35 フローティングギヤ
36 歯車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無段階に調節可能な分岐部と、機械的な分岐部とを備えた動力分割変速機であって、前記両分岐部が、遊星歯車機構として形成された複合歯車装置(13)によって統合され、クラッチ(26,29)を介して切換可能な少なくとも2つの走行領域を有し、前進走行用のクラッチ(4)と、後進走行用のクラッチ(8)と、複数の歯車(27,25,28,30)及び複数のクラッチ(26,29)が配置された複数の軸(32,33)とを備えて成る前記動力分割変速機において、
前記各軸(2,7;32,33)上に唯一のクラッチ(4,8;26,29)を設けるとともに、前記各軸(2,7;32,33)を互いに離間させて配置したことを特徴とする動力分割変速機。
【請求項2】
リングギヤ(15)と、遊星キャリア(12)と、該遊星キャリア上に設けた少なくとも1つの二重遊星歯車(14)とを前記複合歯車装置(13)に設け、前記二重遊星歯車を前記リングギヤ(15)並びに第1及び第2のサンギヤ(16,17)に噛合させるとともに、前記遊星キャリア(12)を、前記前進走行用のクラッチ(4)及び前記後進走行用のクラッチ(8)を介して駆動軸(2)に結合可能に構成したことを特徴とする請求項1記載の動力分割変速機。
【請求項3】
前記第2のサンギヤ(17)を第1の無段階調整ユニット(18)に結合するとともに、前記リングギヤ(15)を第2の無段階調整ユニット(21)に結合したことを特徴とする請求項2記載の動力分割変速機。
【請求項4】
前記前進走行用のクラッチ(4)を駆動軸(2)に対して同軸に配置したことを特徴とする請求項1記載の動力分割変速機。
【請求項5】
1つ又は複数の負荷要素(10)を、前記後進走行用のクラッチ(8)を有する前記軸(7)に結合させたことを特徴とする請求項1記載の動力分割変速機。
【請求項6】
前記第2のサンギヤ(17)を、前記第2の走行領域用のクラッチ(29)を介して駆動部(23)に結合させたことを特徴とする請求項2記載の動力分割変速機。
【請求項7】
前記第2の無段階調整ユニット(21)を、前記第1の走行領域用のクラッチ(26)を介して駆動部(23)に結合させたことを特徴とする請求項3記載の動力分割変速機。
【請求項8】
前記第2のサンギヤ(17)を、第3の走行領域用のクラッチ(34)を介して駆動部(23)に結合させたことを特徴とする請求項2記載の動力分割変速機。
【請求項9】
第1の走行領域から第2の走行領域への切換時に第2の走行領域用のクラッチ(29)がシンクロした回転数を有するよう変速比を設定したことを特徴とする請求項1記載の動力分割変速機。
【請求項10】
前記後進走行用のクラッチ(8)を備えた前記軸(7)の回転数を駆動軸(2)の回転数よりも大きく設定したことを特徴とする請求項5記載の動力分割変速機。
【請求項11】
2つの斜板油圧ユニットを、共通のヨークによって無段階に調整可能な動力分割部に設けたことを特徴とする請求項1記載の動力分割変速機。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−540866(P2010−540866A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−527378(P2010−527378)
【出願日】平成20年8月15日(2008.8.15)
【国際出願番号】PCT/EP2008/060760
【国際公開番号】WO2009/047038
【国際公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(504111347)ツェットエフ フリードリヒスハーフェン アクチエンゲゼルシャフト (75)
【氏名又は名称原語表記】ZF Friedrichshafen Aktiengesellschaft
【Fターム(参考)】